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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007506
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20230112BHJP
   D01F 4/02 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
A41G3/00 A
D01F4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019180634
(22)【出願日】2019-09-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000126676
【氏名又は名称】株式会社アデランス
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 翔太
(72)【発明者】
【氏名】安部 佑之介
(72)【発明者】
【氏名】関 正敏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英樹
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB11
4L035CC05
4L035EE07
4L035EE08
4L035FF01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自然な光沢を有し、かつ強度低下が抑制された人工毛髪用繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】人工毛髪用繊維は、組み換え構造タンパク質と、前記組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子とを含み、上記光沢抑制粒子の含有量が、上記組み換え構造タンパク質100質量部に対し、1質量部超12質量部以下であり、上記光沢抑制粒子が0.2μm超10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換え構造タンパク質と、前記組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子とを含み、
前記光沢抑制粒子の含有量が、前記組み換え構造タンパク質100質量部に対し、1質量部超12質量部以下であり、
前記光沢抑制粒子が0.2μm超10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子である、人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロイン、シルクフィブロイン及びケラチンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記有機高分子粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン複合樹脂、ポリアミド樹脂及びシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であり、前記金属酸化物粒子が酸化チタン及び二酸化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子である、請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記光沢抑制粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】
前記組み換え構造タンパク質が改変クモ糸フィブロインである、請求項1~5のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項7】
前記光沢抑制粒子のガラス転移温度が80℃以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項8】
前記光沢抑制粒子がウレタン樹脂粒子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維を含む人工毛髪。
【請求項10】
人工毛髪用繊維の製造方法であって、
組み換え構造タンパク質、前記組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子、及び有機溶媒を含む分散液を紡糸口金から吐出した後、前記溶媒を除去して構造タンパク質繊維を形成させる工程を含み、
前記光沢抑制粒子の含有量が、前記組み換え構造タンパク質100質量部に対し1質量部超12質量部以下であり、前記光沢抑制粒子が0.2μm以上10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子である、製造方法。
【請求項11】
前記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロイン、シルクフィブロイン及びケラチンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
【請求項12】
前記有機高分子粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であり、前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子である、請求項10又は11に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
【請求項13】
前記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、請求項10~12のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
【請求項14】
前記光沢抑制粒子のガラス転移温度が80℃以下である、請求項10~13のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
【請求項15】
前記光沢抑制粒子がウレタン樹脂粒子である、請求項10~14のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛髪用繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィッグ、増毛用毛髪、代用毛髪などの頭飾品用毛髪として人毛が長く使用されている。近年の人毛品質低下及び安定供給の観点から、ナイロン、ポリエステルなどの合成樹脂繊維、再生コラーゲンタンパク質繊維が人工毛髪として広く使用されている。
【0003】
人工毛髪に要求される特性は多岐に渡るが、特に人毛に近似した自然な光沢と風合いは、人工毛髪の商品価値において重要な特性である。
【0004】
人工毛髪に自然な光沢と風合いを付与するために、人工毛髪材料とは異なる材料を艶消し剤として一定量以上混合することで繊維表面に凹凸を付けて粗面化することが一般的に行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、ポリエステル樹脂に、シリカ、二酸化チタン又はアパタイトで覆った二酸化チタンの無機物を混合して繊維化した後にアルカリエッジングすること、特許文献2には、熱可塑性樹脂に再生コラーゲン、ポリビニルアルコール又はカルボキシルメチルセルロースの有機樹脂を混合して繊維化すること、特許文献3には、再生コラーゲンに単官能エポキシ化合物と金属アルミニウム塩を混合して繊維化することが開示されている。
【0006】
しかしながら、人工毛髪材料とは異なる材料(艶消し剤)を一定量以上に添加すると、特に、それによって製造した繊維自体の強度が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-31565号
【特許文献2】特開2009-138314号
【特許文献3】特開2010-24586号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自然な光沢を有し、かつ強度低下が抑制された人工毛髪用繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、驚くべきことに、特定の粒径及び配合割合の光沢抑制粒子を用いることで、構造タンパク質繊維において自然な光沢が得られ、かつ強度低下が抑制されるだけでなく、さらに結節伸度が向上することを見出した。
【0010】
本発明はこのような新規な知見に基づいて完成されたものであり、例えば、以下の各発明を提供する。
[1]
組み換え構造タンパク質と、該組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子とを含み、
上記光沢抑制粒子の含有量が、上記組み換え構造タンパク質100質量部に対し、1質量部超12質量部以下であり、
上記光沢抑制粒子が0.2μm超10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子である、人工毛髪用繊維。
[2]
上記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロイン、シルクフィブロイン及びケラチンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の人工毛髪用繊維。
[3]
上記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロイン及びケラチンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の人工毛髪用繊維。
[4]
上記有機高分子粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン複合樹脂、ポリアミド樹脂及びシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であり、上記金属酸化物粒子が酸化チタン及び二酸化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子である、[1]~[3]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
[5]
上記有機高分子粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、上記金属酸化物粒子が酸化チタンである、[1]~[4]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
[6]
上記光沢抑制粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子である、[1]~[5]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
[7]
上記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、[1]~[6]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
[8]
上記組み換え構造タンパク質が改変クモ糸フィブロインである、[1]~[7]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
[9]
上記光沢抑制粒子のガラス転移温度が80℃以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
[10]
上記光沢抑制粒子がウレタン樹脂粒子である、[1]~[9]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
[11]
人工毛髪用繊維の製造方法であって、
組み換え構造タンパク質、上記組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子、及び有機溶媒を含む分散液を紡糸口金から吐出した後、上記溶媒を除去して構造タンパク質繊維を形成させる工程を含み、
上記光沢抑制粒子の含有量が、上記組み換え構造タンパク質100質量部に対し1質量部超12質量部以下であり、上記光沢抑制粒子が0.2μm以上10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子である、製造方法。
[12]
上記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロイン、シルクフィブロイン及びケラチンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[11]に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[13]
上記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロイン及びケラチンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[11]又は[12]に記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[14]
上記有機高分子粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン複合樹脂、シリコーン樹脂及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であり、上記金属酸化物粒子が酸化チタン及び二酸化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子である、[11]~[13]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[15]
上記有機高分子粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であり、上記金属酸化物粒子が酸化チタンである、[11]~[14]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[16]
上記光沢抑制粒子が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子である、[11]~[15]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[17]
上記組み換え構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、[11]~[16]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[18]
上記組み換え構造タンパク質が改変クモ糸フィブロインである、[11]~[17]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[19]
上記光沢抑制粒子のガラス転移温度が80℃以下である、[11]~[18]のいずれか記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[20]
上記有機溶媒がギ酸及びヘキサフルオロイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[11]~[19]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[21]
上記有機溶媒がギ酸である、[11]~[20]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[22]
上記光沢抑制粒子がウレタン樹脂粒子である、[11]~[21]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維の製造方法。
[23]
[1]~[10]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維を含む人工毛髪。
[24]
[1]~[10]のいずれかに記載の人工毛髪用繊維を用いて得られる人工毛髪。
[25]
ウィッグ、エクステンション、ヘアーアクセサリー、ブレイド又はドールヘアーである、[23]又は[24]に記載の人工毛髪。
【発明の効果】
【0011】
本発明の人工毛髪用繊維によれば、自然な光沢を有し、強度の低下が抑制され、且つ結節伸度が向上され得る人工毛髪用繊維を提供することができる。また本発明の製造方法によれば、上記の特徴を有する人工毛髪用繊維を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図2】天然由来のフィブロインのz/w(%)の値の分布を示す図である。
図3】天然由来のフィブロインのx/y(%)の値の分布を示す図である。
図4】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図5】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図6】試験例1~12、15、16で得られた分散液と、比較例1~12、15、16で得られたギ酸分散液の画像である。
図7】実施例1~6で得られた組み換え構造タンパク質繊維の側面と断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
図8】比較例24~25で得られた繊維の側面と断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
図9】紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
図10】水との接触による原料繊維の長さ変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔人工毛髪用繊維〕
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、組み換え構造タンパク質と、該組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子とを含み、光沢抑制粒子の含有量が、組み換え構造タンパク質100質量部に対し、1質量部超12質量部以下であり、光沢抑制粒子が0.2μm超10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子であることを特徴とする。
【0014】
人工毛髪用繊維とは、人工毛髪に使用され得る繊維を意味し、人工毛髪用繊維をそのまま人工毛髪としてもよく、人工毛髪用繊維を加工して人工毛髪を得てもよい。人工毛髪への加工は、例えばカラーリング(染色)、カール形状付与、ストレート形状付与などの加工が挙げられる。人工毛髪用繊維は、後述の人工毛髪用繊維の製造方法によって製造することができる。
【0015】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の繊維径は、40μm~120μmであってよく、45μm~120μmであってよく、48μm~120μmであってよく、50μm~120μmであってよく、55μm~120μmであってよく、60μm~120μmであってよく、65μm~120μmであってよく、60μm~110μmであってよく、60μm~100μmであってよく、60μm~95μmであってよく、60μm~90μmであってよく、60μm~85μmであってよく、60μm~80μmであってよく、55μm~110μmであってよく、55μm~100μmであってよく、55μm~95μmであってよく、55μm~90μmであってよく、55μm~85μmであってよく、55μm~80μmであってよく、50μm~110μmであってよく、50μm~100μmであってよく、50μm~95μmであってよく、50μm~90μmであってよく、50μm~85μmであってよく、50μm~80μmであってよい。繊維径を40μm以上とすることで、人毛との間に生ずる違和感を低減することができる。繊維径を120μm以下とすることで、繊維を形成させる際の脱溶媒をより効率的に行うができる。
【0016】
(組み換え構造タンパク質)
構造タンパク質とは、生体構造を形成するタンパク質又はそれに由来するタンパク質を示す。組み換え構造タンパク質とは、遺伝子組み換え技術により製造した構造タンパク質である。組み換え構造タンパク質は、天然由来の構造タンパク質であってよく、天然由来の構造タンパク質のアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列の一部を改変した改変構造タンパク質であってもよい。
【0017】
組み換え構造タンパク質としては、例えば、工業規模での製造が好ましい任意の構造タンパク質を挙げることができ、具体的には、工業用に利用できる構造タンパク質、医療用に利用できる構造タンパク質等を挙げることができる。工業用又は医療用に利用できる構造タンパク質の具体例としては、難溶性タンパク質である、フィブロイン、コラ-ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができるが、水溶性タンパク質であってもよい。フィブロインは、例えば、絹フィブロイン(シルクフィブロイン)、クモ糸フィブロイン(クモ糸タンパク質)、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。
【0018】
本実施形態に係るフィブロインは、天然由来のフィブロインと改変フィブロインとを含む。本明細書において「天然由来のフィブロイン」とは、天然由来のフィブロインと同一のアミノ酸配列を有するフィブロインを意味し、「改変フィブロイン」とは、天然由来のフィブロインとは異なるアミノ酸配列を有するフィブロインを意味する。本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。
【0019】
本実施形態に係るフィブロインは、クモ糸フィブロイン(クモ糸タンパク質)であることが好ましい。クモ糸フィブロインには、天然クモ糸フィブロイン、及び天然クモ糸フィブロインに由来する改変クモ糸フィブロインが含まれる。天然クモ糸フィブロインとしては、例えば、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
【0020】
本実施形態に係るフィブロインは、例えば、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態に係るフィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0021】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよく、10~40、10~60、10~80、10~100、10~120、10~140、10~160、又は10~180アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、8~300、10~300、20~300、40~300、60~300、80~300、10~200、20~200、20~180、20~160、20~140又は20~120の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0022】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0023】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0024】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0025】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0026】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0027】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0028】
改変フィブロインは、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0029】
改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0030】
改変フィブロインは、例えば、カイコが産生する絹タンパク質に由来する改変フィブロイン(改変シルクフィブロイン)であってもよく、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質に由来する改変フィブロイン(改変クモ糸フィブロイン)であってもよい。
【0031】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)モチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、及びグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0032】
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインは、式1中、nは3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0033】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、ポリペプチドであってもよい。
【0034】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0035】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0036】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0037】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0038】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0039】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0040】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0041】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0042】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0043】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)モチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0044】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を図2に示す。図2の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0045】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0046】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0047】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0048】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6(Met-PRT380)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0049】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0050】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0051】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0052】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0053】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0054】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0055】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0056】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0057】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0058】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0059】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0060】
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0061】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0062】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0063】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0064】
第2の改変フィブロインは、組み換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0065】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0066】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)モチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0067】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)モチーフ毎に1つの(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0068】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)モチーフの欠失、及び1つの(A)モチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0069】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0070】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0071】
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)モチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)モチーフという配列を有する。
【0072】
隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)モチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0073】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0074】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0075】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)モチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0076】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0077】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0078】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0079】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9~4.1の場合の結果を図3に示す。
【0080】
図3の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図3から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0081】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)モチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)モチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0082】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号17(Met-PRT399)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0083】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0084】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0085】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0086】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0087】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0088】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0089】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0090】
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0091】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0092】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0093】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0094】
第3の改変フィブロインは、組み換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0095】
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0096】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)、配列番号9(Met-PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0097】
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0098】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0099】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0100】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0101】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0102】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0103】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【表1】
【0104】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0105】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、図4に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図4に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)モチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図4の場合28/170=16.47%となる。
【0106】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0107】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0108】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0109】
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-i)配列番号19(Met-PRT720)、配列番号20(Met-PRT665)若しくは配列番号21(Met-PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0110】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met-PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いてREP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met-PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0111】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0112】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0113】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0114】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0115】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0116】
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0117】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0118】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0119】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0120】
第5の改変フィブロインは、組み換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0121】
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0122】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0123】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0124】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
【0125】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0126】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0127】
図5は、フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図5を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図5に示したフィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図5のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0128】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0129】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
【0130】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0131】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0132】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0133】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0134】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0135】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
【0136】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0137】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0138】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0139】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号25(Met-PRT888)、配列番号26(Met-PRT965)、配列番号27(Met-PRT889)、配列番号28(Met-PRT916)、配列番号29(Met-PRT918)、配列番号30(Met-PRT699)、配列番号31(Met-PRT698)、配列番号32(Met-PRT966)、配列番号41(Met-PRT917)若しくは配列番号42(Met-PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0140】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0141】
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met-PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0142】
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0143】
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met-PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
【0144】
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【表2】
【0145】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0146】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0147】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0148】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0149】
タグ配列を含む第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0150】
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【表3】
【0151】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0152】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0153】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0154】
第6の改変フィブロインは、組み換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0155】
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0156】
改変フィブロインは、親水性改変フィブロインであってもよく、疎水性改変フィブロインであってもよい。本明細書において、「疎水性改変フィブロイン」とは、改変フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0超である改変フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、「親水性改変フィブロイン」とは、平均HIが0以下である改変フィブロインである。改変フィブロインとしては、耐燃焼性に優れるという観点から、親水性改変フィブロインが好ましい。
【0157】
疎水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0158】
親水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号12、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号12、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0159】
本実施形態に係る改変フィブロインは、1種のみの改変フィブロインを含有するものであってもよく、2種以上の改変フィブロインを組み合わせて含有するものであってもよい。
また、改変フィブロインと改変フィブロイン以外の構造タンパク質を組み合わせて含有するものであってもよい。
【0160】
構造タンパク質は、上記天然型構造タンパク質に由来するポリペプチド、すなわち組換えポリペプチドであってもよい。
【0161】
コラーゲン由来の構造タンパク質として、例えば、式3:[REP2]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは5~300の整数を示す。REP2は、Gly-X-Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP2は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号45で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号45で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0162】
レシリン由来の構造タンパク質として、例えば、式4:[REP3]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、qは4~300の整数を示す。REP3はSer-J-J-Tyr-Gly-U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意アミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号46で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号46で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号49で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0163】
エラスチン由来の構造タンパク質として、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号47で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号47で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0164】
ケラチン由来の構造タンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号48で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0165】
(構造タンパク質の組み換え発現)
組み換え構造タンパク質は、例えば、当該構造タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0166】
構造タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロイン等の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、必要に応じて遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したタンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、組み換え構造タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる構造タンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0167】
調節配列は、宿主における組み換え構造タンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、組み換え構造タンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0168】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、組み換え構造タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0169】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0170】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0171】
原核生物を宿主とする場合、構造タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0172】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0173】
真核生物を宿主とする場合、構造タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0174】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0175】
組み換え構造タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0176】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0177】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0178】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0179】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0180】
(組み換え構造タンパク質を含む可溶化画分の回収方法)
発現させた組み換え構造タンパク質は、可溶化画分として回収することができる。可溶化画分として回収することにより、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減することができるため、工程(A)の前に実施することが好ましい。
【0181】
可溶化画分の回収方法は、例えば、当該組み換え構造タンパク質が、宿主細胞内に溶解状態で発現した場合には、まず物理的処理又は化学的処理により宿主細胞を破壊して宿主細胞の破砕液を得る。物理的処理としては、超音波処理、ホモジナイザーによる破砕処理などが挙げられ、化学的処理としては主に目的とする組み換え構造タンパク質は溶解するが、宿主細胞は溶解しない溶媒で処理する方法が挙げられ、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)などが挙げられる。次いで、宿主細胞の破砕液から目的とする組み換え構造タンパク質を含む可溶化画分を回収する。目的とする組み換え構造タンパク質を含む可溶化画分を回収する方法としては、遠心分離、並びにドラムフィルター及びプレスフィルター等のフィルターろ過等の一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、テフロンフィルターを用いる方法、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用する方法により、目的とする組み換え構造タンパク質を含む可溶性画分をより効率的に回収することができる。
【0182】
また、組み換え構造タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に物理的処理又は化学的処理により宿主細胞を破壊した後、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として組み換え構造タンパク質の不溶体を回収する。回収した組み換え構造タンパク質の不溶体は、タンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の方法により組み換え構造タンパク質を含む可溶化画分を得ることができる。当該組み換え構造タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該組み換え構造タンパク質を含む可溶化画分を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離、ドラムフィルター及びプレスフィルター等のフィルターろ過等の手法により処理することにより組み換え構造タンパク質を含む可溶化画分を取得することができる。フィルターろ過による場合、テフロンフィルターを用いる方法、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用する方法により、組み換え構造タンパク質を含む可溶性画分をより効率的に回収することができる。
【0183】
(組み換え構造タンパク質の粗精製)
組み換え構造タンパク質を含む可溶性画分から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、組み換え構造タンパク質の粗精製標品を得ることができる。
【0184】
(組み換え構造タンパク質溶液の調製方法)
組み換え構造タンパク質溶液は、溶解用溶媒に組み換え構造タンパク質が溶解された溶液であれば特に限定されない。例えば、上述の組み換え構造タンパク質の粗精製標品を溶解用溶媒に溶解させることで得ることもできるし、上述の組み換え構造タンパク質を含む可溶性画分をそのまま、又は溶解用溶媒に溶媒置換若しくは溶媒添加することで得ることもできるし、組み換え構造タンパク質を発現した宿主細胞(又は宿主細胞の破砕物若しくは破砕液等)を溶解用溶媒に溶解させることで得ることもできる。組み換え構造タンパク質として使用する宿主細胞又は宿主細胞の破砕物若しくは破砕液等に、溶解用溶媒を添加して組み換え構造タンパク質を溶解した後に、組み換え構造タンパク質溶液を可溶化画分として回収するともに、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減するのが好ましい。可溶化画分の回収方法、上述の通りである。
【0185】
組み換え構造タンパク質を溶解用溶媒に溶解させる条件は、溶解用溶媒の種類、添加する塩の種類及び濃度、並びに組み換え構造タンパク質の種類等に応じて適宜設定できる。一般的には、溶解条件を適切に設定することで、組み換え構造タンパク質を溶解用溶媒に溶解させることができる。
【0186】
溶解温度は、組み換え構造タンパク質が溶解するが、組み換え構造タンパク質を発現した宿主細胞由来の夾雑物が溶解しない温度まで加温して、所定時間維持することが好ましい。溶解させるための温度は、溶解用溶媒の種類、添加する塩の種類及び濃度、並びに組み換え構造タンパク質の種類等に応じて決めればよいが、例えば30~100℃及び40~60℃の温度を挙げることができる。例えば、溶解させるための温度の上限値は、100℃、90℃、80℃又は70℃であってよく、溶解させるための温度の下限値は30℃、40℃、50℃であってよい。溶解させるための時間は、組み換え構造タンパク質が充分溶解し、且つ夾雑物の溶解が少ない時間であれば、特に限定する必要はないが、工業的生産を考慮すると、10~120分が好ましく、10~60分がより好ましく、10~30分が更に好ましい。
【0187】
組み換え構造タンパク質が、フィブロイン、コラ-ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン、並びにこれら由来のタンパク質等である場合には、例えば、以下の条件を挙げることができる。上記構造タンパク質を発現した宿主に添加する溶解用溶媒の添加量は、組み換え構造タンパク質重量(wt)当たり、溶媒(vol)/組み換え構造タンパク質重量(wt)比として、100~300倍が好ましく、150~250倍がより好ましく、175~225倍が更に好ましい。溶解用溶媒に添加する塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム及びトリフルオロ酢酸ナトリウムが好ましく、トリフルオロ酢酸ナトリウムがより好ましい。また、塩を添加する場合の濃度は、溶解用溶媒全量を基準として、0M超1.0M以下が好ましく、0M超0.6M以下がより好ましく、0M超0.5M以下が更に好ましく、0M超0.01M以下であってもよい。
【0188】
組み換え構造タンパク質が、フィブロイン(改変フィブロインを含む)である場合には、例えば、以下の条件を挙げることができる。上記組み換え構造タンパク質を発現した宿主細胞に添加する溶解用溶媒の添加量は、組み換え構造タンパク質重量(wt)当たり、溶解用溶媒(vol)/組み換え構造タンパク質重量(wt)比として、100~300倍が好ましく、150~250倍がより好ましく、175~225倍が更に好ましい。溶解用溶媒に添加する塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム及びトリフルオロ酢酸ナトリウムが好ましく、トリフルオロ酢酸ナトリウムがより好ましい。また、塩を添加する場合の濃度は、溶解用溶媒全量を基準として、0M超1.0M以下が好ましく、0M超0.6M以下がより好ましく、0M超0.5M以下が更に好ましく、0M超0.01M以下であってもよい。温度条件としては、上記の溶媒を用いて、30~100℃及び40~60℃の温度を挙げることができる。例えば、溶解させるための温度の上限値は、100℃、90℃、80℃又は70℃であってよく、溶解させるための温度の下限値は30℃、40℃、50℃であってよい。溶解するための時間としては例えば10~120分が好ましく、10~60分がより好ましく、10~30分が更に好ましい。
【0189】
組み換え構造タンパク質溶液は、組み換え構造タンパク質を発現した宿主細胞(又は宿主細胞の破砕物若しくは破砕液等)を溶解用溶媒に溶解させることで得られた場合は、組み換え構造タンパク質溶液を回収するともに、不溶物を分離し、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減してもよい。構造タンパク質溶液を回収及び不溶物の分離は、溶液と沈降物(凝集物)とを分離できればよく、特に限定されない。取扱いの簡便性から、濾過による分離及び/又は遠心分離により行うことが好ましい。濾過による分離は、例えば、ろ紙、ろ過膜等を用いて行うことができる。遠心分離の条件は、特に限定されない。例えば、室温(20±5℃)、8000×g~15000×gで5~20分間行うことができる。上記不溶物の分離は2回以上行ってもよい。
【0190】
(光沢抑制粒子)
本実施形態に係る光沢抑制粒子は、上記組み換え構造タンパク質と非相溶性であり、かつ、0.2μm超10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子である。光沢抑制とは、光沢抑制粒子を添加することで、繊維表面に凹凸を付与することにより、繊維の光沢を抑制(艶消し)することをいう。繊維の用途に応じて用いる粒子の粒子径及び添加量を適宜選択することで、繊維の光沢を所望の光沢まで抑制(艶消し)することができ、光沢をコントロールすることができる。非相溶性とは、組み換え構造タンパク質と相溶しないか、部分的に相溶しない性質をいう。
【0191】
光沢抑制粒子としては、主成分である組み換え構造タンパク質と相溶しないか、部分的に相溶しない構造を有する有機高分子粒子及び金属酸化物であればいずれも使用することができる。光沢抑制粒子は1種以上を組みわせて使用してもよい。
【0192】
有機高分子粒子としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン複合樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、ポリアリレート、フッ素樹脂及びセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であってよく、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン複合樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂及びセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であってよい。
【0193】
有機高分子粒子としては、繊維物性がより維持される(繊維物性の低下をより防ぐ)という観点からは、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子が好ましく、ウレタン樹脂及びアクリルウレタン複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子がより好ましく、ウレタン樹脂粒子が特に好ましい。アクリル樹脂としては架橋アクリル樹脂が好ましい。
【0194】
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン及び二酸化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粒子であってよく、酸化チタン粒子であってよい。
【0195】
上述の粒子は、公知の方法によって製造することができるが、市販で入手することもできる。例えば、アクリル樹脂粒子(アイカ工業株式会社製GM-0449S-2及びGM-0630H)、ウレタン粒子(アイカ工業株式会社製GU-0700P、並びに根上工業株株式会社製C-800透明(Tg=-13℃)、B-800T、BP-892T、BP-1092T、BP-1592T及びCE-800T)、アクリルウレタン複合粒子(根上工業株株式会社製TE-812T)セルロース粒子(根上工業株株式会社製セルロースビーズ)、シルク粒子(一丸ファルコス株式会社製シルクゲンGパウダー)、大豆たんぱく質粒子(不二製油株式会社製ニューフジプロSHE及びフジプロE)、酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製SA-1)などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0196】
本実施形態に係る光沢抑制粒子の平均粒子径は0.2μm超10μm以下である。平均粒子径とは、粒子が球状粒子と仮定した場合の直径の平均値である。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法、コールターカウンター法等によって測定し、メジアン径や算術平均径として算出することができる。本実施形態で規定する「平均粒子径」は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定した際の、そのメジアン径を平均粒子径としたものである。平均粒子径が10μm以下であると、繊維中の粒子界面に生じる空隙をより低減することができる。平均粒子径が0.2μm超であると、より繊維の光沢抑制(艶消し)効果を得ることができ、人毛に近い自然な光沢に近づけることができ得る。異なる平均粒子径を有する光沢抑制粒子を組み合わせて使用してもよい。
【0197】
光沢抑制粒子の平均粒子径は、1.5μm以上10μm以下であってよく、1.5μm以上9.0μm以下であってよく、1.5μm以上9.5μm以下であってよく、1.5μm以上8.5μm以下であってよく、1.5μm以上8.0μm以下であってよく、1.5μm以上7.5μm以下であってよく、1.5μm以上7.0μm以下であってよく、1.5μm以上6.5μm以下であってよく、1.5μm以上6.0μm以下であってよく、1.5μm以上5.5μm以下であってよく、1.5μm以上5.0μm以下であってよく、1.5μm以上4.5μm以下であってよく、1.5μm以上4.0μm以下であってよく、2.0μm以上10μm以下であってよく、2.0μm以上9.0μm以下であってよく、2.0μm以上9.5μm以下であってよく、2.0μm以上8.5μm以下であってよく、2.0μm以上8.0μm以下であってよく、2.0μm以上7.5μm以下であってよく、2.0μm以上7.0μm以下であってよく、2.0μm以上6.5μm以下であってよく、2.0μm以上6.0μm以下であってよく、2.0μm以上5.5μm以下であってよく、2.0μm以上5.0μm以下であってよく、2.0μm以上4.5μm以下であってよく、2.0μm以上4.0μm以下であってよく、2.5μm以上10μm以下であってよく、2.5μm以上9.0μm以下であってよく、2.5μm以上9.5μm以下であってよく、2.5μm以上8.5μm以下であってよく、2.5μm以上8.0μm以下であってよく、2.5μm以上7.5μm以下であってよく、2.5μm以上7.0μm以下であってよく、2.5μm以上6.5μm以下であってよく、2.5μm以上6.0μm以下であってよく、2.5μm以上5.5μm以下であってよく、2.5μm以上5.0μm以下であってよく、2.5μm以上4.5μm以下であってよく、2.5μm以上4.0μm以下であってよく、3.0μm以上10μm以下であってよく、3.0μm以上9.0μm以下であってよく、3.0μm以上9.5μm以下であってよく、3.0μm以上8.5μm以下であってよく、3.0μm以上8.0μm以下であってよく、3.0μm以上7.5μm以下であってよく、3.0μm以上7.0μm以下であってよく、3.0μm以上6.5μm以下であってよく、3.0μm以上6.0μm以下であってよく、3.0μm以上5.5μm以下であってよく、3.0μm以上5.0μm以下であってよく、3.0μm以上4.5μm以下であってよく、3.0μm以上4.0μm以下であってよい。
【0198】
本実施形態に係る光沢抑制粒子のガラス転移温度は、200℃以下であってよく、150℃以下であってよく、100℃以下であってよく、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましく、40℃以下がさらに好ましく、30℃以下であることが特に好ましい。ガラス転移温度がより低い程、粒子が軟化しやすく、繊維の延伸時に粒子界面に生じる空隙(ボイド)をより低減することができる。
【0199】
本実施形態の人工毛髪用繊維において、光沢抑制粒子の含有量が、上記組み換え構造タンパク質100質量部に対し、1質量部超12質量部以下であり、好ましくは、2質量部以上10質量部以下であり、3質量部以上10質量部以下であり、3質量部以上8質量部以下であり、3質量部以上7質量部以下であり、3質量部以上6質量部以下であり、2質量部~8質量部であってよく、2質量部~7.5質量部であってよく、2質量部~7質量部であってよく、2質量部~6.5質量部であってよく、2質量部~6質量部であってよく、2質量部~5.5質量部であってよく、2.5質量部~5.5質量部であってよく、4質量部~6質量部であってよく、4質量部~5質量部であってよい。組み換え構造タンパク質100質量部に対し、光沢抑制粒子の含有量を1質量部超とすることで、光沢抑制効果をより高めることができる。組み換え構造タンパク質100質量部に対し、光沢抑制粒子の含有量を12質量部以下とすることで、繊維に触れた際に異物感が生じるのをより低減することができる。
【0200】
〔人工毛髪用繊維の製造方法〕
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、組み換え構造タンパク質、上記組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子、及び有機溶媒を含む分散液を紡糸口金から吐出した後、上記溶媒を除去して構造タンパク質繊維を形成させる工程(紡糸工程)を含み、上記光沢抑制粒子の含有量が、上記組み換え構造タンパク質100質量部に対し1質量部超12質量部以下であり、上記光沢抑制粒子が0.2μm以上10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子であることを特徴とする。組み換え構造タンパク質及びその製造方法、並びに光沢抑制粒子は上述のとおりである。
【0201】
(分散液)
本実施形態に係る分散液は、組み換え構造タンパク質、組み換え構造タンパク質と非相溶性の光沢抑制粒子、及び有機溶媒を含み、光沢抑制粒子の含有量が、組み換え構造タンパク質100質量部に対し、1質量部超12質量部であり、光沢抑制粒子が0.2μm超10μm以下の平均粒子径を有する有機高分子粒子又は金属酸化物粒子である。分散液は、紡糸のためのドープ液(紡糸原液)として用いる。
【0202】
本実施形態に係る有機溶媒としては、組み換え構造タンパク質を分散又は溶解し得るものであればいずれも使用することができ、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン(DMI)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド(NMO)及びギ酸等が挙げられる。組み換え構造タンパク質の溶解性がより良好であるとの観点から、組み換え構造タンパク質の溶解溶媒としては、HFIP、DMSO及びギ酸がより好ましく、HFIP及びギ酸がさらに好ましく、ギ酸が特に好ましい。これらの有機溶媒は、水を含んでいてもよい。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0203】
分散液はさらに溶解促進剤を含んでもよい。溶解促進剤としては、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。
【0204】
溶解促進剤の含有量は、タンパク質の全量100質量部に対して、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上、2.5質量部以上又は3.0質量部以上であってよい。溶解促進剤の含有量は、タンパク質の全量100質量部に対して、10質量部以下、7.0質量部以下又は5.0質量部以下であってよい。
【0205】
本実施形態に係る分散液の粘度は、紡糸原液として使用する場合、その粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定してよく、例えば、35℃において1,000~35,000mPa・sec、3,000~35,000mPa・sec、5,000~35,000mPa・sec、7,000~35,000mPa・sec、5,000~30,000mPa・sec、7,000~30,000mPa・sec、10,000~30,000mPa・sec等に設定すればよい。紡糸原液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
【0206】
(紡糸工程)
人工毛髪用繊維又はその原料繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。例えば、まず、上述した組み換え構造タンパク質及び光沢抑制粒子を所望の配合割合で上述した有機溶媒に、必要に応じて溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、分散し、上述した分散液(ドープ液)を準備する。組み換え構造タンパク質及び光沢抑制粒子の添加順番は同時でもよく前後でもよい。好ましくは有機溶媒に光沢抑制粒子を分散してから、組み換え構造タンパク質を溶解させることが好ましい。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とする原料繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。ここで、原料繊維とは、紡糸工程直後の構造タンパク質繊維を意味し、原料繊維をそのまま人工毛髪用繊維としてもよく、例えば水と接触させて水収縮させてから人工毛髪用繊維としてもよい。
【0207】
図9は、原料繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図9に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
【0208】
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金(紡糸口金)9から押し出される(吐出される)。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、改変フィブロインが凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、原料繊維が、巻糸体5として得られる。18a~18gは糸ガイドである。
【0209】
凝固液11としては、脱溶媒できる溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0~30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0ml/時間が好ましく、1.4~4.0ml/時間であってよい。凝固したタンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1~20m/分であってよく、1~3m/分であってよい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であってよい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0210】
なお、原料繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
【0211】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
【0212】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
【0213】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0214】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。原料繊維が2倍以上の延伸倍率で紡糸された繊維であると、原料繊維を水に接触させて湿潤状態にした際の収縮率は、より高くなる。
【0215】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、上記で得られた原料繊維を水分により収縮させる収縮工程をさらに備えてもよい。収縮工程は、例えば、上述した原料繊維(紡糸後、水分と接触する前の原料繊維)を、水分と接触させて不可逆的に収縮させるステップ(接触ステップ)を備えるものであってよい。収縮工程は、接触ステップの後、繊維を乾燥させて更に収縮させるステップ(乾燥ステップ)を備えるものであってもよい。
【0216】
図10は、水との接触による原料繊維の長さ変化の例を示す図である。本実施形態に係る原料繊維は、水に接触(湿潤)させることにより収縮する(図10中、「一次収縮」で示した長さ変化)特性を有する。一次収縮後、乾燥させると更に収縮する(図10中、「二次収縮」で示した長さ変化)。二次収縮後、再度水に接触させると二次収縮前と同一又はそれに近似した長さにまで伸長し、以後乾燥と湿潤を繰り返すと、二次収縮と同程度の幅(図10中、「伸縮率」で示した幅)で、収縮と伸長を繰り返す。
【0217】
接触ステップでの原料繊維の不可逆的な収縮(図10中の「一次収縮」)は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、原料繊維の二次構造や三次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等によって残留応力を有する原料繊維において、水が繊維間又は繊維内へ浸入することにより、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。したがって、収縮工程での原料繊維の収縮率は、例えば、上記した原料繊維の製造過程での延伸倍率の大きさに応じて任意にコントロールすることもできると考えられる。
【0218】
接触ステップでは、紡糸後、水と接触する前の原料繊維を水と接触させて、原料繊維を湿潤状態にする。湿潤状態とは、原料繊維の少なくとも一部が水で濡れた状態を意味する。これにより、外力によらずに原料繊維を収縮させることができる。この収縮は不可逆的なものである(図10の「一次収縮」に相当する)。
【0219】
接触ステップで原料繊維に接触させる水の温度は、沸点未満であってよい。これにより、取扱い性及び収縮工程の作業性等が向上する。また、収縮時間を充分に短縮するという観点からは、水の温度の下限値が、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが更に好ましく、95℃以上であることが特に好ましい。水の温度の上限値は沸点以下であることが好ましい。
【0220】
接触ステップにおいて、水を原料繊維に接触させる方法は、特に限定されない。当該方法として、例えば、原料繊維を水中に浸漬する方法、原料繊維に対して水を常温で又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び原料繊維を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、接触ステップにおいては、収縮時間の短縮化が効果的に図れるとともに、加工設備の簡素化等が実現できることから、原料繊維を水中に浸漬する方法が好ましい。
【0221】
接触ステップにおいて、原料繊維を弛緩させた状態で水に接触させると、原料繊維が、単に収縮するだけでなく、波打つように縮れてしまうことがある。このような縮れの発生を防止するために、例えば、原料繊維を繊維軸方向に緊張させ(引っ張り)ながら水と接触させるなど、原料繊維を弛緩させない状態で接触ステップを実施してもよい。
【0222】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維の製造方法は、乾燥ステップを更に備えるものであってもよい。乾燥ステップは、接触ステップを経た原料繊維(又は接触ステップを経て得られた人工毛髪用繊維)を乾燥させて更に収縮させる工程である(図10の「二次収縮」に相当する)。乾燥は、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥設備としては、接触型又は非接触型の公知の乾燥設備がいずれも使用可能である。また、乾燥温度も、例えば、原料繊維に含まれるタンパク質が分解したり、原料繊維が熱的損傷を受けたりする温度よりも低い温度であれば何ら限定されるものではないが、一般には、20~150℃の範囲内の温度であり、50~100℃の範囲内の温度であることが好ましい。温度がこの範囲にあることにより、繊維の熱的損傷、又は繊維に含まれるタンパク質の分解が生ずることなく、繊維が、より迅速且つ効率的に乾燥される。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜に設定され、例えば、過乾燥による人工毛髪用繊維の品質及び物性等への影響が可及的に排除され得る時間等が採用される。
【0223】
本実施形態に係る人工毛髪用繊維は、安定供給が可能で、且つ人毛との間で違和感が生ずることを抑制し得るため、人工毛髪として好適に用いられる。
〔人工毛髪〕
【0224】
本実施形態における人工毛髪は特に限定されないが、例えば、ウィッグ(かつら、ヘアーピース)、エクステンション、ヘアーアクセサリー、ブレイド又はドールヘアー(人形用ヘアー)等の頭飾製品が挙げられる。ウィッグは、フルウィッグ、ハーフウィッグ、部分ウィッグ、キューブウィッグ、トップカバー、前髪ウィッグ、ポイントウィッグ等であってよい。
【実施例0225】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0226】
〔組み換え構造タンパク質の製造〕
(1)発現ベクターの作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号40を有する組み換え構造タンパク質(以下、「PRT966」を設計した。なお、配列番号40で示されるアミノ酸配列は、疎水度の向上を目的として、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列が付加されたものである。
【0227】
次に、設計した配列番号40のアミノ酸配列を有する組み換え構造タンパク質(クモ糸フィブロイン)PRT966をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、それぞれタンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組み換えて発現ベクターを得た。
【0228】
(2)組み換え構造タンパク質の発現
(1)で得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表4】
【0229】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【表5】
【0230】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする組み換え構造タンパク質のバンドの出現により、目的とする組み換え構造タンパク質(クモ糸フィブロイン)の発現を確認した。
【0231】
(3)組み換え構造タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、組み換え構造タンパク質(クモ糸フィブロイン、PRT966)を得た。
【0232】
(4)光沢抑制粒子の分散性評価
(4-1)有機溶媒に対する光沢抑制粒子の分散性評価
表6に示した各光沢抑制粒子の有機溶媒への分散性を評価した。有機高分子粒子として、アクリル樹脂粒子(アイカ工業株式会社製GM-0449S-2及びGM-0630H)、ウレタン粒子(アイカ工業株式会社製GU-0700P、並びに根上工業株株式会社製C-800透明(Tg=―13℃)、B-800T、BP-892T、BP-1092T、BP-1592T及びCE-800T)、アクリルウレタン複合粒子(根上工業株株式会社製TE-812T)セルロース粒子(根上工業株株式会社製セルロースビーズ)、シルク粒子(一丸ファルコス株式会社製シルクゲンGパウダー)、及び大豆たんぱく質粒子(不二製油株式会社製ニューフジプロSHE及びフジプロE)を用いた。金属酸化物粒子としては、酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製SA-1)を用いた。
【0233】
有機溶媒としてのギ酸と、各粒子と、をそれぞれ室温で攪拌し、ギ酸分散液を調製した。ギ酸分散液全量に対するギ酸の含有量は97質量%とし、各粒子の含有量は3質量%とした。調製したギ酸分散液を3時間静置後、ギ酸分散液中の粒子の分散性を目視で評価した。評価結果を表6に示した。また、各ギ酸分散液の写真を図6に示した。分散性の評価基準は以下に示すとおりである。
◎:粒子が均一に分散
○:粒子が一部沈降又は凝集し、不均一に分散
△:相分離が生じるも、粒子が一部分散
×:相分離(粒子が底部に沈降又は上部に分離)
溶解:粒子が溶解
【0234】
(4-2)ドープ液の光沢抑制粒子の分散性評価
(4-1)で調製したギ酸分散液に、上記精製工程で得られたクモ糸フィブロイン(PRT966)を添加し、室温で撹拌して溶解させ、ドープ液を調製した。ドープ液全量に対するクモ糸フィブロインの含有量は30質量%とした。調製したドープ液を8時間静置した後、ドープ液中の粒子の分散性を目視で評価した。分散性の評価結果を表6に、各分散液の写真を図6に示した。分散性の評価基準は以下に示すとおりである。
◎:粒子が均一に分散
○:粒子が一部沈降又は凝集し、不均一に分散
△:相分離が生じるも、粒子が一部分散
×:相分離(粒子が底部に沈降又は上部に分離)
溶解:粒子が溶解
【表6】
【0235】
表6と図6に示したとおり、アクリル樹脂粒子、ウレタン粒子、アクリルウレタン複合粒子、シリコーン樹脂粒子、セルロース粒子、酸化チタン粒子及びシリコーン粒子が添加されたギ酸分散液では、粒子の沈降、凝集や相分離が生じた(比較例1~17)。シルク粒子及び大豆タンパク質粒子が添加されたギ酸溶液では、いずれの粒子もギ酸に溶解し、溶液を呈した(比較例18~23)。一方で、クモ糸フィブロインを添加したドープ液では、アクリル樹脂粒子、ウレタン粒子、アクリルウレタン複合粒子、セルロース粒子、酸化チタン粒子及びシリコーン粒子を用いたいずれの場合においても、8時間経過後も粒子がドープ液中で均一に分散していた(試験例1~17)。クモ糸フィブロインが分散補助剤としての役割を果たしたことが示された。
【0236】
[構造タンパク質繊維(人工毛髪用繊維)の製造]
(1)ドープ液(分散液)の調製
表7、表8及び表9に示した各粒子と、ギ酸(純度99%)と、を室温で混合撹拌した。上記精製工程で得られた組み換え構造タンパク質粉末(クモ糸フィブロイン、PRT966)をさらに添加し、室温で撹拌して溶解させ、ドープ液(分散液)を調製した。
【0237】
光沢抑制粒子は、有機高分子粒子と金属酸化物粒子をそれぞれ用いた。有機高分子粒子としては、アクリル樹脂粒子(アイカ工業株式会社製、GM-0449S-2)、ウレタン粒子(根上工業株株式会社製、CE-800T(Tg=34℃)、BP-892T(Tg=-37℃)、BP-1092T(Tg=-37℃)及びBP-1592T(Tg=-37℃))及びアクリルウレタン複合粒子(根上工業株株式会社製、TE-812T)を用いた。金属酸化物粒子としては、酸化チタン粒子(堺化学工業株式会社製、SA-1)を用いた。
【0238】
ドープ液中のギ酸とクモ糸フィブロインの含有量は、ギ酸とクモ糸フィブロインの合計を100質量%として、それぞれ70質量%(ギ酸)、30質量%(クモ糸フィブロイン)とした。ドープ液中の粒子の含有量は、クモ糸フィブロインに対して0.1質量%、1.0質量%、3.0質量%、3.5質量%、5.3質量%及び7.0質量%とした。比較用として、粒子を添加しなかった他は、上記と同様にして比較用のドープ液を調製した。
【0239】
(2)構造タンパク質繊維(人工毛髪用繊維)の製造
(2-1)湿式紡糸
公知の紡糸装置を使用し、上記(1)で調製したドープ液(分散液)を、ギアポンプで凝固液中へ吐出させ、湿式紡糸を行なった。紡糸条件は下記に示すとおりとした。これにより、構造タンパク質繊維(クモ糸フィブロイン繊維)を得た(実施例1~14)。実施例1~6の構造タンパク質繊維中の光沢抑制粒子の含有量は、約3.4質量%(ドープ液への添加量3.5質量%)であった。比較用として、上記(1)で調製した粒子を含まないドープ液を用いて、上記と同様に繊維を得た(比較例24)。
(紡糸条件)
紡糸ノズル孔径:0.3mm
凝固液:18質量%硫酸ナトリウム水溶液
凝固液の温度:40℃
水洗浄浴の温度:90℃
水洗浄浴における延伸倍率:3.4倍
ホットローラー温度:60℃
【0240】
(2-2)収縮処理
(2-1)で得られた構造タンパク質繊維の防縮処理を以下の手順で行なった。繊維を長さ約60cmにカットして複数本束ね、繊度150デニールの繊維束とした。この繊維束を90℃の水に1時間浸漬(湿潤)させ、紡糸工程由来の繊維中の残留応力を除去し、室温で1晩静置して乾燥させた。
【0241】
(3)物性評価
上記(2)で得られた構造タンパク質繊維の結節強度[gf/D]、結節伸度[%]及び弾性率[gf/D]の測定は、JIS L1013に基づき、インストロン社製3345シリーズの引張試験機を用いて行なった。試験条件は、温度20℃、相対湿度65%の環境下、試験長50mm、試験速度50mm/分とし、ロードセル容量10Nを用いて測定した。組み換え構造タンパク質繊維の各測定値は、マルチフィラメントの束から無作為に5本のモノフィラメントを抜き取った、サンプル数n=5の平均値として算出した。物性の評価結果を表7、表8及び表9に示した。結節強度[gf/D]と弾性率[gf/D]の値は、粒子を含まない繊維(比較例24)の結節強度[gf/D]と弾性率[gf/D]の値を100%とした時の、相対値として示した。
【0242】
(4)光沢評価
上記(2)で得られた繊維の光沢を、蛍光灯下と太陽光下で目視評価した。評価結果を表7、表8及び表9に示した。光沢評価の基準は以下に示すとおりである。
A:対比して注意深く比較しても、人毛との差を認めることができない程度の光沢
B:対比して注意深く比較した場合に、人毛よりも光沢が多い、または、少ないと判断できる光沢
C:対比して通常の注意力で比較した場合に、人毛よりも光沢が多い、または、少ないと判断できる光沢
D:対比を要することなく、明らかに人毛よりも光沢が多すぎる、または、少なすぎると判断できる光沢
【表7】
【0243】
表7に示したとおり、光沢抑制粒子を含まない繊維(比較例24)および平均粒子径が0.2μmの光沢抑制粒子を含む繊維(比較例25)と比較すると、(2)で得られた構造タンパク質繊維(実施例1~6)では、アクリル樹脂粒子、ウレタン粒子及びアクリルウレタン複合粒子(有機高分子粒子)のいずれの光沢抑制粒子を用いた場合も、結節強度の低下が抑制され、弾性率が維持され、かつ自然な光沢を呈した。加えて、結節伸度が向上したという、予想されない秀逸な結果が得られた。特に平均粒子径5.8μmのウレタン粒子を用いた構造タンパク質繊維では、人毛と比較して遜色ない光沢を得ることができた(実施例4)。加えて、光沢抑制粒子に高植物化ウレタン(実施例4~6)を用いた場合には、紡糸安定性も得られた。
【表8】
【0244】
表8に示したとおり、光沢抑制粒子を含まない繊維(比較例24)と光沢抑制粒子の添加量を0.1~1.0質量%とした繊維(比較例26~27)と比較すると、(2)で得られた1.0質量%越のアクリル樹脂粒子を含む組み換え構造タンパク質繊維(実施例7~8)では、結節強度と弾性率の低下が抑制され、かつ、自然な光沢を呈した。加えて、結節伸度が向上したという、予想されない秀逸な結果が得られた。光沢抑制粒子の添加量を1.0質量%超とすることで、光沢抑制(つや消し)効果が得られることが確認された。
【表9】
【0245】
表9に示したとおり、光沢抑制粒子を含まない繊維(比較例24)と比較すると、(2)で得られたウレタン粒子を含む構造タンパク質繊維(実施例9~14)では、結節強度と弾性率の低下が抑制され、かつ自然な光沢を呈した。加えて、結節伸度が向上したという、予想されない秀逸な結果が得られた。さらに、紡糸安定性にも優れていたことが確認された。
【0246】
(5)繊維の表面と断面の観察
上記(2)で得られた繊維の表面と断面をSEM(Phenome ProX Desktop SEM、Thermo Fisher Scientific社製)を用い、倍率1000倍、加速電圧15kVの条件で観察した。実施例1~6で得られた構造タンパク質繊維(クモ糸フィブロイン繊維)の側面と断面のSEM画像を図7に示した。比較用として、粒子を含まない繊維(比較例24)の側面と断面のSEM画像を図8に示した。
【0247】
図7及び図8に示したとおり、(2)で得られた、光沢抑制粒子を添加した組み換え構造タンパク質繊維(実施例1~6)では、アクリル樹脂粒子、ウレタン粒子及びアクリルウレタン複合粒子(有機高分子粒子)、並びに酸化チタン粒子(金属酸化物粒子)(比較例25)のいずれの粒子を用いた場合にも、粒子が局在することなく、繊維表面と繊維内部に分散していることが確認された。なお、繊維断面の画像に観察される穴部は、SEM試料作成時(断面カット時)に、粒子が繊維内部から脱落したもの、又は粒子と組み換え構造タンパク質間の界面に延伸時に生じたボイド(空隙)と考えられる。
【0248】
以上のとおり、本発明の構造タンパク質繊維は、人工毛髪用繊維として好適に用いることができることが示された。
【符号の説明】
【0249】
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…ドープ液、10…紡糸装置、20…凝固液槽、21…延伸浴槽、36…原料繊維。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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