(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007509
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/42 20060101AFI20230112BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C12M1/42
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019217941
(22)【出願日】2019-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】502251061
【氏名又は名称】株式会社ベックス
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】森泉 康裕
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 壮
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 祐介
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA24
4B029BB11
4B029CC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温加圧処理ができ、破損の恐れが少ない、細胞融合またはエレクトロポレーションに用いるデバイスを提供する。
【解決手段】デバイスの基材2として樹脂を用い、基材に形成した電極挿入溝に電極4、5を挿入・保持することで、高温加圧処理の回数が増加しても電極間の距離をほぼ同じに保てる。また、基材の材料として樹脂を用いることから、ガラスと比較して、取り扱い中の衝撃による破損の恐れを減少できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞融合またはエレクトロポレーションに用いるデバイスであって、
該デバイスは、
基材と、
溶液収容部と、
第1電極および第2電極と、
第1電極挿入溝および第2電極挿入溝と、
を含み、
前記基材は、
樹脂で形成され、
基材第1面と、該基材第1面とは反対側の面である基材第2面とを有し、
前記溶液収容部は、
前記基材第1面から基材第2面方向に形成され、
第1壁面と、
前記第1壁面と略等間隔となるように形成された第2壁面と、
底面と、
を有し、
前記第1電極挿入溝は、前記第1壁面と略平行方向となるように、前記底面から前記基材第2面方向に形成され、
前記第2電極挿入溝は、前記第2壁面と略平行方向となるように、前記底面から前記基材第2面方向に形成され、
前記第1電極および前記第2電極は、
電極第1面と、該電極第1面とは反対側の面である電極第2面とを有し、
前記第1電極は、
前記電極第1面が、前記第1壁面と前記第1電極挿入溝の挿入溝第1面に面し、
前記電極第2面が前記第2壁面方向に移動不能となるように、
前記第1電極挿入溝に挿入・保持され、
前記第2電極は、
前記電極第1面が、前記第2壁面と前記第2電極挿入溝の挿入溝第1面に面し、
前記電極第2面が前記第1壁面方向に移動不能となるように、
前記第2電極挿入溝に挿入・保持される
デバイス。
【請求項2】
(1)前記第1電極の一端が、前記溶液収容部から前記基材の内部まで延伸する第1延伸部を有し、
前記基材は、前記第1延伸部を挿入・保持するための第1延伸部挿入孔を含み、
前記第1延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面に対して略鉛直方向に移動不能となるように、前記第1延伸部挿入孔に挿入・保持され、
及び/又は、
(2)前記第2電極の一端が、前記溶液収容部から前記基材の内部まで延伸する第2延伸部を有し、
前記基材は、前記第2延伸部を挿入・保持するための第2延伸部挿入孔を含み、
前記第2延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面に対して略鉛直方向に移動不能となるように、前記第2延伸部挿入孔に挿入・保持される
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
(1)前記第1電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材の外部まで延伸する第3延伸部を有し、
前記基材は、前記第3延伸部を貫通・保持するための第3延伸部貫通孔を含み、
前記第3延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第3延伸部貫通孔に貫通・保持され、
及び/又は、
(2)前記第2電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材の外部まで延伸する第4延伸部を有し、
前記基材は、前記第4延伸部を貫通・保持するための第4延伸部貫通孔を含み、
前記第4延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第4延伸部貫通孔に貫通・保持される
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
(1)前記第1電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材に延伸する第5延伸部を有し、
前記基材は、
前記第5延伸部を貫通・保持するための第5延伸部貫通孔と、
前記第5延伸部の端部を収容する第1収容部と、
を含み、
前記第5延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第5延伸部貫通孔に貫通・保持され、
及び/又は、
(2)前記第2電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材に延伸する第6延伸部を有し、
前記基材は、
前記第6延伸部を貫通・保持するための第6延伸部貫通孔と、
前記第6延伸部の端部を収容する第2収容部と、
を含み、
前記第6延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第6延伸部貫通孔に貫通・保持される
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1電極及び/又は前記第2電極に、前記基材第1面より突出する突出部が形成されている
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記基材第1面の外周部に段差部が形成され、
前記段差部は、前記基材第2面とは反対方向に段差を有するように形成されている
請求項1~5の何れか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、細胞融合またはエレクトロポレーションに用いるデバイス(以下、単に「デバイス」と記載することがある。)に関する。特に、オートクレーブによる高温加圧処理が繰り返し可能なデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
二つ以上の細胞から一つの雑種細胞を形成する細胞融合が知られている。細胞融合は、プロトプラスト-PEG法の他、電気刺激による方法も知られている。また電気パルスを細胞に印加することで細胞膜の透過性を上げ、DNAなどの分子を真核生物や原核生物の細胞に導入する、エレクトロポレーション法も知られている。
【0003】
電気的刺激による細胞融合やエレクトロポレーションを実施する際には、コンタミを防止する必要がある。そのため、使い捨てのデバイスが知られている。一方、デバイスを再利用する場合は、コンタミを防止する必要があることから、一般的に、高温加圧処理をする必要がある。
【0004】
高温加圧処理可能なデバイスとしては、板型電極の一対の縁が互いに平行になるようにこれらの板型電極が細胞懸濁液収容部分を除いて支持板に接着して固定され、細胞懸濁液収容部分の底板として透明ガラス薄板が前記板型電極に接着され、細胞懸濁液収容部分を除いた部分の前記板型電極の縁の対向間隙には絶縁物が介在している細胞融合チャンバが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞融合を実施する際には、倒立顕微鏡で観察をしながら電気を印加する。したがって、特許文献1に記載の従来の細胞融合チャンバは透明ガラスを用いている。しかしながら、ガラスを用いた場合は、取扱いの際に衝撃により破損するという問題がある。
【0007】
また、特許文献1には、透明ガラス以外の材料として、従来は透明樹脂を用いていたことも記載されている。ところで、細胞融合やエレクトロポレーションの効率を上げるためには、電気印加条件の最適化が必要である。電気印加条件は、電極間に充填する溶液の導電率、電極間の距離、細胞や細菌等の種類に応じて、電極に印加する電流値や電圧値を調整する必要がある。しかしながら、本発明者らは、従来のデバイスを繰り返し高温加圧処理すると、設定した電気条件のとおりに実験を進められないという問題を新たに発見した。
【0008】
本出願の開示は、上記問題点を解決するためになされたものである。そして、鋭意検討を行ったところ、
(1)特許文献1に記載のように、従来のデバイスは高温加圧処理に耐えられる接着剤を用いて構成部品を接着することで作製、或いは、接着剤に加え、シリコンを併用してデバイスを作製していた、
(2)しかしながら、高温加圧処理の回数が増加するほど接着剤の劣化が進み接着部分に損傷が生じやすくなること、また、シリコンは高温加圧処理をした際に柔らかくなることから、接触等により電極間の距離に変化が生じ、設定した電気印加条件のとおりに細胞融合またはエレクトロポレーションが実施できないこと、
(3)ガラスより樹脂の方が加工しやすいことから、デバイスの基材として樹脂を用い、基材に形成した電極挿入溝に電極を挿入・保持することで、高温加圧処理の回数が増加しても電極間の距離をほぼ同じに保てること、
(4)基材の材料として樹脂を用いることから、ガラスと比較して、取り扱い中の衝撃による破損の恐れを減少できること、
を新たに見出した。
【0009】
すなわち、本出願の開示の目的は、高温加圧処理ができ、破損の恐れが少ないデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願における開示は、以下に示す、細胞融合またはエレクトロポレーションに用いるデバイスに関する。
【0011】
[1]細胞融合またはエレクトロポレーションに用いるデバイスであって、
該デバイスは、
基材と、
溶液収容部と、
第1電極および第2電極と、
第1電極挿入溝および第2電極挿入溝と、
を含み、
前記基材は、
樹脂で形成され、
基材第1面と、該基材第1面とは反対側の面である基材第2面とを有し、
前記溶液収容部は、
前記基材第1面から基材第2面方向に形成され、
第1壁面と、
前記第1壁面と略等間隔となるように形成された第2壁面と、
底面と、
を有し、
前記第1電極挿入溝は、前記第1壁面と略平行方向となるように、前記底面から前記基材第2面方向に形成され、
前記第2電極挿入溝は、前記第2壁面と略平行方向となるように、前記底面から前記基材第2面方向に形成され、
前記第1電極および前記第2電極は、
電極第1面と、該電極第1面とは反対側の面である電極第2面とを有し、
前記第1電極は、
前記電極第1面が、前記第1壁面と前記第1電極挿入溝の挿入溝第1面に面し、
前記電極第2面が前記第2壁面方向に移動不能となるように、
前記第1電極挿入溝に挿入・保持され、
前記第2電極は、
前記電極第1面が、前記第2壁面と前記第2電極挿入溝の挿入溝第1面に面し、
前記電極第2面が前記第1壁面方向に移動不能となるように、
前記第2電極挿入溝に挿入・保持される
デバイス。
[2](1)前記第1電極の一端が、前記溶液収容部から前記基材の内部まで延伸する第1延伸部を有し、
前記基材は、前記第1延伸部を挿入・保持するための第1延伸部挿入孔を含み、
前記第1延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面に対して略鉛直方向に移動不能となるように、前記第1延伸部挿入孔に挿入・保持され、
及び/又は、
(2)前記第2電極の一端が、前記溶液収容部から前記基材の内部まで延伸する第2延伸部を有し、
前記基材は、前記第2延伸部を挿入・保持するための第2延伸部挿入孔を含み、
前記第2延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面に対して略鉛直方向に移動不能となるように、前記第2延伸部挿入孔に挿入・保持される
上記[1]に記載のデバイス。
[3](1)前記第1電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材の外部まで延伸する第3延伸部を有し、
前記基材は、前記第3延伸部を貫通・保持するための第3延伸部貫通孔を含み、
前記第3延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第3延伸部貫通孔に貫通・保持され、
及び/又は、
(2)前記第2電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材の外部まで延伸する第4延伸部を有し、
前記基材は、前記第4延伸部を貫通・保持するための第4延伸部貫通孔を含み、
前記第4延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第4延伸部貫通孔に貫通・保持される
上記[1]または[2]に記載のデバイス。
[4](1)前記第1電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材に延伸する第5延伸部を有し、
前記基材は、
前記第5延伸部を貫通・保持するための第5延伸部貫通孔と、
前記第5延伸部の端部を収容する第1収容部と、
を含み、
前記第5延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第5延伸部貫通孔に貫通・保持され、
及び/又は、
(2)前記第2電極の他端が、前記溶液収容部から前記基材に延伸する第6延伸部を有し、
前記基材は、
前記第6延伸部を貫通・保持するための第6延伸部貫通孔と、
前記第6延伸部の端部を収容する第2収容部と、
を含み、
前記第6延伸部は、前記電極第1面および前記電極第2面の略鉛直方向に移動不能となるように、前記第6延伸部貫通孔に貫通・保持される
上記[1]または[2]に記載のデバイス。
[5]前記第1電極及び/又は前記第2電極に、前記基材第1面より突出する突出部が形成されている
上記[1]または[2]に記載のデバイス。
[6]前記基材第1面の外周部に段差部が形成され、
前記段差部は、前記基材第2面とは反対方向に段差を有するように形成されている
上記[1]~[5]の何れか一つに記載のデバイス。
【発明の効果】
【0012】
本出願で開示するデバイスは、高温加圧処理の回数が増加しても電極間の距離をほぼ同じに保つことができる。更に、ガラスを用いたデバイスと比較して、取り扱い中に衝撃により破損する恐れが減少する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1A乃至Cは、第1の実施形態に係るデバイス1aを説明するための図である。
【
図2】
図2A乃至Cは、第1の実施形態に係るデバイス1aの変形例1を説明するための図である。
【
図3】
図3A乃至Cは、第1の実施形態に係るデバイス1aの変形例2を説明するための図である。
【
図4】
図4A乃至Cは、第2の実施形態に係るデバイス1dを説明するための図である。
【
図5】
図5A乃至Cは、第3の実施形態に係るデバイス1eを説明するための図である。
【
図6】
図6A乃至Cは、第4の実施形態に係るデバイス1fを説明するための図である。
【
図7】
図7A乃至Cは、第4の実施形態に係るデバイス1fの変形例1を説明するための図である。
【
図8】
図8は図面代用写真で、実施例1で作製したデバイスの写真である。
【
図9】
図9は図面代用写真で、比較例1のデバイスの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、デバイスの実施形態について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0015】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0016】
(方向の定義)
本明細書において、第1電極および第2電極を、第1電極挿入溝および第2電極挿入溝に挿入する方向をZ方向と定義する。なお、Z方向は、例えば、鉛直下向き方向であるが、Z方向は、鉛直下向き方向に限定されない。
【0017】
(デバイス1の第1の実施形態)
図1を参照して、デバイス1の第1の実施形態について説明する。
図1Aは、第1の実施形態に係るデバイス1aの概略上面図である。
図1Bは、
図1AのX-X’方向の概略断面図である。
図1Cは、
図1AのX-X’方向において、電極を基材から分離した状態を示す概略断面図である。
【0018】
第1の実施形態に係るデバイス1aは、基材2と、溶液収容部3と、第1電極4と、第2電極5と、第1電極挿入溝6と、第2電極挿入溝7と、を少なくとも含む。
【0019】
基材2は、樹脂で形成され、基材第1面21と、基材第1面21とは反対側の面である基材第2面22とを有する。
【0020】
溶液収容部3は、基材第1面21に開口部31を有し、基材第1面21から基材第2面22の方向に形成されている。溶液収容部3は、第1壁面32と、第1壁面32と略等間隔となるように形成された第2壁面33と、底面34と、を有している。そして、溶液収容部3は、基材第1面21に設けられた開口部31以外は、基材2で覆われている。
【0021】
第1電極4は、電極第1面41と、電極第1面41とは反対側の面である電極第2面42とを有する。同様に、第2電極5は、電極第1面51と、電極第1面51とは反対側の面である電極第2面52とを有する。
図1Cに示すように、第1電極4の電極第2面42と第2電極5の電極第2面52が対向する。
【0022】
第1電極挿入溝6は、第1電極4を挿入・保持するために形成されている。第1電極挿入溝6は、挿入溝第1面61と、挿入溝第1面61とは反対側の面である挿入溝第2面62とを有する。第1電極挿入溝6は、第1壁面32と略平行方向となるように、底面34から基材第2面22の方向に形成されている。
図1Cに示す例では、挿入溝第1面61は、第1壁面32から延伸した同一の平面(換言すると、第1壁面32と略同一平面)である。したがって、第1電極4を第1電極挿入溝6に挿入すると、第1電極4の電極第1面41は、溶液収容部3の第1壁面32と第1電極挿入溝6の挿入溝第1面61に沿うように(当接するように)配置でき、第1電極4を安定的に配置できる。なお、
図1Cは単なる例示であって、第1壁面32と第1電極挿入溝6の挿入溝第1面61に若干の段差があってもよい。換言すれば、第1電極4の電極第1面41が、溶液収容部3の第1壁面32と第1電極挿入溝6の挿入溝第1面61に面するように配置されればよい。
【0023】
また、第1電極4は、電極第2面42が第2壁面33方向に移動不能となるように、第1電極挿入溝6に挿入・保持されている。第1電極4の電極第2面42が第2壁面33方向に移動不能とするためには、第1電極4の幅(電極第1面41と電極第2面42の距離)と第1電極挿入溝6の幅(挿入溝第1面61と挿入溝第2面62の距離)がほぼ同じとなるようにすればよい。なお、本明細書において、「移動不能」とは、第1電極4と第2電極4との間隔が、物理的に全く変化しないことに加え、設定した電気条件が実験に影響を与えない程度の変化であれば「移動不能」の概念に含まれる。例えば、第1電極4と第2電極4との間隔(電極第2面42と電極第2面52の間隔)の変化が、作製時と比較して、例えば、10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下、1%以下であれば、本明細書の「移動不能」の範囲に含まれる。
【0024】
第2電極挿入溝7は、第2電極5を挿入・保持するために形成されている。第2電極挿入溝7は、挿入溝第1面71と、挿入溝第1面71とは反対側の面である挿入溝第2面72とを有する。第2電極挿入溝7は、第2壁面33と略平行方向となるように、底面34から基材第2面22の方向に形成されている。
図1Cに示す例では、挿入溝第1面71は、第2壁面33から延伸した同一の平面(換言すると、第1壁面32と略同一平面)である。したがって、第2電極5を第2電極挿入溝7に挿入すると、第2電極5の電極第1面51は、溶液収容部3の第2壁面33と第2電極挿入溝7の挿入溝第1面71に沿うように(当接するように)配置でき、第2電極5を安定的に配置できる。なお、
図1Cは単なる例示であって、第2壁面33と第2電極挿入溝7の挿入溝第1面71に若干の段差があってもよい。換言すれば、第2電極5の電極第1面51が、溶液収容部3の第2壁面33と第2電極挿入溝7の挿入溝第1面71に面するように配置されればよい。
【0025】
また、第2電極5は、電極第2面52が第1壁面32方向に移動不能となるように、第2電極挿入溝7に挿入・保持されている。第2電極5の電極第2面52が第1壁面32方向に移動不能とするためには、第2電極5の幅(電極第1面51と電極第2面52の距離)と第2電極挿入溝7の幅(挿入溝第1面71と挿入溝第2面72の距離)がほぼ同じとなるようにすればよい。「移動不能」とは、上記の定義のとおりである。
【0026】
第1電極4と第2電極5は金属で形成されることから変形し難い。したがって、第1電極4を第1電極挿入溝6に挿入・保持し、第2電極5を第2電極挿入溝7に挿入・保持することで、溶液収容部3内で対向する電極第2面42と電極第2面52の距離は変わり難くなる。なお、
図1Cに示す例では、第1電極4と第2電極5は、夫々、第1電極挿入溝6と第2電極挿入溝7に片持ちで保持されている。片持ち保持されている部分の割合が高い程、第1電極4と第2電極5が安定に保持されることから、第1電極4と第2電極5のZ軸方向の長さと、第1電極挿入溝6および第2電極挿入溝7のZ軸方向の深さの関係は、本明細書で開示する目的を達成できる範囲内で適宜調整すればよい。以下の数値は単なる例示であって、限定するものではないが、例えば、第1電極4(第2電極5)のZ軸方向の長さを1とした場合、第1電極挿入溝6(第2電極挿入溝7)に挿入される部分の長さ(換言すると、第1電極挿入溝6、第2電極挿入溝7の深さ)は、0.05~0.5、0.07~0.3、0.1~0.2とすることができる。
【0027】
なお、第1の実施形態に係るデバイス1aは、任意付加的に1以上のスペーサー35を電極第2面42と電極第2面52に当接するように、溶液収容部3に挿入してもよい。スペーサー35を溶液収容部3に挿入することで、電極第2面42と電極第2面52の間隔がより変わり難くなることから、第1電極4(第2電極5)のZ軸方向の長さに対する第1電極挿入溝6(第2電極挿入溝7)に挿入される部分の長さの割合は、上記の例より小さくできる。スペーサー35は非導電性の材料であれば特に制限はなく、例えば、後述する基材2と同じ材料を用いることができる。
【0028】
基材2は、高温加圧処理(約120℃、約2気圧)を繰り返しても変形せず、且つ、顕微鏡で観察できることが好ましいことから、透明な樹脂であれば特に制限はない。例えば、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリアリレート(PAR)、ポリアリルサルホン(PASF)、ポリスルホン(PSU)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
第1電極4および第2電極5は、細胞融合やエレクトロポレーションの分野で一般的に用いられている金属であれば特に制限はない。例えば、ステンレス、白金、アルミ、金、カーボン等が挙げられる。
【0030】
デバイス1aは、例えば、基材2を切削加工することで溶液収容部3、第1電極挿入溝6および第2電極挿入溝7を形成し、別途準備した第1電極4および第2電極5を挿入・保持することで作製すればよい。或いは、切削加工に代え、射出成形または3Dプリンタを用いてもよい。
【0031】
第1の実施形態に係るデバイス1aを使用する際には、溶液収容部3に、(1)細胞融合の場合は、導電性の溶液と融合する細胞を充填し、(2)エレクトロポレーションの場合は、導電性の溶液と細胞とDNA等の導入物質を充填する。そして、電源装置の電極(図示は省略)を、第1電極4および第2電極5に接触させながら、電気を印加すればよい。
【0032】
第1の実施形態に係るデバイス1aは、従来のデバイス作製の際に用いた接着剤を使用しなくても、溶液収容部3において対向する第1電極4の電極第2面42と第2電極5の電極第2面52との間隔が変わりにくい。したがって、デバイス1aを高温加圧処理しても、電気条件が変わりにくいという効果を奏する。また、ガラスを用いたデバイスと比較して、取り扱い中に衝撃により破損する恐れが減少するという効果を奏する。
【0033】
(第1の実施形態に係るデバイス1aの変形例1)
図2を参照して、第1の実施形態に係るデバイス1aの変形例1について説明する。
図2Aは、変形例1に係るデバイス1bの概略上面図である。
図2Bは、
図2AのX1-X1’方向の概略断面図で、
図2Cは、
図2AのX2-X2’方向の概略断面図である。
【0034】
以下に、変形例1に係るデバイス1bについて詳しく説明するが、当該説明は、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施形態において説明済みの事項についての繰り返しとなる説明は省略する。よって、変形例1に係るデバイス1bの実施形態において明示的に説明されなかったとしても、第1の実施形態で説明済みの事項を採用可能であることは言うまでもない。また、後述する変形例2および3、第2乃至第4の実施形態、並びに、その他の実施形態においても、説明済みの実施形態と異なる点を中心に説明し、説明済みの事項について省略はするが、説明済みの事項を採用可能であることは同様である。
【0035】
図2に示す変形例1に係るデバイス1bは、第1電極4に電源装置の電極を接続し易くするために、第1突出部43が形成され、同様に、第2電極5に第2突出部53が形成されている以外は、第1の実施形態に係るデバイス1aと同様である。変形例1に係るデバイス1bを用いた場合は、例えば、電源装置の電極のワニ口クリップ等で挟めばよいことから、操作性が向上するとの効果が得られる。なお、第1突出部43と第2突出部53は、近すぎると、ワニ口クリップ等が接触する恐れがあることから、相対する位置ではなく、離れた位置に形成することが望ましい。なお、
図2に示す例では、第1突出部43および第2突出部53が形成されているが、第1突出部43または第2突出部53の何れか一つが形成されていてもよい。
【0036】
(第1の実施形態に係るデバイス1aの変形例2)
図3を参照して、第1の実施形態に係るデバイス1aの変形例2について説明する。
図3Aは、変形例2に係るデバイス1cの概略上面図である。
図3Bは、
図3AのX1-X1’方向の概略断面図である。
【0037】
変形例2に係るデバイス1cは、
図3Aおよび
図3Bに示すように、基材2の基材第1面21の外周部分に段差部23が形成されている以外は、第1の実施形態に係るデバイス1aと同様である。デバイス1を用いて実験をする場合、溶液収容部3に溶液を充填後、カバーガラス等で覆う場合がある。第1の実施形態に係るデバイス1aを用いた場合でも、カバーガラスで覆うことは可能であるが、カバーガラスが基材第1面21からずれる可能性がある。一方、
図3に示す変形例2に係るデバイス1cでは、段差部23が基材第2面22とは反対方向(換言すると、基材第2面22から開口部31に向かう方向)に段差を有するように形成されていることから、カバーガラスを被せた際に、カバーガラスがずれ難くなる。
【0038】
段差部23は、カバーガラスを被せた際にはずれないが、容易に着脱できるように形成することが望ましい。
図3Aに示す例では、基材第1面21の長手方向の外周に沿って、一対の段差部23が略平行となるように形成されているが、一対の段差部23の距離は、デバイス1cの中央部の距離(L2)より、長手方向の両端部(L1)の方が短くなっている。更に、両端部の一部は、段差部23が形成されていない。したがって、デバイス1cに装着したカバーガラスはずれ難いが、取り外す際には、カバーガラスの端部に指がかけられるので、取り外しが容易である。
【0039】
なお、
図3Aに示す例は、段差部23の一例に過ぎない。カバーガラスを被せた際にはずれないが、容易に着脱できるように形成できれば、その他の実施形態でもよい。例えば、図示は省略するが、カバーガラスの対応する辺の長さより段差部23と段差部23の間隔が短くなるように、複数の段差部23を所定の間隔で配置してもよい。
【0040】
また、
図3Aおよび
図3Bに示す例は、基材第1面21に対して、段差部23を1段形成した例を示している。代替的に、
図3Cに示すように、段差部23は複数段形成してもよい。例えば、
図2に示す変形性1に係るデバイス1bの場合、第1電極4には第1突出部43が形成され、第2電極5には第2突出部53が形成されている。したがって、第1突出部43および第2突出部53より高い第1段差部23aを先ず形成し、第1段差部23aより外周に第2段差部23bを形成してもよい。
図3Cに示す例では、第1突出部43と第2突出部53に当接することなく、カバーガラスを装着できる。なお、
図3Cに示す例の場合は、第1段差部23a及び/又は第2段差部23bに、電源装置の電極を挿入するための電極挿入孔24を形成してもよい。
【0041】
段差部23(第1段差部23aおよび第2段差部23b)は、基材2を切削加工あるいは射出成形する際に、同時に形成すればよい。或いは、基材2とは別体で形成し、ネジ等を用いて固定してもよい。
【0042】
変形性2に係るデバイス1cを用いた場合は、カバーガラスを用いる際の利便性が向上するという効果も奏する。
【0043】
(第2の実施形態に係るデバイス1d)
図4を参照して、第2の実施形態に係るデバイス1dについて説明する。
図4Aは、第2の実施形態に係るデバイス1dの概略上面図である。
図4Bは、
図4AのX1-X1’方向の概略断面図、
図4Cは、
図4AのX2-X2’方向の概略断面図である。なお、
図4AのX-X’方向の断面図は、
図1Bと同じであるので省略する。
【0044】
第2の実施形態に係るデバイス1dは、第1電極4の一端に、溶液収容部3から基材2の内部まで延伸する第1延伸部44を有している。また、基材2は、第1延伸部44を挿入・保持するための第1延伸部挿入孔25aが形成されている。第1延伸部44は、電極第1面41および電極第2面42に対して略鉛直方向(
図4Bの矢印に示す方向)に移動不能となるように、第1延伸部挿入孔25aに挿入・保持される。
図4Bは、第1延伸部挿入孔25aに第1延伸部44が挿入された状態を示しているが、第1延伸部44が
図4Bの矢印に示す方向に移動不能となるようにするためには、
図1Cに示す例と同様に、第1延伸部44の幅(電極第1面41と電極第2面42の距離)と第1延伸部挿入孔25aの幅(
図4Bの矢印に示す方向の距離)がほぼ同じとなるようにすればよい。
【0045】
また、第2の実施形態に係るデバイス1dは、第2電極5の一端に、溶液収容部3から基材2の内部まで延伸する第2延伸部54を有している。また、基材2は、第2延伸部54を挿入・保持するための第2延伸部挿入孔25bが形成されている。第2延伸部54は、電極第1面51および電極第2面52に対して略鉛直方向(
図4Cの矢印に示す方向)に移動不能となるように、第2延伸部挿入孔25bに挿入・保持される。第1延伸部44と同様、第2延伸部54が
図4Cの矢印に示す方向に移動不能となるようにするためには、第2延伸部54の幅(電極第1面51と電極第2面52の距離)と第2延伸部挿入孔25bの幅(
図4Cの矢印に示す方向の距離)がほぼ同じとなるようにすればよい。
【0046】
なお、
図4Aに示す例では、第1延伸部44と第2延伸部54は、第1電極4と第2電極5の反対方向の端部に形成されている。代替的に、第1延伸部44と第2延伸部54は、第1電極4と第2電極5の同じ方向の端部に形成されてもよい。
【0047】
また、
図4Aに示す例では、第1電極4と第2電極5の夫々の端部に延伸部を一つ形成した例を示している。代替的に、第1電極4と第2電極5の一方の端部に延伸部を一つ形成してもよい。更に代替的に、第1電極4の両端部と第2電極5の両端部に延伸部を形成してもよい。
【0048】
第2の実施形態に係るデバイス1dは、第1延伸部44及び/又は第2延伸部54においても、第1電極4および第2電極5の距離が変化する方向への移動が不能となるように保持される。したがって、第2の実施形態に係るデバイス1dは、高温高圧処理しても、第1の実施形態に係るデバイス1aより、更に、電気条件が変わりにくいという効果を奏する。
【0049】
(第3の実施形態に係るデバイス1e)
図5を参照して、第3の実施形態に係るデバイス1eについて説明する。
図5は、第3の実施形態に係るデバイス1eの概略上面図である。
図5Bは、
図5AのX1-X1’方向の概略断面図、
図5Cは、
図5AのX2-X2’方向の概略断面図である。なお、
図5AのX-X’方向の断面図は、
図1Bと同じであるので省略する。
【0050】
第3の実施形態に係るデバイス1eは、第2の実施形態に係るデバイス1dの「第1延伸部44」を「第3延伸部45」、「第2延伸部54」を「第4延伸部55」、「第1延伸部挿入孔25a」を「第3延伸部貫通孔26a」、「第2延伸部挿入孔25b」を「第4延伸部貫通孔26b」と読み替え、「第3延伸部45」が第1電極4の一方の端部のみ、「第4延伸部55」が第2電極5の一方の端部のみに形成される以外は、第2の実施形態に係るデバイス1dと同様である。
【0051】
より具体的には、第2の実施形態に係るデバイス1dの第1延伸部44および第2延伸部54の先端は、基材2の外部に露出していない。一方、第3の実施形態に係るデバイス1eの第3延伸部45および第4延伸部55は、基材2を貫通し、基材2の外部の露出している点で異なる。
【0052】
また、第2の実施形態では、第1延伸部挿入孔25aおよび第2延伸部挿入孔25bの一端は溶液収容部3に連通するが、他端は基材2の内部に留まる。一方、第3の実施形態では、第3延伸部貫通孔26aおよび第4延伸部貫通孔26bの一端は溶液収容部3に連通するが、他端は基材2の外周面(基材第1面21と基材第2面22に交わる面)まで達している点で異なる。
【0053】
第3の実施形態に係るデバイス1eでは、基材2の外部に露出している第3延伸部45および第4延伸部55に、電源装置の電極を接続できる。したがって、第1および第2の実施形態と比較して、電源装置の電極との接続が容易であるという効果を奏する。
【0054】
なお、
図5に示す例では、第1電極4に第3延伸部45を形成し、第2電極5に第4延伸部55を形成した例が示されている。代替的に、第3延伸部45または第4延伸部55の一方のみ形成してもよい。また、第1電極4の第3延伸部45とは反対側の端部に第1延伸部44を形成し、第2電極5の第4延伸部55とは反対側の端部に第2延伸部54を形成してもよい。
【0055】
(第4の実施形態に係るデバイス1f)
図6を参照して、第4の実施形態に係るデバイス1fについて説明する。
図6は、第4の実施形態に係るデバイス1fの概略上面図である。
図6Bは
図6AのX3-X3’方向の概略断面図、
図6Cは
図6AのX4-X4’方向の概略断面図である。なお、
図6AのX-X’方向の断面図は
図1Bと同じ、
図6AのX1-X1’方向の断面図は
図4Bと同じ、
図6AのX2-X2’方向の断面図は
図4Cと同じであるので省略する。
【0056】
第4の実施形態に係るデバイス1fは、第2の実施形態に係るデバイス1dの「第1延伸部44」を「第5延伸部46」、「第2延伸部54」を「第6延伸部56」、「第1延伸部挿入孔25a」を「第5延伸部貫通孔27a」、「第2延伸部挿入孔25b」を「第6延伸部貫通孔27b」と読み替える。そして、(1)基材2の外周面(基材第1面21と基材第2面22に交わる面)から第5延伸部貫通孔27aに達する第1収容部28aが形成され、第5延伸部46の端部が第1収容部28aに収容されている点、および、(2)基材2の外周面から第6延伸部貫通孔27bに達する第2収容部28bが形成され、第6延伸部56の端部が第2収容部28bに収容されている点、以外は、第2の実施形態に係るデバイス1dと同様である。
【0057】
より具体的には、第2の実施形態に係るデバイス1dの第1延伸部44および第2延伸部54の先端は、基材2に埋め込まれている。更に、第3の実施形態に係るデバイス1eの第3延伸部45および第4延伸部55の先端は、基材2を貫通し、基材2の外部の露出している。一方、第4の実施形態に係るデバイス1fは、第5延伸部46および第6延伸部56は、基材2の一部を貫通するが先端は、基材2に形成した第1収容部28aおよび第2収容部28bに収容されている。したがって、第3の実施形態に係るデバイス1eの第3延伸部45および第4延伸部55と同様に、電源装置の電極との接続が容易であるという効果に加え、第5延伸部46および第6延伸部56の先端は基材2の内部に留まることから、取り扱い中に他の部品に引っかかり破損する恐れが第3の実施形態より少なくなるという効果も奏する。
【0058】
なお、
図6に示す例では、第1電極4に第5延伸部46を形成し、第2電極5に第6延伸部56を形成した例が示されている。代替的に、第5延伸部46または第6延伸部56の一方のみ形成してもよい。また、第1電極4の第5延伸部46とは反対側の端部に第1延伸部44を形成し、第2電極5の第5延伸部56とは反対側の端部に第2延伸部54を形成してもよい。
【0059】
(その他の実施形態および変形例)
上記の第1の実施形態およびその変形例、第2乃至第4の実施形態は、単なる例示に過ぎず、本明細書で開示する技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更してもよい。例えば、上述した任意の一つ以上の実施形態(その変形例)を組み合わせてもよい。
【0060】
また、
図1乃至6に示す例では、第1電極4および第2電極5は、基材第1面21とほぼ同じ高さとなるように形成されている。代替的に、第1電極4および第2電極5の高さを、基材第1面21より低くしてもよい。その場合、
図7A乃至
図7Cに示すように、第4の実施形態に係るデバイス1fの第1収容部28aおよび第2収容部28bは、外周面の開口部分以外は全て基材2で覆われる(第4の実施形態に係るデバイス1fの変形例1)。したがって、
図7A乃至
図7Cに示す第4の実施形態に係るデバイス1fの変形例1の第5延伸部46および第6延伸部56の端部は、
図6に示す第4の実施形態に係るデバイス1fより、取り扱い中に他の部品に引っかかり破損するリスクが更に軽減する。なお、
図7Bおよび
図7Cに示す例は、
図6に示すデバイス1fに段差部23を設けることで形成してもよい。
【0061】
以下に実施例を掲げ、各実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単にその具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は、発明の範囲を限定したり、あるいは制限するものではない。
【実施例0062】
<実施例1>
[デバイスの作製]
以下の手順により、デバイスを作製した。
(1)基材2の材料としてポリメチルペンテンを用い、切削加工により、溶液収容部3、第1電極挿入溝6、第2電極挿入溝7、第5延伸部貫通孔27a、第6延伸部貫通孔27b、第1収容部28a、および、第2収容部28bを作製した。
(2)第1電極4および第2電極5の材料としてステンレスを用い、切削加工した基材2に第1電極4および第2電極5を挿入することで、デバイスを作製した。
図8は実施例1で作製したデバイスの写真である。作製したデバイスの第1電極4と第2電極5との間隔は、
図8に示す左側端部、中央、右側端部の順に、1.87、1.91、1.90mmであった。
【0063】
[高温加圧処理]
<実施例2>
オートクレーブを用い、約120℃、2気圧、20分間の処理を、実施例1で作製したデバイスに対し100回実施した。100回実施後の第1電極4と第2電極5との間隔は、
図8に示す左側端部、中央、右側端部の順に、1.87、1.88、1.89mmであった。
【0064】
<比較例1>
実施例1のデバイスに代え、
図9に示す、市販の細胞融合用電極LF497P2(株式会社ベックス社製)を用いた以外は、実施例2と同様の手順で高温加圧処理を繰り返した。しかしながら、比較例1で用いた細胞融合用電極LF497P2は、一対の電極(第1電極4と第2電極5)を等間隔となるようにシリコンで固定している。また、電源装置に接続するためのコネクタと一対の電極とは、ハンダで固定した後に更に接着剤で固定してある。高温加圧処理を10回実施後に比較例1のデバイスを目視したところ、接着剤は劣化により変色していた。また、オードクレーブから取り出した直後に比較例1のデバイスを触ったところ、電極が動くことで一対の電極の間隔が簡単に変わることを確認した。
【0065】
以上の結果より、実施例1で作製したデバイスは、電極の固定に接着剤やシリコン等を使用せず、基材に形成した溝や挿入孔等の構造により電極を固定していることから、高温加圧処理を繰り返し実施しても、第1電極4と第2電極5との間隔が殆ど変化しないことを確認した。
【0066】
<実施例3>
[細胞融合実験]
次に、実施例1で作製したデバイスを用いて、以下の手順で細胞融合実験を行った。
<細胞の準備>
(1)緑膿菌のペプチドである「BAL6MAP」をフロイントアジュバントで乳化した後、BALB/cマウスへ免疫した。二週間以上間隔をあけ、2回目の免疫を行い、マウスの血漿中抗体価の確認を行った。
(2)二週間後に十分に抗体価が上昇していたマウスに3回目の免疫を行い(2回目の免疫の30週間後)、その3日後にマウスの脾臓を摘出、細胞調製を行い、細胞を凍結保存した。凍結保存した細胞を後日融解し、脾臓細胞とミエローマ細胞であるP3Xを用いて、細胞融合実験を行った。
【0067】
<細胞融合>
(i)使用機器、試薬
・使用機器:電気式細胞融合装置CFB16-HB(株式会社ベックス社製)
・使用電極:オートクレーブ100回実施後の実施例1の電極
・細胞培養培地:RPMI1640 10%FBS
・細胞融合用バッファー:0.3M マンニトール、0.1mM MgCl2、0.1mM CaCl2、HATサプリメント(2%で添加)、ブライクローン(5%で添加)
【0068】
(ii)細胞融合手順
(1)培地および細胞融合バッファーを、37℃の恒温槽で温めた。
(2)脾臓細胞をセルカウントした。
(3)ミエローマ細胞を回収し、セルカウントした。
(4)脾臓細胞:ミエローマ細胞が、2:1になるように混合し、1500rpm 5min 4℃で遠心分離した。(脾臓細胞 6x106個 P3X細胞 3x106個)
(5)上清除去後、タッピングし、細胞融合用バッファー10mlに懸濁し、1500rpm 5min 4℃で遠心した。(洗浄)
(6)上記(5)をもう一度行った。
(7)上清除去後、タッピングし、1×107/mlの濃度になるように、細胞融合用バッファーに細胞を懸濁した。(0.9mL)
(8)実施例1で作製したデバイスの第1電極4および第2電極5を細胞融合用バッファーで2回洗浄し、細胞懸濁液0.8mLを電極間に入れた。
(9)細胞融合装置のケーブルと第1電極4および第2電極5を接続し、抵抗を測定した。
(10)ACV:26V、AC Time:20s、DCV:300V、On Time:30us Off Time:500ms、DC cycle:3、Post Time:7s、Fade:On、の条件で細胞融合した。なお、この時の抵抗値は0.904kΩであった。
(11)細胞融合後のデバイスを滅菌済みインキュベーション用シャーレに入れ、CO2インキュベーターで10min、インキュベーションした。
(12)デバイスから細胞を回収し、細胞融合用バッファーで共洗いした後、1500rpm 5min 遠心分離した。
(13)上清除去し、タッピング後、10mL の2%HAT サプリメント、5%ブライクローン入り培地を加え、37℃で15min 静置した。
(14)96well プレートに100μL/wellで播種した。
(15)HAT サプリメント、ブライクローン入り培地を100μL/well加えた。8日後にハイブリドーマ形成数を測定し、培地交換を行った。
【0069】
(iii)細胞融合の結果
1well平均3.16個、総数303個のハイブリドーマの形成を確認した。
【0070】
以上の結果より、実施例1で作製したデバイスは、高温加圧処理を繰り返しても、細胞融合に使用できることを確認した。