(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075047
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】デスモグレイン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20230523BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 31/727 20060101ALI20230523BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20230523BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20230523BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20230523BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20230523BHJP
A61K 31/164 20060101ALI20230523BHJP
A61K 31/135 20060101ALI20230523BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20230523BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230523BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230523BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q19/00
A61K31/727
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A61K31/4166
A61K31/355
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A61K35/50
A61K31/164
A61K31/135
A61K31/704
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179565
(22)【出願日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021187616
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井野口 友紀
(72)【発明者】
【氏名】大塚 彩加
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
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(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、皮膚におけるデスモグレインの発現を高めることで、表皮の強固な構造を保ち、滑らかで正常な皮膚表面を維持するための素材を提供することを目的とする。
【解決手段】
ヘパリン類似物質がデスモソーム構成因子のデスモグレインの産生を促進し、細胞同士の結びつきを強めることで表皮構造を強固に保持し、外的な刺激等に対して正常な表皮構造を維持できることを見出した。また、ヘパリン類似物質、アラントイン、及びトコフェロール酢酸エステルを組み合わせると、ヘパリン類似物質単独と比べてデスモグレインの産生促進作用が顕著に増加することを見出した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン類似物質を有効成分として含む、表皮又は角層の構造維持剤。
【請求項2】
ヘパリン類似物質、アラントイン、及び、トコフェロール酢酸エステル及び/又はその誘導体を有効成分として含む、表皮又は角層の構造維持剤。
【請求項3】
ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、及びプラセンタを有効成分として含む、表皮又は角層の構造維持剤。
【請求項4】
さらに、パンテノール、ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン塩、グリチルリチン酸、及びグリチルリチン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効成分を含む、請求項1に記載の表皮又は角層の構造維持剤。
【請求項5】
ヘパリン類似物質を有効成分として含む、デスモグレイン産生促進剤。
【請求項6】
ヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール酢酸エステルを有効成分として含む、デスモグレイン産生促進剤。
【請求項7】
ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、及びプラセンタを有効成分として含む、デスモグレイン産生促進剤。
【請求項8】
さらに、パンテノール、ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン塩、グリチルリチン酸、及びグリチルリチン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効成分を含む、請求項5に記載のデスモグレイン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デスモグレイン産生促進剤、又は、表皮又は角層の構造維持剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は外側から、表皮、真皮及び脂肪層で構成され、最外郭の表皮が体表面を被っている。表皮は、基底層(基底細胞層)、有棘層(有棘細胞層)、顆粒層(顆粒細胞層)及び角層(角質細胞層)の4層から成り、基底層で分裂した角化細胞が上層に向かって分化することで構成される。
【0003】
表皮の最も外側に位置する角層は、角質細胞とその間を埋める細胞間脂質から構成される。細胞間はセラミドを中心とする細胞間脂質で満たされ、角質細胞は細胞間接着構造で物理的に結びつく。細胞同士を接着させ、表皮の強度を保つために最も重要な役割を果たしているのが接着構造のデスモソームである。デスモソームは、細胞質側の構造と、細胞膜貫通型の分子から構成される。この細胞膜貫通分子のうち、デスモグレインが細胞相互の接着に特に重要な役割を果たしている。デスモグレインの重要性は、天疱瘡における自己抗体の対応抗原であることからも明らかである(非特許文献1)。天疱瘡では、自己抗体がデスモグレインに結合することで、その接着機能が阻害され、表皮細胞間の接着が障害される結果、病態が誘導される(非特許文献2)。この様に、デスモグレインを介した表皮細胞間の接着は、表皮の構造維持に重要な役割を果たす。
【0004】
皮膚は防御的役割を担い、最外郭の表皮は種々の外的な刺激にさらされる(非特許文献3)。皮膚がさらされる代表的な化学物質に界面活性剤や有機溶剤があり、特に、陰イオン性界面活性剤の1つであるラウリル硫酸ナトリウム(以下、SLSとも言う)や有機溶媒として広く用いられるアセトン等の刺激によって皮膚のデスモグレインが低下し、角層を含む表皮の構造が乱れる。
【0005】
従来技術では、デスモソームの分解に関して、デスモグレインの発現を抑制する素材が見出されてきた(特許文献1~2)。デスモソームの分解は、角層の剥離過程に必須であるものの、デスモグレインの発現を抑制することで、正常な皮膚構造が乱れる(非特許文献4)。また、酵素によるデスモソームの分解過程が角層剥離に重要であるが、剥離過程は角層中の水分に影響される。冬季の乾燥により角層中の水分が減少し、デスモソームの正常な分解が妨げられ、落屑が生じる可能性が示されている(非特許文献5)。
【0006】
ヘパリン類似物質は、保湿作用、抗炎症作用、血行促進作用を示し、皮膚用薬として広く用いられている。ヘパリン類物質は吸水能・保水能を有するため、角層剥離をスムーズに行う素材と考えられている。しかし、表皮又は角層の接着構造の重要な構成因子であるデスモグレインの発現に及ぼす影響は明らかになっていない。
【0007】
特許文献3には、デスモグレイン発現促進物質が開示されているが、ヘパリン類似物質の作用は示されていない。さらに、化粧品、医薬部外品、医薬品等に用いることが可能なデスモグレイン産生促進に関する技術が十分に提供されているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-91649号公報
【特許文献2】特開2021-91650号公報
【特許文献3】特開2001-288113号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】朴紀央、椛島健治、美肌科学の最前線、第1刷、株式会社シーエムシー出版、17-24、(2014)
【非特許文献2】天谷雅行 他、日皮会誌、120(7)、1443-1460、(2010)
【非特許文献3】三橋善比古、“図解皮膚科学テキスト”、第1版、中外医学社、2-5、(2003)
【非特許文献4】Spiro Getsios et al.、J. Cell Biol.、185(7):1243-58、(2009)
【非特許文献5】小山純一 他、J. Soc. Cosmet. Chem.、 33(1)、 16-26、(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するものである。すなわち、正常な表皮構造又は角層構造を維持する素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、ヘパリン類似物質がデスモソーム構成因子のデスモグレインの産生を促進することを発見した。また、ヘパリン類似物質のデスモグレイン産生促進作用に起因して、細胞同士の結びつきを強め、表皮又は角層構造を強固に保持し、化学物質等の外的な刺激に対して正常な表皮又は角層構造を維持できることを見出した。
また、本発明によりヘパリン類似物質、アラントイン、及びトコフェロール及び/又はその塩の組み合わせ、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩及びプラセンタの組み合わせ、ヘパリン類似物質及びパンテノールの組み合わせ、ヘパリン類似物質及びジフェンヒドラミン及び/又はその塩の組み合わせ、ヘパリン類似物質及びグリチルリチン酸及び/又はその塩の組み合わせにより、ヘパリン類似物質単独と比べてデスモグレインの産生促進作用が顕著に増加することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)ヘパリン類似物質を有効成分として含む、表皮又は角層の構造維持剤、
(2)ヘパリン類似物質、アラントイン、及び、トコフェロール酢酸エステル及び/又はその誘導体を有効成分として含む、表皮又は角層の構造維持剤、
(3)ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、及びプラセンタを有効成分として含む、表皮又は角層の構造維持剤、
(4)さらに、パンテノール、ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン塩、グリチルリチン酸、及びグリチルリチン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効成分を含む、(1)に記載の表皮又は角層の構造維持剤、
(5)ヘパリン類似物質を有効成分として含む、デスモグレイン産生促進剤、
(6)ヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール酢酸エステルを有効成分として含む、デスモグレイン産生促進剤、
(7)ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、及びプラセンタを有効成分として含む、デスモグレイン産生促進剤、
(8)さらに、パンテノール、ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン塩、グリチルリチン酸、及びグリチルリチン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効成分を含む、(5)に記載のデスモグレイン産生促進剤、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、デスモグレイン産生促進剤を提供することができる。また、表皮又は角層の構造維持剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ヘパリン類似物質がデスモグレイン1の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【
図2】
図2は、ヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール酢酸エステルがデスモグレイン1の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【
図3】
図3は、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及びプラセンタがデスモグレイン1の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【
図4】
図4は、ヘパリン類似物質及びパンテノールがデスモグレイン1の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【
図5】
図5は、ヘパリン類似物質及びジフェンヒドラミン塩酸塩、ヘパリン類似物質及びグリチルリチン酸二カリウムがデスモグレイン1の遺伝子発現に与える影響を示したグラフである。
【
図6】
図6は、SLS処置を行った表皮の組織学的構造を示したHE染色像である。
【
図7】
図7は、ヘパリン類似物質が、SLS処置した表皮の組織学的構造に与える影響を示したHE染色像である。
【
図8】
図8は、ヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール酢酸エステルがSLS処置した表皮の組織学的構造に与える影響を示したHE染色像である。
【
図9】
図9は、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及びプラセンタがSLS処置した表皮の組織学的構造に与える影響を示したHE染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明におけるヘパリン類似物質は、酸性ムコ多糖類の一種である。ヘパリン類似物質の市販品としては、日本理化学薬品株式会社製の「ヘパリン類似物質」、アピ株式会社製の「ヘパリン類似物質」、LABORATORI DERIVATI ORGANICI社製の「ヘパリン類似物質」等が挙げられる。
【0016】
本発明におけるアラントインは、尿酸が酸化されることで生成されるプリン代謝の最終産物である。アラントインの市販品としては、日本理化学薬品株式会社製の「アラントイン」、株式会社パーマケム・アジア製の「アラントイン」、北大貿易株式会社製の「アラントイン」等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるトコフェロールはビタミンEとして知られ、抗酸化作用を持つ脂溶性ビタミンである。トコフェロール誘導体としては、薬学的に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、酢酸エステル、コハク酸エステル、ニコチン酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、トコフェロール酢酸エステルが好ましい。トコフェロール酢酸エステルの市販品としては、三菱ケミカル株式会社製の「トコフェロール酢酸エステル」、理研ビタミン株式会社製の「トコフェロール酢酸エステル」、BASFジャパン株式会社製の「トコフェロール酢酸エステル」等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるトラネキサム酸は、アミノ酸骨格を持ち、抗プラスミン活性を示す化合物である。本発明の外用組成物中におけるトラネキサム酸は、その塩として使用してもよい。その塩は、外用剤として、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。トラネキサム酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;亜鉛塩;鉄塩;アンモニウム塩;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸との塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミンとの塩などが挙げられる。トラネキサム酸の塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。トラネキサム酸の市販品としては、丸善製薬株式会社製の「日本薬局方トラネキサム酸」、日本精化株式会社製の「トラネキサム酸」等が挙げられる。
【0019】
本発明におけるプラセンタは、ウマもしくはブタ由来の胎盤であり、通常エキスの形で使用される。好ましくはブタ由来の胎盤であるが、特に制限されるものではない。プラセンタの市販品としては、一丸ファルコス株式会社製の「ビオファルコPQ-1」、「ビオファルコPQ-1(PF)」、「ファルコニックスPC-1」、「ファルコニックスPC-1(PF)」、BIODELL BIOCHEMICAL S.A.製の「ビオカタライザープラセンタAPF(SW)(M-PE-APF)」等が挙げられる。
【0020】
本発明におけるジフェンヒドラミンは2-ジフェニルメトキシ-N,N-ジメチルエチルアミンで表される化合物である。ジフェンヒドラミンの塩としては、薬学的に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。これらの中でも、塩酸塩の形態(塩酸ジフェンヒドラミン,ジフェンヒドラミン塩酸塩)が好ましい。ジフェンヒドラミン塩酸塩の市販品としては、金剛化学株式会社製の「ジフェンヒドラミン塩酸塩」等が挙げられる。
【0021】
本発明におけるグリチルリチン酸は、甘草から得られる抽出物の主成分であり、グリチルリチン酸塩はグリチルリチン酸と塩基からなる塩化合物である。好ましくはグリチルリチン酸ジカリウム(C42H60K2O16)であるが、特に制限されるものではない。グリチルリチン酸塩の市販品としては、丸善製薬株式会社製の「グリチルリチン酸ジカリウム」等が挙げられる。
【0022】
表皮の構造とは、表皮角化細胞によって形成される、角層を含む4層の表皮構造のことである。
表皮の構造維持とは、上記の角層を含む表皮構造が、正しく4層に形成された後に、外的な刺激等に対して、細胞同士の強い結びつきにより正常な表皮構造を維持できることである。
デスモソームとは、角層を含む表皮の細胞接着構造である。細胞質側の構造と、細胞膜貫通型の分子から構成される。細胞同士を接着させ、表皮の強度を保つために最も重要な役割を果たしている。
デスモグレインとは、デスモソームを構成する細胞膜貫通タンパク質の一つである。デスモソームを構築する細胞膜貫通分子のうち、デスモグレインが細胞相互の接着に特に重要な役割を果たしている。
【0023】
本発明におけるデスモグレイン産生促進とは、デスモグレイン1のmRNAまたはタンパク質の発現亢進のことである。
【0024】
本発明のデスモグレイン産生促進剤、又は、表皮又は角層の構造維持剤の投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられ、好ましくは皮膚に適用する外用である。本発明を外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。
【0025】
これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0026】
本発明のデスモグレイン産生促進剤、表皮又は角層の構造維持剤は、例えば、関連する症状や疾患の研究のため、あるいは、デスモグレイン1を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。
【0027】
本発明では、ヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール及び/又はその誘導体を組み合わせること、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、及びプラセンタを組み合わせること、ヘパリン類似物質及びパンテノールを組み合わせること、ヘパリン類似物質及びジフェンヒドラミン及び/又はその塩を組み合わせること、ヘパリン類似物質及びグリチルリチン酸及び/又はその塩を組み合わせることにより、表皮又は角層におけるデスモグレインの発現が顕著に促進する。したがって、本発明のヘパリン類似物質、アラントイン、及びトコフェロール及び/又はその誘導体の組み合わせ、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、及びプラセンタの組み合わせ、ヘパリン類似物質及びパンテノールの組み合わせ、ヘパリン類似物質及びジフェンヒドラミン及び/又はその塩の組み合わせ、ヘパリン類似物質及びグリチルリチン酸及び/又はその塩の組み合わせを用いることにより、表皮又は角層の構造維持に効果的に寄与する。あるいは、デスモグレイン1を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。
【0028】
また、皮膚のデスモグレインはラウリル硫酸ナトリウムやアセトン等の刺激によって特に低下するため、これらを含む洗浄剤や除光液などの使用時における表皮又は角層の構造の乱れに有効である。
【0029】
本発明のヘパリン類似物質が、デスモグレイン産生促進剤であることや、表皮又は角層の構造維持剤であることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0030】
また、本発明のヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール及び/又はその誘導体の組み合わせが、デスモグレイン産生促進剤であることや、表皮又は角層の構造維持剤であることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0031】
また、本発明のヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、及びプラセンタの組み合わせが、デスモグレイン産生促進剤であることや、表皮又は角層の構造維持剤であることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0032】
また、本発明のヘパリン類似物質及びパンテノールの組み合わせが、デスモグレイン産生促進剤であることや、表皮又は角層の構造維持剤であることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0033】
また、本発明のヘパリン類似物質及びジフェンヒドラミン及び/又はその塩の組み合わせが、デスモグレイン産生促進剤であることや、表皮又は角層の構造維持剤であることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0034】
また、本発明のヘパリン類似物質及びグリチルリチン酸及び/又はその塩の組み合わせが、デスモグレイン産生促進剤であることや、表皮又は角層の構造維持剤であることは、製品名、製品の本体、容器又は包装への表示、あるいは商品に関するポスターやテレビCM、店頭POP、説明会などでの説明などにより判断することができる。
【0035】
本発明における上記有効成分の配合量は特に制限されるものではないが、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、配合比率は、組成物全体に対してヘパリン類似物質は0.01~1.0質量%、アラントインは0.01~5.0質量%、トコフェロール及び/又はその塩は0.001~1.0質量%、トラネキサム酸及び/又はその塩は0.01~5.0質量%、プラセンタは0.01~5.0質量%、パンテノールは0.01~5.0質量%、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩は0.000001~5.0質量%、グリチルリチン酸及び/又はその塩は0.01~5.0質量%である。好ましくは、ヘパリン類似物質、アラントイン、トコフェロール及び/又はその塩の質量比が1:0.05:0.2~1:5:20であり、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、プラセンタの質量比が1:1:0.1~1:100:10であり、ヘパリン類似物質、パンテノールの質量比が1:0.3~1:30であり、ヘパリン類似物質、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の質量比が1:0.000001~1:500であり、ヘパリン類似物質、グリチルリチン酸及び/又はその塩の質量比が1:0.01~1:50である。より好ましくは、ヘパリン類似物質、アラントイン、トコフェロール及び/又はその塩の質量比が3:2:5であり、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及び/又はその塩、プラセンタの質量比が1:10:1であり、ヘパリン類似物質、パンテノールの質量比が3:10であり、ヘパリン類似物質、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の質量比が3:0.00001であり、ヘパリン類似物質、グリチルリチン酸及び/又はその塩の質量比が3:0.5である。
【0036】
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。本発明を実施するための形態を以下に示し説明する。
【実施例0037】
(試験例1)ヒト表皮角化細胞を用いた遺伝子発現の評価
【0038】
<試験方法>
ヒト表皮角化細胞(倉敷紡績(株)、凍結NHEK(NB)正常ヒト表皮角化細胞)を12穴プレートに播種(1×10
4cells/cm
2)し、37℃、5% CO
2に設定されたインキュベーター内で1日間培養した。培地はHumedia-KG2(倉敷紡績(株))を用いた。試験物質0.000001~1.0%(
図1のヘパリン類似物質は0.01%~0.1%、
図2のヘパリン類似物質は0.3%、アラントインは0.2%、トコフェロール酢酸エステルは0.5%、
図3のヘパリン類似物質は0.1%、トラネキサム酸は1.0%、プラセンタは0.1%、
図4のヘパリン類似物質は0.3%、パンテノールは1.0%、
図5のヘパリン類似物質は0.3%、ジフェンヒドラミン塩酸塩は0.000001%、グリチルリチン酸二カリウムは0.05%で実施)を含むように調製した培地に交換し、インキュベーター内で1日培養した。Lysis bufferを規定量添加し細胞を溶解した後、RNeasy Mini Kit(キアゲン)のプロトコール「遠心法を用いた動物細胞からのトータルRNA精製」(RNeasy Miniプロトコールとトラブルシューティング04/2006、キアゲン)に従い、RNAを抽出した。PrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ(株))を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。得られたcDNAから、リアルタイムPCRシステム(Step One Plus、サーモフィッシャーサイエンティフィック)によりデスモグレイン1のmRNA発現量をSYBR Green法により測定した。内部標準遺伝子(RPLP0)のmRNA発現量で補正した相対値とし、試験物質を添加しないコントロールに対する比として示した。プライマーは、次の型番のものを用いた(いずれの因子もタカラバイオ(株))。
RPLP0:(型番)HA234224
DSG1:(型番)HA277012
【0039】
(試験例2)3次元培養ヒト表皮角化細胞を用いた表皮構造の組織学的評価
【0040】
<試験方法>
エピ・キット((株)J-TEC、ラボサイト エピ・キット)のプロトコールに従い、正常ヒト表皮角化細胞をカルチャーインサートに播種し、翌日より気層・液層の界面培養(気層培養)を行った。培地はアッセイ培地((株)J-TEC)を用いた。気層培養開始時に試験物質を含む培地試験物質0.01~1.0%(
図7のヘパリン類似物質は0.3%、
図8のヘパリン類似物質は0.3%、アラントインは0.2%、トコフェロール酢酸エステルは0.5%、
図9のヘパリン類似物質は0.05%、トラネキサム酸は0.5%、プラセンタは0.05%で実施)を含むように調製した培地に交換し、インキュベーター内で14日間培養した。界面活性剤(0.25%SLS)による処置は、気層培養6日後に、カルチャーインサート上部に0.25%SLS水溶液を添加することで行った。各カルチャーインサートをPBSにて洗浄後、培養を継続した。気層培養14日後に、液体窒素を用いて、凍結切片を作成し、HE染色を行うことで、表皮構造を観察した。HE染色は、薄切した切片をヘマトキシリン、エオシンで染色し、99.5%エタノールで洗浄後、レモゾールで透徹させた。切片をマリノールとカバーガラスで封入した。オールインワン蛍光顕微鏡で切片の写真を撮影した。
【0041】
<試験結果1>
図1~
図5にデスモグレイン1遺伝子発現量の相対比を示す。ヘパリン類似物質はデスモグレイン1遺伝子発現を上昇させた(
図1)。ヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール酢酸エステルは、デスモグレイン1遺伝子発現を上昇させた(
図2)。ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及びプラセンタは、デスモグレイン1遺伝子発現を上昇させた(
図3)。ヘパリン類似物質及びパンテノールは、デスモグレイン1遺伝子発現を上昇させた(
図4)。ヘパリン類似物質及びジフェンヒドラミン塩酸塩、ヘパリン類似物質及びグリチルリチン酸二カリウムは、デスモグレイン1遺伝子発現を上昇させた(
図5)。ヘパリン類似物質単味の上昇値と比較し、各成分を組み合わせることで、顕著な増加が確認された。なお、各成分単味のデスモグレイン1遺伝子発現の相対比は、アラントインは0.87、トコフェロール酢酸エステルは0.96、トラネキサム酸は1.20、プラセンタは0.88、パンテノールは1.33であった。
【0042】
<試験結果2>
図6~
図9にHE染色による表皮の組織学的構造を示す。SLS処置により、角層を含む表皮構造が乱れるが(
図6)、ヘパリン類似物質は構造の乱れを抑制した(
図7)。また、ヘパリン類似物質、アラントイン及びトコフェロール酢酸エステル(
図8)、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸及びプラセンタ(
図9)は、より顕著に角層を含む表皮構造の乱れを抑制した。
本発明のデスモグレイン産生促進剤は、細胞同士の結びつきを高めることで表皮又は角層の構造を保ち化学物質等の外的刺激からの構造維持に有用な作用を有し、化粧品、医薬部外品、医薬品又は飲食品の分野に利用可能である。特に、手指の頻回の洗浄や消毒による界面活性剤や有機溶剤との接触シーンは増大しており、食器等の洗浄や爪の装飾等の作業時の化学物質への接触、それに伴う表皮又は角層の構造の乱れに有効である。