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特開2023-74680メソ孔性多孔質炭素材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074680
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】メソ孔性多孔質炭素材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20230523BHJP
【FI】
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187727
(22)【出願日】2021-11-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2020年11月19日 ウェブサイトのアドレス https://jza-online.org/ https://jza-online.org/events/ https://jza-online.org/events/abstract_program_meeting (その2) 発行日 2020年11月19日 刊行物 第36回ゼオライト研究発表会講演予稿集 (その3) 開催日 2020年11月19日から2020年11月20日(公開日は2020年11月19日) 集会名、開催場所 第36回ゼオライト研究発表会(オンライン開催) (その4) ウェブサイトの掲載日 2021年1月28日 ウェブサイトのアドレス https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/index.html https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/symposium/news/index.html https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/sentansympo/kouensyu/sympo25_kouensyu.pdf (その5) 発行日 2021年1月28日 刊行物 第25回関西大学先端科学技術シンポジウム講演集
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その6) ウェブサイトの掲載日 2021年1月28日 ウェブサイトのアドレス https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/index.html https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/symposium/news/index.html https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/symposium/news/2021/01/25-3.html (その7) 開催日 2021年1月28日から2021年1月29日(公開日は2021年1月28日) 集会名、開催場所 第25回関西大学先端科学技術シンポジウム(オンライン開催) (その8) ウェブサイトの掲載日 2021年10月26日 ウェブサイトのアドレス http://www.sspej.gr.jp/ https://mtg.sspej.org/ https://mtg.sspej.org/v/files/bunrinenkai2021.pdf (その9) 発行日 2021年10月26日 刊行物 分離技術会年会2021 技術・研究発表講演要旨集 (その10) 開催日 2021年11月4日から2021年11月5日(公開日は2021年11月4日) 集会名、開催場所 分離技術会年会2021(オンライン開催)
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】池本 英貴
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA16
4G146AB01
4G146AC05A
4G146AC05B
4G146AC06A
4G146AC06B
4G146AC08B
4G146AC09A
4G146AC09B
4G146AC10A
4G146AC10B
4G146AD11
4G146AD23
4G146AD32
4G146AD35
4G146BA11
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC33B
4G146BC37B
4G146BC43
(57)【要約】
【課題】多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せず、予め鋳型を製造する必要がなく簡便且つ効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】炭素源である有機化合物と亜鉛との亜鉛化合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理及び金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源である有機化合物と亜鉛との亜鉛化合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理及び金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記亜鉛化合物が亜鉛の塩及び/又は亜鉛の錯体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記亜鉛化合物が亜鉛と有機酸との塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記亜鉛化合物の融点が70~420℃である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記亜鉛化合物のC/Znが3~36である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理において、前記金属亜鉛の気体化温度域での加熱を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理において、前記金属亜鉛の気体化温度まで昇温し、前記金属亜鉛の気体化温度域での加熱を行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の製造方法で得られた、多孔質炭素材料。
【請求項9】
10 nm以上の範囲に細孔径分布のピークを有しない、請求項8に記載の多孔質炭素材料。
【請求項10】
2 nmの細孔を0.3 cm3/(g・nm)以上有する、請求項8又は9に記載の多孔質炭素材料。
【請求項11】
BET比表面積が1500 m2/g以上である、請求項8~10のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料の製造方法、及び該製造方法で得られた、多孔質炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭素材料は、その特性、例えば、多孔質性、吸着特性、耐久性、耐熱性等から、様々な分野において、例えば、電極、吸脱着剤、フィルター、触媒担体等として利用されている。各分野それぞれに適した多孔質炭素材料を開発するに際しては、その多孔質構造を制御することが重要である。
【0003】
一般に、多孔質炭素材料は、鋳型法で製造されている。鋳型法は、鋳型材と炭素源との混合物を炭素化し、鋳型を除去することにより多孔質炭素材料を得る方法であり、鋳型材の種類や構造を変えることにより多孔質構造を制御することができる方法である。鋳型法としては、ゼオライトやシリカを鋳型材とする方法、酸化マグネシウムを鋳型とする方法(非特許文献1)、界面活性剤を鋳型とする方法等が報告されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、鋳型除去、高比表面積化等のためにフッ酸(特許文献1)やアルカリ、又は酸(特許文献2)が使用されるので、多段のプロセス、多量の廃液の発生のため、コストと時間を要してしまう。
【0005】
そのため、多孔質炭素材料を鋳型法により、溶媒としてフッ酸やアルカリ、及び酸を使用せずとも簡便且つ効率的に製造する方法として、本発明者らは、炭素源である有機化合物と亜鉛化合物粒子及び亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも1種の無機鋳型材とを含む混合物を不活性雰囲気下で加熱処理することによって、有機化合物の炭素化処理並びに亜鉛化合物及び亜鉛粒子の気体化処理を行うことで、より簡便且つ効率的に多孔質炭素材料を製造できることを報告している(特許文献3、非特許文献2)。
【0006】
しかしながら、特許文献3の多孔質炭素材料の製造方法では、あらかじめナノ粒子状の酸化亜鉛を作製する必要があり、その粒子径制御は容易ではなく、また、その比表面積は実施例においては最大で1340 m2/gとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-102711号公報
【特許文献2】特開2021-84879号公報
【特許文献3】特開2020-189760号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】炭素、242(2010)、60-68
【非特許文献2】粉体工学会誌、58(2021)、497-504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せず、予め鋳型を製造する必要がなく簡便且つ効率的に製造する方法、及び該製造方法で得られた、多孔質炭素材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、クエン酸亜鉛又はグルコン酸亜鉛を炭素源としても利用し、クエン酸亜鉛又はグルコン酸亜鉛を不活性雰囲気で熱処理することによって、クエン酸亜鉛又はグルコン酸亜鉛の有機物成分が炭素化したマトリックス内で酸化亜鉛が生成し、900℃以上の高温域で酸化亜鉛が亜鉛に還元して蒸発除去されることで、多孔質炭素材料を製造することができるという知見を得た。本手法では、フッ酸やアルカリ、酸を用いた鋳型の除去工程を必要とせず、溶媒を使用せずとも、有機酸亜鉛粉末を炭素化するのみの1ステップで簡便且つ効率的に多孔質炭素材料を製造することができる。また、熱処理条件によって細孔径を制御できるとともに、2000 m2/g以上の高比表面積を有する多孔質炭素材料を得ることができる。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の多孔質炭素材料の製造方法、及び多孔質炭素材料を提供するものである。
【0012】
項1.炭素源である有機化合物と亜鉛との亜鉛化合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理及び金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法。
項2.前記亜鉛化合物が亜鉛の塩及び/又は亜鉛の錯体である、項1に記載の製造方法。
項3.前記亜鉛化合物が亜鉛と有機酸との塩である、項1に記載の製造方法。
項4.前記亜鉛化合物の融点が70~420℃である、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.前記亜鉛化合物のC/Znが3~36である、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6.前記加熱処理において、前記金属亜鉛の気体化温度域での加熱を行う、項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
項7.前記加熱処理において、前記金属亜鉛の気体化温度まで昇温し、前記金属亜鉛の気体化温度域での加熱を行う、項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
項8.項1~7のいずれかに記載の製造方法で得られた、多孔質炭素材料。
項9.10 nm以上の範囲に細孔径分布のピークを有しない、項8に記載の多孔質炭素材料。
項10.2 nmの細孔を0.3 cm3/(g・nm)以上有する、項8又は9に記載の多孔質炭素材料。
項11.BET比表面積が1500 m2/g以上である、項8~10のいずれか一項に記載の多孔質炭素材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せず、予め鋳型を製造する必要がなく簡便且つ効率的に製造する方法を提供することができる。また、本発明によれば、加熱処理(炭素化処理)のみの1ステップで多孔質炭素材料を製造できるとともに、熱処理条件によって細孔径を制御することができる。本発明の好ましい一態様においては、高比表面積の多孔質炭素材料を、鋳型法により、溶媒を使用せず、予め鋳型を製造する必要がなく簡便且つ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の多孔質炭素材料の窒素吸着等温線グラフを示す。縦軸は窒素吸着量を示し、横軸は相対圧力を示す。凡例中の各表記の右端の数字は、昇温速度X ℃/minを示す。
図2】実施例1の多孔質炭素材料の細孔径分布グラフを示す。縦軸は細孔容積を示し、横軸は細孔径を示す。凡例右端の数字については、図1と同様である。
図3】実施例2の多孔質炭素材料の窒素吸着等温線グラフを示す。縦軸は窒素吸着量を示し、横軸は相対圧力を示す。凡例中の各表記の右端の数字は、昇温速度X ℃/minを示す。
図4】実施例2の多孔質炭素材料の細孔径分布グラフを示す。縦軸は細孔容積を示し、横軸は細孔径を示す。凡例右端の数字については、図3と同様である。
図5】実施例2の多孔質炭素材料(ZnCit-1)について、各熱処理温度200℃、400℃、950℃におけるXRD測定の結果を表したグラフを示す。
図6】実施例2の多孔質炭素材料について、XRD測定の結果を表したグラフを示す。凡例右端の数字については、図3と同様である。
図7】実施例2の多孔質炭素材料(ZnCit-10)の透過型電子顕微鏡画像を示す。左図は熱処理温度450℃の画像であり、右図は熱処理温度950℃の画像である。
図8】実施例2の多孔質炭素材料について、TG-DTA測定の結果を表したグラフを示す。縦軸の左側は重量減少率を示し、縦軸の右側は熱流を示す。横軸は温度を示す。左上:ZnCit-1の測定結果、右上:ZnCit-5の測定結果、左下:ZnCit-10の測定結果、右下:ZnCit-20の測定結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0017】
本明細書中において、「及び/又は」なる表現については、「及び」と「又は」のいずれを選択した場合の意味も包含する。すなわち、「A及び/又はB」なる表現には、「A又はB」と「A及びB」のいずれの意味も包含される。
【0018】
本明細書中において、「気体化」は、液体から気体への変化(気化)と、固体から気体への変化(昇華)の両方を包含する用語である。
【0019】
1.多孔質炭素材料の製造方法
本発明は、その一態様において、炭素源である有機化合物と亜鉛との亜鉛化合物を不活性雰囲気下で加熱処理することにより、該有機化合物の炭素化処理及び金属亜鉛の気体化処理を行う工程を含む、多孔質炭素材料の製造方法(本明細書において、「本発明の製造方法」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0020】
本発明における「炭素源である有機化合物と亜鉛との亜鉛化合物」とは、炭素源である有機化合物と亜鉛とを構成要素として含む化合物(分子)であり、多孔質炭素材料の製造に使用することができるものであれば特に限定されない。
【0021】
炭素源である有機化合物としては、加熱によって炭化して炭素材料に変換し得る化合物であって、亜鉛を含む化合物を形成できるものである限り、特に制限されない。炭素源としては、例えば糖、高分子化合物、炭化水素化合物等が挙げられる。
【0022】
糖としては、例えば単糖、オリゴ糖、多糖等が挙げられる。
【0023】
単糖としては、例えば、七炭糖、六炭糖、五炭糖、四炭糖、又は三炭糖等が挙げられ、これらの中でも六炭糖が好ましく挙げられる。六炭糖としては、ガラクトース、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、マンノース、フルクトース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、イドース、プシコース、ソルボース、又はタガトースが挙げられる。
【0024】
オリゴ糖は、2分子以上の単糖がグリコシド結合により1分子に連結された糖である。オリゴ糖を構成する単糖の分子数としては、例えば、2~20が挙げられ、好ましくは2~10が挙げられ、より好ましくは2~5が挙げられ、さらに好ましくは2~4が挙げられ、より更に好ましくは2~3が挙げられ、特に好ましくは2が挙げられる。オリゴ糖を構成する単糖の種類としては、特に限定されず、上記に示した単糖を採用することができる。また、オリゴ糖を構成する単糖の組み合わせも特に限定されない。オリゴ糖の具体例としては、構成する単糖の分子数が2であるオリゴ糖(例えば、ラクトース、Galβ(1→3)GalNAc、Galβ(1→4)GlcNAc、Galβ(1→6)GlcNAc、スクロース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等)、構成する単糖の分子数が3であるオリゴ糖(例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等)、構成する単糖の分子数が4であるオリゴ糖(例えば、アカルボース、スタキオース等)、構成する単糖の分子数が5以上であるオリゴ糖が挙げられる。
【0025】
多糖としては、例えば、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、キトサン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、キシログルカン、グルコマンナン等が挙げられる。
【0026】
高分子化合物としては、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の双方を用いることができ、熱可塑性樹脂の例としては、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステルなどが挙げられ、熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0027】
炭化水素化合物としては、例えば、後述する有機酸などが挙げられる。
【0028】
本発明で使用する亜鉛化合物としては、亜鉛の塩及び/又は亜鉛の錯体が好ましい。亜鉛の塩及び/又は亜鉛の錯体の具体例としては、2-エチルへキシル酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、カプロン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、カプリン酸亜鉛、ネオデカン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ウンデシレン酸亜鉛、ナフテン亜鉛、ナフテン酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート、安息香酸亜鉛、p-tert-ブチル安息香酸亜鉛、フェノールスルホン酸亜鉛、亜鉛(II)=ジオクタノアート、ジフェニル亜鉛、亜鉛(II)=ジドデカノアート、フタル酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、8-ヒドロキシキノリン亜鉛錯塩、アミノ酢酸亜鉛、アルキル安息香酸亜鉛、ブロム酢酸亜鉛、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、ジフェニル亜鉛、テレフタル酸亜鉛、フタロシアニン亜鉛、アセキサム酸亜鉛、ビス(2,4-ペンタンジオナト)亜鉛、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸亜鉛(II)二ナトリウム塩四水和物などが挙げられる。
【0029】
本発明で使用する亜鉛化合物としては、中でも亜鉛と有機酸との塩が特に好ましい。有機酸の種類は、亜鉛と塩を形成することができるものであれば特に限定されない。有機酸としては、カルボン酸化合物などを挙げることができ、カルボン酸化合物の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、アジピン酸、ギ酸、シュウ酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、アミノ酸などが挙げられる。また、カルボン酸化合物の分子同士が亜鉛を介して結合しやすくなるため、奇数の多価カルボン酸も好ましい場合もある。例として、3価カルボン酸としてはクエン酸、アコニット酸、プロパン1,2,3-トリカルボン酸などが、5価カルボン酸としては、1,2,3,4,5-ペンタンペンタカルボン酸などが挙げられる。
【0030】
本発明で使用する亜鉛化合物の融点は、好ましくは70~420℃、より好ましくは120~380℃、更に好ましくは170~350℃である。このような融点を有する亜鉛化合物を使用することで、得られる多孔質炭素材料の細孔特性を向上させることができる。
【0031】
本発明で使用する亜鉛化合物のC/Znは、好ましくは3~36、より好ましくは3~22、更に好ましくは4~12である。このようなC/Znを有する亜鉛化合物を使用することで、得られる多孔質炭素材料の細孔特性を向上させることができる。ここで、C/Znとは亜鉛化合物中の炭素原子と亜鉛原子の比率である。
【0032】
亜鉛化合物は、より高比表面積の多孔質炭素材料が得られるという観点から、常温で固体であることが好ましい。亜鉛化合物の形状としては、特に制限されず、例えば、球状、塊状、棒状、平板状、円盤状などが挙げられる。
【0033】
亜鉛化合物は、1種単独であることもでき、2種以上の組合せであることもできる。また、亜鉛化合物には水和物の形態のものも含まれる。
【0034】
亜鉛化合物は、亜鉛を素材として含むものであり、金属亜鉛は加熱処理によりその一部又は全部が気体化する。加熱処理中に有機化合物は融点以上の温度で融解、熱分解し、炭素質になり(炭素化)、亜鉛は有機化合物成分が炭素化したマトリックス内で酸化亜鉛を生成する。さらに加熱処理を行い昇温することで、酸化亜鉛が周囲の炭素との反応により還元されて、比較的低温で気体化する金属亜鉛(沸点907℃)が生じるので、比較的低温での加熱処理によりこれを除去することができ、多孔質構造を得ることができる。
【0035】
加熱処理の際には、亜鉛化合物の他に、他の成分を添加することもできる。他の成分としては、例えば、無機鋳型材、他の炭素源、溶媒、バインダー等が挙げられる。本発明の一態様において、亜鉛化合物と他の成分との混合物100質量%中、亜鉛化合物は、例えば、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは99質量%以上、100質量%等である。
【0036】
亜鉛化合物の加熱処理は、不活性雰囲気下で行う。具体的には、不活性ガス中で行われる。不活性ガスとしては、特に制限されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0037】
加熱処理の温度は、金属亜鉛の気体化温度域である限り、特に制限されない。これにより、有機化合物が炭素化され(炭素化処理)、さらに金属亜鉛の気体化が起こり(気体化処理)、多孔質炭素材料が得られる。
【0038】
本発明の好ましい一態様において、加熱処理中に亜鉛は酸化亜鉛となり、さらに昇温することで、酸化亜鉛が周囲の炭素との反応により還元されて、比較的低温で気体化する金属亜鉛(沸点907℃)が生じるので、比較的低温での加熱処理によりこれを除去することができ、多孔質構造を得ることができる。そのため、加熱処理は、金属亜鉛の気体化温度域で加熱する工程を含むことが好ましい。金属亜鉛の気体化温度域は、金属亜鉛の沸点(907℃)以上の温度であり、例えば、907~1200℃、好ましくは920~1050℃、より好ましくは950~1000℃である。
【0039】
上記気体化温度域での加熱処理の時間は、多孔質炭素材料が得られる程度の時間である限り特に制限されず、亜鉛化合物の形態、容積等に応じて、適宜設定することができる。この時間は、例えば、1~12時間、好ましくは4~8時間である。
【0040】
本発明の好ましい一態様においては、加熱処理は、上記気体化温度域での加熱処理の前に、更に有機化合物の炭化温度域で加熱する工程を含む。炭化温度域は、炭化が十分に起こる温度である限り特に制限されず、例えば、400~900℃である。この態様における好ましい一態様においては、加熱処理は、上記気体化温度域での加熱処理の前に、更に金属亜鉛の気体化温度まで昇温させる工程を含む。昇温開始温度は特に制限されず、通常、0~50℃、20~35℃である。昇温速度は、特に制限されないが、例えば、0.1~40℃/min、好ましくは0.2~30℃/min、より好ましくは0.3~25℃/min、更に好ましくは0.5~20℃/minである。昇温速度を増加させることで、マイクロ孔、メソ孔の容積、比表面積を増加させることができる。さらに、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合も増加させることができる。
【0041】
加熱処理して得られた多孔質炭素材料は、必要に応じて、粉砕処理に供することができる。粉砕処理は、従来公知の方法を選択することが可能であり、粉砕処理を施した後の粒度、処理量に応じて適宜選択されることが好ましい。粉砕処理方法の例としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどを例示することができる。
【0042】
上述のとおり、加熱処理することにより、溶媒を使用せず、特に加熱処理後に溶媒を使用せずとも、予め鋳型を製造する必要がなく多孔質炭素材料を(好ましくは、高比表面積の多孔質炭素材料を)得ることができる。さらに、加熱処理(炭素化処理)のみの1ステップで、特開2020-189760号公報に記載の方法のような混合工程が必要なく多孔質炭素材料を製造できるとともに、熱処理条件(昇温速度)によって比表面積及び細孔容量を制御することができる。また、特開2020-189760号公報に記載の方法では、鋳型材である酸化亜鉛の粒子径と同等のメソ孔が形成され、酸化亜鉛粒子は20 nmより小さいものを作製するのが困難であるが、本発明の方法ではシングルナノサイズの細孔を制御可能であり、5 nm以下のメソ細孔を形成可能である。
【0043】
2.多孔質炭素材料
本発明は、その一態様において、本発明の製造方法で得られた、多孔質炭素材料(本明細書において、「本発明の多孔質炭素材料」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0044】
本発明の多孔質炭素材料の形状としては、特に制限されず、例えば、球状、楕円状、方形等の他、鱗片、薄片状等の板状、ロッド状、無定形状等である。
【0045】
本発明の多孔質炭素材料の平均粒子径は、例えば、1~1000μm、5~500μm、10~200μmである。
【0046】
本発明の好ましい一態様において、本発明の多孔質炭素材料は、高比表面積の多孔質炭素材料である。本発明の多孔質炭素材料における、窒素吸着等温線から算出されるBET比表面積は、例えば、800 m2/g以上、好ましくは1000 m2/g以上、より好ましくは1500 m2/g以上、更に好ましくは1800 m2/g以上、特に好ましくは2000 m2/g以上である。該比表面積の上限は、特に制限されず、例えば、3500 m2/g、3000 m2/g、2900 m2/gである。
【0047】
本発明の多孔質炭素材料は、メソ孔を有し得る。窒素吸着等温線から算出されるメソ孔容積は、例えば、0.02 cm3/g以上、好ましくは0.05 cm3/g以上、より好ましくは0.1 cm3/g以上、更に好ましくは0.2 cm3/g以上、より更に好ましくは0.3 cm3/g以上である。該メソ孔容積の上限は、特に制限されず、例えば、3 cm3/g、2 cm3/gである。
【0048】
本発明の多孔質炭素材料は、マイクロ孔を有し得る。窒素吸着等温線から算出されるミクロ孔容積は、例えば、0.2 cm3/g以上、好ましくは0.4 cm3/g以上、より好ましくは0.6 cm3/g以上、更に好ましくは0.8 cm3/g以上、より更に好ましくは1 cm3/g以上である。該マイクロ孔容積の上限は、特に制限されず、例えば、3 cm3/g、2 cm3/gである。
【0049】
本発明の多孔質炭素材料の全細孔容積に対するメソ孔容積の割合は、例えば、5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上、より更に好ましくは30%以上である。該割合の上限は、特に制限されず、例えば、60%、50%である。
【0050】
本発明の製造方法は、フッ酸、アルカリ、酸等を使用した無機鋳型材の除去処理や賦活処理を必要とせずに、多孔質炭素材料を(好ましくは、高比表面積の多孔質炭素材料)を得ることができる。このため、本発明の多孔質炭素材料におけるフッ酸、アルカリ成分及び酸成分の合計残留量は、例えば、100 ppm以下、好ましくは10 ppm以下、より好ましくは1 ppm以下である。特に好ましくは、本発明の多孔質炭素材料は、フッ酸、アルカリ成分及び酸成分を含まない。
【0051】
本発明の製造方法は、鋳型材を必要としない。鋳型材を使用した場合、鋳型材の粒子の粒子径と同等のメソ孔が形成されるが、酸化亜鉛粒子は20 nmより小さいものを作製するのが困難であるため、このような範囲に細孔径分布のピークが存在する。一方で、本発明の製造方法は、鋳型材を必要としないため、本発明の多孔質炭素材料は、例えば、10 nm以上、好ましくは15 nm以上、より好ましくは20 nm以上の範囲に細孔径分布のピークを有しない。
【0052】
本発明の製造方法では、鋳型材を必要としないため、シングルナノサイズの細孔を制御可能であり、5 nm以下のメソ細孔を形成可能である。そのため、本発明の多孔質炭素材料は、2 nmの細孔を、例えば、0.3 cm3/(g・nm)以上、好ましくは0.4 cm3/(g・nm)以上、より好ましくは0.5 cm3/(g・nm)以上有する。ここでの値は、窒素吸着等温線から算出される微分細孔容積である。
【0053】
本発明の多孔質炭素材料は、多孔質炭素材料を利用することが可能な様々な用途に使用することができる。例えば、窒素、酸素、二酸化炭素、メタンなどのガス分離材料、吸着材、キャパシタ材料、電極材料、フィルターなどに使用することができる。
【実施例0054】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0055】
実施例1
原料であるグルコン酸亜鉛n水和物((C6H11O7)2Zn・nH2O:富士フイルム和光純薬株式会社)を加熱装置にセットし、窒素気流下で、常温から950℃まで1~20℃/minで昇温させ、続いて950℃で6 時間加熱処理して、多孔質炭素材料を得た。以下では、このときの昇温速度をX ℃/minとして、グルコン酸亜鉛n水和物から得られた多孔質炭素材料を「ZnGlu-X」と表記している。
【0056】
実施例2
原料であるクエン酸亜鉛二水和物((C6H5O7)2Zn3・2H2O:シグマアルドリッチ)を加熱装置にセットし、窒素気流下で、常温から950℃まで0.5~20℃/minで昇温させ、続いて950℃で6時間加熱処理して、多孔質炭素材料を得た。以下では、このときの昇温速度をX ℃/minとして、クエン酸亜鉛二水和物から得られた多孔質炭素材料を「ZnCit-X」と表記している。
【0057】
試験例1
実施例1及び2で得られた各多孔質炭素材料の比表面積、細孔容積、細孔径分布を、測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社:BELSORP-max)を用いて窒素吸着法(77K)により測定した。窒素吸着等温線のデータから、BET比表面積(SBET)、ミクロ孔容積(Vmicro)、メソ孔容積(Vmeso)、全細孔容積(VT)を算出した。細孔径分布はBJH (Barrett-Joyner-Halenda)法により求めた。
【0058】
実施例1の多孔質炭素材料の窒素吸着等温線を図1に、細孔特性を表1に、細孔径分布を図2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示されるように、昇温速度が増加することによって、マイクロ孔、メソ孔の容量が増加している。また、高比表面積800~1000 m2/gの多孔質材料が得られた。昇温速度が10℃/minから20℃/minになることで(ZnGlu-10→ZnGlu-20)、メソ孔割合が増加し、比表面積が減少した。図2の結果から、特開2020-189760号公報の結果とは異なり、20 nmの粒子径にピークを示していないことが分かる。
【0061】
次に、実施例2の多孔質炭素材料の窒素吸着等温線を図3に、細孔特性を表2に、細孔径分布を図4に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示されるように、昇温速度が増加することによって、マイクロ孔容量が増加し(0.86→1.24 cm3/g)、比表面積も増加している。さらに、メソ孔容量も大幅に増加し(0.21→1.39 cm3/g)、特に図4に示されているように5 nm以下のメソ孔が増加している。図4の結果から、特開2020-189760号公報の結果とは異なり、20 nmの粒子径にピークを示していないことが分かる。
【0064】
ZnCit-20とZnGlu-20は、原料中のC/Znが異なっている(ZnCit:4, ZnGlu:12)。C/Znが減少することは鋳型源が減少することになり、これが比表面積及びメソ孔割合の増加につながり、細孔特性が向上することになる。
【0065】
試験例2
実施例2の多孔質炭素材料(ZnGlu-1)を使用して、生成物の構造及び中間生成物である酸化亜鉛の生成をXRD (粉末X線回折装置:株式会社リガク:MiniFlex)により分析した。
【0066】
XRD測定の結果を図5及び6に示す。図5から、酸化亜鉛(ZnO)のピークが熱処理温度変化に伴い消失していることが分かる。酸化亜鉛(ZnO)のピークは、400℃で生成し、950℃で消失していた。図6から、酸化亜鉛のピークが消失しており、ブロードなピークが見られており、このブロードなピークはアモルファスカーボンに認められる特徴である。これらのことから、熱処理のみの操作でZnO (鋳型)が生成し、除去されることが分かる。
【0067】
試験例3
実施例2の多孔質炭素材料について、TEM (透過型電子顕微鏡:日本電子株式会社:JEM-2010)により画像を取得した。
【0068】
TEM画像を図7に示す。図7の左の図から450℃でZnO結晶の生成の存在が確認でき、右の図から950℃でZnOが消失していることが確認できた。さらに、右上図から5 nmより小さい細孔ができていることが確認できた。
【0069】
試験例4
実施例2の多孔質炭素材料について、TG-DTA (示差熱・ 熱重量同時測定装置:株式会社島津製作所:DTG-60H)により分析した。TG-DTAの測定は、窒素気流下で行った。
【0070】
TG-DTAの測定の結果を図8に示す。図8から200℃以上で重量が減少していることが分かる。また、最初に吸熱反応が生じており、これはクエン酸の融解の相転移によるものである。次に発熱反応が生じているが、これはクエン酸の熱分解の炭素化によるものである。この結果から、昇温速度を変えると熱分解挙動を変えることができ、すなわち、細孔構造を変えることができることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8