(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074757
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ユーコミン酸を含むCD36発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/194 20060101AFI20230523BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230523BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230523BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230523BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230523BHJP
【FI】
A61K31/194
A61P43/00 105
A61P3/04
A23L33/105
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187873
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】森安 一樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 匡彦
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD09
4B018ME14
4B018MF01
4C206DA35
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA70
4C206ZB21
(57)【要約】
【課題】本発明は、新規なCD36の発現抑制剤を提供することを目的とする。
【解決手段】ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、CD36の発現を抑制するための組成物、細胞内への脂質取り込みを抑制するための組成物、または肥満を予防または改善するための組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、CD36の発現を抑制するための組成物。
【請求項2】
ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、細胞内への脂質取り込みを抑制するための組成物。
【請求項3】
ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、肥満を予防または改善するための組成物。
【請求項4】
食品組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
必要とする対象に有効量のユーコミン酸またはその塩を投与する工程を含む、対象においてCD36の発現を抑制する方法。
【請求項6】
必要とする対象に有効量のユーコミン酸またはその塩を投与する工程を含む、対象の細胞内への脂質取り込みを抑制する方法。
【請求項7】
必要とする対象に有効量のユーコミン酸またはその塩を投与する工程を含む、対象において肥満を予防または改善する方法。
【請求項8】
CD36の発現を抑制するための、ユーコミン酸またはその塩の使用。
【請求項9】
細胞内への脂質取り込みを抑制するための、ユーコミン酸またはその塩の使用。
【請求項10】
肥満を予防または改善するための、ユーコミン酸またはその塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、CD36の発現を抑制するための組成物、細胞内への脂質取り込みを抑制するための組成物、および、肥満を予防または改善するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CD36は血小板、単球、脂肪細胞、筋細胞、肝細胞、腸細胞などの細胞膜上に存在する多機能タンパクであり、遊離脂肪酸、酸化LDL、トロンボスポンジン、コラーゲンなどをリガンドとする。CD36は、脂肪細胞の脂肪酸取り込みに関する研究から初めて発見されたことおよびラットのFAT(Fatty Acid Translocase)の配列がヒトのCD36と高い相同性を持つことから(非特許文献1)、FAT/CD36とも呼ばれ、主に長鎖脂肪酸のトランスポーターとして注目されている。CD36は脂肪細胞ではエネルギーの貯蔵、腸細胞では脂質の取り込み、筋細胞ではエネルギーの取り込みと消費に関わっていると考えられており、その性質上、肥満症、糖尿病といった代謝系疾患との関わりが示唆されている。
【0003】
ユーコミン酸はユーコミス・プンクタータ(Eucomis punctata)、ウチワサボテンおよびラン科の植物などに含まれることが知られている化合物である。ユーコミン酸は、ヒト表皮角化細胞を用いた実験でミトコンドリアの電子伝達系を構成するシトクロムcオキシダーゼの活性を高めることが報告されている(非特許文献2、3)。また、ユーコミン酸を含むことが知られるウチワサボテンの抽出物を用いた細胞実験では抗酸化作用(非特許文献4)、抗炎症作用(非特許文献5)、創傷治癒効果(非特許文献6)が報告されている。これまで、ユーコミン酸がCD36の発現抑制効果を有することを示唆する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nada A.Abumrad et al., “Cloning of a rat adipocyte membrane protein implicated inbinding or transport of long-chain fatty acids that is induced duringpreadipocyte differentiation.”, J Biol Chem, 1993, Vol.268, No. 24, 17665-17668
【非特許文献2】WernerHeller et al., “Isolierung, Konstitution und Synthese der (R)-(-)-Eucominsaure”, Helvetica Chimica Acta, 1974, 57, p1766-1784
【非特許文献3】CharlotteSimmler et al., “Glucosyloxybenzyl Eucomate Derivatives from Vanda teres StimulateHaCaT Cytochrome c Oxidase.”, J Nat Prod, 2011, 74, 5, 949-955
【非特許文献4】GannaPetruk et al., “Protective effect of Opuntia ficus-indicaL. cladodes against UVA-induced oxidative stress in normal human keratinocytes” Bioorg Med Chem Lett, 2017, Volume 27, Issue24, 5485-5489
【非特許文献5】A Matiaset al., “Antioxidant and anti-inflammatory activity of aflavonoid-rich concentrate recovered from Opuntia ficus-indica juice”, Food Funct, 5(12) ):3269-80, 2014
【非特許文献6】FlavianaDi Lorenzo et al., “The polysaccharide and low molecularweight components of Opuntia ficus indica cladodes: Structure and skinrepairing properties”, Carbohydrate Polymers, Vol. 157, 2017, 128-136
【非特許文献7】Estiponaet al., “Catalytic enantioselective total synthesis of (+)-eucomic acid”, Tetrahedron,2016, 72(26):3707-3712
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規なCD36の発現抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、ユーコミン酸がCD36の発現を抑制する効果を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1] ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、CD36の発現を抑制するための組成物。
[2] ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、細胞内への脂質取り込みを抑制するための組成物。
[3] ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する、肥満を予防または改善するための組成物。
[4] 食品組成物である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 必要とする対象に有効量のユーコミン酸またはその塩を投与する工程を含む、対象においてCD36の発現を抑制する方法。
[6] 必要とする対象に有効量のユーコミン酸またはその塩を投与する工程を含む、対象の細胞内への脂質取り込みを抑制する方法。
[7] 必要とする対象に有効量のユーコミン酸またはその塩を投与する工程を含む、対象において肥満を予防または改善する方法。
[8] CD36の発現を抑制するための、ユーコミン酸またはその塩の使用。
[9] 細胞内への脂質取り込みを抑制するための、ユーコミン酸またはその塩の使用。
[10] 肥満を予防または改善するための、ユーコミン酸またはその塩の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有することで、新規なCD36の発現を抑制するための組成物および方法、細胞内への脂質取り込みを抑制するための組成物および方法、ならびに、肥満を予防または改善するための組成物および方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の各投与群の体重変化を示すグラフである。
【
図2】実施例の各投与群の精巣上体脂肪の重さの変化を示すグラフである。
【
図3】実施例の各投与群の腸間膜脂肪の重さの変化を示すグラフである。
【
図4】実施例の各投与群の腎周囲脂肪の重さの変化を示すグラフである。
【
図5】実施例の各投与群の精巣上体脂肪における遺伝子(RNA)発現解析の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例の各投与群の肝臓における遺伝子(RNA)発現解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明の組成物
本発明の組成物は、ユーコミン酸(Eucomic acid、オイコム酸ともいう)またはその塩を有効成分として含有する。ユーコミン酸(C11H12O6、(R)-2-ヒドロキシ-2-[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]ブタン二酸、(R)-2-Hydroxy-2-[(4-hydroxyphenyl)methyl]butanedioic acid)は既知の有機化合物であり、既知の方法によってマメ科植物ミヤコグサの葉、ユーコミス・プンクタータ(Eucomis punctata)の球根、ウチワサボテンなどから抽出することができ、また、既知の方法によって人工合成によって得ることもできる(非特許文献7)。本発明におけるユーコミン酸またはその塩は、粉末であっても結晶(例えば、特許文献1)であってもよい。
【0012】
「塩」としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩などの無機塩基塩、またはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン]、tert-ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチルアミンなどの有機塩基塩などが挙げられる。さらに、「塩」としては、アルギニン、リジン、オルニチン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸などの塩基性アミノ酸または酸性アミノ酸とのアミノ酸塩も挙げられる。製薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0013】
ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する本発明の組成物は、CD36の発現を抑制することができる、CD36発現抑制剤である。CD36(Platelet glycoprotein 4;GP IV)はClass Bスカベンジャー受容体に属する膜糖タンパクであり、血小板、単球、赤芽球、脂質細胞、心筋、一部の血管内皮細胞などに発現する。CD36は長鎖脂肪酸のトランスポーターとして、長鎖脂肪酸の細胞内への輸送(取り込み)を促進する。それによって、筋肉の脂肪利用、脂肪組織のエネルギー貯蔵、および腸管の脂肪吸収に関与するとともに、肥満症、糖尿病などの代謝疾患に寄与しているとされている。
【0014】
本発明におけるCD36は、哺乳動物のCD36であってよく、特にヒトCD36であることが好ましい。ヒトCD36(accession number:P16671)は、472個のアミノ酸からなり、予測分子量は53kDであり、糖鎖が付加され分子量は88kDとなる。
【0015】
CD36の発現とは、細胞におけるCD36の発現であり、細胞は特に限定されないが、脂肪細胞、マクロファージ、血小板、内皮細胞(例えば微細血管内皮細胞および臍帯静脈内皮細胞)、上皮細胞(例えば腸管上皮細胞、胆嚢上皮細胞、膀胱上皮細胞、気管支上皮細胞および肺胞上皮細胞)、腎細管細胞、膵臓小島細胞、肝細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、神経細胞、神経膠細胞、膵臓細胞、精子細胞などが含まれる。特に、脂肪細胞、肝細胞であることが好ましい。また、細胞は哺乳動物細胞であり、特にヒト細胞であることが好ましい。
【0016】
CD36の発現の検出は、RNA、DNAまたはタンパク質のいずれでもよく、その検出方法は特に限定されないが、ウェスタンブロッティング、免疫染色、フローサイトメトリー解析/フローサイトメーター、ノーザンブロッティング、電気泳動法、PCR(好ましくは、定量PCR(qPCR)およびまたはリアルタイムPCR)、ジーンチップ解析、次世代シークエンサー等の手法が挙げられる。このうち、定量性、検出感度、結果の安定性および早さの観点で、定量PCRが有用である。
【0017】
CD36の発現抑制とは、本発明の組成物が投与された後の細胞におけるCD36の発現量が、本発明の組成物が投与される前の細胞におけるCD36の発現量に比べて低減すること意味し、投与前のCD36発現量を100%とした場合は、投与後のCD36発現量が、10%以上低減し、好ましくは20%以上、30%以上、または40%以上低減する。ここで、CD36発現量は、細胞当たりに換算した発現量を意味する。
【0018】
本発明のCD36発現抑制剤は、CD36の過剰発現を正常発現量までに低減させ、また、CD36の発現を正常発現量以下に低減させることによって、様々状態または疾患を予防または改善することができる。このような状態または疾患は、例えばアテローム性硬化症、炎症、異常な血管形成、異常な脂質代謝、アポトーシス細胞の異常な除去、虚血(脳虚血、心筋虚血)、虚血再灌流、尿管閉塞、卒中、アルツハイマー病、糖尿病、糖尿病性腎症、および肥満を含む。本発明のCD36発現抑制剤は、特に肥満を予防または改善することができる。
【0019】
ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する本発明の組成物は、細胞内への脂質取り込みを抑制することができる、細胞内への脂質取り込み抑制剤である。ここで、細胞は上述したとおりであり、特に、脂肪細胞、肝細胞であることが好ましい。
【0020】
細胞内への脂質取り込みとは、細胞内の脂質量の変化を測定することのよって評価できる。脂肪細胞の場合は、脂肪細胞(脂肪組織)の重さまたは脂肪滴の量の変化によって評価できる。
【0021】
細胞内への脂質取り込みの抑制とは、本発明の組成物が投与された後の細胞内の脂質量が、本発明の組成物が投与される前の細胞内の脂質量よりも低減することを意味し、脂肪細胞の場合は、投与後の脂肪細胞(脂肪組織)の重さが、投与前の脂肪細胞(脂肪組織)の重さよりも低減することを意味する。投与前の細胞内の脂質量を100%とした場合は、投与後の細胞内の脂質量が、10%以上低減し、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、または50%以上低減する。脂肪細胞または脂肪組織の場合、投与前の脂肪細胞または脂肪組織の重さを100%とした場合は、投与後の脂肪細胞または脂肪組織の重さが、10%以上低減し、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、または50%以上低減する。
【0022】
本発明の細胞内への脂質取り込み抑制剤は、CD36の発現を抑制することによって、CD36を介した細胞内への脂肪の取り込みを抑制することができる。様々状態または疾患を予防または改善することができる。このような状態または疾患は、例えばアテローム性硬化症、炎症、異常な血管形成、異常な脂質代謝、アポトーシス細胞の異常な除去、虚血(脳虚血、心筋虚血)、虚血再灌流、尿管閉塞、卒中、アルツハイマー病、糖尿病、糖尿病性腎症、および肥満を含む。本発明のCD36発現抑制剤は、特に肥満を予防または改善することができる。
【0023】
ユーコミン酸またはその塩を有効成分として含有する本発明の組成物は、CD36の発現を抑制することによって、CD36を介した細胞内への脂肪の取り込みを抑制する結果、肥満を予防または改善し、とりわけ内臓脂肪の蓄積を抑制することができる。
【0024】
肥満は哺乳動物、特にヒトの肥満を意味する。肥満度は、体格指数(BMI=体重kg/(身長m)2)に基づき評価することができ、一般にBMIが25以上である場合は、肥満と判定される。また、内臓脂肪型肥満の場合は、ウエスト周径を測り、男性の場合は85cm以上、女性の場合は90cm以上が内臓脂肪型肥満の指標とされる。また、診断には、CTにて内臓脂肪の面積を測り、100cm2以上である場合は、内臓脂肪型肥満と診断される。さらに、肥満と判定される人で、肥満と関連した健康障害を合併するか、その合併が予測される場合、あるいは内臓脂肪型肥満のようなハイリスク肥満があり、医学的に減量を必要とする病態を肥満症と定義されている。
【0025】
肥満の予防または改善は、本発明の組成物の投与前後の体重、BMIまたは内臓脂肪の変化によって評価することができ、これらのいずれかの指標は、投与前に比べて、投与後は5%以上低減し、好ましくは10%以上、15%以上、20%以上、または25%以上低減する。この際、食事による影響をなくすために、本発明の組成物の投与前後で食事の内容(カロリー、栄養バランス)を変えないことが望ましい。また本発明の組成物は、肥満でない対象においても、肥満の対象(内臓脂肪型肥満、肥満症を含む)、肥満リスクのある対象(例えば、日常的に必要以上のカロリー/脂質を摂取している対象)においても、肥満を予防または改善できる。特に、肥満の対象、および、肥満リスクのある対象において、肥満を予防または改善できる。
【0026】
本発明の組成物は、肥満の予防または改善によって、肥満に起因ないし関連し減量を要する健康障害を予防または改善することができる。このような健康障害は、例えば、2型糖尿病・耐糖能障害、脂質代謝異常、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)、脳梗塞(脳血栓・一過性脳虚血発作)、睡眠時無呼吸症候群・Pickwick症候群、脂肪肝、整形外科的疾患(変形性関節症・腰椎症)、月経異常が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物は、食品組成物、医薬組成物、医薬部外品であってよい。食品組成物(食品)としては、食品の3次機能(体調調節機能)が強調されたものであることが好ましい。食品の3次機能が強調された食品としては、例えば、健康食品、機能性食品、栄養組成物(nutritional composition)、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、または機能性表示食品等が挙げられる。
【0028】
食品組成物は、有効成分のユーコミン酸またはその塩のほかに、食品として許容される成分を含んでいてもよい。食品として許容される成分としては、例えば、炭水化物、タンパク質、脂質、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等が挙げられる。
【0029】
食品組成物としては、サプリメント(錠剤、ドリンク剤、粉末剤、カプセルなど)のほか、一般的に食品として摂取される飲料、洋菓子、和菓子、氷菓、調理済みの食品、調味料などの形態であってもよい。
【0030】
食品組成物の製法は特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。例えば、サプリメントの場合は、有効量のユーコミン酸またはその塩を適宜な添加剤と混合したうえ、適切な剤型とすればよく、また、食品に添加される場合は、食品の製造工程における中間製品または最終製品に、有効量のユーコミン酸またはその塩を混合等して得ることができる。
【0031】
医薬組成物または医薬部外品は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水またはアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)等の剤形であってもよい。
【0032】
本発明の組成物におけるユーコミン酸またはその塩の含有量は、上記の効果が得られる有効量であれば、特に限定されない。有効量は、上記目的の効果によって当業者が任意に設定することができ、例えば、50mg~10g日であればよく、例えば、100mg~5g/日、300mg~3g/日であることが好ましい。本発明の組成物の投与回数も特に限定されず、一日一回であってもよく、一日二回、一日三回等、複数回に分けてもよい。また、投与のタイミングも特に限定されず、起床後、食前、食後、食間、就寝前のいずれのタイミングであってもよい。投与対象は、哺乳類動物であり、特にヒトである。投与経路は、例えば、経皮投与、舌下投与、点眼投与、皮内投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、経鼻投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、口から肺への吸入投与であってもよい。
【0033】
2.本発明の方法
本発明の方法は、必要とする対象に有効量のユーコミン酸またはその塩を投与する工程を含む、対象においてCD36の発現を抑制する方法、対象の細胞内への脂質取り込みを抑制する方法、および、対象において肥満を予防または改善する方法である。本発明の方法は、必要とする対象に有効量の本発明の組成物を投与する工程を含んでもよい。
【0034】
ユーコミン酸またはその塩によるCD36の発現抑制効果、脂質取り込みの抑制効果、および、肥満の予防または改善効果は「1.本発明の組成物」に記載のとおりである。また、必要とする対象は、哺乳動物、特にヒトであることが好ましく、また、肥満でない対象(特に肥満リスクのある対象)であっても、肥満対象であってもよい。有効量、投与のタイミング、投与経路も「1.本発明の組成物」に記載のとおりである。投与工程は、剤型に応じて当業者が適切な投与方法を選択することができる。対象が自ら摂取することもできるが、例えば、シリンジ、経皮的パッチ、マイクロニードル、移植可能な徐放性デバイス、マイクロニードルを付けたシリンジ、無針装置、スプレーによって投与する方法を含んでもよい。
【0035】
本発明の方法はまた、有効量のユーコミン酸またはその塩を細胞と接触させる工程を含む、細胞におけるCD36の発現を抑制する方法、または、細胞内への脂質取り込みを抑制する方法を含む。本方法は、in vitroまたはex vivoであってもよい。有効量は、当業者が任意に設定することができ、例えば、細胞の培地中にユーコミン酸またはその塩を、0.1~5mM、0.5μM~500μM、または1μM~50μMの濃度で存在させてよい。
【0036】
3.本発明の使用
本発明の使用は、CD36の発現を抑制するための、細胞内への脂質取り込みを抑制するための、あるいは、肥満を予防または改善するための、ユーコミン酸またはその塩の使用である。
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【実施例0038】
7週齢の雄性C57BL/6Jマウス(日本エスエルシー)に通常食(D12450B(10kcal%脂肪含有量)、Research Diets)を与えて約1週間順化させた。飼育環境は室温24±3℃、湿度55±15%、午前7時から午後7時までの12時間明暗サイクル環境下で、蒸留水を自由飲水させた。その後、マウスを体重に基づき4群(12匹/1群)に分けた。
【0039】
1群には継続して通常食(通常食コントロール群または通常食群)を、残りの3群にはそれぞれ高脂肪食(D12492(60kcal%脂肪含有量)、Research Diets)(高脂肪食コントロール群または高脂肪食群)を10週間与えた。またこの間、通常食群および1つの高脂肪食群には蒸留水を、残りの2つの高脂肪食群にはそれぞれ低用量のユーコミン酸溶液(200mg/kg)(低用量ユーコミン酸群)または高用量のユーコミン酸溶液(1000mg/kg)(高用量ユーコミン酸群)を、10ml/kgの量で毎日強制経口投与した。
【0040】
低用量ユーコミン酸群および高用量ユーコミン酸群におけるユーコミン酸の投与量は、体重60kgのヒト一人あたりの投与量に換算すると、それぞれ約1g及び約5gである。ヒト一人あたりの投与量は、ヒト等価用量(HED)を利用して推定できる。
【0041】
飼育最終日の最終投与2時間後に、体重を秤量し、各マウスをイソフルラン麻酔下で腹下大静脈より全採血し、安楽死させた。その後断頭し、肝臓、脂肪組織(精巣上体脂肪、腸間膜脂肪、腎周囲脂肪)を採取し、秤量した。
【0042】
採取した肝臓および精巣上体脂肪はRiboPure RNA Purification kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてRNAを抽出後、Super Script IV VILO(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて逆転写反応によりcDNAを合成し、RT-PCR法(QuantStudio 3、Thermo Fisher Scientific)によりCD36の遺伝子発現解析を実施した。RT-PCRのプライマーにはThermo Fisher Scientific社のTaqman Gene Expression Assayを、反応試薬はTaqman Fast Advanced Master Mix(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。RT-PCRは、推奨プロトコルに従い実施した。
【0043】
体重の変化は
図1に示す。
図1から、試験開始1週目以降継続的に、高脂肪食コントロール群は通常食コントロール群と比べ、体重が有意に増加した(p<0.01)。高用量ユーコミン酸群は3週目以降(6週目を除く)継続的に高脂肪食コントロール群と比べて体重が有意に小さく、高脂肪食給餌による体重増加が抑制されていた(p<0.05)。
【0044】
また各内臓脂肪重量(精巣上体脂肪、腸間膜脂肪、腎周囲脂肪)をそれぞれ
図2~4に示す。
図2~4から、いずれの内臓脂肪も高脂肪食コントロール群では通常食コントロール群に比べて有意に重量が増加していた(p<0.01)。一方、高用量ユーコミン酸群では高脂肪食コントロール群と比べていずれの脂肪重量も有意に低下しており、高脂肪食による内臓脂肪増加が抑制されていた(p<0.01)。これらの結果は、ユーコミン酸は、高脂肪食を投与されたマウスにおいて、脂肪細胞内への脂質の取り込みを抑制でき、体重および脂肪組織の重量の増加を抑制できることを示唆した。
【0045】
精巣上体脂肪および肝臓における遺伝子(RNA)発現解析の結果をそれぞれ
図5および6に示す。
図5から、精巣上体脂肪において高脂肪食コントロール群に対して、高用量ユーコミン酸投与群ではCD36の有意な発現低下が確認された。また、
図6から、肝臓においては高脂肪食コントロール群に対して、高用量ユーコミン酸群および低用量ユーコミン酸群のいずれにおいてもCD36の発現低下傾向が示された。これらの結果は、ユーコミン酸は脂肪細胞によるCD36の発現を抑制できることを示唆した。