(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074666
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】筒部材の溶接構造
(51)【国際特許分類】
F16C 3/02 20060101AFI20230523BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
F16C3/02
F16B11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187705
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 樹
【テーマコード(参考)】
3J023
3J033
【Fターム(参考)】
3J023EA02
3J023FA03
3J023GA03
3J033AA01
3J033AB03
3J033BA02
(57)【要約】
【課題】繰り返し応力を低減することができる筒部材の溶接構造を提供すること。
【解決手段】溶接構造50は、第1筒部材11と、第1筒部材11に挿入されるインロー22bを含む第2筒部材22であって、当該第2筒部材22の内面は、インロー22bに対して外側に窪む減肉部22cを含む、第2筒部材22と、第1筒部材11と第2筒部材22との間に位置し、かつ、インロー22bの外面上に形成される溶接金属30と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1筒部材と、
前記第1筒部材に挿入されるインローを含む第2筒部材であって、当該第2筒部材の内面は、前記インローに対して外側に窪む減肉部を含む、第2筒部材と、
前記第1筒部材と前記第2筒部材との間に位置し、かつ、前記インローの外面上に形成される溶接金属と、
を含む、筒部材の溶接構造。
【請求項2】
前記第1筒部材および前記第2筒部材は、動力を伝達するためのシャフトの一部である、請求項1に記載の筒部材の溶接構造。
【請求項3】
前記第2筒部材の外面と前記減肉部との間の厚さは、前記第1筒部材の外面と内面との間の厚さ以上である、請求項1または2に記載の筒部材の溶接構造。
【請求項4】
前記第1筒部材および前記第2筒部材の中心軸線方向において、前記減肉部と前記溶接金属とは重複しない、請求項1から3のいずれか一項に記載の筒部材の溶接構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筒部材の溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接部分には、様々な応力がかかる。例えば、特許文献1は、デフケースとデフリングギアとの間の溶接を開示している。特許文献1では、デフケースの外面にデフリングギアが嵌合される。デフケースの外面には、フランジが形成される。フランジとデフリングギアの側面との間には、開先が形成される。開先の径方向内側には、貫通溶接用の空間が形成される。この空間は、溶接に伴う熱収縮による応力を低減するために、径方向内側に向かってデフケースの外面まで拡大されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筒部材の溶接には、インローが使用される場合がある。インローは、一方の筒部材の端面に形成され、他方の筒部材の内径と同じまたは略同じ外径を有する。インローは、他方の筒部材に挿入され、インローの周りで筒部材が互いに溶接される。インローを含む溶接構造に繰り返し荷重が加えられると、インローによって溶接構造の内側部分の剛性が向上されることから、溶接構造のなかで低い剛性を有する部分、例えば溶接金属と母材との間の界面に、繰り返し応力が過度に集中する可能性がある。
【0005】
本開示は、繰り返し応力を低減することができる、筒部材の溶接構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に筒部材の溶接構造は、第1筒部材と、第1筒部材に挿入されるインローを含む第2筒部材であって、当該第2筒部材の内面は、インローに対して外側に窪む減肉部を含む、第2筒部材と、第1筒部材と第2筒部材との間に位置し、かつ、インローの外面上に形成される溶接金属と、を含む。
【0007】
第1筒部材および第2筒部材は、動力を伝達するためのシャフトの一部であってもよい。
【0008】
第2筒部材の外面と減肉部との間の厚さは、第1筒部材の外面と内面との間の厚さ以上であってもよい。
【0009】
第1筒部材および第2筒部材の中心軸線方向において、減肉部と溶接金属とは重複しなくてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、繰り返し応力を低減することができる筒部材の溶接構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る溶接構造を含むシャフトの一部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係る溶接構造50を含むシャフト100の一部を示す側面図である。なお、
図1は、シャフト100の中心軸線方向における一方の端部のみを示すが、他方の端部も同様な構造を有する。したがって、他方の端部についての説明は省略する。
【0014】
本実施形態では、溶接構造50は、動力を伝達するための回転するシャフト100に適用される。シャフト100は、様々な装置において動力を伝達するために使用されてもよい。他の実施形態では、溶接構造50は、様々な構造物において、一方がインローを含む、2つの筒部材の端面間の接合に適用されてもよい。また、例えば、溶接構造50は、一方がインローを含む、2つの配管の端面間の接合に適用されてもよい。
【0015】
シャフト100は、シャフト本体10と、締結部材20と、を備える。締結部材20は、フランジ90を含む。シャフト100は、溶接構造50を備える。シャフト本体10および締結部材20は、溶接構造50において接合される。シャフト本体10および締結部材20は、同心状に直列に接合される。したがって、本開示において、シャフト本体10、締結部材20およびこれらの構成要素の中心軸線方向、径方向および円周方向は、それぞれ単に「軸線方向」、「径方向」および「円周方向」と称され得る。
【0016】
図2は、
図1中のA部の拡大された一部断面図である。
【0017】
軸線方向において、シャフト本体10の端部は、第1筒部材11を含む。なお、本実施形態では、シャフト本体10は、軸線方向において、その長さ全体を通じて中空形状を有するが、他の実施形態では、シャフト本体10の中心部分は、中実形状を有してもよい。
【0018】
第1筒部材11は、円筒形状を有する。他の実施形態では、第1筒部材11は、例えば、楕円筒形状または多角筒形状等、他の筒形状を有してもよい。第1筒部材11は、軸線方向における端面11aを含む。
【0019】
締結部材20は、本体21と、第2筒部材22と、を含む。例えば、本体21は、概ね円柱形状を有する。本実施形態では、本体21は、中実形状を有する。しかしながら、他の実施形態では、本体21は、中空形状を有してもよい。
【0020】
第2筒部材22は、本体21と連続しており、本体21と一体である。第2筒部材22は、概ね円筒形状を有する。他の実施形態では、第2筒部材22は、例えば、楕円筒形状または多角筒形状等、他の筒形状を有してもよい。第2筒部材22は、軸線方向における端面22aを含む。第2筒部材22の端面22aは、第1筒部材11の端面11aと対向する。端面11a,22aは、軸線方向において互いに離間する。本実施形態では、第2筒部材22の外径は、第1筒部材11の外径と同じである。
【0021】
第2筒部材22は、インロー22bを含む。インロー22bは、端面22aから軸線方向に沿って突出する。例えば、インロー22bは、円筒形状を有する。インロー22bは、端面22aの径方向内側部分に形成される。すなわち、インロー22bの外径は、端面22aの外径よりも小さい。
【0022】
インロー22bは、第1筒部材11に挿入される。インロー22bの外面は、第1筒部材11の内面と同様な形状を有する。インロー22bの外径は、第1筒部材11の内径と略同じである。例えば、第1筒部材11は、溶接前に、インロー22bの外面に焼き嵌めによって取り付けられてもよい。
【0023】
溶接構造50は、上記の第1筒部材11および第2筒部材22と、溶接金属30と、を含む。
【0024】
第1筒部材11の端面11aと、第2筒部材22の端面22aとは、溶接前に開先を画定する。本実施形態では、開先はV字形状を有するが、開先の形状はこれに限定されない。インロー22bは、裏当てとして使用される。
【0025】
溶接金属30は、インロー22bの外面上に形成される。例えば、溶接構造50は、電子ビーム溶接またはレーザー溶接によって形成されてもよい。しかしながら、溶接構造50に使用される溶接方法は、これらに限定されない。溶接構造50には、止端仕上げが施されてもよい。
【0026】
上記のような溶接構造50において、第2筒部材22の内面は、減肉部22cを含む。減肉部22cは、溝または切り欠きとも称され得る。軸線方向において、減肉部22cは、インロー22bに対して、本体21の近くに形成される。減肉部22cは、インロー22bに対して、径方向外側に向かって窪む。別の表現では、減肉部22cの内径は、インロー22bの内径よりも大きい。さらに別の表現では、中心軸線Xを含む断面において、中心軸線Xから減肉部22cまでの距離d1は、中心軸線Xからインロー22bまでの距離d2よりも大きい。なお、本実施形態では、減肉部22cは、円周方向の全体に亘って形成されるが、他の実施形態では、減肉部22cは、応力を十分に低減できる限りにおいて、円周方向に不連続であってもよい。減肉部22cは、応力集中を低減するために、中心軸線Xを含む断面において、曲面で形成される。
【0027】
本実施形態では、第2筒部材22の外面と減肉部22cとの間の厚さt1は、第1筒部材11の外面と内面との間の厚さt2以上である。厚さt1は、中心軸線Xを含む断面において、中心軸線Xに垂直でかつ減肉部22cを通る、最も薄い部分の厚さを意味する。
図2では、厚さt1は、中心軸線Xを含む断面において、中心軸線Xに垂直であり、かつ、減肉部22cにおいて最も径方向外側の部分を通る部分の厚さに相当する。別の表現では、中心軸線Xから減肉部22cまでの距離d1は、中心軸線Xから第1筒部材11の内面までの距離d3以下である。より具体的には、厚さt1は、厚さt2と同じであってもよい。別の表現では、距離d1は、距離d3と同じであってもよい。
【0028】
本実施形態では、軸線方向において、減肉部22cは、溶接金属30と重複しない。より具体的には、減肉部22cと溶接金属30とは、軸線方向において互いに離間していてもよく、それらの間に隙間gを有してもよい。
【0029】
溶接金属30と減肉部22cとの間、すなわち、端面22aと減肉部22cとの間の第2筒部材22の母材の厚さは、厚さt1および隙間g等の因子によって決まる。厚さt1および隙間gを含めて、端面22aと減肉部22cとの間の母材の厚さは、例えば、第1筒部材11をインロー22bの外面に焼き嵌めによって取り付ける際に、この部分に加わる応力が、全面的に母材の降伏応力を超えないように決定することができる。このような応力は、例えば、FEM解析等によって算出することができる。
【0030】
軸線方向の幅および曲面の曲率等の減肉部22cのサイズは、例えば、シャフト100が溶接後に使用される時に、溶接構造50に加わると想定される繰り返し応力が、母材の疲労限を超えないように決定することができる。このような応力も、例えば、FEM解析等によって算出することができる。
【0031】
以上のような溶接構造50は、第1筒部材11と、第1筒部材11に挿入されるインロー22bを含む第2筒部材22であって、当該第2筒部材22の内面は、インロー22bに対して外側に窪む減肉部22cを含む、第2筒部材22と、第1筒部材11と第2筒部材22との間に位置し、かつ、インロー22bの外面上に形成される溶接金属30と、を含む。このような構成によれば、溶接金属30と母材との界面から離れた第2筒部材22の内面に、インロー22bに対して窪んだ減肉部22cが形成される。したがって、溶接構造50に繰り返し荷重が加えられるときに、減肉部22cにおける弾性変形によって荷重を吸収することができる。したがって、溶接構造50のなかで低い剛性を有する部分、例えば溶接金属30と母材との間の界面にかかる応力を低減することができる。したがって、繰り返し応力を低減することができる。
【0032】
また、溶接構造50では、第1筒部材11および第2筒部材22は、動力を伝達するための回転するシャフト100の一部である。したがって、回転に伴う繰り返し荷重に晒されるシャフト100の疲労強度を向上することができる。
【0033】
また、溶接構造50では、第2筒部材22の外面と減肉部22cとの間の厚さt1は、第1筒部材11の外面と内面との間の厚さt2以上である。このような構成によれば、減肉部22cにおいて荷重を吸収しつつ、溶接構造50全体としての剛性を維持することができる。
【0034】
また、溶接構造50では、軸線方向において、減肉部22cと溶接金属30とは重複しない。したがって、減肉部22cの弾性変形によって引き起こされる、溶接金属30と母材との間の界面への影響を低減することができる。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0036】
例えば、上記の実施形態では、第2筒部材22の外面と減肉部22cとの間の厚さt1は、第1筒部材11の外面と内面との間の厚さt2以上である。しかしながら、他の実施形態では、溶接構造50全体の剛性を必要なレベルに維持することができる限りにおいて、厚さt1は、厚さt2よりも小さくてもよい。
【0037】
また、上記の実施形態では、軸線方向において、減肉部22cは、溶接金属30と重複しない。しかしながら、他の実施形態では、端面22aと減肉部22cとの間の母材が全面的に降伏しない限りにおいて、減肉部22cは、軸線方向において溶接金属30と重複してもよい。
【符号の説明】
【0038】
11 第1筒部材
22 第2筒部材
22b インロー
22c 減肉部
30 溶接金属
50 溶接構造
100 シャフト
t1 第2筒部材の外面と減肉部との間の厚さ
t2 第1筒部材の外面と内面との間の厚さ