(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007486
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】機械設備の異常有無診断装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230111BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230111BHJP
B01D 21/18 20060101ALN20230111BHJP
B01D 21/22 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
B01D21/18 G
B01D21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102557
(22)【出願日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2021108384
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000200334
【氏名又は名称】JFEプラントエンジ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501054551
【氏名又は名称】株式会社NJS
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】畠中 大祐
(72)【発明者】
【氏名】大角 明
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸二
(72)【発明者】
【氏名】増屋 征訓
(72)【発明者】
【氏名】中澤 純平
(72)【発明者】
【氏名】川高 大佑
(72)【発明者】
【氏名】水本 達也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸之介
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064CC02
2G064CC29
2G064CC42
2G064CC45
2G064CC54
(57)【要約】
【課題】振動波形の周波数帯域等が未知の場合にも適用できる機械設備の異常有無診断装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る機械設備の異常有無診断装置1は、振動波形を所定時間採取する振動波形採取部3と、採取した振動波形をウェーブレット変換して全周波数についてウェーブレット係数の時間変化を取得するウェーブレット変換手段21と、ウェーブレット係数の時間変化から、所定間隔の周波数ごとに各周波数におけるウェーブレット係数の時間波形を取得するウェーブレット係数時間波形取得手段23と、各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出手段25と、自己相関関数における相関度のピーク値を任意の点数、前記各周波数に対して抜き出す相関度ピーク抜き出し手段27と、各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定する判定手段29と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械設備の異常の有無を診断する機械設備の異常有無診断装置であって、
対象設備に設置した振動センサを用いて振動波形を所定時間採取する振動波形採取部と、振動波形採取部で採取された振動波形データを解析して異常の有無を診断する異常有無診断部とを有し、
該異常有無診断部は、
採取した振動波形をウェーブレット変換して全周波数についてウェーブレット係数の時間変化を取得するウェーブレット変換手段と、
ウェーブレット変換によって得られた前記ウェーブレット係数の時間変化から、所定間隔の周波数ごとに各周波数におけるウェーブレット係数の時間波形を取得するウェーブレット係数時間波形取得手段と、
各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出手段と、
自己相関関数における相関度のピーク値を任意の点数、前記各周波数に対して抜き出す相関度ピーク抜き出し手段と、
各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常有無診断装置。
【請求項2】
前記判定手段は、抜き出したピーク値と時間の関係を示す分布図を作成し、該分布図の重心を算出し、予め求めた正常時の重心と比較して、両者の乖離度に基づいて異常の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載の機械設備の異常有無診断装置。
【請求項3】
機械設備の異常の有無を診断する機械設備の異常有無診断方法であって、
対象設備に設置した振動センサを用いて振動波形を所定時間採取する振動波形採取工程と、
採取した振動波形をウェーブレット変換して全周波数についてウェーブレット係数の時間変化を取得するウェーブレット変換工程と、
ウェーブレット変換によって得られた前記ウェーブレット係数の時間変化から、所定間隔の周波数ごとに各周波数におけるウェーブレット係数の時間波形を取得するウェーブレット係数時間波形取得工程と、
各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出工程と、
自己相関関数における相関度のピーク値を任意の点数、前記各周波数に対して抜き出す相関度ピーク抜き出し工程と、
各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定する判定工程と、
を備えたことを特徴とする機械設備の異常有無診断方法。
【請求項4】
前記判定工程は、抜き出したピーク値と時間の関係を示す分布図を作成し、該分布図の重心を算出し、予め求めた正常時の重心と比較して、両者の乖離度に基づいて異常の有無を判定することを特徴とする請求項3に記載の機械設備の異常有無診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば下水処理場等で使用される汚泥かき寄せ機のような低速回転を行う回転機械設備の異常の有無を診断する機械設備の異常有無診断装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥かき寄せ機41は、
図9に示すように、駆動装置43、無端チェーン45、スプロケット47及びフライト49等から構成され、無端チェーン45に一定間隔でフライト49を取り付け、これを駆動軸及び従動軸スプロケットを介して駆動し、沈殿池51のレール面に接してフライト49を移動させ、沈殿池51内に沈殿した汚泥を連続的に汚泥ホッパ内にかき寄せる装置である。
【0003】
図9に示した汚泥かき寄せ機41においては、5箇所にスプロケット47が設けられており、それぞれ、駆動装置スプロケット53、駆動軸駆動スプロケット54(従動軸従動スプロケット55と同軸で外径が一回り大きいもの)及び駆動軸従動スプロケット55、57、59、61である。
【0004】
このような汚泥かき寄せ機41における異常現象としては、無端チェーン45の伸び、スプロケット47及びフライト49の摩耗等が挙げられる。
【0005】
しかしながら、駆動装置43の回転数は、例えば約0.4rpmと非常に低回転数であり、フライト49の走行速度は、例えば0.3m/分と非常にゆっくりと走行して汚泥をかき寄せる装置であり、また装置の殆どの部分が水中部にあるため、沈澱池51の外から五感で異常を検知することが困難である。
【0006】
そこで、このような汚泥かき寄せ機の異常を診断する方法として、例えば特許文献1において沈殿池の外に設置されている駆動装置に振動センサを取り付けて、該振動センサから得られる振動波形に基づいて異常診断する方法が開示されている。
これは、スプロケット、フライト及び無端チェーンがすべて接触等して繋がっており、いずれかの機器に発生した異常振動が無端チェーンを介して地上の駆動装置に伝わってくるとの考えに基づくものである。
【0007】
特許文献1に開示の技術は、診断対象とする設備が特定されている場合において、当該設備の異常診断には有用な技術である。
【0008】
しかしながら、既存の汚泥かき寄せ機は、多くの汚水処理設備で使用されており、その設備規模や構造(例えば、2層構造、3層構造等)が区々であり、当然ながらそこに使用されているスプロケット、フライト、無端チェーンの大きさや形状も区々である。
そのため、ある設備と他の設備では、仮にスプロケットに異常が発生したとしても駆動装置に取り付けた振動センサで検知される振動波形の周波数帯域、周期が全く異なる。
このため、当該設備に故障が発生しているのか否かを判定すること自体が難しく、特許文献1に開示の技術ではこれに対応することは難しい。
【0009】
このような場合において、振動波形を時間の流れの中で捉えて異常の有無を判定することが有用であり、例えば特許文献2、3に開示されているウェーブレット変換を利用することが考えられる。ウェーブレット変換とは、周波数解析手法の一つであり、時間の流れの中で、どのような周波数がどの程度の振幅で発生しているかを解析するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2018-153784号公報
【特許文献2】特開2010-190901号公報
【特許文献3】特開2008-292288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に開示されている診断方法は、軸受の余寿命を診断する際に、ウェーブレットの時間周波数分布を診断員が診て判断するものであり、診断員の技能や知識に左右されることになり、客観性に欠ける可能性がある。
【0012】
また、特許文献3に開示されている診断装置では、ウェーブレット変換を利用して複数の周波数帯域の振幅値を抽出しているが、既知である軸受の構造と回転数とに起因する特定周波数に着目して処理していることが前提となっている。
したがって、本願発明が対象としている汚泥かき寄せ機のように設備規模や構造が区々であり、対象とする振動波形の周波数帯域等が未知の設備に対しては異常の有無を診断することは困難である。
【0013】
なお、上記のような課題は、周波数帯域等が未知の設備に共通するものであり、診断対象となる装置は例示した汚泥かき寄せ機にかぎられない。
【0014】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、振動波形の周波数帯域等が未知の場合にも適用できる機械設備の異常有無診断装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明に係る機械設備の異常有無診断装置は、機械設備の異常の有無を診断するものであって、
対象設備に設置した振動センサを用いて振動波形を所定時間採取する振動波形採取部と、振動波形採取部で採取された振動波形データを解析して異常の有無を診断する異常有無診断部とを有し、
該異常有無診断部は、
採取した振動波形をウェーブレット変換して全周波数についてウェーブレット係数の時間変化を取得するウェーブレット変換手段と、
ウェーブレット変換によって得られた前記ウェーブレット係数の時間変化から、所定間隔の周波数ごとに各周波数におけるウェーブレット係数の時間波形を取得するウェーブレット係数時間波形取得手段と、
各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出手段と、
自己相関関数における相関度のピーク値を任意の点数、前記各周波数に対して抜き出す相関度ピーク抜き出し手段と、
各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記判定手段は、抜き出したピーク値と時間の関係を示す分布図を作成し、該分布図の重心を算出し、予め求めた正常時の重心と比較して、両者の乖離度に基づいて異常の有無を判定することを特徴とするものである。
【0017】
(3)本発明に係る機械設備の異常有無診断方法は、機械設備の異常の有無を診断する方法であって、
対象設備に設置した振動センサを用いて振動波形を所定時間採取する振動波形採取工程と、
採取した振動波形をウェーブレット変換して全周波数についてウェーブレット係数の時間変化を取得するウェーブレット変換工程と、
ウェーブレット変換によって得られた前記ウェーブレット係数の時間変化から、所定間隔の周波数ごとに各周波数におけるウェーブレット係数の時間波形を取得するウェーブレット係数時間波形取得工程と、
各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を算出する自己相関関数算出工程と、
自己相関関数における相関度のピーク値を任意の点数、前記各周波数に対して抜き出す相関度ピーク抜き出し工程と、
各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定する判定工程と、
を備えたことを特徴とするものである。
【0018】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記判定工程は、抜き出したピーク値と時間の関係を示す分布図を作成し、該分布図の重心を算出し、予め求めた正常時の重心と比較して、両者の乖離度に基づいて異常の有無を判定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、全周波数についてウェーブレット係数の時間波形を取得して、ウェーブレット係数の時間波形に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定するようにしているので、振動波形の周波数帯域等が未知の機械設備に対しての異常の有無を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る機械設備の異常有無診断装置の説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る機械設備の異常有無診断方法のフローチャートである。
【
図3】
図1の異常有無診断装置によって得られた加速度波形の一例である。
【
図4】採取した加速度波形をウェーブレット変換したウェーブレット係数の時間変化の一例を示すグラフであり、
図4(a)が異常時、
図4(b)が正常時を示している。
【
図5】所定間隔の周波数ごとのウェーブレット係数の時間波形を示すグラフである。
【
図6】各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を示すグラフである。
【
図7】
図6に示したグラフに基づいて異常の有無を判定する方法の説明図である(その1)。
【
図8】
図6に示したグラフに基づいて異常の有無を判定する方法の説明図である(その2)。
【
図9】一般的な汚泥かき寄せ機の全体構造を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施の形態に係る機械設備の異常有無診断装置(以下、単に「異常有無診断装置」という)を、診断対象機械設備として汚泥かき寄せ機を例に挙げて説明する。
まず、異常有無診断装置について
図1に基づいて概説し、その後で異常有無診断方法を説明する。なお、
図1において、汚泥かき寄せ機41の各部位を示す符号は
図9と同一の符号を付してある。
【0022】
本実施の形態の機械設備の異常有無診断装置1は、
図1に示すように、振動波形採取部3と、振動波形採取部3とケーブル5で接続され、振動波形採取部3で採取された振動波形データを解析して異常の有無を診断する異常有無診断部7とを備えている。
各構成を詳細に説明する。
【0023】
<振動波形採取部>
振動波形採取部3は、
図1に示すように、圧電素子9と圧電素子9を測定箇所に設置するためのマグネット11とからなる振動センサ13と、振動センサ13から出力された信号を増幅するアンプ15と、アンプ15によって増幅された振動のアナログデータをデジタル信号に変換するA/D変換器17とを備えている。振動センサ13はマグネット11によって駆動装置43の出力軸近傍(図中のPで示す位置)に取り付けられる。
振動波形採取部3で取得した振動波形データはケーブル5を介して異常有無診断部7に送信される。
【0024】
本実施の形態においては、振動波形採取部3を1個使用する例を示しているが、本発明においては、振動波形採取部3の数は1個に限定されるものではなく、複数個使用するものを排除していない。
【0025】
<異常有無診断部>
異常有無診断部7は、PC(パーソナルコンピュータ)に搭載される機器及びプログラムによって構成されている。
異常有無診断部7は、
図1に示すように、振動波形データ記憶手段19と、ウェーブレット変換手段21と、ウェーブレット係数時間波形取得手段23と、自己相関関数算出手段25と、相関度ピーク抜き出し手段27と、判定手段29と、キーボード等の入力手段31と、モニタ等の表示手段33と、を備えている。
振動波形データ記憶手段19、ウェーブレット変換手段21、ウェーブレット係数時間波形取得手段23、自己相関関数算出手段25、相関度ピーク抜き出し手段27及び判定手段29は、PCに搭載されたCPUがプログラムを実行することで実現される。
以下、各手段を詳細に説明する。
【0026】
《振動波形データ記憶手段》
振動波形データ記憶手段19は、振動センサユニットから送信される信号を入力して振動波形データに対して適切なフィルター処理を行って記憶する。
【0027】
《ウェーブレット変換手段》
ウェーブレット変換手段21は、採取した振動波形をウェーブレット変換して全周波数についてウェーブレット係数の時間変化を取得する。
ウェーブレット変換とは、周波数解析手法の一つであり、時間の流れの中で、どのような周波数がどの程度の振幅で発生しているかを見るためのものである。
ここで、本発明において、ウェーブレット変換を用いた理由を、本実施の形態で診断対象とした汚泥掻き寄せ機を例に挙げて説明する。
汚泥掻き寄せ機は汚泥の処理量に基づいて設計されているものであるから、設備規模や設備の構造、使用する機械部品の種類や部品寸法など設備ごとに仕様の異なるものが存在する。そのため仕様が異なれば異常時に発生する振動周波数も異なったものとなる。
【0028】
この異常時に発生する振動周波数は、個々の汚泥掻き寄せ機について異常模擬試験や振動加振試験などを実施することで特定することは可能であるが、運用中の汚泥掻き寄せ機で模擬試験等を実施することはかなりの手間と時間がかかるため現実的ではない。
しかしながら、汚泥掻き寄せ機の仕様が異なるとしても掻き寄せ機槽内のスプロケット等に摩耗等の異常が発生した場合、ある周波数帯域の周期的な振動が現れることは事実であり、掻き寄せ機の仕様によって異常時に発生する周波数帯域が異なるだけである。
そこで、ウェーブレット変換を用いれば、周波数毎に周期的な異常振動があるかないかを、解析対象とする周波数範囲のすべての周波数について計算することが可能なため、周期的な振動が有るか無いかの情報を得ることができる。このため、異常時の周波数帯域が未知であっても、これを特定することなく、異常の有無を判定できるのである。
【0029】
《ウェーブレット係数時間波形取得手段》
ウェーブレット係数時間波形取得手段23は、ウェーブレット変換によって得られたウェーブレット係数の時間変化を、所定間隔の周波数ごとに各周波数におけるウェーブレット係数の時間波形を取得する。
【0030】
《自己相関関数算出手段》
自己相関関数算出手段25は、各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を算出する。
【0031】
《相関度ピーク抜き出し手段》
相関度ピーク抜き出し手段27は、自己相関関数における相関度のピーク値を任意の点数、前記各周波数に対して抜き出す。
【0032】
《判定手段》
判定手段29は、各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定する。
判定手段29による判定方法の具体例は後述の異常有無診断方法の説明において示す。
【0033】
[機械設備の異常有無診断方法]
次に、上記の異常有無診断装置1を用いた機械設備の異常有無診断方法(以下、単に「異常有無診断方法」という)について説明する。
本実施の形態に係る異常有無診断方法は、
図2に示すように、振動波形採取工程、ウェーブレット変換工程、ウェーブレット係数時間波形取得工程、自己相関関数算出工程、相関度ピーク抜き出し工程、判定工程を備えている。
以下、各工程を説明する。
【0034】
<振動波形採取工程>
振動波形採取工程は、対象設備に設置した振動センサ13を用いて、振動加速度波形を所定時間採取する工程である。
具体的には、
図1に示した振動波形採取部3の圧電素子9を汚泥かき寄せ機41の駆動装置43にマグネット11で取り付けて振動波形を採取する。
なお、振動波形データの取得時間は予め設定した所定時間とする。
図3は、取得時間300秒で振動データとして加速度を取得した場合の加速度波形を示している。
【0035】
<ウェーブレット変換工程>
ウェーブレット変換工程は、ウェーブレット変換手段21により、採取した振動波形をウェーブレット変換して全周波数についてウェーブレット係数の時間変化を取得する工程である。
【0036】
図4は、ウェーブレット係数の時間変化の一例を示すものであり、縦軸が周波数(Hz)、横軸が時間(sec)を示し、グレー色の濃淡がウェーブレット係数の強度を示している。
図4(a)はスプロケット47に摩耗が生じている場合を示し、
図4(b)は正常状態のものを示している。
【0037】
<ウェーブレット係数時間波形取得工程>
ウェーブレット係数時間波形取得工程は、ウェーブレット係数時間波形取得手段23によって行われる工程であり、ウェーブレット変換によって得られたウェーブレット係数の時間変化から、所定間隔の周波数ごとに各周波数におけるウェーブレット係数の時間波形を取得する。
例えば、全周波数帯域を所定数に分割(例えば128分割)し、分割された周波数帯域ごと(例えば14Hzごと)に、ウェーブレット係数の時間波形を取得する。
【0038】
図5はウェーブレット係数時間波形取得手段23によって取得された各周波数(a、b、c、・・・z周波数)のウェーブレット係数の時間波形グラフを示したものであり、縦軸が振幅(m/s
2)、横軸(sec)が時間を示している。
【0039】
<自己相関関数算出工程>
自己相関関数算出工程は、自己相関関数算出手段25によって各周波数のウェーブレット係数の時間波形に対する自己相関関数を算出する工程である。
図6は、自己相関関数を示したものであり、縦軸が自己相関度、横軸が時間(sec)を示している。
自己相関関数を算出することで、ウェーブレット係数の強度の周期性を抽出することができる。
【0040】
<相関度ピーク抜き出し工程>
相関度ピーク抜き出し工程は、相関度ピーク抜き出し手段27によって、自己相関関数における相関度のピーク値を任意の点数、前記各周波数に対して抜き出す工程である。
例えば、
図6に示す例では、zHzの場合においてピーク値が大きい方から4点(図中点線の丸で示したもの)抜き出す例を示している。
【0041】
<判定工程>
判定工程は、判定手段29によって、各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動発生の有無を判定する工程である。
具体的な判定方法の一例を挙げると、抜き出したピーク値(相関度)と時間の関係を示す分布図を作成し、該分布図の重心を算出し、予め求めた正常時の重心と比較して、両者の乖離度に基づいて異常の有無を判定する。
ここで、分布図の重心に基づいて異常の有無の判定をしている理由を説明する。
分布図から重心を算出する理由としては、汚泥掻き寄せ機のスプロケットに摩耗が生じた場合、摩耗している歯の数や摩耗の形状や摩耗の程度によってスプロケットとチェーンが噛み合い周期にも微妙な差が生じるので、ピーク値の分布にもある程度のばらつきを生じる。しかしながら、噛み合い周期にばらつきが生じたとしても、異常があれば自己相関関数グラフの中に正常時には現れないピークが周期的に現れるため、分布図の重心が正常時とずれることになる。このような事実を利用することで、異常の有無の判定を簡素化することができる。
【0042】
図7は、
図4(a)に示したスプロケット47に異常が発生している状態における分布図を示し、図中の●が分布図の重心を示している。
図8は、
図7に示した分布図に、
図4(b)に示した正常時について求めた分布図の重心をプロットしたものである。
【0043】
図8に示すように、異常時の重心は正常時の重心と大きくずれていることが分かる。そして、このずれがどの程度であれば異常と判定するかのしきい値をあらかじめ設定しておき、このしきい値を超えていた場合には異常と判定する。
【0044】
ここで、しきい値の具体的な設定の考え方を説明する。
スプロケットが摩耗した際には周期的な振動が発生するのでその自己相関関数グラフにも周期的に連続したピーク成分が出現する。このピーク成分の発生周期は計算上求められるスプロケットとチェーンの噛み合い周期(単位は秒)が基本となり、自己相関関数グラフにはその基本周期の整数倍(おおよそ5倍程度)まで繰り返しとしてピーク成分が出現する。そこで基本周期の5倍成分までを解析範囲とすれば異常有無の判定が可能であることを確認したので5倍成分までの複数のピーク成分の重心をとることとした。
その結果、スプロケットとチェーンのかみ合い周期に対しておおよそ3倍程度乖離した重心点が異常状態にあると判断できるため、スプロケットとチェーンのかみ合い周期の約3倍値をしきい値とすればよい。
【0045】
図8に示す例では、時間軸に着目し、正常時の重心は32[sec]であるのに対して、しきい値を正常時の約3倍である80[sec]とした。
他方、異常時の重心は110[sec]であり、しきい値である80[sec]を大きく超えているので、異常が発生していると判定することになる。
【0046】
以上のように、本発明においては、全周波数についてウェーブレット係数の時間波形を取得して、ウェーブレット係数の時間波形に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定するようにしているので、振動波形の周波数帯域等が未知の機械設備に対しての異常の有無を診断することができる。
【0047】
なお、上記の説明では、各周波数について抜き出したピーク値と時間との関係に基づいて異常周期振動の発生の有無を判定する方法として、抜き出したピーク値と時間の関係を示す分布図の重心を算出し、予め求めた正常時の重心と比較して、両者の乖離度に基づいて異常の有無を判定するようにした。
もっとも、本発明における異常周期振動発生の有無の判定は、これに限られるものではなく、抜き出したピーク値と時間の関係を示す分布に対して、最頻出値や中央値によって行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 異常有無診断装置
3 振動波形採取部
5 ケーブル
7 異常有無診断部
9 圧電素子
11 マグネット
13 振動センサ
15 アンプ
17 A/D変換器
19 振動波形データ記憶手段
21 ウェーブレット変換手段
23 ウェーブレット係数時間波形取得手段
25 自己相関関数算出手段
27 相関度ピーク抜き出し手段
29 判定手段
31 入力手段
33 表示手段
41 汚泥かき寄せ機
43 駆動装置
45 無端チェーン
47 スプロケット(53、54、55、57、59、61)
49 フライト
51 沈殿池
53 駆動装置スプロケット
54 駆動軸駆動スプロケット
55、57、59、61 駆動軸従動スプロケット