(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074886
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】エネルギ運用計画装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230523BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230523BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20230523BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 130
H02J13/00 301A
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188053
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 喜仁
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩太
(72)【発明者】
【氏名】前田 達矢
(72)【発明者】
【氏名】小川 広晃
(72)【発明者】
【氏名】内海 将人
(72)【発明者】
【氏名】飯村 洋
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064BA02
5G064BA08
5G064CB04
5G064CB07
5G064DA02
5G064DA03
5G066AA02
5G066AA03
5G066AA09
5G066AE04
5G066AE07
5G066AE09
5G066HB06
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】過酷な運用条件を考慮して安定的な運用を担保しつつ、シナリオ数の削減に伴う演算時間の向上を図ることができるエネルギ運用計画装置の提供。
【解決手段】電力運用計画装置1は、計画対象に関する機器情報、不確実性情報および予め想定される初期シナリオを含む電力運用計画関係情報を格納した計画情報部11と、電力運用計画関係情報に基づいて、初期シナリオと異なり、電力運用計画での運用制約違反やコスト増加につながると共に発生確率が所定発生確率閾値以上である追加の不確実性シナリオを新たに作成するシナリオ作成部112と、初期シナリオおよび追加の不確実性シナリオから成る複数の不確実性シナリオの各々に基づく電力運用計画をそれぞれ生成するシナリオ評価部116と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計画対象に関するエネルギ機器情報、不確実性情報および予め想定される第1の不確実性シナリオを含むエネルギ運用計画関係情報を格納した計画情報部と、
前記エネルギ運用計画関係情報に基づいて、前記第1の不確実性シナリオと異なり、エネルギ運用計画での運用制約違反やコスト増加につながると共に発生確率が所定発生確率閾値以上である第2の不確実性シナリオを新たに作成するシナリオ作成部と、
前記第1および前記第2の不確実性シナリオから成る複数の不確実性シナリオの各々に基づく第1エネルギ運用計画をそれぞれ生成する運用計画生成部と、を備えるエネルギ運用計画装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記複数の不確実性シナリオに関して一対の不確実性シナリオ間の類似度合いを表す重複度をそれぞれ算出し、算出した重複度が第1重複度閾値以上となる前記一対の不確実性シナリオから前記発生確率がより低い不確実性シナリオを選択し、前記複数の不確実性シナリオから前記選択された不確実性シナリオを削除した残余の不確実性シナリオを複数の運用計画用不確実性シナリオとして出力する第1シナリオ管理部を、さらに備え、
前記運用計画生成部は、前記複数の不確実性シナリオに代えて前記複数の運用計画用不確実性シナリオを使用して、前記複数の運用計画用不確実性シナリオの各々に基づく第1エネルギ運用計画をそれぞれ生成する、エネルギ運用計画装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記第2の不確実性シナリオは、前記第1の不確実性シナリオとの間の類似度合いを表す重複度が所定の第2重複度閾値以下である、エネルギ運用計画装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記不確実性情報の時間的変化傾向は、所定時間幅を有する複数の時間区間毎の特性として表現され、
前記シナリオ作成部は、前記時間区間毎の特性として表現された前記不確実性情報に基づいて前記第2の不確実性シナリオを作成する、エネルギ運用計画装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記シナリオ作成部は、前記不確実性情報に付加条件を加えた詳細不確実性情報に基づいて、または、前記不確実性情報をより高精度に反映させて、前記第2の不確実性シナリオを作成する、エネルギ運用計画装置。
【請求項6】
請求項2に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記運用計画生成部により生成された複数の前記第1エネルギ運用計画に関するコストの期待値である第1総コストを算出する第1総コスト演算部と、
前記シナリオ作成部の処理、前記第1シナリオ管理部の処理、前記運用計画生成部の処理、および、前記第1総コスト演算部の処理を順に繰り返し行わせる第1繰り返し制御を実行し、繰り返し算出される前記第1総コストの繰り返し毎の変化が所定の第1コスト変化閾値以下の場合に前記第1繰り返し制御を停止する第1制御部と、をさらに備え、
前記第1繰り返し制御においては、前記シナリオ作成部は、前記エネルギ運用計画関係情報に含まれる前記第1の不確実性シナリオに代えて前記複数の運用計画用不確実性シナリオを用いる、エネルギ運用計画装置。
【請求項7】
請求項1に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記第1エネルギ運用計画と、前記第2の不確実性シナリオにおける前記運用制約違反やコスト増加に関する情報とを提示する提示部をさらに備える、エネルギ運用計画装置。
【請求項8】
請求項6に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記不確実性情報に付加条件を加えてより高精度化した情報に基づいて、または、前記不確実性情報をより高精度に反映させて、前記第1制御部による前記第1繰り返し制御の停止時における複数の前記運用計画用不確実性シナリオを改変することで、改変後不確実性シナリオをそれぞれ作成するシナリオ部分改変部と、
複数の前記改変後不確実性シナリオに対して、一対の改変後不確実性シナリオ間の類似度合いを表す重複度をそれぞれ算出し、算出した重複度が第2重複度閾値以上となる前記一対の改変後不確実性シナリオから前記発生確率がより低い改変後不確実性シナリオを選択し、複数の前記改変後不確実性シナリオから前記選択された改変後不確実性シナリオを削除した残余の改変後不確実性シナリオを、複数の改変後運用計画用不確実性シナリオとして出力する第2シナリオ管理部と、
複数の前記改変後運用計画用不確実性シナリオの各々に基づく第2エネルギ運用計画をそれぞれ作成する詳細計画作成部と、をさらに備えるエネルギ運用計画装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエネルギ運用計画装置において、
前記詳細計画作成部により作成された複数の前記第2エネルギ運用計画に関するコストの期待値である第2総コストを算出する第2総コスト演算部と、
前記シナリオ部分改変部の処理、前記第2シナリオ管理部の処理、前記詳細計画作成部の処理、および、前記第2総コスト演算部の処理を順に繰り返し行わせる第2繰り返し制御を実行し、繰り返し算出される前記第2総コストの繰り返し毎の変化が所定の第2コスト変化閾値以下の場合に前記第2繰り返し制御を停止する第2制御部と、をさらに備え、
前記第2繰り返し制御においては、前記シナリオ部分改変部は、複数の前記運用計画用不確実性シナリオの改変に代えて、複数の前記改変後運用計画用不確実性シナリオを改変する、エネルギ運用計画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギ運用計画の立案を支援するエネルギ運用計画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギ運用計画の立案を支援するエネルギ運用計画装置の一例として、電力事業を対象とする電力運用計画装置がある。電力事業においては、電力の運用を実現するために、将来状況の予測値に基づいて、機器の将来運用の指針や制御指令値を示した計画が作成される。この電力運用計画の一例として、発電機の運用計画がある。発電機の運用計画は、計画期間の各時刻における電力の需要予測値に基づいて、各発電機や電力系統の運用上の制約を充足するように、電力需要に合わせた発電機の運転・停止状態および出力を決定するものである。
【0003】
このような発電機の運用計画方法として、例えば非特許文献1、非特許文献2に開示されるような方法が知られている。これらの運用計画方法では、電力の需要と供給が一致するという需給バランスや、起動時や停止後の発電機はその状態を一定時間保持するという最小連続起動時間や最小連続停止時間など、各発電機や電力系統の運用上の制約を満たしながら、総発電コストが最小となるように運用計画が算出される。この運用計画の算出においては、例えば、発電機がたとえ1台であっても、発電機の起動と停止の2つの状態を運用計画の時間断面数n全てについて考慮すると、2n通りの膨大な組合せの運用計画が考えられる。そのため、膨大な運用計画の中から総発電コストを最小化する運用計画を短時間で決定する最適化手法が必須となる。
【0004】
一方、出力が天候に依存する太陽光発電などの再生可能エネルギについて、将来発電量の予測には実運用時刻での実際の発電量との乖離である予測誤差が発生する。将来的に再生可能エネルギの導入量はさらなる増加が予定されているが、導入量が増大するほど予測誤差の影響も拡大するため、実際の発電量と予測値の乖離量も大きくなり需給バランスを満たすことが難しくなる。このような、実際の運用状況が精度よく予測できない不確実な状況において、再生可能エネルギの将来発電量の膨大な数のシナリオを事前に作成して、電力運用計画を作成することで、実際の発電量と予測値の乖離を想定することが可能になり、不確実性の影響を抑えることが非特許文献3、4などで報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】吉川元庸、澤敏之、中島宏、木下光夫、榑林芳之、中田祐司:「火力・揚水発電所の運用計画作成手法」,電学論B,114巻,12号(1994)
【非特許文献2】澤敏之、佐藤康生、鶴貝満男、大西司「潮流制約を考慮した火力、揚水、水力および融通の統合翌日運用計画作成」, IEEJ Trans.PE, Vol.128,No.10(2008)
【非特許文献3】椎名孝之,「確率計画法」,朝倉書店,pp99-110(2015)
【非特許文献4】Yao Zhang, et al.,「Chance-Constrained Two-Stage Unit Commitment under Uncertain Load and Wind Power Output Using Bilinear Benders Decomposition」,IEEE TRANSACTIONS ON POWER SYSTEMS, VOL. 32, NO. 5(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、不確実性の影響を考慮するために事前に膨大な数の不確実性シナリオを想定して運用計画が作成されているが、不確実性シナリオの数に応じて演算時間が膨大になる。一方、不確実性シナリオの数を削減すれば演算時間の増加を改善できるが、運用計画での不確実性の評価精度が低下する可能性がある。また、事前に不確実性シナリオを作成する際に電力運用計画が考慮されないので、電力運用で過酷なシナリオが考慮されているという保証がない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様によるエネルギ運用計画装置は、計画対象に関するエネルギ機器情報、不確実性情報および予め想定される第1の不確実性シナリオを含むエネルギ運用計画関係情報を格納した計画情報部と、前記エネルギ運用計画関係情報に基づいて、前記第1の不確実性シナリオと異なり、エネルギ運用計画での運用制約違反やコスト増加につながると共に発生確率が所定発生確率閾値以上である第2の不確実性シナリオを新たに作成するシナリオ作成部と、前記第1および前記第2の不確実性シナリオから成る複数の不確実性シナリオの各々に基づく第1エネルギ運用計画をそれぞれ生成する運用計画生成部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、過酷な運用条件を考慮して安定的な運用を担保しつつ、シナリオ数の削減に伴う演算時間の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態における電力運用計画装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、電力運用計画装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】
図3は、電力系統の概略イメージを示す図である。
【
図4】
図4は、最適化問題における需要の扱いを説明する図である。
【
図5】
図5は、計画及びシナリオ算出部における処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2の実施の形態における電力運用計画装置の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、シナリオ部分改変部における改変処理の概念を説明する図である。
【
図8】
図8は、詳細演算部における処理手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。また、以下の説明では、同一または類似の要素および処理には同一の符号を付し、重複説明を省略する場合がある。なお、以下に記載する内容はあくまでも本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、他の種々の形態でも実施する事が可能である。以下では、エネルギ運用計画の立案を支援するエネルギ運用計画装置の一例として、電力事業を対象とする電力運用計画装置を例に説明するが、以下の実施の形態は電力運用計画装置に限らず種々のエネルギ運用計画装置に適用できる。
【0011】
-第1の実施の形態-
図1~3は、電力運用計画装置1の一例を説明する図である。
図1は電力運用計画装置1の機能構成を示すブロック図であり、
図2は電力運用計画装置1のハードウェア構成を示す図である。電力運用計画装置1は、計画作成部10と、データベースとしての計画情報部11と、表示装置や記憶部や出力部等としての機能を有する結果提示部12とを備えている。計画作成部10は、初期シナリオ抽出部100と、計画及びシナリオ算出部110とを備えている。計画及びシナリオ算出部110は、シナリオ作成部112と、管理部114と、シナリオ評価部116とを備えている。なお、各部の詳細は後述する。
【0012】
図2に示すように、電力運用計画装置1は計算機システムで構成されており、表示部21、入力部22、通信部23、CPU24、メモリ25、および系統情報データベースDB1、電力運用計画データベースDB2を備え、それらがバス線26に接続されている。なお、表示部21は、ディスプレイ装置や、プリンタ装置または音声出力装置等を用いる構成でも良いし、ディスプレイ装置と共にプリンタ装置または音声出力装置等を用いる構成でも良い。入力部22は、例えば、キーボードスイッチ、マウス等のポインティング装置、タッチパネル、音声指示装置等の少なくともいずれか一つを備えて構成できる。通信部23は、通信ネットワーク300に接続するための回路および通信プロトコルを備える。
図1の計画情報部11は、例えば、
図2の系統情報データベースDB1が相当する。また、結果提示部12は、例えば、表示部21が相当する。
【0013】
CPU24は、メモリ25と協働してプログラムを実行し、
図1に示した計画作成部10の各部を実現したり、表示すべき画像データの指示や、各データベースDB1,DB2内のデータの検索等を行ったりする。CPU24は、一つまたは複数の半導体チップとして構成してもよいし、または、計算サーバのようなコンピュータ装置として構成してもよい。メモリ25は、例えば、RAM(Random Access Memory)として構成され、コンピュータプログラムを記憶したり、各処理に必要な計算結果データおよび画像データ等を記憶したりする。メモリ25に格納されたデータは、データベースDB1,DB2に保存され、表示部21に送られて表示され、さらには、ネットワーク300を介して、電力系統の発電機などの各機器に運用制御指令として送信される。電力系統の各機器は運用制御指令値に基づき運用されるため、制御指令値は運用制約を満たせるような値である必要がある。
【0014】
図3は、電力系統200の概略イメージを示す図である。電力系統200における発電機器情報などの情報や負荷150などの複数の計測データは、ネットワーク300を介して系統情報データベースDB1(すなわち、計画情報部11)に格納される。電力系統200は、複数の発電機230および負荷250が母線(ノード)210、変圧器220、送電線路240等を介して相互に連系されたシステムである。図示は省略したが、母線210には、電力系統200の保護、制御、監視の目的での各種の計測器が適宜設置されており、計測器で検知した信号は通信ネットワーク300を介して電力運用計画装置1の通信部23に送信される。なお、通信部23は、電力系統200の他に、気象システムや電力市場システム、VPP(Virtual Power Plant)のような複数の分散電源や需要家を監視制御するアグリゲータとも通信を行う。
【0015】
<電力運用計画装置1の各部の詳細説明>
図1に戻って、電力運用計画装置1の各部の詳細について説明する。電力系統200における発電機器情報などの情報や負荷150などの複数の計測データは、ネットワーク300を介して系統情報データベースDB1(すなわち、計画情報部11)に格納される。計画情報部11には、計画対象である電力系統200に関する情報が格納されている。例えば、各発電機の特性を示した機器定数などの発電機器情報、保守点検のため運転停止や出力制限する定期点検情報、電力系統の連系線の最大送電容量などの系統情報、必要となる発電量に相当する需要情報およびその取りうる確率分布範囲などの需要予測情報、運用計画など想定状態からの変動を調整する調整力情報、再生可能エネルギの発電量や特性などの再生可能エネルギ情報、および、運用者が想定するシナリオの情報である初期シナリオ情報など、計画作成部10における不確実性シナリオの作成や電力運用計画の作成に必要な情報が、計画情報部11に格納されている。
【0016】
計画作成部10の初期シナリオ抽出部100は、計画情報部11から、需要予測情報、発電機器情報および初期シナリオ情報等のシナリオ作成および電力運用計画作成に必要な情報を抽出する。上述したように、初期シナリオ情報は運用者が想定するシナリオの情報であり、運用者によって予め複数の初期シナリオが初期シナリオ情報として計画情報部11に格納されている。
【0017】
前述したように、従来は、電力運用計画を作成の際に、網羅的な膨大な数のシナリオが事前に用意される。一方、本発明の電力運用計画装置1では、後述するように、計画情報部11に格納された電力系統200に関する情報に基づいて、電力系統200を考慮した追加の不確実性シナリオが計画及びシナリオ算出部110で作成される。そのため、運用者が初期シナリオ情報として用意する初期シナリオとして、従来のように膨大な数のシナリオを必要としない。
【0018】
なお、計画情報部11に初期シナリオが格納されていない場合には、初期シナリオ抽出部100は、需要予測情報として格納されている各時刻の需要の確率分布から、モンテカルロシミュレーションなどの統計的なシナリオ作成手法により、確率分布に基づいた需要変動シナリオを初期シナリオとして作成しても良い。また、過去数年の時系列データから、同季節や同時刻などの条件が類似するデータを用いて、初期シナリオを作成しても良い。以下では、初期シナリオ抽出部100で抽出または作成された初期シナリオは電力運用計画を作成するための不確実性シナリオとして用いられるので、以下では、初期シナリオを不確実性シナリオと呼ぶ場合がある。初期シナリオ抽出部100で抽出または作成された不確実性シナリオとしての初期シナリオは、計画およびシナリオ算出部110に入力される。
【0019】
計画及びシナリオ算出部110のシナリオ作成部112には、初期シナリオ抽出部100で抽出または作成された不確実性シナリオ、および、後述する管理部114で選定された不確実性シナリオ群(複数の不確実性シナリオ)が入力される。シナリオ作成部112は、入力された不確実性シナリオ、および、計画情報部11からの需要予測情報や発電機器情報等に基づいて、入力された不確実性シナリオと重複せず、電力系統200における運用制約違反や運用コスト増大につながる発生確率が閾値以上の重要度の高い、追加の不確実性シナリオを作成する。なお、発生確率に関する閾値については、予め設定しておく。追加の不確実性シナリオの作成方法の詳細については後述する。シナリオ作成部112で作成された不確実性シナリオは、管理部114に入力される。
【0020】
管理部114には、シナリオ作成部112で作成された不確実性シナリオ、および、初期シナリオ抽出部100からの不確実性シナリオ(初期シナリオ)がそれぞれ入力される。管理部114は、入力された全ての不確実性シナリオに対して、シナリオ間の類似度合いを表す重複度を評価し、重複度が予め設定した閾値以上となる一組の不確実性シナリオの内の一方を削除する処理を実行する。
【0021】
不確実性シナリオの重複度とは、例えば、不確実性シナリオとして需要曲線あった場合、その需要曲線の傾向が同じになる度合いを測る指標である。二つの不確実性シナリオが同一で完全に重複していれば値1を取り、重複の度合いが低下するにつれて重複度の値は1より小さくなる。重複度の例としては、相関や共分散などの統計的手法がある。例えば、相関係数は+1から-1の値で表され、0に近いほど相関が低くなる。
【0022】
管理部114では、複数の不確実性シナリオから任意の2つの不確実性シナリオを選び重複度を求める処理を、複数の不確実性シナリオの全ての組み合わせに関して行う。そして、複数の組み合わせの中から重複度が所定閾値以上の組み合わせを抽出し、抽出した組み合わせの一方の不確実性シナリオ、たとえば、発生確率の低い方を不確実性シナリオ群から削除する。そして、管理部114は、削除処理後に残った重複度合いの低い複数の不確実性シナリオから成る不確実性シナリオ群を出力する。
【0023】
シナリオ評価部116は、例えば、前述した非特許文献3や非特許文献4に記載の手法により、管理部114から出力された不確実性シナリオに基づき、不確実性を考慮した電力運用計画を作成する。上述のように管理部114から出力される不確実性シナリオ群には複数の不確実性シナリオが含まれるので、それら複数の不確実性シナリオの各々に対して電力運用計画が作成される。なお、電力運用計画を作成する上で、発電機台数やシナリオの増加により演算時間が膨大となる場合には、下記の非特許文献5に記載の方法のように電力運用計画の定式を修正し、近似化することで演算時間を高速化しても良い。例えば、発電効率や運用制約条件の制約関係などから、複数の発電機を一つの発電機で模擬することで、発電機台数規模を低減する。
(非特許文献5)
Bryan S. Palmintier, et al.,「Heterogeneous Unit Clustering for Efficient Operational Flexibility Modeling」,IEEE TRANSACTIONS ON POWER SYSTEMS, VOL. 29, NO. 3(2014)
【0024】
さらにシナリオ評価部116は、作成した複数の電力運用計画に基づく総コストを作成する。ここでの総コストとは、各電力運用計画に基づくコストをそれぞれ計算し、各コストを対応する不確実性シナリオの発生確率で重み付けして算出されるコストの期待値である。
【0025】
管理部114から出力される重複度合いの低い不確実性シナリオから成る不確実性シナリオ群と、その不確実性シナリオ群の各不確実性シナリオに対してシナリオ評価部116において各々作成された電力運用計画と、上述した総コストのそれぞれは、メモリ25に一旦保持された後に電力運用計画データベースDB2に格納される。そして、不確実性シナリオ、および、それらに対して作成された電力運用計画は、結果提示部12により運用者に提示される。
【0026】
結果提示部12による提示形態としては、電力運用計画装置1に設けられた表示部21に結果を表示しても良いし、運用者が遠隔地に運用者が居る場合には、運用者の情報端末に不確実シナリオおよび電力運用計画のデータを出力するようにしても良い。このように結果を運用者に提示することで、運用者に運用制約違反などの運用異常状態と理由を警報して、電力運用の異常状態前に運用者が発電機などの制御調整等を実施することができる。これにより、電力運用の安定的な運用を維持することが可能となる。
【0027】
<シナリオ作成部112における不確実性シナリオの作成方法>
不確実性シナリオを追加するにあたっては、演算時間低減および運用の安定性を担保するために、運用違反や運用コスト増大等につながる重要度が高く、既にある不確実性シナリオと重複しないシナリオを作成することが重要となる。そのため、以下の最適化問題を解くことによりこれらを満たしながらシナリオを作成する。なお、以下の最適化問題では不確実性を持つ情報として需要を用いたが、需要に限らず、電力市場価格、再生可能エネルギの発電量などを用いても良い。
【0028】
(シナリオ作成のための最適化問題)
・目的関数
計画時間内における総発電コスト、運用制約違反コスト
【数1】
ただし、
T
end:計画の終端時刻 N
gen:発電機台数 F
i( ):発電コスト関数
p
it:発電出力 u
it:起動停止を示す0,1の離散変数
PNL( ):違反量に応じたペナルティコスト関数
Δd
t:需給バランスの違反量などの運用制約違反量
・制約条件
需給バランス
【数2】
変化レベル
Dmin(t, dlv
sec) ≦ d
t ≦ Dmax(t, dlv
sec) …(3)
重複度
R(ddlv, ddlv
1, ddlv
2,…ddlv
s) ≦ α …(4)
発生閾値
Pr(dlv
1, dlv
2, dlv
3,…dlv
sec) > β …(5)
その他の制約条件は非特許文献1などと同一とする。
dlv
sec:需要の範囲の選択変数 sec:区間
Dmin( ):選択された範囲の下限値 d
t:作成する需要シナリオ
Dmax( ):選択された範囲の上限値
R( ):重複度評価関数であり、既出のシナリオとの重複した割合を示す。
重複度の例として、相関や共分散がある。
α:許容可能な重複の閾値とする。
ddlv:需要の範囲選択のベクトルであり、dlv
1 … dlv
secのベクトルとなる。
Pr( ):発生確率 ddlv
s:既出のシナリオsの需要の範囲選択ベクトルddlv
【0029】
上記の最適化問題における需要の扱いを
図4に示す。
図4は、需要シナリオに関する図である。計画情報部11の需要予測情報には、需要がとりうる値を示した各時刻の確率分布が含まれており、
図4の需要が取りうる範囲を確率分布から決定する。
図4において、上側の破線と下側の破線との間が、需要が取りうる範囲である。
図4に示す例では、この需要が取りうる範囲を上下2つに分割する。式(3)により、需要の範囲の選択変数dlv
secがdlv
sec=1の場合には図示上側の分割範囲が選択され、dlv
sec=0の場合には範囲の図示下側の分割範囲が選択され、想定する需要dtは選択された分割範囲に内在する。
【0030】
上記の最適化問題では、既出のシナリオと重複しないシナリオを作成するために、需要のパターンが重複(すなわち、類似)しているか否かを式(4)の重複度により評価し、重複度が閾値α以下となるように重複の制限をしている。なお、重複の評価には、各区間secにおける需要の範囲が上側の分割範囲か下側の分割範囲かの選択ddlv=[dlv1…dlvsec]が使用されている。これは、一部の局所的な時刻の変化で重複度を評価するのではなく、特定の時間区間単位で需要が大か小などの時間区間の傾向で需要の重複度を評価するためである。また、重要度の高いシナリオを評価する必要があり、確率が非常に低く現実的に発生しないシナリオについては考慮する必要がない。そのため、シナリオ作成においては、式(5)のように発生確率が閾値β以上のものに限定した。
【0031】
なお、式(2)~(5)は一例であって、一部の局所的な時刻の変化に左右された重複度や確率を回避できる手法であれば良く、例えば、差分方程式を活用したフィルタ等により局所的な変化を除外する手法を用いても良い。
【0032】
上記の最適化問題について、式(1)の目的関数では、上記の制約条件を満たしながら発電コストや違反コストが最小になるように、発電出力pitや起動停止uitを調整し、最悪なシナリオを作成するためにdt,dlvtを目的関数(発電コストや違反コスト)が最大になるように調整する。
【0033】
(最適化演算の簡略化)
なお、演算時間が課題になる場合には、起動停止uitなどの一部の変数を離散変数から線形変数へと緩和(線形緩和)することで、近似演算を行うようにしても良い。最適化問題の解において、線形緩和した離散変数は、本来の離散変数の解が得られるとは限らないことから、線形緩和した離散変数のうち本来の離散値の近傍にある値から順に離散値に近似しても良い。例えば、線形緩和した0-1離散変数の解が0.9である場合に、0.9≒1とするなどである。
【0034】
一部の変数を近似した場合には、最適解が変更になるなど他の変数への影響があることから、近似した値は固定して再度最適化問題を解くことで最終的な最適化問題の解を算出することができる。上記の最適化問題では、運用制約違反等が最大となるように不確実性シナリオを作成するため、運用制約違反やコスト増加の発生時刻と箇所、および発生時刻において既出のシナリオと追加シナリオの差分により、運用制約違反とコスト増加の理由(シナリオの差分)を把握することができる。
【0035】
上述した
図1の説明では、計画作成部10の各部における処理について説明した。
図1の計画及びシナリオ算出部110では、シナリオ評価部116における複数の不確実性シナリオをシナリオ作成部112に入力することで、シナリオ作成部112、管理部114、およびシナリオ評価部116の各処理が繰り返し行われることになる。
【0036】
図5は、繰り返し処理の手順を示すフローチャートである。
図5のフローチャートの制御プログラムは、
図1のメモリ25に記憶され、CPU24によって実行される。まず、ステップS11において、初期シナリオ抽出部100による初期シナリオの抽出を行う。抽出された初期シナリオは不確実性シナリオとして計画及びシナリオ算出部110に入力される。ステップS12では、シナリオ作成部112による追加の不確実性シナリオの作成が行われる。
【0037】
なお、ステップS11からステップS12へ進んだ場合には、シナリオ作成部112における追加の不確実性シナリオの作成は、初期シナリオ抽出部100から入力された不確実性シナリオ、および、計画情報部11からの需要予測情報や発電機器情報等に基づいて行われる。一方、後述するようにステップS15からステップS12へ戻った場合には、管理部114により選定された不確実性シナリオ群(複数の不確実性シナリオ)および計画情報部11からの需要予測情報や発電機器情報等に基づいて、追加の不確実性シナリオの作成が行われる。
【0038】
ステップS13では、管理部114による不確実性シナリオ群の選定処理が行われる。具体的には、入力された全ての不確実性シナリオに対して、シナリオ間の類似度合いを表す重複度を評価し、重複度が閾値以上となる一組の不確実性シナリオの内の一方を削除する処理が実行される。ステップS14では、シナリオ評価部116による、管理部114で選定された複数の不確実性シナリオの各々に対する電力運用計画の作成、および、総コストの演算が行われる。
【0039】
ステップS15では、ステップS14で算出された総コストとメモリ25に保持されている前回算出された総コストとを比較し、それらのコスト差(=「今回の総コスト」-「前回の総コスト」)が所定の閾値以下か否かを判定する。ところで、ステップS12で作成される追加の不確実性シナリオは、電力系統200における運用制約違反や運用コスト増大につながる過酷なシナリオである。そのため、ステップS14で算出される総コストの値は、ステップS12における不確実性シナリオの追加が繰り返される度に増加し、その総コストの増加(すなわちコスト差)の大きさは不確実性シナリオの追加が繰り返されることで次第に小さくなる。
【0040】
ステップS15において「コスト差≦閾値」と判定されると、ステップS16の処理を実行して一連の処理を終了する。ステップS16では、管理部114で選定された不確実性シナリオ群(複数の不確実性シナリオ)、その不確実性シナリオ群に含まれる各不確実シナリオに対する電力運用計画、および、算出した総コストのそれぞれを、電力運用計画データベースDB2に格納する。
【0041】
一方、ステップS15において「コスト差>閾値」と判定された場合には、メモリ25に保持されている総コストをステップS14で算出した総コストで置き換え、ステップS12へ戻る。なお、ステップS11→ステップS12と進んで、初めてステップS15の処理を行う場合にはメモリ25には総コストが記憶されていない。その場合には、前回の総コストはゼロとされ、ステップS15で「コスト差>閾値」と判定されることになる。
【0042】
図5の処理が終了すると、計画作成部10から結果提示部12に演算結果が入力され、結果提示部12により演算結果が運用者に提示される。例えば、
図1の表示部21に演算結果が表示される。なお、その際に、ステップS12における追加の不確実性シナリオで示される運用制約違反やコスト増加と理由を運用者に提示することで、運用者に運用制約違反などの運用異常状態と理由を警報し、電力運用の異常状態前に運用者が発電機などの制御調整等を実施することができる。これにより、電力運用の安定的な運用を維持することが可能となる。
【0043】
上述した第1の実施の形態では、既出の初期シナリオとの重複、発生確率、制約違反や発電コストの増加を評価しながら追加の不確実シナリオを作成し、さらに、シナリオ同士を評価して重複度が高いシナリオは削除するようにした。そして、残った不確実シナリオに基づいて、不確実性を考慮した電力運用計画を作成した。シナリオ作成の最適化問題では、上述のように発電機の運用なども考慮した電力運用計画の制約条件やコストが考慮されているので、運用違反等が生じやすい過酷な不確実性シナリオが得られる。また、管理部114において、重複度の高い不確実性シナリオについては一方のみを残すようにしたので、電力運用計画作成を検討するための不確実性シナリオの数を減らすことができ、演算時間の短縮を図ることができる。
【0044】
さらに、
図5に示すように上述の一連の処理を繰り返すことで、電力運用計画における過酷なシナリオを次々と作成することができる。その結果、膨大な数の初期シナリオを用意しなくても、運用計画での不確実性の評価精度を十分に確保することが可能となる。そのため、最適化演算の簡略化、不確実性シナリオの重複回避および重複除外等により、演算時間の高速化を図ることができる。
【0045】
また、重複度の評価においては、
図4のように時間区間ごとで不確実性の範囲を分割してどの分割範囲に内在するかで判定することで、短時間の瞬時的な変化ではなく特定期間の傾向として重複度を評価することができる。評価する不確実性の現象の時間長さに応じて時間区間を設定することで、現象の長さに応じた不確実性シナリオを作成することが可能となる。
【0046】
-第2の実施の形態-
図6は、第2の実施の形態のエネルギ運用計画装置の一例を示す図であり、電力運用計画装置1Bの機能構成を示すブロック図である。なお、
図1に示した電力運用計画装置1と同様の構成には同様の符号を付し、重複する説明については省略する。電力運用計画装置1Bは、計画作成部10B、計画情報部11および結果提示部12を備える。計画情報部11および結果提示部12は、
図1に示したものと同様の構成である。なお、電力運用計画装置1のハードウェア構成については図示を省略するが、
図2に示すものと同様の構成である。
【0047】
計画作成部10Bは、初期シナリオ抽出部100、計画及びシナリオ算出部110および詳細演算部120を備えている。初期シナリオ抽出部100と計画及びシナリオ算出部110は、
図1に示したものと同様の構成である。計画及びシナリオ算出部110では、第1の実施の形態の場合と同様の処理が行われ、演算結果が詳細演算部120に入力される。ただし、第2の実施の形態では、計画及びシナリオ算出部110のシナリオ作成部112は、第1の実施の形態に記載した最適化演算の簡略化を行い、演算時間の短縮化を図ることとする。
【0048】
詳細演算部120は、シナリオ部分改変部122、管理部B124およびシナリオ評価部B126を備えている。シナリオ部分改変部122には、計画及びシナリオ算出部110から出力された不確実性シナリオ群(複数の不確実性シナリオ)、および、後述する管理部B124で選定された不確実性シナリオ群(複数の不確実性シナリオ)が入力される。シナリオ部分改変部122は、入力された不確実性シナリオを改変することで新たな不確実性シナリオを作成する。
【0049】
図7は、シナリオ部分改変部122における改変処理の概念を説明する図である。
図7は、
図4に示した需要シナリオと同様の図である。
図7では、
図4の複数の区間secに関して、改変対象期間である複数の区間(区間2、区間3、区間4)を選択し、区間2、区間3および区間4をより短時間の区間に分割する。以下では、分割後の区間を分割区間と呼ぶことにする。
図7に示す例では、区間2は二つの分割区間2-1,2-2に分割され、区間3は二つの分割区間3-1,3-2に分割され、区間4は二つの分割区間4-1,4-2に分割されている。
【0050】
シナリオ部分改変部122は、この改変対象期間に対して、前段の計画及びシナリオ算出部110のシナリオ作成部112で実施した最適化演算の簡略化(例えば、線形緩和などの近似手法)を使用しないで、厳密な最適化演算手法で最適化問題を解き直して不確実性シナリオの改変対象期間だけを更新することで、より精度が高い追加の不確実性シナリオを作成する。このとき、概算結果から詳細結果を得るという観点から、改変対象の開始時刻の初期条件と終了時刻の終端条件については、シナリオの不確実性の範囲での分割範囲dlv sec、発電機の起動状態などは同一であるとする。
【0051】
後述するようにシナリオ部分改変部122の処理が繰り返し行われると、不確実性シナリオに対して、この改変対象期間の更新が繰返され、既出の不確実性シナリオはより詳細化されたシナリオへと更新されて行く。改変対象期間は改変処理が繰り返される度に変更され、例えば、
図7の左側の改変対象に対する改変処理の次の改変処理では、図示右側の次改変対象が改変対象期間に設定される。
【0052】
なお、シナリオ部分改変部122によるシナリオの部分改変の他の例としては、次のようなものがある。改変するシナリオに対して、特定の季節における低需要帯など運用者によって設定された特定の条件が該当する場合には、特定発電機のメンテナンスなど特定のイベントが発生することを追加条件として不確実性シナリオを作成してもよい。
【0053】
図6の管理部B124では、シナリオ部分改変部122に入力された不確実性シナリオおよびシナリオ部分改変部122で作成された追加の不確実性シナリオに対して、前述した管理部114による不確実性シナリオ群の選定処理と同様の処理が行われる。すなわち、入力された全ての不確実性シナリオに対して、シナリオ間の類似度合いを表す重複度を評価し、重複度が閾値以上となる一組の不確実性シナリオの内の一方を削除する処理が実行される。ただし、シナリオ部分改変部122の処理の際に、運用者によって設定された特定条件時に特定イベントが発生するなどの追加条件にシナリオが作成されている場合には、同種の特定条件時に特定イベントがある不確実性シナリオだけを対象に、管理部B124の処理を実施する。
【0054】
シナリオ評価部B126は、管理部B124の結果に対して、
図1におけるシナリオ評価部116と同様の処理を行う。すなわち、管理部B124から出力された不確実性シナリオ群に含まれる複数の不確実性シナリオに対して、それらに基づく不確実性を考慮した電力運用計画をそれぞれ作成する。
【0055】
図8は、詳細演算部120による処理手順を説明するフローチャートである。ステップS21では、計画およびシナリオ算出部110から、その算出結果である不確実性シナリオおよび電力運用計画を読み込む。読み込んだ不確実性シナリオはシナリオ部分改変部122に入力されるステップS22では、シナリオ部分改変部122において、入力された不確実性シナリオを改変することで新たな不確実性シナリオを作成する。ステップS23では、上述した管理部B124による不確実性シナリオ群の選定が行われる。ステップS24では、シナリオ評価部B126により、不確実性シナリオに基づく電力運用計画が作成されると共に、総コストが算出される。
【0056】
ステップS25では、ステップS24で算出された総コストに基づいて、
図5に示したステップS15と同様の判定処理が実行される。そして、「コスト差>閾値」と判定されるとステップS22へ戻り、管理部B124で選定された不確実性シナリオ群の不確実性シナリオに基づいて、ステップS22からステップS24までの処理を実行する。一方、ステップS25において「コスト差≦閾値」と判定されると、一連の処理を終了し、ステップS26において、管理部B124で選定された不確実性シナリオ群、その不確実性シナリオ群の各不確実シナリオに対する電力運用計画、および、算出した総コストのそれぞれを、電力運用計画データベースDB2に格納する。
【0057】
図8の処理が終了すると、第1の実施の形態の場合と同様に、計画作成部10Bから結果提示部12に演算結果が入力され、結果提示部12により演算結果が運用者に提示される。また、その際に、ステップS22において示される運用制約違反やコスト増加と理由を運用者に提示するようにしても良い。
【0058】
上述した、第2の実施の形態では、計画及びシナリオ算出部110で作成された不確実性シナリオに対して、特定の時間区間を改変対象として再最適化することで、または、事前に設定された特定条件と特定イベントがある場合には追加条件を付与することで、シナリオの部分改変を実施して追加のシナリオを作成した。その際、計画及びシナリオ算出部110のシナリオ作成部112においては、第1の実施の形態に記載した最適化演算の簡略化を行い、演算時間の短縮化を図る。
【0059】
なお、電力運用計画を作成する上で、発電機台数やシナリオの増加により演算時間が膨大となる場合には、下記の非特許文献5に記載の方法のように電力運用計画の定式を修正し、近似化することで演算時間を高速化しても良い。例えば、発電効率や運用制約条件の制約関係などから、複数の発電機を一つの発電機で模擬することで、発電機台数規模を低減する。
【0060】
第2の実施の形態では、計画およびシナリオ算出部110で制約逸脱やコスト増加を伴う不確実性シナリオの抽出を実施し、シナリオ部分改変部122により不確定性の傾向変化の刻みおよび精度をより詳細に修正するようにした。このように、シナリオの作成とシナリオの詳細化を別の処理とすることで、演算規模の低減を行いより速い時間で処理を完了することが可能となる。
【0061】
(変形例)
なお、第2の実施の形態では計画及びシナリオ算出部110と詳細演算部120とを設け、詳細演算部120において、
図7に示すような不確定性の傾向変化の刻みおよび精度をより詳細に修正するようにしたが、次のような変形例も可能である。すなわち、第1の実施の形態の
図1の構成において、シナリオ作成部112にシナリオ部分改変部122の改変処理の概念を採用し、
図4の代わりに
図7を用いて追加の不確実性シナリオを作成する。
【0062】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0063】
(C1)
図1~3に示すように、エネルギ運用計画装置としての電力運用計画装置1は、計画対象である電力系統200に関する機器情報、不確実性情報および予め不確実性シナリオとして想定される初期シナリオを含む電力運用計画関係情報を格納した計画情報部11と、電力運用計画関係情報に基づいて、予め想定された初期シナリオと異なり、エネルギ運用計画での運用制約違反やコスト増加につながると共に発生確率が所定の閾値以上である不確実性シナリオを新たに作成するシナリオ作成部112と、初期シナリオおよびシナリオ作成部112で作成された不確実性シナリオの各々に基づくエネルギ運用計画をそれぞれ生成する運用計画生成部としてのシナリオ評価部116と、を備える。
【0064】
従来は、エネルギ運用計画での運用制約違反やコスト増加につながる状況などを考慮することなく、単純に需要情報に基づいて網羅的に膨大な数の不確実性シナリオ(上記想定された初期シナリオに相当する)を予め用意し、その膨大な数の不確実性シナリオに対して運用計画を作成していた。そのため、演算時間が膨大になるという問題があった。
一方、電力運用計画装置1では、想定した初期シナリオに加えて、エネルギ運用計画関係情報に基づいて、想定した初期シナリオと異なり、エネルギ運用計画での運用制約違反やコスト増加につながると共に発生確率が所定の閾値以上である不確実性シナリオを新たに作成するようにしている。シナリオ作成部112で新たに作成される不確実性シナリオは、発電機の運用なども考慮した電力運用計画の制約条件やコストが考慮されているので、運用違反等が生じやすい過酷な不確実性シナリオが得られる。その結果、膨大な数の初期シナリオを用意しなくても、運用計画での不確実性の評価精度を十分に確保することが可能となる。また、考慮すべきシナリオ数の削減により、演算時間の削減を図ることができる。
【0065】
(C2)
図1~3に示すように、電力運用計画装置1は、複数の不確実性シナリオに関して一対の不確実性シナリオ間の類似度合いを表す重複度をそれぞれ算出し、算出した重複度が予め設定した閾値(第1重複度閾値)以上となる一対の不確実性シナリオから発生確率がより低い不確実性シナリオを選択し、複数の不確実性シナリオから選択された不確実性シナリオを削除した残余の不確実性シナリオを複数の運用計画用不確実性シナリオとして出力するシナリオ管理部114を、さらに備え、シナリオ評価部116は、上述の複数の不確実性シナリオに代えて複数の運用計画用不確実性シナリオを使用して、複数の運用計画用不確実性シナリオの各々に基づく電力運用計画をそれぞれ生成する。
【0066】
複数の不確実性シナリオから、第1重複度閾値以上となる類似度合いの高い不確実性シナリオの一方を除去するようにしているので、残った複数の不確実性シナリオは類似性の低い不確実性シナリオで構成されることになり、作成される電力運用計画の評価精度の低下を防止しつつ、演算時間の短縮を図ることができる。
【0067】
(C3)
図1~3に示すように、シナリオ作成部112で生成される第2の不確実性シナリオに対応する追加の不確実性シナリオは、予め想定される第1の不確実性シナリオに対応する初期シナリオとの間の重複度が予め設定された第2重複度閾値以下の低類似度であるので、類似の不確実性シナリオが生成されるのを防止することができる。
【0068】
(C4)
図1~4に示すように、不確実性情報の時間的変化傾向は、所定時間幅を有する複数の時間区間(区間1,区間2,・・・,区間sec)毎の特性として表現され、シナリオ作成部112は、時間区間毎の特性として表現された不確実性情報に基づいて追加の不確実性シナリオを作成する。例えば、
図4に示すように、需要dtが区間1等の区間毎にdlv
sec=1の範囲かdlv
sec=0の範囲のいずれかに属するように設定しているので、需要ラインの局所的な違いが重複度判定に影響しない。その結果、局所的な違いの影響を受けることなく需要ラインの全体的な類似性(重複度)を判定することができる。
【0069】
(C5)
図1,7に示すように、シナリオ作成部112は、不確実性情報に付加条件を加えた詳細不確実性情報に基づいて、または、前記不確実性情報をより高精度に反映させて、追加の不確実性シナリオを作成する。その結果、より高い精度で不確実性シナリオを作成することができる。
【0070】
不確実性情報をより高精度に反映させる例としては、
図7に示すように、複数の時間区間(区間1,区間2,・・・,区間sec)の内の特定の時間区間である改変対象期間では、不確実性情報を他の時間区間と比べてより高精度に反映させる。また、より最適性の高い最適化手法を活用したり、最適化問題の模擬精度をより詳細化したりしても良い。また、不確実性情報に付加条件を加えた詳細不確実性情報に基づく手法としては、例えば、改変するシナリオに対して、特定の季節における低需要帯など運用者によって設定された特定の条件が該当する場合に、特定発電機のメンテナンスなど特定のイベントが発生することを追加条件として不確実性シナリオを作成する。
【0071】
(C6)
図1,5に示すように、電力運用計画装置1は、複数の電力運用計画に関するコストの期待値である総コストを算出する第1総コスト演算部としてのシナリオ評価部116と、シナリオ作成部112の処理、シナリオ管理部114の処理、シナリオ評価部116の処理を順に繰り返し行わせる繰り返し制御を実行し、繰り返し算出される総コストの繰り返し毎の変化が所定の閾値以下の場合に繰り返し制御を停止する第1制御部としての計画及びシナリオ算出部110と、をさらに備え、繰り返し制御においては、シナリオ作成部112は、エネルギ運用計画関係情報に含まれる初期シナリオに代えてシナリオ管理部114から出力される複数の運用計画用不確実性シナリオを用いる。
【0072】
上述のように、
図5のように一連の処理を繰り返すことで、電力運用計画における過酷なシナリオを次々と作成することができる。その結果、従来のように網羅的作成された膨大な数の初期シナリオを用意しなくても、運用計画での不確実性の評価精度を十分に確保することが可能となり、かつ、演算時間の短縮を図ることができる。
【0073】
(C7)
図1,2に示すように、電力運用計画装置1は、シナリオ評価部116で作成される電力運用計画と、シナリオ作成部112で作成された不確実性シナリオにおける運用制約違反やコスト増加に関する情報とを提示する結果提示部12をさらに備える。
【0074】
シナリオ作成部112で作成される不確実性シナリオにおける運用制約違反やコスト増加と理由を運用者に提示することで、運用者に運用制約違反などの運用異常状態と理由を警報し、電力運用の異常状態前に運用者が発電機などの制御調整等を実施することができる。これにより、電力運用の安定的な運用を維持することが可能となる。なお、結果提示部12としては、
図2の表示部21による結果の表示や、通信部23による結果の送信などが考えられる。
【0075】
(C8)
図6~8に示すように、電力運用計画装置1Bは、不確実性情報に付加条件を加えてより高精度化した情報に基づいて、または、不確実性情報をより高精度に反映させて、計画及びシナリオ算出部110による繰り返し制御の停止時における不確実性シナリオ群(複数の不確実性シナリオ)を改変することで、改変後不確実性シナリオをそれぞれ作成するシナリオ部分改変部122と、複数の改変後不確実性シナリオに対して、一対の改変後不確実性シナリオ間の類似度合いを表す重複度をそれぞれ算出し、算出した重複度が第2重複度閾値以上となる一対の改変後不確実性シナリオから発生確率がより低い改変後不確実性シナリオを選択し、複数の改変後不確実性シナリオから選択された改変後不確実性シナリオを削除した残余の改変後不確実性シナリオを、複数の改変後運用計画用不確実性シナリオとして出力するシナリオ管理部B124と、複数の改変後運用計画用不確実性シナリオの各々に基づく電力運用計画をそれぞれ作成するシナリオ評価部B126と、をさらに備える。
【0076】
このように、計画およびシナリオ算出部110で制約逸脱やコスト増加を伴う不確実性シナリオの抽出を実施し、次いで、シナリオ部分改変部122により高精度な不確実性シナリオに改変することで、すなわち、シナリオの作成とシナリオの詳細化を別の処理とすることで、演算規模の低減を行いより速い時間で処理を完了することが可能となる。
【0077】
(C9)
図6~8に示すように、電力運用計画装置1Bは、複数の電力運用計画に関するコストの期待値である総コストを算出するシナリオ評価部B126と、シナリオ部分改変部122の処理、シナリオ管理部B124の処理およびシナリオ評価部B126の処理を順に繰り返し行わせる繰り返し制御を実行し、繰り返し算出される総コストの繰り返し毎の変化が所定の閾値以下の場合に繰り返し制御を停止する第2制御部としての詳細演算部120と、をさらに備え、繰り返し制御においては、シナリオ部分改変部122は、計画及びシナリオ算出部110から出力された複数の不確実性シナリオの改変に代えて、管理部B124から出力された複数の不確実性シナリオを改変する。
【0078】
このように、シナリオ部分改変部122の処理、シナリオ管理部B124の処理およびシナリオ評価部B126の処理を順に繰り返し行わせることで、不確実性シナリオの改変が繰り返され、より最適な不確実性シナリオを作成することができる。
【0079】
以上説明した各実施の形態はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施の形態および変形例は、本発明の趣旨を逸脱せず、互いに整合する範囲内で、一部または全部を組合せることができる。
【符号の説明】
【0080】
1…電力運用計画装置、10,10B…計画作成部、11…計画情報部、12…結果提示部、21…表示部、22…入力部、23…通信部、24…CPU、25…メモリ、26…バス線、100…初期シナリオ抽出部、110…計画及びシナリオ算出部、112…シナリオ作成部、114…管理部、116…シナリオ評価部、120…詳細演算部、122…シナリオ部分改変部、124…管理部B、126…シナリオ評価部B、200…電力系統、300…通信ネットワーク、DB1…系統情報データベース、DB2…電力運用計画データベース