(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074595
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】圧波形の標準化処理装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0215 20060101AFI20230523BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61B5/0215 B
A61B5/0215 Z
A61B5/0245 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187589
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】521369138
【氏名又は名称】水上 拓也
(71)【出願人】
【識別番号】521369149
【氏名又は名称】合同会社Medboost
(71)【出願人】
【識別番号】521369127
【氏名又は名称】川瀬 世史明
(74)【代理人】
【識別番号】100114524
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】水上 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅文
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 世史明
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA10
4C017AB10
4C017AC03
4C017BC11
4C017BD04
4C017EE01
4C017FF05
(57)【要約】
【課題】被検者の血管内圧の経時的な変化を表す圧波形に基づき、心疾患をより正確に評価するためのデータ処理を行うこと。
【解決手段】本発明の標準化処理装置10は、心周期を特定した上で1心拍を複数の時相に細分化し、各時相内での時間スケールを標準化する時相分割部16と、被検者の血管内圧の経時的な変化を表す圧波形の圧データから心疾患を評価するための指標値を算出し、当該指標値を時間スケールに対応させる指標値算出部17とを備えている。時相分割部16では、1心拍内における所定の特徴点を1又は複数設定し、当該特徴点で分割した各時間帯の時刻について、統一した時間スケールでの時刻に変換する。指標値算出部17では、時間スケールでの各時刻と血管内圧や指標値との関係を表す標準化波形が生成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の血管内圧の経時的な変化を表す圧波形の圧データに基づき、心疾患を評価するための標準化処理を行う装置において、
心周期を特定した上で1心拍を複数の時相に細分化し、各時相内での時間スケールを標準化する時相分割部と、前記圧データから前記心疾患を評価するための指標値を算出し、当該指標値を前記時間スケールに対応させる指標値算出部とを備え、
前記時相分割部では、1心拍内における所定の特徴点を1又は複数設定し、当該特徴点で分割した各時間帯の時刻について、統一した前記時間スケールでの時刻に変換することを特徴とする圧波形の標準化処理装置。
【請求項2】
前記指標値算出部では、前記時間スケールでの各時刻と前記血管内圧や前記指標値との関係を表す標準化波形が生成されることを特徴とする圧波形の標準化処理装置。
【請求項3】
前記圧波形は、大動脈圧及び冠動脈圧に関するそれぞれの経時的な変化を表し、
前記指標値算出部では、それぞれ同一時刻で取得された前記冠動脈圧と前記大動脈圧の圧力比が前記指標値として算出され、
前記時相分割部では、前記特徴点として、前記圧波形、若しくは前記圧力比の経時的変化を表す波形における所定の地点に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の圧波形の標準化処理装置。
【請求項4】
前記指標値算出部では、前記大動脈圧と前記冠動脈圧について、1心拍中の最大大動脈圧でそれぞれ除算した標準化血圧が前記指標値として算出されることを特徴とする請求項3記載の圧波形の標準化処理装置。
【請求項5】
被検者の血管内圧の経時的な変化を表す圧波形の圧データに基づき、心疾患を評価するための標準化処理を行う装置のプログラムにおいて、
心周期を特定した上で1心拍を複数の時相に細分化し、各時相内での時間スケールを標準化する時相分割部と、前記圧データから前記心疾患を評価するための指標値を算出し、当該指標値を前記時間スケールに対応させる指標値算出部としてコンピュータを機能させ、
前記時相分割部では、1心拍内における所定の特徴点を1又は複数設定し、当該特徴点で分割した各時間帯の時刻について、統一した前記時間スケールでの時刻に変換することを特徴とする圧波形の標準化処理装置のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の所定部位における血管内圧の経時的な変化を表す圧波形に基づき、心疾患を評価するための標準化処理を行う圧波形の標準化処理装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性心疾患の重症度を診断する手法の一つとして、プレッシャーワイヤと呼ばれる圧力センサ付きのガイドワイヤを用いた手法が知られている。この手法では、先ず、プレッシャーワイヤにより、冠動脈入口部圧となる大動脈圧Pa(Aortic pressure)と、冠動脈内の狭窄部位の下流側となる冠動脈圧Pd(Distal pressure)とが測定される。そして、これら大動脈圧Pa及び冠動脈圧Pdの圧力比(Pd/Pa)を診断指標として、心筋虚血の有無が判断される。ここでは、圧力比として、計測条件の違いにより、心筋血流予備量比(FFR:Fractional Flow Reserve)と、安静時非充血圧力比(NHPR:Non-Hyperemic Pressure Ratio)とがある(特許文献1等参照)。これらは、何れも、血流が冠動脈内の病変を通過する際に生じる圧力差である圧較差に基づく診断指標である。
【0003】
前記FFRは、患者への薬剤投与により微小血管抵抗を低下させた最大充血状態で求められる指標であって、所定値(例えば、0.80)を下回った場合に、心筋虚血があると診断され、冠動脈ステント留置術等の治療を行う目安とされる。
【0004】
一方、前記NHPRは、患者に薬剤を投与せずに、安静時において血管内の抵抗値が一般的に低いとされる心臓の拡張中期から末期(WFP:Wave free period)における全ての圧力比Pd/Paの平均値とされ、当該NHPRが、所定値を下回った場合に心筋虚血があると判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/22232号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
冠動脈の血流は定常量でなく、心周期の中の収縮期と拡張期で、血流速度、血流量が異なる。また、冠動脈の血流パターンは、血圧、脈拍、左右冠動脈、冠動脈の狭窄や微小循環障害の重症度、弁膜症の有無等の多様な因子により影響される。しかしながら、前記FFRや前記NHPRでは、測定する冠動脈や患者の状態に関係なく一律の計算式によって算出される。例えば、前記FFRや前記NHPRでは、測定時の血圧が高ければ、冠動脈内の血流が早くなり、狭窄部位での圧較差がより生じ易くなり、心筋が虚血状態にあると診断され易くなる。このように、従来は、冠動脈内の圧波形を詳細に解析することで冠動脈病変を評価する手法が存在していない。
【0007】
また、例えば、大動脈弁狭窄症により肥大心筋を有する患者の冠動脈は、一般的に微小循環障害を有するとされる。本発明者らは、大動脈弁狭窄症を有する患者と有しない患者とでは、冠動脈の圧波形が異なるとともに、薬剤誘発による最大充血状態に対する圧波形の変化状況が異なることを知見した。従って、従前の圧波形からの前述の指標に基づく診断では、例えば、弁膜症の治療のみで良く冠動脈疾患の治療を行う必要のない患者に対しても、前記指標により、冠動脈心疾患の治療が推奨される結果が得られる虞がある。
【0008】
ここで、冠動脈の微小循環障害は、ドップラーフローワイヤと呼ばれるカテーテル型ワイヤを用いることで測定された冠動脈内の血流波形から計算されるか、冠動脈の熱希釈法により算出されることで、評価可能である。しかしながら、このようなドップラーフローワイヤによる血流量の測定方法は、満足なデータを得られる可能性が69%程度と報告されており、また、技術的なハードルが高いことからあまり普及していない。
【0009】
一方、圧波形を利用した前述の従来手法では、圧波形における1心拍の時間、収縮期及び拡張期の各時間等は、各患者の個人差があり、各患者における冠動脈の圧波形に関するデータを病態毎等に単純に対比できず、心疾患の正確な評価を行うために、多くの患者の圧波形を総合して心疾患の傾向を分析するためのデータ取得が困難である。
【0010】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、被検者の血管内圧の経時的な変化を表す圧波形に基づき、心疾患をより正確に評価するためのデータ処理を行う圧波形の標準化処理装置及びそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、主として、被検者の血管内圧の経時的な変化を表す圧波形の圧データに基づき、心疾患を評価するための標準化処理を行う装置において、心周期を特定した上で1心拍を複数の時相に細分化し、各時相内での時間スケールを標準化する時相分割部と、前記圧データから前記心疾患を評価するための指標値を算出し、当該指標値を前記時間スケールに対応させる指標値算出部とを備え、前記時相分割部では、1心拍内における所定の特徴点を1又は複数設定し、当該特徴点で分割した各時間帯の時刻について、統一した前記時間スケールでの時刻に変換する、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、患者や病態に応じて異なる圧波形における血管内圧やそれに基づいて算出された指標値と、複数の被検者間で統一された時間スケールとを対応させた標準化波形の生成が可能となる。このため、従前は被検者間での対比評価が難しかった異なった条件での圧波形ではなく、当該圧波形に基づいて標準化された標準化波形を用いることで、被検者間での対比評価を行うことができ、病態毎の標準化波形上での傾向を把握可能になる。その結果、冠動脈に内在する病態に対応する血流の変化を鋭敏に評価し、例えば、冠動脈の微小循環障害の評価が可能になり、適切な虚血診断のための活用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る標準化処理装置を含む心疾患の評価支援システムの構成を概略的に表したブロック図である。
【
図2】1心拍における大動脈圧と冠動脈圧に関する圧波形のグラフである。
【
図3】1心拍における大動脈圧と冠動脈圧に関する標準化波形のグラフである。
【
図4】1心拍における圧力比に関する標準化波形のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1には、本発明に係る標準化処理装置を含む心疾患の評価支援システムの構成を概略的に表したブロック図が示されている。この図において、前記評価支援システム10は、患者等の被検者の所定部位における血管内圧を取得時刻に対応させた圧波形に基づき、心疾患の評価を支援するためのデータ処理を行うシステムである。この評価支援システム10は、被検者の血管内圧を測定する血管内圧測定装置11と、血管内圧測定装置11で取得された血管内圧に基づく圧波形の圧データに基づき、心疾患を評価するための標準化処理を行う標準化処理装置12と、標準化処理装置12での処理結果に基づく情報を含む各種情報を表示するディスプレイ等の表示装置13とを含んでいる。
【0016】
前記血管内圧測定装置11は、プレッシャーワイヤと呼ばれる圧力センサ付きのガイドワイヤを血管内に挿入して、血管内圧を計測可能な公知の心臓カテーテル検査装置が用いられる。本実施形態では、大動脈圧Pa及び冠動脈圧Pdが圧データとして所定の時刻毎に計測され、それぞれについて、経時的な変化を表す圧波形(
図2参照)が取得される。例えば、冠動脈内の狭窄病変部を挟んだ上流側及び下流側のそれぞれの血管内圧を計測すると、その上流側の狭窄近位部の圧力が大動脈圧Paとされ、同下流側の狭窄遠位部の圧力が冠動脈圧Pdとされる。
【0017】
前記標準化処理装置12は、CPU等の演算装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成され、当該コンピュータを以下の各部として機能させるためのプログラムがインストールされている。
【0018】
この標準化処理装置12は、血管内圧測定装置11で取得した取得時刻毎の大動脈圧Pa及び冠動脈圧Pdからなる圧データ(圧波形)がそれぞれ格納される記憶部15と、圧データから心周期を特定して1心拍を複数の時相に細分化し、各時相内での時間スケールを標準化する時相分割部16と、圧データから心疾患を評価するための指標値を算出し、当該指標値を時間スケールに対応させる指標値算出部17とを備えている。
【0019】
前記時相分割部16では、一例として、大動脈圧Paの1心拍中の圧波形(
図2中実線)から、大動脈弁の閉鎖時に圧強度が大きく変動する重複切痕(DN:Dicrotic Notch)に相当する時間(同図中1点鎖線)が特徴点として特定される。そして、当該DNの部分を境にその前後の時間帯を、収縮期に相当する第1の時相T1と、拡張期に相当する第2の時相T2に区分される。そして、当該各時相T1,T2それぞれの中で、時間スケールが統一され、標準化時間に変換される。例えば、
図3の横軸に示されるように、1心拍の周期において、DNの時刻をゼロとし、第1の時相T1における各時刻は、収縮期の最初からDNまでの経過時間の割合に対応する時刻(-100~0(sec))に変換される。一方、第2の時相T1における各時刻は、DNから拡張期の最後までの経過時間の割合に対応する時刻(0~100(sec))に変換される。
【0020】
また、他の例として、1心拍中の最大大動脈圧Pmaxを特徴点とし、当該特徴点を境にその前後の時間帯における1心拍中の圧データを、第1及び第2の時相T1、T2として区分し、前述と同様に標準化時間に変換することもできる。更に、1心拍中の最大大動脈圧Pmaxから大動脈圧Pa及び冠動脈圧Pが下降する時間帯に複数の特徴点を設定し、当該時間帯について各特徴点を境に分割し、前述のように標準化された時間スケールを設定することもできる。また、1心拍中の拡張期の中で、安静時非充血圧力比(NHPR)で用いられる心臓の拡張中期から末期(WFP(
図2参照):Wave free period)の前後を特徴点としてその間の時間帯を切り出す等、一部の時間帯を抽出し、各時間帯で前述の時間スケールを設定することもできる。更に、1心拍中の時間に対する圧力比Pd/Paの関係を表すPd/Pa波形において所定の特徴点を特定し、当該特徴点を境に分割された各時間帯において、前述の時間スケールを設定することもできる。要するに、所定の血管内圧を測定可能な装置、また、図示しない心電図等での計測結果等に基づき、心周期を特定し、当該心周期内で、所定の特徴を有するタイミングとなる1又は複数の特徴点を境に1心拍の時間を分割し、各時間帯の時刻を標準化した標準化時間に変換する限り、種々の態様を採ることができる。
【0021】
前記指標値算出部17では、大動脈圧Pa及び冠動脈圧Pdを取得した各時刻において、冠動脈圧Pdを大動脈圧Paで除算した圧力比Pd/Paと、大動脈圧Paと冠動脈圧Pdを最大大動脈圧Pmaxでそれぞれ除算した標準化血圧Pa/Pmax,Pd/Pmax(%)とが、指標値として算出される。
【0022】
また、指標値算出部17では、
図3及び
図4に示されるように、個人差や病態等で差の生じる1心拍内の時間を被検者間で統一した標準化時間と、標準化血圧Pa/Pmax,Pd/Pmaxや圧力比Pd/Paとを対応させた標準化波形が生成される。
【0023】
そして、大動脈圧Pa、冠動脈圧Pd、圧力値Pd/Pa、及び標準化血圧Pa/Pmax,Pd/Pmaxが、時相特定部16で特定された時相毎に平均値、中央値、或いは所定の計算による値が求められ、これら値も心疾患を評価する際の指標として利用可能となる。
【0024】
従って、このような実施形態によれば、1心拍中の圧波形や圧力比Pd/Paの波形における1心拍中の特徴点から、被検者間での時間スケールを統一できるとともに、圧力比Pd/Paの他、標準化血圧Pa/Pmax,Pd/Pmaxを求めることで、圧力に関する指標値を1.0(100%)以下に統一することができる。これにより、従前は、各被検者によって1心拍の各事象の経過時間等が異なる圧波形を単純に対比できなかったが、本発明では、血管内圧に対応する波形が標準化波形として変換されることで、被検者の様々なデータの対比分析が可能となり、冠動脈の微小循環障害の原因となる弁膜症や心筋虚血等の傾向のより細かい把握が期待できる。
【0025】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 評価支援システム
11 血管内圧測定装置
12 標準化処理装置
13 表示装置
15 記憶部
16 時相分割部
17 指標値算出部
T1 第1の時相
T2 第2の時相