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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074929
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/06 20060101AFI20230523BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20230523BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
F16C19/06
F16C19/18
F16C33/78 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188130
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早田 史明
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB02
3J216BA19
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB12
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC16
3J216CC24
3J216CC33
3J216CC45
3J216EA03
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA80
3J701EA03
3J701EA63
3J701EA72
3J701FA11
3J701FA60
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】回転速度が上昇した場合にも、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、転がり軸受装置の構造を実現する。
【解決手段】深溝型玉軸受1を、外輪2と、内輪3と、複数の玉4と、磁場発生装置6とを備えるものとする。磁場発生装置6により、外輪2の内周面と内輪3の外周面との間に存在する環状空間11に、玉4の自転軸の方向の磁場を発生させる。特に磁場発生装置6は、環状空間11の全周にわたり磁場を発生させるものとする。磁場発生装置6が発生する磁場を横切るように玉4を公転させることで、玉4に接触角の方向の起電力を発生させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を備えた、導電性を有する外方部材と、
外周面に内輪軌道を備えた、導電性を有する内方部材と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された、導電性を有する複数の転動体と、
前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する環状空間に、前記転動体の自転軸の方向に一致した方向の磁場を発生させる、磁場発生装置と、を備え、
前記磁場発生装置は、前記環状空間の全周に磁場を発生させるものであり、
前記磁場を横切るように前記転動体を公転させることで、前記転動体に接触角の方向の起電力を発生させる、
転がり軸受装置。
【請求項2】
前記磁場発生装置は、前記転動体を自転軸の方向に関して両側から挟むようにN極とS極とを配置した、それぞれが円環状の1対の磁石素子から構成されており、
前記磁場発生装置が発生させる磁場は、前記環状空間の円周方向において大きさが変化しない、
請求項1に記載した転がり軸受装置。
【請求項3】
前記外方部材と前記内方部材との一方は、使用時に回転しない静止輪であり、
前記外方部材と前記内方部材との他方は、使用時に車輪とともに回転する回転輪である、
請求項1~2のうちのいずれか1項に記載した転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体には、走行時に生じる空気との摩擦などに起因して、静電気が帯電する。そして、車体にある程度電荷が溜まると、絶縁破壊を起こし、放電現象(スパーク)が発生することが知られている。このようなスパークが発生すると、ラジオノイズを生じさせるほか、車載コンピュータに損傷を与える可能性がある。
【0003】
車体に静電気が帯電する要因の一つとして、車輪を回転自在に支持するために用いられるハブユニット軸受と呼ばれる転がり軸受装置のうち、転動体と軌道輪との間に、自動車の走行時に、絶縁性の高い不導体のEHL油膜が形成されることが挙げられる。
【0004】
自動車の停止時には、転がり軸受装置を構成する転動体と軌道輪とは、EHL油膜を介さずに直接金属接触して互いに導通するため、車体に帯電した静電気を、転がり軸受装置を介してタイヤへと流し、地面に放電することができるが、自動車の走行時には、転動体と軌道輪との間にEHL油膜が形成されるため、帯電した静電気を車体からタイヤへと流すことができなくなる。つまり、EHL油膜が、車体とタイヤとの間を絶縁してしまう。この結果、走行時に、車体に静電気が帯電しやすくなる。
【0005】
転動体と軌道輪との間からEHL油膜を除去すれば、車体の帯電を抑制することが可能になるが、EHL油膜は、転がり軸受装置の低トルク化と長寿命化とに寄与するものであるため、車体の帯電抑制のためにEHL油膜を除去するという対策を採用することはできない。
【0006】
このような事情に鑑みて、たとえば特開2015-102200号公報(特許文献1)には、転がり軸受装置を構成する1対の軌道輪である外方部材と内方部材とを、シールリングを構成する導電性ゴム及び導電性グリースにより導通させる技術が記載されている。特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置によれば、導電性ゴム及び導電性グリースにより、外方部材と内方部材とを導通させられるため、EHL油膜を除去することなく、車体の帯電を抑制することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-102200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただし、特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置は、以下のような理由で、車体に帯電した静電気を放電するのに改善の余地がある。
【0009】
すなわち、シールリングを構成する導電性ゴムは、温度上昇時や機械的な力が負荷された際に、ゴムポリマーのブラウン運動が激しくなり、導体成分やイオン成分の結合力が弱まるため、導電性が低下しやすくなる。また、導電性グリースは、攪拌によって、導体成分の結合が切れやすくなり、導電性が低下しやすくなる。このため、特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置は、温度上昇や攪拌を生じる回転時(運転時)に導電性が低下する傾向になり、回転速度が速くなるほど導電性は低下しやすくなる。
【0010】
一方、車体には、走行速度が速くなるほど静電気が帯電しやすくなる。したがって、特開2015-102200号公報に記載された従来構造の転がり軸受装置により、走行時に、車体に帯電した静電気を十分に放電することは難しくなる。また、導電性グリースに含まれる導体成分として、カーボンブラックを使用した場合には、凝集が発生しやすくなるため、転がり軸受装置の回転抵抗が大きくなる、あるいはゴリ感(カーボンブラックの凝集物を軌道面と転動体との間に噛み込むことによる転がり抵抗の急激な変化)が出る可能性もある。
【0011】
上述したように、転がり軸受装置が、車体とタイヤ間のような2つの部材間を絶縁し、2つの部材のうちの一方から他方へ静電気を逃がすことを妨げてしまう問題は、車輪支持用の転がり軸受装置(ハブユニット軸受)に特有の問題ではなく、各種機械装置の回転支持部に組み込まれる転がり軸受装置においても、同様に生じ得る問題である。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、回転速度が上昇した場合にも、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置は、外方部材と、内方部材と、複数の転動体と、磁場発生装置とを備える。
前記外方部材は、導電性を有し、内周面に外輪軌道を備える。
前記内方部材は、導電性を有し、外周面に内輪軌道を備える。
前記転動体は、導電性を有し、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置される。
前記磁場発生装置は、前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する環状空間に、前記転動体の自転軸の方向に一致した方向の磁場を発生させる。
なお、自転軸の方向に一致した方向には、自転軸の方向に対して概略一致した方向、すなわち、自転軸の方向に対してわずかに(10°程度)傾斜した方向も含む。
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記磁場発生装置は、前記環状空間の全周に磁場を発生させるものとし、前記磁場を横切るように前記転動体を公転させることで、前記転動体に接触角の方向の起電力を発生させる。
なお、前記磁場発生装置が発生する磁場の方向は、環状空間の全周において同じ方向である。また、前記接触角の方向とは、公転軸と自転軸とを含む仮想平面内において、前記自転軸の方向に対して直交する方向であり、前記転動体に作用する荷重の作用線の方向を意味する。
【0014】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記磁場発生装置を、前記転動体を自転軸の方向に関して両側から挟むようにN極とS極とを配置した、それぞれが円環状の1対の磁石素子から構成することができる。また、前記磁場発生装置が発生させる磁場を、前記環状空間の円周方向において大きさが変化しないものとすることができる。
【0015】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記外方部材と前記内方部材との一方を、使用時に回転しない静止輪とし、前記外方部材と前記内方部材との他方を、使用時に車輪とともに回転する回転輪とすることができる。この場合には、転がり軸受装置は、ハブユニット軸受となる。
【0016】
本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記環状空間に、導電性を有しない潤滑剤を封入することができる。
あるいは、本発明の一態様にかかる転がり軸受装置では、前記環状空間に、導電性を有する潤滑剤を封入することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回転速度が上昇した場合にも、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、転がり軸受装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかる深溝型玉軸受を軸方向から見た状態を示す、模式図である。
図2図2は、図1のA-A線断面模式図である。
図3図3は、実施の形態の第1例の変形例を示す、図2に相当する図である。
図4図4は、実施の形態の第2例にかかるハブユニット軸受を示す、半部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1及び図2を用いて説明する。本例では、転がり軸受装置の例として、深溝型玉軸受1を用いて説明する。なお、深溝型玉軸受1に関して、軸方向外側とは、図2の左右方向に関する両側をいい、軸方向内側とは、図2の左右方向に関する中央側をいう。
【0020】
深溝型玉軸受1は、外方部材である外輪2と、内方部材である内輪3と、それぞれが転動体である複数の玉4と、1対のシールド板5a、5bと、磁場発生装置6とを備える。
【0021】
外輪2は、中炭素鋼、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する金属製で、全体が円環状に構成されている。外輪2は、内周面の軸方向中間部に、深溝型(断面円弧状)の外輪軌道7を有する。また、外輪2は、内周面の軸方向両外側部に、係止凹溝8a、8bを有している。係止凹溝8a、8bには、シールド板5a、5bの径方向外側の端部が係止される。外輪2は、図示しないハウジングに対して内嵌固定され、使用時にも回転しない。
【0022】
内輪3は、中炭素鋼、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する金属製で、全体が円環状に構成されている。内輪3は、外輪2の径方向内側に、外輪2と同軸に配置されている。内輪3は、外周面の軸方向中間部に、深溝型(断面円弧状)の内輪軌道9を有する。また、内輪3は、外周面の軸方向両外側部に、断面U字形状又は断面J字形状などのシール凹溝10a、10bを有している。内輪3は、図示しない回転軸に対して外嵌固定され、使用時に回転する。
【0023】
外輪2の内周面と内輪3の外周面との間には、円環形状を有する環状空間11が備えられている。環状空間11には、外輪軌道7及び内輪軌道9と玉4の転動面との間にEHL油膜を形成することを目的として、図示しない潤滑剤(グリース)が封入されている。本例で使用する潤滑剤は、導電性を有しない通常の潤滑剤であるが、本発明を実施する場合には、導電性を有する潤滑剤を使用することもできる。
【0024】
玉4は、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する硬質金属製で、外輪軌道7と内輪軌道9との間に転動自在に配置されている。つまり、玉4は、環状空間11に配置されている。玉4は、環状空間11の内側に、円周方向に関して等間隔に配置されている。玉4は、内輪3が回転軸とともに回転した際に、深溝型玉軸受1の中心軸と平行に配置された、図2の左右方向を向いた自転軸Rを中心に自転する。また、深溝型玉軸受1の玉4の接触角の大きさは0度であるため、玉4の接触角の方向(=玉4の荷重の作用線の方向)は、深溝型玉軸受1の径方向(図1の放射方向、図2の上下方向)を向いている。なお、本発明を実施する場合に、玉を転動自在に保持するために、たとえば合成樹脂などの非磁性材製の保持器をさらに備えることもできる。
【0025】
シールド板5a、5bは、密封部材であり、環状空間11に異物が侵入するのを抑制する。シールド板5a、5bは、非磁性のステンレス鋼板などの耐食性を有する金属板製で、全体が円環状に構成されている。シールド板5a、5bは、玉4を軸方向両側から挟むようにして、環状空間11の軸方向両外側の開口部に配置されている。シールド板5a、5bのそれぞれは、径方向外側の端部を係止凹溝8a、8bに対して係止することで、外輪2に固定されている。シールド板5a、5bの径方向内側の端部は、シール凹溝10a、10bの内面に対し近接対向しており、内輪3には接触していない。このため、シールド板5a、5bは、非接触形の密封装置を構成している。なお、密封部材として、特開2015-102200号公報に記載されたような、シールリップを有する弾性材を芯金に対して加硫接着した構造を備えた接触シールを使用することもできる。この場合には、弾性材は、非導電性ゴム製とし、芯金は、非磁性のステンレス鋼板製とする。シールド板5a、5b又は接触シールを構成する芯金を、非磁性のステンレス鋼製とすることで、外輪2又は内輪3を介した磁気漏洩を防止することができる。
【0026】
磁場発生装置6は、外輪2に固定された1対のシールド板5a、5bに支持されており、玉4を自転軸Rの方向に関して両側から挟むようにN極とS極とを配置した構成を有している。このために本例では、磁場発生装置6を、それぞれが永久磁石製で円環状の1対の磁石素子13a、13bから構成している。なお、本発明を実施する場合には、永久磁石製の磁石素子に代えて、シールド板(又は接触シールを構成する芯金)に加硫成形した磁性ゴムを着磁したものを磁石素子として用いることもできる。
【0027】
磁石素子13a、13bのそれぞれは、円環板状に構成されており、一方側の半部にN極を有し、かつ、他方側の半部にS極を有している。磁石素子13a、13bのそれぞれの磁束密度の大きさは、全周にわたり一定である。磁石素子13a、13bをシールド板5a、5bに支持した状態で、磁石素子13a、13bの径方向幅寸法は、玉4の直径よりも小さい。
【0028】
磁場発生装置6を構成する一方の磁石素子13aは、N極を玉4側に向け、かつ、S極をシールド板5a側に向けた状態で、シールド板5aの軸方向内側面の全周にわたり支持固定されている。これに対し、磁場発生装置6を構成する他方の磁石素子13bは、S極を玉4側に向け、かつ、N極をシールド板5b側に向けた状態で、シールド板5bの軸方向内側面の全周にわたり支持固定されている。このため、磁石素子13aのN極と磁石素子13bのS極とは、環状空間11の全周にわたり、軸方向に対向配置されている。また、磁石素子13aのN極側の側面と磁石素子13bのS極側の側面との間には、玉4の直径よりも少しだけ大きい間隔が空けられている。なお、シールド板5a、5bに対する磁石素子13a、13bの取付手段は特に問わないが、たとえば接着剤を利用して取り付けることができる。
【0029】
磁場発生装置6は、環状空間11に、磁石素子13aのN極側の側面から出て磁石素子13bのS極側の側面に入る、図2に矢印αで示したような、玉4の自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を発生させる。なお、磁場発生部12が発生する磁場の方向が、玉4の自転軸Rの方向に一致する場合には、自転軸Rの方向に完全に一致する場合だけでなく、略一致する(10°程度ずれた)場合も含む。
【0030】
本例では、それぞれが円環状の1対の磁石素子13a、13bを、環状空間11を軸方向両側から挟むように配置している。このため、本例の磁場発生装置6は、環状空間11の円周方向のいずれの位置においても、玉4の自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を発生させる。つまり、磁場発生装置6は、玉4の自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を、環状空間11の全周に発生させる。本例では、磁石素子13a、13bのそれぞれの磁束密度の大きさを全周にわたり一定としているため、本例の磁場発生装置6が発生する磁場は、環状空間11の円周方向において大きさが変化しない。別の言い方をすれば、磁場発生装置6は、環状空間11の円周方向において一様な磁場を発生させる。
【0031】
深溝型玉軸受1の運転時(内輪3の回転時)には、玉4は、図2の左右方向を向いた自転軸Rを中心に自転しつつ、深溝型玉軸受1の中心軸を中心に環状空間11を公転する。そして、玉4が環状空間11を公転する際に、玉4は磁場発生装置6が発生させる磁場を円周方向に横切る。玉4は、導電性を有する金属材料製であるため、磁場を横切る際に、フレミング右手の法則により、玉4には接触角の方向(図2の上下方向)の起電力が発生する。
【0032】
具体的には、磁場の方向が図2の矢印α方向であり、かつ、玉4が図2の表面側から裏面側に向けて公転している(図1の矢印X方向に公転している)場合には、玉4には径方向内側(図2の下側)を向いた起電力が発生する。このため、外輪2側が正に帯電している場合、又は、内輪3側が負に帯電している場合に、効率良く除電を行うことができる。これに対し、磁場の方向が図2の矢印α方向であり、かつ、玉4が図2の裏面側から表面側に向けて公転している(図1の矢印Y方向に公転している)場合には、玉4には径方向外側(図2の上側)を向いた起電力が発生する。このため、外輪2側が負に帯電している場合、又は、内輪3側が正に帯電している場合に、効率良く除電を行うことができる。なお、除電方向が合わない場合には、深溝型玉軸受1の左右を入れ替えて組み付けることで、除電方向を合わせることができる。
【0033】
特に本例の深溝型玉軸受1は、それぞれが円環状の1対の磁石素子13a、13bを、環状空間11を軸方向両側から挟むように配置しており、環状空間11の全周に磁場を発生させている(さらに本例では円周方向における磁場を一様としている)ため、玉4に発生する起電力は直流起電力となる。このため、玉4には、公転時に、直流電流が流れようとすることになる。
【0034】
しかも、深溝型玉軸受1の回転速度(内輪3の回転速度)が上昇するほど、玉4の公転速度が上昇し、誘導電圧が上昇する。つまり、本例では、深溝型玉軸受1の回転速度に応じた大きさの誘導電圧を発生させることができる。このため、外輪2と内輪3との導通効果は、深溝型玉軸受1の回転速度が上昇するほど高くなる。したがって、本例の深溝型玉軸受1によれば、回転速度が上昇した場合にも、外輪2と内輪3とを十分に導通させることができる。この結果、本例の深溝型玉軸受1は、玉4に発生する直流起電力を利用して、玉4の公転方向に応じて、外輪2が内嵌されたハウジングと内輪3が外嵌された回転軸とのうちの一方(帯電し、電圧の絶対値が高い方)から他方へ、静電気を逃がす(除去)ことができる。
【0035】
なお、深溝型玉軸受1は、図示しないハウジングと回転軸との間に組み込んだ後、内部隙間が残った状態で使用されるため、全周の50%未満(30%~50%)の範囲が荷重を支承する負荷圏となり、残りの範囲は荷重を支承しない非負荷圏となる。ここで、非負荷圏に存在する玉4と外輪軌道7又は内輪軌道9との間には隙間が存在する。このため、非負荷圏においては、外輪2と内輪3とを導通させることはできないが、本例では、負荷圏に存在する外輪軌道7及び内輪軌道9と玉4の転動面との間に形成されたEHL油膜の絶縁破壊を利用して、外輪2及び内輪3と玉4とを通電させることができる。なお、EHL油膜の絶縁破壊により放電現象が発生するが、本例の深溝型玉軸受1では、外輪2と内輪3との間の電位差を意図的に大きくし、帯電量が大きくならないうちに連続的に放電を発生させられるため、放電現象が発生した際のエネルギを小さくすることができる。このため、外輪軌道7及び内輪軌道9や玉4の転動面に電食を発生させずに済み、深溝型玉軸受1の軸受寿命の低下を防止できる。
【0036】
また、本例では、負荷圏に存在する外輪軌道7及び内輪軌道9と玉4の転動面との間に、EHL油膜が形成される通常の(導電性のない)潤滑剤を使用することができる。このため、深溝型玉軸受1の低トルク化と長寿命化とを犠牲にすることなく、外輪2と内輪3とを導通させることができる。
【0037】
また、本例では、導電性を有するグリースを使用しなくて済むため、導体成分としてカーボンブラックを使用した場合のように、深溝型玉軸受1の回転抵抗が大きくなる、あるいはゴリ感が出ることもない。
【0038】
なお、本発明を実施する場合には、導電性を有しない潤滑剤に代えて、導電性を有する潤滑剤(グリース)を使用することもできる。この場合には、導電性を有する潤滑剤の移動によって導体成分に誘電されるため、導電効果をさらに高めることもできる。
【0039】
[実施の形態の第1例の変形例]
実施の形態の第1例の変形例について、図3を用いて説明する。
【0040】
本例の深溝型玉軸受1は、外輪2a及び内輪3aのそれぞれを非磁性ステンレス鋼製とするとともに、磁場発生装置6aの構造を、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0041】
すなわち、本例の磁場発生装置6aは、一方のシールド板5a(5b)に支持された1つの磁石素子13cのみから構成している。なお、本例の場合にも、シールド板5a、5bに代えて、特開2015-102200号公報に記載されたような、接触シールを使用することもできる。
【0042】
磁石素子13cは、円環板状に構成されており、一方側の半部にN極を有し、かつ、他方側の半部にS極を有している。磁石素子13cは、N極(又はS極)を玉4側に向け、かつ、S極(又はN極)をシールド板5a(5b)側に向けた状態で、シールド板5a(5b)の軸方向内側面に支持固定されている。磁石素子13cの磁束密度の大きさは、全周にわたり一定である。
【0043】
磁場発生装置6aは、環状空間11に、磁石素子13cのN極側の端面から出て磁石素子13cのS極側の端面に入る(戻る)、玉4の自転軸の方向に一致した方向の磁場を発生させる。なお、磁場発生装置6aが発生する磁場の大きさ(磁界の強さ)は、実施の形態の第1例にかかる磁場発生装置6が発生する磁場の大きさよりも小さくなる。
【0044】
本例の磁場発生装置6aの場合にも、環状空間11の円周方向のいずれの位置においても、玉4の自転軸の方向と一致する方向の磁場を発生させる。つまり、磁場発生装置6aは、環状空間11の全周に磁場を発生させる。また、本例では、磁石素子13cの磁束密度の大きさを全周にわたり一定としているため、磁場発生装置6aは、環状空間11の円周方向において一様な磁場を発生させる。
【0045】
以上のような本例の場合にも、実施の形態の第1例の構造に比べて導通効果は低くなるが、玉4に直流起電力を発生させて、外輪2aと内輪3aとを導通させることができる。また、磁場発生装置6aを1つの磁石素子13cのみから構成するため、深溝型玉軸受1の軽量化とコスト低減を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0046】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図4を用いて説明する。本例では、転がり軸受装置の例として、自動車の車輪を回転自在に支持するためのハブユニット軸受14を用いて説明する。
【0047】
ハブユニット軸受14は、内輪回転型で、かつ、従動輪用のいわゆる第3世代のハブユニット軸受である。ハブユニット軸受14は、外方部材である外輪15と、内方部材であるハブ16と、複数の転動体17a、17bと、シールリング18と、キャップ19と、1対の磁場発生装置20a、20bとを備える。
なお、ハブユニット軸受14に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図4の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図4の右側である。
【0048】
外輪15は、中炭素鋼などの導電性を有する金属製で、略円筒形状を有している。外輪15は、内周面に、複列の外輪軌道21a、21bを有しており、外周面の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ22を有している。静止フランジ22は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔23を有する。外輪15は、支持孔23へ挿通したボルトにより、車体を構成する懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0049】
ハブ16は、外輪15の径方向内側に外輪15と同軸に配置されており、中炭素鋼などの導電性を有する金属製のハブ輪24と、高炭素クロム鋼などの導電性を有する金属製の内輪25とを組み合わせてなる。ハブ16は、外周面のうち、複列の外輪軌道21a、21bと対向する部分に、複列の内輪軌道26a、26bを有している。
【0050】
ハブ輪24は、内輪25を外嵌保持する軸部材であり、軸部27と、回転フランジ28と、パイロット部29とを有している。本例では、ハブユニット軸受14を、従動輪用としているため、ハブ輪24は、中実状に構成されている。ただし、本発明を、駆動輪用のハブユニット軸受に適用する場合には、ハブ輪として、径方向中央部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有するものを使用することができる。スプライン孔には、等速ジョイントを構成する駆動軸がスプライン係合される。
【0051】
軸部27は、ハブ輪24の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に備えられている。軸部27は、軸方向内側部に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さい、内輪25が外嵌される小径部30を有しており、軸方向中間部の外周面に、外側列の内輪軌道26aを有している。軸部27は、軸方向内側の端部に、内輪25の軸方向内側の端面を押え付けるかしめ部31を有する。本発明を実施する場合には、軸部の軸方向内側の端部の外周面に雄ねじ部を形成し、該雄ねじ部にナット螺合することにより、ハブ輪に対して内輪を固定しても良い。
【0052】
回転フランジ28は、ハブ輪24のうち、外輪15の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられており、略円輪形状を有している。回転フランジ28は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔32を有する。取付孔32のそれぞれには、スタッド33が圧入されている。スタッド33の先端部には、図示しないナットが螺合される。これにより、車輪を構成するホイール及び制動用回転体を、回転フランジ28の軸方向外側に固定する。本発明を実施する場合には、回転フランジに雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔にハブボルトを直接螺合することにより、ホイール及び制動用回転体を、回転フランジの軸方向外側に固定しても良い。
【0053】
パイロット部29は、ホイール及び制動用回転体をがたつきのない隙間嵌めで外嵌するためのもので、ハブ輪24の軸方向外側の端部に備えられており、略円筒形状を有している。
【0054】
内輪25は、円環形状を有しており、外周面の軸方向中間部に軸方向内側列の内輪軌道26bを有している。内輪25は、軸部27に備えられた小径部30に締り嵌めで外嵌されている。
【0055】
外輪15の内周面とハブ16の外周面との間には、円環形状を有する環状空間11aが備えられている。本例の場合にも、環状空間11aには、外輪軌道21a、21b及び内輪軌道26a、26bと転動体17a、17bの転動面との間にEHL油膜を形成することを目的として、図示しない導電性を有しない潤滑剤(グリース)が封入されている。
【0056】
転動体17a、17bは、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する硬質金属製である。軸方向外側に配置された外側列の複数個の転動体17aは、外輪軌道21aと内輪軌道26aとの間に、円周方向に等間隔に配置されており、合成樹脂などの非磁性材製の保持器34aにより転動自在に保持されている。これに対し、軸方向内側に配置された内側列の複数個の転動体17bは、外輪軌道21bと内輪軌道26bとの間に、円周方向に等間隔に配置されており、合成樹脂などの非磁性材製の保持器34bにより転動自在に保持されている。これにより、ハブ16は、外輪15の径方向内側に回転自在に支持される。
【0057】
本例では、転動体17a、17bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。また、本例では、軸方向外側列の転動体17aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体17bのピッチ円直径とを互いに同じとしているが、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径とを、互いに異ならせることもできる。
【0058】
シールリング18は、環状空間11aの軸方向外側の開口部を塞ぐ。シールリング18は、芯金35とシール材36とを備える。
【0059】
芯金35は、非磁性ステンレス鋼板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金35は、外輪15の軸方向外側の端部に内嵌固定されている。
【0060】
シール材36は、ゴムのごときエラストマーなどの弾性材により構成され、芯金35に加硫接着により支持固定されている。シール材36は、少なくとも1本(図示の例では3本)のシールリップ37を有する。シールリップ37のそれぞれの先端部は、軸部27の外周面又は/及び回転フランジ28の軸方向内側面に全周にわたって摺接している。
【0061】
キャップ19は、外輪15の軸方向内側の端部に内嵌され、外輪15の軸方向内側の開口部を塞ぐ。キャップ19は、非磁性ステンレス鋼板又は樹脂からなり、全体を有底円筒状に構成されている。すなわち、キャップ19は、外輪15の軸方向内側の端部に内嵌される円筒状の嵌合筒部38と、嵌合筒部38の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がり、かつ、嵌合筒部38の軸方向内側の開口部を塞ぐ底板部39とを備える。
【0062】
磁場発生装置20aは、環状空間11aのうち、軸方向外側列の転動体17aが配置された軸方向外側の空間に、転動体17aの自転軸RОの方向に一致した方向の磁場を発生させる。これに対し、磁場発生装置20bは、環状空間11aのうち、軸方向内側列の転動体17bが配置された軸方向内側の空間に、転動体17bの自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を発生させる。
【0063】
磁場発生装置20aは、転動体17aを自転軸RОの方向に関して両側から挟むようにN極とS極とを配置した構成を有している。このために本例では、磁場発生装置20aを、それぞれが永久磁石製の1対の磁石素子41、42から構成している。
【0064】
磁場発生装置20bは、転動体17bを自転軸Rの方向に関して両側から挟むようにN極とS極とを配置した構成を有している。このために本例では、磁場発生装置20bを、それぞれが永久磁石製の1対の磁石素子42、43から構成している。
【0065】
このように本例では、1つの磁石素子42を、磁場発生装置20aと磁場発生装置20bとの2つの磁場発生装置で兼用している。別の言い方をすれば、磁石素子42を、磁場発生装置20aを構成する用途だけでなく、磁場発生装置20bを構成する用途でも使用している。
【0066】
磁石素子41、42、43のそれぞれは、円環板状に構成されており、一方側の半部にN極を有し、かつ、他方側の半部にS極を有している。磁石素子41、42、43のそれぞれの磁束密度の大きさは、全周にわたり一定である。図示の例では、軸方向外側に配置された磁石素子41の大きさを、軸方向中間部に配置された磁石素子42及び軸方向内側に配置された磁石素子43の大きさよりも小さくしているが、本発明を実施する場合には、磁石素子41、42、43の大きさは、適宜変更することができる。また、磁場の大きさは小さくなるが、磁石素子42については、非磁着の強磁性体で代替することもできる。
【0067】
磁場発生装置20aを構成する磁石素子41は、S極を転動体17a側に向け、かつ、N極をシールリング18側に向けた状態で、シールリング18を構成する芯金35の軸方向内側面に支持固定されている。
【0068】
なお、本発明を実施する場合には、磁場発生装置20aを構成する磁石素子41を、永久磁石製の磁石素子に代えて、シールリングを構成するシール材とは別に、磁性ゴムを加硫成形接着し、該磁性ゴムを全周にわたり着磁することで、当該着磁部分を磁石素子として用いることもできる。
【0069】
磁場発生装置20a及び磁場発生装置20bを構成する磁石素子42は、N極を軸方向外側列の転動体17a側に向け、かつ、S極を軸方向内側列の転動体17b側に向けた状態で、外輪15の内周面の軸方向中間部に、ホルダ44を利用して支持されている。ホルダ44は、たとえば合成樹脂などの非磁性材料製で、外輪15の内周面の軸方向中間部に支持固定されている。
【0070】
磁場発生装置20bを構成する磁石素子43は、N極を転動体17b側に向け、かつ、S極をキャップ19側に向けた状態で、キャップ19を構成する底板部39の軸方向外側面に支持固定されている。なお、シールリング18に対する磁石素子41の取付手段、ホルダ44に対する磁石素子42の取付手段、キャップ19に対する磁石素子43の取付手段は特に問わないが、たとえば接着剤を利用して取り付けることができる。
【0071】
本例では、磁石素子41、42、43の取付方向(N極及びS極の向き)を、車体に組み込んだ状態でのハブユニット軸受14の回転方向に応じて規制する。具体的には、ハブユニット軸受14を車体に組み込んだ状態で、自動車の前進走行時に転動体17a、17bが、図4の裏面側から表面側に向けて公転する場合には、上述した説明の向きに取り付ける。これに対し、ハブユニット軸受14を車体に組み込んだ状態で、自動車の前進走行時に転動体17a、17bが、図4の表面側から裏面側に向けて公転する場合には、上述した説明とは反対向きに取り付ける。すなわち、磁石素子41を、N極を転動体17a側に向け、かつ、S極をシールリング18側に向けた状態で取り付ける。磁石素子42を、S極を軸方向外側列の転動体17a側に向け、かつ、N極を軸方向内側列の転動体17b側に向けた状態で取り付ける。また、磁石素子43を、S極を転動体17b側に向け、かつ、N極をキャップ19側に向けた状態で取り付ける。なお、右車輪を回転自在に支持するためのハブユニット軸受14と、左車輪を回転自在に支持するためのハブユニット14とでは、車両の前進走行時(又は後進走行時)における回転方向が逆になるため、右車輪用のハブユニット軸受14と左車輪用のハブユニット軸受14とでは、磁場発生装置20a、20bが発生する磁場の方向を逆向きとする。
【0072】
磁場発生装置20aは、環状空間11aの軸方向外側の空間内に、磁石素子42のN極側の側面から出て磁石素子41のS極側の側面に入る、転動体17aの自転軸RОの方向に一致した方向の磁場を発生させる。これに対し、磁場発生装置20bは、環状空間11aの軸方向内側の空間内に、磁石素子43のN極側の側面から出て磁石素子42のS極側の側面に入る、転動体17bの自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を発生させる。
【0073】
本例では、それぞれが円環状の1対の磁石素子41、42を、転動体17aが配置された環状空間11aの軸方向外側部を軸方向両側から挟むように配置している。このため、磁場発生装置20aは、環状空間11aの円周方向のいずれの位置においても、転動体17aの自転軸RОの方向に一致した方向の磁場を発生させる。つまり、磁場発生装置20aは、転動体17aの自転軸RОの方向に一致した方向の磁場を、環状空間11aの全周に発生させる。また、本例では、1対の磁石素子41、42のそれぞれの磁束密度の大きさを円周方向にわたり一定としているため、磁場発生装置20aが環状空間11aの軸方向外側部に発生させる磁場の大きさは、円周方向において大きさが変化しない。別の言い方をすれば、磁場発生装置20aは、環状空間11aの円周方向において一様な磁場を発生させる。
【0074】
また、本例では、それぞれが円環状の1対の磁石素子42、43を、転動体17bが配置された環状空間11aの軸方向内側部を軸方向両側から挟むように配置している。このため、磁場発生装置20bは、環状空間11aの円周方向のいずれの位置においても、転動体17bの自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を発生させる。つまり、磁場発生装置20bは、転動体17bの自転軸Rの方向に一致した方向の磁場を、環状空間11aの全周に発生させる。また、本例では、1対の磁石素子42、43のそれぞれの磁束密度の大きさを円周方向にわたり一定としているため、磁場発生装置20bが環状空間11aの軸方向内側部に発生させる磁場の大きさは、円周方向において大きさが変化しない。別の言い方をすれば、磁場発生装置20bは、環状空間11aの円周方向において一様な磁場を発生させる。
【0075】
ハブユニット軸受14の運転時には、転動体17a、17bのそれぞれは、自転軸RО、Rを中心に自転しつつ、ハブユニット軸受14の中心軸Оを中心に環状空間11aを公転する。そして、軸方向外側列の転動体17aが環状空間11aを公転する際に、転動体17aは、磁場発生装置20aが発生させる磁場を円周方向に横切るため、フレミング右手の法則により、転動体17aには接触角の方向(自転軸RОに直交する方向)の起電力が発生する。また、軸方向内側列の転動体17bが環状空間11aを公転する際に、転動体17bは、磁場発生装置20bが発生させる磁場を円周方向に横切るため、フレミング右手の法則により、転動体17bにも接触角の方向(自転軸Rに直交する方向)の起電力が発生する。なお、車体は、通常プラス(正)に帯電するため、車両の前進走行時(又は後進走行時)に、転動体17a、17bに径方向内側を向いた起電力が発生するように、磁場発生装置20a、20bが発生する磁場の方向と、車両の前進走行時における転動体17a、17bの公転方向とを規制している。
【0076】
本例のハブユニット軸受14においては、環状空間11aに円周方向に一様な磁場を発生させるため、転動体17a、17bに発生する起電力は直流起電力となる。このため、転動体17a、17bのそれぞれには、公転時に、直流電流が流れようとすることになる。この結果、外輪軌道21a、21b及び内輪軌道26a、26bと転動体17a、17bの転動面との間に形成されたEHL油膜の絶縁破壊を利用して、外輪15及びハブ16と転動体17a、17bとを通電させることができる。
【0077】
しかも、ハブユニット軸受14の回転速度(ハブ16の回転速度)が上昇するほど、転動体17a、17bの公転速度が上昇し、誘導電圧が上昇する。このため、外輪15とハブ16との導通効果は、ハブユニット軸受14の回転速度が上昇するほど高くなる。したがって、本例のハブユニット軸受14によれば、回転速度が上昇した場合にも、外輪15とハブ16とを十分に導通させることができる。この結果、ハブユニット軸受14は、車体が帯電しやすい高速走行時に、外輪15とハブ16との導通効果を高めることができる。
【0078】
本例では、自動車の前進走行時に、転動体17a、17bが、図4の裏面側から表面側に向けて公転するため、転動体17a、17bには径方向内側を向いた起電力が発生する。したがって、ハブユニット軸受14は、転動体17a、17bに発生する直流電流を利用して、車体に帯電した静電気を、ハブユニット軸受14を通じて、タイヤ側に効率良く逃がす(除去する)ことができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0079】
なお、図示は省略するが、実施の形態の第2例の変形例として、軸方向外側に配置された磁場発生装置20aを構成する磁石素子41を省略して、磁場発生装置20aを、磁石素子42のみから構成することもできる。または、軸方向外側に配置された磁場発生装置20aを構成する磁石素子42を省略して、磁場発生装置20aを、磁石素子41のみから構成し、かつ、磁場発生装置20bを磁石素子43のみから構成することもできる。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0081】
本発明を実施する場合に、磁場発生装置を構成する磁石素子は、永久磁石製とすることもできるし、磁性ゴムを着磁して構成することもできる。また、環状空間の全周に磁場を形成できれば、磁石素子の形状及び大きさについても、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。また、本発明を実施する場合に、磁場発生装置が発生する磁場の大きさを、環状空間の円周方向において変化させることもできる。さらに、本発明の転がり軸受装置は、深溝型玉軸受、ハブユニット軸受に限定されず、単列、複列を問わず、玉軸受、円筒ころ軸受、ニードル軸受、円すいころ軸受、球面ころころ軸受など、各種の軸受に適用することができる。また、本発明の転がり軸受装置は、内輪回転型に限らず、外輪回転型の構造にも適用できる。
【符号の説明】
【0082】
1 深溝型玉軸受
2、2a 外輪
3、3a 内輪
4 玉
5a、5b シールド板
6、6a 磁場発生装置
7 外輪軌道
8a、8b 係止凹溝
9 内輪軌道
10a、10b シール凹溝
11、11a 環状空間
13a、13b、13c 磁石素子
14 ハブユニット軸受
15 外輪
16 ハブ
17a、17b 転動体
18 シールリング
19 キャップ
20a、20b 磁場発生装置
21a、21b 外輪軌道
22 静止フランジ
23 支持孔
24 ハブ輪
25 内輪
26a、26b 内輪軌道
27 軸部
28 回転フランジ
29 パイロット部
30 小径部
31 かしめ部
32 取付孔
33 スタッド
34a、34b 保持器
35 芯金
36 シール材
37 シールリップ
38 嵌合筒部
39 底板部
41 磁石素子
42 磁石素子
43 磁石素子
44 ホルダ
図1
図2
図3
図4