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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074719
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】不活化装置、光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20230523BHJP
   A61L 9/20 20060101ALI20230523BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61L2/10
A61L9/20
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187813
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
【テーマコード(参考)】
2H148
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
2H148GA01
2H148GA14
2H148GA61
4C058AA23
4C058BB06
4C058EE26
4C058KK02
4C058KK21
4C058KK50
4C180AA07
4C180AA10
4C180DD03
4C180HH17
4C180LL04
(57)【要約】
【課題】出射される紫外光のうちの、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度が維持又は向上されつつ、人体に影響を及ぼす波長帯域の紫外光の強度が従来よりも抑制された不活化装置を提供する。
【解決手段】主たる発光波長帯域の少なくとも一部が200nm以上230nm以下の範囲内に含まれる紫外光を出射する紫外光源と、誘電体多層膜によって形成され、入射角が0度で入射する紫外光に関して、波長が190nm以上235nm以下の範囲内に紫外光を透過させる帯域を有し、かつ、透過率が5%を示す波長λ5が236nm以上245nm未満である光学フィルタとを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる発光波長帯域の少なくとも一部が200nm以上230nm以下の範囲内に含まれる紫外光を出射する紫外光源と、
誘電体多層膜によって形成され、入射角が0度で入射する紫外光に関して、波長が190nm以上235nm以下の範囲内に紫外光を透過させる帯域を有し、かつ、透過率が5%を示す波長λ5が236nm以上245nm未満である、前記紫外光源において発生した紫外光が入射する光学フィルタとを備えることを特徴とする不活化装置。
【請求項2】
前記紫外光源において発生し、前記光学フィルタに入射する紫外光の放射束の角度成分ごとの相対強度分布において、ピーク値を示す角度が、10度以上50度以下の範囲内に含まれることを特徴とする請求項1に記載の不活化装置。
【請求項3】
前記紫外光源を収容する筐体と、前記紫外光を前記筐体の外側に取り出すための透光窓とを備え、前記光学フィルタが前記透光窓の主面上に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の不活化装置。
【請求項4】
前記光学フィルタは、前記波長λ5が238nm以上243nm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の不活化装置。
【請求項5】
前記光学フィルタは、波長200nm以下の紫外光を吸収する材料を含む部材で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の不活化装置。
【請求項6】
前記紫外光源は、ピーク波長が210nm以上235nm以下の範囲内に含まれる紫外光を出射することを特徴とする請求項1又は2に記載の不活化装置。
【請求項7】
前記紫外光源は、発光管内に発光ガスとしてクリプトン(Kr)と塩素(Cl)を含むガスが封入されたエキシマランプであることを特徴とする請求項1又は2に記載の不活化装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の不活化装置が備える、誘電体多層膜によって形成された光学フィルタであって、
前記光学フィルタに入射角が0度で入射する紫外光に関して、波長が190nm以上235nm以下の範囲内に紫外光を透過させる帯域を有し、かつ、透過率が5%を示す波長λ5が236nm以上245nm未満であることを特徴とする光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌又はウイルスの不活化装置に関し、特に紫外光を利用する菌又はウイルスの不活化装置に関する。また、本発明は、紫外光を利用する菌又はウイルスの不活化装置に採用される光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外光を照射して菌やウイルスを不活化する技術が知られており、DNAが波長260nm付近に最も高い吸収特性を示すことから、多くの場合、低圧水銀ランプ等を光源とする波長が254nm付近の紫外光が利用されている。紫外光によって菌やウイルスを不活化する方法は、薬剤等を散布することなく、対象空間や対象物に紫外光を照射するだけで殺菌処理が行うことができるという特徴がある。
【0003】
紫外光には、人体に影響を及ぼすリスクが大きい波長帯域と、人体に影響を及ぼすリスクが小さい波長帯域が存在することが知られている。そこで、近年では、人体に影響を及ぼすリスクが小さい波長帯域の紫外光によって、空間内に存在する菌やウイルスを不活化するための方法や装置が検討されている。例えば、下記特許文献1には、人体への影響が極めて小さい、波長が190nm~230nmの紫外光を用いた殺菌装置(不活化装置)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6025756号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sachiko Kaidzu et al. 「Re-Evaluation of Rat Corneal Damage by Short-Wavelength UV Revealed Extremely Less Hazardous Property of Far-UV-C†」Photochemistry and Photobiology, 2021, 97: 505-516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度を向上させつつ、人体へ影響を及ぼす波長帯域の紫外光の強度の増加を抑制させることで、より改善された不活化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の不活化装置は、
主たる発光波長帯域の少なくとも一部が200nm以上230nm以下の範囲内に含まれる紫外光を出射する紫外光源と、
誘電体多層膜によって形成され、前記透光窓の主面に入射角が0度で入射する紫外光に関して、波長が190nm以上235nm以下の範囲内に紫外光を透過させる帯域を有し、かつ、透過率が5%を示す波長λ5が236nm以上245nm未満である光学フィルタとを備えることを特徴とする。
【0008】
本明細書において、「不活化」とは、菌やウイルスを死滅させる又は感染力や毒性を失わせることを包括する概念を指し、「菌」とは、細菌や真菌(カビ)等の微生物を指す。以下において、「菌又はウイルス」を「菌等」と総称することがある。
【0009】
本明細書において、「主たる発光波長帯域」とは、光源から出射される光の強度スペクトルにおいて、ピーク強度に対して10%以上の光強度を示す波長帯域をいう。なお、上記紫外光源は、ピーク波長が190nm~235nmの範囲内であるのが好ましく、210nm~235nmの範囲内であるのがより好ましい。
【0010】
近年、紫外光の人体への影響に関する研究や検証が進んでおり、紫外線は、皮膚表層や角膜上皮で吸収されやすく、波長が短くなるほど安全性が高まるという特徴を有することが確認されている。特に、波長240nm未満の紫外光は、人体に影響を及ぼすリスクが少ないことが確認されている。また、波長230nm以下の紫外光は、人体に影響を及ぼすリスクが極めて少ないことが確認されている。例えば、上記非特許文献1は、紫外光の照射によって誘発されるDNA損傷であって、癌の発生要因であるCPD(Cyclobutane Pyrimidine Dimers)の発生について検証した結果を報告している。
【0011】
上記非特許文献1によれば、波長207nmと波長222nmの紫外光は、生物の角膜に照射されると、角膜上皮の最上層までしか透過しないため、角膜上皮の最上層でしかCPDを発生させず、角膜上皮の最上層で発生したCPDは、生理的なターンオーバーサイクルの中で、通常24時間以内に角膜から剥がれ落ちるため、角膜上にほとんど残存しない。
【0012】
上記のような紫外光(特に波長200nm~230nmの紫外光)の人体への影響に関する検証については、近年多数の報告がなされている。人体への影響が小さい波長帯域の紫外光を利用した不活化装置は、最近のコロナウイルス感染症の流行の影響もあり、最近特に注目を集めている。
【0013】
そして、上述したような不活化装置は、人体への影響が極めて小さい波長帯域の紫外光を利用しながらも、物体表面を介した接触感染や、空間中に存在するエアロゾルを介した感染を抑制する効果が期待できることから、人が頻繁に往来する空間や、人が長時間作業を行う空間への設置が検討されている。
【0014】
しかしながら、波長が190nm~230nmの紫外光は、低圧水銀ランプから出射される紫外光に比べると人体に対する影響が極めて小さいとはいえ、安全性を考慮して人体に対する積算照射量についての規制値が設けられている。本願出願時において、人体に照射される紫外光の積算照射量は、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:アメリカ合衆国産業衛生専門官会議)で定められている規制値(許容限界値)以内にすることが推奨されている。例えば、波長が222nmの紫外光は、一日(8時間)あたりの積算照射量の許容限界値が22mJ/cm2と定められている。なお、本明細書における許容限界値の数値は、現行の数値であって、今後変更される可能性がある数値である。また、上記に限らず、人体に照射される紫外光の積算照射量は、所定の上限値を定めておくことが、安全な運用を行う上で望ましい。
【0015】
したがって、人が往来する空間等に対して紫外光を照射することが想定される不活化装置は、上述の紫外光の積算照射量の規制値を遵守しつつ、効率的に処理対象空間や処理対象物を不活化処理できることが求められる。
【0016】
上記非特許文献1は、波長207nmの紫外光と波長222nmの紫外光によって、角膜障害が発生する積算照射量の閾値についての検証結果について報告している。そして、上記非特許文献1は、紫外光の照射によって角膜障害が確認された積算照射量の閾値が、波長207nmの紫外光では10,000mJ/cm2~15,000mJ/cm2、波長222nmの紫外光では3,500mJ/cm2~5,000mJ/cm2であったことを報告している。上記結果が示すそれぞれの値は、現時点でACGIHによって規定されている規制値と比較すると、非常に高い値である。このような検証結果が多数発表されていることから、現在、特定の波長帯域の紫外光の積算照射量に関しては、規制値の見直しも予想される。
【0017】
積算照射量の規制値が緩和されると、紫外光を利用した不活化装置は、対象空間や対象物をより効率的に不活化処理するために、より高い強度で紫外光を照射する、人が往来する空間内で常時点灯させる等の使用態様が想定される。
【0018】
しかしながら、紫外光の放射照度を高めるべく、単純に紫外光源の光出力を高めた場合、人体に影響を与える波長帯域の紫外光の強度が高まり、人体に照射される場合における健康被害へのリスクが大きくなる懸念がある。つまり、上述したように、将来的に積算照射量の規制値が緩和された場合に対応するために、紫外光を用いた不活化装置は、人体に影響を及ぼす波長帯域の紫外光の強度を高めることなく、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度のみを高めることのできる工夫が要求される。
【0019】
また、不活化装置を人が往来する空間内で常時点灯を行う場合は、当該装置から出射される紫外光が人に照射される時間が長くなる可能性があり、人体への影響が大きい波長帯域の紫外光の積算照射量が増加してしまうおそれがあるため、健康被害へのリスクが懸念される。
【0020】
以上のことから、将来は、現在以上に、不活化装置から出射される紫外光のうちの、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度を向上させると共に、人体へ影響を及ぼす波長帯域の紫外光の強度の増加を抑制させることが求められると予測される。
【0021】
次に、紫外光源から出射される紫外光は、そのピーク波長が人体に対する影響が小さい波長帯域に属する場合であっても、発光スペクトルの裾の部分が存在することから、人体に対して影響を及ぼす波長帯域の成分が不可避的に含まれる場合がある。このため、紫外光を利用する不活化装置は、上記特許文献1に記載されている殺菌装置(不活化装置)のように、人体に対する影響がある波長帯域の紫外光を阻止するための光学フィルタが設けられるのが通常である。
【0022】
従来の設計思想に鑑みると、光学フィルタは、透過させたい波長帯域の透過率が十分高い値を示し、かつ、阻止したい波長帯域の透過率が十分低い値を示すように設計される。
【0023】
ところで、透過させたい波長帯域と阻止したい波長帯域の境界付近の波長帯域において、透過率が5%となる波長が、「波長λ5」、又は単に「λ5」等(以下では「波長λ5」という)と称される場合がある。「波長λ5」や「λ5」は、ガラス等の光を透過させる部材や、所定の波長帯域の光を阻止する光学フィルタ等の特性パラメータを考慮する際の指標として用いられることがある。なお、本明細書において「波長λ5」という場合は、特段の断りが無い限り、光学フィルタが形成されている透光窓の主面に対して入射角が0度で入射する紫外光のスペクトルに基づいて定まる波長に対応する。
【0024】
所定の波長帯域の紫外光を透過させる光学フィルタとしては、例えば、誘電体多層膜による光学フィルタが知られている。誘電体多層膜によって形成された光学フィルタは、各層の膜厚を変えることで、阻止する紫外光の波長帯域(逆にいえば、透過させる紫外光の波長帯域)を調整することができるという特徴がある。
【0025】
また、誘電体多層膜によって形成された光学フィルタは、角度依存性を有しているため、紫外光の入射角に応じて透過率のピーク値や、透過させる波長帯域等が変動するという特徴がある。この点は、図6及び図8を参照して後述される。
【0026】
そこで、本発明者は、紫外光を利用した不活化装置に関し、光学フィルタの入射角度特性をも考慮して、構成を見直すこととした。
【0027】
まず、本発明者は、不活化装置から出射される紫外光について、所定の条件下で、人体への影響が極めて小さい波長200nm以上230nm以下の波長帯域における紫外光の強度の積算値と、人体に影響を及ぼす可能性がある波長帯を含む波長235nm以上320nm以下の波長帯域における紫外光の強度の積算値との比率(当該比率は「有害光比率」と定義される。)に、光学フィルタの入射角特性がどのように寄与しているかを確認する検証を行った。当該検証の詳細については、「発明を実施するための形態」の項目において後述される。
【0028】
上記検証の結果によると、波長λ5が240nmとなるように設計された光学フィルタを搭載した不活化装置が出射する紫外光は、波長λ5が235nmとなるように設計された光学フィルタを搭載した不活化装置が出射する紫外光よりも、有害光比率が小さくなっている。これは、紫外光源において発生し、光学フィルタに入射する紫外光の放射束の角度成分において、0度より大きい角度成分が主体的となるためと推察される。
【0029】
また、本発明者は、上記検証結果に基づいて、入射角ごとの有害光比率について考察した。波長λ5が240nmとなるように設計された光学フィルタによる入射角ごとの有害光比率は、入射角が0度以上50度以下の範囲内において5%以下となっている。すなわち、波長λ5が240nmとなるように設計された光学フィルタは、入射角が当該角度範囲内の光に対して、特に有害光比率を抑制する効果が高いことが確認される。
【0030】
波長λ5が236nm以上245nm未満となるように設計された光学フィルタは、入射角が0度~50度の範囲内において30%以下となっている。なお、ここで述べた光学フィルタの特性については、「発明を実施するための形態」の項目において、図10を参照しながら後述される。
【0031】
つまり、紫外光の有害光比率を悪化させず安全な紫外光を透過させやすくする観点から、上述したような波長λ5が236nm以上245nm未満となるように誘電体多層膜で形成された光学フィルタを用いることが好ましい。さらに、入射する紫外光の相対強度分布における放射束の光強度は、入射角10度以上50度以下の範囲外の紫外光の強度が、当該入射角範囲内の紫外光の強度より低減されていることが好ましいといえる。つまり、当該相対強度分布における強度ピークが、入射角10度以上50度以下の範囲内に含まれていることが好ましい。
【0032】
したがって、上記不活化装置において、
前記紫外光源において発生し、前記光学フィルタに入射する紫外光の放射束の角度成分ごとの相対強度分布において、ピーク値を示す角度が、10度以上50度以下の範囲内に含まれることが好ましい。
【0033】
また、図10からわかるように、誘電体多層膜で構成された光学フィルタは、入射角10度以上45度以下の範囲内において有害光比率を5%以下に抑制し、入射角20度以上40度以下の範囲内において有害光比率を3%以下にまで抑制する。このことから、相対強度分布においてピークを示す入射角は、10度以上45度以下の範囲内であることがより好ましく、20度以上40度以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0034】
以上により、上記構成とすることで、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度を向上させつつ、人体に影響を及ぼす波長帯域の紫外光の強度の増加が従来よりも抑制された不活化装置が実現される。
【0035】
本発明の不活化装置の対象製品は、人や動物の皮膚や目に紅斑や角膜炎を起こすことはなく、紫外光本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の低圧水銀ランプとは異なり、有人環境で使用できるという特徴を生かし、屋内外の有人環境に設置することで、環境全体を照射することができ、空気と環境内設置部材表面のウイルス抑制・除菌を提供することができる。
【0036】
このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶すると共に、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【0037】
上記不活化装置は、
前記紫外光源を収容する筐体と、前記紫外光を前記筐体の外側に取り出すための透光窓とを備え、前記光学フィルタが前記透光窓の主面上に設けられていても構わない。
【0038】
また、上記不活化装置において、
前記光学フィルタは、前記波長λ5が238nm以上243nm未満の範囲内に含まれるように構成されていても構わない。
【0039】
また、上記不活化装置において、
前記光学フィルタは、波長200nm以下の紫外光を吸収する材料を含む部材で構成されていても構わない。
【0040】
また、上記不活化装置において、
前記紫外光源は、発光管内に発光ガスとしてクリプトン(Kr)と塩素(Cl)を含むガスが封入されたエキシマランプであっても構わない。
【0041】
発光管内に発光ガスとしてクリプトン(Kr)と塩素(Cl)を含むガスが封入されたエキシマランプは、ピーク波長が222nmであって、主たる発光波長帯域が200nm以上230nm以下の範囲内に含まれる紫外光を出射する光源である(後述される図6参照)。
【0042】
本発明の光学フィルタは、
上記不活化装置が備える前記透光窓に形成される、誘電体多層膜からなる光学フィルタであって、
前記透光窓の主面に入射角が0度で入射する紫外光に関して、波長が190nm以上235nm以下の範囲内に紫外光を透過させる帯域を有し、かつ、透過率が5%を示す波長λ5が236nm以上245nm未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、出射される紫外光のうちの、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度を向上させつつ、人体へ影響を及ぼす波長帯域の紫外光の強度の増加を抑制させることで、より改善された不活化装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】不活化装置の一実施形態の外観を模式的に示す図面である。
図2図1の不活化装置を+Z側から見たときの図面である。
図3】紫外光源で生成される紫外光のスペクトルの一例を示すグラフである。
図4図1の不活化装置をX方向に見たときの断面図である。
図5図4の紫外光源周辺の拡大図である。
図6】一実施形態における光学フィルタの透過率特性を、透光窓に対する紫外光の入射角θごとに示すグラフである。
図7A】平面上に形成された光学フィルタに入射する紫外光の相対強度分布を取得する方法を模式的に示す図面である。
図7B図7Aに示す紫外光源を光出射方向から見たときの図面である。
図7C】曲面上に形成された光学フィルタに入射する紫外光の相対強度分布を取得する方法を模式的に示す図面である。
図7D】立体角を考慮した紫外光源の角度θiごとの放射束Vθiに関する、0度~90度の範囲全体の相対強度分布を示すグラフである。
図8】比較例1の不活化装置が備える光学フィルタの透過率特性について、紫外光の透光窓の主面に対する入射角θごとに示すグラフである。
図9】実施例1及び比較例1の不活化装置の透光窓から出射された紫外光について、出射される紫外光の立体角を考慮し、光学フィルタに入射する放射束の相対強度分布に基づき、角度成分ごとの積算量を考慮して足し合わせて得られたグラフである。
図10】光学フィルタおける入射角θごとの有害光比率を示すグラフである。
図11】点光源から全方位に一様な光束で出射される光の進行について説明する図面である。
図12】不活化装置の別実施形態の紫外光源周辺の拡大図である。
図13】不活化装置の別実施形態の実施態様の一例を模式的に示す図面である。
図14図13の不活化装置の拡大図である。
図15】不活化装置の別実施形態における紫外光源の構成を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、不活化装置1の一実施形態の外観を模式的に示す図面であり、図2は、図1の不活化装置1を+Z側から見たときの図面である。図2に示すように、本実施形態の不活化装置1は、筐体10と、筐体10の内側に収容された紫外光源30とを備える。
【0046】
以下の説明においては、図2に示すように、紫外光源30が備える後述される複数の発光管30aが配列されている方向をX方向、当該発光管30aが延伸する方向をY方向とし、X方向とY方向とに直交する方向をZ方向として説明する。
【0047】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。図1及び図2に示す不活化装置1においては、紫外光が取り出される方向が「+Z方向」に対応する。
【0048】
筐体10は、図1及び図2に示すように、紫外光源30から出射された紫外光を筐体10の外側に取り出すための透光窓20を備える。
【0049】
本実施形態の紫外光源30は、図2に示すように、複数の発光管30aと、一対の電極30bとを備えるエキシマランプである。複数の発光管30aは、後述される図4に示すように、一対の電極30bに載置されている。
【0050】
図3は、紫外光源30で生成される紫外光Lxのスペクトルの一例を示すグラフである。本実施形態の紫外光源30は、発光管30a内に発光ガスG1としてクリプトン(Kr)と塩素(Cl)が封入されており、電極(30b,30b)間に電圧が印加されることによって、図3に示すような、ピーク波長が222nmである紫外光Lxを出射する。また、紫外光源30から出射される紫外光は、図3に示すように、主たる発光波長帯域が216nm以上223nm以下のスペクトルを示す。
【0051】
紫外光源30は、人体への影響が小さく、不活化処理の効果が認められる波長帯域の紫外光を出射する光源を採用し得ることから、出射する紫外光のピーク波長が210nm以上235nm以下の範囲内に含まれることが好ましく、波長215nm以上230nm以下の範囲内に含まれることがより好ましい。
【0052】
図4は、図1の不活化装置1をX方向に見たときの断面図であり、図5は、図4の紫外光源30周辺の拡大図である。透光窓20は、紫外光源30から出射された紫外光を、筐体10の外側に取り出すための光出射窓である。本実施形態の透光窓20は、主面20a上に誘電体多層膜からなる光学フィルタ20bが形成されている。
【0053】
不活化装置1は、図3に示すようなスペクトルを示す紫外光が、図4及び図5を参照して後述する光学フィルタ20bを通過した後に、透光窓20から外部に取り出される。なお、図4では、紫外光源30で生成される紫外光を「紫外光Lx」と表記し、透光窓20を通過して不活化装置1の外部に取り出される紫外光を「紫外光L1」と表記することで、両者が区別されている。以下においても、適宜同様の表現が用いられる。
【0054】
透光窓20は、波長190nm以上235nm以下の波長帯域に含まれる紫外光を透過させることができる材料で構成される。透光窓20の具体的な材料としては、例えば、石英ガラスや、ホウケイ酸ガラス、サファイア、フッ化マグネシウム材、フッ化カルシウム材、フッ化リチウム材、フッ化バリウム材等のセラミクス系材料や、シリコン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂系材料を採用し得る。
【0055】
また、本実施形態の光学フィルタ20bは、図5に示すように、透光窓20の主面20aに形成されているが、透光窓20の主面20aとは反対側の主面20cに形成されていても構わない。
【0056】
本実施形態では、紫外光源30の発光管30aの管軸方向(Y方向)の長さが70mm、紫外光源30と光学フィルタ20bとの離間距離が8mm、光学フィルタ20bのサイズが(X,Y)=(60mm,45mm)となっている。なお、ここに記載されているそれぞれのサイズ構成は、単なる一例であって、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの相対強度分布において、入射角θが10度以上50度以下に強度ピークを示すように構成されていれば、それぞれのサイズは任意である。
【0057】
図6は、本実施形態における光学フィルタ20bの透過率特性について、透光窓20の主面20aに対する紫外光の入射角θごとに示すグラフである。本実施形態における光学フィルタ20bは、誘電体多層膜により形成されており、図6に示すように、波長が190nm以上235nm以下の範囲内に属する紫外光Lxを透過させる帯域を有するように構成されている。
【0058】
なお、この図6のグラフは、分光光度計を用いて、光学フィルタ20bを透過する光線の分光スペクトルを測定して得られたグラフである。具体的には、図6は、光学フィルタ20bに対する入射角θに対応する出射角を、0度~60度の範囲内で10度ごとに変化させ、各入射角θにおける波長200nm~320nmまでの透過率を測定して得られたグラフである。
【0059】
図6に示されるグラフは、当該測定によって得られた、入射角θごとの透過率の波形を重ね合わせて作成されている。
【0060】
また、本実施形態における光学フィルタ20bは、図6に示すように、透光窓20の主面20aに対して入射角θが0度で入射する紫外光に対して、透過率が5%を示す波長λ5(この波長λ5は、要するに透過率が5%を示す長波長側の波長である。)が240nmとなるように構成されている。
【0061】
なお、誘電体多層膜で構成された光学フィルタ20bは、誘電体多層膜を構成する各膜の膜厚を微調整することで、波長λ5を調整することができる。
【0062】
光学フィルタ20bは、透光窓20に入射する紫外光Lxの入射角θが大きくなるほど、紫外光Lxが透過する帯域が徐々に短波長側に移動すると共に、徐々に透過率のピーク値が低下する。しかし、本実施形態の光学フィルタ20bは、図6に示すように、紫外光Lxの入射角θが40度を超えても、波長200nm以上230nm以下の波長帯域における紫外光の透過率が50%以上を維持している。
【0063】
ここで、本明細書における「相対強度分布」について、図面を参照しながら説明する。図7Aは、平面上に形成された光学フィルタ20bに入射する紫外光の相対強度分布を取得する方法を模式的に示す図面であり、図7Bは、図7Aに示す紫外光源30を光出射方向から見たときの図面である。また、図7Cは、曲面上に形成された光学フィルタ20bに入射する紫外光の相対強度分布を取得する方法を模式的に示す図面である。図7A図7Cに示す紫外光源30が収容される筐体10は、図示の都合上、他の図面で図示されている筐体10とは異なる構成で図示されている。
【0064】
最初は、透光窓20の主面20a上、すなわち、平面上に形成された光学フィルタ20bに入射する場合の相対強度分布の取得方法を説明する。図7A及び図7Bに示す構成の不活化装置1では、光学フィルタ20bを取り除いた状態で、紫外光源30の中心Q1から光学フィルタが形成されている平面の法線N1方向に位置する、紫外光源30から出射される紫外光を検知可能な位置を基準として、第一の方向(本実施形態においては、中心Q1を通過する発光管30aの管軸方向に平行な直線を中心軸とする周方向)に、角度θiを5度ずつ変化させて、出射角度0度~±90度の範囲の紫外光の強度を測定する。
【0065】
ここでの角度θiは、透光窓20の法線N1に対する光線の傾斜角度で規定し、紫外光源30から所定の離間距離となる位置で光強度を測定する。図7Aに示すように、紫外光源30が複数の発光管30aを備えるような構成の場合は、発光管30aが配置された領域30cの中心Q1から光が出射されているとみなして計測される。
【0066】
なお、計測を行う際は、紫外光源からの離間距離が、光源サイズに対して10倍以上であることが望ましい。例えば、本実施形態においては、離間距離が50cm以上であることが望ましい。離間距離が十分に確保されることで実質的な点光源として扱いやすくなるが、離間距離が短い場合は算出の誤差を生じさせやすい。
【0067】
次に、光学フィルタ20bを取り除いた状態で、第二の周方向(本実施形態においては、中心Q1を通過する発光管30aの配列方向に平行な直線を中心とする周方向)において、角度θiを5度ずつ変化させて、出射角度0度~±90度の範囲の紫外光の強度が測定される。なお、第一の方向と第二の方向は、法線N1方向から見たときに、図7Aに示すように、計測器C1の位置を各測定点に合わせるように動かすと、計測器C1の動線が直交する関係となるように規定される。
【0068】
上述した方法により、光学フィルタ20bが取り除かれた状態での第一の方向及び第二の方向における5度刻みでの光強度分布が測定される。
【0069】
次に、上述の方法で取得された方法から、紫外光の全光束で見たときの、放射束の角度θi(表記の都合上、ここでは弧度法[rad]によって説明する。)の成分ごとに積算した光強度を算出する。光学フィルタ20bに入射される紫外光について、角度θiの成分ごとの放射束をVθiとすると、放射束Vθiは、角度θiの値に応じて、下記数1~数3の式により算出される。
【0070】
【数1】
【0071】
上記数1の式は、角度θiが、θi=0の場合に適用される式である。
【0072】
【数2】
【0073】
上記数2の式は、角度θiが、0<θi<πの場合に適用される式である。
【0074】
【数3】
【0075】
上記数3の式は、角度θiが、θi=πの場合に適用される式である。
【0076】
ここで「IAθi」は、第一の方向の角度θiにおける紫外光の光強度であり、「IBθi」は、第二の方向の角度θiにおける紫外光の光強度である。また「Δθ」は、第一の方向及び第二の方向それぞれの測定角度間隔である。なお、測定角度間隔Δθは、π/36(=5度)である。
【0077】
例えば、角度θiがπ/12(=15度)の角度成分の放射束Vθiを算出する場合、第一方向における紫外光の角度θiが15度の光強度IAθiと、第二方向における紫外光の角度θiが15度の光強度IBθiとを計測する。そして、測定角度間隔Δθはπ/36(=5度)とする。そして、角度θiがπ/12(=15度)の場合に適用される上記数2の式を用いて、角度θi=π/12(=15度)の放射束Vθiが算出される。
【0078】
上記手順により、角度θi(以下、再び度数法によって説明する。)ごとの放射束Vθiを算出してグラフ化することで、積算強度のピーク値を示す角度θiを判定することができる。図7Dは、図7A及び図7Bに示す測定系での角度θiごとの放射束Vθiに関する、0度~90度の範囲全体の相対強度分布を示すグラフである。図7A及び図7Bに示す紫外光源30は、図7Dに示すように、角度θiが20度以上50度以下の範囲内に放射束Vθiの光強度のピークが形成される。
【0079】
光学フィルタ20bが平面上ではなく、曲面上に形成されている場合は、図7Aに示すように、接面T1の法線N1を基準として角度θiごとの光強度が測定される。なお、法線N1は、中心Q1から接面T1に対して引かれる垂線である。
【0080】
しかしながら、光学フィルタ20bの曲率によって、図7Cに示すように、測定対象となる光線の進行方向と法線N1となす角度と、当該光線が実際に通過する位置の接面T2の法線N2となす角度とが異なってしまう部分が生じる。そこで、光学フィルタ20bが曲面上に形成されている場合は、角度θiごとに得られた紫外光の放射束の光強度対して、角度θiの補正を行う。なお、補正の内容は以下である。
【0081】
説明の便宜ため、ここでは光学フィルタ20bが、図7Cに示すように、第一の方向にのみ湾曲していることを前提として説明する。光学フィルタ20bが第一の方向に湾曲する形態であれば、紫外光源30の中心Q1からの出射される光の法線N1に対する角度θiから、光学フィルタ20bの接面T2に直交する法線N2に対する補正角度θicを算出する。
【0082】
光学フィルタ20bが曲面上に形成されている場合は、上述の方法で算出された紫外光の放射束Vθiを、補正角度θicの放射束の光強度と見なして補正する。例えば、「VAθi」は、第一の方向の角度θiに基づく紫外光の放射束であり、「VBθi」は、第二の方向の角度θiに基づく紫外光の放射束であるが、光学フィルタが湾曲している第一方向の角度θiは、補正角度θicの放射束と見なし、「VAθi」は、補正角度θicに基づく紫外光の放射束として扱う。
【0083】
この際、第一方向における補正された角度成分ごとの放射束「VAθi」の相対強度分布と、第二方向における補正しない角度成分ごとの放射束「VBθi」の相対強度分布と、を足し合わせることで、補正後の全体の放射束「Vθi」の相対強度分布が算出される。なお、光学フィルタ20bが第二の方向においても湾曲している場合は、第二の方向においても同様に上述の補正が行われる。
【0084】
次に、光学フィルタ20bを透過して筐体10から出射される紫外光において、光学フィルタ20bの波長λ5と、有害光比率との関係性を確認するための検証を行ったので、当該検証について説明する。
【0085】
ここでの「有害光比率」とは、上述したように、不活化装置から出射された紫外光について、波長が200nm以上230nm以下の紫外光における強度を積分した値に対する、波長が235nm以上320nm以下の紫外光における強度を積分した値の比率、として定義した。
【0086】
なお、上述したように、人体に照射される紫外光の積算照射量は、波長ごとに所定の規格値が定められている。このため、検証対象となる各不活化装置は、透光窓20から出射される紫外光L1のピーク波長(本検証においては波長222nm)における強度が同じになるように、光強度の最大値を「1」に規格化して有害光比率を比較する。
【0087】
(実施例1)
実施例1は、上述の不活化装置1とした。
【0088】
(比較例1)
比較例1は、光学フィルタ20bを構成する誘電体多層膜のそれぞれの膜厚を調整して、波長λ5が235nmに調整されていることを除いて、実施例1と同じ構成の不活化装置とした。図8は、比較例1の不活化装置が備える光学フィルタの透過率特性を、紫外光の透光窓20に対する入射角θごとに示すグラフである。なお、図8のグラフの作成方法は、上述した図6の場合と同様である。図6に示す光学フィルタ20bの特性と比較して、比較例1の光学フィルタは波長200nm以上230nm以下の波長帯域における紫外光の透過光量の総量がより低いことがわかる。
【0089】
(結果)
図9は、実施例1及び比較例1の不活化装置それぞれの透光窓から出射された紫外光について、出射される紫外光の立体角を考慮し、光学フィルタに入射する相対強度分布に基づき、角度成分ごとの積算量を考慮して足し合わせて得られたグラフである。これは、光学フィルタを透過した紫外光の全光束において、角度成分ごとのスペクトルや相対強度の違いを均質化させた場合のスペクトルに相当する。図9に示すグラフは、縦軸が波長222nmにおける光強度を1とした時の相対強度を、対数スケールで示している。なお、図9に示すグラフは、光学フィルタからの出射光を完全拡散させた際に得られるスペクトルとも近似するものである。
【0090】
図9に図示されているグラフに基づいて算出される有害光比率は、実施例1が0.69%、比較例1が0.72%であった。つまり、実施例1の不活化装置1から出射される紫外光L1は、比較例1の不活化装置から出射される紫外光に対して、不活化処理に利用される紫外光の強度に対する有害光の強度の比率が低いことが確認される。
【0091】
実施例1の光学フィルタ20bは、図6に示すように、入射角θが60度の場合、波長300nm付近から透過率が高くなっており、入射角θが50度の場合、波長310nm付近から透過率が高くなっている。これに対し、比較例1の光学フィルタは、図8に示すように、入射角θが60度の場合、波長290nm付近から透過率が高くなっており、入射角θが50度の場合、波長300nm付近から透過率が高くなっており、入射角θが40度の場合、波長310nm付近から透過率が高くなっている。
【0092】
誘電体多層膜で構成された光学フィルタは、各層の膜厚を調整することによって波長λ5を変動させると、透過率の特性が波長λ5の変動に伴って変動する。具体的には、図6及び図8に示すように、波長λ5が短波長側に変動することに伴って、波長300nm付近に存在する透過率が増加する帯域が短波長側に移動する。
【0093】
このことから、図9に示すグラフのように、比較例1における波長240nm~320nmの紫外光の相対強度が、実施例1の紫外光L1の強度よりも高くなっている。
【0094】
さらに、図6及び図8に示すように、いずれの光学フィルタにおいても、波長200nm~210nmの波長帯域においては透過率が10%以下であり、波長210nmから長波長側に向かうにつれて透過率が増加する。当該特徴は、波長λ5の変動に対してほとんど変化していない。これは、長波長側の紫外光は光学フィルタの膜設計により阻止波長域が変動するが、短波長側の紫外光は光学フィルタ自体が吸収するためである。
【0095】
上述したように、透光窓20から出射される紫外光L1のピーク波長(本検証においては波長222nm)における光の積算光量が、所定の規格値(本検証においては22mJ/cm2)となるように、紫外光源30で生成される紫外光Lxの光強度が調整されている。この際、実施例1における紫外光源30は、比較例1における紫外光源30と比較して、ピーク波長の透過率が高水準で維持されやすい。したがって、実施例1における紫外光源30は、比較例1における紫外光源30と比較して、ピーク波長の積算光量が所定の規格値となるまで紫外光を照射した際の有害光比率が悪化せず、図9においては有害光比率が低くなることが分かる。
【0096】
このため、実施例1の不活化装置1は、比較例1の不活化装置と比較して、波長200nm以上230nm以下の帯域における光強度の積分値は変動が少なく、波長235nm以上320nmの帯域における光強度の積分値はより低くなる方向に変動している。
【0097】
図10は、光学フィルタ20bにおける入射角θごとの有害光比率を示すグラフであり、縦軸が有害光比率、横軸が入射角θを示している。図10に示すように、波長λ5が236nmとなるように設計された光学フィルタでは、入射角θが0度~50度の範囲内では、有害光比率が30%以下であり、入射角θが50度以上になると30%より高い有害光比率となっている。
【0098】
また、波長λ5が244nmとなるように設計された光学フィルタは、入射角θが0度の時は5.0%を超える有害光比率となっているが、入射角θが大きくなるにつれて徐々に有害光比率が低下し、入射角θが10度~50度の範囲内では、有害光比率が5%以下となっている。そして、入射角θが60度よりも大きくなると、有害光比率が30%を超えている。
【0099】
以上のことから、有害光比率を少なくとも30%以下に抑制する範囲内に、光学フィルタに入射する紫外光の角度成分ごとの放射束のピーク値が配置されるため、相対強度分布においてピークを示す入射角θは、10度以上50度以下の範囲内に含まれていることが好ましいことがわかる。また、より有害光比率を低減させるために、相対強度分布においてピークを示す入射角θは10度以上45度以下の範囲内に含まれていることがより好ましく、20度以上40度以下の範囲内に含まれていることが特に好ましいことがわかる。
【0100】
最後に、本実施形態における光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの相対強度分布が、入射角θが20度以上50度以下の範囲において強度ピークを示していることを説明する。図11は、点光源A1から全方位に一様な光束で出射される光の進行について説明する図面である。図11に示すように、点光源A1から全方位に一様な光束で光出射されて、一部が平面Pxに照射される仮定とする。
【0101】
そして、図11に示すように、点光源A1から出射された光束が、入射角θが0度で入射する平面Px上の領域をP0、入射角θが30度で入射する領域をP30とする。すると、図11からわかるように、平面Px上において、領域P0は1点のみであるのに対し、領域P30は、領域P0を中心とした円環状の領域となる。
【0102】
さらに、上述したように、点光源A1から全方向に一様な光束で光が出射されていると、位置P0の一点のみに入射する光の光束よりも、円環状の領域を形成する位置P30全体に入射する光の光束の合計の方が大きいことがわかる。すなわち、光源が点光源であることを仮定すると、所定の面に対して入射する光の光束の総量は、入射角θが0度から大きくなるにつれて大きくなる。これは放射束の角度成分ごとの相対強度が、位置P0よりも位置P30のほうが大きくなることを意味する。
【0103】
本実施形態の不活化装置1に搭載されている紫外光源30は、発光管30aの管軸方向に点光源が配列されているものと等価とみることができる。そうすると、配列された点光源それぞれで見た場合を想定すると、光学フィルタ20bに入射する光束は、入射角θが0度の場合に最小となり、0度から大きくなるにつれて、徐々に光束の総量が大きくなる。
【0104】
光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの強度は、光束の量に比例する。そして、光学フィルタ20bに入射する光束の量は、入射角θが0度から大きくなるについて増加する。そして、入射角θがある程度大きい領域となると、光学フィルタ20bに入射できない光束の量が増加するため、紫外光Lxの光束の量は減少していくことになる。入射する光束の量が減少し始める入射角θは、紫外光源30と光学フィルタ20bとの距離、紫外光源30の発光管30aのサイズ、光学フィルタ20bが形成されている面積等によって調整される。紫外光源30や光学フィルタ20bの具体的なサイズ等は、上述した通りである。
【0105】
上記の結果から、波長λ5が236nm以上245nm未満となるように設定された光学フィルタ20bは、入射角θが10度~50度の範囲の紫外光Lxに対して、有害光比率を低減させる効果が比較的高いことが確認される。したがって、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの相対強度分布は、入射角θが10度~50度の範囲外の光強度が、入射角θが10度~50度の範囲内の光強度よりも低くなっていることが好ましい。すなわち、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの相対強度分布における強度ピークが、入射角θが10度~50度の範囲内に含まれていることが好ましい。
【0106】
以上の理由から、実施例1の不活化装置1から出射される紫外光L1は、比較例1の不活化装置から出射される紫外光と比較して、有害光比率が低い結果となっている。
【0107】
したがって、上記構成とすることで、不活化装置1は、出射される紫外光L1に含まれる人体に対して影響がある紫外光の割合を低減することができる。つまり、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度を向上させつつ、人体に影響を及ぼす波長帯域の紫外光の強度を従来と同等か、従来よりも抑制した不活化装置1が実現される。
【0108】
また図9に示すとおり、比較例1に対して実施例1は、波長235nm~240nmの紫外光量が相対的に高くなり、波長240nm~320nmの紫外光量が相対的に低くなっている。つまり、より人体への影響が高いとされる240nm~280nmの波長帯域に属する紫外光量はより低減され、当該波長帯域と比較して安全性が良好な波長235nm~240nmの紫外光量が増えている。そのため、実施例1は、人体に影響を及ぼす可能性がある波長帯を含む波長235nm以上320nm以下の波長帯域の内、人体への影響が高い波長成分がより低減されており、安全性がより向上していると考えられる。
【0109】
上述したとおり、有害光比率を低下させるためには、波長200nm以上230nm以下の帯域における光強度の積分値の低下は抑制しつつ、波長235nm以上320nmの帯域における光強度の積分値を低下させることが望ましい。
【0110】
そのため、光学フィルタは、波長235以上320nm以下の波長帯における少なくとも一部の紫外光の透過を制限するローパスフィルタであっても良く、これにより波長200nm以上230nm以下の帯域における光強度の積分値を低下させ難くすることができる。
【0111】
また、光学フィルタは、波長200nm以上230nm以下の紫外光を透過し、波長235nm以上320nm以下の波長帯域における少なくとも一部の紫外光の透過を制限するバンドパスフィルタであってもよい。この場合、光学フィルタは、波長200nm以下の紫外光を吸収する材料を含む部材で構成されていることが望ましい。光学フィルタの膜設計により吸収端が変動した場合でも、200nm以下の紫外光を光学フィルタ自体が吸収することで、波長200nm以下の紫外光の透過が安定して制限され、波長200nm以上230nm以下の波長帯域の光強度が安定しやすい。なお、波長200nm以下の紫外光を吸収する材料は、例えば、HfO2、Y23等である。
【0112】
以上のとおり、光学フィルタ20bは、透過率が5%を示す波長λ5が236nm以上245nm未満である光学フィルタとすることで、有害光比率を低下させることに寄与する。また、光学フィルタは、波長λ5が236nm以上245nm未満とし、波長200nm~230nmの紫外光を透過するローパスフィルタとすることで、光学フィルタの膜設計の違いにより、波長230nm以下の紫外光の透過率が悪化することが防ぎやすい。さらに、波長200nm以下の紫外光を吸収する素材で構成されたバンドパスフィルタを用いることで、波長200nm以下の紫外光の透過が安定して制限され、波長200nm以上230nm以下の紫外光の光強度が安定しやすい。
【0113】
本実施形態における光学フィルタ20bは、波長λ5が240nmとなるように構成されているが、人体に影響を及ぼす波長帯域の紫外光が筐体10から取り出される量を抑制する観点から、上記検証結果によれば、光学フィルタ20bの波長λ5は、波長236nm以上245nm未満であることが好ましい。また、人体に影響を及ぼす波長帯域の紫外光が筐体10から取り出される量をより抑制するため、光学フィルタ20bの波長λ5の上限波長は、243nm以下であることが好ましく、波長242nm以下であることがより好ましい。さらに、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度をより向上させるため、光学フィルタ20bの波長λ5の下限波長は、波長237nm以上であることが好ましく、波長238nm以上であることが好ましく、波長239nm以上であることがより好ましい。上記に基づき、例えば、光学フィルタは、波長λ5が波長238nm以上243nm以下であることがより好ましい。
【0114】
本実施形態における紫外光源30は、主たる発光波長帯域の少なくとも一部が200nm以上230nm以の範囲内に含まれる紫外光Lxを生成する光源であればよい。紫外光源30は、例えば、発光管30a内に発光ガスG1としてクリプトン(Kr)ガスと臭素(Br)ガスが封入された、ピーク波長が207nmの紫外光Lxを出射するエキシマランプであっても構わない。また、ピーク波長が200nm以上235nm以下の範囲内に含まれるLEDやLD、波長変換部材を用いた紫外光源を採用しても構わない。
【0115】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0116】
〈1〉 図12は、不活化装置1の別実施形態の紫外光源30周辺の拡大図である。不活化装置1は、図12に示すように、光学フィルタ20bの後段に、光学フィルタ20bから出射された紫外光L1を拡散させる拡散部材20dをさらに備えていても構わない。
【0117】
拡散部材20dは、光学フィルタ20bを透過した紫外光L1を拡散させ、光学フィルタ20bから出射される紫外光L1の角度成分ごとに異なる光強度やスペクトル等を均質化する。このため、不活化装置1から出射される紫外光L1は、光束それぞれが、図9に示すスペクトルとほぼ同じ特性を持つ光束となる。したがって、上記構成とすることで、不活化装置1は、人体への影響が小さい波長帯域の紫外光の強度を向上させ、有害光比率が維持又は低減された紫外光L1をより広い範囲に照射することができ、広範囲を効率的に、かつ、より安全に不活化処理を実行することができる。
【0118】
なお、本実施形態では、図12に示すように、透光窓20の光学フィルタ20b上に直接拡散部材20dを重ねた構成が図示されているが、拡散部材20dの構成は当該構成に限られず、例えば、別部材としてネジ止めによって筐体10に固定されるような構成であってもよく、光学フィルタ20bから離間して配置される構成であっても構わない。
【0119】
〈2〉 図13は、不活化装置1の別実施形態の実施態様の一例を模式的に示す図面であり。図14は、図13の不活化装置1の拡大図である。不活化装置1は、図14に示すように、筐体10を備えず、単に紫外光源30の周囲の一部に光学フィルタ20bが形成されたプレート20pが設けられただけの構成であっても構わない。
【0120】
プレート20pの材料は、上述した透光窓20を構成する材料を採用し得る。また、図14に示すように、プレート20pは湾曲するように形成されているが、平坦に形成されていても構わない。
【0121】
なお、本実施形態では、図14に示すように、プレート20pが湾曲するように形成されていることによって、光学フィルタ20bも平面上ではなく曲面上に形成されている。このような場合、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの放射束の角度成分ごとの相対強度分布は、図14に示すように、所定の箇所における法線N1に対する傾斜角(入射角θ)ごとに、図7A及び図7Bを参照しながら上述した測定方法によって測定して求められる。
【0122】
上記構成とすることで、例えば、図13に示すように、人が往来する部屋2の下方空間には、有害光比率が抑制された紫外光L1が照射される。そして、人の身長よりも高い部屋2の上方空間は、プレート20pや光学フィルタ20bによって減衰されていない紫外光Lxがそのまま照射される。部屋2内に存在する不活化処理対象となるエアロゾル等は、自然対流によって部屋2内の下方空間と上方空間とを循環する。このため、部屋2の上方空間に高い強度の紫外光Lxが照射されることで、部屋2内の不活化処理は自然対流によって進行する。
【0123】
したがって、本実施形態の不活化装置1は、人に対する安全性と、高効率な不活化処理の両立を実現することができる。
【0124】
〈3〉 図15は、不活化装置1の別実施形態における紫外光源30の構成を模式的に示す図面である。不活化装置1は、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの相対強度分布が20度以上50度以下の範囲に強度ピークを有するように構成される限り、図14に示すように、光学フィルタ20bが紫外光源30を構成する発光管30aの壁面に構成されていても構わない。なお、光学フィルタ20bが形成される場所は、発光管30aの内壁面30a1であっても外壁面30a2であっても構わない。
【0125】
図15に示す紫外光源30は、管軸30xに沿って切断した断面が矩形状を呈する、扁平管形状とも称されるエキシマランプであって、発光ガスG1が封入された発光管30aを介して対向するように設けられた一対の電極(30b,30b)間に電圧が印加されることで、発光管30a内に紫外光Lxが発生する。このとき、紫外光Lxは、電極(30b,30b)と平行であって、管軸30xを含む平面30p近傍で最も多く発生する。
【0126】
ここで、本実施形態において、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの相対強度分布を概算した例を示す。まず、平面30pに、全方向に対して同じ光束の光を出射する複数の点光源が密に配列されていると仮定する。そうすると、光学フィルタ20bから見ると、各点光源から出射される光は、0度で入射する光束が最も少なく、角度が拡がるにつれて光束が多くなり、そして、ある程度の入射角以上の光は、光学フィルタ20bに入射しなくなる。
【0127】
つまり、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxは、扁平管形状のエキシマランプにおいては、電極(30b,30b)間の距離や、発光管30aの幅(管軸30xの方向と電極(30b,30b)の対向する方向のいずれにも直交する方向において対向する壁面の離間距離)等を調整し、光学フィルタ20bに入射する紫外光Lxの量を調整することで、入射角θが20度以上50度以下にピーク強度を含む相対強度分布となる。
【0128】
不活化装置1に採用し得る扁平管形状のエキシマランプによる紫外光源30の具体的なサイズの一例としては、電極(30b,30b)間の距離が8mm、発光管30aの幅が20mm、発光管30aの管軸30x方向の長さが100mmである。そして、光学フィルタ20bが、内壁面30a1、又は30a2の平坦な領域全体にわたって形成される。
【0129】
なお、上述した構成は、単なる一例であって、相対強度分布が所定の条件を満たすように構成されるのであれば、紫外光源30は、扁平管形状以外の形状のエキシマランプであっても構わなく、例えば、二重管形状のエキシマランプや、エキシマランプ以外の光源としてLED、レーザー等を採用し得る。
【0130】
〈4〉 上述した不活化装置1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0131】
1 : 不活化装置
2 : 部屋
10 : 筐体
20 : 透光窓
20a : 主面
20b : 光学フィルタ
20c : 主面
20d : 拡散部材
20p : プレート
30 : 紫外光源
30a : 発光管
30a1 : 内壁面
30a2 : 外壁面
30b : 電極
30p : 平面
30x : 管軸
70 : 光強度測定器
A1 : 点光源
C1 : 計測器
G1 : 発光ガス
L1,Lx : 紫外光
N1,N2 : 法線
P0,P30 : 領域
Px : 平面
Q1 : 中心
T1,T2 : 接面
θ : 入射角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15