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特開2023-7514インクレチン産生促進剤及び糖取り込み促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007514
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】インクレチン産生促進剤及び糖取り込み促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/59 20060101AFI20230112BHJP
   A61K 31/592 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20230112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230112BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
A61K31/59
A61K31/592
A61K31/593
A61P43/00 107
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019222759
(22)【出願日】2019-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】511132074
【氏名又は名称】鍋島 陽一
(71)【出願人】
【識別番号】519440940
【氏名又は名称】稲田 明理
(71)【出願人】
【識別番号】519440951
【氏名又は名称】藤井 宣晴
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 陽一
(72)【発明者】
【氏名】稲田 明理
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宣晴
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086DA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、より有効性が高く、安全性にも優れる新しいタイプの糖尿病治療薬を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、インクレチン産生促進剤である。上記インクレチンは、GLP-1又はGIPであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、インクレチン産生促進剤。
【請求項2】
上記インクレチンが、GLP-1又はGIPである、請求項1に記載のインクレチン産生促進剤。
【請求項3】
小腸からのインクレチン産生を促進する、請求項1又は2に記載のインクレチン産生促進剤。
【請求項4】
(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物が、活性型ビタミンDである、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクレチン産生促進剤。
【請求項5】
糖尿病治療のために用いられる、請求項4に記載のインクレチン産生促進剤。
【請求項6】
(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、筋肉細胞における糖取り込み促進剤。
【請求項7】
(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物が、活性型ビタミンDである、請求項6に記載の糖取り込み促進剤。
【請求項8】
糖尿病治療のために用いられる、請求項7に記載の糖取り込み促進剤。
【請求項9】
GLP-1又はGIPをさらに含む、請求項7又は8に記載の糖取り込み促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクレチン産生促進剤及び糖取り込み促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血中のグルコース濃度(血糖値、血糖)は、様々なホルモン(インスリン、グルカゴン、コルチゾール等)の働きによって常に一定範囲内に調節されている。種々の理由によってこの調節機構が破綻すると、血液中の糖分が異常に増加して糖尿病になる。この糖尿病は、上記調節機構の破綻の様式の違いにより1型と2型に分類される。1型糖尿病では膵臓のβ細胞が何らかの理由によって破壊されることで、血糖値を調節するホルモンの一つであるインスリンが枯渇してしまい、高血糖、糖尿病へと至る。一方2型糖尿病では、肥満等を原因として、膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあるβ細胞からのインスリン分泌量が減少し、筋肉、脂肪組織へのグルコースの取り込み能が低下し(インスリン抵抗性が増大し)、結果として血中のグルコースが肝臓や脂肪組織でグリコーゲンとして貯蔵されず、血中のグルコースが正常範囲を逸脱して高い血糖値となる。なお、糖尿病患者の約90%は2型糖尿病である。
【0003】
糖尿病の治療としては、1型糖尿病においては、分泌できなくなったインスリンを補充するインスリン療法が行われている。また、2型糖尿病においては、食事療法と運動療法に加え、経口血糖降下薬、インスリン、GLP-1作動薬等を用いて行う薬物療法が行われている。上記GLP-1作動薬を用いる療法、即ちGLP-1補充療法やGLP-1受容体(GLP-1R)アゴニストを利用した糖尿病治療法等は比較的新しい療法のひとつであり、注目されている。
【0004】
GLP-1は、インクレチン(incretin:Intestine Secretion Insulin)に分類されるホルモンであり、食物の摂取が引き金となって血中に分泌され、膵臓β細胞に働きかけてインスリン分泌を促進し、血糖値を低下させる等、糖代謝において重要な役割を果たしている。GLP-1はまた、膵臓α細胞からのグルカゴン分泌を抑制することにより、肝からのブドウ糖放出を低下させ、血糖値を低下させる。GLP-1の他の作用として、膵β細胞の増殖促進、胃排泄や胃酸分泌の抑制、及び食欲と摂食の抑制等も知られている(非特許文献1)。従って、GLP-1の産生を促進したり、GLP-1の効果を増強したりすることは、肥満、糖尿病等の生活習慣病の改善に有用である。実際にGLP-1アナログ製剤が糖尿病治療薬として使用されており、インスリン抵抗性改善効果があることが報告されている(非特許文献1)。しかし、従来のGLP-1作動薬では、十分な効果が得られない患者も存在し(非特許文献2~4)、さらに有効性の高い糖尿病治療薬が常に求められているという現状がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】宮川、他1名、「インクレチンの糖尿病治療への応用」、日本内科学会雑誌、平成20年4月20日、第97巻、第4号、p.827-835
【非特許文献2】Journal of Diabetes Investigation、2018、9(4)、p.822-830
【非特許文献3】Nature Genetics、1995、volume 9、p.299-304
【非特許文献4】Nature Genetics、2019、volume 51、p.379-386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中、本発明は、より有効性が高く、安全性にも優れる新しいタイプの糖尿病治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、α―klothoノックアウトマウス(klothoマウス)において、インクレチンの産生が通常のマウスより顕著に亢進していること、その現象にビタミンDが大きな影響を与えていることを見出し、さらに研究を進め、本発明を完成させた。すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0008】
[1](A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、インクレチン産生促進剤。
[2]上記インクレチンが、GLP-1又はGIPである、[1]に記載のインクレチン産生促進剤。
[3]小腸からのインクレチン産生を促進する、[1]又は[2]に記載のインクレチン産生促進剤。
[4](A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物が、活性型ビタミンDである、[1]から[3]のいずれかに記載のインクレチン産生促進剤。
[5]糖尿病治療のために用いられる、[4]に記載のインクレチン産生促進剤。
[6](A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、筋肉細胞における糖取り込み促進剤。
[7](A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物が、活性型ビタミンDである、[6]に記載の糖取り込み促進剤。
[8]糖尿病治療のために用いられる、[7]に記載の糖取り込み促進剤。
[9]GLP-1又はGIPをさらに含む、[7]又は[8]に記載の糖取り込み促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ビタミンD及び/又はビタミンD誘導体を使用することにより、GLP-1等のインクレチンの産生を促進することができる。また、ビタミン及び/又はビタミンD誘導体を使用することにより筋肉細胞への糖取り込みを亢進することもできる。本発明のインクレチン産生促進剤、糖取り込み促進剤は、単独で、又は従来のインクレチン等の糖尿病薬と組み合わせて、新しいタイプの、より有効性の高い糖尿病薬として好適に用いられ得る。また、ビタミンD及び/又はビタミンD誘導体を有効成分とすることから、安全性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、klothoマウスとWTマウスの、成長に伴う体重変化を示す図である。
図2図2は、klothoマウスとWTマウスの、血糖値を示す図である。
図3図3は、klothoマウスとWTマウスの、血中のVD(活性型ビタミン)、GLP-1、GIP、FGF21の濃度の比較を示す図である。
図4図4は、klothoマウスとWTマウスの、小腸インクレチン産生細胞における各種遺伝子の発現量を示す図である。
図5図5は、VD(活性型ビタミン)摂取による、小腸におけるインクレチン遺伝子発現の増強を示す図である。
図6図6は、VDRがGLP-1、GIP及びCyp24a1遺伝子の結合領域に結合したことを示す図である。
図7図7は、OGTTにおける1α,25-Dihydroxy VD3投与の有効性を示す図である(野生型マウス)。
図8図8は、図7の実験の際のインスリン、GLP-1、GIPの血中濃度を示す図である。
図9図9は、単離膵島におけるグルコース刺激に対する、1α,25-Dihydroxy VD3投与によるインスリン分泌促進効果を示す図である(野生型マウス)。
図10図10は、インクレチン及びVDによる筋肉への糖取り込み促進効果を示す図である。
図11図11は、ヒラメ筋、長趾伸筋における各遺伝子(VDR、GLP-1R、GIPR)の発現量を示す図である。
図12】下肢骨格筋組織における、ミオシンTypeI、ミオシンTypeIIA、GLP-1Rの発現解析(組織染色)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のインクレチン産生促進剤及び筋肉細胞における糖取り込み促進剤について詳細に説明する。なお、本明細書において、免疫学、細胞生物学、分子生物学的手法は、特に明記しない限り、当業者に公知の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じた方法により行うことができる。また、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
【0012】
<インクレチン産生促進剤>
本発明のインクレチン産生促進剤は、(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物(以下、単に「(A)化合物」ともいう)を有効成分として含有する。
【0013】
ビタミンD及びビタミンD誘導体については、これまで多くの試験が行われ、種々の機能を有することが分かっている。例えば活性型ビタミンDの一種であるカルシトリオールは、循環器系に放出され、リンパ液中の輸送物質であるビタミンD結合タンパク質(VDBP)と結びついて様々な対象臓器に運ばれる。そして、対象細胞の細胞核内に主に所在するビタミンD受容体(VDR)と結びついて腸内でのカルシウム吸収等の生体効果を発現する。また、ビタミンD受容体は、ステロイド/甲状腺ホルモンの核内受容体の一群に属しており、脳、心臓、皮膚、生殖腺、前立腺及び乳房を含むほとんどの臓器の細胞で作用している。腸、骨、腎臓及び副甲状腺の細胞でのビタミンD受容体の活性化は、甲状腺ホルモン及びカルシトニンの補助により血中のカルシウム及びリン酸の濃度の維持及び骨密度の維持を司っている。さらに、ビタミンD受容体は、細胞の増殖と分化に関わっていること、免疫システムにも影響を及ぼしていることも知られている。しかしながら、ビタミンD及びビタミンD誘導体がインクレチンの産生を促進することは、本発明者らが初めて見出した知見であり、これまで知られていなかったことである。
【0014】
[インクレチン]
本発明において、インクレチンとは、腸管由来のインスリン分泌刺激因子「Intestine Secretion Insulin(Incretin)」に分類されるホルモンをいい、食物の摂取が引き金となって血中に分泌され、膵臓β細胞に働きかけてインスリン分泌を促進し、血糖値を低下させる等、糖代謝において重要な役割を果たしているものである。このようなインクレチンとしては、GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)、GIP(Glucose-Dependent Insulinotropic Peptide)、DPP-IV(Dipeptidyl Peptidase-IV)等が挙げられ、ビタミンD及びビタミンD誘導体による産生促進効果の観点から、GLP-1、GIPが好ましく、GLP-1がより好ましい。
【0015】
[(A)化合物]
本発明のインクレチン産生促進剤が含む(A)化合物は、ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物である。
【0016】
ビタミンDは、ビタミンA、E及びKと共に脂溶性ビタミン群に属する。ビタミンDには、例えばビタミンD1、D2、D3またはビタミンD4等の種々の形態が存在し、中でも主な天然の形態としては、ビタミンD2(エルゴカルシフェロールともいう)及びビタミンD3(コレカルシフェロールともいう)が挙げられる。これらは、脂質に可溶性であり、かつ水に不溶性である。
【0017】
ビタミンD誘導体とは、ビタミンD受容体又はその誘導体に関してアゴニスト又はアンタゴニスト活性等、ビタミンDと類似の生物学的特性、特にビタミンD応答配列(VDRE)に対してトランス活性化特性を示す化合物を意味する。これらの化合物は、ビタミンDの天然代謝物に限定されない。このようなビタミンD誘導体としては、側鎖に対して修飾されたビタミンD骨格を含む化合物や、ビタミンD骨格内の修飾を含む化合物等が挙げられる。
【0018】
ここで、ビタミンDの生物学的特性(活性)は多種類に及ぶが、例えば、各種細胞の増殖、分化に関与していることも知られている。ビタミンD受容体が単球を含むいくつかの白血球、マクロファージならびにT及びBリンパ球において発現しているので、ビタミンDはまた、免疫系に影響を与える。
【0019】
(A)化合物としては、ビタミンD、ビタミンD誘導体のいずれでもよいが、ビタミンD誘導体の方が好ましく、特に例示するような活性型ビタミンDがより好ましい。このような活性型ビタミンDとしては、例えば、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)、カルシポトリオール、ドキセルカルシフェロール、セカルシトール、マキサカルシトール、セオカルシトール、タカルシトール、パリカルシトール、ファレカルシトリオール、1α,24S-ジヒドロキシビタミンD2、1(S),3(R)-ジヒドロキシ-20(R)-[((3-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)フェニル)メトキシ)メチル]-9,10-セコプレグナ-5(Z),7(E),10(19)-トリエン等が挙げられる。これらのうち、インクレチン産生促進作用の観点から、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)がさらに好ましい。
【0020】
本発明のインクレチン産生促進剤における(A)化合物の含有量は、インクレチン産生促進剤の製剤形態に合わせて調整することができるが、概ね、インクレチン産生促進剤全重量に対して0.00001重量%~100重量%であり、0.0001重量%~50重量%であることが好ましく、0.0003重量%~20重量%であることがより好ましく、0.0005重量%~10重量%であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のインクレチン産生促進剤は、種々の投与経路をとることができ、経口的に又は非経口的(静脈投与、皮下投与、経皮投与、経肺投与、経粘膜投与(点鼻など)、直腸投与等)に投与され得る。本発明のインクレチン産生促進剤は、上記(A)成分を、経口製剤または非経口製剤に通常用いられる薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、湿潤剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、バッカル剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤などの所望の形態に、当業者に周知の常法に従って、製剤化することにより調製することができる。
【0022】
本発明のインクレチン産生促進剤の投与においては、1回当たりの投与量が、(A)成分換算で、0.001μg~1gであり、0.01μg~100mgであることが好ましく、0.05μg~10mgであることがより好ましく、0.1μg~5mgであることがさらに好ましく、1μg~5mgであることがよりさらに好ましく、10μg~3mgであることが特に好ましく、50μg~1mgであることがより特に好ましい。
【0023】
本発明のインクレチン産生促進剤は、小腸からのGLP-1、GIP等のインクレチンの分泌を促進する。そして、分泌が促進されたそれぞれの因子が、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞表面に存在するそれぞれの受容体に結合することで、β細胞からのインスリンの分泌を効果的に促し、血糖値を調節することができる。したがって、本発明のインクレチン産生促進剤は、糖尿病、特に2型糖尿病の治療薬として、優れた効果を奏する。糖尿病患者のうちでも、特に、従来のインクレチン作動薬が効果を奏さない患者に対して、糖尿病、特に2型糖尿病の治療薬として有効に用いられ得る。このような従来のインクレチン作動薬が効果を奏さない患者としては、例えば膵β細胞の細胞数、機能が減弱している患者、GLP-1受容体の機能低下を招く遺伝子多型を有する患者、GLP-1受容体の機能促進を招く遺伝子多型を有さない患者等が挙げられる。
【0024】
本発明のインクレチン産生促進剤を、2型糖尿病の治療のために用いる場合の投与量は、使用する(A)化合物の種類、患者の体重や年齢、対象とする疾患の状態及び投与方法等によっても異なるが、例えば、(A)化合物の量に換算して、注射剤の場合は成人1日1回約0.01μg~100mg、錠剤等の経口製剤の場合は、成人1日数回、1回量約1μg~10g程度投与するのがよい。また、経粘膜投与の場合は、成人1日数回、1回数滴、濃度が0.00001重量%~20重量%の製剤を投与するのがよい。また、本発明のインクレチン産生促進剤は、必要に応じて、例えば血糖値が基準値を超えた際に投与してもよい。
【0025】
<糖取り込み促進剤>
本発明の糖取り込み促進剤は、(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する。本発明の糖取り込み促進剤は、上記(A)化合物を含有することにより、筋肉細胞に直接又は間接的に作用して、筋肉細胞による糖取り込みを促進させ、血糖値をコントロールすることができる。本発明の糖取り込み促進剤によって糖取り込みが促進する上記筋肉細胞としては、骨格筋細胞が挙げられ、好ましい具体例としては下肢骨格筋のヒラメ筋細胞が挙げられる。
【0026】
本発明の糖取り込み促進剤が含有する(A)化合物、その他の成分、製剤形態、用法用量等については、上述のインクレチン産生促進剤の項の説明を適用できる。
【0027】
本発明の糖取り込み促進剤は、筋肉細胞に直接又は間接的に作用して、筋肉細胞による糖取り込みを促進させ、血糖値をコントロールすることができる。したがって、本発明の糖取り込み促進剤は、糖尿病、特に2型糖尿病の治療薬として、優れた効果を奏する。また、本発明の糖取り込み促進剤は、GLP-1又はGIPといったインクレチンをさらに含むこと、あるいはGLP-1又はGIPといったインクレチンと併用することによって、糖取り込み促進効果をより向上させることができる。
【0028】
本発明は、(A)ビタミンD及びビタミンD誘導体から成る群より選択される少なくとも1種の化合物を使用することを特徴とする、インクレチン産生促進方法、筋肉細胞による糖取り込み促進方法も含む。(A)化合物、その他の成分、本方法を採用する場合の製剤形態、用法用量等については、上述のインクレチン産生促進剤の項の説明を適用することができる。
【実施例0029】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【0030】
1.klothoマウスの解析(体重及び血糖値の経時変化)
klothマウス(klotho発現欠如マウス;kl/klマウス)とは、ヒト老化で見られる現象に類似した複数の表現型を呈する、常染色体劣性ミュータントマウスであり、ヒト早発性老化症候群モデルとして知られている。「klotho」と命名された遺伝子は、老化表現型の抑制に働き、in vivoの老化や、老化関連疾患の罹患率を調節するsignalling経路の一部として機能する。klothoマウスの多発性老化表現型は常染色体劣性で、遺伝的バックグラウンドの影響を受けることなく、すべての個体で認められる。klothoマウスの成長に伴う体重変化、血糖値の変化を調べ、同腹仔(-/-)正常マウスと比較した。結果を図1(体重変化)及び図2(血糖値)に示す。なお、図1において、黒丸は、klothoマウスを、白丸は、正常マウスの体重を示している。
【0031】
図1に示すとおり、klothoマウスと正常マウスでは、3週令での体重は約6gとほぼ同程度であったが、klothoマウスは成長に伴う体重の増加が抑制されており6週令まで徐々に増加したものの、約10gで体重増加が停止した。それに対して正常マウスでは、6週令以降も体重増加は継続し、20gを超えるまで増加した。また、図2aに示すとおり、正常マウスでは、3週令の時点の血糖値が約150mg/dLと、klothoマウス(約110mg/dL)より高く、成長と共に徐々に増加した。klothoマウスでは、血糖値は成長するにつれて徐々に低下した。6週令での血糖値分布を示したのが図2bである。klothoマウスでは、オス、メスのいずれでも正常マウスより血糖値が顕著に低くなっていた。
【0032】
2.klothoマウスの解析(血中糖代謝パラメータの含有量)
klothoマウスと同腹仔(-/-)正常マウスにおける血中の糖代謝パラメータ(VD(活性型ビタミンD)、GLP-1、GIP)の含有量を測定した。コントロールとして、糖代謝には関連のないFGF21の測定も行った。結果を図3に示す。図3中、黒いマークはklothoマウスを、白いマークは同腹仔(-/-)正常マウスを示している。
【0033】
図3a~3cに示すとおり、VD、GLP-1、GIPのいずれの血中含有量についても、klothoマウスでは正常マウスよりも顕著に高くなっていた。糖代謝に関連のないFGF21の血中含有量は、両者で差が見られなかった。
【0034】
3.小腸インクレチン産生細胞におけるインクレチン遺伝子発現
Nagatakeら(PLOS1、2014、9(6):e90638)の方法に従い、klothoマウス及び正常マウス(C57BL6)の小腸より、それぞれインクレチン産生細胞を単離回収した。具体的には、麻酔下で開腹し小腸全体(十二指腸、回腸、空腸を含む)を取り出し管腔を切開、洗浄後、腸管膜から細胞を単離し、さらに70μm径のセルストレイナーに通して筋層等を取り除き、個々の細胞にして採取した後、FACS解析用サンプルとした。蛍光色素のついた抗体を用いて氷上でインキュベートした後、FACS Ariaに供し、死細胞、白血球、赤血球を除いた分画を腸管上皮細胞分画とし、さらにClaudein-4の発現とUEA-1の結合性により二次元展開し、4つの細胞分画に分離した。Claudein-4陽性及びUEA-1陽性の腸管内分泌細胞のmRNAを抽出し、各遺伝子(GLP-1、GIP、GLUT2、VDR)の発現量を測定した。その結果を図4に示す。黒いバーは、klothoマウスの腸管内分泌細胞の結果であり、白いバーは、正常マウスの腸管内分泌細胞の結果である。
【0035】
図4に示すとおり、klothoマウスの小腸の細胞においては、GLP-1、GIPの遺伝子発現が、正常マウスの小腸の細胞と比較して、顕著に高くなっていた。一方、GLUT2、VDRについては、正常マウスと同程度であった。図3aに示すとおり、klothoマウスでは血中VD濃度が非常に高く、インクレチンの産生が亢進し血中インクレチン濃度も高くなっていることから、VDがインクレチンの産生・分泌を調節している可能性も考えられた。
【0036】
4.VD摂取によるインクレチン産生の促進
正常マウス(C57BL6)に対し、16時間絶食後、グルコース2mg/g及びVD400nMを経口投与した。2時間後に麻酔下で開腹し、小腸の3部位(十二指腸、回腸、空腸)を取り出し管腔を切開、洗浄後、腸管膜から細胞を単離し、さらに70μm径のセルストレイナーに通して筋層等を取り除き個々の細胞にして採取した。mRNAを抽出して、GLP-1及びGIP遺伝子の発現を解析した。コントロールとしては、絶食後、同濃度のグルコースのみを経口投与したマウスを用いた。結果を図5に示す。斜線入りのバーは、klothoマウスの、白いバーは、正常マウスの各部位での遺伝子発現の結果を示す。
【0037】
図5に示すとおり、小腸のうち、胃に最も近い部分である十二指腸において、グルコースおよびVD投与のマウスにおいてGLP-1及びGIP遺伝子発現の増強が見られた。この結果から、グルコース刺激及びVD刺激は、小腸からのインクレチン産生を促進すると言える。
【0038】
5.VD/VDRによるインクレチン遺伝子の転写活性化;クロマチン免疫沈降法によるインクレチン産生遺伝子(GLP-1、GIP)のプロモーター領域へのビタミンD受容体(VDR)の結合解析
インターネット上で利用可能なChIP-Atlas(http://chip-atlas.org/peak_browser)を利用して、GLP-1およびGIP遺伝子の近傍で、VDR ChIP-seqデータとVDR結合モチーフ配列(VDRE:GKTCANNRRGKTYAのreverse complementary)がOverlapする箇所を同定した。VDRが結合する遺伝子として既知のCyp24a1遺伝子をポジティブコントロールとして同様に同定した。GLP-1およびGIP遺伝子について、VDREを含む約100bpを増幅するようにPCRプライマーを設計し、クロマチン免疫沈降法によるVDRとの結合解析を行った。クロマチン免疫沈降はChIP-IT(登録商標) Express(ActiveMotifChIP-IT(登録商標)ExpressChIP-IT(登録商標)Express)を用いて行った。なお、クロマチン免疫沈降法は、ホルムアルデヒド等を用いて細胞内でDNAとタンパク質を架橋し、目的のタンパク質に対する特異的な抗体を使った免疫沈降法と組み合わせることで、細胞内に実際に存在するクロマチンDNA上でのDNAとタンパク質の相互作用を検出する方法である。ホルムアルデヒド等によりDNAと目的のタンパク質の架橋を行い、目的のタンパク質に対する抗体で免疫沈降を行った後、可逆反応により架橋を外し、タンパク質を除き、DNA断片を回収する。回収されたDNAを鋳型にして、目的のDNA配列の特異的プライマーを用いてPCRで解析を行う。本試験において反応に用いたゲノムDNAは上記4(VD摂取によるインクレチン産生の促進)の項に記載した通りの方法で単離採取したマウス小腸細胞より抽出した。結果を図6に示す。GLP-1およびGIP遺伝子近傍にはVDRと結合する可能性のある配列があり、これらモチーフへのVDRの結合が強く示唆された。
【0039】
6.WTマウスの耐糖能(OGT)に対する1α,25-Dihydroxy VD3の効果(急性)
16時間絶食させたWTマウス(C57BL6)を2群に分け、試料投与群(n=10)に2-DGグルコース溶液(200mg/mL;グルコースの投与用量 2g/kg)および1α,25-Dihydroxy VD3(400 nM;1α,25-Dihydroxy VD3の投与量 約1.67μg/kg)を同時経口投与した。対照群(n=7)には2-DGグルコース(2g/kg)および等量の試料を溶かしたEtOH(最終濃度は0.1%)を経口投与した。試料投与直前及び糖投与後15、30、60、120分後に尾静脈から採血を行い、血糖値を測定した(OGTT)。結果を図7に示す。血糖値の測定にはOneTouch UltraVue(Johnson&Johnson)を用いた。グルコース溶液投与15分後に尾静脈から採血し、血液はヘマトクリット毛細管、あるいは分解阻害剤(アプロチニンEDTA、DiprotinA)入りの血清分離用チューブに回収し、3000rpm(冷却遠心機 TOMY AX-320)、4℃、15分間遠心分離して血漿を回収した。血漿インスリン、GLP-1、GIP濃度の測定にはそれぞれELISA測定キット(モリナガ、abcam、又は矢内原研究所)を用いて、製造者のインストラクションに従って測定した。その結果、図8に示すとおり、1α,25-Dihydroxy VD3溶液投与群は、溶媒(0.1% EtOH)を投与したコントロールに比較して、グルコース経口投与15分後の血漿インスリン、GLP-1、GIP濃度をいずれも有意に亢進させ、図7に示すように血糖値の上昇を抑制していることが明らかとなった。なお、図7において、実線は1α,25-Dihydroxy VD3投与群、点線は非投与群の結果を示している。
【0040】
7.1α,25-Dihydroxy VD3のインスリン分泌促進効果
マウスの単離膵島でのインスリン分泌実験を既報(Endocrinology,December 2016,157(12):4691-4705)に記載の通り行った。麻酔下のC57BL6マウス(10週齢)を開腹し、十二指腸開口部を結紮した膵管に肝臓側の総胆管よりコラゲナーゼ液を注入し(1mg/mLコラゲナーゼ液:コラゲナーゼ(Sigma)/Hanks’ Balanced Salt Solution(HBSS))膵臓を満たした。37℃でインキュベーションして膵臓組織を消化した後、比重遠心分離にて膵島を単離し、実体顕微鏡下でhand pick upにて回収した。単離膵島を2日間培養後、3.3mMのグルコースを含むKrebs-Ringer重炭酸Hepes(KRBH)バッファーにて37℃30分インキュベーションし、実体顕微鏡下で膵島5個ずつ選別し、3.3または16.7mM(mmol/L)のグルコースを含むKRBHバッファーあるいはそれらに1α,25-Dihydroxy VD3(100nM)を添加したものに37℃30分反応させた。反応終了後、上清を採取し、インスリンELISAキット(モリナガ)にてインスリン量を定量した。その結果、VDは低グルコース条件(3.3mM)ではインスリン分泌を促進しなかったが、高グルコース条件(16.7mM)では有意にインスリン分泌を亢進した(図9)。VDはグルコース濃度依存的に、高グルコース条件でのみインスリン分泌を促進することが明らかとなった。
【0041】
8.筋肉の糖取り込み試験(in vitro)
C57BL6マウスよりヒラメ筋(Solues)と長趾伸筋(EDL)を直ちに取り出し、既報(J Biol Chem,2005,280:39033-39041)に記載の通りの処置を行った(n=6~10/グループ)。各筋肉の両端にある腱を縫合糸で結び、インキュベーション装置に取り付け、2mMピルビン酸を含むKrebs-Ringer重炭酸(KRB)バッファー6mL中で20分間、プレインキュベートした。次に、400μU/mLのインシュリン、GLP-1、GIP、VD(活性型ビタミンD)を上記既報中の図12に示した組合せで添加し、KRBバッファー中で30分間インキュベートした。実験中バッファーは37℃に維持され、また、95%O、5%COのガスを連続的に供給した。インキュベーション後すぐに筋肉は同濃度のインシュリンと、1mMの2-デオキシ-グルコースを含むKRBバッファーに移し、10分間、既報(Diabetes,2008,57,2958-2966)のとおりにインキュベートした。インキュベート終了後、筋肉は液体窒素中で凍結保存した。糖取り込み量の定量時は、凍結した筋肉サンプルを圧縮破砕した後にlysisバッファー(50mM Tris-HCl pH7.5, 1%NP-40, 10mM β-glycerophosphate, 5mM Na, 10mM NaF, 1mM NaVO, 1mM EDTA pH8.0, 5μg/mL Aprotinin, 10μg/mL Leupeptin, 3mM Benzamidine, 1mM PMSF, 150mM NaCl, 75.47% ddHO)を加え、ポリトロンホモジェナイザー(KINEMATICA)で完全破砕した。この懸濁液を遠心分離(13000G、15分間、4℃)し、上清を組織溶解液として回収した。その回収液を、2-DG代謝速度測定キット(コスモバイオ)を用いた2-デオキシ-グルコースの定量に供し、筋肉の糖取り込み量とした。結果を図10に示す。
【0042】
図10に示すとおり、ヒラメ筋においては、GLP-1、GIP単独ではコントロールとの差が見られなかったものの、GLP-1とVD(活性型ビタミンD)を組合せて処理した場合には、糖取り込みが顕著に増加した。GIPの方は、VDと組み合わせて処理しても、コントロールとの差が見られなかった。一方、長趾伸筋においては、GLP-1、GIP単独ではコントロールとの差が見られなかったものの、GLP-1とVD(活性型ビタミンD)、或いはGIPとVD(活性型ビタミンD)を組合せて処理した場合には、糖取り込みが顕著に増加した。なお、いずれの試験においても、ポジティブコントロールでもあるインシュリンの処理では、コントロールと比較して、糖取り込みが顕著に増加しており、実験が正常に行われていることが示されている。
【0043】
以上のとおり、インクレチンにVDを組合せて直接筋肉に作用させることで、筋肉への糖取り込みを顕著に増加させることができることがわかった。
【0044】
9.筋肉細胞におけるVDR、GLP-1R、GIPRのmRNA発現の解析
C57BL6マウスの下肢よりヒラメ筋(Solues)と長趾伸筋(EDL)を直ちに取り出した。それぞれから、常法に従ってmRNAを抽出し、VDR、GLP-1R、GIPRのmRNA発現量を測定した。その結果を図11に示す。斜線のバーはヒラメ筋(Solues)、白いバーは長趾伸筋(EDL)における各受容体のmRNA発現レベルである。
【0045】
図11に示すとおり、ヒラメ筋(Solues)では、VDR、GLP-1RのmRNA発現レベルが、長趾伸筋(EDL)と比較して顕著に高いことがわかった。一方、GIPRのmRNA発現レベルは、両者で差が見られなかった。この結果は、上記筋肉の糖取り込み試験において、ヒラメ筋では、GLP-1、GIP単独ではコントロールとの差が見られなかったものの、GLP-1とVD(活性型ビタミンD)を組合せて処理した場合には、糖取り込みが顕著に増加し、GIPの方は、VDと組み合わせて処理しても、コントロールとの差が見られなかったという結果と整合している。
【0046】
10.下肢骨格筋におけるミオシンTypeI、ミオシンTypeIIA、GLP-1Rの発現解析(組織染色)
C57BL6マウスより、下肢骨格筋を直ちに取り出して包埋し、凍結した。常法に従って凍結切片を作成し、4%パラフォルムアルデヒド(PFA)リン酸緩衝液で固定した。各切片を1次抗体(抗ミオシンTypeI抗体、抗ミオシンTypeIIA抗体(いずれもDevelopmental Studies Hybridoma Bank(DSHB)社製)、抗GLP-1R抗体(Abcam社製))で処理した。引き続き、抗ミオシンTypeI抗体、抗ミオシンTypeIIA抗体に結合するAlexa488(Green)標識2次抗体(Invitrogen社製)、抗GLP-1R抗体に結合するAlexa594(Red)標識2次抗体(Invitrogen社製)で処理した。得られた組織染色サンプルを蛍光顕微鏡で観察した結果を図12に示す。
【0047】
骨格筋の筋線維は、収縮速度の遅い遅筋(主に長時間の持続的な運動に適す;ミオシンTypeI)と収縮速度の速い速筋(瞬発的な運動を行うときに活躍する;ミオシンTypeIIA、B、X)に分類され、異なるタイプの筋線維がモザイク状に分布している。図12に示すとおり、ヒラメ筋(Soleus:SOL)には、主にミオシンTypeIと速筋線維の中でもやや持続的収縮に向いたTypeIIAが発現していることがわかる。一方、足底筋(Plantaris:PLA)では、ミオシンTypeIよりミオシンTypeIIAの発現が強く、速筋が多いことがわかる。また、ヒラメ筋における各抗GLP-1R抗体と各ミオシン抗体との二重染色の結果、筋線維TypeI及びTypeIIAのいずれもGLP-1Rを発現していることがわかった。以上より、骨格筋ではGLP-1Rが発現していること、特にヒラメ筋においては、筋線維TypeI及びTypeIIAのいずれにおいてもGLP-1Rの発現が顕著であることがわかり、図11の試験結果でヒラメ筋においてGLP-1Rの発現が顕著であるという結果と整合する。糖尿病の治療では、運動療法(食後のウォーキングなどの有酸素運動)が糖取り込みを促進させるために良いと言われてきたが、これには、骨格筋(特に遅筋細胞)に発現しているGLP-1Rを介したGLP-1の作用と、ビタミンDの作用が、筋肉を動かすことによってより活発化して糖取り込みを促進することが関係しているのではないかと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によると、ビタミンD及び/又はビタミンD誘導体を使用することにより、GLP-1等のインクレチンの産生を促進することができる。また、ビタミン及び/又はビタミンD誘導体を使用することにより筋肉細胞への糖取り込みを亢進することもできる。本発明のインクレチン産生促進剤、糖取り込み促進剤は、単独で、又は従来の糖尿病薬と組み合わせて、新しいタイプの、より有効性の高い糖尿病薬として好適に用いられ得る。また、ビタミンD及び/又はビタミンD誘導体を有効成分とすることから、安全性にも優れている。
図1
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