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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074503
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】電子線照射による非破壊膜厚計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/02 20060101AFI20230522BHJP
【FI】
G01B15/02 B
G01B15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183564
(22)【出願日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2021187429
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519170830
【氏名又は名称】株式会社T・N・Jホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】514168843
【氏名又は名称】地方独立行政法人京都市産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100212255
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 将之
(72)【発明者】
【氏名】二九 規長
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 智樹
【テーマコード(参考)】
2F067
【Fターム(参考)】
2F067AA27
2F067BB16
2F067DD02
2F067DD06
2F067DD07
2F067EE03
2F067HH06
2F067JJ03
2F067KK02
2F067LL00
(57)【要約】
【課題】 膜厚1μmを超える対象の膜厚を、複雑形状や微小領域であっても、非破壊測定可能な手法を提供することを目的とする。
【解決手段】電子線を照射することで母材に含まれる元素から生じる特性X線(Kα線)の強度が母材表面の薄膜の厚さと特定厚さ範囲において相関関係を有することから、電子線を利用した方法によって膜厚1μmを超える対象の膜厚測定が可能であることを見出し、本発明をなした。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と母材表面に厚さ1~10μmの薄膜を備えた対象における当該薄膜の厚さを測定する方法であって、加速した電子線を対象表面に照射し、それによって発生した母材中の元素のKα線の強度を検出器によって測定し、前記で測定した母材中の元素のKα線の強度から薄膜の膜厚を算出することを特徴とする、膜厚測定方法。
【請求項2】
電子線が10~50kVに加速されることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
電子線の照射が、電子線マイクロアナライザー(EPMA)または検出器を備えた走査型電子顕微鏡を用いて行われることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項4】
対象の膜厚が1~8μmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
母材中の元素が、母材中に分子量で最も多く含まれる元素かつ/または母材中には含まれるが薄膜中には含まれない元素であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
検出器が、波長分散型X線検出器であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
対象の膜の密度が、2~11g/cmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
予め、膜厚が既知の試料を複数用いて、母材中の元素の特性X線強度と膜厚の関係を表す検量線を作製する工程を含む、請求項1に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)または走査型電子顕微鏡などを用いて電子線を対象に照射することによる膜厚の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品や工具など、母材上に薄膜を形成された部品または製品が数多く存在する。これらの部品または製品の消耗は、しばしば薄膜の摩耗、欠け、割れ等が原因である。したがって、膜の状態、とりわけ膜の厚さ(膜厚)を確認するための手法が必要である。なかでも、非破壊的に膜の状態を確認することが、検査後の部品または製品の利用再開のために必要とされる。
【0003】
かかる非破壊膜厚計測のための手法として、蛍光X線を利用した方法(非特許文献1および2)と、電子線を利用した方法(特許文献1~3、非特許文献3)が存在する。前者は、比較的ビームサイズが大きく局所的な測定や複雑形状の測定には不向きであること、窒素、炭素、酸素、アルミニウムおよびケイ素などの一部の元素の検出に不向きであること、密度の情報が必須であり未知の膜の分析にはEPMAなどの成分分析が必要となることなどの問題がある。後者については、既存の方法はいずれも対象に電子線ビームを照射したときに生じる膜に含まれる元素の特性X線を検出する手法であって、約1μm未満の極薄膜にのみ利用可能であること、膜の密度の情報が必要であること、反射電子によるキャリブレーションが必要であること、膜と母材に同じ元素が含まれている場合には測定が困難であることなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-104178号公報
【特許文献2】特開2005-345163号公報
【特許文献3】特開2000-161939号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】濱口, あいち産業科学技術総合センターニュース 2021 年6 月号, p4
【非特許文献2】佐藤, 表面技術 220, p32-37
【非特許文献3】高橋ら, Journal of Surface Analysis Vol.9 No.2, 2002, p192-202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする主たる課題は、窒化クロム(CrN)、窒化チタン(TiN)、窒化アルミニウム(AlN)などのいわゆるセラミックスコーティングにおいて膜厚がしばしば1μmを超えてしまい従来の電子線を利用した膜厚測定方法が適用できず、一方で蛍光X線を利用した膜厚測定方法では刻印部分や角などの複雑形状や微小領域に適用できないことに鑑みて、膜厚1μmを超える対象の膜厚を、複雑形状や微小領域であっても、非破壊測定可能な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来の手法が着目してきた膜に含まれる元素ではなく、母材に含まれる元素に着目した。すなわち、電子線を照射することで母材に含まれる元素から生じる特性X線(Kα線)の強度が母材表面の薄膜の厚さと特定厚さ範囲において相関関係を有することから、電子線を利用した方法によって膜厚1μmを超える対象の膜厚測定が可能であることを見出し、本発明をなした。
【0008】
したがって、第一に、本発明は、母材と母材表面に厚さ1~10μmの薄膜を備えた対象における当該薄膜の厚さを測定する方法であって、加速した電子線を対象表面に照射し、それによって発生した母材中の元素のKα線の強度を検出器によって測定し、前記で測定した母材中の元素のKα線の強度から薄膜の膜厚を算出することを特徴とする、膜厚測定方法を提供する。
【0009】
好ましい態様において、電子線は、10kV以上、例えば10~50kV、好ましくは15~30kVに加速する。また、電子線の照射は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)または検出器を備えた走査型電子顕微鏡を用いて行うことが好ましい。
【0010】
好ましい態様において、対象の膜厚は、1~10μm、より好ましくは1~8μmであるが、かかる厚さであると見込まれる場合に本発明の方法を用いてよいのであって、事前に厚さをしらなければ本発明の方法を用いてはならないという意味で理解してはならない。
【0011】
好ましい態様において、母材中の元素は、母材中に分子量で最も多く含まれる元素または母材中には含まれるが薄膜中には含まれない元素、より好ましくは、母材中に分子量で最も多く含まれる元素であってかつ薄膜中には含まれない元素である。典型的には、母材中の元素は例えばCo、Ni、Mo、Fe、Cu、Si、Mg、Zn、Alなど、とりわけFeまたはCuであり、薄膜中の元素は例えばCr、Ti、Al、Siなどである。
【0012】
好ましい態様において、検出器は、波長分散型X線検出器である。
【0013】
好ましい態様において、膜の密度は、2~11g/cm、例えば2.5~8g/cm、より好ましくは3~6g/cmである。
【0014】
さらに好ましい態様において、測定した母材中の元素のKα線の強度から薄膜の膜厚を算出するために、予め、膜厚が既知の試料を複数用いて、母材中の元素の特性X線強度と膜厚の関係を表す検量線を作製することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、従来の電子線を利用した膜厚測定方法では測定不可能であった1μm以上の薄膜の厚さの測定が可能となった。本発明の方法は、厳重な品質管理が必要な錠剤などの製造に用いる機械部品、例えば打錠機の臼および杵等の品質管理に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は対象に電子線を照射したときの模式図である。母材は鉄鋼材料、薄膜はCrNである。
図2図2はFe-Kαの特性X線強度(横軸:I/cps)とCrNの膜厚(縦軸:t/μm)の相関関係を示す検量線である。
図3図3はSEMで断面観察をして膜厚を計測した試料A(2.1μm)、B(3.0μm)およびC(3.6μm)について、断面観察結果とFe-Kαの特性X線強度から検量線により換算されたCrNの膜厚を比較したグラフである。左の黒棒が断面観察により求めた膜厚を示し、右のグレー棒が検量線により換算した膜厚を示す。
図4図4は打錠機杵の打錠面の中心線上の18か所について、Fe-Kαの特性X線強度から検量線により換算されたCrNの膜厚と同箇所のSEMによる断面観察結果の比較を示す。白丸が断面観察により求めた膜厚を示し、黒ひし形が検量線により換算した膜厚を示す。
図5図5は打錠機杵の打錠面の中心線上の19か所(ただし、9~11番目が刻印部分)について、Fe-Kαの特性X線強度から検量線により換算されたCrNの膜厚を示す。白四角が検出器4chの結果を、黒丸が検出器1chの結果を示す。
図6図6はFe-Kαの特性X線強度(横軸:I/cps)とCrの膜厚(縦軸:t/μm)の相関関係を示す検量線である。
図7図7はスパッタ時間15秒で製膜した膜厚未知のCrめっき試料について、表面粗さ計で実測したCrの膜厚とFe-Kαの特性X線強度から検量線により換算されたCrの膜厚を比較したグラフである。左の黒棒が表面粗さ計により求めた膜厚を示し、右のグレー棒が検量線により換算した膜厚を示す。
図8図8は、未使用の打錠機杵と使用済み打錠機杵それぞれの打錠面の中心線上の18か所について、Fe-Kαの特性X線強度から検量線により換算されたCrNの膜厚を示す。白丸が未使用杵の膜厚を示し、黒ひし形が使用前の杵の膜厚を示す。
図9図9は、未使用杵の端面(a)、未使用杵の端面から1mmの曲率部(b)、未使用杵の中心部(c)、使用済み杵の端面(d)、使用済み杵の端面から1mmの曲率部(e)および使用済み杵の中心部(f)のSEM観察結果を示す。
図10図10は、未使用の打錠機杵と使用済み打錠機杵それぞれの打錠面の中心線上の14か所について、Fe-Kαの特性X線強度から検量線により換算されたCrNの膜厚を示す。白丸が未使用杵の膜厚を示し、黒ひし形が使用前の杵の膜厚を示す。
図11図11は、未使用杵の端面(g)、未使用杵の端面から1mmの曲率部(h)、未使用杵の中心部(i)、使用済み杵の端面(j)、使用済み杵の端面から1mmの曲率部(k)および使用済み杵の中心部(l)のSEM観察結果を示す。
図12図12は、膜厚3.6μmのTiSiN試料(左)および膜厚3.2μmのTiAlN試料(右)について、Fe-Kαの特性X線強度を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第一の態様において、本発明は、母材と母材表面に厚さ1~10μmの薄膜を備えた対象における当該薄膜の厚さを測定する方法であって、加速した電子線を対象表面に照射し、それによって発生した母材中の元素のKα線の強度を検出器によって測定し、前記で測定した母材中の元素のKα線の強度から薄膜の膜厚を算出することを特徴とする、膜厚測定方法を提供する。
【0018】
電子線の照射手段とその原理については上記特許文献1~3および非特許文献3に詳述されている。これらの記述を引用により本明細書の一部とする。本発明において利用する重要な点としては、電子線の照射によって元素から特性X線が発生し、この特性X線の波長を検出することで元素を特定できることや、波長の強度から元素の定量を行うことができることが挙げられる。
【0019】
電子線は加速が行われるが、加速手段は当該技術分野において既知のいかなるものを用いてもよい。分析目的での電子線の加速は一般に、100kV以下、例えば10kV以上、例えば10~50kV、好ましくは15~30kVである。加速電圧を上げるほど電子線が表面の薄膜を透過して母材まで到達するため膜厚が厚くても測定が可能となるが、上げすぎると電子線によって生じる特性X線波長が飽和して定量的検出ができなくなるためである。かかる加速装置として適切なものの例としては、精密分析用装置、例えば電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)や走査型電子顕微鏡(SEM)である。
【0020】
本発明の測定方法が適用される対象は、母材と当該母材表面に薄膜を有する対象である。母材はどのようなものであってもよいが、例えばアルミニウム、亜鉛、銅、鉄、ケイ素、マグネシウムおよびそれらの合金、例えば2000番系アルミニウム合金、3000番系アルミニウム合金、4000番系アルミニウム合金、5000番系アルミニウム合金、6000番系アルミニウム合金および7000番系アルミニウム合金のようなアルミニウム合金、ZDC1およびZDC1のような亜鉛合金、ステンレス鋼(SUS)、合金工具鋼(SKD、SKS、SKTなど)、ハイス鋼、ハイテン鋼などのいわゆる合金鋼や炭素鋼のような鉄合金、ギルディングメタル、丹銅、黄銅、リン青銅、アルミニウム青銅、ベリリウム銅、洋白、白銅、砲金などの銅合金が含まれるが、これらに限定されない。母材表面の薄膜は、例えばDLCコーティングや、クロムメッキ、亜鉛メッキまたはニッケルメッキなどのメッキ、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミ(TiAlN)および窒化クロム(CrN)などの被膜蒸着、アルミニウム、亜鉛または母材金属などの金属酸化物被膜などを含むが、これらに限定されない。母材表面の薄膜は、塗装やメッキ、蒸着などどのような手段で母材表面に形成されたものであってもよい。膜厚は、1~10μm、より好ましくは1~8μmであるが、かかる厚さであると見込まれる場合に本発明の方法を用いてよいのであって、事前に厚さをしらなければ本発明の方法を用いてはならないという意味で理解してはならない。
【0021】
好ましい態様において、母材中の元素は、母材中に分子量で最も多く含まれる元素または母材中には含まれるが薄膜中には含まれない元素、より好ましくは、母材中に分子量で最も多く含まれる元素であってかつ薄膜中には含まれない元素である。分子量として最も多い元素は検出が容易であり、他元素から生じる特性X線からの影響を相対的に受けにくい。また、検出対象が母材中にも薄膜中にも含まれる元素であれば、必然的に母材および薄膜の両方の元素から生じる特性X線を検出してしまい、正確に母材中の元素のみから生じる特性X線を検出することができないため、好ましくない。典型的には、母材中の元素は例えばCo、Ni、Mo、Fe、Cu、Si、Mgなど、とりわけFeまたはCuであり、薄膜中の元素は例えばCr、Ti、Al、Siなどである。
【0022】
特性X線の検出器にはエネルギー分散型 (EDS)と波長分散型(WDS)があるが、エネルギー分解能や定量精度から波長分散型X線検出器が好ましい。検出器は装置内に1つであっても複数であってもよい。
【0023】
薄膜の膜の密度は、本発明の方法において必ず入力しなければならない項目ではないが、膜の密度が低いほど電子線が透過しやすくなり測定可能な膜厚が大きくなるため、対象の適格性にかかわる。加速電圧をたとえば10~50kVとすると、1μm~10μmの膜厚を測定するためには、膜の密度が、2~11g/cm程度であれば測定可能である。膜の密度は、例えば2.5~8g/cm、より好ましくは3~6g/cmである。より具体的にいえば、例えば加速電圧を15kVとすると、密度が4.8g/cmである薄膜は、1~5μmの範囲で測定可能であり、電圧を20kVまで加速すると同密度の薄膜は1~6μmの範囲で測定可能である。
【0024】
測定した母材中の元素の特性X線強度と母材表面の膜厚との相関関係は、実際に測定する前に予め、膜厚が既知の試料を複数、例えば1または0.5μm刻みで1~8μmまで8~16種類用意し、これらをSEMなどで断面観察して確認した実際の膜厚と、母材中の元素の特性X線強度とをプロットして、検量線を作製することができる。膜厚既知の試料は、市販のものを用いてもよいし、成膜装置などで自作してもよい。自作する場合には、これには限定されないが例えば、グロー放電発光分光分析装置(GD-OES)を用いて、スパッタ時間を変更することで膜厚を制御しながら作製することができる。
【0025】
測定対象の準備のため、膜厚測定前に対象の表面を洗浄したり、光学顕微鏡などで形状の観察をしたりすることもまた、自由になしうる。かかる事前準備は、当業者であれば適宜必要に応じて選択および実行できる。
【0026】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例0027】
検量線の作成
マトリックスハイスであるDRM2(大同特殊鋼)を母材として、約5μmのCrN膜を製膜した試料を用いた。グロー放電発光分光分析装置を用いたArスパッタリングによりスパッタ時間を5秒、10秒、15秒、20秒、25秒、30秒、35秒とすることで、それぞれ膜厚約1.0~5μmまでμmピッチになるように膜厚を制御した。次いで、各試料を、EPMA(日本電子、JXA-8230)によって加速電圧20kV、照射電流が5×10-7Aで電子線照射し、同装置備え付けの波長分散型X線検出器によってFe-Kαの特性X線強度を測定した。次いで、表面粗さ計を用いて、スパッタリングした箇所の段差を測定し、スパッタリングされた深さを求め、元の膜厚からスパッタリング深さを引き算することで、CrN膜の厚さを算出した。各試料のFe-Kαの特性X線強度と、表面粗さ計を用いて実測したCrN膜層の厚さをプロットし、多項式近似によって検量線を作製した。結果を図2に示す。
【0028】
膜厚未知試料の測定
SKH51を母材とし、CrN膜を表面に形成された膜厚未知の試料3つについて、各々上記検量線の作成と同じ条件で測定されたFe-Kαの特性X線強度から検量線によって換算される膜厚と、同試料の断面をSEMで実測したCrN膜層の膜厚を比較した。結果を図3に示す。両測定法の結果は良好(相関係数0.9以上)に一致した。
【実施例0029】
広範囲分析
マトリックスハイスであるDRM2(大同特殊鋼)を母材とし、CrN膜を表面に形成された打錠機杵の打錠面(直径8.4mmの円形)について、中心線の端から0.5mmずつ移動して、加速電圧20kV、照射電流5x10-7A、分析径20μmに設定したEPMAで18点のFe-Kα強度を測定した。全評価データから最小二乗法により傾きを求めて平均線を求めることで試料の傾きをレベリングした後、検量線によって各スポットのCrN膜厚を換算した。次いで、各試料の断面をSEMで観察して、CrN層の膜厚を実測した。結果を図4に示す。測定結果が極めて良く一致した。
【0030】
上記広範囲分析と同様にして、ただし打錠面の刻印部分が9~11番目のスポットになるように、EPMAによるCrN膜厚換算を行った。刻印部分には陰影が生じるため、検出器は1chと4chの2個を用いた。結果を図5に示す。刻印部分であっても他のスポットと同様にFe-Kα強度からCrN膜厚を換算できた。
【実施例0031】
Crめっき試料の測定
マトリックスハイスであるDRM2(大同特殊鋼)を母材として、約5μmのCrめっきを施した試料を用いた。グロー放電発光分光分析装置を用いたArスパッタリングによりスパッタ時間を5秒、10秒、15秒、30秒とすることで、それぞれ膜厚約1.0~5μmまでμmピッチになるように膜厚を制御した。次いで、各試料を、EPMA(日本電子、JXA-8230)によって加速電圧20kV、照射電流が5×10-7A、分析径20μmで電子線照射し、同装置備え付けの波長分散型X線検出器によってFe-Kαの特性X線強度を測定した。次いで、表面粗さ計を用いて、スパッタリングした箇所の段差を測定し、スパッタリングされた深さを求め、元の膜厚からスパッタリング深さを引き算することで、Crめっき膜の厚さを算出した。スパッタ時間が5秒、10秒および30秒の試料を用いて、各試料のFe-Kαの特性X線強度と、表面粗さ計を用いて実測したCrめっき層の厚さをプロットし、多項式近似によって検量線を作製した。結果を図6に示す。
【0032】
前段のスパッタ時間が15秒のCrめっき試料について、検量線の作成と同じ条件で測定しFe-Kαの特性X強度から検量線によって換算した膜厚と、表面粗さ計にて実測した膜厚とを比較した。結果を図7に示す。両者の比較の結果、良好な一致が見られた。
【実施例0033】
CrN膜杵の実測1
マトリックスハイスであるDRM2(大同特殊鋼)を母材とし、CrN膜を表面に形成された打錠機杵の打錠面(直径8.4mmの円形)の膜厚について、未使用杵と使用済み杵との間で比較を行った。使用済み杵としては、錠剤硬度6~7kNのMgO主体の錠剤について、打錠圧2200~2500kgfで約35万回の打錠を行った打錠機杵を用いた。各杵の中心線の端から0.5mmずつ移動して、EPMA(日本電子、JXA-8230)によって分析径20μm、加速電圧20kV、照射電流が5×10-7Aで電子線照射し、同装置備え付けの波長分散型X線検出器によって18点のFe-Kαの特性X線強度を測定した。図2の検量線を用いてCrN層の膜厚を換算した。結果を図8に示す。両端面の膜厚が使用の前後で著しく変化しているのに対して、中心部の膜厚は使用前後でほとんど変化が見られなかった。
【0034】
未使用杵と使用済み杵のそれぞれの端面、端面から1mmの曲率部および中心部の表面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。結果を図9に示す。未使用杵の端面(図9左上(a))と使用済み杵の端面(図9左下(d))とを比較すると、使用前後で著しい摩耗および欠損が確認できた。未使用杵の端面から1mmの曲率部(図9中上(b))と使用済み杵の端面(図9中下(e))とを比較すると、図8の測定結果では使用済み杵の膜厚は未使用杵よりも低かったにも拘わらず、写真上では差異が確認できなかった。さらに未使用杵の中心部(図9右上(c))と使用済み杵の中心部(図9右下(f))とを比較すると、使用前後で大きな差異が確認できなかった。これらの結果は、図8の膜厚測定結果と符合していた。
【0035】
CrN膜杵の実測2
マトリックスハイスであるDRM2(大同特殊鋼)を母材とし、CrN膜を表面に形成された打錠機杵の打錠面(直径6.5mmの円形)の膜厚について、未使用杵と使用済み杵との間で比較を行った。使用済み杵としては、錠剤硬度6~7kNのMgO主体の錠剤について、打錠圧550kgfで約16万回の打錠を行った打錠機杵を用いた。各杵の中心線の端から0.5mmずつ移動して、EPMA(日本電子、JXA-8230)によって分析径20μm、加速電圧20kV、照射電流が5×10-7Aで電子線照射し、同装置備え付けの波長分散型X線検出器によって14点のFe-Kαの特性X線強度を測定した。図2の検量線を用いてCrN層の膜厚を換算した。結果を図10に示す。両端面に加えて、中心部の膜厚が使用の前後で著しく変化していた。
【0036】
未使用杵と使用済み杵のそれぞれの端面、端面から1mmの曲率部および中心部の表面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。結果を図11に示す。未使用杵の端面(図11左上(g))と使用済み杵の端面(図11左下(j))とを比較する)とを比較すると、使用前後で大きな差異が確認できなかった。未使用杵の端面から1mmの曲率部(図11中上(h))と使用済み杵の端面から1mmの曲率部(図11中上(k))とを比較すると、使用前後で著しい摩耗および欠損が確認できた。さらに未使用杵の中心部(図11右上(i))と使用済み杵の中心部(図11右下(l))とを比較すると、使用前後で大きな差異が確認できなかった。これらの結果は、外観観察だけで杵の摩耗状況を判定することが困難であることを示している。
【実施例0037】
チタン膜試料の測定
CrめっきをTiSiN膜およびTiAlN膜に変更する以外は実施例3のCrめっき試料の測定と同様にして、各試料のFe-Kαの特性X線強度を測定した。結果を図12に示す。クロムだけでなくチタン系の膜でも膜厚測定に必要な特性X線強度が測定可能であることが実証できた。







図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12