(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074419
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ゴム組成物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20230522BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K5/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187379
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 浩徳
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC021
4J002AC061
4J002DA030
4J002DA040
4J002DE100
4J002EA066
4J002EF050
4J002EQ036
4J002ER006
4J002EU027
4J002EV026
4J002FD030
4J002FD036
4J002FD090
4J002FD140
4J002FD147
4J002FD160
4J002GM01
4J002GN01
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】自己修復性に優れた組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ジエン系ゴムと、前記ジエン系ゴムに組み込まれた、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するアントラセン化合物と、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤とを含有するものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、前記ジエン系ゴムに組み込まれた、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するアントラセン化合物と、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤とを含有する、ゴム組成物。
【請求項2】
前記架橋剤が、ビスマレイミド化合物である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記アントラセン化合物が、アントラセン-9-カルボニトリルオキシドである、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物を加熱して得られた、架橋ゴム。
【請求項5】
ジエン系ゴムと、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するアントラセン化合物とを混合する、第1工程と、
前記第1工程において得られた組成物に、補強性充填材を混合する、第2工程と、
前記第2工程において得られた組成物に、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤を混合する、第3工程とを有する、ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境調和の観点から自己修復性能を有する材料が求められている。例えば、特許文献1では、架橋構造が、温度によって、架橋・脱架橋を可逆的に進行することが可能な熱可塑性エラストマーが記載されている。この熱可塑性エラストマーは、アミノ基を介して主鎖に結合している共役ジエン構造と、2つ以上のジエノフィル構造有する架橋剤とがDiels-Alder反応によって架橋構造を形成している。
【0003】
しかしながら、自己修復性能について改善の余地があった。また、特許文献1には、共役ジエン構造として、アントラセン化合物を使用することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-34615号公報
【特許文献2】特開2017-110192号公報
【特許文献3】特許5558264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、自己修復性能に優れたゴム組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
なお、特許文献2には、再配置可能なホットメルト接着剤として、Diels-Alder反応を用いたものが記載されているが、接着剤に関する発明であり、タイヤ用途ではない。また、アントラセン化合物が共重合によって熱可塑性エラストマーの主鎖に導入されている点で、本発明とは異なる。
【0007】
また、特許文献3には、ニトリルオキシド基を有する化合物を用いて、グリシジル基又はエトキシカルボニル基を導入した高分子材料を得たことが記載されている。そして、得られた高分子材料と、ジアミン化合物又はジヒドラジド化合物を反応させることで架橋構造を得たことが記載されているが、これらの置換基によって得られた架橋反応は、不可逆的であり、自己修復性能は有していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムと、上記ジエン系ゴムに組み込まれた、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するアントラセン化合物と、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤とを含有するものとする。
【0009】
上記架橋剤は、ビスマレイミド化合物であるものとすることができる。
【0010】
上記アントラセン化合物は、アントラセン-9-カルボニトリルオキシドであるものとすることができる。
【0011】
本発明に係る架橋ゴムは、上記ゴム組成物を加熱して得られたものとする。
【0012】
本発明に係るゴム組成物の製造方法は、ジエン系ゴムと、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するアントラセン化合物とを混合する、第1工程と、上記第1工程において得られた組成物に、補強性充填材を混合する、第2工程と、上記第2工程において得られた組成物に、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤を混合する、第3工程とを有するものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴム組成物によれば、自己修復性能が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムと、上記ジエン系ゴムに組み込まれた、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するアントラセン化合物と、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤とを含有するものとする。
【0016】
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分としてジエン系ゴムを含有するものであり、その種類は特に限定されないが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。
【0017】
本実施形態に係るアントラセン化合物としては、置換基として、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つを有する。これら置換基の中でも、ニトリルオキシド基であることが好ましい。これらの置換が、ジエン系ゴムの炭素-炭素二重結合に対して、次の反応式に示すように、クリック反応やチオール-エン反応することで、ジエン系ゴムにアントラセン化合物を組み込むことができる。なお、アントラセン化合物は、後述するDiels-Alder反応に影響を与えない範囲で、上記置換基以外の置換基をさらに有するものであってもよい。
【0018】
【0019】
本実施形態に係る架橋剤としては、2つ以上のジエノフィル構造を有するものであれば特に限定されない。ここで、ジエノフィル構造を有する化合物としては、例えば、マレイミド、N-(4-アミノフェニル)マレイミド、マレイン酸モノアミド等が挙げられる。そして、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤としては、例えば、ビス(3-エチル-5-メチル-4マレイミドフェニル)メタン、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、1,2-ビス(マレイミド)エタン、1,6-ビス(マレイミド)ヘキサン、N,N’-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-1,4-フェニレンビスマレイミド等が挙げられる。
【0020】
本実施形態に係るゴム組成物は、次の反応式に示すように、ジエン系ゴムに組み込まれたアントラセン化合物と、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤(下記反応式では、ビスマレイミド)とが、Diels-Alder反応を起こすことにより、架橋構造を形成するとともに、架橋構造は、温度によって、架橋・脱架橋を可逆的に進行するように構成されている。
【0021】
【0022】
アントラセン化合物の含有量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~30質量部であることが好ましく、1~20質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることがさらに好ましい。
【0023】
2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤の含有量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがさらに好ましい。
【0024】
アントラセン化合物と上記架橋剤との含有割合(アントラセン化合物/架橋剤)は、特に限定されないが、1~50であることが好ましく、1~40であることがより好ましく、1~30であることがさらに好ましい。架橋剤よりもアントラセン化合物の割合が多いことにより、脱架橋した架橋剤のジエノフィル構造が、アントラセンと再架橋し易くなる。
【0025】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されている補強性充填剤、プロセスオイル、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤、硫黄、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0026】
補強性充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることが好ましい。すなわち、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラック単独、又はカーボンブラックとシリカの併用である。補強性充填剤の含有量は、特に限定されず、例えばジエン系ゴム100質量部に対して10~140質量部であることが好ましく、より好ましくは20~100質量部であり、さらに好ましくは30~80質量部である。
【0027】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して5~100質量部であることが好ましく、より好ましくは20~80質量部である。
【0028】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカを配合する場合、その含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、より好ましくは5~30質量部である。
【0029】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、例えば、次の方法により製造することができる。
【0030】
まず、第1工程として、ジエン系ゴムと、ニトリルオキシド基、アジド基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するアントラセン化合物とを混合する。ジエン系ゴムとアントラセン化合物とを混合することにより、クリック反応が起こり、ジエン系ゴムにアントラセン化合物が組み込まれる。この際、アントラセン化合物の分散性やジエン系ゴムとの反応性の観点から、例えば、100℃以上で30秒以上混練することができる。
【0031】
第2工程として、上記第1工程において得られた組成物に、補強性充填材を混合することができる。この際、配合剤の分散性の観点から、例えば、100℃以上で1分間以上混練することができる。
【0032】
第3工程として、上記第2工程において得られた組成物に、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤を混練することができる。この際、例えば、50℃以上で30秒間以上混練することができる。
【0033】
第3工程で得られたゴム組成物を、140~170℃で加熱することで、アントラセン化合物と、2つ以上のジエノフィル構造を有する架橋剤とをDiels-Alder反応させることにより、架橋構造が形成され、架橋ゴムを得ることができる。
【0034】
このようにして得られたゴム組成物は、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤなど、各種用途・各種サイズの空気入りタイヤのトレッド、サイドウォールなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば140℃~180℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
比較例1では、バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第二混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0037】
比較例2では、バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、イソプレンゴムとアントラセン化合物を添加し、100℃以上で30秒以上混練した後、第二混合段階としてカーボンブラックを添加混合して(排出温度=160℃)、ゴム組成物を調製した。
【0038】
比較例3では、バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、イソプレンゴムとカーボンブラックを添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第二混合段階で架橋剤を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0039】
実施例1では、バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、イソプレンゴムとアントラセン化合物を添加し100℃以上で30秒以上混練した後、第二混合段階としてカーボンブラックを添加混合して(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第三混合段階で架橋剤を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0040】
<合成例>
窒素雰囲気下でTHF90mL、水10mL、9-アントラセンカルボキシアルデヒド2.1g(10mmol)、酢酸ナトリウム1.6g(20mmol)、塩酸ヒドロキシルアミン1.4g(20mmol)を加え、室温で5時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、酢酸エチルで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。化合物Aを2.2g(収率99%)得た。
【0041】
【0042】
窒素雰囲気下でジクロロメタン200mL、化合物A2.2g(10mmol)、トリエチルアミン1.5g(15mmol)、N-クロロスクシンイミド1.5g(11mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、ジクロロメタンで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。化合物Bを2.1g(収率94%)得た。
【0043】
【0044】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・イソプレンゴム:JSR(株)製「IR2200」
・カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製「ショウブラックN330T」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ-G」
・アントラセン化合物:上記合成例で得られた化合物B(アントラセン-9-カルボニトリルオキシド)
・架橋剤:大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」、N,N’-1,3-フェニレンビスマレイミド
【0045】
得られた各ゴム組成物を用いて、金属板をモールドとして用いて、加圧しながら160℃で加硫し、加硫ゴムサンプルを作製した。加硫時間は、JIS K6300-2に記載の90%加硫時間を適用した。
【0046】
・架橋性:得られたサンプル200mgをトルエン50~100mlに2日間浸漬した後、乾燥したものの重量を測定した。重量変化率が40%以下であるものを、架橋性が優れているものと評価し、表1に「○」と示した。
【0047】
・自己修復性:1mm厚のサンプルをハサミで切断し、切断面同士を合わせた状態で、80℃で1日加温した。サンプルを持ち上げることでくっついているか確認し、くっついていたものは、自己修復性に優れていると評価し、表1に「○」と示した。
【0048】
【0049】
結果は、表1に示す通りであり、比較例2は、アントラセン化合物を配合し、架橋剤を配合しなかった例であるが、十分な架橋が得られず、自己修復性の評価もできなかった。
【0050】
比較例3は、アントラセン化合物を配合せず、架橋剤を配合した例であるが、自己修復性が得られなかった。
【0051】
一方、実施例1は、アントラセン化合物と架橋剤とを配合することにより、優れた自己修復性が得られた。