(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074441
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】電界放射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 35/06 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
H01J35/06 E
H01J35/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187431
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】越智 隼人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 怜那
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】安井 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉目 恒志
(57)【要約】
【課題】エミッタの引き込み量が少ない場合であっても、所定の耐電圧を得ることができる電界放射装置を提供する。
【解決手段】電界放射装置であって、真空室を備える真空容器と、真空室の軸方向の一方側に位置し、真空室の軸方向の他方側に対向する電子発生部を有するエミッタと、真空室の他方側に位置し、エミッタに対向して設けられたターゲットと、エミッタの外周側に設けられた筒状体であり、一方側が真空容器に対して固定され、他方側に開口部を有するガード電極と、ガード電極の内側でエミッタを軸方向に可動させる支持体と、ガード電極に接続された導体で構成され、ガード電極縁部の一方側に配置された電界遮へい体と、を備え、電界遮へい体は、軸方向の投影面上で開口部と部分的に重なって配置され、開口部を複数の領域に仕切る形状に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室を備える真空容器と、
前記真空室の軸方向の一方側に位置し、前記真空室の軸方向の他方側に対向する電子発生部を有するエミッタと、
前記真空室の前記他方側に位置し、前記エミッタに対向して設けられたターゲットと、
前記エミッタの外周側に設けられた筒状体であり、前記一方側が前記真空容器に対して固定され、前記他方側に開口部を有するガード電極と、
前記ガード電極の内側で前記エミッタを前記軸方向に可動させる支持体と、
前記ガード電極に接続された導体で構成され、前記ガード電極縁部の一方側に配置された電界遮へい体と、を備え、
前記電界遮へい体は、前記軸方向の投影面上で前記開口部と部分的に重なって配置され、前記開口部を複数の領域に仕切る形状に形成されている、
ことを特徴とする電界放射装置。
【請求項2】
前記電界遮へい体は、前記開口部の縁部に固定された一本以上の線状部材で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電界放射装置。
【請求項3】
前記電界遮へい体は、格子状に配置された前記線状部材で形成されることを特徴とする請求項2に記載の電界放射装置。
【請求項4】
前記電界遮へい体は、複数の貫通孔を有する板状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の電界放射装置。
【請求項5】
前記電界遮へい体は、前記エミッタが前記他方側に移動して前記ガード電極と接触したときに、前記電子発生部を仕切ってエッジ部を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電界放射装置。
【請求項6】
前記エミッタと前記支持体の接触部において、前記エミッタまたは前記支持体の少なくとも一方の面は電気絶縁性であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電界放射装置。
【請求項7】
前記電界遮へい体の軸方向高さは、前記電子発生部の軸方向高さより低く形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電界放射装置。
【請求項8】
前記電界遮へい体は、前記ガード電極と一体で形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の電界放射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線装置、電子管、照明装置等の種々の機器に適用される電界放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電界放射装置はX線装置、電子管、照明装置等の種々の機器に適用されている。電界放射装置は、真空容器の真空室において所定距離を隔てて互いに対向配置されたエミッタ(炭素等の電子源)とターゲットを有している。電界放射装置は、エミッタとターゲットの間の電圧印加によりエミッタから電子線を放出させる(電界放射)。そして、この電子線は当該ターゲットに衝突することで、例えば、X線の外部放出による透視分解能などの所望の機能を発揮する。
【0003】
特許文献1に示す電界放射装置におけるエミッタは、支持部の操作によりエミッタの電子発生部とガード電極との両者を互いに離間した状態で、ガード電極に電圧を印加する構成を開示する。これにより、特許文献1では、真空室内の少なくともガード電極を改質処理でき、当該電界放射装置において所望の耐電圧を得ることが可能となる。さらに、特許文献1に示す電界放射装置は、上記したように支持部の操作で電子発生部とガード電極が互いに離間する構成とすることで、電界放射装置の小型化を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、当該電界放射装置の小型化として装置の長手方向の寸法を短くする場合、ベローズや支持体(エミッタの支持部)が短小化した結果、エミッタの引き込み量が不足する。これによりエミッタを最大限引き込んだにもかかわらず、当該電界放射装置の改質処理中に十分な電圧を印加するとエミッタから過剰に電子が放出されてエミッタが損傷してしまい、エミッタの損傷を抑えるために電圧を低く設定すると電界放射装置の改質が不十分で所望の耐電圧を得ることができない恐れがある。
【0006】
そこで本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、エミッタの引き込み量が少ない場合であっても、所定の耐電圧を得ることが可能な電界放射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、電界放射装置あって、真空室を備える真空容器と、真空室の軸方向の一方側に位置し、真空室の軸方向の他方側に対向する電子発生部を有するエミッタと、真空室の他方側に位置し、エミッタに対向して設けられたターゲットと、エミッタの外周側に設けられた筒状体であり、一方側が真空容器に対して固定され、他方側に開口部を有するガード電極と、ガード電極の内側でエミッタを軸方向に可動させる支持体と、ガード電極に接続された導体で構成され、ガード電極縁部の一方側に配置された電界遮へい体と、を備え、電界遮へい体は、軸方向の投影面上で開口部と部分的に重なって配置され、開口部を複数の領域に仕切る形状に形成されている。
【0008】
上記の電界放射装置において、電界遮へい体は、開口部の縁部に固定された一本以上の線状部材で構成されてもよい。上記の電界放射装置において、電界遮へい体は、格子状に配置された線状部材で形成されてもよい。上記の電界放射装置において、電界遮へい体は、複数の貫通孔を有する板状に形成されてもよい。
【0009】
上記の電界放射装置において、電界遮へい体は、エミッタが他方側に移動してガード電極と接触したときに、電子発生部を仕切ってエッジ部を形成してもよい。上記の電界放射装置において、エミッタと支持体の接触部において、エミッタまたは支持体の少なくとも一方の面は電気絶縁性であってもよい。
【0010】
上記の電界放射装置において、電界遮へい体の軸方向高さは、電子発生部の軸方向高さより低く形成されてもよい。上記の電界放射装置において、電界遮へい体は、ガード電極と一体で形成されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エミッタの引き込み量が少ない場合であっても、所定の耐電圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係る電界放射装置の電界遮へい構造の拡大断面図である。
【
図3】実施形態1の電界遮へい構造のエミッタ引き込み時における概略断面図である。
【
図4】実施形態1の電界遮へい構造のエミッタ押し出し時における概略断面図である。
【
図5】実施形態1の電界放射装置の一例を示した概略断面図である。
【
図6】実施形態1の電界遮へい構造がない場合を想定した試験体を示す図である。
【
図7】実施形態1の電界遮へい構造がある場合を想定した試験体を示す図である。
【
図8】
図6と、
図7の試験体を用いた電子解析の結果を示す図である。
【
図9】実施形態2に係る電界放射装置の電界遮へい構造の概略平面図である。
【
図10】実施形態3に係る電界放射装置の電界遮へい構造の概略平面図である。
【
図11】従来のエミッタユニットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について実施形態や図を用いて説明する。尚、各図において、同一の部材ないし要素については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略ないし簡略化する。
【0014】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る電界放射装置10の電界遮へい構造の拡大断面図である。
図2は、
図1で示した実施形態1の電界遮へい構造の概略平面図である。また
図5は、実施形態1の電界放射装置10の一例を示した概略断面図である。
図1及び
図2等に示された本発明の一態様の電界遮へい構造は、例えば、X線装置、電子管、照明装置等を含む電界放射装置10に適用される。
【0015】
以下、実施形態1の電界放射装置10について、
図5で示している電界放射装置10を参照して説明する。実施形態1における電界放射装置10は、真空容器2、エミッタユニット3及びターゲットユニット4を備える。なお、
図5に示されたエミッタユニット3側を一方側、ターゲットユニット4側を他方側とする。また、当該一方側から当該他方側へ向かう方向を軸方向とする。また、軸方向に対し直交(交差)する方向を径方向(横断方向)とする。
【0016】
(真空容器2)
真空容器2は、軸方向に延びる筒状の絶縁体21を有する。絶縁体21は、エミッタユニット3とターゲットユニット4とを互いに絶縁し、真空容器2の内部(内側壁側)に真空室20を形成する。また、絶縁体21は、例えばセラミック等の絶縁材料で形成され、上記のようにエミッタユニット3とターゲットユニット4とを互いに絶縁し、内部に真空室20を形成できるものであればよい。真空容器2は、直列に配置される円筒状の絶縁部材21a及び絶縁部材21bを含む。さらに真空容器2は、当該絶縁部材21a、21b間にグリッド電極22を介在させた状態で、当該両者をろう付け等により互いに組み付けて構成されてもよい。
【0017】
エミッタユニット3とターゲットユニット4との間には、真空室20の径方向に延在するグリッド電極22が設けられている。グリッド電極22は、エミッタユニット3とターゲットユニット4との間に介在し、グリッド電極22を通過する電子線L1を適宜制御できる構成であれば、種々の形態のものを適用できる。グリッド電極22は、例えば、電極部24と引出端子25とを備える。電極部24は、例えばメッシュ状の電極であり、真空室20の径方向に延在する。電極部24には電子線L1が通過する通過孔23が形成されている。また、引出端子25は、絶縁体21を径方向に貫通して電極部24に接続されている。
【0018】
(エミッタユニット3)
エミッタユニット3は、エミッタ30、エミッタ支持部(支持体)31、及びガード電極32を備える。
【0019】
エミッタ30は、ターゲットユニット4のターゲット41に軸方向で対向する位置(部位)に電子発生部33を備える。電子発生部33は、電圧印加により電子を発生させ、電子線L1を放出する。なお、電子発生部33は、
図5に示すように電子線L1を放出できるもの(放射体)であれば、種々の形態を適用することが可能である。例えば、電子発生部33には、カーボンナノチューブや炭素繊維によって形成される材料等を用いることができる。また、例えば電子発生部33は、炭素等の材料を塊状に成形または薄膜状に蒸着させたエミッタ30で構成されていてもよい。さらに、電子発生部33においては、ターゲットユニット4のターゲット41に対向する側の表面を凹状または曲面状にして、電子線L1を集束し易くすることが好ましい。
【0020】
エミッタ支持部31は、ガード電極32の内側において軸方向に移動可能(可動)であり、電子発生部33をターゲット41に対向させた状態でエミッタ30を支持する。エミッタ支持部31には、例えば、エミッタ30の基端側(電子発生部33の反対側)がろう付け等により接合されている。
【0021】
エミッタ支持部31には、軸方向に伸縮可能なベローズ34を介してエミッタ支持部31を操作する操作部35が接続(取付)される。操作部35の操作により、ベローズ34が伸縮し、結果、エミッタ支持部31が軸方向に移動し、エミッタ30も連動してエミッタ支持部31と同一の方向に移動する。なお、実施形態1では操作部35は、エミッタ30の反対側から一部延出する形状であって、エミッタ支持部31と一体として構成しているが、これに限らず、それぞれ別体として取り外し可能に構成してもよい。なお、エミッタ支持部31とエミッタ30との接触部において、エミッタ30またはエミッタ支持部31の少なくとも一方の面は電気絶縁性であってもよい。例えば、電子発生部33をカーボンナノチューブで形成する場合、エミッタ30の基端側を絶縁体で形成することで、絶縁体を下地としてカーボンナノチューブを効率よく成長させることができる。
【0022】
エミッタ支持部31を適宜操作することにより、エミッタ30の電子発生部33とターゲット41との間の距離を変化させることができる。例えば、
図1に示したように電子発生部33がガード電極32から離間した無放電位置にあり、電界放射が抑制された状態であれば、ガード電極32、ターゲット41、グリッド電極22等において所望の改質処理が可能となる。改質処理として、例えばガード電極32の表面を融解平滑化すること等が挙げられる。また、例えば操作部35を備える電界放射装置10は大口径排気管を設けた従来の電界放射が可能な装置等と比較すると小型化が容易であり、製造工数の低減や製品コストの低減を図ることも可能となる。
【0023】
ここで、電界放射装置10のガード電極32の改質処理を以下に説明する。まず、エミッタ支持部31の操作部35を操作して、エミッタ30を軸方向の一方側(エミッタユニット3側、
図5の右側)に向けて移動させる。これにより、エミッタ30はガード電極32から離間した無放電位置に移動し、電子発生部33の電界放射が抑制された状態にする。このとき、エミッタ30の電子発生部33とガード電極32の縁部36との両者は、互いに非接触の状態となる。この状態において、例えばガード電極32とグリッド電極22との間に所望の電圧を適宜印加することにより、ガード電極32において放電が繰り返され、当該ガード電極32が改質処理される。
【0024】
上記の改質処理の後は、再びエミッタ支持部31の操作部35を操作し、エミッタ30を無放電位置から軸方向の他方側(ターゲットユニット4側、
図5の左側)に向けて移動させ、ガード電極32と接触させて電子発生部33の電界放射が可能な放電位置にする。放電位置におけるエミッタ30の電子発生部33とガード電極32の縁部36は、例えば
図4や
図5に示すように互いに接触(例えば真空容器2の真空圧力で接触)した状態となる。放電位置では、エミッタ30の電子発生部33とガード電極32とが互いに同電位となる。放電位置において例えばエミッタ30とターゲット41との間に所望の電圧を印加すると、エミッタ30の電子発生部33から電子が発生して電子線L1が放出される。ガード電極32の表面に存在する突起から電子線L1が放出されることで突起が加熱されて融解して平滑化されることにより、ガード電極32の表面が改質される。
【0025】
以上示したような改質処理により、電界放射装置10においてガード電極32からの閃絡現象(電子の発生)等の事象を抑制することができ、電界放射装置10の電子発生量を安定させることができる。また、電子線L1を集束形電子束とすることができ、X線L2の焦点も収束し易くなり、高い透視分解能を得ることが可能となる。
【0026】
なお、エミッタ支持部31は、前述のようにエミッタ30を軸方向に対して移動可能に支持できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。また、エミッタ支持部31は、種々の材料を適用して構成することができ、特に限定されるものではないが、例えばステンレス(SUS材等)や銅、銀等のように導電性の金属材料を用いることができる。
【0027】
ベローズ34は、前述のように軸方向に伸縮可能であれば、種々の形態を適用することが可能であり、例えば薄板状金属材料等を適宜加工した成形品を用いることができる。また、ベローズ34は、例えば、エミッタ支持部31または操作部35の外周側を包囲するように軸方向に延在する蛇腹形状に構成されたものでもよい。
【0028】
ガード電極32は、真空室20の一方側にてターゲット41に対向する位置に配置される。ガード電極32は、ステンレス(SUS材等)等の金属材料の筒状電極(筒状体)であり、エミッタ30の電子発生部33の外周側に配置される。さらに、ガード電極32は、内周に向けて張り出すフランジ状の縁部36を備える。また、ガード電極32はフランジ状の縁部36の内側に開口部310を有する。また、ガード電極32は、第一収容部37とこれと連通する第二収容部38とを有する。第一収容部37はエミッタ30及びエミッタ支持部31を収容する。第二収容部38は、第一収容部37の一方側に位置しており、ベローズ34及び操作部35を収容する。また、この第二収容部38は、フランジ部39を介して真空容器2の絶縁部材21bの縁部に固定される。
【0029】
さらにガード電極32は、縁部36の開口部310に配置された電界遮へい体1を備える。実施形態1における電界遮へい体1は導体で形成され、改質処理のためにガード電極32とターゲット41の間に高電圧を印加した際に、エミッタ30にかかる電界を弱めることで、エミッタ30からの電子放出を抑制する機能を担う。
【0030】
電界遮へい体1は、ガード電極32と接続され、ガード電極32と同電位である。また、
図2に示すように電界遮へい体1は、軸方向の投影面上でガード電極32の開口部310と部分的に重なって配置され、例えば素線やワイヤーなどの線状部材で構成される。また、電界遮へい体1は、ガード電極32の開口部310を径方向に仕切る(分割する)形状に形成される。
【0031】
開口部310を径方向に仕切ることで、開口部310を複数の領域に分割することができる。また、電界遮へい体1は、導電性の金属材料を用いていればよく、例えば、鉄、ステンレス(SUS材等)、銅、銀等の材料で形成されるが、これに限らず種々の材料を適用することが可能である。ガード電極32と電界遮へい体1とは材質を合わせることが好ましいが、異なる導電性の金属材料を用いてもよい。実施形態1においては電界遮へい体1を一本(一個)として、ガード電極32の開口部310を2つの領域に仕切っている。しかし、これに限らず一本以上の複数の電界遮へい体1をガード電極32の開口部310に固定して、開口部310を2つ以上の領域に仕切ってもよい。
【0032】
また、電界遮へい体1は、素線またはワイヤー等の既存の部材に限られず、断面形状を円柱形状、楕円形状、扁平形状、または略矩形状に加工した導電性の金属材料を電界遮へい体1として使用してもよい。そして、この場合は素線やワイヤー等と同様に導電性の金属材料で電界遮へい体1を形成する。
【0033】
電界遮へい体1はガード電極32の開口部310の縁(開口縁部)に固定(接続)される。
図1、
図3に示すように、電界遮へい体1は、ガード電極32の縁部36の一方側(エミッタ30側、
図1及び
図3の下側)に配置されている。実施形態1では電界遮へい体1は、
図2に示しているように、電界遮へい体1の一端を開口縁部に当接させた状態で固定し、電界遮へい体1の他端は電界遮へい体1の一端と対向する位置にある開口縁部に当接させた状態で固定する。これにより、ガード電極32の開口部310は電界遮へい体1により径方向で仕切られ、開口部310の領域を2つに分割する。電界遮へい体1をガード電極32の開口縁部に固定する方法は電界遮へい体1が外れない固定方法であればよい。例えば、電界遮へい体1とガード電極32は機械的に接続若しくは接合されてもよいし、かしめや溶着等により固着されてもよく、または溶接等により固定されてもよい。
【0034】
電界遮へい体1は、一端と他端を開口縁部に固定する際に、素線またはワイヤー等を使用する場合は所定のテンションが掛かった状態で固定することが好ましい。電界遮へい体1が緩んだ状態で固定されてしまうと、後述する電子発生部33と接触した際に、電子発生部33を均等に押し付けられずにエッジ部33aの形成が不十分になり、エミッタ30からの電子放出を十分に向上できない恐れがある。また、電界遮へい体1は上記のようにガード電極32の開口縁部に固定されるが、電界遮へい体1とガード電極32とを一体で形成するようにしてもよい。
【0035】
(ターゲットユニット4)
ターゲットユニット4は、
図5に示したように、ターゲット41及びフランジ部42を備える。ターゲット41は、真空室20の他方側にてエミッタ30の電子発生部33に対向する位置に配置される。
【0036】
ターゲット41は、エミッタ30の電子発生部33に対向する部位に、軸方向に対して所定角度傾斜して形成された傾斜面40を有している。そして、この傾斜面40に電子線L1が衝突することにより、X線L2が放出される。X線L2は、電子線L1の照射方向から折曲した方向(例えば
図5に示している真空室20の横断面方向)に照射される。さらに、ターゲット41は、エミッタ30の電子発生部33から放出された電子線L1が衝突し、X線L2を放出できるものであれば、種々の形態を適用できる。フランジ部42は
図5に示したように真空容器2の絶縁部材21aの縁部に固定される。
【0037】
(本実施形態の作用効果)
上記したように、実施形態1の電界放射装置10は、操作部35によるエミッタ支持部31の操作により電子発生部33とガード電極32が互いに離間した状態で、ガード電極32に電圧が印加される。これにより、真空室20内の少なくともガード電極32を改質処理できると共に、電界放射装置10において所望の耐電圧が得られる。
【0038】
ここで、上記したように操作部35によるエミッタ支持部31の操作により電子発生部33とガード電極32が互いに離間する構成とした場合、電界放射装置10の小型化が可能となる。小型化をする上で、電界放射装置10の軸方向(長手方向)の寸法を短くし、ベローズ34やエミッタ支持部31を短小化させることが考えられる。しかしベローズ34やエミッタ支持部31を短小化した結果、エミッタ30の引き込み量が不足する可能性がある。エミッタ30の引き込み量が不足することでエミッタ30を最大限引き込んだにもかかわらず、電界放射装置10の改質処理に十分な電圧を印加するとエミッタ30から過剰に電子が放出されてエミッタ30が損傷してしまい、エミッタ30の損傷を抑えるために電圧を低く設定すると電界放射装置10の改質が不十分で所望の耐電圧を得ることができない恐れがある。
【0039】
これに対し、
図1や
図2等に示したように、ガード電極32の開口部310に電界遮へい体1を配置した電界遮へい構造によれば、エミッタ表面の電界が緩和され、エミッタ30からの電子放出が防止される。そのため、電界放射装置10を小型化するために電界放射装置10の軸方向の寸法を短くし、エミッタ30の引き込み量が少なくなる場合であっても、エミッタ表面電界の遮へいをすることが可能となる。以下に、実施形態1における電界遮へい構造について
図3及び
図4を参照して説明する。
【0040】
図3は、実施形態1の電界遮へい構造のエミッタ30の引き込み時(無放電位置)における概略断面図である。
図4は、実施形態1の電界遮へい構造のエミッタ30の押し出し時(放電位置)における概略断面図である。
【0041】
電界遮へい体1は、
図3に示すように、ガード電極32の開口部310の略中央(開口部310の径方向中心点を通る線上)に固定されることが好ましいが、固定する位置は任意であって構わない。また、上記したように電界遮へい体1は、ガード電極32の縁部36の一方側(エミッタ30側、
図3の下側)に配置される。具体的には、
図3に示すように電界遮へい体1は、ガード電極32の縁部36の他方側(
図3の上側)に臨む面36aよりも縁部36の一方側に臨む面36b側となるようにガード電極32の開口縁部に固定されることが好ましい。なお、h1は、軸方向における電界遮へい体1の高さ(長さ)を表しており、h2は、軸方向における電子発生部33の高さを表している。なお、電界遮へい体1に断面形状が丸形状の素線またはワイヤーを使用する場合は、h1は径の大きさである。
【0042】
エミッタ30の押し出し時には、
図4に示しているように、電子発生部33の一部はガード電極32の縁部36の一方側(
図4の下側)に臨む面36bに接触し、電子発生部33の当該接触箇所は押しつぶされる。この際に、電界遮へい体1にも電子発生部33は接触し、電界遮へい体1に接触している電子発生部33の接触箇所も押しつぶされる。電界遮へい体1により押しつぶされた際、電子発生部33の一部が仕切られ、電子発生部33にはエッジ部33aが形成される。電子発生部33にエッジ部33aが形成されることで、電子発生部33が電圧印加により電子を発生させて、電子線L1を放出する際に、エッジ部33aの電界集中により電子放出効率を向上することが可能となる。
【0043】
さらに、実施形態1においては、電子発生部33の高さh2より電界遮へい体1の高さh1を低く(小さく)することが好ましい。即ち、h2>h1となるように、電界遮へい体1及び電子発生部33の高さを設定する。ここで、それぞれの高さについて、
図4に示しているように、エミッタ30の押し出し時に電界遮へい体1の一部が電子発生部33の一端側(エッジ部33a側)より突出しないように(電界遮へい体1が電子発生部33に埋もれるように)それぞれの高さを設定することが望ましい。以上のように、実施形態1では、h2>h1として、さらに、エミッタ30の押し込み時に電界遮へい体1が電子発生部33の中に隠れる(埋もれる)ようにh1とh2のそれぞれの高さを設定する。これにより、電界遮へい体1を備える電界遮へい構造が与える放出電子軌道への影響を避けることが可能となる。
【0044】
以下に、実施形態1における電界遮へい構造の効果について
図6、
図7、
図8、
図11、
図12を参照して説明する。実施形態1における電界遮へい構造の効果を確認するため、
図6、
図7に示す実験モデル(試験体)5において解析面Xを電子放出部と仮定して電子解析を行った。
【0045】
図6は、実施形態1の電界遮へい構造がない場合を想定した試験モデルを示す図である。
図7は、実施形態1の電界遮へい構造がある場合を想定した試験モデルを示す図。
図8は、
図6及び
図7に示した試験モデル5によって実施した電子解析の結果を示す図である。
図8の縦軸は電界強度E(V/m)を示しており、
図8の横軸は解析面Xの水平方向位置(mm)を示している。また、
図8中の、「without shield」は、
図6の試験モデル5における解析結果を示しており、「with shield」は、
図7の試験モデル5における解析結果を示している。
【0046】
図11は、従来のエミッタユニットのガード電極の開口部周辺の概略断面図である。
図12は、
図11のエミッタユニットのガード電極の開口部周辺の概略平面図である。
図6の試験モデル5は、
図11、
図12に示すエミッタユニットのガード電極の開口部周辺を模している。そして、
図7の試験モデル5は、
図1、
図2等に示す実施形態1のエミッタユニット3のガード電極32の開口部310周辺を模している。
【0047】
上記した
図6及び
図7の試験モデル5を用いた電子解析では、スペーサー53によって2mmの間隔を空けた陽極51と陰極52の間に真空中で5kV印加した時の解析面の電界強度を解析している。また、開口部54は、ガード電極32の開口部310を模している。また、
図7における試験モデル5では、実施形態1と同様の電界遮へい体1を模した導体として電界遮へい体50を配置しており、実施形態1と同様の電界遮へい構造としている。なお、解析面Xはエミッタ30の引き込み時の模擬として、陰極表面から4mmくぼんだ位置(陰極表面から4mm低くなる位置)に配置した。前述した条件の下、それぞれの試験モデル5において同条件で電界強度の解析を行った結果を以下に説明する。
【0048】
実施形態1と同様の電界遮へい構造を有する
図7の試験モデル5での解析結果では、最も電界強度の強いX面中央部付近の電界強度が電界遮へい構造を有しない場合の解析結果と比べ、1/3以下となっている。したがって、実施形態1の電界遮へい構造による電界遮へい効果が確認できる。
【0049】
以上のように、電界放射装置に実施形態1の電界遮へい構造を用いることで、改質処理のときにエミッタ30にかかる電界を弱め、エミッタ30からの電子放出によるエミッタ30の損傷が抑制される。これにより、所望のエミッタ30の引き込み量とならない(エミッタ30の引き込み量が少なくなる)場合でも、エミッタ表面電界を遮へいすることが可能となり、充分に高い電圧をターゲット41とガード電極32の間に印加して改質処理を施すことにより所定の耐電圧を得ることができる。
【0050】
[実施形態2]
図9は、実施形態2の電界放射装置10における電界遮へい構造の概略平面図である。実施形態2では、電界遮へい体1が格子状(メッシュ状)に配置された素線またはワイヤーで形成される以外は、実施形態1の電界放射装置10と同様の構成であるため、同様の点については詳細説明を適宜省略して説明する。
【0051】
実施形態2における電界遮へい体1は、導体であって素線またはワイヤーなどの線状部材を格子状となるように所定の間隔で織り込む(編み込む)ように形成する。電界遮へい体1が格子状に織り込まれていれば電界遮へい体1の形成方法はいずれでもよい。また、当該所定の間隔は任意の間隔であってよく、例えばそれぞれの素線又はワイヤーが等間隔若しくは不揃いの間隔となるように織り込んでもよい。また、素線とワイヤーをそれぞれ使用する場合は、それぞれを組み合わせて格子状に織り込んでもよい。このように、電界遮へい体1を格子状とすることで、電界遮へい構造を構成する電界遮へい体1の強度(物理的強度)を向上させることができる。
【0052】
また、実施形態2の電界遮へい体1は、格子状にするために使用する素線またはワイヤーの径、数、それぞれの位置間隔は任意に構成することができる。これにより電界放射装置10の必要な出力に応じて、電界遮へい体1を形成することができる。
【0053】
また、実施形態2の電界遮へい体1をガード電極32の開口縁部に固定する際に、取り外し可能に構成するようにしてもよい。この場合、格子状にするために使用する素線またはワイヤーの径、数、それぞれの位置間隔が異なる複数の電界遮へい体1を用意し、電界放射装置10の必要な出力に応じて、電界遮へい体1を交換することができる。これにより、電界放射装置10の出力を制御することも可能となる。なお、実施形態2における電界遮へい体1の材料及びガード電極32の開口縁部への固定方法は実施形態1と同様である。
【0054】
また実施形態2の電界遮へい体1は格子状であるため、エミッタ30の引き込みにより電子発生部33を押しつぶして形成されるエッジ部33aは実施形態1より多く形成される。そのため、電子発生部33が電圧印加により電子を発生させて、電子線L1を放出する際に、エッジ部33aの電界集中により電子放出効率を実施形態1より向上させることができる。
【0055】
以上のように、電界遮へい体1を格子状に構成することで、実施形態1の効果に加えて、電界遮へい体1の強度が高まり、さらに複数のエッジ部33aの電界集中により電子放出効率を実施形態1より向上させることができる。
【0056】
[実施形態3]
図10は、実施形態3の電界放射装置10における電界遮へい構造の概略平面図である。実施形態3では、電界遮へい体1が複数の貫通孔を備えた板状に形成される以外は、実施形態1の電界放射装置10と同様の構成であるため、同様の点については詳細説明を適宜省略して説明する。
【0057】
実施形態3における電界遮へい体1は、平坦な板状に形成された導体板を使用する。そして実施形態3における導体板には、複数の貫通孔が形成される。また、実施形態3における電界遮へい体1として導体板以外に導体箔を用いてもよい。このように平坦な板状の電界遮へい体1を用いることで、エミッタ30の引き込みにより電界遮へい体1が電子発生部33を押しつぶした際にエミッタ表面電界が実施形態1より均一となる。エミッタ表面電界が均一となることで、電子発生部33から発生される電子放出が実施形態1より安定する。即ち、電子発生部33の出力のばらつきを低減することが可能となる。
【0058】
また、実施形態3における電界遮へい体1は複数の貫通孔を備えているため、形成されるエッジ部33aは、実施形態1より多く形成される。そのため、電子発生部33が電圧印加により電子を発生させて、電子線L1を放出する際に、エッジ部33aの電界集中により電子放出効率を実施形態1より向上させることができる。
【0059】
また、実施形態3の電界遮へい体1における複数の貫通孔は任意の間隔で形成することが可能であり、例えば、等間隔や不揃いの間隔であってもよい。また、電界遮へい体1における貫通孔の径の大きさも任意とすることができる。例えば、それぞれの孔の径を全て同じ径にしてもよいし、それぞれ孔の径を異なる径としてもよい。また、電界遮へい体1の貫通孔の形状も実施形態3では丸形状としているが、これに限らず、貫通孔の形状を略矩形状としてもよいし、多角形状としてもよい。また、貫通孔の数はガード電極32の開口部310のサイズと貫通孔の径に応じて加工する数を決める。即ち、電界遮へい体1の貫通孔の数も任意とすることができる。
【0060】
このように、電界遮へい体1の貫通孔の径、間隔、形状、数を任意に構成することができる。これにより電界放射装置10の必要な出力に応じて、電界遮へい体1を形成することができる。また、実施形態3の電界遮へい体1をガード電極32の開口縁部に固定する際に、取り外し可能に構成するようにしてもよい。この場合、電界遮へい体1の貫通孔の径、間隔、形状、数が、それぞれまたは一部異なる複数の電界遮へい体1を用意し、電界放射装置10の必要な出力に応じて、電界遮へい体1を交換することができる。これにより、電界放射装置10の出力を制御することも可能となる。
【0061】
なお、実施形態3の電界遮へい体1の外周の大きさは、ガード電極32の開口部310の外周寸法(外径)より小さい外周寸法となるように形成する。これにより、ガード電極32の開口部310の内部側に挿入することができ、ガード電極32の縁部36における他方側に臨む面36aよりも一方側に臨む面36bに近接するようにガード電極32の開口縁部に電界遮へい体1を固定することが可能となる。なお、実施形態3における電界遮へい体1の材料及びガード電極32の開口縁部への固定方法は実施形態1と同様である。
【0062】
以上のように、電界遮へい体1を板状に構成し複数の貫通孔を形成することで、実施形態1の効果に加えて電界遮へい体1の強度が高まり、さらにエミッタ表面電界が均一となり電子発生部33の出力のばらつきを低減することができる。さらに複数のエッジ部33aの電界集中により電子放出効率を実施形態1より向上させることができる。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 電界遮へい体
30 エミッタ
31 エミッタ支持部
32 ガード電極
33 電子発生部
36 縁部
36a 縁部の他方側に臨む面
36b 縁部の一方側に臨む面
310 開口部