(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074542
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20230523BHJP
【FI】
F16J15/34 B
F16J15/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187491
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大賀 光治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴倫
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA03
3J041BA03
3J041BA10
3J041BC02
3J041BC05
3J041DA10
3J041DA12
(57)【要約】
【課題】静止密封環に対する回転密封環の追従性が低下するのを抑制しつつ、ランニングコストを低減することができるメカニカルシールを提供する。
【解決手段】メカニカルシール10は、ケーシング72側に設けられた静止密封環22と、回転軸71に対して軸方向に移動可能な環状のリテーナ24と、リテーナ24の軸方向一方側に保持され、静止密封環22に摺動する回転密封環23と、回転軸71側に固定され、回転密封環23に接触するシールリップ42を有する環状のシール部材40と、機内領域Cの被密封流体がリテーナ24の軸方向他方側から機外側へ漏洩するのを抑制するようにリテーナ24の軸方向他方側において回転軸71側に設けられ、かつリテーナ24を介して回転密封環23を静止密封環22側へ押圧するベローズ26と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を包囲したケーシング側に設けられ、シール面を有する静止密封環と、
前記回転軸に対して軸方向に移動可能な環状のリテーナと、
前記リテーナの軸方向一方側に保持され、前記静止密封環のシール面に摺動するシール面を有する回転密封環と、を備え、
前記静止密封環および前記回転密封環の両シール面よりも径方向内側に形成された機内領域に被密封流体を密封するメカニカルシールであって、
前記回転軸側に固定され、前記回転密封環に接触するシールリップを有する環状のシール部材と、
前記機内領域の被密封流体が前記リテーナの軸方向他方側から機外側へ漏洩するのを抑制するように前記リテーナの軸方向他方側において前記回転軸側に設けられ、かつ前記リテーナを介して前記回転密封環を前記静止密封環側へ押圧するベローズと、を備えるメカニカルシール。
【請求項2】
前記リテーナの内周に設けられ、当該リテーナよりも径方向内側に突出する環状のブッシュをさらに備え、
前記ブッシュは、低摩擦材料からなる、請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記回転密封環は、そのシール面に向かって先細るように形成されている、請求項1または請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記回転密封環は、そのシール面の径方向内端から内周面に向かうにしたがって縮径するテーパ面を有し、
前記シール部材のシールリップは、前記テーパ面に接触している、請求項3に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記シール部材は、Vリングである、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器の内部において、砂、石、金属屑等の固形粒子を多量に含むスラリ流体を密封するものとして、
図3に示すメカニカルシール装置100が知られている。かかるメカニカルシール装置100は、回転機器のケーシング101と回転軸102との間に配置された一対のメカニカルシール103,104とを備えている(特許文献1参照)。
【0003】
ケーシング101内の一対のメカニカルシール103,104の間には、密封および冷却用の封液が導入される環状の封液領域105が形成されている。機外側のメカニカルシール103は、封液領域105と機外領域106との間をシールし、機内側のメカニカルシール104は、封液領域105と機内領域107との間をシールしている。封液領域105内の封液の圧力は、機内領域107内のスラリ流体の圧力よりも高く設定されており、機内領域107のスラリ流体が封液領域105に漏洩するのを防止している。
【0004】
機内側のメカニカルシール104は、ケーシング101に取り付けられた静止密封環113と、回転軸102に一体回転可能に取り付けられた回転密封環114と、を有している。回転密封環114は、リテーナ115に固定されている。回転密封環114およびリテーナ115は、スプリング116により静止密封環113側へ押圧されている。これにより、回転密封環114は、静止密封環113に押圧されながら摺動するようになっている。
【0005】
リテーナ115の内周には、回転軸102の外周面との間をシール(二次シール)するゴム製のOリング117が設けられている。Oリング117は、リテーナ115と共に回転軸102に対して軸方向に移動するようになっている。Oリング117は、機内領域107のスラリ流体がリテーナ115と回転軸102との隙間を通過して封液領域105に漏洩する抑制している。
【0006】
このようなメカニカルシール装置100では、スラリ流体が密封された機内領域107のメカニカルシール104付近に、スラリ流体とは別の清浄な流体であるインジェクション流体を常に導入するための導入路120が、ケーシング101に形成されている。導入路120から機内領域107に導入されたインジェクション流体は、Oリング117と回転軸102との隙間に入り込むことで、前記隙間にスラリ流体の固形粒子が堆積するのを抑制している。これにより、前記隙間に堆積した固形粒子に起因してOリング117の軸方向の移動が阻害されるのを抑制することができる。その結果、静止密封環113に対する回転密封環114の追従性が低下するのを抑制できるので、スラリ流体が漏洩するのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記メカニカルシール装置100では、回転機器の動作中にインジェクション流体を機内領域107に常に導入する必要があるため、ランニングコストが高くなるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、静止密封環に対する回転密封環の追従性が低下するのを抑制しつつ、ランニングコストを低減することができるメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、回転軸を包囲したケーシング側に設けられ、シール面を有する静止密封環と、前記回転軸に対して軸方向に移動可能な環状のリテーナと、前記リテーナの軸方向一方側に保持され、前記静止密封環のシール面に摺動するシール面を有する回転密封環と、を備え、前記静止密封環および前記回転密封環の両シール面よりも径方向内側に形成された機内領域に被密封流体を密封するメカニカルシールであって、前記回転軸側に固定され、前記回転密封環に接触するシールリップを有する環状のシール部材と、前記機内領域の被密封流体が前記リテーナの軸方向他方側から機外側へ漏洩するのを抑制するように前記リテーナの軸方向他方側において前記回転軸側に設けられ、かつ前記リテーナを介して前記回転密封環を前記静止密封環側へ押圧するベローズと、を備えるメカニカルシールである。
【0011】
本発明によれば、リテーナの軸方向一方側では、回転軸側に固定されたシール部材のシールリップを回転密封環に接触させるので、機内領域の被密封流体がリテーナの内周側に入り込むのを抑制することができる。リテーナの軸方向他方側では、ベローズにより被密封流体が機外側へ漏洩するのを抑制しているので、従来のようにリテーナの内周にOリングを設ける必要がない。また、リテーナの軸方向他方側におけるベローズと回転軸側との間には、従来のOリングと回転軸との間よりも広い隙間が形成される。したがって、被密封流体がシール部材およびリテーナの内周を通過して前記隙間に入り込んでも、その被密封流体に含まれる固形粒子が前記隙間に堆積してベローズの軸方向の移動が阻害されるまでの時間を、従来のOリングの場合よりも長くすることができる。その結果、静止密封環に対する回転密封環の追従性が低下するのを抑制することができる。さらに、上記のようにリテーナの内周にOリングを設ける必要がないので、従来のようにインジェクション流体を機内領域に導入する必要もない。これにより、ランニングコストを低減することができる。
【0012】
(2)前記リテーナの内周に設けられ、当該リテーナよりも径方向内側に突出する環状のブッシュをさらに備え、前記ブッシュは、低摩擦材料からなるのが好ましい。
この場合、リテーナが軸方向へ移動する際に、低摩擦材料からなるブッシュの内周面が回転軸側に対して摺動するので、リテーナを軸方向にスムーズに移動させることができる。これにより、静止密封環に対する回転密封環の追従性が低下するのをさらに抑制することができる。
【0013】
(3)前記回転密封環は、そのシール面に向かって先細るように形成されているのが好ましい。
この場合、回転密封環の先細る先端面がシール面となるので、回転密封環が先細っていない場合と比較して回転密封環のシール面の面積を小さくすることができる。これにより、回転密封環および静止密封環の両シール面間の面圧が高くなるので、シール性能を高めることができる。
【0014】
(4)前記回転密封環は、そのシール面の径方向内端から内周面に向かうにしたがって縮径するテーパ面を有し、前記シール部材のシールリップは、前記テーパ面に接触しているのが好ましい。
この場合、回転密封環のテーパ面にシールリップが接触するので、回転密封環の内周面にシールリップが接触する場合と比較して、リテーナを軸方向にスムーズに移動させることができる。これにより、静止密封環に対する回転密封環の追従性が低下するのをさらに抑制することができる。
【0015】
(5)前記シール部材は、Vリングであるのが好ましい。
この場合、シール部材として、市販のVリングを用いることができるので、さらに低コスト化が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、静止密封環に対する回転密封環の追従性が低下するのを抑制しつつ、ランニングコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るメカニカルシールを備えたダブルメカニカルシール装置の断面図である。
【
図2】第2メカニカルシールを示す拡大断面図である。
【
図3】従来のメカニカルシール装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[ダブルメカニカルシール装置]
図1は、本発明の実施形態に係るメカニカルシールを備えたダブルメカニカルシール装置の断面図である。
図1において、ダブルメカニカルシール装置1は、例えば、砂、石、金属屑等の固形粒子が多量に含まれたスラリ流体(被密封流体)を取り扱うポンプ等の回転機器に用いられる。ダブルメカニカルシール装置1は、回転機器の回転軸71側と、回転軸71を包囲しているケーシング72側との間において、回転軸71の軸方向(以下、単に「軸方向」という)に沿って配置されている。本明細書では、便宜上、
図1の右側を軸方向一方側といい、
図1の左側を軸方向他方側という(
図2についても同様)。
【0019】
ダブルメカニカルシール装置1は、回転軸71の外周に固定されたスリーブ2と、スリーブ2の径方向外側においてケーシング72に取り付けられたシールケース3と、スリーブ2およびシールケース3間の軸方向他方側に配置された第1メカニカルシール10と、スリーブ2およびシールケース3間の軸方向一方側に配置された第2メカニカルシール20と、を備えている。
【0020】
シールケース3は、機外領域Aと機内領域Cとを区画する区画領域に配置され、ボルト4によりケーシング72の側面に固定されている。第1メカニカルシール10と第2メカニカルシール20との間には、密封および冷却用の封液が導入される環状の封液領域Bが形成されている。第1メカニカルシール10は、機外領域Aと封液領域Bとの間をシールする。第2メカニカルシール20は、封液領域Bと機内領域Cとの間をシールする。
【0021】
シールケース3には、封液領域Bに封液を供給する供給路3aと、封液領域B内の封液を外部に排出する排出路3bと、が形成されている。回転機器の運転中に供給路3aから封液領域Bに供給された封液は、第1および第2メカニカルシール10,20を冷却する。第1および第2メカニカルシール10,20を冷却した封液は、排出路3bから外部に排出される。封液領域B内の封液の圧力は、機内領域C内のスラリ流体の圧力よりも高く設定されている。これにより、機内領域Cのスラリ流体が封液領域Bに漏洩するのを抑制している。
【0022】
[第1メカニカルシール]
第1メカニカルシール10は、静止密封環11、回転密封環12、リテーナ13、およびスプリング14を備えている。静止密封環11の軸方向一方側には、シール面11aが形成されている。静止密封環11は、シールケース3の内周面の軸方向他端部に固定されている。静止密封環11の外周面とシールケース3の内周面との間は、Oリング15によりシール(二次シール)されている。
【0023】
回転密封環12は、静止密封環11の軸方向一方側に隣接して配置されている。回転密封環12の軸方向他方側には、静止密封環11のシール面11aに摺動するシール面12aが形成されている。回転密封環12の内周面とスリーブ2の外周面との間は、Oリング16によりシール(二次シール)されている。回転密封環12は、リテーナ13に対して軸方向に移動可能に保持されている。
【0024】
リテーナ13は、環状に形成されており、回転密封環12の軸方向一方側に配置されている。リテーナ13は、セットスクリュ17によりスリーブ2の外周面に固定されている。スプリング14は、リテーナ13と回転密封環12との間において、周方向に間隔をあけて複数(
図1では1個のみ図示)設けられている。スプリング14は、その付勢力により回転密封環12を軸方向他方側(静止密封環11側)へ押圧している。
【0025】
[第2メカニカルシール]
<全体構成>
第2メカニカルシール20は、第1リテーナ21、静止密封環22、回転密封環23、第2リテーナ(リテーナ)24、第3リテーナ25、およびベローズ26を備えている。第1リテーナ21は、ケーシング72の内周面に嵌合して固定されている。第1リテーナ21の外周面とケーシング72の内周面との間は、Oリング27およびOリング28によりシール(二次シール)されている。
【0026】
図2は、第2メカニカルシール20を示す拡大断面図である。
図2において、第1リテーナ21は、環状に形成されている。第1リテーナ21の軸方向他方側には、静止密封環22の外周面が焼き嵌めにより固定されている。静止密封環22の軸方向他方側の端面には、その径方向全体にわたってシール面22aが形成されている。
【0027】
回転密封環23は、例えば、耐摩耗性およびシール性能に優れた炭化ケイ素(SiC)からなる。回転密封環23は、静止密封環22の軸方向他方側に隣接して配置されている。回転密封環23の軸方向一方側には、静止密封環22のシール面22aに摺動するシール面23aが形成されている。静止密封環22および回転密封環23の両シール面22a,23aよりも径方向内側に機内領域Cが形成されている。これにより、第2メカニカルシール20は、機内領域Cに被密封流体を密封している。
【0028】
回転密封環23の軸方向一端部は、シール面23aに向かって先細るように形成されている。具体的には、回転密封環23は、シール面23aよりも径方向内側に形成された第1テーパ面23bと、シール面23aよりも径方向外側に形成された第2テーパ面23cと、を有している。第2テーパ面23cは、シール面23aの径方向外端から回転密封環23の外周面に向かうにしたがって拡径するように形成されている。
【0029】
第1テーパ面23bは、シール面23aの径方向内端から回転密封環23の内周面に向かうにしたがって縮径するように形成されている。第1テーパ面23bの径方向内側部は、静止密封環22の内周面よりも径方向内側に突出している。回転密封環23のシール面23aの面積は、静止密封環22のシール面22aの面積よりも小さい。
【0030】
回転密封環23は、第2リテーナ24の軸方向一方側に保持されている。第2リテーナ24は、例えば金属製であり、環状に形成されている。第2リテーナ24は、円環部24aと、円環部24aの外周部から軸方向一方側に延びる円筒部24bと、を有している。円筒部24bの内周には、回転密封環23が焼き嵌めにより固定されている。
【0031】
第3リテーナ25は、第1メカニカルシール10のリテーナ13の軸方向一方側に隣接して配置されている。第3リテーナ25は、例えば金属製であり、環状に形成されている。第3リテーナ25は、セットスクリュ29によりスリーブ2の外周面に固定されている。第3リテーナ25の内周面とスリーブ2の外周面との間は、Oリング30によりシール(二次シール)されている。
【0032】
<ベローズ>
ベローズ26は、第2リテーナ24の軸方向他方側において回転軸71側に設けられている。本実施形態のベローズ26は、第2リテーナ24と第3リテーナ25との間に配置されている。ベローズ26とスリーブ2との間には、環状の隙間Sが形成されている。ベローズ26の径方向外側には、封液領域Bが形成されている。ベローズ26は、例えばニッケル合金やステンレス等の金属で作製された円筒状の部材である。ベローズ26は、固定環部26aと、伸縮筒部26bと、可動環部26cと、を有している。
【0033】
固定環部26aは、第3リテーナ25の軸方向一端部に溶接により固定されている。これにより、ベローズ26の軸方向他端部は、回転軸71側のスリーブ2に固定されている。固定環部26aの軸方向一端部には、伸縮筒部26bの軸方向他端部が一体に連結されている。伸縮筒部26bは、蛇腹状に形成されている。
【0034】
伸縮筒部26bの軸方向一端部は、可動環部26cの軸方向他端部に一体に連結されている。可動環部26cは、第2リテーナ24の円環部24aの軸方向他端部に溶接により固定されている。これにより、ベローズ26の軸方向他端部は、第2リテーナ24の軸方向他方側に連結されている。固定環部26aに対して伸縮筒部26bが伸縮することで、可動環部26cは回転密封環23と共に軸方向へ移動可能である。
【0035】
ベローズ26の軸方向両端部(固定環部26aおよび可動環部26c)は、伸縮筒部26bが自由状態よりも収縮した状態で、第2リテーナ24および第3リテーナ25にそれぞれ連結されている。したがって、ベローズ26は、第2リテーナ24を介して回転密封環23を静止密封環22側へ押圧する機能を有している。
【0036】
ベローズ26の軸方向両端部は、上記のように第2リテーナ24および第3リテーナ25にそれぞれ溶接により固定されているので、ベローズ26は、封液領域Bと機内領域Cとの間をシール(二次シール)する機能も有している。したがって、機内領域Cのスラリ流体が、第2リテーナ24の内周側を通過して隙間Sに入り込んでも、ベローズ26によって封液領域B(機外側)へ漏洩するのを抑制することができる。
【0037】
<シール部材>
第2メカニカルシール20は、スリーブ2に設けられた環状のシール部材40をさらに備えている。本実施形態のシール部材40は、例えば、市販されているゴム製のVリングからなる。シール部材40は、シール本体41と、シールリップ42と、を有している。シール本体41は、例えば断面台形状に形成されている。シール本体41の内周面は、静止密封環22の径方向内側においてスリーブ2の外周に形成された環状の凹部2aに嵌合して固定されている。
【0038】
シールリップ42は、シール本体41の軸方向一方側において全周にわたって形成されている。本実施形態のシールリップ42は、シール本体41の軸方向一方側の端面の径方向内端部から、軸方向一方側かつ径方向外側に向かって延びている。これにより、シールリップ42は、シール本体41に対して軸方向に弾性変形可能である。
【0039】
シールリップ42の先端部(外周端部)は、回転密封環23の第1テーパ面23bに接触している。これにより、シールリップ42は、機内領域Cのスラリ流体が、回転密封環23とスリーブ2との隙間、および第2リテーナ24の円環部24aとスリーブ2との隙間に入り込むのを抑制している。また、第2リテーナ24と共に回転密封環23が軸方向に移動しても、シールリップ42が軸方向に弾性変形することで、シールリップ42の先端部が第1テーパ面23bに接触した状態を維持することができる。
【0040】
<ブッシュ>
第2メカニカルシール20は、第2リテーナ24の内周に設けられた環状のブッシュ45をさらに備えている。本実施形態では、第2リテーナ24の円環部24aの内周に、径方向内側に開口する環状溝24cが形成され、この環状溝24cに、軸方向に重ね合わせた一対のブッシュ45が嵌合して固定されている。ブッシュ45の内周端部は、円環部24aの内周面よりも径方向内側に突出している。
【0041】
ブッシュ45は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の低摩擦材料からなる。ブッシュ45の内周面は、スリーブ2の外周面との間に僅かな隙間をあけて配置され、第2リテーナ24が軸方向へ移動する際にスリーブ2の外周面に摺動するようになっている。また、ブッシュ45の内周面は、スリーブ2の外周面との間に僅かな隙間をあけて配置されているので、ベローズ26の軸方向一端部(可動環部26c)の軸振れも抑制することができる。
【0042】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の第2メカニカルシール20によれば、第2リテーナ24の軸方向一方側では、スリーブ2に固定されたシール部材40のシールリップ42を回転密封環23に接触させるので、機内領域Cのスラリ流体が第2リテーナ24の内周側に入り込むのを抑制することができる。第2リテーナ24の軸方向他方側では、ベローズ26によりスラリ流体が封液領域Bへ漏洩するのを抑制しているので、従来のように第2リテーナ24の内周にOリングを設ける必要がない。また、第2リテーナ24の軸方向他方側におけるベローズ26とスリーブ2との間には、従来のOリングと回転軸との間よりも広い隙間Sが形成される。
【0043】
したがって、スラリ流体がシール部材40および第2リテーナ24の内周を通過して隙間Sに入り込んでも、そのスラリ流体に含まれる固形粒子が隙間Sに堆積してベローズ26の軸方向の移動が阻害されるまでの時間を、従来のOリングの場合よりも長くすることができる。その結果、静止密封環22に対する回転密封環23の追従性が低下するのを抑制できるので、静止密封環22および回転密封環23の両シール面22a,23a間からスラリ流体が漏洩するのを抑制することができる。さらに、上記のように第2リテーナ24の内周にOリングを設ける必要がないので、従来のようにインジェクション流体を機内領域Cに導入する必要もない。これにより、ランニングコストを低減することができる。
【0044】
第2リテーナ24が軸方向へ移動する際に、低摩擦材料からなるブッシュ45の内周面がスリーブ2の外周面に対して摺動するので、第2リテーナ24を軸方向にスムーズに移動させることができる。これにより、静止密封環22に対する回転密封環23の追従性が低下するのをさらに抑制することができる。
【0045】
回転密封環23は、そのシール面23aに向かって先細るように形成されているので、回転密封環23が先細っていない場合と比較してシール面23aの面積を小さくすることができる。これにより、静止密封環22と回転密封環23との間の両シール面22a,23a間の面圧が高くなるので、シール性能を高めることができる。
【0046】
シール部材40のシールリップ42は、回転密封環23におけるシール面23aと内周面との間の第1テーパ面23bに接触するので、シールリップ42が回転密封環23の内周面に接触する場合と比較して、第2リテーナ24を軸方向にスムーズに移動させることができる。これにより、静止密封環22に対する回転密封環23の追従性が低下するのをさらに抑制することができる。
【0047】
シール部材40として、市販のVリングを用いているので、さらに低コスト化が可能となる。
【0048】
[その他]
上記実施形態のシール部材40は、回転密封環23の第1テーパ面23bに接触させているが、回転密封環23の内周面に接触させてもよい。また、回転密封環23に第1テーパ面23bを形成せずに、シール面23aを静止密封環22よりも径方向内側に延長させ、その延長部分にシール部材40を接触させてもよい。
【0049】
シール部材40は、シールリップ42を有していればVリング以外で構成されていてもよい。ブッシュ45の個数および材料は、本実施形態に限定されるものではない。本発明のメカニカルシールは、ダブルメカニカルシール装置に限定されるものではなく、シングルメカニカルシールに適用することもできる。
【0050】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
20 第2メカニカルシール(メカニカルシール)
22 静止密封環
22a シール面
23 回転密封環
23a シール面
23b 第1テーパ面(テーパ面)
24 第2リテーナ(リテーナ)
26 ベローズ
40 シール部材
42 シールリップ
45 ブッシュ
71 回転軸
72 ケーシング
C 機内領域