(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074818
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20230523BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61B5/16 130
A61B5/11 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187955
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼玉 圭樹
(72)【発明者】
【氏名】千住 太希
(72)【発明者】
【氏名】中理 怡恒
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP05
4C038VA04
4C038VA15
4C038VB01
(57)【要約】
【課題】不確かさの高いデータセットを有効活用することによって被験者の睡眠段階の推定精度を向上させることができる睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する睡眠段階推定システムは、少なくともベースモデルとサブモデルとを備え、ベースモデルは、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットを用いた教師あり学習を行い、ベースモデルは、データセットを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットと、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットとに分離し、サブモデルは、不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する睡眠段階推定システムであって、
少なくともベースモデルとサブモデルとを備え、
前記ベースモデルは、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットを用いた教師あり学習を行い、
前記ベースモデルは、前記データセットを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットと、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが前記閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットとに分離し、
前記サブモデルは、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う、
睡眠段階推定システム。
【請求項2】
前記ベースモデルは第1エビデンシャルニューラルネットワークを備え、
前記第1エビデンシャルニューラルネットワークは、前記データセットを用いた教師あり学習を行い、
前記第1エビデンシャルニューラルネットワークは、前記データセットを前記不確かさの低いデータセットと前記不確かさの高いデータセットとに分離し、
前記サブモデルは、第2エビデンシャルニューラルネットワークを備え、
前記第2エビデンシャルニューラルネットワークは、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う、
請求項1に記載の睡眠段階推定システム。
【請求項3】
マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形を対数スケールパワースペクトルに変換することによって前記データセットを生成するデータセット生成部を備える、
請求項2に記載の睡眠段階推定システム。
【請求項4】
前記データセットの一部を構成する1つの前記対数スケールパワースペクトルは、32秒間の被験者の振動の時間波形を変換することによって得られたものである、
請求項3に記載の睡眠段階推定システム。
【請求項5】
前記睡眠段階推定システムは、学習済みの前記ベースモデルと前記サブモデルとを用いることにより、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の睡眠段階推定システム。
【請求項6】
前記ベースモデルは、前記データセットを前記不確かさの低いデータセットと前記不確かさの高いデータセットとに分離する分離部を備える、
請求項1に記載の睡眠段階推定システム。
【請求項7】
前記ベースモデルおよび前記サブモデルは、被験者の睡眠段階を推定し、WAKE、REM、NREM1、NREM2およびNREM3&4の5クラスに分類する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の睡眠段階推定システム。
【請求項8】
少なくともベースモデルとサブモデルとを備える睡眠段階推定システムの睡眠段階推定方法であって、
前記ベースモデルが、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットを用いた教師あり学習を行う第1学習ステップと、
前記ベースモデルが、前記データセットを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットと、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが前記閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットとに分離する分離ステップと、
前記サブモデルが、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う第2学習ステップと、
前記睡眠段階推定システムが、前記ベースモデルと前記サブモデルとを用いることにより、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する推定ステップとを備える、
睡眠段階推定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
ベースモデルが、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットを用いた教師あり学習を行う第1学習ステップと、
前記ベースモデルが、前記データセットを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットと、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが前記閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットとに分離する分離ステップと、
サブモデルが、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う第2学習ステップと、
前記ベースモデルと前記サブモデルとが、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する推定ステップとを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本では5人に1人が不眠症を含む何らかの睡眠障害を患っており、睡眠薬服用者は350万人もいる(厚生労働省 令和元年「国民健康・栄養調査」の結果参照)。しかし、その検査に必要な睡眠段階の測定のためには終夜睡眠ポリグラフ(Polysomnography;PSG)検査が用いられるが、PSG検査は身体・精神ともに被験者の負担が大きく、個人がすぐに利用できるものではない。そのため、被験者負担を軽減した無拘束型センサによるPSG検査の代替手法の需要が高まっている。例えば、無拘束型センサを利用した睡眠段階推定法として、マットセンサをマットレスの下に設置し、取得したセンサ値を分析することで睡眠の質を解析することや、アクチグラフ(腕時計型の加速度センサ)を被験者に取り付けて生体振動データを分析することがあげられる。
【0003】
それらの先行研究として、非特許文献1には、マットセンサから得られた生体振動データから抽出された心拍の中周波成分と睡眠段階に相関性があることが記載されている。
非特許文献2に記載された技術では、アクチグラフから取得した心拍変動から時間領域と周波数領域の特徴量が設計され、Random Forestによって、WAKE(覚醒)、REM(レム)、NREM(ノンレム)の3段階の分類が行われている。
しかし、入力となる無拘束型センサの生体振動データには大きく2つの不確かさを伴うため、無拘束型センサによる睡眠段階の推定は困難となることが多い。1つ目は入力データの情報量不足に起因する不確かさである。通常のPSG検査では、複数種類の生体データ(脳波・眼球運動・筋電図など)を用いて睡眠段階を分類するが、無拘束型センサでは生体振動データのみで睡眠段階を分類するため、複数種類の生体データに比べて情報量が不足し、分類できないことが起こる。2つ目は入力データに雑音(ノイズ)が含まれることによる不確かさである。
【0004】
また、特許文献1には、眠りの深さを表す視標である睡眠段階を推定する技術について記載されている。特許文献1に記載された技術では、入眠後の経過時間に従い睡眠段階の出現頻度と遷移確率が変化することに着目する。特許文献1に記載された技術では、心電計から出力された心電データと、胸部に装着された3軸加速度計から出力された加速度データとが用いられる。
具体的には、特許文献1に記載された技術では、推定の自信度が低い場合に対する推定確率を下げることが行われる。つまり、特許文献1に記載された技術では、推定の自信度が低い入力データが有効的に活用されない。
特許文献1には、「推定の自信度が低い場合に対する推定確率を下げることで、推定精度を向上させる」旨が記載されているものの、実際には、推定の自信度が低い入力データが有効的に活用されない特許文献1に記載された技術では、推定の自信度が低い入力データが有効活用される場合よりも、睡眠段階の推定精度が低くなってしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Watanabe and K. Watanabe. “Estimation of the Sleep Stages by the Non-Restrictive Air Mattress Sensor” Transactions of the Society of Instrument and Control Engineers, Vol. 37, No. 9, pp. 821-828, 2001.
【非特許文献2】Xiao, Meng, et al. “Sleep stages classification based on heart rate variability and random forest” Biomedical Signal Processing and Control 8.6 (2013): 624-633.
【非特許文献3】Murat Sensoy, Lance Kaplan, and Melih Kandemir “Evidential deep learning to quantify classification uncertainty” arXiv preprint arXiv:1806.01768, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究において、例えば特許文献1に記載された技術などでは有効活用されない不確かさの高いデータセットを有効活用することによって(詳細には、不確かさの高いデータセットのみを用いたモデルの学習を行うことによって)、不確かさの高いデータセットが有効活用されない場合(詳細には、不確かさの高いデータセットのみを用いたモデルの学習が行われない場合)よりも、被験者の睡眠段階の推定精度が向上することを見い出したのである。
すなわち、本発明は、不確かさの高いデータセットを有効活用することによって被験者の睡眠段階の推定精度を向上させることができる睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する睡眠段階推定システムであって、少なくともベースモデルとサブモデルとを備え、前記ベースモデルは、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットを用いた教師あり学習を行い、前記ベースモデルは、前記データセットを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットと、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが前記閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットとに分離し、前記サブモデルは、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う、睡眠段階推定システムである。
【0009】
本発明の一態様の睡眠段階推定システムでは、前記ベースモデルは第1エビデンシャルニューラルネットワークを備え、前記第1エビデンシャルニューラルネットワークは、前記データセットを用いた教師あり学習を行い、前記第1エビデンシャルニューラルネットワークは、前記データセットを前記不確かさの低いデータセットと前記不確かさの高いデータセットとに分離し、前記サブモデルは、第2エビデンシャルニューラルネットワークを備え、前記第2エビデンシャルニューラルネットワークは、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行ってもよい。
【0010】
本発明の一態様の睡眠段階推定システムは、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形を対数スケールパワースペクトルに変換することによって前記データセットを生成するデータセット生成部を備えてもよい。
【0011】
本発明の一態様の睡眠段階推定システムでは、前記データセットの一部を構成する1つの前記対数スケールパワースペクトルは、32秒間の被験者の振動の時間波形を変換することによって得られたものであってもよい。
【0012】
本発明の一態様の睡眠段階推定システムでは、前記睡眠段階推定システムは、学習済みの前記ベースモデルと前記サブモデルとを用いることにより、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定してもよい。
【0013】
本発明の一態様の睡眠段階推定システムでは、前記ベースモデルは、前記データセットを前記不確かさの低いデータセットと前記不確かさの高いデータセットとに分離する分離部を備えてもよい。
【0014】
本発明の一態様の睡眠段階推定システムでは、前記ベースモデルおよび前記サブモデルは、被験者の睡眠段階を推定し、WAKE、REM、NREM1、NREM2およびNREM3&4の5クラスに分類してもよい。
【0015】
本発明の一態様は、少なくともベースモデルとサブモデルとを備える睡眠段階推定システムの睡眠段階推定方法であって、前記ベースモデルが、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットを用いた教師あり学習を行う第1学習ステップと、前記ベースモデルが、前記データセットを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットと、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが前記閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットとに分離する分離ステップと、前記サブモデルが、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う第2学習ステップと、前記睡眠段階推定システムが、前記ベースモデルと前記サブモデルとを用いることにより、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する推定ステップとを備える、睡眠段階推定方法である。
【0016】
本発明の一態様は、コンピュータに、ベースモデルが、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットを用いた教師あり学習を行う第1学習ステップと、前記ベースモデルが、前記データセットを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットと、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが前記閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットとに分離する分離ステップと、サブモデルが、前記不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行う第2学習ステップと、前記ベースモデルと前記サブモデルとが、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する推定ステップとを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、不確かさの高いデータセットを有効活用することによって被験者の睡眠段階の推定精度を向上させることができる睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の睡眠段階推定システム1の一例を示す図である。
【
図2】データセット生成部13による処理の一例を説明するための図である。
【
図3】データセットDSと不確かさの低いデータセットDSLと不確かさの高いデータセットDSHとの関係の一例を示す図である。
【
図4】第1実施形態の睡眠段階推定システム1において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】不確かさの高いデータセットDSHに対してベースモデル11とサブモデル12との一致率を比較した箱ひげ図(実験1の結果を示す図)である。
【
図6】1段ENN(比較例)と2段ENN(本発明の第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aおよび第2エビデンシャルニューラルネットワーク12A)との性能比較結果(実験2の結果)を示す図である。
【
図7】一致率の大きな向上が見られた被験者の例を示す図である。
【
図8】第2実施形態の睡眠段階推定システム1の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラムの実施形態について説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態の睡眠段階推定システム1の一例を示す図である。詳細には、
図1(A)は第1実施形態の睡眠段階推定システム1の機能ブロックの一例を示しており、
図1(B)は第1実施形態の睡眠段階推定システム1の学習時におけるデータの流れの一例を示している。
図1に示す例では、第1実施形態の睡眠段階推定システム1が、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する。睡眠段階推定システム1による被検者の睡眠段階の推定に使用されるマットセンサは、例えば一般名称「体動センサ」と称されているセンサ等である。睡眠段階推定システム1による被検者の睡眠段階の推定には、例えば下記のURLが示すマットセンサ等を用いることができる。
https://www.tanita.co.jp/product/g/_TSL504WH/
https://www.sumitomoriko.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/03/n51910487.pdf
http://www.artdata.co.jp/it_product/it_pr_seitai.html
https://www.hosoda-sensor.com/system/micro/
http://hero-x.jp/article/10636/
【0021】
睡眠段階推定システム1による被検者の睡眠段階の推定に使用されるマットセンサのサンプリング周波数は例えば16Hzである。そのため、例えば周波数解析を行うことによって0~8Hzに含まれる生体データ(呼吸・心拍・体動)を取得することができる。
【0022】
図1に示す例では、睡眠段階推定システム1が、ベースモデル11と、サブモデル12と、データセット生成部13とを備えている。
データセット生成部13は、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形を対数スケールパワースペクトルに変換することによってデータセットDS(
図1(B)参照)を生成する。データセットDSは、ベースモデル11における教師あり学習に用いられる。
図1に示す例では、睡眠段階推定システム1がデータセット生成部13を備えているが、他の例では、睡眠段階推定システム1がデータセット生成部13を備えていなくてもよい。後者の例では、睡眠段階推定システム1の外部において、データセットDSが生成される。
【0023】
図2はデータセット生成部13による処理の一例を説明するための図である。
図2に示す例では、データセット生成部13が、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形(
図2の左上側部分)に対して周波数解析および正規化を行う。まず、データセット生成部13は、離散フーリエ変換(DST)をするために短時間窓(ハニング窓)(
図2の中央上側部分)を取り、次に高速フーリエ変換(FFT)(
図2の右上側部分)をする。
PSG検査では、30秒間の様々な生体データを総合して睡眠段階が決定される点に鑑み、
図2に示す例では、ハニング窓の幅が32秒に設定されている(詳細には、FFTの計算のために2の累乗に設定されている)。
【0024】
また、
図2に示す例では、ストライド間隔が、データの重複を避けるために32秒間隔に設定されている。つまり、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の連続的な時間波形(
図2の左上側部分)から、32秒間分のサンプルが、32秒間隔で抽出される。
図2に示す例では、最後に、データセット生成部13が、細かい成分を拡大するために、高速フーリエ変換(FFT)の結果であるパワースペクトル(
図2の右上側部分)を対数スケールに変換し、最大値・最小値を[1,最小値/最大値]にスケールするように正規化し、対数スケールパワースペクトル(
図2の左下側部分)を生成する。
図2の左下側部分に示す対数スケールパワースペクトルは、
図2の左上側部分に示す32秒間の被験者の振動の時間波形を変換することによって得られたものである。
【0025】
つまり、
図1および
図2に示す例では、データセット生成部13によって生成されるデータセットDS(
図1(B)参照)に、
図2の左下側部分に示す対数スケールパワースペクトルに相当するデータが含まれている。
上述したように、データセット生成部13によって生成されるデータセットDSは、ベースモデル11における教師あり学習に用いられる。そのため、データセットDSには、
図2の左下側部分に示す対数スケールパワースペクトルに加えて、その対数スケールパワースペクトルに対応する正解(睡眠段階推定システム1によって推定される被検者の睡眠段階の正解)も含まれている。
データセットDSに含められる対数スケールパワースペクトルに対応する正解(対数スケールパワースペクトルに対応する被検者の睡眠段階)は、例えば下記の手法によって得られる。
例えばPSG検査として脳波(EEG)、眼球運動(EOG)、筋電図(EMG)の計測が行われ、その計測に並行してマットセンサによって被検者の振動が計測される。PSG検査とマットセンサによる被検者の振動の計測とを同時に行うことによって、マットセンサによって計測される各時刻の被検者の振動に対応する被検者の睡眠段階の正解を得ることができる。
【0026】
図1に示す例では、ベースモデル11が、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットDSを用いた教師あり学習を行う。詳細には、ベースモデル11は第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aを備えている。第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aは、データセットDSを用いた教師あり学習を行う。
【0027】
図1に示す第1エビデンシャルニューラルネットワーク(Evidential Neural Network: ENN)11Aは、例えば非特許文献3に記載されているように、デンプスター・シェーファー理論に基づく不確かさの学習が可能である。
ニューラルネットワーク(NN)はある入力に対して出力を直接予測するためによく用いられる手法であり、高い性能を誇る学習器である。本明細書ではこのような出力を直接予測するようなNNを決定的なNN(Determinstic NN;DNN)と呼ぶ。一般にNNと言われているものは、DNNに相当する。しかし、DNNの予測確率は予測の信頼度を反映しないため、例えばマットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータなどの生体データからの予測の不確かさを、DNNを用いて推測することはできない。
そのため、Sensoyらは、非特許文献3においてエビデンシャルニューラルネットワーク(ENN)によって不確かさを学習するNN(ニューラルネットワーク)を提案した。ENNの特徴は、確率を直接予測せずに、確率分布(ディレクレ分布)のパラメータを予測し、デンプスター・シェーファーの証拠理論に基づいて不確かさを予測する点である。ENNでは、この不確かさによって予測の信頼度を推定することが可能になる。
つまり、ENNは、ディレクレ分布のパラメータαを求め、パラメータαに基づいて不確かさと確率とを予測する。不確かさは証拠理論に基づいて計算され、確率は期待値として計算される。
【0028】
図1に示す例では、第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aは、データセットDSを、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが所定の閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットDSL(
図1(B)参照)と、被験者の睡眠段階の推定結果の不確かさが閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットDSH(
図1(B)参照)とに分離する。
【0029】
図3はデータセットDSと不確かさの低いデータセットDSLと不確かさの高いデータセットDSHとの関係の一例を示す図である。詳細には、
図3(A)の「データ全体」は第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aによって不確かさの予測が行われるデータセットDSに対応しており、
図3(B)の「不確かさの低いデータ」は第1エビデンシャルニューラルネットワーク11AによってデータセットDSから分離された不確かさの低いデータセットDSLに対応しており、
図3(B)の「不確かさの高いデータ」は第1エビデンシャルニューラルネットワーク11AによってデータセットDSから分離された不確かさの高いデータセットDSHに対応している。
図3(A)および
図3(B)において、横軸は第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aによって予測される不確かさを示しており、縦軸はサンプル数を示している。
図3において「True」は分類成功データを示しており、「False」は分類失敗データを示している。
図3(A)に示すように、第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aは、データセットDSに含まれるデータのうちの不確かさの低い領域(
図3(A)の左側)のデータの分類に成功し、データセットDSに含まれるデータのうちの不確かさの高い領域(
図3(A)の右側)のデータの分類に失敗する傾向がある。
【0030】
図3に示す例では、第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aが、データセットDSを、不確かさの低い領域(
図3(B)の左側)の「不確かさの低いデータ」に対応する不確かさの低いデータセットDSLと、不確かさの高い領域(
図3(B)の右側)の「不確かさの高いデータ」に対応する不確かさの高いデータセットDSHとに分離する。
図1に示す例では、
図3(B)に示す「不確かさの低いデータ」に対応する不確かさの低いデータセットDSLについては、ベースモデル11によって正しく学習されているとして、サブモデル12による学習が行われない。
一方、
図3(B)に示す「不確かさの高いデータ」に対応する不確かさの高いデータセットDSHは、ベースモデル11によって正しく学習できなかったデータの集まりとみなされ、後述するように、ベースモデル11とは異なるサブモデル12の第2エビデンシャルニューラルネットワーク12Aが、不確かさの高いデータセットDSHを用いた教師あり学習を一からやり直す。
【0031】
上述したように、本発明者等は鋭意研究において、不確かさの高いデータセットDSHを有効活用することによって(詳細には、不確かさの高いデータセットDSHのみを用いたサブモデル12の学習を行うことによって)、不確かさの高いデータセットDSHが有効活用されない場合(詳細には、不確かさの高いデータセットDSHと不確かさの低いデータセットDSLとを含むデータセットDSを用いたベースモデル11の学習が行われるものの、不確かさの高いデータセットDSHのみを用いたサブモデル12の学習が行われない場合)よりも、被験者の睡眠段階の推定精度が向上することを見い出したのである。
【0032】
そこで、
図1に示す例では、サブモデル12が、不確かさの高いデータセットDSHを用いた教師あり学習を行う。詳細には、サブモデル12は第2エビデンシャルニューラルネットワーク12Aを備えている。第2エビデンシャルニューラルネットワーク12Aは、不確かさの高いデータセットDSHを用いた教師あり学習を行う。
【0033】
すなわち、
図1に示す例では、データセットDSを用いたベースモデル11の学習結果が、確実な学習結果と不確実な学習結果とに分けられる(つまり、不確かさの低いデータセットDSLと、不確かさの高いデータセットDSHとに分離される)。更に、不確かさの高いデータセットDSHのみを用いた再学習が行われる。
そのため、
図1に示す例では、後で詳細に説明するように、不確かさの高いデータセットを有効活用することによって被験者の睡眠段階の推定精度を向上させることができる。
【0034】
図1に示す例では、睡眠段階推定システム1のベースモデル11およびサブモデル12が、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定し、WAKE(覚醒)、REM(レム)、NREM1、NREM2、NREM3&4の5クラスに分類する。「WAKE(覚醒)」は国際判定基準(R&Kのマニュアル)のStageWに相当し、「REM(レム)」は国際判定基準のStageREMに相当し、「NREM1」は国際判定基準のStage1に相当し、「NREM2」は国際判定基準のStage2に相当し、「NREM3&4」は国際判定基準のStage3とStage4とを合わせたものに相当する。
他の例では、睡眠段階推定システム1のベースモデル11およびサブモデル12が、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから、被験者の睡眠段階を推定し、例えば非特許文献2に記載された技術(WAKE、REM、NREMの3段階の分類)のように、5以外の数のクラスに分類してもよい。
【0035】
図1に示す例では、睡眠段階推定システム1が、学習済みのベースモデル11とサブモデル12とを用いることにより、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータ(データセットDSに含まれるデータとは異なるデータであって、睡眠段階の推定対象の被験者の振動データ)から被験者の睡眠段階を推定する。
【0036】
図4は第1実施形態の睡眠段階推定システム1において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示す例では、ステップS11において、睡眠段階推定システム1のベースモデル11が、被験者の睡眠段階WAKE、REM、NREM1、NREM2、NREM3&4の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットDSを用いた教師あり学習を行う。
次いで、ステップS12では、ベースモデル11が、データセットDSを、被験者の睡眠段階WAKE、REM、NREM1、NREM2、NREM3&4の推定結果の不確かさが閾値より低いデータセットである不確かさの低いデータセットDSLと、被験者の睡眠段階WAKE、REM、NREM1、NREM2、NREM3&4の推定結果の不確かさが閾値以上のデータセットである不確かさの高いデータセットDSHとに分離する。
次いで、ステップS13では、睡眠段階推定システム1のサブモデル12が、不確かさの高いデータセットDSHを用いた教師あり学習を行う。
次いで、ステップS14では、睡眠段階推定システム1が、ベースモデル11とサブモデル12とを用いることにより、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階WAKE、REM、NREM1、NREM2、NREM3&4を推定する。
【0037】
<実施例>
本発明者等は、不確かさの高いデータセットDSHの分類性能を検証するために、第1実施形態の睡眠段階推定システム1のベースモデル11とサブモデル12との性能比較の実験(実験1)を行った。
また、本発明者等は、データセットDS全体の分類性能を検証するために、1段ENN(比較例)と2段ENN(本発明の第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aおよび第2エビデンシャルニューラルネットワーク12A)との性能比較の実験(実験2)を行った。
評価指標として、PSG検査による5段階(WAKE、REM、NREM1、NREM2、NREM3&4)の一致率を用いた。
【0038】
図5は不確かさの高いデータセットDSHに対してベースモデル11とサブモデル12との一致率を比較した箱ひげ図(実験1の結果を示す図)である。
図5において「Base」はベースモデル11に対応しており、「Sub」はサブモデル12に対応している。
図5の横軸は5段階の一致率を表している。
図5に示すように、再学習をしたモデル(サブモデル12)で検証時の中央値が20%以上上がっており、「不確かさの高いデータセットDSH」に対する別のENN学習(第2エビデンシャルニューラルネットワーク12Aの学習)に効果があることがわかった。
【0039】
図6は1段ENN(比較例)(つまり、不確かさの高いデータセットのみを用いたモデルの学習が行われない例)と2段ENN(本発明)との性能比較結果(実験2の結果)を示す図である。
図6において「base」はデータセットが1段ENNに入力され、その1段ENNが5クラス分類を行う比較例の性能を示しており、「proposed」は
図1に示す本発明の睡眠段階推定システム1の性能を示している。
図6の横軸は不確かさによる閾値を示しており、
図6の縦軸は横軸の不確かさによる閾値以下のデータのみを分類したときの5段階一致率を示している。
図6において、実線は交差検証の平均一致率を示しており、網掛部分は95%信頼区間を示している。
図6に示すように、不確かさが低いデータを分類しているときは一致率が高くなり(最大88.4%)、不確かさが高くなるにつれて一致率が下がることがわかった。
また、本発明の手法によってデータセット全体に対しても一致率が約3%向上することがわかった。つまり、本発明の第1実施形態の睡眠段階推定システム1によれば、不確かさの高いデータセットDSHを有効活用することによって被験者の睡眠段階の推定精度を向上させることができた。
【0040】
図7は一致率の大きな向上が見られた被験者の例を示す図である。詳細には、
図7(A)のヒストグラムは一致率の大きな向上が見られた被験者に1段ENN(比較例)を適用した場合における不確かさ(横軸)とサンプル数(縦軸)との関係を示しており、
図7(B)のヒストグラムはその被験者に2段ENN(本発明の第1エビデンシャルニューラルネットワーク11Aおよび第2エビデンシャルニューラルネットワーク12A)を適用した場合における不確かさ(横軸)とサンプル数(縦軸)との関係を示している。
図7において「True」は分類成功データを示しており、「False」は分類失敗データを示している。
図7に示すように、
図7(A)のヒストグラムの不確かさの高いデータが、全体のデータセットに対して十分含まれているとき、
図7(B)のヒストグラムに対応する2段ENNによって不確かさの低い領域に分類されること(つまり、
図7(A)のヒストグラムの不確かさの高いデータが、第2エビデンシャルニューラルネットワーク12Aによって
図7(B)のヒストグラムのように分類され直すこと)、また、
図7(B)のヒストグラムに対応する2段ENNによって分類に成功するデータ(「True」に相当するデータ)の割合が約60%から約75%に増えることがわかった。
このように本発明の手法の効果が発揮されるためには、
図7(A)のヒストグラム(1段ENN(比較例))の不確かさの高い領域にデータが分布していることが必要条件となる。
【0041】
[第2実施形態]
以下、本発明の睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラムの第2実施形態について説明する。
第2実施形態の睡眠段階推定システム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様に構成されている。従って、第2実施形態の睡眠段階推定システム1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様の効果を奏することができる。
【0042】
図8は第2実施形態の睡眠段階推定システム1の一例を示す図である。
図8に示す例では、第2実施形態の睡眠段階推定システム1が、
図1に示す第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様に、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する。
【0043】
図8に示す例では、睡眠段階推定システム1が、ベースモデル11と、サブモデル12と、データセット生成部13とを備えている。
データセット生成部13は、
図1に示すデータセット生成部13と同様に、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形を対数スケールパワースペクトルに変換することによってデータセットDS(
図1(B)参照)を生成する。データセットDSは、ベースモデル11における教師あり学習に用いられる。
図8に示す例では、睡眠段階推定システム1がデータセット生成部13を備えているが、他の例では、睡眠段階推定システム1がデータセット生成部13を備えていなくてもよい。後者の例では、睡眠段階推定システム1の外部において、データセットDSが生成される。
【0044】
図8に示す例では、データセット生成部13によって生成されるデータセットDS(
図1(B)参照)に、
図2の左下側部分に示す対数スケールパワースペクトルに相当するデータが含まれている。
データセット生成部13によって生成されるデータセットDSは、ベースモデル11における教師あり学習に用いられるため、データセットDSには、
図2の左下側部分に示す対数スケールパワースペクトルに加えて、その対数スケールパワースペクトルに対応する正解(睡眠段階推定システム1によって推定される被検者の睡眠段階の正解)も含まれている。
データセットDSに含められる対数スケールパワースペクトルに対応する正解(対数スケールパワースペクトルに対応する被検者の睡眠段階)は、例えば上述した手法と同様の手法によって得られる。
【0045】
図8に示す例では、ベースモデル11が、被験者の睡眠段階の正解が既知の被験者の振動を示すデータであるデータセットDSを用いた教師あり学習を行う。詳細には、ベースモデル11は、エビデンシャルニューラルネットワーク(ENN)とは異なる教師あり学習アルゴリズム(例えばランダムフォレスト等)を備えている。また、ベースモデル11は分離部11Bを備えている。
分離部11Bは、データセットDSを不確かさの低いデータセットDSL(
図1(B)参照)と不確かさの高いデータセットDSH(
図1(B)参照)とに分離する。
【0046】
図8に示す例では、サブモデル12が、
図1に示すサブモデル12と同様に、不確かさの高いデータセットDSHを用いた教師あり学習を行う。詳細には、サブモデル12は、エビデンシャルニューラルネットワーク(ENN)とは異なる教師あり学習アルゴリズム(例えばランダムフォレスト等)を備えている。
【0047】
図8に示す例では、
図1に示す例と同様に、データセットDSを用いたベースモデル11の学習結果が、確実な学習結果と不確実な学習結果とに分けられる(つまり、不確かさの低いデータセットDSLと、不確かさの高いデータセットDSHとに分離部11Bによって分離される)。更に、不確かさの高いデータセットDSHのみを用いた再学習が行われる。
そのため、
図8に示す例では、
図1に示す例と同様に、不確かさの高いデータセットを有効活用することによって被験者の睡眠段階の推定精度を向上させることができる。
【0048】
[第3実施形態]
以下、本発明の睡眠段階推定システム、睡眠段階推定方法およびプログラムの第3実施形態について説明する。
第3実施形態の睡眠段階推定システム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様に構成されている。従って、第3実施形態の睡眠段階推定システム1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様の効果を奏することができる。
【0049】
第3実施形態の睡眠段階推定システム1は、
図1に示す第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様に構成されている。つまり、第3実施形態の睡眠段階推定システム1は、
図1に示す第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様に、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定し、ベースモデル11と、サブモデル12と、データセット生成部13とを備えている。
【0050】
上述したように、
図1に示す例では、データセット生成部13は、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形を対数スケールパワースペクトルに変換することによってデータセットDS(
図1(B)参照)を生成する。
一方、第3実施形態の睡眠段階推定システム1の一例では、データセット生成部13が、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形を対数スケールパワースペクトル以外のもの(例えばスペクトログラム等)に変換することによってデータセットDSを生成する。
他の例では、第3実施形態の睡眠段階推定システム1がデータセット生成部13を備えていなくてもよい。後者の例では、睡眠段階推定システム1の外部において、データセットDSが生成される。
【0051】
第3実施形態の睡眠段階推定システム1では、
図1に示す第1実施形態の睡眠段階推定システム1と同様に、データセット生成部13によって生成されるデータセットDSが、ベースモデル11における教師あり学習に用いられる。そのため、データセットDSには、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動の時間波形から変換されたもの(例えばスペクトログラム等)に加えて、それに対応する正解(第3実施形態の睡眠段階推定システム1によって推定される被検者の睡眠段階の正解)も含まれている。
【0052】
また、上述の第1実施形態から第3実施形態に示す例では、睡眠段階推定システム1がサブモデル12を1つのみ備えているが、他の例では、睡眠段階推定システム1が複数のサブモデル(図示せず)を備えていてもよい。なお、この場合、第2実施形態の構成では、最後に処理を行うサブモデル以外のサブモデルは、ベースモデルと同様に分離部を備える。
【0053】
例えば、第1実施形態の睡眠段階推定システム1がベースモデル11と第1サブモデル(図示せず)と第2サブモデル(図示せず)とを備えている例では、上述のとおり、ベースモデル11が、
図4のステップS11の教師あり学習とステップS12の分離を行うことでデータセットDSを、不確かさの低いデータセットDSLと不確かさの高いデータセットDSHとに分離する。次に、第1サブモデルは、不確かさの高いデータセットDSHを用いた教師あり学習を行うと共に、ベースモデル11の処理と同様に、不確かさの高いデータセットDSHを、更に不確かさの低いデータセットと不確かさの高いデータセットとに分離する。そして、第2サブモデルは、第1サブモデルによって不確かさの高いデータセットDSHから分離された不確かさの高いデータセットを用いた教師あり学習を行い、次いで睡眠段階推定システム1が、ベースモデル11と第1サブモデルと第2のサブモデルを用いることにより、マットセンサによって検出されたマットセンサ上の被験者の振動を示すデータから被験者の睡眠段階を推定する。
上記例では、睡眠段階推定システムが、ベースモデル、第1のサブモデル、及び第2のサブモデルの3つで構成される場合を説明したが、これに限定されず、更にサブモデルを増やしてシステムを構成し、学習と分離のステップを更に追加して行うことで、被験者の睡眠段階を推定してもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0055】
なお、上記の実施形態における睡眠段階推定システム1の全部または一部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
なお、睡眠段階推定システム1の全部または一部は、メモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、各システムが備える各部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
なお、睡眠段階推定システム1の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0056】
1…睡眠段階推定システム、11…ベースモデル、11A…第1エビデンシャルニューラルネットワーク、11B…分離部、12…サブモデル、12A…第2エビデンシャルニューラルネットワーク、13…データセット生成部、DS…データセット、DSL…不確かさの低いデータセット、DSH…不確かさの高いデータセット