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特開2023-74420ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074420
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20230522BHJP
   C08K 5/372 20060101ALI20230522BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20230522BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K5/372
C08K3/06
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187380
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 浩徳
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131AA06
3D131BA01
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC12
3D131BC15
3D131BC19
4J002AC021
4J002AC061
4J002DA030
4J002DA047
4J002DE100
4J002EF050
4J002EV066
4J002FD030
4J002FD076
4J002FD090
4J002FD147
4J002FD160
4J002GN01
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】硬度を維持しつつ、破壊特性に優れたゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対して、一般式(1)で表されるチオエステル系化合物(Aは炭素数1~10のアルキル基又は芳香族炭化水素基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1~6の整数)を0.1~10質量部含有するものとする。
A-COS-(CH-SCO-A ・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、下記一般式(1)で表されるチオエステル系化合物を0.1~10質量部含有する、ゴム組成物。
A-COS-(CH-SCO-A ・・・(1)
ただし、式(1)において、Aは炭素数1~10のアルキル基又は芳香族炭化水素基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1~6の整数である。
【請求項2】
前記チオエステル系化合物は、式(1)においてn=6で表される化合物である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
ジエン系ゴム100質量部に対して、硫黄を0.1~10質量部含有する、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて作製した、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤなどのゴム製品では、耐久性向上のためさらなる破壊特性の向上が求められている。このような課題に対して、架橋剤を複数使用することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、架橋剤として、硫黄に加えて1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを用いることで、リバージョンおよび熱老化特性を改善できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、架橋剤として、硫黄に加えて1,8-ビス(チオ安息香酸エステル)オクタンを用いることで、強靱性を改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-263892号公報
【特許文献2】特開2014-118419号公報
【特許文献3】特許5647619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンについては、破壊特性について改善の余地があり、特許文献2の1,8-ビス(チオ安息香酸エステル)オクタンについては、硬度が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、硬度を維持しつつ、破壊特性を向上させることができるゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【0008】
なお、特許文献3には、ブロックトメルカプトシランカップリング剤をタイヤ用ゴム組成物に用いたことが記載されているが、破壊特性については記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、下記一般式(1)で表されるチオエステル系化合物を0.1~10質量部含有するものとする。
A-COS-(CH-SCO-A ・・・(1)
ただし、式(1)において、Aは炭素数1~10のアルキル基又は芳香族炭化水素基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1~6の整数である。
【0010】
上記チオエステル系化合物は、式(1)においてn=6で表される化合物であるものとすることができる。
【0011】
上記ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、硫黄を0.1~10質量部含有するものとすることができる。
【0012】
本発明に係る空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて作製したものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴム組成物によれば、硬度を維持しつつ、優れた破壊特性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、下記一般式(1)で表されるチオエステル系化合物を0.1~10質量部含有するものとする。
A-COS-(CH-SCO-A ・・・(1)
ただし、式(1)において、Aは炭素数1~10のアルキル基又は芳香族炭化水素基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよく、nは1~6の整数であり、3~6の整数であることが好ましく、6であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分としてジエン系ゴムを含有するものであり、その種類は特に限定されないが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。
【0017】
本実施形態に係るチオエステル系化合物としては、上記一般式(1)で表されるものであれば特に限定されない。一般式(1)におけるAは、炭素数1~10のアルキル基又は芳香族であれば、特に限定されず、架橋反応の際に、チオエステル基が分解され、カルボン酸として遊離するため、架橋構造に影響を与えるものでもない。一般式(1)におけるAは例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル、n-デシル基のような直鎖状アルキル基であってもよく、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、イソノニル基、イソデシル基のような分岐鎖状アルキル基であってもよく、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基のような脂環式アルキル基であってもよく、フェニル基、フェネチル基、ベンジル基のような芳香族炭化水素基であってもよい。
【0018】
チオエステル系化合物の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部であれば特に限定されないが、0.1~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがさらに好ましい。チオエステル系化合物の含有量が、上記範囲内である場合、優れた硬度と破壊特性が得られやすい。
【0019】
上記チオエステル系化合物を使用することにより、硬度を維持しつつ、破壊特性を改善することができる。このメカニズムは定かではないが、次のように推測することができる。すなわち、ゴム製品において、通常用いられる硫黄架橋よりも、適度に長い架橋鎖を導入し、硬度の低下を抑えつつ、ゴムの柔軟性が向上することで、破壊特性が改善すると考えられる。また、ゴムの柔軟性の向上により、ウエットグリップ性能も改善する。
【0020】
本実施形態に係るゴム組成物は、硫黄を含有するものであってもよく、その含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係るゴム組成物は、さらに、加硫促進剤を含有するものであってもよく、その含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましく、0.2~3質量部であることがより好ましい。加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などが挙げられる。
【0022】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されている補強性充填剤、プロセスオイル、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0023】
補強性充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることが好ましい。すなわち、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラック単独、又はカーボンブラックとシリカの併用である。補強性充填剤の含有量は、特に限定されず、例えばジエン系ゴム100質量部に対して10~140質量部であることが好ましく、より好ましくは20~100質量部であり、さらに好ましくは30~80質量部である。
【0024】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して5~100質量部であることが好ましく、より好ましくは20~80質量部である。
【0025】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカを配合する場合、その含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、より好ましくは5~30質量部である。
【0026】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、チオエステル系化合物と加硫剤と加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階でチオエステル系化合物と加硫剤と加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0027】
このようにして得られたゴム組成物は、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤなど、各種用途・各種サイズの空気入りタイヤのトレッド、サイドウォールなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば140℃~180℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
<合成例1>
窒素雰囲気下でアセトニトリル40mL、安息香酸2.4g(20mmol)、p-トルエンスルホン酸クロリド9.2g(48mmol)、N-メチルイミダゾール9.8g(120mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。別の容器に1,6-ヘキサンジチオール1.5g(10mmol)をアセトニトリル20mLに溶解させた。この溶液を加え、室温でさらに3時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、ジクロロメタンで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより上記で得られた濃縮物を精製することにより、1,6-ビス(チオ安息香酸エステル)ヘキサン3.4g(収率94%)を得た。
【0030】
<合成例2>
窒素雰囲気下でジクロロメタン17mL、1,6-ヘキサンジチオール1.5g(10mmol)、酢酸イソプロペニル6.0g(60mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸150mg(1mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、炭酸カリウムを加えて30分攪拌した。その後、酢酸エチルで希釈し、セライトを用いてろ過して、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより上記で得られた濃縮物を精製することにより、1,6-ビス(チオ酢酸エステル)ヘキサン2.2g(収率95%)を得た。
【0031】
<合成例3>
窒素雰囲気下でアセトニトリル40mL、安息香酸2.4g(20mmol)、p-トルエンスルホン酸クロリド9.2g(48mmol)、N-メチルイミダゾール9.8g(120mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。別の容器に1,8-オクタンジチオール1.8g(10mmol)をアセトニトリル20mLに溶解させた。この溶液を加え、室温でさらに3時間攪拌した。反応終了後、水を反応液に加え、ジクロロメタンで3回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水して、ろ過した後、減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより上記で得られた濃縮物を精製することにより、1,8-ビス(チオ安息香酸エステル)オクチル3.8g(収率99%)を得た。
【0032】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤とチオエステル系化合物を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第二混合段階で硫黄と加硫促進剤とチオエステル系化合物を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0033】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・イソプレンゴム:JSR(株)製「IR2200」
・カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製「ショウブラックN330T」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・チオエステル系化合物1:上記合成例1で得られた1,6-ビス(チオ安息香酸エステル)ヘキサン
・チオエステル系化合物2:上記合成例2で得られた1,6-ビス(チオ酢酸エステル)ヘキサン
・チオエステル系化合物3:上記合成例3で得られた1,8-ビス(チオ安息香酸エステル)オクチル
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ-G」
【0034】
得られた各ゴム組成物を用いて、金属板をモールドとして用いて、加圧しながら160℃で加硫し、加硫ゴムサンプルを作製した。加硫時間は、JIS K6300-2に記載の90%加硫時間を適用した。
【0035】
・硬度:JIS K6253に準拠して、デュロメーターのタイプAにより温度23℃での硬度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、常温での硬度が高いことを示す。
【0036】
・切断時引張強さ:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状7号形)を行い、切断時引張強さを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、破断特性に優れることを示す。
【0037】
・切断時伸び:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状7号形)を行い、切断時伸びを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、破断特性に優れることを示す。
【0038】
・ウエットグリップ性能:UBM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、tanδが大きく、ウエットグリップ性能に優れることを示す。
【0039】
【表1】
【0040】
結果は、表1に示す通りであり、比較例2,3は、チオエステル系化合物として、1,8-ビス(チオ安息香酸エステル)オクチルを用いた例であり、比較例1と比較して硬度が劣っていた。
【0041】
一方、実施例1は、比較例2,3で用いたチオエステル系化合物よりも、チオエステル間の炭素鎖が短いチオエステル系化合物を用いた例であり、比較例1と比較して、硬度を維持ないしは向上しつつ、破壊特性及びウエットグリップ性能が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のゴム組成物は、乗用車用タイヤやトラック・バス用などの大型タイヤのトレッド、サイドウォール、ベルト、カーカスなどに使用することができる。