(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074412
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールの支持構造、及び太陽電池モジュール付き斜面保護構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/32 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
E02D27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187367
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自然傾斜地やのり面などの斜面の安定性を確保しつつ、簡略な構成で容易に太陽電池モジュールを斜面に設置する。
【解決手段】離間間隔を設けて面状に配置される複数の支持体で太陽電池モジュールを支持する太陽電池モジュールの支持構造であって、前記複数の支持体が、補強材とプレートとを備え、前記補強材は、一端が斜面から突出し、他端が斜面からすべり面以深の所定深度まで挿入されるとともに、すべり面をまたがって地山に定着され、前記プレートは、斜面に接地した状態で、地山から突出する前記補強材の前記一端側に固定され、前記太陽電池モジュールは、隣り合う複数の前記プレートを連結するように設置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離間間隔を設けて面状に配置される複数の支持体で太陽電池モジュールを支持する太陽電池モジュールの支持構造であって、
前記複数の支持体が、補強材とプレートとを備え、
前記補強材は、一端が斜面から突出し、他端が斜面からすべり面以深の所定深度まで挿入されるとともに、前記すべり面をまたがって地山に定着され、
前記プレートは、斜面に接地した状態で、地山から突出する前記補強材の前記一端側に固定され、
前記太陽電池モジュールは、隣り合う複数の前記プレートを連結するように設置されることを特徴とする太陽電池モジュールの支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池モジュールの支持構造において、
斜面に接地しつつ隣り合う前記プレートを連結する枠部材を備え、
該枠部材に、前記太陽電池モジュールが設置されることを特徴とする太陽電池モジュールの支持構造。
【請求項3】
請求項1に記載の太陽電池モジュールの支持構造において、
斜面に接地しつつ隣り合う前記プレートを連結する面板を備え、
該面板に、前記太陽電池モジュールが設置されることを特徴とする太陽電池モジュールの支持構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールの支持構造において、
前記太陽電池モジュール、前記枠部材もしくは前記面板が、隣り合う3体の前記プレートに設置されることを特徴とする太陽電池モジュールの支持構造。
【請求項5】
斜面に設置される太陽電池モジュール付き斜面保護構造であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールの支持構造と、
隣り合う複数の前記プレートを連結するように設置される太陽電池モジュールと、
を備えることを特徴とする太陽電池モジュール付き斜面保護構造。
【請求項6】
請求項5に記載の太陽電池モジュール付き斜面保護構造において、
斜面上の少なくとも前記太陽電池モジュールで被覆される領域に、
止水層または排水層が設けられていることを特徴とする太陽電池モジュール付き斜面保護構造。
【請求項7】
請求項5に記載の太陽電池モジュール付き斜面保護構造において、
斜面上の少なくとも前記太陽電池モジュールで被覆される領域に、
排水層と、該排水層を被覆する止水層が設けられていることを特徴とする太陽電池モジュール付き斜面保護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然傾斜地やのり面などの斜面を被覆するように配置される太陽電池モジュールの支持構造、及び太陽電池モジュールの支持構造を用いた太陽電池モジュール付き斜面保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーが注目されるなか、傾斜地や盛土のり面などに太陽電池アレイを建設し、太陽光発電システムとして機能させるケースが増大している。太陽電池アレイは、太陽電池モジュールとこれを支持する太陽電池架台とからなり、太陽電池架台は、地中に設置される基礎を備えている。
【0003】
例えば、特許文献1では、基礎にブロック状の鉄筋コンクリートを採用し、下部を地面に埋設するとともに上部を地表から突出させるように設置している。このような基礎は、斜面の安定性を考慮せずに設置する場合が多いことから、基礎の設置に起因して斜面が不安定となりやすく、降雨時などに斜面が太陽電池アレイとともに崩落する事例が多発している。
【0004】
このような中、例えば、特許文献2には、斜面に設置する太陽電池モジュールの支持構造に、グランドアンカーを利用する方法が開示されている。具体的には、グラウンドアンカーを地中に挿入し、一端を安定地盤に定着するとともに他端を地上に突出させ、この他端が貫通するように斜面上に受圧板を配置する。この状態でアンカー材に緊張力を導入したのち、アンカー材にナットを螺合して受圧板を斜面に設置することで、斜面に支持構造を設ける。こうして構築した支持構造の受圧板に枠状の接続部材を設け、この接続部材に太陽電池モジュールを取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-054420号公報
【特許文献2】特開2015-117466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2によれば、グラウンドアンカーを利用して強固に、太陽電池モジュールを斜面に設置することができる。しかし、太陽電池モジュールを受圧板に支持させるとその重量により、アンカー材に導入した緊張力が減少する。このため、採用するグラウンドアンカーに太陽電池モジュールの支持負担分を見込む必要があるなど、グラウンドアンカーの設計が煩雑となりやすい。
【0007】
さらに、緊張力を導入したグラウンドアンカーは適時の点検が必要となることから、斜面と太陽電池モジュールとの間に点検用の作業空間を高さ方向に設けている。高さ方向に作業空間を設けると、斜面に雑草が生えやすい環境となり、除草作業などのメンテナンス作業が必要となる。また、斜面が雨水の影響を受けやすい状態となるため、別途のり面保護工を設置するなどのり面対策を講じて、降雨に伴う浸透水に起因する表層崩落や斜面の浸食に備える必要が生じる。
【0008】
加えて、作業空間から入り込んだ風が太陽電池モジュールの背面側から上方向に作用しやすく、太陽電池モジュールの破損や飛散を生じかねない。このため、特許文献2では、受圧板に設けた接続部材に対して太陽電池モジュールを着脱自在に設置することで、斜面との間の作業空間を省略しつつ、グラウンドアンカーの点検を可能な構成とする方法も開示されている。しかし、グラウンドアンカーの点検作業を実施するたびに、斜面上で太陽電池モジュールを取り外して揚重し、点検後に再度取り付ける作業は煩雑となりやすい。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、自然傾斜地やのり面などの斜面の安定性を確保しつつ、簡略な構成で容易に太陽電池モジュールを斜面に設置することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため本発明の太陽電池モジュールの支持構造は、離間間隔を設けて面状に配置される複数の支持体で太陽電池モジュールを支持する太陽電池モジュールの支持構造であって、前記複数の支持体が、補強材とプレートとを備え、前記補強材は、一端が斜面から突出し、他端が斜面からすべり面以深の所定深度まで挿入されるとともに、すべり面をまたがって地山に定着され、前記プレートは、斜面に接地した状態で、地山から突出する前記補強材の前記一端側に固定され、前記太陽電池モジュールは、隣り合う複数の前記プレートを連結するように設置されることを特徴とする。
【0011】
本発明の太陽電池モジュールの支持構造によれば、支持体が補強材とプレートを備え、補強材は地山の変形ならびにすべりの発生を抑止し、プレートは斜面の表層部分を拘束する。このように、支持体は、斜面を安定化させる機能と太陽電池モジュールの基礎としての機能を兼用する。これにより、いずれの斜面であっても、太陽電池モジュールの設置を予定する斜面の状態に応じて適切な支持体を設計できるため、のり面対策を別途講じることなく、太陽電池モジュールを安定して設置することが可能となる。また、太陽電池モジュールの設置に架台を省略できるため、地震時に作用する地震力の影響を最小限に抑制でき、太陽電池モジュールが倒壊する、もしくは損傷するなどの不具合を回避することが可能となる。
【0012】
本発明の太陽電池モジュールの支持構造は、斜面に接地しつつ隣り合う前記プレートを連結する枠部材を備え、該枠部材に前記太陽電池モジュールが設置されることを特徴とする。
【0013】
本発明の太陽電池モジュールの支持構造によれば、枠部材が隣り合うプレートを連結する態様で斜面に接地するから、これらが斜面上で法枠のごとく機能する。そして、この枠部材に太陽電池モジュールが設置されることで、その荷重が枠部材を介して表層部分に伝達される。これにより、斜面の表層部分を効率よく拘束でき、表層部分に生じやすい浸食や表層崩壊(表層すべり)を抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明の太陽電池モジュールの支持構造は、斜面に接地しつつ隣り合う前記プレートを連結する面板を備え、該面板に前記太陽電池モジュールが設置されることを特徴とする。
【0015】
本発明の太陽電池モジュールの支持構造によれば、面板が隣り合うプレートを連結する態様で法面に接地するから、これらが斜面上でのり面保護擁壁のごとく機能する。したがって、表層部分の崩落や落石などの可能性がある急傾斜地や盛土のり面などに、これらの安定化を兼ねて太陽電池モジュールを設置することが可能となる。
【0016】
本発明の太陽電池モジュールの支持構造は、前記太陽電池モジュール、前記枠部材もしくは前記面板が、隣り合う3体の前記プレートに設置されることを特徴とする。
【0017】
本発明の太陽電池モジュールの支持構造によれば、3点で支持する状態となるため、斜面が平滑でなく隣り合う支持体に不陸が生じている場合にも、太陽電池モジュール、枠部材もしくは面板を、斜面を被覆するように沿わせて設置できる。これにより、斜面と太陽電池モジュールとの間の隙間に風が入りにくく、台風や悪天候時の突風などに起因して生じる太陽電池モジュールの引抜き方向に作用する風圧力を低減できる。
【0018】
本発明の太陽電池モジュール付き斜面保護構造は、本発明の太陽電池モジュールの支持構造と、隣り合う複数の前記プレートを連結するように設置される太陽電池モジュールと、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の太陽電池モジュール付き斜面保護構造によれば、太陽電池モジュールが隣り合う複数のプレートに設置されることから、太陽電池モジュールの荷重が複数のプレートを介して斜面表層部分の広い範囲に分散して作用する。このため、太陽電池モジュールを設置しつつ、斜面の安定化を図ることが可能となる。
【0020】
本発明の太陽電池モジュール付き斜面保護構造は、斜面上の少なくとも前記太陽電池モジュールで被覆される領域に、止水層または排水層が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明の太陽電池モジュール付き斜面保護構造は、斜面上の少なくとも前記太陽電池モジュールで被覆される領域に、排水層と該排水層を被覆する止水層が設けられていることを特徴とする。
【0022】
本発明の太陽電池モジュール付き斜面保護構造によれば、地山に浸透した雨水などの浸透水を、排水層を介して速やかに排水できる。また、止水層により地山の浸透水が太陽電池モジュール側に湧出する現象を抑制できるともに、降雨による斜面の浸食や風化を抑制することもできる。このように、斜面の表層部分を常時保護できるため、表層部分の不安定化を抑制できることに伴い、悪天候時などに、斜面の土砂が流出するなどして太陽電池モジュールに被害を生じさせることもない。
【0023】
さらに、止水層は、日光を遮るなど雑草の成長を促す要因を排除する機能も有する。これにより、除草などの作業を省略できるため、太陽電池モジュールの維持管理作業を簡略化することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、太陽電池モジュールを支持する支持体を、地山を補強する補強材と斜面表層部分を拘束するプレートとにより構成し、このプレートに太陽パネルを設置するため、自然傾斜地やのり面などの斜面の安定性を確保しつつ、簡略な構成で容易に太陽電池モジュールを斜面に設置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態における太陽電池モジュール付き斜面保護構造の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態における太陽電池モジュール付き斜面保護構造の断面を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態における支持体の詳細を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態における支持体に支持された状態の太陽電池モジュールを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態における太陽電池モジュール付き斜面保護構造の他の事例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態における太陽電池モジュールの支持構造の他の事例を示す図である(枠部材付き)。
【
図7】本発明の実施形態における
図6の支持構造に支持された太陽電池モジュールを示す図である。
【
図8】本発明の実施形態における
図6の支持構造を用いた太陽電池モジュール付き斜面保護構造の断面を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態における太陽電池モジュールの支持構造の他の事例を示す図である(面板付き)。
【
図10】本発明の実施形態における
図9の支持構造を用いた太陽電池モジュール付き斜面保護構造の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、自然傾斜地やのり面などの斜面に複数の補強材を挿入して地山に定着するロックボルト工により地山を補強しつつ、地山に定着させた複数の補強材を支持体として利用し、斜面を被覆するようにして太陽電池モジュールを設置するものである。
【0027】
以下に、太陽電池モジュールの支持構造、及び太陽電池モジュール付き斜面保護構造の詳細について、太陽電池モジュールをのり面に設ける場合を事例に挙げ、
図1~
図10を参照しつつ説明する。なお、のり面は、切土のり面もしくは盛土のり面などいずれの人工のり面でもよい。また、太陽電池モジュールの支持構造、及び太陽電池モジュール付き斜面保護構造は、のり面だけでなく自然傾斜地を含むいずれの斜面にも採用することが可能である。
【0028】
≪≪太陽電池モジュール付き斜面保護構造≫≫
図1(a)の正面図で示すような、のり面201に設けられた太陽電池モジュール付き斜面保護構造100は、
図1(b)で示すような太陽電池モジュール10と、
図1(c)で示すような太陽電池モジュール10の支持構造と、
図2で示すような排水層30及び止水層40を備えている。そして、太陽電池モジュール10の支持構造は、離間間隔を設けて面状に配置される複数の支持体20により構成される。
【0029】
≪≪太陽電池モジュール≫≫
太陽電池モジュール10は、
図1(b)で示すように、複数の太陽電池セル11を外囲器12に封入した発電ユニットであり、外囲器12を平面視で正方形を半割にした略直角三角形に形成している。これにより太陽電池モジュール10は、その外形が略直角三角形をなし、
図1(a)で示すように、隣り合う支持体20により3点で支持され、のり面201を被覆するように設置されている。
【0030】
≪≪支持体≫≫
支持体20は、
図1(a)(c)で示すように、のり面201の縦方向及び横方向に間隔を設けて複数設置されている。その配置位置や離間間隔は、地山200の状態に応じて適宜決定すればよく、例えば千鳥状配置などでもよいし離間間隔が一定でなくてもよい。
【0031】
これら支持体20は、
図2(a)及び
図3(a)で示すように、地山200と一体となるよう設置されて、のり面201全体の安定性を高める補強材21と、補強材21の一端側に固定されて、のり面201の表層部分を拘束する受圧板22とを備える。また、これら受圧板22と補強材21とともに、支圧プレート23、固定具24及び保持部材25を備えている。
【0032】
補強材21は、長尺な鋼棒よりなり、
図2(a)で示すように、一端をのり面201から突出させた状態で、土塊のすべり面202以深の所定深度まで削孔した地中孔Hに挿入されている。地中孔HにはグラウトGが充填されており、補強材21はこのグラウトGを介して地山200に固定されている。つまり、補強材21は、のり面201から突出した一端を除く全長が、地山200に定着された状態にある。なお、補強材21は、他端が斜面からすべり面202以深の所定深度まで挿入され、少なくともすべり面202をまたがって地山200に定着されていれば、のり面201近傍が地山200に固定されていなくてもよい。
【0033】
受圧板22は、
図3(a)及び
図4で示すように、地山200に定着された補強材21が貫通する円盤形状の部材であり、後述する排水層30及び止水層40を介してのり面201に接地しつつ、補強材21の一端に固定されている。固定する手段はいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、支圧プレート23と固定具24を採用している。
【0034】
支圧プレート23は、補強材21が貫通した状態で、受圧板22の上面に配置されている。固定具24は、補強材21の一端側近傍に形成されたねじ部に螺合可能なナットを備えている。したがって、まず、補強材21が挿通された受圧板22を、排水層30及び止水層40を介してのり面201に接地し、その上面に同じく補強材21が挿通された支圧プレート23を配置する。
【0035】
この状態で固定具24を補強材21の一端側に装着して螺合する。これにより、受圧板22は、固定具24及び支圧プレート23とのり面201とに挟持された状態で、補強材21に締結・固定される。このような受圧板22には、太陽電池モジュール10を保持する際に用いる保持部材25が設置されている。
【0036】
保持部材25は、
図3(a)及び
図4で示すように、受圧板22の上面に複数設置されており、太陽電池モジュール10に接続される取付け部材251と、受圧板22に固定され、取付け部材251に連結される連結部252とを備える。これらは、いわゆるボールジョイントを形成し、取付け部材251に接続された太陽電池モジュール10は、姿勢を変更自在な態様で受圧板22に連結されることとなる。
【0037】
≪≪太陽電池モジュールの支持構造≫≫
これら支持体20を、施工対象領域に離間間隔を設けて面をなすように複数構築することで、太陽電池モジュール10の支持構造は形成される。そして、
図4で示すように、例えば、隣り合う3台の支持体20各々の受圧板22を連結するように、1台の太陽電池モジュール10を配置し保持部材25に接続する。こうして、1台の太陽電池モジュール10を、のり面201を被覆する態様で、3台の支持体20により支持する。
【0038】
このとき、
図4で示すように、受圧板22には放射方向に複数の保持部材25が設けられているから、1台の受圧板22には保持部材25を介して複数の太陽電池モジュール10が接続されることとなる。こうして、
図1(a)で示すように、施工対象領域内全域にわたって、のり面201を隙間なく被覆するようにして複数の太陽電池モジュール10を設置した、太陽電池モジュール付き斜面保護構造100が形成される。
【0039】
また、支持体20に備えた補強材21により、地山200の変形ならびにすべりの発生を抑止できる。さらには、
図2(a)(b)で示すように、排水層30及び止水層40を介してのり面201上に接地された受圧板22により、のり面201の表層部分を拘束するだけでなく、太陽電池モジュール10の荷重を、複数の受圧板22を介して表層部分の広い範囲に分散して作用させることができる。したがって、支持体20を採用すると、太陽電池モジュール10をのり面201に設置しつつ、のり面201全体の安定性を高めることが可能となる。
【0040】
また、太陽電池モジュール10を設置する際、一般に使用される太陽電池架台を省略できるため、太陽電池モジュール10とのり面201とを近接して配置させることができる。したがって、
図3(b)で示すように、悪天候など起因して強風や突風が生じた場合に、これらの風が太陽電池モジュール10とのり面201との隙間に入り込みにくく、太陽電池モジュール10の背面側に、引抜き方向の風圧が作用するといった現象を抑制することが可能となる。
【0041】
さらに、
図3(b)で示すように、地震時には、支持体20に引抜き方向及び押し込み方向の荷重が交互に作用する。しかし、保持部材25を介して太陽電池モジュール10の荷重が受圧板22に採用していることから、地山200に定着されている補強材21とともに、引抜き方向の力に抵抗し、太陽電池モジュール10を安定に支持することが可能となる。なお、のり面201が急傾斜である場合、太陽電池モジュール10の荷重が受圧板22に対して引抜き方向に作用する。
【0042】
しかし、この場合には、あらかじめ引抜き方向に作用する可能性のある太陽電池モジュール10の荷重を考慮し、補強材21を設計すればよい。なお、補強材21の材質は、地山200との一体化を図るロックボルト工で採用可能な棒状部材であれ、ロックボルトや異形棒綱、ネジ節棒綱などの棒鋼を採用してもよいし、GFRP製のロックボルトなど、いずれを採用してもよい。
【0043】
受圧板22の材料も、コンクリートや鋼材、合成材などいずれの材料により製造されるものでもよい。また、その平面視形状は、円盤形状に限定されるものではなく、のり面保護工で一般に使用されている、クロス型やセミクロス、スクエア型などを採用することができる。さらに、固定具24は、補強材21の一端近傍に形成されたねじ部に螺合可能なナットを備えていれば、必ずしも
図3(a)で示すような、キャップ付きナットに限定されるものではない。
【0044】
また、支持体20はその配置位置が、必ずしも
図1(c)で示すように縦方向及び横方向に整列していない場合もありうる。このような場合には例えば、二等辺三角形や正三角形など、様々な平面視形状を有する太陽電池モジュール10を予め準備しておくとよい。こうして、支持体20の配置位置に応じて、平面形状の異なる様々な太陽電池モジュール10を適宜組み合わせることも可能である。
【0045】
その一方で、例えば、地山200が盛土であると、のり面201の表面は平滑で、支持体20の不陸はほぼ生じない。この場合には、必ずしも太陽電池モジュール10は、3台の支持体20による3点支持でなくてもよい。したがって、太陽電池モジュール10の平面視形状も、必ずしも三角形に限定するものではなく、のり面201に構築された支持体20の配置状況に応じて、四角形や五角形など、隣り合う支持体20に囲まれた領域ののり面201を被覆することのできる多角形状に形成すればよい。
【0046】
例えば、
図5では、正方形の太陽電池モジュール10を採用する場合を事例に挙げている。この場合、太陽電池モジュール10は、その角部が保持部材25を介して受圧板22に連結され、隣り合う4台の受圧板22を連結するように設置される。つまり、太陽電池モジュール10は、隣り合う4つの支持体20により4点で支持され、その荷重を4台の受圧板22を介して表層部分の広い範囲に分散して作用させることができる。
【0047】
≪≪太陽電池モジュールの支持構造の他の事例≫≫
≪枠部材を追加する事例≫
上記の離間間隔を設けて面をなすように配置した複数の支持体20よりなる太陽電池モジュール10の支持構造は、のり面201の安定度が低く落石や表層部に崩落を生じる恐れがある場合には、
図6(a)(b)で示すように、さらに枠部材61を採用して、太陽電池モジュール10の支持構造に支持枠60を設けてもよい。
【0048】
支持枠60は、
図6(a)で示すように、平面視三角形状の枠部材61を複数備え、これらが支持体20の受圧板22を介して連結されることにより、のり面201上で法枠のごとく機能する。つまり、太陽電池モジュール10の支持構造は、ロックボルト工と開放型のフレーム工を併用したのり面保護工を備える構造となって、のり面201をより安定して保護する。このような太陽電池モジュール10の支持構造を構成する枠部材61に、
図6(b)で示すように、太陽電池モジュール10を設置すると、その荷重が支持枠60を介してのり面201の表層部分に伝達される。したがって、のり面201の表層部分が不安定な場合にもこれらを効率よく拘束し、表層部分に生じる可能性のある浸食や表層崩壊(表層すべり)を抑制することが可能となる。
【0049】
上記のように機能する枠部材61は、
図7(a)で示すように、棒状部材を三角形に組み立てて、溶接等により固定し製造してものであり、
図7(b)で示すように、2体のアングル形鋼を背合わせし形成している。したがって、その断面は、立上がり部62と底部63とを備えた逆T字型をなしている。この逆T字型の底部63が、
図8で示すように、排水層30及び止水層40を介してのり面201に接地するように配置される。
【0050】
この状態で、枠部材61を隣り合う3台の受圧板22を連結するように配置し、保持部材25に接続させる。これにより、1台の枠部材61は3台の支持体20に支持される。このとき、受圧板22には放射方向に複数の保持部材25が設けられているから、1台の受圧板22には保持部材25を介して複数の枠部材61が接続される。これにより、
図6(a)で示すように、施工対象領域内全域にわたって、複数の枠部材61と受圧板22よりなる支持枠60を備える太陽電池モジュール10の支持構造を設けることができる。
【0051】
また、
図6(b)で示すように、枠部材61における立上がり部62で囲繞された内側空間に、太陽電池モジュール10を嵌込み設置することで、太陽電池モジュール付き斜面保護構造100が形成される。これにより、のり面201で生じる可能性のある小規模な崩落や、落石など不安定土塊を固定することが可能となる。
【0052】
なお、枠部材61は、必ずしも2体のアングル形鋼を背合わせし形成したものに限定するものではない。少なくとも底部63を備え、立上がり部62のごとく太陽電池モジュール10を配置可能な構成を有していれば、例えば、鉄筋コンクリート造のプレキャスト部材などを採用してもよい。また、枠部材61の平面視形状も太陽電池モジュール10の平面視形状と同様に、支持体20の構築位置や離間間隔に応じて、適宜直角三角形や正三角形など様々な形状のものを採用することができる。また、異なる形状の枠部材61を適宜組み合わせて支持枠60を形成することも可能である。
【0053】
≪面材を追加する事例≫
のり面201の表層部が枠部材61を用いた拘束では十分な安定性が確保できない場合や、造成した盛土の転圧締固めが十分でない場合には、
図9(a)(b)で示すように、枠部材61に代えて面材71を採用し、太陽電池モジュール10の支持構造に支持壁体70を設けてもよい。
【0054】
支持壁体70は、
図9(a)で示すように、複数の複数の面材71を備え、これらが支持体20の受圧板22を介して連結されることにより、のり面201上でのり面保護擁壁のごとく機能する。したがって、太陽電池モジュール10の支持構造は、崩落や落石などの可能性がある自然傾斜地や、締固めが十分でない可能性のある盛土ののり面201など、表層部分が不安定な斜面であっても、のり面201の安定化を図ることが可能となる。
【0055】
上記のように機能する面材71は、
図10(a)で示すように、前述した複数の枠部材61とその内側空間を塞ぐように設けた面材本体72により構成されている。そして、枠部材61と面材本体72がともに、排水層30及び止水層40を介してのり面201に接地する。この状態で、面材本体72上に太陽電池モジュール10を設置することにより、
図9(b)で示すように、太陽電池モジュール付き斜面保護構造100が形成される。
【0056】
しかし、面材71はこれに限定するものではない。例えば、
図10(b)で示すように、面材71として一枚物の平板材を採用し、支持体20を構成する受圧板22と一体に固着して、支持壁体70を形成してもよい。つまり面材71は、下面が排水層30及び止水層40を介してのり面201に接地可能な面を有し、上面に太陽電池モジュール10を配置可能で、平面視形状が隣り合う複数の受圧板22に囲まれた空間を塞ぐように形成されていれば、いずれも採用できる。
【0057】
上記のとおり、太陽電池モジュール付き斜面保護構造100は、支持体20が補強材21と受圧板22を備え、補強材21は地山200の変形ならびにすべりの発生を抑止し、受圧板22はのり面201の表層部分を拘束する。このように、支持体20は、のり面201を安定化させる機能と太陽電池モジュール10の基礎としての機能を兼用する。
【0058】
したがって、切土や盛土などののり面201だけでなく、自然傾斜地などいずれの斜面であっても、施工対象領域の斜面の状態に応じて適切な支持体20を設計できるため、別の手段でのり面対策を講じることなく、斜面の安定性を確保しつつ、簡略な構成で容易に太陽電池モジュール10をその斜面に設置することが可能となる。
【0059】
上記の支持構造で太陽電池モジュール10を支持することにより形成される太陽電池モジュール付き斜面保護構造100は、少なくとも太陽電池モジュール10の下方側に位置するのり面201に、排水層30及び止水層40が設けられている。
【0060】
≪≪排水層及び止水層≫≫
排水層30は、
図2(a)で示すように、のり面201の上面に敷設されて、地山200の浸透水203を積極的に集水し、法尻排水溝50に排水するものである。その材料は割栗や排水マット、じゃかごなど、排水性を有する材料により構成されるとともにのり面201を被覆できる材料であれば、いずれを採用してもよい。また、種類の異なる排水材を複数組み合わせて、排水層30を形成してもよい。
【0061】
なお、のり面201の表層部分が
図2(b)で示すように、例えば礫層204など排水機能を有する土質材料により構成され、この礫層204を介して地山200の浸透水203を法尻排水溝50に導水できる場合には、排水層30を省略してもよい。
【0062】
止水層40は、
図2(a)では排水層30を、
図2(b)では礫層204の上面を被覆するように敷設され、これらを流下する浸透水203が太陽電池モジュール10側へ湧出する挙動を防止する。また、降雨時に、隣り合う太陽電池モジュール10の隙間から雨水が、のり面201から地山200内に流入する挙動を抑制する。その材料は、例えばベントナイト系遮水シートや高密度ポリエチレンシートなど、止水性を有する材料により構成され、排水層30や礫層204を被覆できるものであれば、いずれを採用してもよい。
【0063】
なお、例えば、
図10(b)で示すように、隣り合う受圧板22と面材71とが一体に形成され、排水層30の表面全体が被覆されている場合には、止水層40を省略してもよい。
【0064】
このように、少なくとも太陽電池モジュール10の下方側に位置するのり面201に、排水層30及び止水層40を設けると、地山200に浸透した雨水などの浸透水203を、排水層30を介して速やかに排水できる。そして、止水層40により地山200の浸透水203が太陽電池モジュール10側に湧出する現象を抑制できるともに、降雨によるのり面201の浸食や風化を抑制することもできる。
【0065】
このように、のり面201の表層部分を常時保護できるため、表層部分の不安定化を抑制できることに伴い、悪天候時などに、のり面201の土砂が流出するなどして太陽電池モジュール10に被害を生じさせることもない。さらに、止水層40は、日光が遮られるなど雑草の成長を促す要因を排除する機能も有する。これにより、太陽電池モジュール10の下面側に位置するのり面201の除草作業を省略でき、太陽電池モジュール10の維持管理について、簡略化を図ることが可能となる。
【0066】
本発明の太陽電池モジュールの支持構造、及び太陽電池モジュール付き斜面保護構造は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、本実施の形態では、補強材21を新たに準備して地山200に定着したうえで支持体20を構築し、この支持体20を利用して太陽電池モジュール付き斜面保護構造100を設ける場合を事例に挙げた。しかし、これに限定されるものではなく例えば、ロックボルト工により補強された地山200に定着されている既設のロックボルトなどを補強材21に利用し、支持体20を構築してもよい。
【0068】
また、既設のロックボルトを用いて構築した支持体20と、新たな補強材21を用いて新設した支持体20とを斜面に併設し、これらを用いて太陽電池モジュール10を支持してもよい。
【0069】
さらに、本実施の形態では、保持部材25の取付け部材251を太陽電池モジュール10の角部に接続した。しかし、太陽電池モジュール10を保持し、その荷重を受圧板22に作用させることができれば、その取付け位置は太陽電池モジュール10の角部に限定されるものではない。
【0070】
また、本実施の形態では、地山200から突出する補強材21の一端側に固定されるプレートとして受圧板22を事例に挙げ、保持部材25を受圧板22に設ける構成を例示したが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば支圧プレート23が保持部材25を設置可能な程度の面積を有している場合には、受圧板22に替えて支圧プレート23をプレートとして取り扱い、支圧プレート23に保持部材25を設けてもよい。この場合、受圧板22は補強材21の一端側に設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
100 太陽電池モジュール付き斜面保護構造
10 太陽電池モジュール
11 太陽電池セル
12 外囲器
20 支持体
21 補強材
22 受圧板
23 支圧プレート
24 固定具
25 保持部材
251 取付け部材
252 連結部
30 排水層
40 止水層
50 法尻排水溝
60 支持枠
61 枠部材
62 立上がり部
63 底部
70 支持壁体
71 面材
72 面材本体
200 地山
201 のり面(斜面)
202 すべり面
203 浸透水
204 礫層
G グラウト
H 地中孔