(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074864
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】着装モデル作成方法、着装モデル作成プログラムおよび着装モデル作成装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230523BHJP
A41H 31/00 20060101ALI20230523BHJP
A41H 43/00 20060101ALI20230523BHJP
G06F 30/10 20200101ALN20230523BHJP
【FI】
G06F30/20
A41H31/00 Z
A41H43/00 Z
G06F30/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188021
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】305000297
【氏名又は名称】東レACS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慶一
(72)【発明者】
【氏名】蒔田 憲典
(72)【発明者】
【氏名】岸部 智昭
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA11
5B146DC06
5B146DE06
5B146DJ12
5B146DJ15
5B146EA07
5B146EC01
5B146EC08
5B146EC09
(57)【要約】
【課題】衣服を重ね着した場合の着装状態のモデル作成に要する時間を短縮すること。
【解決手段】本発明の着装モデル作成方法は、複数の衣服の着用順序を設定する順序設定ステップと、着用対象の複数の衣服の着装状態を示す初期モデルを作成する初期モデル作成ステップと、初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第1の幾何学的特徴量算出ステップと、順序に反しているポリゴンメッシュの頂点を検出する検出ステップと、順序に反している頂点を移動させる頂点移動ステップと、頂点移動後の各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第2の幾何学的特徴量算出ステップと、幾何学的な特徴量に基づいて、順序に反している頂点を有する衣服のモデルを変形する変形ステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衣服を重ねて着用した際の着装状態を示す三次元の着装モデルを作成する着装モデル作成装置が行う着装モデル作成方法であって、
前記複数の衣服の着用順序を設定する順序設定ステップと、
着用対象の前記複数の衣服の着装状態を示す初期モデルを作成する初期モデル作成ステップと、
前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第1の幾何学的特徴量算出ステップと、
前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュ、または前記ポリゴンメッシュの頂点を移動して得られる変形後のポリゴンメッシュに基づいて順序に反している頂点を検出する検出ステップと、
前記順序に反している頂点を移動させる頂点移動ステップと、
前記頂点移動後の各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第2の幾何学的特徴量算出ステップと、
前記第1および第2の幾何学的特徴量算出ステップにおいて算出された幾何学的な特徴量に基づいて、前記順序に反している頂点を有する衣服のモデルを変形する変形ステップと、
を含むことを特徴とする着装モデル作成方法。
【請求項2】
前記検出ステップの検出結果、または、前記変形ステップの繰り返す回数に基づいて処理を終了するか否かを判断する終了条件判定ステップ、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の着装モデル作成方法。
【請求項3】
第1の幾何学的特徴量算出ステップは、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点を示す第1のラプラシアン座標を算出し、
第2の幾何学的特徴量算出ステップは、前記頂点移動後の各頂点を示す第2のラプラシアン座標を算出し、
前記頂点移動ステップおよび前記変形ステップは、
前記第1および第2のラプラシアン座標の差を用いて行われる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の着装モデル作成方法。
【請求項4】
前記変形ステップの繰り返す回数に基づいて、前記第1の幾何学的特徴量算出ステップにおいて算出された幾何学的特徴量の更新を行う更新ステップ、
をさらに含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の着装モデル作成方法。
【請求項5】
複数の衣服を重ねて着用した際の着装状態を示す三次元の着装モデルを作成する着装モデル作成装置が行う着装モデル作成プログラムであって、
前記複数の衣服の着用順序を設定する順序設定ステップと、
着用対象の前記複数の衣服の着装状態を示す初期モデルを作成する初期モデル作成ステップと、
前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第1の幾何学的特徴量算出ステップと、
前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュ、または前記ポリゴンメッシュの頂点を移動して得られる変形後のポリゴンメッシュに基づいて順序に反している頂点を検出する検出ステップと、
前記順序に反している頂点を移動させる頂点移動ステップと、
前記頂点移動後の各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第2の幾何学的特徴量算出ステップと、
前記第1および第2の幾何学的特徴量算出ステップにおいて算出された幾何学的な特徴量に基づいて、前記順序に反している頂点を有する衣服のモデルを変形する変形ステップと、
を前記着装モデル作成装置に実行させることを特徴とする着装モデル作成プログラム。
【請求項6】
複数の衣服を重ねて着用した際の着装状態を示す三次元の着装モデルを作成する着装モデル作成装置であって、
前記複数の衣服の着用順序を設定する順序設定部と、
着用対象の前記複数の衣服の着装状態を示す初期モデルを作成する初期モデル作成部と、
前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第1の幾何学的特徴量算出部と、
前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュ、または前記ポリゴンメッシュの頂点を移動して得られる変形後のポリゴンメッシュに基づいて順序に反している頂点を検出する検出部と、
前記順序に反している頂点を移動させる頂点移動部と、
前記頂点移動後の各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第2の幾何学的特徴量算出部と、
前記第1および第2の幾何学的特徴量算出部が算出した幾何学的な特徴量に基づいて、前記順序に反している頂点を有する衣服のモデルを変形する変形部と、
を備えることを特徴とする着装モデル作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着装モデル作成方法、着装モデル作成プログラムおよび着装モデル作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCAD(Computer Aided Design)システムの発展、普及に伴い、衣料等の着装状態を画像化して表示する技術が採用されてきている。例えば、衣服を重ね着した際の視覚効果を効率的に確認するために、重ね着する複数の衣服の着装状態をシミュレーションした各衣服の三次元モデルを組み合わせて、重ね着された衣服の三次元モデルを得る技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。近年では、着装状態をコンピュータ上でシミュレーションするケースが増えており、年間に作成される衣服は数万品番(デザイン)に及ぶことがある。使用者は、衣服を特定するためのキーワードを用いて容易に検索するために、作成した三次元モデルをデータベースに保存している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、重ね着された衣服の三次元モデルにおいて、内側に位置するべき衣服の一部が外側の衣服よりも外側に位置している状態で変形等の微調整を行った場合、調整後に再度着装状態をシミュレーションするため、重ね着の着装状態の三次元モデルの作成に時間を要していた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、衣服を重ね着した場合の着装状態のモデル作成に要する時間を短縮することができる着装モデル作成方法、着装モデル作成プログラムおよび着装モデル作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる着装モデル作成方法は、複数の衣服を重ねて着用した際の着装状態を示す三次元の着装モデルを作成する着装モデル作成装置が行う着装モデル作成方法であって、前記複数の衣服の着用順序を設定する順序設定ステップと、着用対象の前記複数の衣服の着装状態を示す初期モデルを作成する初期モデル作成ステップと、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第1の幾何学的特徴量算出ステップと、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュ、または前記ポリゴンメッシュの頂点を移動して得られる変形後のポリゴンメッシュに基づいて順序に反している頂点を検出する検出ステップと、前記順序に反している頂点を移動させる頂点移動ステップと、前記頂点移動後の各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第2の幾何学的特徴量算出ステップと、前記第1および第2の幾何学的特徴量算出ステップにおいて算出された幾何学的な特徴量に基づいて、前記順序に反している頂点を有する衣服のモデルを変形する変形ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明にかかる着装モデル作成方法は、上記の発明において、前記検出ステップの検出結果、または、前記変形ステップの繰り返す回数に基づいて処理を終了するか否かを判断する終了条件判定ステップ、をさらに含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる着装モデル作成方法は、上記の発明において、第1の幾何学的特徴量算出ステップは、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点を示す第1のラプラシアン座標を算出し、第2の幾何学的特徴量算出ステップは、前記頂点移動後の各頂点を示す第2のラプラシアン座標を算出し、前記頂点移動ステップおよび前記変形ステップは、前記第1および第2のラプラシアン座標の差を用いて行われる、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる着装モデル作成方法は、上記の発明において、前記変形ステップの繰り返す回数に基づいて、前記第1の幾何学的特徴量算出ステップにおいて算出された幾何学的な特徴量の更新を行う更新ステップ、をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる着装モデル作成プログラムは、複数の衣服を重ねて着用した際の着装状態を示す三次元の着装モデルを作成する着装モデル作成装置が行う着装モデル作成プログラムであって、前記複数の衣服の着用順序を設定する順序設定ステップと、着用対象の前記複数の衣服の着装状態を示す初期モデルを作成する初期モデル作成ステップと、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第1の幾何学的特徴量算出ステップと、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュ、または前記ポリゴンメッシュの頂点を移動して得られる変形後のポリゴンメッシュに基づいて順序に反している頂点を検出する検出ステップと、前記順序に反している頂点を移動させる頂点移動ステップと、前記頂点移動後の各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第2の幾何学的特徴量算出ステップと、前記第1および第2の幾何学的特徴量算出ステップにおいて算出された幾何学的な特徴量に基づいて、前記順序に反している頂点を有する衣服のモデルを変形する変形ステップと、を前記着装モデル作成装置に実行させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる着装モデル作成装置は、複数の衣服を重ねて着用した際の着装状態を示す三次元の着装モデルを作成する着装モデル作成装置であって、前記複数の衣服の着用順序を設定する順序設定部と、着用対象の前記複数の衣服の着装状態を示す初期モデルを作成する初期モデル作成部と、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第1の幾何学的特徴量算出部と、前記初期モデルを構成するポリゴンメッシュ、または前記ポリゴンメッシュの頂点を移動して得られる変形後のポリゴンメッシュに基づいて順序に反している頂点を検出する検出部と、前記順序に反している頂点を移動させる頂点移動部と、前記頂点移動後の各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量を算出する第2の幾何学的特徴量算出部と、前記第1および第2の幾何学的特徴量算出部が算出した幾何学的な特徴量に基づいて、前記順序に反している頂点を有する衣服のモデルを変形する変形部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衣服を重ね着した場合の着装状態のモデル作成に要する時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態にかかる着装モデル作成装置の概略構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態にかかる着装モデル作成装置における三次元モデル作成処理の概要を説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態にかかる着装モデル作成装置が行う着装モデル作成処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、初期モデルの一例について説明する図である。
【
図5】
図5は、重なり順の検出処理について説明する図(その1)である。
【
図6】
図6は、重なり順の検出処理について説明する図(その2)である。
【
図7】
図7は、頂点の移動処理について説明する図(その1)である。
【
図8】
図8は、頂点の移動処理について説明する図(その2)である。
【
図9】
図9は、変形後の三次元モデルの一例について説明する図(その1)である。
【
図10】
図10は、変形後の三次元モデルの一例について説明する図(その2)である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態の変形例にかかる着装モデル作成装置が行う着装モデル作成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態にかかる着装モデル作成装置の概略構成を模式的に示すブロック図である。
図1に示す着装モデル作成装置1は、複数の衣服を着用した際の着装態様を示す三次元モデルであって、複数の衣服を重ねて着用した際の三次元モデルを示す画像データを生成する。着装モデル作成装置1は、入力部11と、出力部12と、画像処理部13と、記憶部14と、制御部15と、を備える。
なお、本実施の形態では、三次元モデルが、ポリゴンメッシュによって構成される例について説明する。
【0016】
入力部11は、着装モデル作成装置1の各部の動作を指示する指示信号の入力や、画像における画像処理領域(位置)を指示する指示信号の入力の受け付け、および受け付けた指示信号を制御部15に入力する。入力部11は、キーボード、マウス、タッチパネル等のインタフェースを用いて実現される。入力部11は、受け付けた指示信号を制御部15に入力する。指示信号には、例えば、画像表示にかかる指示信号や、画像処理に関する選択指示、入力指示などの指示信号が挙げられる。
【0017】
出力部12は、LEDなどの光源や、スピーカなどを用いて構成される。出力部12は、制御部15による制御のもと、例えば、処理の開始時や終了時等に、出力処理を実行する。
【0018】
画像処理部13は、記憶部14に記憶される三次元モデルから、選択された衣服の三次元モデルを抽出し、抽出した衣服を着用した三次元モデルを作成する処理、および、この三次元モデルの画像を表示させるため表示画像信号(画像情報)の生成処理を行う。画像処理部13は、三次元モデルを構成する各衣服に関する文字情報や色情報などの各種情報を生成してもよい。
【0019】
図2は、本発明の一実施の形態にかかる着装モデル作成装置における三次元モデル作成処理の概要を説明する図である。画像処理部13では、例えば入力部11を介して選択された複数の衣服の三次元モデル(
図2では三つの三次元モデルM
1~M
3)を処理することによって、重ね着された衣服の三次元モデル(着装モデル)が生成される。
【0020】
画像処理部13は、内外順序設定部131と、初期モデル作成部132と、算出部133と、検出部134と、変形部135とを有する。
【0021】
内外順序設定部131は、三次元モデルを生成する複数の衣服について、ボディを内側とした、内外順序を設定する。内外順序は、例えば、衣服ごとに設定される順序情報(例えば、衣服のカテゴリ(例えば下着や、シャツ、上着等の順序に対応付くカテゴリ、内側への優先順位度)を、入力部11を介して入力された順序にしたがって内外順序を設定する。
【0022】
初期モデル作成部132は、選択された衣服を重ねて着装させた初期の三次元モデル(以下、初期モデルという)を作成する。初期モデル作成部132は、例えば、記憶部14を参照して指定された衣服の三次元モデルを取得し、順序に応じて各衣服を重ねた三次元モデルを初期モデルとして作成する。なお、三次元モデルは、選択され得るすべての三次元モデルが記憶部14に記憶されていてもよいし、着装モデル作成装置1が、指定された三次元モデルを、外部のデータベース等から記憶部14に読み込む構成であってもよい。
【0023】
算出部133は、三次元モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点のラプラシアン座標を算出する。
【0024】
検出部134は、ポリゴンメッシュの各頂点のうち、内外順序設定部131が設定した順序に反する頂点を検出する。具体的には、検出部134は、内側にあるべき頂点が、その順序に反している頂点を検出する。検出部134は、3次元モデルを構成するポリゴンメッシュの各頂点、頂点同士を結ぶ線分(以下、辺ということもある)、頂点によって形成される面からなる3次元モデルの間の交差判定を行うアルゴリズム等で実現される。このアルゴリズムは、公知のアルゴリズムを採用することができ、高速に演算できることが特に好ましい。ここでは、検出部134の検出処理の一例について説明する。いずれのアルゴリズムを採用したとしても、指定した座標の近傍にあるポリゴンメッシュの頂点、辺または面を高速で探索することが求められる。この探索は、空間分割によって実現される。代表的な空間分割の手法としては、八分木法、kd木法等が挙げられる。
【0025】
本実施の形態では、検出部134が、内側にあるべき衣服におけるポリゴンメッシュの辺と、外側にあるべき衣服におけるポリゴンメッシュの面との交差判定を利用して頂点を検出する例について説明する。検出部134は、すべての辺について、外側にあるべき衣類のポリゴンメッシュの面との交差判定を行う。この際、外側にあるべき衣類のポリゴンメッシュに対して、空間分割を適用すると、ポリゴンメッシュの面への高速なアクセスができるため好ましい。
【0026】
変形部135は、検出部134に検出された頂点を移動させ、衣服の形状を変形させる。頂点移動後のポリゴンメッシュの変形には、移動した頂点以外の部分の詳細な形状を保持しながらポリゴンメッシュを変形する方法が好ましい。移動した頂点以外の頂点はできるだけ移動せずに変形前の形状を保持する手法については、例えば、ラプラシアン局面編集法(Laplacian Surface Editing:LSE)が挙げられる(例えば、O.Sorkine, et.al., “Laplacian Surface Editing” Eurographics/ACM SIGGRAPH Symposium on Geometry Processing (2004))。
【0027】
ここで、LSEについて説明する。LSEは、ポリゴンメッシュの一部の頂点に対して変形後の3次元空間における座標を指定し、その他の頂点はできるだけ変形前の詳細形状を保持するようにポリゴンメッシュの形状を変形する手法である。LSEでは、幾何学量を示すラプラシアン座標を用いる。ラプラシアン座標は、変形対象のポリゴンメッシュの各頂点に対して、その近傍の頂点の座標から計算される。具体的に、ポリゴンメッシュのi番目の頂点のラプラシアン座標δ
iは下式(1)で計算される。
【数1】
ここで、ν
iはi番目の頂点の座標を表す3次元のベクトル、d
iはi番目の頂点に対してポリゴンメッシュの辺を共有する頂点の個数であり、総和Σはi番目の頂点とポリゴンメッシュの辺を共有する頂点すべてにわたって取られるものとする。また、3次元空間の座標は、互いに直交する3軸を有するデカルト座標系で表されるものとする。
【0028】
次に、変形前のポリゴンメッシュのk番目の頂点の座標をν
k、ラプラシアン座標をδ
kでそれぞれ表し、変形後のポリゴンメッシュのk番目の頂点の座標、ラプラシアン座標をそれぞれν
k´、δ
k´で表すものとする。また、ポリゴンメッシュはn個の頂点からなり、m≦i≦nであるようなi番目の頂点の変形後の座標の目標値をu
iとする。このときLSEによって得られる変形後のポリゴンメッシュの頂点の座標ν
k´は下式(2)のエラー関数を最小化するものとして求められる。
【数2】
ここで、|| ||は、3次元ベクトルのユークリッドノルムを表す。
【0029】
ここで、内側にあるべき衣服の3次元モデルの変形にLSEを応用する場合、一部の頂点に対してどのように変形後の座標の目標値を指定するか(上式(2)のuiをどのように定めるか)が問題となる。内外の順序に反する頂点を修正するように移動することが考えられるが、多くの頂点に対して変形後の座標の目標値を指定する場合、目標値を適切に指定しなければ変形後の形状が崩れやすくなる。一方、変形後の座標の目標値を指定する頂点を少なくすることで、内外の順序に反する部分がすべて修正されない可能性が大きくなる。
【0030】
本実施の形態において、変形部135は、ポリゴンメッシュの各頂点を、内外の順序に反する部分を修正し、かつ変形前後のラプラシアン座標の差が小さくなるように、反復的に座標を更新する変形処理を行う。特に、変形部135は、LSEのように一部の頂点の座標の目標値を事前に指定する必要のない手法を採用することが好ましい。
具体的には、変形部135は、ポリゴンメッシュのi番目の頂点について、ステップS103で算出したラプラシアン座標δi、ステップS107で算出したラプラシアン座標δi´、定数をε(0<ε<1)として、下式(3)によって求まる移動量Δdiだけ移動させる。
Δdi=ε×(δi-δi´) ・・・(3)
この際の移動方向は、ラプラシアン座標の差を表すベクトルの方向となる。
【0031】
記憶部14は、着装モデル作成装置1に実行させる各種プログラム、プログラムの実行中に使用される各種データや、本発明の着装モデル作成方法にかかる着装モデル作成プログラムなどを記憶する。記憶部14は、処理中のデータを一時的に記憶する機能を有する。また、記憶部14は、複数の衣服の三次元モデルを記憶する三次元モデル記憶部14aを有する。各三次元モデルは、当該衣服を構成する複数の型紙情報(縫合情報等)や、摩擦等の外的要因の情報に基づいて生成される立体モデルである。記憶部14は、フラッシュメモリおよびRAM等の半導体メモリを用いて実現される。なお、記憶部14は、外部から装着されるメモリカード等を用いて構成されてもよい。
【0032】
制御部15は、着装モデル作成装置1の各部の動作を制御するとともに、着装モデル作成装置1を統括的に制御する。制御部15は、CPU(Central Processing Unit)等を用いて構成され、着装モデル作成装置1に含まれる各部を制御するとともに、外部からの指示信号に応じて指示信号に対応する指示情報やデータの転送等を行って動作を制御する。
【0033】
表示装置2は、画像処理部13が生成した表示画像信号などを受信して該表示画像信号に対応する画像を表示する。表示装置2は、画像処理部13から出力される三次元モデルなどの各種情報を表示する。表示装置2は、液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等を用いて構成される。表示装置2は、制御部15から出力される画像表示指示に基づいて画像を表示する。
【0034】
図3は、本発明の一実施の形態にかかる着装モデル作成装置が行う着装モデル作成処理を示すフローチャートである。内外順序設定部131は、例えば、入力部11を介して衣服が選択されると、これらの衣服について、ボディを内側とした、内外順序を設定する(ステップS101:順序設定ステップ)。
【0035】
その後、初期モデル作成部132は、選択された衣服を重ね着させた初期の三次元モデルである初期モデルを生成する(ステップS102:初期モデル作成ステップ)。
図4は、初期モデルの一例について説明する図である。
図4に示す初期モデルは、例えば、内側にあるべき衣服C
INの一部が、衣服C
OUTよりも外側にはみ出ている例を示している。
【0036】
初期モデル作成後、算出部133が、初期モデルの各頂点についてラプラシアン座標を算出する(ステップS103:第1の座標算出ステップ)。算出部133は、初期モデルを構成するポリゴンメッシュのすべての頂点のラプラシアン座標を算出する。算出部133が算出したラプラシアン座標は、一時的に記憶部14に保存される。
【0037】
検出部134は、ポリゴンメッシュの各頂点のうち、内外順序設定部131が設定した順序に反する頂点を検出する(ステップS104:検出ステップ)。検出部134は、3次元モデルを構成するポリゴンメッシュの面、辺および頂点からなる3次元モデルの間の交差判定を行って頂点の検出を行う。
【0038】
図5および
図6は、重なり順の検出処理について説明する図である。
図5において、頂点P
11~P
13は、外側に位置すべき衣服の三次元モデルにおけるポリゴンメッシュの一部の頂点を示し、頂点P
21、P
22は、内側に位置すべき衣服の三次元モデルにおけるポリゴンメッシュの一部の頂点を示し、頂点P
11~P
13を結ぶ線分S
11~S
13によって形成される面F
P上には位置していないものとする。また、
図6は、着装状態のボディ断面に相当し、図の下側にボディB
1が位置し、該ボディB
1から遠ざかる側が外側となる。
図6では、内側に位置すべき衣服C
2の一部の頂点が、外側に位置すべき衣服C
1の外側に位置している。ここで、3次元モデルのポリゴンメッシュの各面に対し、衣服の外側を向く法線ベクトルが定められている。
【0039】
例えば、
図5では、面F
Pに対し、法線ベクトルN
Pが定められる。また、
図5では、衣服C
2の頂点P
22が衣服C
1の外側に位置する例を示しており、頂点P
21と頂点P
22とを結ぶ線分L
Pが面F
Pと交差している。法線ベクトルN
Pが定義されている場合、面F
Pの任意の頂点からある頂点P
22に向かうベクトルをV
Pとすると、頂点P
22が面F
Pの外側にあると判断されるのはベクトルV
Pと、法線ベクトルN
Pとの内積(V
P,N
P)が正(>0)となるときである。検出部134は、算出した内積に基づいて、頂点が順序に反するか否かを判断する。
【0040】
ここで、内積に基づいて線分L
Pが面F
Pと交差しているか否かを判断する処理について、具体的に説明する。頂点P
11を始点とし、頂点P
12を終点とするベクトルをV
A、頂点P
11を始点とし、頂点P
13を終点とするベクトルをV
Bとしたとき、ベクトルV
A、V
Bは、下式(4)、(5)で表すことができる。
V
A=P
12-P
11 ・・・(4)
V
B=P
13-P
11 ・・・(5)
また、面F
Pと、頂点P
21および頂点P
22を通過する直線L(ここでは一部が線分L
Pと一致する)との交点P
Lの座標l
pは、下式(6)で表すことができる。
【数3】
ここで、<>は、内積を示しており、3行3列の行列Cを下式(7)のように定める。
C=[V
A,V
B,N
P] ・・・(7)
V
A、V
B、N
Pは、三次の列ベクトルとしている。V
A、V
B、N
Pは、一次独立であるため、行列Cは、正則行列である。この際、実数r
1、r
2、r
3が、下式(8)の関係で成り立つものとする。
【数4】
ここで、C
-1は、行列Cの逆行列を表す。このとき、直線Lが面F
Pと交わる(直線Lと面F
Pとの交点が面F
P上にある)ための必要十分条件は、下式(9)で表すことができる。
0<r
1、0<r
2、r
1+r
2<1 ・・・(9)
【0041】
二つの頂点を通過する直線が面と交差するならば、各頂点を両端とする線分が面と交差するための必要十分条件は、二つの頂点のうちの一方が面の外側にあり、他方が面の内側にあることである。検出部134は、面FPの任意の頂点から、ある頂点に向かうベクトル、例えば頂点P12を始点、頂点P22を終点とするベクトルVPについて、ベクトルVPと法線ベクトルNPとの内積(VP,NP)が正(>0)となるとき、頂点P22が面FPの外側にあると判断し、内積(VP,NP)が負(>0)となるとき、頂点P22が面FPの内側にあると判断する。
【0042】
このように、検出部134は、面FPと交差する辺の検出を行う。そして、検出部134は、頂点P21と頂点P22とを結ぶ辺(線分LP)が面FPと交差する場合、頂点P21および頂点P22のうち面FPの外側にあると判定される頂点(内積が正となる頂点)を内外の順序に反し、移動すべき頂点として検出する。
【0043】
その後、制御部15は、終了条件を満たすか否かを判断する(ステップS105)。ここで、順序に反する頂点が検出されない、または、予め設定される変形処理の繰り返し回数の上限値を超えていることが終了条件として設定される。制御部15は、頂点が検出された場合は、変形処理の繰り返し回数と、上限値とを比較して、着装モデル作成処理を終了するか否かを判断する。制御部15は、順序に反する頂点が検出されなかった、または、変形処理の繰り返し回数が、上限値を超えている場合、終了条件を満たすと判断し(ステップS105:Yes)、処理を終了する。これに対し、制御部15は、順序に反する頂点が検出され、かつ、変形処理の繰り返し回数が、上限値以下である場合、終了条件を満たさないと判断し(ステップS105:No)、ステップS106に移行する。上限値としては、例えば、数十~数百の範囲(例えば100回)で設定される。
【0044】
変形部135は、検出部134に検出された頂点を移動させる(ステップS106:頂点移動ステップ)。この際、移動前の頂点の座標は、ステップS103において算出された初期モデルの座標を基本座標とする。
【0045】
図7および
図8は、頂点の移動処理について説明する図である。変形部135は、移動すべき頂点(ここでは頂点P
22)を衣類の外側を向く法線(法線ベクトルN
P)とは逆の方向に面F
Pの内側まで移動する。ただし、移動後の頂点と面F
Pとの距離が、予め定められた値D
Pとなるようにする。
ここで、移動量を表すベクトルMの具体的な計算式は、衣類の外側を向く法線ベクトルN
Pの大きさが1であり、面F
Pの任意の頂点から移動すべき頂点P
22に向かうベクトルをV
Pとするとき、Mは下式(10)で計算される。
M=-((V
P,N
P)+D
P)N
P ・・・(10)
変形部135は、このベクトルMに応じて頂点を移動させる。
【0046】
頂点移動処理後、算出部133は、頂点移動後の三次元モデルについてラプラシアン座標を算出する(ステップS107:第2の座標算出ステップ)。
【0047】
変形部135は、移動後の各頂点の座標に応じて衣服の形状を変形させる(ステップS108:変形ステップ)。変形部135は、例えば、初期モデルの頂点および移動後の頂点に応じて算出された座標に基づいて、頂点移動処理後の三次元モデルを変形する。
【0048】
着装モデル作成装置1は、以上説明した処理を、終了条件を満たすまで繰り返すことによって、内側に位置すべき衣服の一部の形状を変形させ、複数の衣服を着装させた三次元モデルを更新する。ステップS108のラプラシアン座標に基づく変形処理では、一回の処理で移動対象の頂点が内側に移動しない場合がある。このため、ステップS104~S108の処理を繰り返すことによって、すべての頂点を内側に移動させ、その近傍の形状を着用状態に近い形状に変形する。また、ステップS108のラプラシアン座標に基づく変形処理に、初期モデルの詳細形状を保持する効果があり、反復回数が増えるほどその衣服のデザイン性を保持する効果が大きくなる。
【0049】
着装モデル作成装置1は、画像処理部13によって作成された三次元モデルを表示装置2に表示させる。
【0050】
図9および
図10は、変形後の三次元モデルの一例について説明する図である。
図10は、
図9に示す三次元モデルを、終了条件を満たす範囲において、さらに変形させた三次元モデルを示す。変形処理の回数を重ねるにつれて、着装状態における衣服の形状が最適化される。具体的に、変形処理によって、
図4に示す衣服C
IN、C
OUTが衣服C
IN´、C
OUT´が作成され、さらなる変形処理によって衣服C
IN´´、C
OUT´´が作成される。
図9と
図10とを比較すると、背中のしわの形状が、
図9に示す三次元モデルよりも、
図10に示す三次元モデルの方が、実際に着用した状態に近い形状となる。
【0051】
上述した実施の形態では、衣服を重ねた着装状態の三次元モデルにおいて、該三次元モデルを構成するポリゴンメッシュの頂点のうち、順序に反する頂点を移動させて、内側の衣服の形状を変形するようにした。実施の形態における算出部133および変形部135の処理によって、三次元モデルの頂点数に対して線形時間の処理となるように実装することが容易であり、反復回数も100回程度で十分な効果が得られる。また、検出部134は、既知の空間分割による探索法を利用することによって高速に処理を実行できる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、例えば上述した変形処理によって、頂点近傍以外の形状や、外側に位置すべき衣服の形状は変形させずに、内側に位置する衣服において順序に反する頂点と、この頂点の近傍のみを変形させて重ね着の着装状態を修正するため、重ね着の着装状態のモデルにおける衣服の形状の崩れを抑制することができる。
【0053】
また、特許文献1の方法の場合、重ね着した着装状態をシミュレーションするために、シミュレーション実施前に内外の順序を解消する必要があるが、内外の順序を解消する過程で衣服の三次元モデルの形状が大きく変化することが想定される。これにより、シミュレーション結果に悪影響が出る可能性があるほか、各衣服の三次元モデルの形状と重ね着された衣服の三次元モデルの形状とが大きく異なってしまうことも考えられる。各衣服の三次元モデルはデザインを確認するうえで適切に作りこまれていることが想定できるため、形状が大きく変わることはデメリットとなりうる。
これに対し、本実施の形態では、重ね着した衣服の三次元モデルと重ね着前の各衣服の三次元モデルの形状の差異をできるだけ小さくする。特に、タックやプリーツ等のデザイン確認のために重要となる詳細形状を保持することができる。
【0054】
加えて、本実施の形態では、初期モデルのポリゴンに基づいて算出されるラプラシアン座標をベースとして変形処理を行うようにしたため、初期モデルの形状を維持しつつ、順序に反する頂点を適切な位置に移動させたモデルを作成することができる。
【0055】
(変形例)
次に、本発明の実施の形態の変形例について説明する。本実施の形態の変形例にかかる着装モデル作成装置は、上述した実施の形態1にかかる着装モデル作成装置1と同様の構成を備えている。本変形例では、上述した着装モデル作成処理において、変形処理を所定回数実施した場合に、初期モデルを更新する例について説明する。
【0056】
図11は、本発明の一実施の形態にかかる着装モデル作成装置が行う着装モデル作成処理を示すフローチャートである。例えば、入力部11を介して衣服が選択されると、
図3に示すステップS101~S103と同様にして、内外順序設定部131が内外順序を設定し(ステップS201)、初期モデル作成部132が、設定された内外順序にしたがって初期モデルを生成し(ステップS202)、算出部133が、初期モデルについてラプラシアン座標を算出する(ステップS203)。
【0057】
その後、制御部15は、変形処理を繰り返した累積の反復回数と、予め指定された指定回数とを比較し、反復回数が指定回数より大きいか否かを判断する(ステップS204)。反復回数が指定回数より大きい場合(ステップS204:Yes)、ステップS203に戻り、算出部133が、ステップS209の変形処理後の座標算出処理を行う。この座標算出処理は、座標の更新ステップに相当する。
一方、制御部15は、反復回数が指定回数以下の場合(ステップS204:No)、ステップS205に移行する。ここで、指定回数は、終了条件として設定される繰り返し回数よりも少ない回数が設定される。例えば、繰り返し回数の上限を100回とした場合、指定回数は10回程度に設定される。
【0058】
ステップS205において、検出部134は、ステップS104と同様にして、ポリゴンメッシュの各頂点のうち、内外順序設定部131が設定した順序に反する頂点を検出する。
【0059】
その後、制御部15は、終了条件を満たすか否かを判断する(ステップS206)。制御部15は、順序に反する頂点が検出されない、または、変形処理の繰り返し回数が、上限値を超えている場合、終了条件を満たすと判断し(ステップS206:Yes)、処理を終了する。これに対し、制御部15は、変形処理の繰り返し回数が、上限値以下である場合、終了条件を満たさないと判断し(ステップS206:No)、ステップS207に移行する。
【0060】
ステップS207において、変形部135は、ステップS106と同様にして、検出部134に検出された頂点を移動させる。この際、移動前の頂点の座標は、ステップS203において算出された座標を基本座標とする。
【0061】
頂点移動処理後、算出部133は、頂点移動後の三次元モデルについてラプラシアン座標を算出する(ステップS208)。
【0062】
変形部135は、移動後の各頂点の座標に応じて衣服の形状を変形させる(ステップS209)。変形部135は、例えば、初期モデルの頂点および移動後の頂点に応じて算出された座標に基づいて、頂点移動処理後の三次元モデルを変形する。
【0063】
着装モデル作成装置1は、以上説明した処理を、終了条件を満たすまで繰り返すことによって、内側に位置すべき衣服の一部の形状を変形させ、複数の衣服を着装させた三次元モデルを更新する。
【0064】
上述した変形例では、実施の形態と同様に、算出部133および変形部135の処理によって、三次元モデルの頂点数に対して線形時間の処理となるように実装することが容易であり、反復回数も100回程度で十分な効果が得られる。
【0065】
また、変形例によれば、衣服を重ねた着装状態の三次元モデルにおいて、該三次元モデルを構成するポリゴンメッシュの頂点のうち、順序に反する頂点を移動させて、内側の衣服の形状を変形するようにした。本変形例によれば、例えば上述した変形処理によって、頂点近傍以外の形状や、外側に位置すべき衣服の形状は変形させずに、順序に反する頂点と、この頂点の近傍のみを変形させて重ね着の着装状態を修正するため、重ね着の着装状態のモデルにおける衣服の形状の崩れを抑制することができる。
【0066】
また、変形例によれば、初期モデルが更新されることによって、初期モデルからの変形量が小さい量に維持されるため、初期モデルと移動後の三次元モデルとのラプラシアン座標の差も小さくなることが期待できる。このため、ステップS209における初期モデルのラプラシアン座標と移動後のラプラシアン座標の差に基づく頂点の移動量が小さく抑えられ、変形処理を安定させることができる。
【0067】
(その他の実施の形態)
なお、上述した実施の形態や変形例では、着装モデル作成装置1に設けられた記憶部14が衣服の三次元モデルなどを記憶しているものとして説明したが、着装モデル作成装置1とは別に設けられた記憶媒体を介して情報を取得するものであってもよいし、ネットワークを介して情報を取得するものであってもよい。
【0068】
また、上述した実施の形態や変形例では、三次元形状をなす製品として衣服を作成するために用いられる型紙を例に説明したが、衣服などの衣料服飾品のほか、布団や枕、型紙を用いて形成されるカバー類、車両用のシートなどの製品においても、重ねて着用するのであれば適用することができる。
【0069】
また、上述した実施の形態や変形例では、算出部133が、初期モデルや変形後のモデルの座標を算出する第1および第2の座標算出部として機能する例について説明したが、各モデルの座標を算出する算出部として個別に設けてもよい。
【0070】
また、上述した実施の形態や変形例では、算出部133が、ポリゴンメッシュの各頂点に対して該頂点を含む頂点近傍の局所的な形状から定まる幾何学的な特徴量として、ラプラシアン座標を算出する例について説明したが、これに限らない。詳細形状を保ったポリゴンメッシュの変形を実現するための方法はいくつか知られており、例えば、変形前後のポリゴンメッシュに対して定まる局所的剛性エネルギ(Local Rigidity Energy)を幾何学的特徴量として利用する方法(例えば、O.Sorkine, M.Alexa, As-rigid-as-possible surface modeling, SGP’07,2007,pp.109-116)が挙げられる。
【0071】
以上のように、本発明にかかる着装モデル作成方法、着装モデル作成プログラムおよび着装モデル作成装置は、衣服を重ね着した場合の着装状態のモデル作成に要する時間を短縮するのに有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 着装モデル作成装置
2 表示装置
11 入力部
12 出力部
13 画像処理部
14 記憶部
14a 三次元モデル記憶部
15 制御部
131 内外順序設定部
132 初期モデル作成部
133 算出部
134 検出部
135 変形部