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特開2023-74569締結部材、及びその締結部材と樹脂製の相手部材とを含む締結具
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  • 特開-締結部材、及びその締結部材と樹脂製の相手部材とを含む締結具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074569
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】締結部材、及びその締結部材と樹脂製の相手部材とを含む締結具
(51)【国際特許分類】
   F16B 33/06 20060101AFI20230523BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20230523BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230523BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
F16B33/06 A
F16B35/00 J
C08K3/013
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187546
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(71)【出願人】
【識別番号】592065058
【氏名又は名称】エスティーティー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】相澤 惇
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洸輝
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 真一
(72)【発明者】
【氏名】野中 信治
(72)【発明者】
【氏名】中島 達哉
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CC071
4J002CD051
4J002DE106
4J002DE126
4J002DG026
4J002FD016
4J002FD090
4J002FD330
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】被締結部材と樹脂製の相手部材とを締結部材によって締結する場合の締結後における残存トルクを向上させることのできる締結部材、及びその締結部材と樹脂製の相手部材とを含む締結具を提供する。
【解決手段】締結部材は、被締結部材と樹脂製の相手部材とを締結させるために前記樹脂製の相手部材にねじ込まれる締結部材において、外周にねじ山を有する本体とそのねじ山に設けられた樹脂層とを含み、前記樹脂層が、硬化性樹脂とフィラーとを含む硬化性樹脂組成物の硬化物を含み、前記フィラーを構成する粒子が、前記相手部材の硬度と異なる硬度の粒子を含み、前記フィラーの平均粒子径が、前記樹脂層の厚さ以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材と樹脂製の相手部材とを締結させるために前記樹脂製の相手部材にねじ込まれる締結部材において、外周にねじ山を有する本体とそのねじ山に設けられた樹脂層とを含み、
前記樹脂層が、硬化性樹脂とフィラーとを含む硬化性樹脂組成物の硬化物を含み、
前記フィラーを構成する粒子が、前記相手部材の硬度と異なる硬度の粒子を含み、
前記フィラーの平均粒子径が、前記樹脂層の厚さ以下であることを特徴とする締結部材。
【請求項2】
前記フィラーを構成する粒子が、前記相手部材の硬度よりも高い硬度の粒子であることを特徴とする請求項1に記載の締結部材。
【請求項3】
前記フィラーの平均粒子径が0.1~20μmであること特徴とする請求項1又は2に記載の締結部材。
【請求項4】
前記フィラーが酸化亜鉛であり、そして、その酸化亜鉛の含有量が、前記硬化性樹脂組成物100質量%に対して、10質量%~45質量%であること特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の締結部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の締結部材と樹脂製の相手部材とを備えた締結具であって、
前記締結具が、前記締結部材と前記樹脂製の相手部材との間に配置された被締結部材を前記相手部材に締結するためのものであること特徴とする締結具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周にねじ山を有する本体とそのねじ山に設けられた樹脂層とを含む締結部材に関する。また、本発明は、その締結部材と樹脂製の相手部材とを含む締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の相手部材及び被締結部材を締結する方法としては、例えば、金属製ボルトを貫通させて反対側から金属製ナットで両者を締結する方法、及び相手部材に金属製の雌ねじを設け、金属製の雄ねじを被締結部材に貫通させてその雌ねじ部に締め込む方法などの金属締結が知られている。
【0003】
上記金属締結については、特許文献1では、摩擦接合方式の高力ボルト継手に使用され、すべり係数を0.45以上とすることのできる高摩擦塗料が開示されている。この高摩擦塗料は、エポキシ樹脂と、体積平均粒子径1~40μmの亜鉛末及び体積平均粒子径3~10μmの骨材を含む顔料とを主成分としており、そして、この高摩擦塗料は、乾燥膜厚50~150μmで鋼材素地上に塗装されている。
【0004】
また、特許文献2では、高温かつ腐食環境下(具体的には、化学プラントにおける環境下)で使用した場合であっても、優れた耐食性を有し、焼付きの発生を抑制することができるボルト及びナットが開示されている。このボルト及びナットは、相互に接触する箇所において、ボルトのビッカース硬度とナットのビッカース硬度との差が150以上である。
【0005】
上記の金属締結に加えて、樹脂締結、例えば、樹脂製の相手部材に設けられた雌ねじ部に樹脂製の雄ねじを締め込むことで相手部材に被締結部材を締結する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-26972号公報
【特許文献2】特開2018-141490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂締結については、金属締結と異なり、温度及び入力負荷による耐久試験後に残存トルクがゼロとなってしまうことがあった。この問題が起きる原因の1つとしては、樹脂がクリープ(一定応力の下で時間の経過とともに現れる塑性変形)する性質を有していることが挙げられる。このクリープ現象が起こった場合には、金属締結における軸力と座面(被締結部材と雄ねじとの接触面)とのつり合いを、樹脂締結では維持することが困難となってしまう。すなわち、これまで行われてきた樹脂締結は、締結後のトルク維持の点で信頼性が低いものであった。
【0008】
なお、樹脂締結と金属締結とは締結する対象の異なる締結方法であり、金属締結に関する特許文献1及び2において開示されている発明を適用することで樹脂締結のみにおいて生じる上記の残存トルクの問題を解決することは困難である。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、被締結部材と樹脂製の相手部材とを締結部材によって締結する場合の締結後における残存トルクを向上させることのできる締結部材及びその締結部材と樹脂製の相手部材とを含む締結具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に係る締結部材は、
被締結部材と樹脂製の相手部材とを締結させるために前記樹脂製の相手部材にねじ込まれる締結部材において、外周にねじ山を有する本体とそのねじ山に設けられた樹脂層とを含み、
前記樹脂層が、硬化性樹脂とフィラーとを含む硬化性樹脂組成物の硬化物を含み、
前記フィラーを構成する粒子が、前記相手部材の硬度と異なる硬度の粒子を含み、
前記フィラーの平均粒子径が、前記樹脂層の厚さ以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る締結部材の他の態様は、前記フィラーを構成する粒子が、前記相手部材の硬度よりも高い硬度の粒子であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る締結部材の他の態様は、前記フィラーの平均粒子径が0.1~20μmであること特徴とする。
【0013】
本発明に係る締結部材の他の態様は、前記フィラーが酸化亜鉛であり、そして、その酸化亜鉛の含有量が、前記硬化性樹脂組成物100質量%に対して、10質量%~40質量%であること特徴とする。
【0014】
また、上記の締結部材と樹脂製の相手部材とを備えた締結具は、前記締結部材と前記樹脂製の相手部材との間に配置された被締結部材を前記相手部材に締結するためのものであること特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被締結部材と樹脂製の相手部材とを締結部材により締結させた場合において、締結部材と相手部材とが接触する箇所の摩擦力を向上させて、これによって樹脂締結後における残存トルクを向上させることができる。
【0016】
また、こうした残存トルクの向上によって金属締結に代えて樹脂締結を適用する範囲が広がり、金属締結に使用される部材の重量と比較して、重量を軽量化することができる。
【0017】
更に、樹脂締結において残存トルクを向上させるために使用されている金属部材を用いることを回避することができるので、樹脂と金属との異種部材の組み合わせが回避されリサイクル性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】樹脂層の膜厚と摩擦係数との関係についての基礎評価試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る締結具は、締結部材と樹脂製の相手部材(例えば、樹脂製の雌ねじが設けられた金属製部材若しくは樹脂製部材、又は(雌ねじを有しない)樹脂製部材)とを備える。この締結部材は、外周にねじ山を有する本体(例えば、雄ねじ)とそのねじ山上に設けられた樹脂層とを含む。この締結具によって、締結部材と樹脂製の相手部材との間に配置された被締結部材を相手部材に締結することができる。具体的には、締結部材と樹脂製の相手部材との締結力によってその樹脂製の相手部材に被締結物を締結させることができる。なお、被締結部材としては、樹脂製又は金属製の部材を使用することができる。
【0020】
締結部材と樹脂製の相手部材との締結は、締結部材をタッピングスクリューとして使用して樹脂製の相手部材としての(雌ねじを有しない)樹脂製部材に対して締結部材をねじ込んだり、又は、金属製部材若しくは樹脂製部材に樹脂製の雌ねじを設けてその雌ねじと締結部材とを螺合させて、樹脂製の相手部材としての(樹脂製の雌ねじが設けられた)金属製部材若しくは樹脂製部材に対して締結部材をねじ込んだりすることによって行うことができる。
【0021】
締結部材における外周にねじ山を有する本体は、樹脂製又は金属製とすることができる。相手部材は、樹脂製である。
【0022】
樹脂製の本体に使用される樹脂は、例えば、雄ねじの材料として使用される公知の樹脂とすることができる。金属製の本体に使用される金属は、例えば、雄ねじの材料として使用される公知の金属とすることができる。
【0023】
樹脂製の相手部材に使用される樹脂は、雌ねじの材料として使用される公知の樹脂であり、例えば、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6又はナイロン66)又はエンジニアリングプラスチック(例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)又はポリエチレンテレフタレート樹脂(PET))である。
【0024】
樹脂層は、締結部材における本体の表面に直接設けるか、あるいは別の層を介して締結部材に設けることができる。樹脂層は、締結部材と樹脂製の相手部材とを締結させた場合においてそれらが接触する箇所にのみ(例えば、ねじ山上のみ)に設けることもできる。樹脂層を設けることによって締結部材と樹脂製の相手部材との摩擦係数を向上させることができ、これによって残存トルクを向上させることができる。
【0025】
樹脂層の厚み(膜厚)は、好ましくは、フィラーの平均粒子径と同じであるか又は大きいものとすることができる。これによって、樹脂層からフィラーが脱落することを防ぐことができる。樹脂層の厚みについては、その下限値は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、その上限値は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更により好ましくは10μm以下であり、そして、これらの数値を任意に組み合わせて樹脂層の厚みの範囲とすることができる(例えば、0.1~30μm)。
【0026】
樹脂層は、硬化性樹脂とフィラーとを含む硬化性樹脂組成物から得ることができる。硬化性樹脂は、締結部材における本体上にフィラーを保持するためのバインダーとしての役割を有するものである。フィラーは、締結部材と相手部材との摩擦係数を高くするための役割を有するものである。フィラーは、硬化性樹脂に対して投錨効果を有するものを使用することが好ましい。
【0027】
硬化性樹脂組成物は、他の添加剤(例えば、染料及び/又は増粘剤)を任意成分として含むこともできる。
【0028】
硬化性樹脂組成物の粘度を低くして取り扱いやすい状態にするために、硬化性樹脂組成物を溶剤(例えば、有機溶剤(具体的には、メチルエチルケトン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合液))に溶かした状態で硬化性樹脂組成物を取り扱うこともできる。
【0029】
硬化性樹脂組成物は、公知の攪拌器(例えば、プロペラ式撹拌機又はホモジナイザー)を使用して、当業者の技術常識によって温度、攪拌の回転数、攪拌時間を決定して、硬化性樹脂、フィラー、及び任意成分を混合することができる。
【0030】
例えば、有機溶剤に溶かされた硬化性樹脂組成物の場合には、公知の攪拌器(例えば、プロペラ式撹拌機又はホモジナイザー)を使用して、0~40℃、回転数500~8000rpm、5~60分間の攪拌条件下で、硬化性樹脂とフィラーと任意成分とを含む硬化性樹脂組成物を有機溶剤に溶かすことによって得ることができる。この混合を行う工程としては、例えば、混錬工程及びミーリング工程が挙げられる。
【0031】
硬化性樹脂としては、その硬化性樹脂にフィラーを混ぜ合わせることができると共に、締結部材を相手部材に締結させた際に樹脂層が破壊されない程度の硬度をもたらすことができる硬化性樹脂であれば特に限定されず、好ましくは熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂、特に好ましくは熱硬化性樹脂を使用することができる。熱硬化性樹脂としては、公知のエポキシ樹脂(例えば、変性エポキシ樹脂、又はビスフェノールA型固形エポキシ樹脂)、公知のフェノール樹脂(例えば、変性フェノール樹脂)、又は公知のエポキシ樹脂と公知のフェノール樹脂との組み合わせが挙げられる。
【0032】
公知のエポキシ樹脂と公知のフェノール樹脂との組み合わせの場合において、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との比率は、好ましくは1~2:1、より好ましくは1.5:1である。また、この組み合わせの場合において使用されるフェノール樹脂は、樹脂層の硬度を高めるための役割を有するものである。
【0033】
光硬化性樹脂としては、公知の光硬化性樹脂が挙げられる。
【0034】
フィラーとしては、有機フィラー及び/又は無機フィラー、好ましくは無機フィラーを使用することができる。有機フィラーの材料としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリオレフィン樹脂を使用することができる。無機フィラーの材料としては、例えば、金属化合物(酸化亜鉛(モース硬度の場合には4~5の硬度を有する)、硫化亜鉛(モース硬度の場合には3.5~4の硬度を有する)、三酸化アンチモン(モース硬度の場合には2~2.5の硬度を有する)、又はこれらの組み合わせなど)を使用することができる。相手部材よりも十分に硬く、更に十分な投錨効果が得られる点を考慮すると、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0035】
フィラーの含有量は、前記硬化性樹脂組成物100質量%に対して、その下限値は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更により好ましくは30質量%以上であり、その上限値は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、そして、これらの数値を任意に組み合わせて樹脂層の厚みの範囲とすることができる(例えば、10~45質量%)である。こうした含有量にすることによって、十分高い摩擦係数が得られ、かつ十分な塗膜強度を維持することができる。
【0036】
硬化性樹脂の含有量は、前記硬化性樹脂組成物100質量%に対して、その下限値は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、その上限値は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80μm質量%以下、更により好ましくは70質量%以下であり、そして、これらの数値を任意に組み合わせて樹脂層の厚みの範囲とすることができる(例えば、55~90質量%)である。
【0037】
染料としては、公知の有色(例えば、黒色)染料を使用することができる。染料は、締結部材上に樹脂層が設けられているか否かを容易に判断するための役割を有する。
増粘剤としては、公知の増粘剤を使用することができる。増粘剤は、締結部材に対する硬化性樹脂組成物の塗装性を良くするための役割を有するものである。
【0038】
締結部材への樹脂層の形成は、以下の方法によって行うことができる。
最初に、締結部材における本体に対して硬化性樹脂組成物(又は、有機溶剤に溶かされた硬化性樹脂組成物)を公知の塗布方法(例えば、吹付け塗布方法、又はバレル式塗布方法)によって塗布する。その後、塗布された硬化性樹脂組成物を、通常、180~200℃の環境温度で30~60分間乾燥することで樹脂層(硬化性樹脂組成物の硬化物)を得る(形成させる)ことができる。
【0039】
なお、硬化性樹脂組成物は、締結部材における本体を脱脂するだけで、締結部材における本体に塗布することもできる。
【0040】
また、硬化性樹脂組成物は、締結部材における本体(特に、金属製の本体)を薬品処理(例えば、リン酸亜鉛などの薬品を用いた処理)を行った後に、本体に塗布することもできる。硬化性樹脂組成物は、締結部材における本体(特に、金属製の本体)をメッキで処理した後に、締結部材における本体に塗布することもできる。
【0041】
フィラーを構成する粒子は、相手部材の硬度と異なる硬度の粒子を含んでいる。好ましくは、フィラーを構成する粒子は、相手部材の硬度よりも高い硬度の粒子である。
【0042】
ここで、上記硬度の指標として、例えば、モース硬度又はビッカース硬度を使用することができる。このモース硬度及びビッカース硬度は、公知の測定方法を使用して、決定することができる。例えば、モース硬度の測定の場合には、一般的なモースの標準鉱物による引っかき傷がつくか否かで決定することができる。具体的には、標準鉱物と試料物質をこすり、ひっかき傷の有無で硬さを測定することができる。モース硬度が1~10に相当する(標準)鉱物として、例えば、滑石(タルク)、石膏、方解石、ほたる石、りん灰石、正長石、水晶、トパーズ、コランダム、ダイヤモンドが挙げられる。
【0043】
より好ましくは、フィラーを構成する粒子は、相手部材のモース硬度よりも1ランク以上高いモース硬度の粒子である。フィラーを構成する粒子のモース硬度と相手部材のモース硬度との差を1ランク以上高くすることによって、フィラーを構成する粒子と相手部材との間で十分な締結力を得ることができる。なお、フィラーを構成する粒子のモース硬度と相手部材のモース硬度との差は、それらの差が1以上大きければ十分な締結力が得られるので、上限値は特に制限されない。
【0044】
締結部材における本体、樹脂層(特には、フィラー)及び相手部材についての硬さは、好ましくは、(締結部材における本体≧)樹脂層(特には、フィラー)>相手部材である。
【0045】
特定の範囲の硬度(例えば、モース硬度又はビッカース硬度)を有する締結部材、特定の範囲の硬度(例えば、モース硬度又はビッカース硬度)を有する相手部材、及び特定の範囲の硬度(例えば、モース硬度又はビッカース硬度)を有するフィラーは、当業者の技術常識によって得ることができる。
【0046】
フィラーの平均粒子径は、樹脂層の厚みと同じであるか又はそれよりも小さいものである。これによって、フィラーの脱落を防ぐことができる。フィラーの平均粒子径については、具体的には、その下限値は、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、その上限値は、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更により好ましくは5μm以下であり、そして、これらの数値を任意に組み合わせてフィラーの平均粒子径の範囲とすることができる(例えば、0.1~20μm)。
なお、この平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0047】
本発明による締結具は、自動車、具体的には、走行中に振動が加わる部分に使用される部品(例えば、バンパーに搭載されている付属物(レーダーなど)を固定するための部品)、及び自動車が静止中に衝撃が加わる部分(例えば、ドア、トランク、及びリアゲート)に使用される部品に使用することができる。
【実施例0048】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0049】
[樹脂層の厚みと摩擦係数との関係についての基礎評価試験]
樹脂層の厚みと摩擦係数との関係についての基礎評価試験を以下の方法で行った。
【0050】
(試験片の調製)
SPCC(Steel Plate Cold Commercial)板に対してMFZn5Cによるメッキ処理を行った。フィラー(ハクスイテック株式会社製;酸化亜鉛2種;モース硬度4~5;平均粒子径1.0μm)37質量%とバインダーとしてのエポキシ樹脂(荒川化学工業株式会社製;製品名アラキード9203N)63質量%との混合物(硬化性樹脂組成物:100質量%)を有機溶剤(具体的には、[メチルエチルケトン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合液])に溶かして(硬化性樹脂組成物:有機溶剤=1:1)、これらを樹脂層の厚みが0μm(コーティング無し)、2μm、5μm、10μmとなるようにそのメッキ上にコーティングした。なお、硬化性樹脂組成物の有機溶剤への溶解は、攪拌機器(ヤマト科学社製;LAB-STIRRER LR-51B)を使用して、25℃で30分間、回転数約700rpmで行った。
【0051】
上記コーティングの後に、200℃のオーブン(すなわち、環境温度200℃)で30分間それらを放置して、硬化性樹脂組成物を熱硬化させて、種々の膜厚(0μm、2μm、5μm、10μm)の樹脂層を有する試験片を得た。
【0052】
(評価方法)
評価(具体的には、摩擦係数測定)は、種々の膜厚の試験片それぞれについて、往復摺動試験機(HEIDON-14特;新東科学株式会社製)を用いて、繰り返し摺動することにより行った。
【0053】
具体的な試験条件は、以下の通りである。
試験片に接触させる材料:直径10mmナイロン球;
荷重:9.8N(1,000gf);
速度:3,000mm/min;
ストローク:10mm;及び
評価方法:摺動10回目の摩擦係数(μs,μd)を測定した。測定を3回行って、その平均値を摩擦係数とした。
【0054】
(試験結果)
試験結果を図1に示す。樹脂層を有する場合(膜厚:2μm、5μm、10μm)には、樹脂層を有しない場合(膜厚:0μm)と比較して、静摩擦係数及び動摩擦係数のそれぞれが上昇した。2μm、5μm、及び10μmの膜厚において、摩擦係数の変化はほぼ見られなかった。
【0055】
[樹脂締結における残存トルクについての試験結果]
(硬化性樹脂組成物の調製)
下記表1に記載の配合に従い、攪拌機器(ヤマト科学社製;LAB-STIRRER LR-51B)を使用して、25℃で30分間、回転数約700rpmで、バインダーとしてのエポキシ樹脂(荒川化学工業株式会社製;製品名アラキード9203N)63質量%とフィラー(ハクスイテック株式会社製;酸化亜鉛2種;モース硬度4~5;平均粒子径1.0μm)37質量%との混合物(硬化性樹脂組成物:100質量%)を有機溶剤(具体的には、メチルエチルケトン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合液)に溶解した(硬化性樹脂組成物:有機溶剤=1:1)。
【0056】
(締結部材の作成)
締結部材の本体として、NIFCO社製の樹脂製の雄ねじ(スクリューグロメット)を用いた。また、締結部材における本体として、富士部品社製のM5タッピンスクリューの金属製の雄ねじも用いた。
【0057】
上記樹脂製の雄ねじ及び上記金属製の雄ねじに対して上記の(有機溶剤に溶解した)硬化性樹脂組成物を樹脂層が1.3μmとなるように、バレル式塗装機を使用して、コーティングした。なお、硬化性樹脂組成物は、上記樹脂製及び上記金属製の雄ねじのそれぞれに対して有機溶剤(具体的には、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤)による脱脂前処理を行った後に、それらの雄ねじに塗布された。
【0058】
上記コーティング後に、200℃のオーブン(すなわち、環境温度190~200℃)で30分間それらを放置して、硬化性樹脂組成物を熱硬化させて、それらの雄ねじ上に樹脂層を有する締結部材を得た。締結部材の本体として金属製の雄ねじを用いた場合を実施例1(施工品)とした。締結部材の本体として樹脂製の雄ねじを用いた場合を実施例2(施工品)とした。
【0059】
なお、金属製の雄ねじに対して硬化性樹脂組成物を塗布しない場合を比較例1(未施工品)とした。
【0060】
(相手部材の作成)
相手部材として、四角穴加工を施した自動車車体を模擬した板金に対して樹脂製の雌ねじ(NIFCO社製;製品名スクリューグロメット;モース硬度4未満)を装着したものを用いた。
【0061】
(評価方法)
実車環境を想定した環境負荷試験後、直読み式トルクレンチを用いて、残存トルク値を測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
上記表1における施工品の残存トルクの向上率(%)については、未施工品における残存トルク値に基づいて計算したものである。
図1