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特開2023-74843転がり抵抗解析方法及び転がり抵抗解析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074843
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】転がり抵抗解析方法及び転がり抵抗解析装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20230523BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20230523BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20230523BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20230523BHJP
   G06F 111/10 20200101ALN20230523BHJP
   G06F 119/14 20200101ALN20230523BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G06F30/15
G06F30/23
G01M17/02
G06F111:10
G06F119:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187991
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥 祐樹
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BC55
3D131LA34
5B146AA05
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】動的解析を用いてタイヤの転がり抵抗を解析する際の演算量を低減する。
【解決手段】定常輸送解析部24は、タイヤモデル30の回転トルクが0となる角速度である自由転動角速度ωを算出し、算出した自由転動角速度ωにおいて定常輸送解析を行って、自由転動角速度ωで転動したときのタイヤモデル30の形状を演算する。動的解析部26は、定常輸送解析の結果を初期状態とする動的解析により、微小時間毎に、タイヤモデル30に掛かる前後力Fを演算する。転がり抵抗演算部28は、動的解析で取得されたタイヤモデル30の前後力Fに基づいて、タイヤモデル30の転がり抵抗RRを演算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて、タイヤモデル及び路面モデルを用いたシミュレーションによりタイヤの転がり抵抗を解析する転がり抵抗解析方法であって、
前記タイヤモデルを転動させない定常輸送解析であって、自由転動角速度で転動したときの前記タイヤモデルの形状を演算する定常輸送解析を実施する定常輸送解析ステップと、
前記タイヤモデルを転動させ、微小時間毎に、前の微小時間における解析結果に基づいて前記タイヤモデルに掛かる前後力を演算する動的解析であって、前記定常輸送解析の結果を初期状態とする動的解析を行う動的解析ステップと、
前記前後力に基づいて、前記タイヤの転がり抵抗を演算する転がり抵抗演算ステップと、
を含むことを特徴とする転がり抵抗解析方法。
【請求項2】
前記動的解析ステップにおいて、前記動的解析の開始から所定時間、前記タイヤモデルの角速度を前記自由転動角速度に維持して前記動的解析を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の転がり抵抗解析方法。
【請求項3】
前記転がり抵抗演算ステップにおいて、前記動的解析により演算された、前記前後力が安定したと見做すことができる前記タイヤモデルの累積回転角度以降の回転角度における前記前後力に基づいて、前記転がり抵抗を演算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の転がり抵抗解析方法。
【請求項4】
前記転がり抵抗演算ステップにおいて、前記転がり抵抗は、下記式(1)で演算される、
ことを特徴とする請求項1に記載の転がり抵抗解析方法。
【数1】
ここで、Fは前記タイヤモデルに掛かる前後力であり、Rは外周面に前記路面モデルが形成された円筒形のドラムモデルの半径であり、Rは前記タイヤモデルの動的負荷半径である。
【請求項5】
タイヤモデル及び路面モデルを用いたシミュレーションによりタイヤの転がり抵抗を解析する転がり抵抗解析装置であって、
前記タイヤモデルを転動させない定常輸送解析であって、自由転動角速度で転動したときの前記タイヤモデルの形状を演算する定常輸送解析を実施する定常輸送解析部と、
前記タイヤモデルを転動させ、微小時間毎に、前の微小時間における解析結果に基づいて前記タイヤモデルに掛かる前後力を演算する動的解析であって、前記定常輸送解析の結果を初期状態とする動的解析を行う動的解析部と、
前記前後力に基づいて、前記タイヤの転がり抵抗を演算する転がり抵抗演算部と、
を備えることを特徴とする転がり抵抗解析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり抵抗解析方法及び転がり抵抗解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤモデルを用いたシミュレーションによって、タイヤの転がり抵抗の解析が行われている。例えば、特許文献1には、タイヤモデル及び路面モデルを用いた動的解析により、タイヤの転がり抵抗を解析することが開示されている。また、特許文献2には、タイヤモデル及び路面モデルを用いた動的解析により、タイヤのエネルギーロスを解析することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-036733号公報
【特許文献2】特開2006-175937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タイヤの動的解析は、タイヤが停止している(回転していない)状態を初期状態として、微小時間毎に、その前の微小時間における解析結果を用いてタイヤの状態を解析する、という処理を繰り返すのが一般的である。
【0005】
通常、動的解析によってタイヤの転がり抵抗を解析するには、一旦、タイヤを所定の目標速度(例えば80[km/h])まで加速させる必要がある。上述のように、動的解析では、前の微小時間における解析結果を用いて次の微小時間における解析を行うため、動的解析によってタイヤの転がり抵抗を解析するならば、初期状態から目標速度まで達するまでの各微小時間について解析処理を行わなければならなくなる。したがって、このような動的解析によるタイヤの転がり抵抗の解析は、その演算量が膨大となり得る。
【0006】
本発明の目的は、動的解析を用いてタイヤの転がり抵抗を解析する際の演算量を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、コンピュータを用いて、タイヤモデル及び路面モデルを用いたシミュレーションによりタイヤの転がり抵抗を解析する転がり抵抗解析方法であって、前記タイヤモデルを転動させない定常輸送解析であって、自由転動角速度で転動したときの前記タイヤモデルの形状を演算する定常輸送解析を実施する定常輸送解析ステップと、前記タイヤモデルを転動させ、微小時間毎に、前の微小時間における解析結果に基づいて前記タイヤモデルに掛かる前後力を演算する動的解析であって、前記定常輸送解析の結果を初期状態とする動的解析を行う動的解析ステップと、前記前後力に基づいて、前記タイヤの転がり抵抗を演算する転がり抵抗演算ステップと、を含むことを特徴とする転がり抵抗解析方法である。
【0008】
上記構成によれば、タイヤの転がり抵抗を演算するためのタイヤの前後力は、定常輸送解析の結果である自由転動角度で転動したときのタイヤモデルの形状を初期状態とした動的解析によって演算される。これにより、動的解析において、タイヤモデルが転動していない状態から、タイヤモデルが自由転動角度に達するまでの各微小時間について演算を逐一行う必要がなくなる。ここで、定常輸送解析の演算量は、少なくとも、タイヤモデルが転動していない状態から、タイヤモデルが自由転動角度に達するまでの各微小時間について演算を逐一行う場合よりは少ないため、上記構成によれば、タイヤの転がり抵抗を解析する際の演算量を低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動的解析を用いてタイヤの転がり抵抗を解析する際の演算量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る転がり抵抗解析装置の構成概略図である。
図2】タイヤモデル及び路面モデルの例を示す図である。
図3】タイヤモデルの角速度と回転トルクの関係を示すグラフである。
図4】動的解析における解析時間と前後力との関係を示すグラフである。
図5】転がり抵抗の演算に関わる各パラメータを示す概念図である。
図6】本実施形態に係る転がり抵抗解析装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係る転がり抵抗解析装置10の構成概略図である。転がり抵抗解析装置10は、詳しくは後述するように、タイヤを模したタイヤモデル及び路面を模した路面モデルを用いたシミュレーションにより、タイヤの転がり抵抗を解析する転がり抵抗解析処理を実行する装置である。転がり抵抗解析装置10は、例えばサーバコンピュータなどのコンピュータにより構成することができる。なお、転がり抵抗解析装置10は複数のコンピュータから構成されるようにしてもよい。すなわち、以下に説明する転がり抵抗解析装置10が発揮する機能は、複数のコンピュータの協働により実現されてもよい。
【0012】
通信インターフェース12は、例えばNIC(Network Interface Card)などから構成される。通信インターフェース12は、通信回線を介して他の装置と通信する機能を発揮する。例えば、通信インターフェース12は、転がり抵抗解析装置10による転がり抵抗の解析結果を他の装置に送信する。
【0013】
メモリ14は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、ROM(Read Only Memory)あるいはRAM(Random Access Memory)などを含んで構成される。メモリ14には、転がり抵抗解析処理に必要な種々のデータが記憶される。そのようなデータとしては、例えば、上述のタイヤモデル、路面モデル、あるいはシミュレーションの条件を示す情報などである。また、メモリ14には、転がり抵抗解析処理を実行するための転がり抵抗解析プログラムが記憶される。なお、転がり抵抗解析プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD(Compact Disc)-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することができる。転がり抵抗解析装置10は、転がり抵抗解析プログラムが記憶された記憶媒体を読み取ることで、転がり抵抗解析プログラムを実行することができる。
【0014】
入力インターフェース16は、例えばマウスやキーボードなどから構成される。入力インターフェース16は、転がり抵抗解析装置10に転がり抵抗解析処理を実行させるユーザが命令を入力する際に用いられる。例えば、ユーザは、入力インターフェース16を用いてシミュレーションの条件などを入力する。
【0015】
ディスプレイ18は、例えば液晶パネルや有機ELパネルなどから構成される。ディスプレイ18には種々の画面が表示される。例えば、ディスプレイ18には、転がり抵抗解析処理の処理結果などが表示される。
【0016】
プロセッサ20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)及び専用の処理装置(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。プロセッサ20としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。図1に示すように、プロセッサ20は、メモリ14又は記憶媒体に記憶された転がり抵抗解析プログラムに従って、モデル作成部22、定常輸送解析部24、動的解析部26、及び、転がり抵抗演算部28としての機能を発揮する。以下、モデル作成部22、定常輸送解析部24、動的解析部26、及び、転がり抵抗演算部28の処理内容の詳細と共に、転がり抵抗解析装置10における転がり抵抗解析処理の詳細を説明する。
【0017】
モデル作成部22は、タイヤの転がり抵抗解析処理のためのシミュレーションに用いるタイヤモデル及び路面モデルを作成する。図2は、タイヤモデル30及び路面モデル32の例が示された図である。
【0018】
タイヤモデル30は、解析対象のタイヤを模したモデルである。具体的には、タイヤモデル30は、解析対象のタイヤを有限個の要素Eの集合体で表現した、プロセッサ20により数値解析可能なモデルである。各要素Eには、弾性パラメータ及び粘性パラメータなどの各種パラメータが設定されている。なお、解析対象のタイヤ(タイヤモデル30が表すタイヤ)は、現存するものであってもよいし、これから新たに設計するタイヤであってもよい。
【0019】
路面モデル32は、解析対象のタイヤが転がる路面を模したモデルである。図2の例では、路面モデル32は、円筒形のドラムモデルの外周面に形成されている。
【0020】
定常輸送解析部24は、まず、シミュレーション条件に従って内圧が充填されたタイヤモデル30を路面モデル32に当接させ、タイヤモデル30を路面モデル32に押し付ける方向に作用する所定の荷重W(図2参照)をタイヤモデル30に加える。定常輸送解析部24は、その状態で、静的解析である接地解析を行う。接地解析によって、荷重Wがタイヤモデル30に加えられたときの各要素Eの変位量などが取得される。
【0021】
次に、定常輸送解析部24は、タイヤモデル30の回転トルクが0となる角速度である自由転動角速度を探索する。図3は、タイヤモデル30の角速度と回転トルクの関係を示すグラフである。自由転動角速度の探索に当たり、まず、定常輸送解析部24は、探索する角速度の範囲である探索角速度範囲を設定する。本実施形態では、角速度範囲の下限ω及び上限ωは以下の式で表され、下限ω~上限ωの間を探索角速度範囲とする。

ω=タイヤモデル30の並進速度/非接地時のタイヤモデル30の半径
ω=タイヤモデル30の並進速度/所定の荷重Wで接地時のタイヤモデル30の半径

なお、所定の荷重Wで接地時のタイヤモデルの半径は、上述の接地解析により得ることができる。
【0022】
図3に示す通り、タイヤモデル30の角速度が下限ωである場合、回転トルクは正の値となり、タイヤモデル30の角速度が上限ωである場合、回転トルクは負の値となる。そして、下限ωから角速度を大きくしていくと、タイヤモデル30の回転トルクは徐々に小さくなっていく。したがって、下限ωから上限ωの間に、回転トルクが0となる角速度、すなわち自由転動角速度ωがある。
【0023】
したがって、定常輸送解析部24は、角速度範囲の下限ω及び上限ωを設定した後、タイヤモデル30の角速度を下限ωから徐々に大きくしていきながら定常輸送解析を行って回転トルクを算出するか、あるいは、タイヤモデル30の角速度を上限ωから徐々に小さくしていきながら定常輸送解析を行って回転トルクを算出することで、自由転動角速度ωを算出する。定常輸送解析とは、タイヤモデル30そのものは転動させずに、静止した状態で回転運動をプログラム内で表現して計算する方法である。
【0024】
なお、本実施形態では、上述の手法により自由転動角速度ωを算出しているため、自由転動角速度ωの算出において、タイヤモデル30の弾性パラメータ及び粘性パラメータが考慮されている。
【0025】
次いで、定常輸送解析部24は、算出した自由転動角速度ωにおいて定常輸送解析を行い、自由転動角速度ωで転動したときのタイヤモデル30の形状を演算する。詳しくは後述するが、自由転動角速度ω(つまりタイヤモデル30の回転トルクが0)において定常輸送解析を行うのは、転がり抵抗が、タイヤの回転トルクが0のときの回転軸に作用する前後力であるところ、タイヤモデル30の前後力を演算するための動的解析(後述)の初期状態として、当該定常輸送解析の結果を用いるためである。
【0026】
動的解析部26は、タイヤモデル30に掛かる前後力を演算する動的解析を行う。後述するように、タイヤモデル30に掛かる前後力は、タイヤの転がり抵抗を演算するためのパラメータである。ここで、動的解析による前後力の演算とは、タイヤモデル30を転動させ、微小時間毎に、前の微小時間における解析結果に基づいてタイヤモデル30に掛かる前後力を演算することを意味する。動的解析において微小時間毎に得られる解析結果とは、具体的には、タイヤモデル30を構成する複数の要素Eの各節点の変位、速度、及び加速度である。そして、動的解析においては、前の微小時間における各節点の変位、速度、及び加速度が、次の微小時間における各節点の変位、速度、及び加速度を演算するための方程式に組み込まれている。このような動的解析の結果として、タイヤモデル30に掛かる前後力が演算される。本実施形態では、タイヤモデル30は、回転軸の節点に剛体結合したモデルとなっており、タイヤモデル30に掛かる前後力とは、回転軸の節点に作用する力となっている。
【0027】
特に、動的解析部26は、定常輸送解析部24による定常輸送解析の結果、すなわち、自由転動角速度ωで転動したときのタイヤモデル30の形状を初期状態として、上述の動的解析を行う。上述の通り、転がり抵抗は、タイヤの回転トルクが0のときの回転軸に作用する前後力である。したがって、動的解析部26は、自由転動角速度ω(つまりタイヤモデル30の回転トルクが0)における定常輸送解析の結果を初期状態としている。
【0028】
上述のように、動的解析においては、微小時間毎にタイヤモデル30に掛かる前後力を演算していく。本来、動的解析においては、タイヤモデル30が転動していない状態から角速度を自由転動角速度ωまで徐々に上げていき、その過程の各微小時間における演算を逐一行う必要がある。ここで、タイヤモデル30の角速度を0から自由転動角速度ωまで上げる間における演算量が膨大となり得る。短い時間において急激に角速度を自由転動角速度ωまで上げることも考えられるが、動的解析においては、前の微小時間における状態と、次の微小時間における状態との差異が大きいと、演算されるタイヤモデル30の前後力が収束せずに振動してしまい、好適な演算ができなくなるという問題がある。
【0029】
そこで、本実施形態では、動的解析ではない定常輸送解析によって自由転動角速度ωにおけるタイヤモデル30の形状を取得し、これを動的解析の初期状態としている。これにより、動的解析部26は、タイヤモデル30の角速度を0から自由転動角速度ωまで上げる間の各微小時間における演算を行う必要がなくなる。つまり、本実施形態によれば、タイヤの転がり抵抗を演算するためのタイヤモデル30の前後力を演算する動的解析の演算量を低減することができる。
【0030】
図4は、動的解析における解析時間と前後力との関係を示すグラフである。特に、図4は、動的解析の最初期間における解析時間とタイヤモデル30の前後力との関係を示すグラフである。図4において、破線で示したグラフは、タイヤモデル30を軸フリー(角速度が変動可能な状態)状態とした場合のタイヤモデル30の前後力を示している。定常輸送解析の結果を初期状態とした場合、動的解析の最初期間において、最初からタイヤモデル30を軸フリー状態とすると、演算の結果得られるタイヤモデル30の前後力が不安定となってしまう。
【0031】
したがって、動的解析部26は、動的解析の開始から所定時間、タイヤモデル30の角速度を変更させずに、自由転動角速度ωに維持して動的解析を行うとよい。図4において、実線で示したグラフは、タイヤモデル30の角速度を自由転動角速度ωに維持した場合のタイヤモデル30の前後力を示している。図4に示す通り、タイヤモデル30の角速度を自由転動角速度ωに維持した場合、タイヤモデル30を軸フリー状態とした場合に比して、動的解析の最初期間におけるタイヤモデル30の前後力が安定する。
【0032】
動的解析においてタイヤモデル30の角速度を自由転動角速度ωに維持する所定時間は適宜設定されてよい。例えば、当該所定時間は、全動的解析時間に基づいて決定されてよい。本実施形態では、当該所定時間は、全動的解析時間の0.1~1.0[%]としている。
【0033】
動的解析部26は、動的解析の開始から所定時間経過後は、タイヤモデル30を軸フリー状態として動的解析を継続する。
【0034】
転がり抵抗演算部28は、動的解析部26による動的解析によって得られたタイヤモデル30の前後力に基づいて、タイヤ(タイヤモデル30)の転がり抵抗を演算する。図5は、転がり抵抗の演算に関わる各パラメータを示す概念図である。図5において、Fは、動的解析によって演算されたタイヤモデル30に掛かる前後力を示し、RRはタイヤモデル30の転がり抵抗を示す。また、Oはタイヤモデル30の中心であり、Oは路面モデル32が形成されたドラムモデルの中心であり、Rはタイヤモデル30の中心から路面モデル32の表面までの距離(すなわちタイヤモデル30の動的負荷半径)であり、Rは路面モデル32が形成されたドラムモデルの半径である。
【0035】
本実施形態では、転がり抵抗演算部28は、転がり抵抗RRを下記式(1)で演算する。

【数1】
転がり抵抗RRは、タイヤモデル30と路面モデル32との接地面位置でタイヤモデル30に働く力に換算されて評価されている。なお、タイヤモデル30の動的負荷半径Rは、
=(O間の距離)-R
で算出される。
【0036】
このように、本実施形態では、動的解析により得られたタイヤモデル30の前後力Fに基づいて転がり抵抗RRが演算されている。したがって、演算された転がり抵抗RRは、タイヤモデル30の変形によるエネルギー損失(ヒステリシス損失)のみならず、タイヤモデル30と路面モデル32との間の摩擦によるエネルギー損失も考慮されたものとなる。また、本実施形態では、フォース式の転がり抵抗計測と同等の評価を行うため、高い精度で転がり抵抗RRを演算することができる。
【0037】
動的解析の開始から一定時間の間においては、定常輸送解析の結果を初期状態としたことなどに起因して、動的解析の結果(タイヤモデル30の前後力F)が不安定となり得る。したがって、転がり抵抗演算部28は、動的解析により演算された、タイヤモデル30の前後力Fが安定したと見做すことができるタイヤモデル30の累積回転角度以降の回転角度における前後力Fに基づいて、転がり抵抗RRを演算するとよい。
【0038】
本実施形態では、動的解析において、タイヤモデル30の累積回転角度が540°以降においてタイヤモデル30の前後力Fが安定しているので、転がり抵抗演算部28は、動的解析におけるタイヤモデル30の累積回転角度が540°以降に得られた前後力Fに基づいて、転がり抵抗RRを演算している。詳しくは、本実施形態では、転がり抵抗演算部28は、動的解析においてタイヤモデル30が1回転する間のタイヤモデル30の前後力Fの平均値に基づいて転がり抵抗RRを演算する。すなわち、転がり抵抗演算部28は、動的解析におけるタイヤモデル30の累積回転角度が540°~900°である間のタイヤモデル30の前後力Fの平均値に基づいて転がり抵抗RRを演算する。
【0039】
本実施形態に係る転がり抵抗解析装置10の概要は以上の通りである。以下、図6に示すフローチャートに従って、転がり抵抗解析装置10(特にプロセッサ20)の処理の流れを説明する。
【0040】
ステップS10において、モデル作成部22は、タイヤモデル30及び路面モデル32を作成する。
【0041】
ステップS12において、定常輸送解析部24は、内圧が充填されたタイヤモデル30を路面モデル32に当接させ、タイヤモデル30に荷重Wを掛けて接地解析を行う。
【0042】
ステップS14において、定常輸送解析部24は、ステップS12の接地解析の結果を利用しつつ、探索角速度範囲(下限ω~上限ωの間)から自由転動角速度ωを算出する。
【0043】
ステップS16において、定常輸送解析部24は、算出した自由転動角速度ωにおいて定常輸送解析を行い、自由転動角速度ωで転動したときのタイヤモデル30の形状を演算する。ステップS16が、定常輸送解析ステップに相当する。
【0044】
ステップS18において、動的解析部26は、ステップS16で得られた定常輸送解析の結果を初期状態とする動的解析により、微小時間毎に、タイヤモデル30に掛かる前後力Fを演算する。ここでは、動的解析部26は、動的解析の開始から所定時間、タイヤモデル30の角速度を変更させずに、自由転動角速度ωに維持して動的解析を行う。ステップS18が動的解析ステップに相当する。
【0045】
ステップS20において、動的解析部26は、動的解析の開始から所定時間後、タイヤモデル30を軸フリー状態として動的解析を継続する。
【0046】
ステップS22において、転がり抵抗演算部28は、ステップS18及びS20の動的解析で取得されたタイヤモデル30の前後力Fに基づいて、タイヤの転がり抵抗RRを演算する。ここでは、転がり抵抗演算部28は、動的解析におけるタイヤモデル30の累積回転角度が所定の累積回転角度(例えば540°)以降に得られた前後力Fに基づいて、転がり抵抗RRを演算する。ステップS22が転がり抵抗演算ステップに相当する。
【0047】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 転がり抵抗解析装置、12 通信インターフェース、14 メモリ、16 入力インターフェース、18 ディスプレイ、20 プロセッサ、22 モデル作成部、24 定常輸送解析部、26 動的解析部、28 転がり抵抗演算部、30 タイヤモデル、32 路面モデル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6