(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074979
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】アナログ増幅装置
(51)【国際特許分類】
H10K 85/60 20230101AFI20230523BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20230523BHJP
H10K 10/40 20230101ALI20230523BHJP
【FI】
H01L29/28 250H
H01L29/78 618B
H01L29/28 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188214
(22)【出願日】2021-11-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [発行者名] 日刊工業新聞社 [刊行物名] 日刊工業新聞 令和3年6月25日付 第28面 [発行年月日] 令和3年6月25日 [掲載年月日] 令和3年6月25日 [掲載ウェブサイトのアドレス] https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00603144
(71)【出願人】
【識別番号】310016005
【氏名又は名称】株式会社 CHIRACOL
(71)【出願人】
【識別番号】508127100
【氏名又は名称】オルガノサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊博
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110CC03
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD05
5F110EE03
5F110EE43
5F110FF01
5F110FF27
5F110GG05
5F110GG42
5F110GG43
5F110GG44
5F110HK02
5F110HK03
5F110HK04
5F110HK06
5F110QQ06
(57)【要約】
【課題】有機半導体材料を用いて製造される有機薄膜トランジスタをアナログ増幅装置に適用する。
【解決手段】本発明によるアナログ増幅装置は、増幅すべきアナログ信号を電圧増幅する第1の増幅装置(2)と、第1の増幅装置から出力された増幅信号を電力増幅して機器(10)を駆動する駆動信号を形成する第2の増幅装置(6)とを有する。第1の増幅装置は、チャネルを構成する半導体層が有機半導体により構成された有機半導体増幅素子すなわち有機薄膜電界効果トランジスタ(4)を有する。有機半導体材料は溶媒溶解性を有するので、インクジェット法を含む印刷法により塗布成膜することができる。よって、簡易な製造設備で生産することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力したアナログ信号を電圧増幅する第1の増幅装置と、第1の増幅装置から出力された増幅信号を電力増幅して機器を駆動する駆動信号を形成する第2の増幅装置とを有し、
前記第1の増幅装置は、チャネルを構成する半導体層が有機半導体により構成された有機半導体増幅素子を有することを特徴とするアナログ増幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアナログ増幅装置において、前記有機半導体増幅素子は、チャネルを形成する有機半導体層と、有機半導体層に接すると共にチャネル領域を介して互いに対向するソース電極及びドレイン電極と、前記チャネル領域と対向するゲート電極とを有する有機薄膜電界効果トランジスタで構成したことを特徴とするアナログ増幅装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアナログ増幅装置において、前記有機薄膜電界効果トランジスタは、ゲート電極がゲート絶縁膜を介してチャンネル領域と対向するMOS型有機電界効果トランジスタとしたことを特徴とするアナログ増幅装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のアナログ増幅装置において、前記入力したアナログ信号は音源再生装置から出力されたオーディオ信号とし、前記オーディオ信号は前記第1の増幅装置により電圧増幅され、前記第2の増幅装置は電圧増幅されたオーディオ信号を電力増幅して音響機器を駆動する駆動信号を発生し、
当該アナログ増幅装置はオーディオアンプとして動作することを特徴とするアナログ増幅装置。
【請求項5】
請求項4に記載のアナログ増幅装置において、前記入力したアナログ信号はレコードプレーヤーのカートリッジから発生したオーディオ信号とし、前記第1の増幅装置は、昇圧トランスと有機薄膜電界効果トランジスタとの直列接続を含み、
前記入力したアナログ信号は昇圧トランスで増幅された後、有機薄膜電界効果トランジスタによりさらに増幅されることを特徴とするアナログ増幅装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のアナログ増幅装置において、
前記有機半導体は、下記一般式(1)で表される化合物からなるトランス-1,4-シクロヘキサン構造を有する有機トランジスタ材料が用いられたことを特徴とするアナログ増幅装置。
。
ここに、一般式(1)中、
Xは、複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、縮合多環式炭化水素骨格、又は複素環式化合物骨格であり、
m、n、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体増幅素子を用いてアナログ信号を増幅するアナログ増幅装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファスシリコンや多結晶シリコンを用いて電界効果トランジスタを製造する場合、多数の真空装置や不純物注入装置が必要である。よって、大掛かりな製造設備が必要であり、製造コストが高価になってしまう。この課題を解決する方策として、チャネルを構成する半導体層(活性層)に有機半導体材料を用いる有機薄膜トランジスタの実用化が期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
有機半導体材料は溶媒溶解性を有するので、印刷プロセスにより塗布成膜が可能である。すなわち、有機トランジスタは印刷技術を用いて製作でき、低コスト且つ短時間で回路製作が可能である。従って、小規模な生産設備を用いて多品種の製品を小ロットで生産するのに好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、有機トランジスタの開発は、主として大型ディスプレイ用の駆動回路や論理回路等の汎用デジタル回路について主眼点がおかれている。一方、アナログ技術の分野では、特性が異なる種々の増幅素子を小ロットで生産することが要望されている。特に、オーディオアンプの分野においては、様々な増幅特性を有するトランジスタを小ロットで生産することが要請されている。このような場合、トランジスタを簡易な製造設備で低コストで生産できれば、アナログ増幅装置の進展に寄与することができる。
【0006】
一方、前述したように、有機半導体材料は印刷プロセスにより塗布成膜することができ、簡易な製造設備で生産することが可能である。従って、有機薄膜トランジスタをアナログ増幅装置に利用できれば、アナログ増幅装置を簡易に低コストで生産できるメリットが達成される。
【0007】
本発明の目的は、有機半導体材料を用いて製造される有機薄膜トランジスタをアナログ増幅装置に適用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるアナログ増幅装置は、入力したアナログ信号を電圧増幅する第1の増幅装置と、第1の増幅装置から出力された増幅信号を電力増幅して機器を駆動する駆動信号を形成する第2の増幅装置とを有し、
前記第1の増幅装置は、チャネルを構成する半導体層が有機半導体により構成された有機半導体増幅素子を有することを特徴とする。
【0009】
本発明による好適なアナログ増幅装置は、入力アナログ信号は音源再生装置から出力されたオーディオ信号とされ、前記オーディオ信号は第1の増幅装置により電圧増幅され、第2の増幅装置は電圧増幅されたオーディオ信号を電力増幅して音響機器を駆動する駆動信号を発生し、
当該アナログ増幅装置はオーディオアンプとして動作することを特徴とする。
また、本発明による好適なアナログ増幅装置は、入力アナログ信号はレコードプレーヤーのカートリッジから発生したオーディオ信号とし、前記第1の増幅装置は、昇圧トランスと有機薄膜電界効果トランジスタとの直列接続を含み、
前記入力したアナログ信号は昇圧トランスで増幅された後、有機薄膜電界効果トランジスタによりさらに増幅されることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明による好適なアナログ増幅装置は、有機半導体は、下記一般式(1)で表される化合物からなるトランス-1,4-シクロヘキサン構造を有する有機トランジスタ材料が用いられたことを特徴とする。
。
ここに、一般式(1)中、
Xは、複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、縮合多環式炭化水素骨格、又は複素環式化合物骨格であり、
m、n、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明による有機薄膜電界効果トランジスタは電圧増幅機能を発揮するので、低出力アナログ信号を所望の信号レベルに増幅するのに好適なアナログ増幅装置を実現することできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明によるアナログ増幅装置の一例を示す線図である。
【
図2】本発明による有機電界効果トランジスタの一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の電界効果トランジスタの増幅特性の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明に用いることができる有機トランジスタ材料の4H-21DNTTの反応式の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明によるアナログ増幅装置の一例の構成を示す線図である。本例では、レコードプレーヤーのような音源再生装置から発生したオーディオ信号を増幅するオーディオアンプについて説明する。尚、Rチャネル及びLチャネルについて同一符号を付して説明する。レコードプレーヤー1のカートリッジから発生したオーディオ信号は第1の増幅装置2に入力する。レコードプレーヤーのカートリッジから発生するオーディオ信号は他のラインレベルのオーディオ信号よりも低い出力信号である、そのため、第1の増幅装置を用いて後段の増幅装置の信号レベルに適合するように電圧増幅を行う。
【0014】
第1の増幅装置2は、昇圧トランス3と有機増幅素子(有機薄膜電界効果トランジスタ)4との直列接続を有し、2段階で電圧増幅する。入力したオーディオ信号は、昇圧トランス3により所定の信号レベルに増幅され、続いて有機増幅素子4により後段の電力増幅装置に適合する電圧レベルまで電圧増幅する。このように、昇圧トランスと有機電界効果トランジスタとの直列接続を用いて電圧増幅することにより、昇圧トランスの増幅量が不十分な場合であっても有機電界効果トランジスタによってさらに増幅できるので、十分な増幅量を確保することができる。なお、有機電界効果トランジスタの増幅量が十分な場合には、昇圧トランス3を有しないで又は昇圧トランス3との接続を行わないで、有機電界効果トランジスタの1段階で増幅する構成とすることもできる。もっとも、レコードプレーヤー1のカートリッジがMC(Moving Coil)カートリッジの場合にはオーディオ信号が数mV程度であり、MM(Moving Magnet)カートリッジよりも低出力信号であるので、昇圧トランス3と有機薄膜電界効果トランジスタとの2段階で電圧増幅するのが好ましい。有機増幅素子4は、有機薄膜電界効果トランジスタにより構成する。有機薄膜電界効果トランジスタは、接合型電界効果トランジスタ又はMOS型電界効果トランジスタのいずれも用いることができる。
【0015】
有機電界効果トランジスタを駆動するため電源5を設ける。電源5は、ゲートバイアス用のバイアス電圧Vs及びドレイン電圧Vdをそれぞれ発生する。昇圧トランス3の出力及び電源5から出力されるバイアス電圧Vsは有機トランジスタ4のゲート電極に印加し、ドレイン電圧Vdはドレイン電極に印加する。また、ソース電極は負荷抵抗(図示せず)を介して接地する。
【0016】
有機トランジスタ4のソース電極に生ずるソース電圧(増幅信号)を第1の増幅装置の出力として第2の増幅装置に供給する。第2の増幅装置は、例えばプリメインアンプ又はメインアンプとすることができる。第2の増幅装置6は、中間増幅アンプ7,減衰器8及びパワーアンプ9を有する。中間増幅アンプ7は、有機トランジスタ4により増幅されたレコードプレーヤー1からのオーディオ信号のフォノイコライザー機能を有することができる。フォノイコライザー機能は、中間増幅アンプ7の代わりに第1の増幅装置に組み込むこともできる。第1の増幅装置からの増幅信号は中間増幅アンプにより所定の信号レベルまで増幅され、減衰器8に供給される。減衰器は、入力した信号を後段のパワーアンプの信号レベルに適合するように調整する。パワーアンプ9は、入力した信号を電力増幅し、スピーカー10を駆動する駆動信号を発生する。
【0017】
図2は本発明による有機薄膜電界効果トランジスタの一例を示す断面図である。本例では、トップゲート型MOSFETを例にして説明する。基板20を用意する。基板として、ガラス基板、プラスチック基板、シリコン基板等の各種基板を用いることができる。基板20上にゲート電極21を厚さ50nmに形成する。ゲート電極は基板上にアルミニウム層を蒸着することにより形成する。
【0018】
ゲート電極が形成された基板面上にゲート絶縁膜22を形成する。ゲート絶縁膜として、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリパラキシリレン等の絶縁性ポリマをインクジェット法により塗布する。絶縁性ポリマは溶媒溶解性を有するので、インクジェット法により塗布成膜することができる。
【0019】
ゲート絶縁膜22上にソース電極23及びドレイン電極24を形成する。これらソース電極及びドレイン電極は、所定のチャネル長だけ離間するように対向配置する。チャンネル長は、例えば0.1~100μmとする。また、チャンネル幅は30~200μmとする。また、これらの電極材料として、金、白金、銀、アルミニウム、クロム等の金属又はこれらを含む合金を用いることができる。
【0020】
ソース電極及びドレイン電極並びにチャンネル領域を覆うように有機半導体層25を形成する。有機半導体材料は溶媒溶解性を有するので、有機半導体層もインクジェット法により塗布成膜する。インクジェット法以外の印刷方法として、ナノプリント法、フレキソ印刷、凸版印刷、オフセット印刷、平板印刷、グラビア印刷等を利用できる。
【0021】
電極の配置位置関して、半導体層(活性層)に形成されるチャネル領域とゲート電極とがゲート絶縁膜を介して互いに対向するように位置形成する。
【0022】
ソース電極及びドレイン電極を形成した後、全面を覆うようにパッシベーション層26を形成する。
【0023】
有機半導体として、下記一般式(1)で表される化合物からなるトランス-1,4-シクロヘキサン構造を有する有機トランジスタ材料を用いることができる。
ここに、一般式(1)中、
Xは、複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、縮合多環式炭化水素骨格、又は複素環式化合物骨格であり、
m、n、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。
【0024】
上記した、一般式(1)で表される化合物からなるトランス-1,4-シクロヘキサン構造を有する有機トランジスタ材料を、より具体的に説明する。
【0025】
上記の有機トランジスタ材料は、有機トランジスタ材料として用いられる骨格Xに、六員環のシクロアルキル基であるシクロヘキシル基にアルキル基又はハロアルキル基の側鎖を有するもの(以下、本明細書では「アルキルシクロヘキシル基」ともいう。)の置換基を有する誘導体であることにより、従来よりもキャリア移動度が高く、熱安定性が良好であり、また、塗布可能な溶解性を有している。
【0026】
アルキルシクロヘキシル基の側鎖のアルキル基の炭素数は1~15であり、好ましくは1~10である。アルキル基は直鎖構造とすることができるが、分岐があってもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基等が挙げられる。電子供与性のアルキル基を用いることにより、有機溶媒への溶解性を向上させたり、分子配列を制御したり、塗布基板へのぬれ性を制御したり、最高占有軌道(HOMO)レベルを上げてp型半導体として機能させることができる。
【0027】
また、アルキル基の水素原子がハロゲンに置換されたハロアルキル基とすることができる。ハロアルキル基のハロゲン原子は、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子である。ハロアルキル基としては、これらのハロゲン原子の一種又は二種以上を用いることができるが、少なくともフッ素原子を含むことが好ましく、フッ素原子のみであることがより好ましい。ハロアルキル基のハロゲン原子は、アルキル基の水素原子の一部を置換していてもよいし、全部を置換していてもよい。ハロアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、1-フルオロメチル基,2-フルオロエチル基、2-フルオロイソブチル基、1,2-ジフルオロエチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロシクロヘキシル基等が挙げられる。電子受容性のハロアルキル基を用いることにより、分子配列を制御したり、塗布基板へのぬれ性を制御したり、最低非占有軌道(LUMO)レベルを下げ、n型半導体として機能させることができる。
【0028】
アルキルシクロヘキシル基は、骨格Xとの間に一個のフェニル基を有していてもよく、有していなくてもよい。
アルキルシクロヘキシル基のアルキル基又はハロアルキル基と、骨格X又はフェニル基とは、シクロヘキサン環の1,4の位置に配置されることが好ましい。また、シス型よりもトランス型のほうが有機トランジスタ材料として熱安定性に優れるので好ましい。
【0029】
また、アルキルシクロヘキシル基は、骨格Xに対して少なくとも一個を有していればよく、二個であってもよい。二個である場合に、一個目のシクロヘキシル基の側鎖のアルキル基と、二個目のアルキルシクロヘキシル基の側鎖のアルキル基とは、炭素数が同じであってもよいし、異なっていてもよい。一個目のシクロヘキシル基と骨格Xとの間にフェニル基を有しているとき、及び、有していないときのいずれも、二個目のアルキルシクロヘキシル基は、骨格Xとの間に一個のフェニル基を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0030】
骨格Xは、有機トランジスタ材料として用いられる骨格であり、具体的には複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格、又は縮合多環式炭化水素骨格、複素環式化合物骨格である。これらの骨格は、より具体的に次の式(2)~(50)の骨格を例示することができる。
【0031】
〔複数のフェニレン基又はナフチレン基が直接又はビニル基を介して連結した骨格〕
(ジスチリルベンゼン骨格)
【0032】
【0033】
【0034】
〔縮合多環式炭化水素骨格〕
〔4個の環を含有する縮合多環式炭化水素骨格〕
(クリセン骨格)
【0035】
【0036】
【0037】
〔5個の環を含有する縮合多環式炭化水素骨格〕
(ピセン骨格)
【0038】
【0039】
【0040】
〔6個の環を含有する縮合多環式炭化水素骨格〕
(ジベンゾクリセン骨格)
【0041】
〔複素環式化合物骨格〕
〔硫黄原子を含む複素環を1個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
【0042】
〔硫黄原子を含む複素環を2個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
(ベンゾチアノベンゾチオフェン骨格;BTBT骨格)
【0043】
【0044】
【0045】
〔硫黄原子を含む複素環を4個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
(ジ(ベンゾチエノ)チエノチオフェン骨格)
【0046】
〔酸素原子を含む複素環を 1個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
【0047】
〔酸素原子を含む複素環を2個含有する縮合複素環式化合物骨格〕
【0048】
〔窒素原子を含む複素環を含有する縮合複素環式化合物骨格〕
【0049】
骨格Xは上記式(2)~(50)のなかでも、例えばクリセン骨格、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格、ジベンゾアントラセン骨格又はジナフトチエノチオフェン骨格とすることができる。
骨格Xが、上記式(6)のクリセン骨格である場合においては、より具体的に次の一般式(A-1)~(A-7)のものを例示できる。これらの一般式において、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。好ましくは、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基である。
【0050】
骨格Xが、上記式(29)のジナフトチエノチオフェン骨格である場合においては、より具体的に次の一般式(B-1)~(B-7)のものを例示できる。これらの一般式において、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1~15のアルキル基又はハロアルキル基である。好ましくは、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基である。
【0051】
骨格Xは上記式(2)~(50)のなかでも、(2)、(3)、(4)、(6)、(7)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(19)、(20)、(21)、(22)、(23)、(24)、(25)、(27)、(28)、(29)、(30)、(31)、(32)、(33)、(35)、(42)、(44)、(45)、(46)、(47)、(48)、(49)、(50)の骨格であるものが、有機半導体を長期にわたって安定して動作させることが可能であるために好ましい。
【0052】
上述した有機トランジスタ材料は、公知の方法、例えば、遷移金属を用いた鈴木カップリング反応、銅触媒を用いた薗頭反応、及び、脱シリル化反応、遷移金属を用いた環化反応、遷移金属を用いた根岸カップリング反応により合成できる。
【0053】
有機トランジスタ材料を有機トランジスタに利用するに当たって、高純度化のために不純物の除去等の精製が必要になるが、上述した有機トランジスタ材料は、液体クロマトグラフィー法、昇華法、ゾーンメルティング法、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー法、再結晶法などによって精製できる。
【0054】
また、有機トランジスタ材料を有機トランジスタに利用するに当たって、主として薄膜の形態で用いられるが、その薄膜作製法として、ウェットプロセスとドライプロセスどちらを使用してもよい。上述した有機トランジスタ材料は、有機溶媒等への溶解させることにより、産業上メリットの大きいウェットプロセスに適応できる。
【0055】
ここで、有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、シクロヘキサノール、トルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、ニトロベンゼン、メチルエチルケトン、ジグライム、テトラヒドロフランなど、これまで公知のものが使用できる。また、有機トランジスタ材料を有機溶媒等へ溶解させる場合、温度や圧力に特に制限は無いが、溶解させる温度に関しては、0~200℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは、10~150℃の範囲である。また、溶解させる圧力に関しては、0.1~100MPaの範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1~10MPaの範囲である。また、有機溶媒の代わりに、超臨界二酸化炭素のようなものを用いることも可能である。
【0056】
ここで言うウェットプロセスとは、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、平板印刷法、凹版印刷法、凸版印刷法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
【0057】
ここで言うドライプロセスとは、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、レーザー蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、気相輸送成長法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
【0058】
次に、本発明による有機薄膜電界効果トランジスタの入出力特性について説明する。
図2に示す構造のP形電界効果トランジスタを試作した。 P形電界効果トランジスタには、有機トランジスタ材料として次に示す化合物を用いた。この化合物を本明細書では4H-21DNTTという。
【0059】
上記の4H-21DNTTは、例えば、
図4に示す反応式によって合成することができる。
【0060】
得られたP形電界効果トランジスタは、ソース接地して入出力特性を測定した。ソース電極に接続した負荷抵抗は1MΩ(
図3の破線で示す)と10MΩ(
図3の実線で示す)であった。
図3は、試作した有機薄膜電界効果トランジスタの入出力特性の測定結果を示すグラフである。横軸はゲート電極に印加するバイアス電圧Vsを示し、縦軸は出力電圧(ソース電圧)Voを示す。ドレイン電極には10Vのドレイン電圧Vddを印加した。
【0061】
図3を参照するに、負荷抵抗が10MΩの場合、バイアス電圧が10Vを超えると出力電圧は急激に降下し、小さな入力電圧Vsの変化に対して出力電圧Voが大きく変化している。負荷抵抗が1MΩの場合も、同様に小さな入力電圧の変化に対して出力電圧が大きく変化することが確認された。
【0062】
図3に示す測定結果から明らかなように、本発明の有機薄膜電界効果トランジスタは、小さな入力電圧の変化に対して大きな出力電圧特性が得られ、電圧増幅作用を発揮することが実証された。
P形電界効果トランジスタとして、上述した4H-21DNTTの他に次に示す化合物5H-21DNTTについても小さな入力電圧の変化に対して大きな出力電圧特性が得られ、電圧増幅作用を発揮することが実証されている。
この5H-21DNTTは、
図4に示した4H-21DNTTの反応式中の1-ブロモ-4-ブチルシクロヘキサンを1-ブロモ-4-ペンチルシクロヘキサンに代え、他は同様にして合成することができる。
【0063】
本発明は上述した実施例に限定されず種々の変形や変更が可能である。例えば、上述した実施例では、有機薄膜半導体増幅素子としてMOS型の有機電界効果トランジスタを用いて説明したが、勿論接合型の有機電界効果トランジスタを用いることも可能である。
【0064】
電界効果トランジスタの構造について、ボトムゲート型だけでなくトップゲート型の電界効果トランジスタを用いることができる。また、トップコンタクト型及びボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを用いることも可能である。
【0065】
有機半導体として、実施例で用いた有機半導体材料以外の種々の有機半導体材料を用いるこができ、例えばペンタセンやテトラセンを用いることができる。
【0066】
アナログ増幅装置として、本発明は種々のオーディオアンプに適用するこができる。例えば、電圧増幅するプリアンプと電力増幅するメインアンプとを有する増幅装置にも適用することができ、この場合電圧増幅を行うプリアンプに有機電界効果トランジスタを配置する。
【符号の説明】
【0067】
1 レコードプレーヤー
2 第1の増幅装置
3 昇圧トランス
4 有機増幅素子
5 電源
6 第2の増幅装置
7 中間増幅アンプ
8 減衰器
9 パワーアンプ
10 スピーカー