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特開2023-74480ヒト血清アルブミン結合性を有するNOラジカル放出型抗がん剤としてのニトロ化誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074480
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ヒト血清アルブミン結合性を有するNOラジカル放出型抗がん剤としてのニトロ化誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07C 291/00 20060101AFI20230522BHJP
   A61K 31/222 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C07C291/00 CSP
A61K31/222
A61P1/04
A61P1/18
A61P11/00
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179687
(22)【出願日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021186742
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】西 弘二
(72)【発明者】
【氏名】山崎 啓之
(72)【発明者】
【氏名】井本 修平
(72)【発明者】
【氏名】小田切 優樹
(72)【発明者】
【氏名】別府 拓豪
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206EA06
4C206FA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA59
4C206ZA66
4C206ZB26
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒト血清アルブミン(HSA)結合性化合物をベースとしたニトロ化誘導体の提供。
【解決手段】下記化学式;

で表されることを特徴とする化合物(式中、m、nはそれぞれ1から7の整数で表され、Rは、下記のR1、R2、R3のいずれかで示される)。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1で表される化合物であって,
(式中,m,nはそれぞれ1から7の整数で表される)
【化1】
Rが,下記R1,R2,R3のいずれかで表される化合物。
【化2】
【請求項2】
mが1から5の整数で表される請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
nが,1から3の整数で表される請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
m,nのいずれもが1で表される請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載される化合物を有効成分とするがん治療薬。
【請求項6】
前記がんが,すい臓がん,肺がん,大腸がんのいずれかから選択される請求項5に記載のがん治療薬。
【請求項7】
前記化合物が,アルブミンと結合した複合体からなる請求項5に記載のがん治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ヒトの体内において,NOラジカルを発生させ,がん細胞を死滅させることをメカニズムとする化合物,ならびにこれを有効成分とするがん治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは,医療が発達した現代においても,治療が困難な疾患の一つであり,さらなる治療方法の開発が望まれている。
その中で,ニトロ化合物によるラジカル放出をメカニズムとしてがん細胞を死滅させ治療効果を発揮する化合物が報告されている(非特許文献1から3)。
しかるに,報告されているニトロ化合物は,短い血中半減期や化合物の不安定性などが原因で,医薬品としての十分な抗がん効果の発揮には至らず,臨床応用されているものはないのが現状である。
【0003】
一方,発明者らは,ニトロ化フェニル酪酸誘導体に関する特許出願を行っている(特許文献1)。
ニトロ化フェニル酪酸誘導体は,生体内において,アルブミンに結合して複合体を形成する。この複合体は,腫瘍組織ないし腫瘍組織周辺に集積し,腫瘍環境(低酸素,低pH)により,化合物中のニトロ基がNO2 -からNOラジカルに変換される。このNOラジカルにより,腫瘍細胞および周辺の繊維組織に作用し,アポトーシスを誘導することにより,抗がん作用を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-116259号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kashfi et al., J Pharmacol Exp Ther. 2002
【非特許文献2】Hungenin et al., Mol. Cnacer Ther. 2004
【非特許文献3】Rcciotti et al., J Immunol. 2010
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは,ニトロ化フェニル酪酸誘導体の知見から,血中でヒト血清アルブミン(HSA)に高い結合性を有し,組織への移行を制御されていることが知られている化合物(以下,「HSA結合性化合物」)に着目して,研究を開始したものである。
上記事情を背景として,本発明では,HSA結合性化合物をベースとしたニトロ化誘導体の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは,鋭意研究の結果,様々なHSA結合性化合物の中からイブプロフェン,ジクロフェナク,バルプロ酸,これらを選択し,ニトロ化化合物を導入したニトロ化誘導体の開発に成功するとともに,これらニトロ化誘導体が癌細胞を死滅させる効果を有することを見出し,発明を完成させたものである。
【0008】
本発明は,以下の構成からなる。
[1]下記化1で表される化合物であって,
(式中,m,nはそれぞれ1から7の整数で表される)
【化1】
Rが,下記R1,R2,R3のいずれかで表される化合物。
【化2】
【0009】
[2]mが1から5の整数で表される[1]に記載の化合物。
[3]nが,1から3の整数で表される[1]に記載の化合物。
[4]m,nのいずれもが1で表される[1]に記載の化合物。
【0010】
[5][1]から[4]のいずれかに記載される化合物を有効成分とするがん治療薬。
[6]前記がんが,すい臓がん,肺がん,大腸がんのいずれかから選択される[5]に記載のがん治療薬。
[7]前記化合物が,アルブミンと結合した複合体からなる[5]に記載のがん治療薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明により,発明では,HSAに高い結合性を有する化合物をベースとしたニトロ化誘導体の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】NIBの合成方法を示した図。
図2】NIBのNMR分析結果を示した図。
図3】NIBのHSAの結合性を調べた結果を示した図。
図4】NIBのNOラジカル放出能を調べた結果を示した図。
図5】NIBのすい臓がん細胞へのアポトーシス誘導能を調べた結果を示した図。
図6】NIBのアポトーシス誘導能を,PARPの分解物を指標として調べた結果を示した図。
図7】ニトロ化ジクロフェナクのNMR分析結果を示した図。
図8】ニトロ化ジクロフェナクのNOラジカル放出能を調べた結果を示した図。
図9】ニトロ化ジクロフェナクのすい臓がん細胞への細胞死滅効果を調べた結果を示した図。
図10】ニトロ化ジクロフェナクのアポトーシス誘導能を,PARPの分解物ならびにcaspase-3を指標として調べた結果を示した図。
図11】ニトロ化バルプロ酸のNMR分析結果を示した図。
図12】ニトロ化バルプロ酸のNOラジカル放出能を調べた結果を示した図。
図13】ニトロ化バルプロ酸のすい臓がん細胞への細胞死滅効果を調べた結果を示した図。
図14】ニトロ化バルプロ酸のアポトーシス誘導能を,PARPの分解物ならびにcaspase-3を指標として調べた結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について,説明を行う。
本発明の化合物は,下記化1で表される化合物であって,
(式中,m,nはそれぞれ1から7の整数で表される)
【化1】
Rが,下記R1,R2,R3のいずれかで表されることを特徴とする。
【化2】
【0014】
また,本発明の化合物は,下記化3により,製造される。
【化3】
【0015】
RがR1の場合,イブプロフェンをHSA結合性化合物とする誘導体(ニトロ化イブプロフェン)であり,下記化4で表される。
【化4】
また,ニトロ化イブプロフェンの最も好ましい態様として,下記化5にて表される。
【化5】
【0016】
RがR2の場合,ジクロフェナクをHSA結合性化合物とする誘導体(ニトロ化ジクロフェナク)であり,下記化6で表される。
【化6】
また,ニトロ化ジクロフェナクの最も好ましい態様として,下記化7にて表される。
【化7】
【0017】
RがR3の場合,バルプロ酸をHSA結合性化合物とする誘導体(ニトロ化バルプロ酸)であり,下記化8で表される。
【化8】
また,ニトロ化バルプロ酸の最も好ましい態様として,下記化9にて表される。
【化9】
【0018】
下記化1の化合物は,HSA結合性化合物を基本構造として誘導体化されたものであり,HSA結合性化合物が有するアルブミン結合能と,ニトロ基が有するラジカル発生能を備えるものである。
【化1】
すなわち,下記のメカニズムに基づき,がん治療効果を発揮するものである。
(1) 本発明の化合物は,HSA結合性化合物と同様,HSAに対する結合能を有する。
(2) 本発明の化合物はHSAと結合することで複合体を形成し,この複合体が腫瘍組織ないしこれの周辺に集積する。
(3) 腫瘍環境(低酸素,低pH)により,化合物中のニトロ基が,NO2 -からNOラジカルに変換され,腫瘍細胞を死滅させる。
(4) ニトロ化イブプロフェン(R1),ニトロ化バルプロ酸(R3)については,腫瘍細胞および周辺の繊維組織に作用し,アポトーシスを誘導する。
【0019】
式中mは,HSAに結合するためのHSA結合部位Rと,NOラジカルを発生させるためのアルキルニトロ化ベンジル,これらをつなぐためのアルキル鎖として機能するものである。
式中mは,これらの機能を害さず,かつ,化合物全体として大きくなり過ぎない限り特に限定する必要はなく,任意の整数として決定することができる。式中mは,好ましくは1から7の整数とすることができ,より好ましくは1から5の整数,さらに好ましくは1から3の整数,最も好ましくは1の整数とすることができる。
【0020】
式中nは,芳香環とニトロ基をつなぐためのアルキル鎖として機能するものである。
式中nは,これらの電子的バランスを損なわず,かつ,化合物全体として大きくなりすぎない限り特に限定する必要はなく,任意の整数として決定することができる。
式中nは,好ましくは1から7の整数とすることができ,より好ましくは1から5の整数,さらに好ましくは1から3の整数,最も好ましくは1の整数とすることができる。
【0021】
本発明の化合物は,がんを治療するための有効成分として用いることができる。すなわち,本発明の化合物を有効成分として,抗がん剤として構成することができる。また,本発明の化合物とアルブミンを非共有的に結合させた複合体を有効成分として構成することもできる。
これらがん治療薬としての使用については,がんである限り特に限定する必要はないが,好ましくは,低血流および低酸素状態を惹起する固形がんに用いることができる。このようながんとして,例えば,すい臓がん,肺がん,大腸がんなどが挙げられる。
【0022】
また,本発明の化合物を有効成分として用いる際は,そのままの化学形で用いてもよいし,塩として用いてもよい。また,本発明の化合物を有効成分として用いる際は,種々の添加物を含む組成物とすることができる。このような添加物として,例えば,賦形剤,安定化剤,酸化防止剤,pH調整剤などが挙げられる。
【実施例0023】
本発明のニトロ化誘導体化合物について,詳述する。
【0024】
<<実験例1,ニトロ化イブプロフェン,NIBの合成>>
1.Ibuprofen (174 mg,0.846 mmol),ならびに4-(hydroxymethyl)benzyl nitrate (310 mg,1.69 mmol)を加え溶解させたクロロホルム溶液に, N,N‘-Dicyclohexylcarbodiimide (261 mg,1.27 mmol)と4-Dimethylaminopyridine (10 mg,0.0846 mmol)を加え,室温で3時間撹拌することにより,反応を行った。
2.反応溶液をジクロロメタンにて希釈した後,飽和重曹水と飽和食塩水にて順に洗浄し,有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥した。
3.ろ過後,減圧下溶媒を留去し,中圧フラッシュクロマトグラフィーにて精製し,目的物を無色油状物質として176 mg (0.474 mmol,収率56%)得た。
4.得られた無色油状物質について,1H/13C-NMR(図2),ESI-MS(M+Na cal.=394.16 found=394.15 )により測定を行い,NIBであることを確認した。
【0025】
<<実験例2,HSAにおける結合性の確認>>
1.HSAのSite Iの蛍光プローブとしてWarfatin(WF),Site IIの蛍光プローブとしてDansylsarcosine(DNSS)を用い,NIBがどの程度,これらの蛍光プローブを置換するかを,IBと比較することで検討を行った。
【0026】
2.結果を,図3に示す。
(1) WFの検討において,NIBは,HSAに対する比率を増加させても蛍光度は変化しなかった。同様に,IBも,蛍光度の変化は見られなかった。すなわち,NIBならびにIBは,WFの結合を置換するものではなかった。
(2) 一方,DNSSの検討において,NIBは,HSAに対する比率を増加させるとその蛍光は低下していった。同様に,IBも蛍光度の低下がみられた。すなわち,NIBならびにIBは,DNSSの結合を競合的に置換することが分かった。
(3) これらの結果から,NIBは,HSAのSite Iには結合せず,Site IIに結合することが示された。すなわち,NIBは,IBと同様のHSA結合機序を保持していることが示された。
【0027】
3.HSAに対するIBの結合特性を定量的に測定し,IBの結合定数および結合部位数を算出した(表1)。
(1) IB単独の結合定数が2.11±0.65(106M-1)に対し,NIBを添加することで結合定数は0.49(106M-1)まで低下した。
(2) さらに,算出された結合部位数は,IB単独の場合が0.98±0.07に対し,NIB添加により1.30±0.15であった。
(3) これらの結果から,NIBは,Site IIにおいて,IBと競合的に結合することが分かった。すなわち,この結果からも,NIBは,IBと同様のHSA結合機序を保持していることが示された。
【0028】
【表1】
【0029】
<<実験例3,NIBからの硝酸・亜硝酸イオンの遊離の検討>>
1.NIBを水溶液に溶解させた後,水溶液中に遊離した硝酸・亜硝酸イオン(NOx)の濃度を測定した結果を図4に示す。
2.NIBは,溶解直後にNOX濃度が17μMに達し,以降,24時間後,48時間後,いずれも13μM前後であった。
3.これらの結果から,NIBは,水溶液に溶解後,速やかにNOXを放出することが明らかとなった。
【0030】
<<実験例4,NIBの膵がん細胞に対する細胞死誘導効果の検討>>
1.ヒト膵臓がん細胞株として,BxPC3細胞を用いて,NIBの細胞死誘導効果ついて評価を行った。すなわち,BxPC3細胞を,NIBを所定の条件で含む培地で培養を行い,培養終了後の総細胞数に対するアネキシン陽性細胞(アポトーシス細胞)数の比率を求めることにより,評価を行った。比較対象として,同濃度のIBを含む培地を用いた。
【0031】
2.NIBの時間依存性を調べた結果を図5(A)に示す。なお,縦軸の値については,NIBないしIBのいずれも含まない条件で培養した場合のアポトーシス細胞数を1とし,これに対する相対値で算出している。
(1) NIBにおいて,培養時間時間が増加するごとに,アポトーシス細胞は増加していた。(2) 一方,IBでは,アポトーシス細胞が増加する傾向はみられず,24時間経過後も,低い値のままであった。
【0032】
3.NIBの濃度依存性を調べた結果を,図5(B)に示す。
(1) NIBの濃度が増加するごとに,アポトーシス細胞の比率は増加していた。
【0033】
4.NIBのアポトーシス誘導効果を調べた結果を,図6に示す。
(1) NIBを含む培地で3時間または6時間培養後,細胞を回収し,細胞内に含まれるPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)発現量およびその分解物について,ウェスタンブロッティング法により解析を行った。
(2) NIBにおいて,6時間が経過すると,PARPの分解物が明瞭に検出された。一方,NIBを含まない比較対象であるDMSOでは,PARPは検出されなかった。
(3) この結果から,NIBがBxPC3細胞において,アポトーシスを誘導していることが確認された。
【0034】
<<NIBに関するまとめ>>
1.NIBは,IBと同様,HSAのSite Iには結合せず,Site IIに結合することが明らかとなった。
2.NIBは,溶解後,速やかにNOXを放出することが分かった。
3.NIBは,膵がん細胞において,濃度依存的,時間依存的に,アポトーシスを誘導することが分かった。
4.これらの知見から,NIBは,癌細胞に対して,有意な効果を示すだけでなく,アルブミン結合性を有することで,血中滞留性(作用持続性)および腫瘍集積性を併せ持つNOラジカル放出型抗がん剤として有用であることが示された。
【0035】
<<実験例5,ニトロ化ジクロフェナクの合成>>
1.室温にて,Dichlofenac (1.09 g, 3.69 mmol)と4-(hydroxymethyl)benzyl nitrate (901 mg, 4.92 mmol)のジクロロメタン溶液に, N,N’-Dicyclohexylcarbodiimide (761 mg, 3.69 mmol)と4-Dimethylaminopyridine (10 mg, 0.0846 mmol)を加え,室温で一昼夜撹拌した。
2.反応溶液をジクロロメタンにて希釈した後,不要物をろ過にて取り除き,減圧下溶媒を留去した。中圧フラッシュクロマトグラフィーにて精製し,目的物を846 mg (0.565 mmol, 収率49.7%)得た。
3.得られた無色油状物質について,1H/13C-NMR(図7)により測定を行い,ニトロ化ジクロフェナクであることを確認した。
【0036】
<<実験例6,ニトロ化ジクロフェナクからの硝酸・亜硝酸イオンの遊離の検討>>
1.ニトロ化ジクロフェナク200μMを水溶液に溶解させた後,水溶液中に遊離した硝酸・亜硝酸イオン(NOx)の濃度を測定した結果を図8に示す。
2.ニトロ化ジクロフェナクは,溶解直後にNOX濃度が25μMに達し,以降,24時間後25μM,48時間後30μM,72時間後32μMであった。
3.これらの結果から,ニトロ化ジクロフェナクは,水溶液に溶解後,速やかにNOXを放出するとともに,経時的に,NOX濃度が漸増していくことが明らかとなった。
【0037】
<<実験例7,ニトロ化ジクロフェナクの膵がん細胞に対する細胞死誘導効果の検討>>
1.実験例4に準じ,ヒト膵臓がん細胞株として,BxPC3細胞を用いて,ニトロ化ジクロフェナクの細胞死誘導効果ついて評価を行った。
【0038】
2.ニトロ化ジクロフェナクの濃度依存性を調べた結果を,図9に示す。ニトロ化ジクロフェナク濃度が増加すればするほど,死滅する細胞数が増加する傾向にあった。
【0039】
3.ニトロ化ジクロフェナクのアポトーシス誘導効果を調べた結果を,図10に示す。
(1) ニトロ化ジクロフェナクのいずれの濃度においてもPARPの分解物は,ニトロ化ジクロフェナクを含まないコントロールのバンドと,変化がなかった。
(2) また,Caspase-3においても同様に,ニトロ化ジクロフェナクを含まないコントロールのバンドと,変化がなかった。
(3) これらの結果から,ニトロ化ジクロフェナクがBxPC3細胞において,アポトーシスは関与しないと考えられた。
【0040】
<<ニトロ化ジクロフェナクに関するまとめ>>
1.ニトロ化ジクロフェナクは,溶解後,速やかにNOXを放出することが分かった。
2.ニトロ化ジクロフェナクは,膵がん細胞を濃度依存的に死滅させること,ならびに,その機序についてはアポトーシスは関与しないことが分かった。
3.これらの知見から,ニトロ化ジクロフェナクは,癌細胞に対して,有意な効果を示すだけでなく,アルブミン結合性を有することで,血中滞留性(作用持続性)および腫瘍集積性を併せ持つNOラジカル放出型抗がん剤として有用であることが示された。
【0041】
<<実験例8,ニトロ化バルプロ酸の合成>>
1.室温にて,Valproic acid (122 mg, 0.846 mmol)と4-(hydroxymethyl)benzyl nitrate (310 mg, 1.69 mmol)のジクロロメタン溶液に, N,N’-Dicyclohexylcarbodiimide (261 mg, 1.27 mmol)と4-Dimethylaminopyridine (10 mg, 0.0846 mmol)を加え,室温で一昼夜撹拌した。
2.反応溶液をジクロロメタンにて希釈した後,不要物をろ過にて取り除き,減圧下溶媒を留去した。中圧フラッシュクロマトグラフィーにて精製し,目的物を175 mg (0.565 mmol, 収率66.8%)得た。
3.得られた無色油状物質について,1H/13C-NMR(図11)により測定を行い,バルプロ酸であることを確認した。
【0042】
<<実験例9,ニトロ化バルプロ酸からの硝酸・亜硝酸イオンの遊離の検討>>
1.ニトロ化バルプロ酸200μMを水溶液に溶解させた後,水溶液中に遊離した硝酸・亜硝酸イオン(NOx)の濃度を測定した結果を図12に示す。
2.ニトロ化バルプロ酸において,溶解直後にNOX濃度が38μMに達し,以降,40μM弱の濃度で推移していた。
3.これらの結果から,ニトロ化バルプロ酸は,水溶液に溶解後,速やかにNOXを放出するとともに,一定程度のNOXの濃度が維持されることが明らかとなった。
【0043】
<<実験例10,ニトロ化バルプロ酸の膵がん細胞に対する細胞死誘導効果の検討>>
1.実験例4に準じ,ヒト膵臓がん細胞株として,BxPC3細胞を用いて,ニトロ化バルプロ酸の細胞死誘導効果ついて評価を行った。
【0044】
2.ニトロ化バルプロ酸の濃度依存性を調べた結果を,図13に示す。ニトロ化バルプロ酸の濃度が増加すればするほど,死滅する細胞数が増加する傾向にあった。
【0045】
3.ニトロ化バルプロ酸のアポトーシス誘導効果を調べた結果を,図14に示す。
(1) ニトロ化バルプロ酸の300μM,400μMの濃度において,PARP分解物のバンドが明瞭に検出された。
(2) また,Caspase-3においても同様に,300μM,400μMの濃度において,caspase-3のバンドが明瞭に検出された。
(3) これらの結果から,ニトロ化バルプロ酸がBxPC3細胞において,アポトーシスを誘導していることが確認された。
【0046】
<<ニトロ化バルプロ酸に関するまとめ>>
1.ニトロ化バルプロ酸は,溶解後,速やかにNOXを放出することが分かった。
2.ニトロ化ジクロフェナクは,膵がん細胞において,濃度依存的,アポトーシスを誘導することが分かった。
3.これらの知見から,ニトロ化バルプロ酸は,癌細胞に対して,有意な効果を示すだけでなく,アルブミン結合性を有することで,血中滞留性(作用持続性)および腫瘍集積性を併せ持つNOラジカル放出型抗がん剤として有用であることが示された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14