(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075011
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】缶用水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/10 20060101AFI20230523BHJP
C09D 191/06 20060101ALI20230523BHJP
C09D 123/00 20060101ALI20230523BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230523BHJP
C09D 161/10 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C09D163/10
C09D191/06
C09D123/00
C09D5/02
C09D161/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110856
(22)【出願日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2021187496
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】慶長 和明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 美香
(72)【発明者】
【氏名】豊川 大吾
(72)【発明者】
【氏名】天木 慎悟
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA212
4J038CB002
4J038DA041
4J038DB371
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA11
4J038PB04
(57)【要約】
【課題】滑性及び耐摩耗性に優れ、なおかつ加工性にも優れる缶用水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】アクリル変性エポキシ樹脂(A)、融点の異なる3種のワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種のワックス(B)、平均粒子径が0.1~5μm、且つポリオレフィンの針入度が8以下であるポリオレフィン水性ディスパージョン(C)およびフェノール樹脂(D)を特定組成比で含有することを特徴とする缶用水性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル変性エポキシ樹脂(A)、ワックス(B)、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)およびフェノール樹脂(D)を含有する塗料組成物であって、
ワックス(B)が融点50℃未満のワックス(b1)、融点50℃以上かつ100℃未満のワックス(b2)及び融点が100~160℃で、かつ平均粒子径が1~15μmのワックス(b3)からなる群より選ばれる少なくとも1種類のワックスを含有し、
ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)の平均粒子径が0.1~5μm、且つポリオレフィンの針入度が8以下であり、
アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして、ワックス(B)の固形分総量が0.3~10質量%、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)の固形分総量が1~10質量%、フェノール樹脂(D)の固形分総量が0.5~20質量%であることを特徴とする缶用水性塗料組成物。
【請求項2】
ワックス(b1)が、ラノリンワックス、パーム油及びグリセリントリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の缶用水性塗料組成物。
【請求項3】
ワックス(b2)が、マイクロクリスタリンワックス及びカルナバワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の缶用水性塗料組成物。
【請求項4】
ワックス(b3)が、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の缶用水性塗料組成物。
【請求項5】
ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の固形分量が、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして、ワックス(b1)が0.1~5質量%、ワックス(b2)が0.1~5質量%、ワックス(b3)が0.1~5質量%である請求項1又は2に記載の缶用水性塗料組成物。
【請求項6】
缶蓋用である請求項1又は2に記載の缶用水性塗料組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の缶用水性塗料組成物の塗膜を有する缶蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑性、耐摩耗性、加工性に優れる缶用水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶には、例えば、アルミニウム、ティンフリースチール、ブリキ等の金属基材が用いられている。これらの金属基材を加工して得られた、缶、缶蓋及びタブの外面には、成形性、意匠性、金属表面保護を目的として塗膜が形成されている。特に、缶蓋の塗膜は、成形時の厳しい加工に対する耐性が要求されるため、滑性付与の目的でワックスを塗料に含有するインナーワックス型の缶用塗料が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、顔料、顔料分散樹脂及びバインダー樹脂を含有する缶蓋外面用水性塗料組成物であって、該顔料分散樹脂が、メタアクリル酸、スチレン及びエチルアクリレートを構成成分として有するアクリル共重合体であることを特徴とする缶蓋外面用水性塗料組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、融点が40~70℃である動物系ワックス(a)含有水溶性アクリル樹脂(A)、動物系ワックス(a)含有水性ワックス分散体(B)、水溶性ポリエステル樹脂(C)、及び、アミノ樹脂(D)を含む、缶外面用水性塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-176714号公報
【特許文献2】特開2009-191180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の塗料組成物では、塗膜滑性向上のためにワックスを多く配合すると、塗膜が可塑化し耐摩耗性が低下するため、滑性と耐摩耗性を高レベルで両立させることが困難であり、また、加工性が不十分となる場合があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、滑性及び耐摩耗性に優れ、なおかつ加工性にも優れる缶用水性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アクリル変性エポキシ樹脂、ワックス、ポリオレフィン水性ディスパージョン、及びフェノール樹脂を含有する塗料組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
1.アクリル変性エポキシ樹脂(A)、ワックス(B)、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)およびフェノール樹脂(D)を含有する塗料組成物であって、
ワックス(B)が融点50℃未満のワックス(b1)、融点50℃以上かつ100℃未満のワックス(b2)及び融点が100~160℃で、かつ平均粒子径が1~15μmのワックス(b3)からなる群より選ばれる少なくとも1種類のワックスを含有し、
ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)の平均粒子径が0.1~5μm、且つポリオレフィンの針入度が8以下であり、
アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして、ワックス(B)の固形分総量が0.3~10質量%、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)の固形分総量が1~10質量%、フェノール樹脂(D)の固形分総量が0.5~20質量%であることを特徴とする缶用水性塗料組成物、
2.ワックス(b1)が、ラノリンワックス、パーム油及びグリセリントリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記項1に記載の缶用水性塗料組成物、
3.ワックス(b2)が、マイクロクリスタリンワックス及びカルナバワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記項1又は2に記載の缶用水性塗料組成物、
4.ワックス(b3)が、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記項1~3のいずれか1項に記載の缶用水性塗料組成物、
5.ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の固形分量が、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして、ワックス(b1)が0.1~5質量%、ワックス(b2)が0.1~5質量%、ワックス(b3)が0.1~5質量%である上記項1~4のいずれか1項に記載の缶用水性塗料組成物、
6.缶蓋用である請求項1~5のいずれか1項に記載の缶用水性塗料組成物、
7.請求項1~6のいずれか1項に記載の缶用水性塗料組成物の塗膜を有する缶蓋
、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の缶用水性塗料組成物は、滑性及び耐摩耗性に優れ、かつ加工性にも優れた塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、アクリル変性エポキシ樹脂(A)、ワックス(B)、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)及びフェノール樹脂(D)を含有することを特徴とする缶用水性塗料組成物(以下、本発明組成物と称することもある。)である。以下、詳細に説明する。
【0012】
<缶用水性塗料組成物>
<アクリル変性エポキシ樹脂(A)>
アクリル変性エポキシ樹脂(A)は、例えば、下記の樹脂(1)、樹脂(2)のいずれの樹脂であってもよい。
【0013】
樹脂(1):ビスフェノール型エポキシ樹脂(a1)(以下、「エポキシ樹脂(a1)」と略称することがある)とカルボキシル基含有アクリル樹脂(a2)(以下、「アクリル樹脂(a2)」と略称することがある)とをエステル付加反応させることにより得られる樹脂。
【0014】
樹脂(1)は、エポキシ樹脂(a1)とアクリル樹脂(a2)とを、例えば、有機溶剤中で、エステル化触媒の存在下にて、加熱することにより容易にエステル付加反応させることにより得ることができる。
【0015】
樹脂(2):エポキシ樹脂(a1)にカルボキシル基含有重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体成分をグラフト重合させることにより得られる樹脂。
【0016】
樹脂(2)は、例えば、有機溶剤中において、ベンゾイルパーオキサイド等のラジカル発生剤の存在下にて、エポキシ樹脂(a1)に重合性不飽和単量体成分をグラフト重合させることにより得ることができる。
【0017】
上記樹脂(1)及び樹脂(2)において使用されるエポキシ樹脂(a1)としては、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、任意選択でアルカリ触媒等の触媒の存在下で高分子量まで重縮合させてなる樹脂、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、任意選択でアルカリ触媒等の触媒の存在下に、縮合させて低分子量のエポキシ樹脂とし、この低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールとを重付加反応させることにより得られた樹脂、及び得られたこれらの樹脂又は上記低分子量エポキシ樹脂に、二塩基酸を反応させてなるエポキシエステル樹脂のいずれであってもよい。
【0018】
上記ビスフェノールとしては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニ
ル)ブタン[ビスフェノールB]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-イソブタン、ビス(4-ヒドロキシ-tert-ブチル-フェニル)-2,2-プロパン、p-(4-ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4-ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4-ヒドロキシフェニル)、4,4´-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2-ヒドロキシナフチル)メタン等を挙げることができ、なかでもビスフェノールA、ビスフェノールFを好適に使用することができる。上記ビスフェノール類は、1種で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0019】
上記エポキシエステル樹脂の製造に用いられる二塩基酸としては、下記式(1)
HOOC-(CH2)n -COOH ・・・式(1)
(式中、nは1~12の整数)で示される化合物を好適に用いることができ、具体的には、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロフタル酸等を例示することができる。
【0020】
エポキシ樹脂(a1)の市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製のjER828(エポキシ当量約190)、jER1007(エポキシ当量約1,700)、jER1009(エポキシ当量約3,500)、jER1010(エポキシ当量約4,500);旭チバ社製のアラルダイトAER6099(エポキシ当量約3,500);及び三井化学(株)製のエポミックR-309(エポキシ当量約3,500)等を挙げることができる。
【0021】
エポキシ樹脂(a1)としては、なかでも数平均分子量が2,000~35,000、好ましくは4,000~30,000であり、エポキシ当量が1,000~12,000好ましくは3,000~10,000の範囲のビスフェノール型エポキシ樹脂を、得られる塗膜の耐食性の観点から好適に使用することができる。
【0022】
なお、本明細書における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した数平均分子量を、標準ポリスチレンの分子量を基準にして換算した値である。
【0023】
具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」「TSKgel G-3000HXL」「TSKgel G-2500HXL」及び「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RIの条件下で測定することができる。
【0024】
前記樹脂(1)においては、エステル付加反応の際に、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基に、アクリル樹脂(a2)中のカルボキシル基がエステル付加反応するので、エポキシ樹脂(a1)中にエポキシ基が必要であり、エポキシ樹脂1分子当りエポキシ基は平均0.5~2個、特に0.5~1.6個の範囲内であることが好ましい。
【0025】
一方、前記樹脂(2)においては、グラフト反応がエポキシ樹脂主鎖の水素引き抜きによって起こり、グラフト重合反応が進行するので、エポキシ樹脂(a1)中にエポキシ基は実質上存在しなくてもよい。
【0026】
前記樹脂(1)において使用されるアクリル樹脂(a2)は、カルボキシル基含有重合性不飽和単量体とその他の重合性不飽和単量体とを単量体成分とする共重合体樹脂である。
【0027】
上記カルボキシル基含有重合性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等の単量体を挙げることができ、これらは単独もしくは2種以上を併用して使用することができる。
【0028】
その他の重合性不飽和単量体は上記カルボキシル基含有重合性不飽和単量体と共重合可能な単量体であればよく求められる性能に応じて適宜選択して使用することができる。
【0029】
具体的には、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族系ビニル単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-,i-又はt-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-,i-又はt-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1~18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数2 ~8のヒドロキシアルキルエステル;N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド等のN-置換アクリルアミド系又はN-置換メタクリルアミド系モノマー等を挙げることができる。上記その他の重合性不飽和単量体は1種で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0030】
上記その他の重合性不飽和単量体としては、特にスチレン及びアクリル酸エチルの混合物が好ましく、スチレン/アクリル酸エチルの構成質量比が99.9/0.1~20/80、特に99/1~40/60の範囲内であることが好ましい。
【0031】
アクリル樹脂(a2)において、単量体の種類及び構成比率は特に制限されるものではないが、通常、カルボキシル基含有重合性不飽和単量体が15~80質量%、特に20~60質量%であることが好ましく、その他の重合性不飽和単量体が85~20質量%、特に80~40質量%であることが好ましい。
【0032】
アクリル樹脂(a2)の合成は、例えば、上記した単量体の混合物を重合開始剤の存在下、有機溶剤中で重合反応することにより容易に行うことができる。アクリル樹脂(a2)は、樹脂酸価が100~400mgKOH/g、数平均分子量が5,000~100,000の範囲内であることが好ましい。
【0033】
上記反応は、公知の方法で行うことができ、例えば、エポキシ樹脂(a1)とアクリル樹脂(a2)との均一な有機溶剤溶液中にエステル化触媒を配合せしめ、実質的にエポキシ基の全てが消費されるまで、通常、60~130℃の反応温度にて約1~6時間反応させることにより行うことができる。上記エステル化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の3級アミン類、トリフェニルフォスフィン等の4級塩化合物等を挙げることができ、なかでも3級アミン類を好適に使用することができる。
【0034】
エポキシ樹脂(a1)とアクリル樹脂(a2)との反応系における固形分濃度は、反応系が反応に支障のない粘度範囲内である限り特に限定されない。また、エステル付加反応させる際にエステル化触媒を使用する場合、その使用量は、エポキシ樹脂(a1)中のエポキシ基1当量に対して通常、0.1~1当量の範囲で使用することが好ましい。
【0035】
アクリル変性エポキシ樹脂が、前記樹脂(2)である場合、エポキシ樹脂(a1)にグラフト重合させるカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを含有する重合性不飽和単量体成分は、前記樹脂(1)におけるカルボキシル基含有アクリル樹脂(a2)の製造に用いられる単量体成分であるカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを挙げることができる。
【0036】
上記樹脂(2)におけるグラフト重合反応は、公知の方法で行うことができ、例えば80~150℃に加熱されたエポキシ樹脂(a1)の有機溶剤溶液中に、ラジカル発生剤と重合性不飽和モノマー成分との均一な混合溶液を徐々に添加し、同温度に1~10時間程度保持することによって行うことができる。上記ラジカル発生剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾイルオクタノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
【0037】
有機溶剤としては、エポキシ樹脂(a1)と、アクリル樹脂(a2)又はカルボキシル基含有重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体成分とを溶解し、且つこれらの反応生成物であるアクリル変性エポキシ樹脂(A)を中和、水性化する際にエマルションの形成に支障を来さない有機溶剤である限り公知のものを使用することができる。
【0038】
上記有機溶媒の具体例としては、例えば、イソプロパノール、ブチルアルコール、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタン、2-エチルヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。
【0039】
上記樹脂(1)又は樹脂(2)であるアクリル変性エポキシ樹脂は、カルボキシル基を有し、樹脂酸価が10~160mgKOH/g、特に20~100mgKOH/gの範囲内であることが分散性、塗膜性能等の観点から好ましい。
【0040】
アクリル変性エポキシ樹脂は、塩基性化合物で樹脂中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和することによって水性媒体中に分散することができる。
【0041】
上記塩基性化合物としては、アミン類、アンモニア等を好適に使用することができる。上記アミン類としては、具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン類;ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルカノールアミン類;モルホリン等の環状アミン類等を挙げることができる。アクリル変性エポキシ樹脂の中和度は、特に限定されるものではなく、樹脂中のカルボキシル基に対して通常0.1~2.0当量の範囲内であることが好ましい。
【0042】
上記水性媒体は、水のみであってもよいが、水と有機溶剤との混合物であってもよい。有機溶剤としては、公知のものを使用することができ、前記アクリル変性エポキシ樹脂の製造の際に使用することができる有機溶剤として挙げたものを好適に使用することができる。本発明組成物における有機溶剤の量は、本発明組成物の樹脂固形分総量に対して、環境保護等の観点から20質量%以下、特に10質量%以下の範囲であることが望ましい。
【0043】
アクリル変性エポキシ樹脂の水性媒体中への分散は、常法により行うことができ、例えば中和剤である塩基性化合物を含有する水性媒体中に、撹拌下にアクリル変性エポキシ樹脂を徐々に添加する方法、アクリル変性エポキシ樹脂を塩基性化合物によって中和した後、撹拌下にて、この中和物に水性媒体を添加する方法又はこの中和物を水性媒体中に添加する方法等を挙げることができる。
【0044】
<ワックス(B)>
ワックス(B)としては、具体的には、天然ワックス若しくは合成ワックス、グリセリド及びロウ、並びにこれらの酸化物及び酸変性物等を挙げることができ、1種で、又は2種以上を併用して使用することができる。
【0045】
天然ワックスとしては、例えば牛脂あるいは豚脂を水素添加した水添硬化油脂、密ロウ、ラノリンワックス、鯨ロウ、水添鯨ロウ、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバワックス、シェラック等の動植物性ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、セリシンワックス等の鉱物性ワックス等を挙げることができる。
【0046】
合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、シリコンワックス等を挙げることができる。
【0047】
ワックス(B)としては、滑性及び耐摩耗性の観点から、ラノリンワックス、オリーブ油、パーム油、あまに油、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等を好適に使用することができる。
【0048】
ワックス(B)の市販品としては、精製ラノリン(ラノリンワックス、商品名、CRODA社製)、CERACOL 609N(ラノリンワックス、商品名、BYK社製)、ラノリンR(ラノリンワックス、商品名、日本精化株式会社製)、アウターLo-1(オリーブ油、商品名、理研ビタミン社製)、精製パーム油(パーム油、商品名、日清製油株製社製)、HI-DISPER 1260(マイクロクリスタリンワックス、商品名、株式会社岐阜セラツク製造所製)、トプコS923(マイクロクリスタリンワックス、商品名、東洋ペトロライト社製)、CERAFLOUR 991(BYK社製、商品名、ポリエチレンワックス、平均粒子径5μm、融点115℃)、HIGH FLAT2352(株式会社岐阜セラツク製造所社製、商品名、酸化ポリエチレンワックス、平均粒子径5μm、融点138℃)、Lanco1370LF(日本ルーブリゾール社製、商品名、ポリプロピレンワックス、平均粒子径9μm、融点150℃)等を挙げることができる。
【0049】
ワックス(B)の量は使用するワックスの種類によっても異なるが、滑性及び耐摩耗性の観点から、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして(アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を100質量%として)、0.3~10質量%、好ましくは0.3~6質量%、さらに好ましくは0.5~1.5質量%の範囲であることが好ましい。
【0050】
本発明組成物は、上記ワックス(B)の中から、融点が50℃未満のワックス(b1)、融点が50℃以上かつ100℃未満のワックス(b2)及び融点が100℃~160℃でかつ平均粒子径が1~15μmのワックス(b3)からなる群より選ばれる少なくとも1種類のワックスを選択して使用する。
【0051】
上記3種類からなる群より選ばれる少なくとも1種のワックスを使用することによって、塗膜の表面粗度を調整でき、動摩擦係数の低減、滑性、耐摩耗性、及び加工性に優れ、製蓋性にも優れた缶体を提供することができる。
【0052】
ワックス(b1)
ワックス(b1)としては、融点が50℃未満のワックスであれば特に限定されるものではなく、動摩擦係数の低減、滑性、耐摩耗性、及び加工性の向上の面から、ラノリンワックス、オリーブ油、パーム油、あまに油、グリセリントリエステル等を好適に使用することができる。
【0053】
なおワックス(b1)の市販品としては、精製ラノリン(ラノリンワックス、商品名、CRODA社製)、アウターLo-1(オリーブ油、商品名、理研ビタミン社製)、精製パーム油(パーム油、商品名、日清製油株製社製)等を挙げることができる。
【0054】
ワックス(b2)
ワックス(b2)としては、融点が50℃以上かつ100℃未満、好ましくは60℃~90℃のワックスであれば特に限定されるものではなく、動摩擦係数の低減、滑性、耐摩耗性及び加工性の面から、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックスを好適に使用することができる。
【0055】
なおワックス(b2)の市販品としては、HI-DISPER 1260(マイクロクリスタリンワックス、商品名、株式会社岐阜セラツク製造所製)、トプコS923(マイクロクリスタリンワックス、商品名、東洋ペトロライト社製)、HD-3028(株式会社岐阜セラツク製造所製、カルナバワックス、融点82℃)、Hi-Mic-1070(日本精鑞社製、マイクロクリスタリンワックス、融点80℃)等を挙げることができる。
【0056】
ワックス(b3)
ワックス(b3)としては、平均粒子径が1~15μm、好ましくは2~11μmで、かつ融点が100℃~160℃、好ましくは融点が120℃~155℃のワックスであれば特に限定されるものではなく、動摩擦係数の低減、滑性、耐摩耗性及び加工性の面から、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスを好適に使用することができる。
【0057】
なおワックス(b3)の市販品としては、例えば、CERAFLOUR 991(BYK社製、商品名、ポリエチレンワックス、平均粒子径5μm、融点115℃)、HIGH FLAT2352(株式会社岐阜セラツク製造所社製、商品名、酸化ポリエチレンワックス、平均粒子径5μm、融点138℃)、Lanco1370LF(日本ルーブリゾール社製、商品名、ポリプロピレンワックス、平均粒子径9μm、融点150℃)等を挙げることができる。
【0058】
本発明においてワックス(B)の融点は、示差走査熱量計(DSC)により、昇温速度10℃/分で測定した吸熱ピーク温度を示す。なおワックスが複数の吸熱ピークを有する場合には、最大吸熱ピークをもって融点とした。また、ワックスの平均粒子径は、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製粒度分析計)を用いてレーザー回折・散乱法により体積平均径を測定した。
【0059】
ワックス(B)がワックス(b1)を含む場合、ワックス(B)における、当該ワックス(b1)の固形分量は、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして、0.1~5質量%、好ましくは0.2~2質量%、さらに好ましくは0.2~1.0質量%の範囲内にあることが、動摩擦係数の低減、滑性、耐摩耗性及び加工性の面から望ましい。ワックス(B)がワックス(b2)を含む場合、ワックス(B)における、当該ワックス(b2)の固形分量は、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして、0.1~5質量%、好ましくは0.2~2質量%、さらに好ましくは0.2~1.0質量%の範囲内にあることが、動摩擦係数の低減、滑性、耐摩耗性及び加工性の面から望ましい。ワックス(B)がワックス(b3)を含む場合、ワックス(B)における、当該ワックス(b3)の固形分量は、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量を基準にして、0.1~5質量%、好ましくは0.2~2質量%、さらに好ましくは0.2~1.0質量%の範囲内にあることが、動摩擦係数の低減、滑性、耐摩耗性及び加工性の面から望ましい。また、ワックス(B)の固形分総量を基準(100質量%)とした、ワックス(b1)、ワックス(b2)及びワックス(b3)の固形分量の合計としては、例えば、85質量%以上が挙げられ、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0060】
<ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)>
ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)は、水性塗料、水性分散体又は水系エマルション等の水系組成物中に分散可能なように加工されたものであればよく、乳化重合によるもの、ポリオレフィンを機械的に水系媒体中に分散させたもの等を使用することができ、1種で、又は2種以上を併用して使用することができる。
【0061】
本発明組成物においては、乳化剤を極力使用しないこと、耐水性等の観点から、ポリオレフィンを機械的に水系媒体中に分散させたものを好適に使用することができる。
【0062】
ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)のポリオレフィンは、得られる塗膜の滑性及び耐摩耗性ならびに加工性の観点から、平均粒子径が0.1~5μmであり、特に0.2~4.0μm 、さらに特に0.3~3.0μmであることが好ましい。
【0063】
本発明組成物において、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)の平均粒子径は、マイクロトラック法により測定された値である。
【0064】
本発明組成物において、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)のポリオレフィンは、針入度が8以下であり、特に4以下、さらに特に1以下であることが、加工性、耐摩耗性の観点から好ましい。
【0065】
なお、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)を構成するポリオレフィンの針入度は、JIS K2207に規格化されており、ポリオレフィンに規定重量の針を温度25℃,荷重100g、貫入時間5秒にて垂直に進入させ、進入した長さを表したものであって、針入度の値は、0.1mmを針入度1と表す。従って針入度が小さいほど硬く、大きいほど柔らかいポリオレフィンである。本発明は、上記範囲の針入度を有するポリオレフィンを用いて得られるポリオレフィン水性ディスパージョンを使用する。
【0066】
ポリオレフィンの種類としては、低密度ポリオレフィン、低分子量ポリオレフィン、エチレン・メタクリル酸共重合物、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩等のアイオノマー等を挙げることができる。
【0067】
上記のうち、水分散性の観点から、低分子量ポリオレフィン、特に低分子量ポリエチレンを好適に使用することができる。
【0068】
ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)としては、市販品を使用することもできる。市販品としては、具体的には、ユニチカ社製のアローベース、三井化学株式会社製のケミパール、株式会社岐阜セラツク製造所製のAB-50等を挙げることができる。
【0069】
ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)の配合量は、所望の滑性、耐摩耗性及び加工性の程度により調整すればよく、2種類以上を併用する事も可能である。ポリオレフィンの固形分総量が、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量に対して、1.0~10.0質量%、特に、2.0~8.0質量%、さらに特に3.0~7.0質量%の範囲であることが、滑性及び摩耗性と加工性の観点から好ましい。
【0070】
フェノール樹脂(D)
フェノール樹脂(D)としては、例えば、フェノール化合物、ビスフェノールA等のフェノール類(d1)とホルムアルデヒド等のアルデヒド類(d2)とを反応触媒の存在下で縮合反応させて、メチロール基を導入してなるレゾール型のフェノール樹脂を挙げることができる。
【0071】
上記フェノール類(d1)としては、o-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール等の2官能性フェノール化合物;石炭酸、m-クレゾール、m-エチルフェノール、3,5-キシレノール、m-メトキシフェノール等の3官能性フェノール化合物;ビスフェノールA、ビスフェノールF等の4官能性フェノール化合物;等のフェノール化合物を1種、又は2種以上を併用して使用することができる。
【0072】
上記アルデヒド類(d2)としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はトリオキサン等が挙げることができ、1種で、又は2種以上を併用して使用することができる。
【0073】
前記メチロール化フェノール樹脂のメチロール基は任意選択でさらにアルキルエーテル化することもできる。アルキルエーテル化に用いられるアルコールとしては、例えば炭素原子数1~6個、特に1~4個の1価アルコールを好適に使用することができる。好適な1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等を挙げることができる。
【0074】
フェノール樹脂(D)は、反応性の観点から、数平均分子量が200~2,000、特に300~1,200の範囲内であり、かつベンゼン核1核当たりのメチロール基の平均数が0.3~3.0個、特に0.5~3.0個の範囲内であるものを好適に使用することができる。
【0075】
フェノール樹脂(D)の量は、アクリル変性エポキシ樹脂(A)の固形分総量に対して、0.5~20質量%、特に1~15質量%、さらに特に2~10質量%の範囲内であることが、加工性の観点から好ましい。
【0076】
<缶用水性塗料組成物>
本発明の缶用水性塗料組成物は、アクリル変性エポキシ樹脂(A)が中和され水性媒体中に分散されている水性塗料組成物であって、その組成物中にワックス(B)、ポリオレフィン水性ディスパージョン(C)及びフェノール樹脂(D)を必須成分として含有し、さらに任意選択で、その他の添加剤、例えば、界面活性剤、消泡剤、顔料、香料等を含有することができる。
【0077】
上記のうち、ポリオレフィン(C成分)の分散安定性及び顔料を含有する場合の塗膜外観安定性の観点から界面活性剤を好適に使用することができる。
【0078】
界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸(及びアミン中和物)等を特に好適に使用することができる。
【0079】
本発明組成物の固形分濃度は、特に限定されるものではないが、20~45質量%、好ましくは22~40質量%の範囲内であることが塗料安定性の観点から好ましい。
【0080】
本発明組成物は、種々の基材に適用することができ、例えば、ブリキ、アルミニウム、ティンフリースチール、鉄、亜鉛、銅、亜鉛メッキ鋼板、合金メッキ鋼板等の金属、これらの金属にリン酸塩処理、クロメート処理等の表面処理を施した化成処理金属板、及びこれらの金属板にエポキシ樹脂系、ビニル樹脂系等のプライマーを塗装した金属板、並びにこれらの金属板を缶等に加工した基材等を挙げることができる。
【0081】
本発明組成物は、缶内外面、特に、厳しい製蓋性が要求される缶蓋用として、特に好適に使用することができる。
【0082】
本発明組成物の塗装は、公知の方法、例えば、ロールコータ塗装、スプレー塗装等の塗装方法によって、乾燥膜厚で1~20μm、好ましくは2~10μmとなるように塗装し、素材到達温度120~300℃、好ましくは200~280℃の温度を、約10秒~30分間、好ましくは約15秒~約15分間キープして、加熱乾燥することにより行うことができる。
【実施例0083】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとする。
【0084】
アクリル変性エポキシ樹脂(A)の製造
製造例1 エポキシ樹脂No.1溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、jER828(注1) 558部、ビスフェノールA 329部、テトラブチルアンモニウムブロマイド 0.6部を仕込み、窒素気流下で160℃にて反応を行った。反応はエポキシ当量で追跡し、約5時間反応することにより、エポキシ樹脂No.1溶液を得た。得られたエポキシ樹脂No.1は、数平均分子量約8,000であった。
(注1)jER828:三菱化学社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量約190 数平均分子量 約380
製造例2 エポキシ樹脂No.2溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、jER828(注1)550部、ビスフェノールA 450部を入れ、攪拌しながら、窒素気流下で昇温した。ビスフェノールAが溶解し、混合物が透明になった時点(100℃付近)でトリ-n-ブチルアミン5.0部を仕込み、窒素気流下で160℃にて反応を行った。
【0085】
反応はエポキシ当量で追跡し、約4時間反応することにより、エポキシ樹脂No.2溶液を得た。得られたエポキシ樹脂No.2は、数平均分子量約4,500であった。
【0086】
製造例3 アクリル樹脂溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、n-ブタノール 882部を仕込み、「メタクリル酸 180部、スチレン240部 、アクリル酸エチル180部 、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート 18部」の混合物を窒素気流下で100℃に加熱し、滴下ロートから約3時間を要して滴下し、滴下後さらに同温度にて2時間撹拌を続け、次いで冷却して固形分40%のアクリル樹脂溶液を得た。得られたアクリル樹脂は、数平均分子量約19,000、酸価196mgKOH/gを有していた。
【0087】
製造例4 アクリル変性エポキシ樹脂No.1水分散体の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、製造例1で得たエポキシ樹脂No.1溶液を80部 (固形分)、製造例3で得たアクリル樹脂溶液を20部 (固形分)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル 33部を加えて100℃に加熱して溶解させた後、N,N-ジメチルアミノエタノール 2部を加えて約2時間反応を行った後、N,N-ジメチルアミノエタノール3部を加えて20分反応を継続した。その後、脱イオン水165部を1時間かけて滴下し、酸価34mgKOH/g、固形分30%のアクリル変性エポキシ樹脂No.1水分散体を得た。
【0088】
製造例5 アクリル変性エポキシ樹脂No.2水分散体の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、エチレングリコールモノブチルエーテル25部、製造例2で得たエポキシ樹脂No.2溶液を80部(固形分)入れ、攪拌しながら、窒素気流下で120℃まで昇温した。
【0089】
エポキシ樹脂No.2溶液が完全に溶解した後、「スチレン4部、メタクリル酸メチル4部、アクリル酸n-ブチル6部、メタクリル酸6部、過酸化ベンゾイル1部」の混合溶液を、120℃で1時間掛けて滴下し、滴下終了後、120℃で1時間保持した。その後、90℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミン6.2部添加し、15分混合攪拌した。さらに、攪拌しながら、脱イオン水201部を1時間かけて滴下し、酸価44mgKOH/g、固形分30%のアクリル変性エポキシ樹脂No.2水分散体を得た。
【0090】
フェノール樹脂(D)の製造
製造例6 フェノール樹脂No.1溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、フェノール188部、37%ホルムアルデヒド水溶液324部を仕込み、50℃に加熱し内容物を均一に溶解した。次に、酢酸亜鉛を添加、混合して系内のpHを5.0に調整した後、90℃に加熱し5時間反応を行った。ついで50℃に冷却し、32%水酸化カルシウム水分散液をゆっくり添加し、pHを8.5に調整した後、50℃で4時間反応を行った。
【0091】
反応終了後、20%塩酸でpHを4.5に調整した後、キシレン/n-ブタノール/シクロヘキサン=1/2/1(質量比)の混合溶剤で樹脂分の抽出を行い、触媒、中和塩を除去し、ついで減圧下で共沸脱水し、固形分50%のフェノール樹脂No.1溶液を得た。フェノール樹脂溶液No.1の樹脂固形分は、数平均分子量は350、ベンゼン核1核当たりの平均メチロール基数は1.3であった。
【0092】
製造例7 フェノール樹脂No.2溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却管及び窒素導入口を備えたガラス製4つ口フラスコに、m-クレゾール108部、37%ホルムアルデヒド水溶液216部及び25%水酸化ナトリウム水溶液160部を仕込み、窒素気流下で50℃にて反応させた後、100℃まで昇温しさらに1時間反応させ、塩酸で中和後、キシレン/n-ブタノール=1/1(質量比)の混合溶剤で樹脂分の抽出を行い、触媒、中和塩を除去し、ついで減圧下で共沸脱水し、固形分50%のフェノール樹脂No.2溶液を得た。フェノール樹脂No.2溶液の樹脂固形分は、数平均分子量は350、ベンゼン核1核当たりの平均メチロール基数は0.7であった。
【0093】
缶用水性塗料組成物の製造
実施例1
容器中で、製造例4で得たアクリル変性エポキシ樹脂No.1水分散体 100部(固形分)、精製パーム油(注2)0.3部、AB-50(注9)1部、製造例6で得たフェノール樹脂No.1溶液 3部(固形分)を均一に混合し、脱イオン水で調整して固形分30質量%の缶用水性塗料組成物No.1を得た。
【0094】
実施例2~84及び比較例1~65
表1の配合内容とする以外は、実施例1と同様にして、缶用水性塗料組成物No.2~No.149を得た。併せて、下記の試験方法に従って試験した結果を示す。表1の組成比は固形分質量比である。
【0095】
なお、缶用水性塗料組成物No.85~149は比較例用である。
【0096】
また、表中の各注は以下のとおりである。
(注2)精製パーム油:日清製油株製、パーム油、融点39℃
(注3)精製ラノリン:CRODA社製、ラノリンワックス、融点39℃
(注4)HD-3028:株式会社岐阜セラツク製造所製、カルナバワックス、融点82℃
(注5)Hi-Mic-1070:日本精鑞社製、マイクロクリスタリンワックス、融点80℃
(注6)Lanco1370LF:日本ルーブリゾール社製、ポリプロピレンワックス、融点150℃、平均粒子径9μm
(注7)CERAFLOUR 991:BYK社製、ポリエチレンワックス、融点115℃、平均粒子径5μm
(注8)CERAFLOUR 913:BYK社製、商品名、ポリプロピレンワックス、融点160℃、平均粒子径18μm
(注9)AB-50:株式会社岐阜セラツク製造所製、平均粒子径1μm、針入度1~2
(注10)A-375:株式会社岐阜セラツク製造所製、平均粒子径2μm、針入度1~2
(注11)A-110:株式会社岐阜セラツク製造所製、平均粒子径5μm、針入度1未満
(注12)ケミパールW300:三井化学株式会社製、平均粒子径3μm、針入度1未満
(注13)ケミパールW500:三井化学株式会社製、平均粒子径2.5μm、針入度10
(注14)ケミパールF640:三井化学株式会社製、平均粒子径1μm、針入度10
なお、(注9)~(注14)はポリオレフィンディスパージョンである。
(注15)ネイキュア5225:米国、キング インダストリイズ社製、商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和溶液
(注16)ネイキュア2500:米国、キング インダストリイズ社製、商品名、p-トルエンスルホン酸のアミン中和溶液
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
試験板の作成
厚さ0.26mmのアルミニウム板に上記実施例及び比較例で得た各缶用水性塗料組成物No.1~149につき、乾燥塗膜重量が40mg/100cm
2となるようにバーコータにて塗装し、乾燥機にて素材到達最高温度が270℃となるよう雰囲気温度315℃、風速30m/分の条件で17秒間焼付けて対応する各試験板を得た。
【0097】
得られた各試験板について下記評価項目について試験を行い、評価を行った。評価結果を併せて表1に示す。
【0098】
塗膜外観:各試験板について、目視にて外観を評価した。外観は塗膜表面の平滑性、ブツ、ハジキについて下記の基準に従って評価した:
◎:塗面が平滑で直径1mm以上のブツ及びハジキが認められない
○:ごくわずかな直径1mm以上のブツ及び/又はハジキ、ごくわずかなユズハダが認められる
△:直径1mm以上のブツ及び/又はハジキが認められる
×:直径1mm以上のブツ及び/又はハジキが顕著に認められる
加工性:試験板を圧延方向に5cm、垂直方向に4cm切断した後、下部を短辺と平行に2つ折りにした。20℃の室内にて、この試験片の折曲げ部の間に、厚さ0.26mmのアルミニウム板を2枚挟み、特殊ハゼ折り型デュポン衝撃試験器にセットした。50cmの高さから接触面が平らな重さ1kgの鉄のおもりを落下させて、前記折曲げ部に衝撃を与えた後、折曲げ先端部に印加電圧6.5Vで6秒間通電し、前記折曲げ先端部の20mm幅の電流値(mA)を測定し、下記の基準で評価した:
◎は、10mA未満である
○は、10mA以上で、かつ20mA未満
△は、20mA以上で、かつ40mA未満
×は、40mA以上である
動摩擦係数:15cm×30cmの大きさに調整した試験板に、鋼球3点より支持された1kgの質量を載せて、150cm/分の速度で引っ張り、動摩擦係数(μ値)を求めた。動摩擦係数(μ値)が小さいほど、滑性は良好である:
◎は、μ値が0.06未満
○は、μ値が0.06以上で、かつ0.1未満
△は、μ値が0.1以上で、かつ0.15未満
×は、μ値が0.15以上
耐傷付き性:10cm×20cmの大きさに調整した試験板に対して、トライボギア(新東科学株式会社製、商品名、HEIDON-22H、試験針150μm、引っ掻きスピード60mm/min)を使用し、試験針がアルミニウム板に到達した荷重で、耐傷付き性を評価した:
◎は、試験針がアルミ板に到達した荷重が300g以上
○は、試験針がアルミ板に到達した荷重が200g以上で、かつ300g 未満
△は、試験針がアルミ板に到達した荷重が150g以上で、かつ200g 未満
×は、試験針がアルミ板に到達した荷重が150g未満
耐摩耗性:1.5cm×16cmの大きさに調整した試験板に対して、バウデン磨耗試験機(神鋼造機社製、曽田式付着滑り試験機、摩擦部ボール圧子3/16インチ鋼球、荷重4kgf、摩擦速度7往復/分)にて摩擦試験を行い、塗膜にキズが発生するまでの摩擦回数を測定して、下記の基準によって評価した。
◎は、摩擦回数が50回で、塗膜にキズがみられない
○は、摩擦回数が30回以上、かつ49回以下で塗膜にキズが発生
△は、摩擦回数が10回以上、かつ29回以下で塗膜にキズが発生
×は、摩擦回数が9回以下で塗膜にキズが発生