(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075055
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】電気コンタクト要素を表面処理するための方法およびコンタクト要素
(51)【国際特許分類】
H01R 43/16 20060101AFI20230523BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
H01R43/16
H01R13/03 Z
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022182311
(22)【出願日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】10 2021 130 188.2
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】501090342
【氏名又は名称】ティーイー コネクティビティ ジャーマニー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンク
【氏名又は名称原語表記】TE Connectivity Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス グライナー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン トス
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ライドナー
(72)【発明者】
【氏名】フランク オステンドルフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルゲ シュミット
(72)【発明者】
【氏名】エシュテバン ザンチェツ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヨブ
【テーマコード(参考)】
5E063
【Fターム(参考)】
5E063GA07
5E063XA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】相手側コネクタに嵌合するときの初期嵌合力を低下させることができ、悪環境条件下でも表面処理がその効果を失うことがないように、電気コネクタのコンタクト面を処理する、費用効率が高く確実なプロセスを提供する。
【解決手段】電気コネクタ300の導電性コンタクト要素100をプラズマによって表面処理するための方法であって、潤滑剤106が、コンタクト面102の少なくとも部分領域に塗布され、さらに、導電性コンタクト要素のコンタクト面は、プラズマ処理によって変化し、それにより、固体潤滑剤の被膜が、導電性コンタクト要素のコンタクト面の少なくとも部分領域に、少なくとも部分的に形成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気コネクタ(300、400)の導電性コンタクト要素(100、200)を表面処理するための方法であって、
前記導電性コンタクト要素(100、200)は、金属コンタクト面(102、202)を含み、
潤滑剤(106、206)が、前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)の少なくとも部分領域に塗布され、
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)は、プラズマ処理によって変化し、それにより、固体潤滑剤の被膜(120)が、前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)の少なくとも部分領域に、少なくとも部分的に形成される、方法。
【請求項2】
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)は、隆起(124、224)および凹部(122、222)の表面テクスチャを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマは1mbar~8barの圧力範囲で励起される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマの電力が50W~5kWの範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
補助材料(210)が充填された空洞(208)が、前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)の下に封入される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記補助材料(210)は、酸化防止剤、腐食抑制剤、潤滑剤、別の固体潤滑剤、および酸からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記プラズマ処理は、連続プロセスの一部である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理は、プラズマフレーム(116)の照射を含み、
前記プラズマフレーム(116)における前記導電性コンタクト要素(100、200)の滞留時間が、5ms~500msである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プラズマフレーム(116)はプラズマノズル(114)から噴出し、
前記コンタクト面から前記プラズマノズル(114)までの距離が、5mm~100mmである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プラズマ処理によって形成された固体潤滑剤の前記被膜(120)は、1nm~300nmの厚さを有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)に塗布される前記潤滑剤(106、206)の厚さが、0.1μm~5μmである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
電気コネクタ(300、400)の導電性コンタクト要素(100、200)であって、
金属コンタクト面(102、202)を有し、
前記コンタクト面(102、202)は、少なくとも部分的に、プラズマによる処理によって潤滑剤層(106、206)から形成された固体潤滑剤の被膜(120)を有する、導電性コンタクト要素。
【請求項13】
補助材料(210)が充填された空洞(208)が、前記コンタクト面(102、202)の下方に封入されている、請求項12に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【請求項14】
前記補助材料(210)は、酸化防止剤、腐食抑制剤、潤滑剤、別の固体潤滑剤、および酸からなる群から選択される、請求項12または13に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【請求項15】
前記金属コンタクト面(102、202)は、スズ、および/またはニッケル、および/または銀、および/または銅、および/またはスズ、ニッケル、銀、銅の合金を含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【請求項16】
嵌合方向における表面の二乗粗さが0.3μm未満である、請求項12から15のいずれか一項に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コネクタの導電性コンタクト要素を表面処理するための方法に関する。さらに、本発明は、表面がそのような方法によって処理された導電性コンタクト要素に関する。
【背景技術】
【0002】
電気コネクタおよびそのコンタクト要素が、多くの設計で知られている。電気コネクタは、適切な相手側コネクタに嵌合されて、電気的接続を確立するように意図されている。電気コネクタは、一般に、信号伝送または電力伝送のために使用される。この目的のために、電気コネクタは、一般に、導電性コンタクト要素を有し、この導電性コンタクト要素は、コネクタが嵌合されると相手側コネクタのコンタクト要素に接触する。一方のコネクタ要素のコンタクト要素がコンタクトピンとして設計され、相手側コネクタのコンタクト要素がコンタクトばねとして設計されることが多い。コネクタと相手側コネクタとが嵌合されると、コンタクトばねは、弾性ばね力をコンタクトピンに加えて、確実な導電性接続を保証する。
【0003】
電気コネクタは、例えば自動車において、電力を伝送し、電気システムと電子システムとをネットワーク接続するために使用される。自動車において、コネクタは、激しい温度変動、振動、湿気、および腐食媒体に晒される。動作温度が上昇すると、特に、広く使用されているスズめっき銅ベースのコンタクト要素の場合に、摩耗が増加する。
【0004】
特に、例えばスズ、ニッケル、またはそれらの合金を含む卑金属コンタクト面は、相対運動が小さい場合、フレッチング腐食(「フレッチング」または「スカッフィング」)の傾向がある。さらに、多極コネクタの場合、特に初期嵌合中に、嵌合力が必要な力を超えることが多く、例えば貴金属ベースの貴コンタクト面の場合、冷間圧接の傾向があることが既知の問題である。
【0005】
したがって、高い耐摩耗性に加えて、コネクタの組立ておよび維持を容易にするために、小さい嵌合力および引抜力が必要である。労働安全性を向上させるために、特に初期嵌合中に、特定の嵌合力が、ある限界を超えてはならない。
【0006】
加えて、コネクタと相手側コネクタとの嵌合中に、コンタクト要素のコンタクト面に部分的な摩滅(abrasion)が生じる。この摩滅によって生じる摩耗は、コネクタの嵌合頻度を制限するため、コネクタの動作時間を短くする。
【0007】
ドイツ特許明細書DE1020.16214693B4は、補助材料が充填された空洞がコンタクト面の下に配置されている、コネクタの電気コンタクト要素を記載している。コンタクト面は、レーザ照射によって予めテクスチャ加工されている。コネクタが最初に相手側コネクタに嵌合された後に、空洞は破開して補助材料を漏出させ、コンタクト面を潤滑膜で覆う。この潤滑膜により、コネクタが再び嵌合されるときの嵌合力が低下する。ディンプル構造が例示的に形成される、レーザ放射による干渉パターンを用いた表面処理を、以下でテクスチャ加工面と呼ぶ。
【0008】
しかしながら、組立境界条件はまた、コネクタが最初に相手側コネクタに嵌合されるときの嵌合力の基準を規定する。この初期嵌合力は、多数のコンタクトを含むコネクタを組み立てるときに特に重要である。コネクタを温かい領域でさらに処理することもあるため、コネクタのコンタクト面が耐熱性を有することがさらに必要である。したがって、コネクタのコンタクト面に潤滑膜を塗布することは、潤滑膜が温かい温度で蒸発するため、適切な解決策ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、相手側コネクタに嵌合するときの初期嵌合力を低下させることができ、悪環境条件下でも表面処理がその効果を失うことがないように、電気コネクタのコンタクト面を処理する、費用効率が高く確実なプロセスが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0011】
この文脈において、本発明は、電気コネクタのコンタクト面の表面特性の向上を、プラズマによる処理によって実現するという考えに基づく。この目的のために、潤滑剤を最初にコンタクト面に塗布して、固体潤滑剤の被膜がプラズマ処理によってコンタクト面に形成されるようにする。
【0012】
特に、本発明は、電気コネクタの導電性コンタクト要素を表面処理するための方法であって、導電性コンタクト要素は金属コンタクト面を有する、方法を含む。加えて、潤滑剤を、導電性コンタクト要素のコンタクト面の少なくとも部分領域に塗布する。さらに、導電性コンタクト要素のコンタクト面は、プラズマ処理によって変化し、それにより、固体潤滑剤の被膜が、導電性コンタクト要素のコンタクト面の少なくとも部分領域に、少なくとも部分的に形成される。
【0013】
固体潤滑剤の被膜は、例えば、炭素、炭素質、または硫化物ベースであってよい。炭素層は、主に化学元素の炭素からなる薄層であると理解される。これは、例えば、グラファイト層またはダイヤモンド状炭素層を含む。初期潤滑剤層として機能する、塗布された潤滑剤層は、例えば、プラズマ処理によって改質される、油、グリース、ペースト、または、グラファイト、カーボンナノチューブ、MoS2、もしくはこれらの混合物などの別の固体潤滑剤であってよい。
【0014】
表面処理は、電気コネクタのコンタクト面の粗さを小さくし、より高い均一性を実現することができる。加えて、例えば、金属間相IMPまたはナノ結晶微細構造を選択的に形成することによって、コンタクト面の硬度を高めることができる。互いに独立した、これらの向上した特性の各々により、コネクタを相手側コネクタに嵌合させるときの初期嵌合力が低下する。加えて、コンタクト面全体にわたる摩擦係数の変化を小さくすることができる。
【0015】
本発明の有利なさらなる発展によれば、導電性コンタクト要素のコンタクト面は、隆起および凹部からなる表面テクスチャを有し、コンタクト面に塗布された潤滑剤が特に良好に付着するようになっている。
【0016】
プラズマは、1mbar~8barの圧力範囲で励起され、これは、プラズマ処理に真空チャンバが不要であり、代わりに大気圧プラズマを使用してプラズマ処理を行うことができ、有利であることを意味する。これは、液体化学品が完全に不要であり得るという利点を有する。この目的のために、窒素または圧縮空気などの無害のガスをプラズマ発生に使用することができる。あるいは、プラズマを、低真空下またはわずかな超過圧力下で励起することができる。
【0017】
以下で、プラズマは、部分的または完全にイオン化されたガスであると理解される。材料に向けられたプラズマノズルによって、コールドプラズマまたはホットプラズマが発生し、広がる。ノズル内で、プラズマは、ステータとロータとの間の高電圧によって発生する。アーク状高電圧放電により、イオン化ガスが、処理する表面に向けられる。例えば、水素、アルゴン、窒素、または圧縮空気を、イオン化するガスとして使用することができる。
【0018】
塗布された潤滑剤層から上記の固体潤滑剤の被膜を形成するために、プラズマの電力は、50W~5kWの範囲であることが有利である。
【0019】
本発明の有利なさらなる発展によれば、補助材料が充填された空洞が、導電性コンタクト要素のコンタクト面の下に封入される。これらの充填された空洞は、コネクタが相手側コネクタと最初に嵌合する間に破開し、補助材料を漏出させて、その効果を生じさせることができる。これにより、最初の嵌合プロセスにおいて嵌合力を低下させることができ、その後のすべての嵌合プロセスについても嵌合力を低下させることができる。
【0020】
添加剤とも呼ばれる補助材料は、ある特性を実現するまたは向上させるために、比較的少量で添加される物質である。
【0021】
空洞は、表面の下方に人工的に形成されたキャビティであると理解される。コンタクト面の下方における空洞の配置は、空洞がコンタクト面に出口を有していないか、または、コンタクト面から空洞への貫通孔を形成しなければ空洞に充填された補助材料に到達できないような、細い寸法の出口をせいぜい有することを意味する。
【0022】
本発明の別の有利な実施形態によれば、補助材料は、酸化防止剤、腐食抑制剤、潤滑剤、別の固体潤滑剤、および酸からなる群から選択される。この物質の群により、コネクタのコンタクト面への漏出後、このコネクタと相手側コネクタとの嵌合が容易になる。
【0023】
本発明の有利なさらなる発展によれば、導電性コンタクト要素のプラズマ処理は、連続プロセスの一部である。これは、コンタクト面の縁部も均一に処理されるという利点を有する。その結果、固体潤滑剤の均一に薄い層を有利に得ることができるため、コンタクト面は高い均一性を有する。
【0024】
本発明の有利なさらなる発展によれば、プラズマ処理は、プラズマフレーム(plasma flame)の照射を含み、プラズマフレームにおける導電性コンタクト要素の滞留時間(dwell time)が、5ms~500msである。この短い滞留時間の後に、上記の好ましい効果が既に生じ、それにより、多数の部品を短時間で処理することができる。
【0025】
本発明の有利なさらなる発展によれば、プラズマフレームはプラズマノズルから噴出し、コンタクト面からプラズマノズルまでの距離が5mm~100mmである。このターゲットを絞ったプラズマ処理により、追加のシールド予防策を必要とすることなく、既存の製造設備に容易に統合することができるとともに、安全規則の順守が可能になる。
【0026】
本発明の有利なさらなる発展によれば、プラズマ処理によって形成された固体潤滑剤の被膜は、1nm~300nmの厚さを有する。この薄い被膜により、多種多様なコネクタのタイプにプラズマ処理を使用することができ、寸法を調節する必要なく、このようなコネクタを適合する相手側コネクタに嵌合させることができる。
【0027】
本発明の有利なさらなる発展によれば、導電性コンタクト要素のコンタクト面に塗布される潤滑剤の厚さが、0.1μm~5μmである。薄く塗布された層は、粗い金属コンタクト面に特に良好に付着する。
【0028】
本発明はさらに、金属コンタクト面を有する、電気コネクタの関連する導電性コンタクト要素に関する。加えて、コンタクト面は、少なくとも部分的に、プラズマによる処理によって潤滑剤層から形成された固体潤滑剤の被膜を有する。この導電性コンタクト要素は、従来のコンタクト要素よりも小さい最初の嵌合力を初めから持っているという利点を有する。加えて、摩擦係数の標準偏差が小さくなり、これは、多数のコンタクトを含むコネクタに特に重要である。
【0029】
また、補助材料が充填された空洞が、導電性コンタクト要素のコンタクト面の下に封入されていると有利である。コンタクト要素が相手側コンタクトに最初に接触すると、空洞は破開し、補助材料が漏出し、最初の嵌合プロセス中に嵌合力を低下させることができ、その後のすべての嵌合プロセスについても嵌合力を低下させることができる。充填された空洞がコンタクト面の下に位置することにより、ゴム状化などの悪影響を避けることができる。加えて、固体の埋込みによる補助材料の望ましくない損失が排除される。
【0030】
導電性コンタクト要素の別の有利な実施形態によれば、補助材料は、酸化防止剤、腐食抑制剤、潤滑剤、別の固体潤滑剤、および酸の群から選択される。これらの物質は、摩滅によって生じる摩耗を減らし、コネクタの嵌合頻度を高めることができる。
【0031】
導電性コンタクト要素のさらなる有利な実施形態によれば、金属コンタクト面は、スズ、および/またはニッケル、および/または銀、および/または銅、および/またはスズ、ニッケル、銀、銅の合金を含む。これらの材料は耐錆性および耐熱性を有し、それにより、コネクタの寿命を保証することができる。
【0032】
本発明の有利なさらなる発展によれば、嵌合方向における表面の二乗粗さ(square roughness of the surface)が0.3μm未満である。この値は、本発明によるプラズマ処理によって改質されていない表面について測定された値よりも小さい。したがって、小さい粗さを実現することができ、それにより、表面がさらに均一になり、したがって、コネクタと相手側コネクタとの嵌合が強化され、有利である。
【0033】
表面粗さは、固体表面の形状またはうねりよりも小さいが、結晶格子構造のざらつきよりも大きい固体表面の凹凸の度合いである。粗さは、摩擦などの材料特性に影響し得る。粗さ特性の1つは二乗粗さである。これは、光学測定法によって検出することができる。測定の評価は、DIN EN ISO 4287およびDIN EN ISO 11562シリーズの基準に基づく。コネクタを相手側コネクタに嵌合させるために、嵌合方向の粗さが特に重要である。したがって、この場合、測定を嵌合方向に位置合わせする。一実施形態において、この位置合わせを表面テクスチャに沿って行うことができる。上記の実施形態のように、表面テクスチャが隆起および凹部を有する場合、測定の位置合わせを隆起および凹部に沿って行う。
【0034】
本発明をより十分に理解するために、以下の図面に示す実施形態の例を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。この文脈において、同一の部分は、同一の参照符号および同一の部品指定で示される。さらに、図示し説明する異なる実施形態のいくつかの特徴または特徴の組合せが、独立した本発明の解決策または本発明による解決策を表すこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】コンタクト面の拡大断面を含む、本発明による方法によるプロセスステップにおける、第1の実施形態のコンタクト面の概略断面図である。
【
図2】本発明による方法によるプロセスステップにおける、さらなる実施形態のコンタクト面の概略断面図である。
【
図3】さらなるプロセスステップにおける、プラズマによるコンタクト面の第1の実施形態の表面処理の概略図である。
【
図4】さらなるプロセスステップにおける、プラズマ処理後のコンタクト面の第1の実施形態のコンタクト面の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、導電性コンタクト要素のコンタクト面の第1の実施形態の断面図により、本発明による方法による第1のプロセスステップを示す。
【0037】
方法は、導電性コンタクト要素100を表面処理するためのものである。電気コネクタ300のコンタクト要素100は、導電性で、基材104を含む。基材104は、例えば、スズ、ニッケル、銀、銅、またはスズ、ニッケル、銀、銅の合金、および/または他の元素を含むことができる。コンタクト要素100の一側は、金属コンタクト面102を形成する。コネクタ300が相手側コネクタに嵌合されると、コンタクト面102は、相手側コネクタ(図示せず)のコンタクト面に接触する。
【0038】
コンタクト面102の少なくとも部分領域に、潤滑剤106が塗布される。例えば、潤滑剤106は、油、グリース、ペースト、酸、または、グラファイト、カーボンナノチューブ、MoS2、もしくはこれらの混合物などの別の固体潤滑剤を含むことができる。塗布された潤滑剤の厚さは、0.1μm~5μmの値を有することができる。
【0039】
有利な実施形態において、コンタクト要素100のコンタクト面102は、隆起124および凹部122の表面テクスチャ112を有することができる。これらの隆起124および凹部122を、少なくとも部分的に周期的に交互に形成することができる。この点に関して、凹部122は溝を形成し、隆起124は溝間の壁を形成する。隆起は、例として、約0.1μm~2μmであってよい。しかしながら、表面テクスチャ112が隆起124および凹部122を含むことは、本発明による方法に決して必要ではない。コンタクト面102は、例えば、平滑な、または他の粗さを持つ、任意の表面テクスチャ112を有していてもよいことを理解されたい。
【0040】
図2は、本発明による方法による第1のプロセスステップにおける、導電性コンタクト要素200のコンタクト面102の別の実施形態を示す。
【0041】
電気コネクタ400のコンタクト要素200は、導電性で、基材204を含む。基材204は、例えば、スズ、ニッケル、銀、銅、またはスズ、ニッケル、銀、銅、および/もしくは他の元素の合金を含むことができる。コンタクト要素200の一側は、金属コンタクト面202を形成し、コネクタ400が相手側コネクタに嵌合されると、コンタクト面202は、相手側コネクタのコンタクト面に接触する。
【0042】
図示の実施形態において、空洞208がコンタクト面202の下に封入され、空洞208に補助材料210が充填されている。図示の実施形態において、空洞208は、コンタクト面202の下で互いに等間隔に離間している。本実施形態において、表面テクスチャ212は、例示的な隆起224および凹部222を有する。これらの隆起224および凹部222を、少なくとも部分的に周期的に交互に形成することができる。この点に関して、凹部222は溝を形成し、隆起224は溝間の壁を形成する。隆起は、例として、約0.1μm~2μmであってよい。
【0043】
空洞208は、コンタクト面202の下の様々な深さで、互いに不規則に離間していてもよいことを理解されたい。さらに、コンタクト面202が隆起224および凹部222を有していない場合に、空洞208をコンタクト面202の下に封入してもよい。本発明による方法について、表面テクスチャ212が隆起224および凹部222を含むことは必要ではない。コンタクト面202は、例えば、平滑な、または他の粗さを持つ、任意の表面テクスチャ212を有していてもよいことを理解されたい。
【0044】
空洞208に封入された補助材料210は、例えば、油、グリース、ペースト、または、グラファイト、カーボンナノチューブ、MoS2、もしくはこれらの混合物などの別の固体潤滑剤を含むことができる。コンタクト面202の少なくとも部分領域に、潤滑剤206が塗布される。例えば、潤滑剤206は、油、グリース、ペースト、酸、または、グラファイト、カーボンナノチューブ、MoS2、もしくはこれらの混合物などの別の固体潤滑剤を含むことができる。塗布された潤滑剤の厚さは、0.1μm~5μmの値を有することができる。
【0045】
図3は、本発明による方法のさらなるプロセスステップにおける、第1の実施形態によるコンタクト要素100を示す。
【0046】
図3は、プラズマを使用したコンタクト要素100の表面処理の概略図である。可能な一実施形態において、プラズマシステムを制御および監視するためのプラズマ発生器118が概略的に示され、プラズマノズル114が処理する材料に向けられている。向けられたプラズマノズル114を使用して、プラズマを発生させ、伝播する。単一ノズルまたは回転ノズルなどの様々なノズルシステムを、プラズマ源として使用することができる。プラズマノズル114から、プラズマフレーム116を使用してコンタクト面102を処理する。プラズマノズル114からコンタクト面102までの距離は、5mm~100mmの範囲である。
【0047】
このプロセスにおいて、1mbar~8barの圧力範囲のプラズマフレーム116を発生させることができ、したがって、例えば、表面処理を大気圧で行うこともできる。プラズマフレーム116の電力は、50W~5kWの範囲である。この場合、コンタクト面102の処理は、コンタクト要素100が、例えば100mm/sまたは200mm/sの速度でプラズマフレーム116を通過する連続プロセスの一部である。それにより、プラズマフレーム116の下におけるコンタクト面102の滞留時間は、5ms~500msである。
【0048】
しかしながら、示された値は、例としてのみ示され、理解を助けるためのものであり、決して本発明をこれらの値に限定するものではないことが明らかである。通過速度、距離、および滞留時間をいずれも希望に応じて調整することができ、プラズマフレームの電力の異なる値に適合させることができる。
【0049】
図4は、プラズマによる表面処理後の、導電性コンタクト要素100のコンタクト面102の例示的な第1の実施形態を示す。プラズマ処理により、固体潤滑剤、好ましくは炭素の被膜120を、コンタクト面102の少なくとも部分領域に形成している。この固体潤滑剤の被膜120は、1nm~300nmの厚さを有することができ、透明であってよい。したがって、前のプロセスステップにより塗布された潤滑剤の少なくとも一部が、好ましくは炭素からなる固体潤滑剤の被膜に、少なくとも部分的に変わっている。
【0050】
第2の実施形態(図示せず)において、前のプロセスステップの上記の第2の実施形態のように、補助材料が充填された空洞がコンタクト面102の下に封入される場合に、固体潤滑剤の被膜120をコンタクト面202に同様に形成することが十分に可能である。空洞は、プラズマ処理によって変化しないままである。
【0051】
好ましくは炭素または炭素含有被膜に加えて、コンタクト要素の表面特性をプラズマ処理によって向上させることができることが有利である。したがって、処理によってコンタクト面の凹凸が小さくなるため、より小さい二乗粗さが実現される。
【0052】
実験的研究は、プラズマによる処理後の表面の二乗粗さが0.3μm未満であることを示している。この値は、本発明によるプロセスによって処理されていない表面の二乗粗さの値よりも0.1μm小さい。
【0053】
塗布面のより高い硬度をさらに実現できることが有利である。コネクタ面の硬度を、ナノ識別によって決定することができる。既知の幾何形状を有する圧子を、試験する表面に規定の力曲線(defined force curve)で押し込む。特定の最大力に達すると、圧子は、制御された方法で再び解放される。圧入深さは、荷重を加えている間および荷重を除いている間の両方で記録される。様々なパラメータを、加えた力、圧子の形状、および圧入深さから計算することができる。
表面硬度を測定するために、少なくとも2つの測定点に、所定の距離で接近する。表面におけるすべての測定点の平均値を、表面硬度の比較基準として使用することができる。測定は、最初に未処理の表面で行われ、その後、2度目がプラズマ処理後に行われる。100μmの距離をおいた51の測定点を有する例示的な測定において、例示的な平均硬度値450N/mm2を未処理の表面について決定することができる。しかしながら、テクスチャ加工およびプラズマ処理された表面については、例示的な平均値750N/mm2を決定することができる。
【0054】
したがって、表面は、プラズマ処理後により高い硬度を示す。平均値を比較すると、特に未処理の表面と比べたプラズマ処理前にテクスチャ加工されたコンタクト面について、40%~80%の硬度の増加が見られる。
【0055】
最終的に、粗さ、硬度、および化学組成に関するプラズマ処理した表面の空間分解特性は、例えば、打ち抜かれた、または電気めっきされたコンタクトよりもはるかに均一な画像を示すことができ、有利である。
【0056】
これらの有利な特性は、互いに独立して生じ、互いに独立して摩擦係数の変化をより小さくする。したがって、本発明による方法により、表面内で、摩擦係数の標準偏差のより狭い分布を実証することができる。
【0057】
異なるプラズマ発生方法を使用して同じ有利な特性を実現することが十分に可能であることに留意されたい。例えば、プラズマフレームを、真空下の低圧プラズマチャンバにおいて発生させることができる。
【符号の説明】
【0058】
100、200 コンタクト要素
102、202 コンタクト面
104、204 基材
106、206 潤滑剤
208 空洞
210 補助材料
112、212 表面テクスチャ
114 プラズマノズル
116 プラズマフレーム
118 プラズマ発生器
120 固体潤滑剤の被膜
122、222 凹部
124、224 隆起
d プラズマノズルからコンタクト面までの距離
300、400 コネクタ
【手続補正書】
【提出日】2022-12-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気コネクタ(300、400)の導電性コンタクト要素(100、200)を表面処理するための方法であって、
前記導電性コンタクト要素(100、200)は、金属コンタクト面(102、202)を含み、
潤滑剤(106、206)が、前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)の少なくとも部分領域に塗布され、
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)は、プラズマ処理によって変化し、それにより、固体潤滑剤の被膜(120)が、前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)の少なくとも部分領域に、少なくとも部分的に形成される、方法。
【請求項2】
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)は、隆起(124、224)および凹部(122、222)の表面テクスチャを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマは1mbar~8barの圧力範囲で励起される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマの電力が50W~5kWの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
補助材料(210)が充填された空洞(208)が、前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)の下に封入される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記補助材料(210)は、酸化防止剤、腐食抑制剤、潤滑剤、別の固体潤滑剤、および酸からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記プラズマ処理は、連続プロセスの一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理は、プラズマフレーム(116)の照射を含み、
前記プラズマフレーム(116)における前記導電性コンタクト要素(100、200)の滞留時間が、5ms~500msである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記プラズマフレーム(116)はプラズマノズル(114)から噴出し、
前記コンタクト面から前記プラズマノズル(114)までの距離が、5mm~100mmである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プラズマ処理によって形成された固体潤滑剤の前記被膜(120)は、1nm~300nmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記導電性コンタクト要素(100、200)の前記コンタクト面(102、202)に塗布される前記潤滑剤(106、206)の厚さが、0.1μm~5μmである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
電気コネクタ(300、400)の導電性コンタクト要素(100、200)であって、
金属コンタクト面(102、202)を有し、
前記コンタクト面(102、202)は、少なくとも部分的に、プラズマによる処理によって潤滑剤層(106、206)から形成された固体潤滑剤の被膜(120)を有する、導電性コンタクト要素。
【請求項13】
補助材料(210)が充填された空洞(208)が、前記コンタクト面(102、202)の下方に封入されている、請求項12に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【請求項14】
前記補助材料(210)は、酸化防止剤、腐食抑制剤、潤滑剤、別の固体潤滑剤、および酸からなる群から選択される、請求項13に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【請求項15】
前記金属コンタクト面(102、202)は、スズ、および/またはニッケル、および/または銀、および/または銅、および/またはスズ、ニッケル、銀、銅の合金を含む、請求項12に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【請求項16】
嵌合方向における表面の二乗粗さが0.3μm未満である、請求項12から15のいずれか一項に記載の導電性コンタクト要素(100、200)。
【外国語明細書】