(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074899
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20230523BHJP
【FI】
H02P21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188079
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
(72)【発明者】
【氏名】杉本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】林 孝亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD05
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG05
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ05
5H505JJ24
5H505KK05
5H505LL12
5H505LL22
5H505LL41
5H505MM07
(57)【要約】
【課題】二次抵抗値の誤差がある場合でも、モータ速度およびトルクの振動現象を防止する電力変換装置を提供する。
【解決手段】誘導モータの出力周波数、出力電圧及び出力電流を可変にする信号を誘導モータに出力する電力変換器と、電力変換器を制御する制御部とを有し、制御部は、一次電流の方向とそれに直交する方向を回転座標系とした制御軸における出力電圧と出力電流から電力を演算し、制御軸における出力電流、回路パラメータから電力モデルを演算し、電力と電力モデルとから速度推定値を演算する電力変換装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導モータの出力周波数、出力電圧及び出力電流を可変にする信号を前記誘導モータに出力する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
一次電流の方向とそれに直交する方向を回転座標系とした制御軸における前記出力電圧と前記出力電流から電力を演算し、
前記制御軸における前記出力電流、回路パラメータから電力モデルを演算し、
前記電力と前記電力モデルとから速度推定値を演算する電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記速度推定値と速度指令値の偏差を演算し、
前記速度推定値からベクトル制御演算をする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記電力は、電力の外積であり、
前記電力モデルは、電力の外積モデルである電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記電力は、電力の内積であり、
前記電力モデルは、電力の内積モデルである電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記制御軸における電圧指令値と電流検出値から電力を演算し、
前記制御軸であるm軸およびt軸の電流指令値に、m軸およびt軸の電流検出値が追従するようにフィードバック電圧成分を演算し、
前記フィードバック電圧成分から前記電圧指令値を演算する電力変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
m軸およびt軸の電流指令値あるいは電流検出値と、前記速度推定値あるいは速度指令値、一次周波数指令値と、誘導モータの回路パラメータである抵抗値とインダクタンス値、m軸およびt軸の磁束指令値からフィードフォワード電圧成分を演算し、
フィードフォワード電圧成分と前記フィードバック電圧成分からm軸およびt軸の電圧指令値の演算をする電力変換装置。
【請求項7】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
t軸の電流検出値あるいは電流指令値を2乗した値とm軸の電流検出値あるいは電流指令値を2乗した値の加算値に一次周波数指令と誘導モータの漏れインダクタンス値を乗じた第1の電圧降下モデルと、
t軸の電流検出値あるいは電流指令値にt軸の磁束指令値を乗じた値とm軸の電流検出値あるいは電流指令値にm軸の磁束指令値を乗じた値を加算し、その加算値に速度推定値と相互インダクタンス値と二次インダクタンス値の比率を乗じた第2の電圧降下モデルと、
t軸の電流検出値あるいは電流指令値にm軸の磁束指令値を乗じた値からm軸の電流検出値あるいは電流指令値にt軸の磁束指令値を乗じた値を減算し、その減算値に一次側に換算した二次抵抗値と相互インダクタンス値の比率を乗じた第3の電圧降下モデルを演算し、
前記第1の電圧降下モデル、前記第2の電圧降下モデル、前記第3の電圧降下モデルの加算値に―1を乗算して電力の前記外積モデルを演算する電力変換装置。
【請求項8】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
t軸の電流検出値あるいは電流指令値を2乗した値とm軸の電流検出値あるいは電流指令値を2乗した値の加算値に回路パラメータとを乗じた第4の電圧降下モデルと、
t軸の電流検出値あるいは電流指令値にm軸の磁束指令値を乗じた値からm軸の電流検出値あるいは電流指令値にt軸の磁束指令値を乗じた値を減算し、その減算値に速度推定値と相互インダクタンス値と二次インダクタンス値の比率を乗じた第5の電圧降下モデルと、
t軸の電流検出値あるいは電流指令値にt軸の磁束指令値を乗じた値にm軸の電流検出値あるいは電流指令値にm軸の磁束指令値を加算し、その加算値に一次側に換算した二次抵抗値と相互インダクタンス値の比率を乗じた第6の電圧降下モデルとを演算し、
前記第4の電圧降下モデル、前記第5の電圧降下モデル、前記第6の電圧降下モデルを加算して電力の前記内積モデルを演算する電力変換装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記制御軸であるm軸の電圧指令値にt軸の電流検出値あるいは電流指令値を乗じた値から、t軸の電圧指令値にm軸の電流検出値あるいは電流指令値を乗じた値を減算した電力の外積と、電力の外積モデルの偏差を、比例制御と積分制御の演算するか、あるいは、
m軸の電圧指令値にm軸の電流検出値あるいは電流指令値を乗じた値と、t軸の電圧指令値にt軸の電流検出値あるいは電流指令値を乗じた値を加算した電力の内積と、電力の内積モデルの偏差を、比例制御と積分制御の演算し、速度推定値を演算する電力変換装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
前記誘導モータが低速域であれば電力の外積と外積モデルの偏差を演算し、
前記誘導モータが中高域であれば電力の内積と内積モデルの偏差を演算し、
前記偏差の一方を比例制御と積分制御し、前記速度推定値を演算する電力変換装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記出力電圧および前記出力電流と、前記速度推定値を、上位装置にフィードバックして解析し、前記誘導モータの回路パラメータを修正する電力変換装置。
【請求項12】
請求項10に記載の電力変換装置において、
前記制御部は、
低速域と中高速域の制御を切替える切替周波数、または、前記比例制御あるいは前記積分制御の制御応答を設定し、
外部装置から前記切替周波数、もしくは制御応答を変更できる電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、一次電流の方向(t軸)とそれに直交する方向(m軸)を回転座標系の制御軸(mt軸)として、m軸の電圧指令値から逆起電力値を推定し、磁束で除算することで(数式1)に従い速度推定値ωr
^を算出している。
【0003】
【数1】
ここに、v
mc
**:m軸の電圧指令値,ω
s
*:すべり周波数指令値、i
t
*:t軸の電流指令値、i
mc:m軸の電流検出値、R
1
*:一次抵抗値の設定値、R
2´
*: 一次側に換算した二次抵抗値の設定値、L
σ:漏れインダクタンス値、M:相互インダクタンス値、L
2:二次インダクタンス値、T
obs:外乱オブザーバ時定数、T
ACR:電流制御遅れ相当の時定数、s:ラプラス演算子
【0004】
この技術により、(数式1)に用いる設定値R1
*と誘導モータの一次抵抗値R1に誤差がある場合でも、速度推定値ωr
^に推定誤差(ωr
^-ωr)は生じることなく、安定な速度制御が行える記述がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、誘導モータの一次抵抗値R1の誤差(R1
*-R1)に低感度であるが、(数式1)に用いる二次抵抗値の設定値R2
*と誘導モータの二次抵抗値R2に誤差(R2
*-R2)があると、誘導モータの速度推定値ωr
^に振動が発生し、その結果、モータ速度およびトルクにも振動が継続する。
【0007】
本発明の目的は、二次抵抗値の誤差がある場合でも、モータ速度およびトルクの振動現象を防止する電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、誘導モータの出力周波数、出力電圧及び出力電流を可変にする信号を前記誘導モータに出力する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、
一次電流の方向とそれに直交する方向を回転座標系とした制御軸における前記出力電圧と前記出力電流から電力を演算し、
前記制御軸における前記出力電流、回路パラメータから電力モデルを演算し、前記電力と前記電力モデルとから速度推定値を演算する電力変換装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二次抵抗値の誤差がある場合でも、誘導モータの速度やトルクの振動現象を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電力変換装置と誘導モータとを備える実施例1における構成図。
【
図4】従来技術を用いた場合の負荷運転特性(R
1
*に誤差あり)。
【
図5】従来技術を用いた場合の負荷運転特性(R
1
*およびR
2
*に誤差あり)。
【
図6】実施例1における電力の外積を利用した速度・周波数・位相演算部の構成図。
【
図7】本発明を用いた場合の負荷運転特性(R
1
*およびR
2
*に誤差あり)。
【
図9】実施例2おける電力の内積を利用した速度・周波数・位相演算部の構成図。
【
図10】電力変換装置と誘導モータとを有する実施例2における構成図。
【
図11】実施例3における速度・周波数・位相演算部の構成図。
【
図12】電力変換装置と誘導モータを有する実施例4における構成図。
【
図13】電力変換装置と誘導モータとを有する実施例5における構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施例を詳細に説明する。
【実施例0012】
図1は、電力変換装置と誘導モータとを備える実施例1における構成図である。本実施例は、誘導モータに速度センサを用いない速度センサレスベクトル制御で駆動する電力変換装置である。また、誘導モータ内の巻線温度により変化する一次抵抗値や二次抵抗値にともなうトルク抜けやトルク脈動を抑制することで、トルク不足なしに安定運転できる電力変換装置に関するものである。
【0013】
誘導モータ1は、磁束軸成分(d軸)の電流により発生する磁束φ2dと、磁束軸に直交するトルク軸成分(q軸)の電流iqによりトルクτを発生する。
【0014】
電力変換器2は、スイッチング素子としての半導体素子を備える。電力変換器2は、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を入力し、3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*に比例した電圧値を出力する。電力変換器2の出力に基づいて、誘導モータ1は駆動され、誘導モータ1の出力電圧と出力周波数および出力電流は可変に制御される。スイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使うようにしてもよい。
【0015】
直流電源3は、電力変換器2に直流電圧および直流電流を供給する。
【0016】
電流検出器4は、誘導モータ1の3相の交流電流iu、iv、iwの検出値iuc、ivc、iwcを出力する。また電流検出器4は、誘導モータ1の3相の内の2相、例えば、U相とW相の相電流を検出し、交流条件(iu+iv+iw=0)からV相の線電流をiv=-(iu+iw)として求めてもよい。
【0017】
本実施例では、電流検出器4を、電力変換装置内に設けた例を示したが、電力変換装置の外部に設けてもよい。
【0018】
制御部は、以下に説明する座標変換部5、座標変換部6、速度・周波数・位相演算部7a、基準位相演算部8、励磁電流・磁束設定部9、速度制御演算部10、座標変換部11、座標変換部12、mt軸ベクトル制御演算部13、座標変換部14、座標変換部15を備える。そして、制御部は、誘導モータ1の出力電圧値と出力周波数値および出力電流を可変に制御するように電力変換器2の出力を制御する。
【0019】
制御部は、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)などの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成される。制御部は、いずれかまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することができる。制御部のCPU(Central Processing Unit)が、メモリなどの記録装置に保持するプログラムを読み出して、上記した座標変換部5などの各部の処理を実行する。
【0020】
次に、制御部の各構成要素について、説明する。
【0021】
座標変換部5は、3相の交流電流iu、iv、iwの検出値iuc、ivc、iwcと位相推定値θdcからd軸およびq軸の電流検出値idc、iqcを出力する。
【0022】
座標変換部6は、d軸およびq軸の電流検出値idc、iqcと位相角θmtからm軸およびt軸の電流検出値imc、itcを出力する。
【0023】
速度・周波数・位相演算部7aは、m軸およびt軸の電流指令値im
*, it
*と電流検出値imc, itc、電圧指令値vmc
**, vtc
**、磁束指令値φm
*、φt
*、一次周波数指令値ω1
*および誘導モータ1の回路パラメータ(R1、R2’、Lσ、M、L2)に基づいて、誘導モータ1の速度推定値ωr
^^、すべり周波数指令値ωs
*、一次周波数指令値ω1
*および位相推定値θdcを出力する。
【0024】
基準位相演算部8は、すべり周波数指令値ωs
*を用いてm軸からd軸までの位相推定角θmtを出力する。
【0025】
励磁電流・磁束設定部9は、正極性である励磁電流指令値id
*と、正極性であるd軸の二次磁束指令値φ2d
*および、「0」であるq軸の二次磁束指令値φ2q
*を出力する。
【0026】
速度制御演算部10は、速度指令値ωr
*と速度推定値ωr
^^の偏差(ωr
*-ωr
^^)からq軸の電流指令値iq
*を出力する。
【0027】
座標変換部11は、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*と位相推定角θmtからm軸およびt軸の電流指令値im
*、it
*を出力する。
【0028】
座標変換部12は、d軸およびq軸の二次磁束指令値φ2d
*、φ2q
*と位相推定角θmtからm軸およびt軸の磁束指令値φm
*、φt
*を出力する。
【0029】
mt軸ベクトル制御演算部13は、誘導モータ1の回路パラメータ(R1、R2
‘、Lσ、M、L2)、m軸およびt軸の磁束指令値φm
*、φt
*、m軸およびt軸の電流指令値im
*、it
*、電流検出値imc、itc、速度推定値ωr^^、一次周波数指令値ω1
*に基づいて、m軸およびt軸の電圧指令値vmc
**、vtc
**を出力する。
【0030】
座標変換部14は、m軸およびt軸の電圧指令値vmc
**、vtc
**と位相推定角θmtからd軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**を出力する。
【0031】
座標変換部15は、d軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**と位相推定値θdcから3相交流の電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*を出力する。
【0032】
最初に一次電流を基準とするmt軸について説明する。mt軸は回転座標系であり、制御軸である。
図2は、d-q軸上のベクトル図である。磁束の方向をd軸、d軸より90度(π/2)進んだ方向をq軸としている。ここで、d軸の電流i
dとq軸の電流i
qおよび一次電流i
1は(数式2)の関係にある。
【0033】
【0034】
また、idとi1の位相角θφは(数式3)である。
【0035】
【0036】
図3は、m-t軸のベクトル図である。一次電流の方向をt軸、このt軸より90度遅れた方向をm軸としている。
【0037】
ここで、m軸の電流imとt軸の電流itおよび一次電流i1は(数式4)の関係にある。
【0038】
【0039】
さらにm軸からd軸までの位相角θmtは(数式5)である。
【0040】
【0041】
(数式1)に示す速度推定演算を用いた速度センサレス制御方式の基本動作について説明する。
【0042】
励磁電流・磁束設定部9は、誘導モータ1内でd軸の二次磁束値φ2dを発生させるために必要な電流指令値Id
*を出力する。また速度制御演算部10において、速度指令値ωr
*に速度推定値ωr
^が追従するように、(数式6)に従いq軸の電流指令値iq
*を演算する。
【0043】
【数6】
ここに、Kp_
ASR:速度制御の比例ゲイン、Ki_
ASR:速度制御の積分ゲイン
【0044】
mt軸のベクトル制御演算部13は、d軸およびq軸の電流指令値id
*、iq
*を座標変換したm軸およびt軸の電流指令値im
*、it
*、誘導モータ1の回路パラメータ(R1、R2、Lσ、M、L2)、m軸およびt軸の磁束指令値φm
*、 φt
*、速度推定値ωr
^^、一次周波数指令値ω1
*を用いて、(数式7)に従い、電圧基準値vmc
*、vtc
*を演算する。電圧基準値vmc
*、vtc
*は、それぞれm軸、t軸のフィードフォワード電圧成分である。
【0045】
【数7】
ここに、T
ACR:電流制御遅れ相当の時定数
【0046】
また、mt軸のベクトル制御演算部13には、m軸の電流指令値im
*、m軸の電流検出値imc、t軸の電流指令値it
*、t軸の電流検出値itcが入力される。ここでは(数式8)に従い、電流指令値im
*、it
*に各成分の電流検出値imc、itcが追従するようにPI(比例+積分)制御を行い、m軸およびt軸の電圧補正値Δvm
*、Δvt
*を出力する。電圧補正値Δvm
*、Δvt
*は、それぞれm軸、t軸のフィードバック電圧成分である。
【0047】
【数8】
ここに、K
p_m:m軸の電流制御の比例ゲイン、K
i_m:m軸の電流制御の積分ゲイン、K
p_t:t軸の電流制御の比例ゲイン、K
i_t:t軸の電流制御の積分ゲイン
【0048】
さらに(数式9)に従い電圧指令値vmc
**、vtc
**を演算した後、座標変換したd軸およびq軸の電圧指令値vdc
**、vqc
**により電力変換器2の出力電圧を制御する。
【0049】
【0050】
上記の例では、電圧指令値vmc
**、vtc
**を、それぞれm軸、t軸のフィードバック電圧成分と、m軸、t軸のフィードフォワード電圧成分とから求めた。ただし、電圧指令値vmc
**、vtc
**を、m軸、t軸のフィードバック電圧成分としてもよい。
【0051】
基本動作であるため、速度・周波数・位相演算部7aは、速度推定値ωr
^^の代わりに(数式1)により速度推定値ωr
^を演算する。また(数式10)に従い、すべり周波数指令値ωs
*を演算する。
【0052】
【0053】
さらに速度推定値ωr
^とすべり周波数指令値ωs
*を用いて、(数式11)に従い、一次周波数指令値ω1
*を演算する。
【0054】
【0055】
位相推定演算部7a7は、(数式12)に従い、一次周波数指令値ω1
*から誘導モータ1の磁束軸の位相θdcを演算する。
【0056】
【0057】
磁束軸の位相θdの推定値である位相推定値θdcを制御の基準に、センサレス制御による演算を実行する。以上が基本動作である。
【0058】
図4に、速度推定演算に、特許文献1を用いた場合の負荷運転特性を示す。(数式1)および(数式7)に用いる一次抵抗値の設定R
1
*を誘導モータ1のR
1の0.5倍に設定し、誘導モータ1を低速域の1Hzで運転しており、同図におけるA点からB点までランプ状に負荷トルクを200%まで与えている。
【0059】
誘導モータ1の回転速度ωrと速度推定値ωr
^^は一致しており、一次抵抗値の設定R1
*に低感度である。しかし、(数式1)および(数式7)に用いる二次抵抗値の設定R2
*に誤差があると、センサレス制御が不安定になることがある。
【0060】
図5に、速度推定演算に(数式1)および(数式7)に用いる二次抵抗値の設定値R
2
*を誘導モータ1の二次抵抗値R
2の0.5倍に設定した負荷運転特性を示す。
【0061】
誘導モータ1の回転速度ωrは定常的に速度推定値ωr
^よりも低下し、図中に示すB点以降から誘導モータ1のトルクτや回転速度ωrの振動が徐々に大きくなることがわかる。このような振動現象が発生する問題があった。
【0062】
これは(数式1)に示す速度推定演算は、m軸の電圧情報のみ利用しており、トルクや回転速度を振動させる要因があった。そこで解決法として、振動を含むm軸とt軸の両方の電圧指令値(vmc
**、vtc
**)と電流検出値(imc、itc)を用いて、電力情報を利用した速度推定値を演算する。
【0063】
本発明を用いれば、この振動現象を改善することができる。以下、本発明の速度推定について説明する。
【0064】
図6に速度・周波数・位相演算部7aのブロックを示す。すべり周波数演算部7a1はq軸の電流指令値i
q
*、d軸の二次磁束指令値φ
2d
*相互インダクタンス値Mおよび二次時定数T
2の設定値T
2
*を用いて、すべり周波数指令値ω
s
*を上述した(数式10)に従い演算する。
【0065】
特許文献1では、(数式1)より速度推定値ωr
^を演算したが、本実施例では電力の外積を用いて速度推定値ωr
^^を演算する。
【0066】
電力の外積演算部7a2は、m軸およびt軸の電圧指令値vmc
**、vtc
**と電流検出値imc、itcを用いて、電力の外積値Ecp
^を(数式13)に従い演算する。
【0067】
【0068】
電力の外積モデル演算部7a3は、m軸およびt軸の電流検出値imc、itc、速度推定値ωr
^^、一次周波数指令値ω1
*、誘導モータ1の回路パラメータR2’、Lσ、M、L2、m軸およびt軸の磁束指令値φm
*、φt
*用いて、外積モデル値Ecp
*を(数式14)に従い演算する。
【0069】
【0070】
減算部7a4は、電力の外積値Ecp
^と外積モデル値Ecp
*が入力され、その偏差であるΔEcpを出力する。偏差であるΔEcpはPI制御演算部7a5に入力される。PI制御演算部7a5は、P(比例)+I(積分)制御演算によりその偏差ΔEcpと速度推定演算の比例ゲインと速度推定演算の積分ゲインから、(数式15)に従い、速度推定値ωr
^^を演算する。
【0071】
【数15】
ここに、K
p_omg:速度推定演算の比例ゲイン、K
i_omg:速度推定演算の積分ゲイン
【0072】
加算部7a6は、すべり周波数指令値ωs
*と速度推定値ωr
^^が入力し、(数式16)により一次周波数指令値ω1
*を出力する。
【0073】
【0074】
位相推定演算部7a7は、一次周波数指令値ω1
*が入力し、上述した(数式12)に従い位相推定値θdcを出力する。
【0075】
図7に、本実施例に係る負荷運転特性を示す(
図5に用いた条件を設定している)。
図5と
図7に開示した負荷特性を比較すれば、速度推定値ω
r
^^に振動現象は無く、その効果は明白である。
【0076】
つまり、本発明を用いれば、誘導モータ1の二次抵抗値R2の誤差(R2
*-R2)は速度偏差(ωr
*―ωr)として発生するが、モータ速度およびトルクの振動を防止することはできる。
【0077】
上記の説明では、電力の演算や電力モデルの演算は、電圧指令値や電流検出値を誘導モータの出力電圧や出力電流の例として演算した。電力の演算や電力モデルの演算として、出力電圧として電圧検出値を、出力電流として電流検出値を使ってもよい。
【0078】
ここで、
図8を用いて、本実施例を採用した場合の検証方法について説明する。
【0079】
誘導モータ1を駆動する電力変換装置20に、電圧検出器21、電流検出器22を取り付け、誘導モータ1のシャフトにはエンコーダ23を取り付ける。
【0080】
mt軸の電圧・電流・磁束の計算部24には、第1ステップとして、電圧検出器21の出力である三相交流の電圧検出値(vuc、vvc、vwc)、三相交流の電流検出値(iuc、ivc、iwc)とエンコーダの出力である位置θが入力され、ベクトル電圧成分のvdc
^、vqc
^、ベクトル電流成分のidc
^、iqc
^と、位置θを微分した検出値ωrc、またベクトル電流成分よりすべり周波数の推定値ωs
^を演算する。
【0081】
さらに第2ステップとして、検出したベクトル電流成分のidc
^、iqc
^と誘導モータ1の回路パラメータ(汎用インバータに搭載されているオフライン・オートチューニングの結果あるいは設計値)を用いて、推定位相角θmt
^を(数式17)より、m軸およびt軸の電圧成分のvmc
^、vmc
^を(数式18)より、電流成分のimc
^、itc
^を(数式19)より、磁束成分のφm
^、φtc
^を(数式20)より、それぞれ導出する。
【0082】
電力の外積の計算部25では、(数式13)、(数式14)に対応する(数式21)、(数式22)を用いて電力の外積値Ecp
^_est、Ecp
*_estをそれぞれ演算する。これらEcp
^_estと Ecp
*_estが一致すれば本発明を採用していることが明白となる。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】