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特開2023-7527アナログ波形処理装置、システム、方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007527
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】アナログ波形処理装置、システム、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/409 20060101AFI20230112BHJP
   H04N 1/387 20060101ALI20230112BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230112BHJP
【FI】
H04N1/409
H04N1/387
G06T7/00 350C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110400
(22)【出願日】2021-07-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) ウェブサイトの掲載日 令和2年7月3~4日 ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2020/subject/SCG60-01/class?cryptoId= 公開者 小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、松浦 律子 公開した物及び方法の内容 小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、及び松浦 律子が、上記アドレスのウェブサイトで公開されたJpGU-AGU Joint Meeting 2020の講演情報にて、小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、及び松浦 律子が発明した、Automatic Digitization of Seismograms in Smoked Paper using Convolutional Neural Networkについて公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (2) ウェブサイトの掲載日 令和2年7月3~4日 ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jpgu2020/SCG60-01/public/pdf?type=in 公開者 小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、松浦 律子 公開した物及び方法の内容 小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、及び松浦 律子が、上記アドレスのウェブサイトで公開されたJpGU-AGU Joint Meeting 2020の予稿集にて、小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、及び松浦 律子が発明した、Automatic Digitization of Seismograms in Smoked Paper using Convolutional Neural Networkについて公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (3) 開催日 令和2年7月13日 集会名、開催場所 JpGU-AGU Joint Meeting 2020 開催URL:http://www.jpgu.org/meeting_j2020v/ 公開者 小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、松浦 律子 公開した物及び方法の内容 小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、及び松浦 律子が、JpGU-AGU Joint Meeting 2020にて、小川 陽子、坂元 一雄、古村 美津子、及び松浦 律子が発明した、Automatic Digitization of Seismograms in Smoked Paper using Convolutional Neural Networkについて公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度及び2年度、文部科学省、地震調査研究推進本部の評価等支援事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(71)【出願人】
【識別番号】598026987
【氏名又は名称】公益財団法人地震予知総合研究振興会
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】小川 陽子
(72)【発明者】
【氏名】坂元 一雄
(72)【発明者】
【氏名】古村 美津子
(72)【発明者】
【氏名】松浦 律子
【テーマコード(参考)】
5C076
5C077
5L096
【Fターム(参考)】
5C076AA01
5C076AA21
5C076AA22
5C076AA23
5C076BA06
5C076CA02
5C077LL02
5C077LL19
5C077MP05
5C077PP01
5C077PP19
5C077PP20
5C077PP27
5C077PQ15
5L096AA06
5L096CA21
5L096DA01
5L096EA03
5L096EA33
5L096FA69
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】所望の精度でグラフを認識可能なアナログ波形読み取り装置、システム、方法、及びプログラムを得る。
【解決手段】アナログ波形処理装置を成す波形処理部21は、アナログ波形処理プログラムを実行可能であり、アナログ波形処理プログラムは、教師あり学習によるコンボリューショナルニューラルネットワークであって、取得したパラメータ及び記象紙画像を用いて、記象紙画像から波形データを形成する。第1のニューラルネットワークは21層から成り、入力されるデータは、X方向にW画素、Y方向にH画素を有する1枚のグレースケール画像である記象紙画像である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X及びY方向に対してデータを有する画像に畳み込み演算を行って第1のデータを出力する第1の畳み込み部と、
前記第1のデータに対してY方向の次元を削減して第2のデータを出力する削減部と、
前記第2のデータに対して畳み込み演算を行って、1次元のデータから成る第3のデータを出力する第2の畳み込み部とを備える、
アナログ波形処理装置。
【請求項2】
前記削減部は、前記第1のデータにおいてY方向の次元を1次元に削減して、前記第2のデータを出力する、請求項1に記載のアナログ波形処理装置。
【請求項3】
前記削減部は、前記第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、畳み込み演算を行うことによりY方向の次元を1次元に削減して、前記第2のデータを出力する、請求項2に記載のアナログ波形処理装置。
【請求項4】
前記削減部は、前記第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、Y方向に対して最も大きい値を出力することによりY方向の次元を1次元に削減して、前記第2のデータを出力する、請求項2に記載のアナログ波形処理装置。
【請求項5】
前記第1の畳み込み部は、前記画像に畳み込み演算を行った後に、入力値と出力値の残差を算出し、残差を前記第1のデータとして出力する、請求項1から4のいずれかに記載のアナログ波形処理装置。
【請求項6】
前記第2の畳み込み部は、前記第2のデータに対してX方向に対してデータを拡大した後に、畳み込み演算を行い、前記第3のデータを出力する、請求項1から5のいずれかに記載のアナログ波形処理装置。
【請求項7】
前記画像に前処理を行う前処理手段をさらに備え、
前記前処理手段は、
前記画像のうち、前記第1の畳み込み部が処理を行う範囲を指定する範囲指定手段、
前記画像に記録されている波形において、波形振幅の基準となる基線を指定する基線指定手段、
前記画像に記録されている波形において、波形に含まれる円弧成分を補正する円弧補正手段、
前記画像に記録されている波形において、波形振幅の基準となる基線のずれを補正する片振れ補正手段、
前記画像に記録されている波形において、振幅方向に縮小するスケーリング手段
のうち少なくとも1つを備える、請求項1から6のいずれかに記載のアナログ波形処理装置。
【請求項8】
前記第3のデータを修正する修正手段をさらに備え、
前記修正手段は、
複数の点を指定し、指定された複数の点の間を補完する正解点指定手段、
前記第3のデータを構成する点のうち任意の点の位置を移動させる点移動手段、
前記第3のデータに対して任意の点の位置を追加する点追加手段、
前記第3のデータを構成する点のうち任意の点を削除する点削除手段、
前記第3のデータを構成する波形を振幅方向に伸縮する振幅伸縮手段
のうち少なくとも1つを備える、請求項1から7のいずれかに記載のアナログ波形処理装置。
【請求項9】
X及びY方向に対してデータを有する画像を読み込むクライアントと、
前記画像を処理する請求項1から8のいずれかに記載のアナログ波形処理装置とを備え、
前記クライアントは、前記第3のデータを加工して出力する
アナログ波形処理システム。
【請求項10】
前記クライアントは、ネットワークを介して前記画像を前記アナログ波形処理装置に送信し、
前記アナログ波形処理装置は、ネットワークを介して前記第3のデータを前記クライアントに送信する、
請求項9に記載のアナログ波形処理システム。
【請求項11】
X及びY方向に対してデータを有する画像に畳み込み演算を行って第1のデータを出力する第1の畳み込みステップと、
前記第1のデータに対してY方向の次元を削減して第2のデータを出力する削減ステップと、
前記第2のデータに対して畳み込み演算を行って、1次元のデータから成る第3のデータを出力する第2の畳み込みステップとを備える、
アナログ波形処理方法。
【請求項12】
前記削減ステップは、前記第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、畳み込み演算を行うことによりY方向の次元を1次元に削減して、前記第2のデータを出力する、請求項11に記載のアナログ波形処理方法。
【請求項13】
前記削減ステップは、前記第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、Y方向に対して最も大きい値を出力することによりY方向の次元を1次元に削減して、前記第2のデータを出力する、請求項11に記載のアナログ波形処理方法。
【請求項14】
X及びY方向に対してデータを有する画像に畳み込み演算を行って第1のデータを出力する第1の畳み込みステップと、
前記第1のデータに対してY方向の次元を削減して第2のデータを出力する削減ステップと、
前記第2のデータに対して畳み込み演算を行って、1次元のデータから成る第3のデータを出力する第2の畳み込みステップとを備える、
アナログ波形処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像として記録されたアナログ波形を読み取って、電子データ化する読み取り装置、システム、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラフ画像をスキャンして数値データに変換する折れ線グラフ認識装置が知られている。この装置は、既知の図形認識技術を用いて、折れ線グラフを構成する複数の直線を認識し、複数の直線の節点の座標を記録する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-324577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、画像として記録されたアナログ波形は、波形以外の図、文字、又は汚れ等をも含んでいることがある。このような場合には、所望の精度でグラフを認識できない可能性がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、所望の精度でグラフを認識可能なアナログ波形処理装置、システム、方法、及びプログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1の発明によるアナログ波形処理装置は、X及びY方向に対してデータを有する画像に畳み込み演算を行って第1のデータを出力する第1の畳み込み部と、第1のデータに対してY方向の次元を削減して第2のデータを出力する削減部と、第2のデータに対して畳み込み演算を行って、1次元のデータから成る第3のデータを出力する第2の畳み込み部とを備えることを特徴とする。
【0007】
削減部は、第1のデータにおいてY方向の次元を1次元に削減して、第2のデータを出力することが好ましい。
【0008】
削減部は、第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、畳み込み演算を行うことによりY方向の次元を1次元に削減して、第2のデータを出力することが好ましい。
【0009】
削減部は、第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、Y方向に対して最も大きい値を出力することによりY方向の次元を1次元に削減して、第2のデータを出力してもよい。
【0010】
第1の畳み込み部は、画像に畳み込み演算を行った後に、入力値と出力値の残差を算出し、残差を第1のデータとして出力することが好ましい。
【0011】
第2の畳み込み部は、第2のデータに対してX方向に対してデータを拡大した後に、畳み込み演算を行い、第3のデータを出力することが好ましい。
【0012】
画像に前処理を行う前処理手段をさらに備え、前処理手段は、画像のうち、第1の畳み込み部が処理を行う範囲を指定する範囲指定手段、画像に記録されている波形において、波形振幅の基準となる基線を指定する基線指定手段、画像に記録されている波形において、波形に含まれる円弧成分を補正する円弧補正手段、画像に記録されている波形において、波形振幅の基準となる基線のずれを補正する片振れ補正手段、画像に記録されている波形において、振幅方向(例えばY方向)に縮小するスケーリング手段のうち、少なくとも1つを備えることが好ましい。
【0013】
第3のデータを修正する修正手段をさらに備え、修正手段は、複数の点を指定し、指定された複数の点の間を補完する正解点指定手段、第3のデータを構成する点のうち任意の点の位置を移動させる点移動手段、第3のデータに対して任意の点の位置を追加する点追加手段、第3のデータを構成する点のうち任意の点を削除する点削除手段、第3のデータを構成する波形を振幅方向(例えばY方向)に伸縮する振幅伸縮手段のうち、少なくとも1つを備えることが好ましい。
【0014】
本願第2の発明によるアナログ波形処理システムは、X及びY方向に対してデータを有する画像を読み込むクライアントと、画像を処理する前記アナログ波形処理装置とを備え、前記クライアントは第3のデータを加工して出力することを特徴とする。
【0015】
クライアントは、ネットワークを介して画像をアナログ波形処理装置に送信し、アナログ波形処理装置は、ネットワークを介して第3のデータをクライアントに送信することが好ましい。
【0016】
本願第3の発明によるアナログ波形処理方法は、X及びY方向に対してデータを有する画像に畳み込み演算を行って第1のデータを出力する第1の畳み込みステップと、第1のデータに対してY方向の次元を削減して第2のデータを出力する削減ステップと、第2のデータに対して畳み込み演算を行って、1次元のデータから成る第3のデータを出力する第2の畳み込みステップとを備えることを特徴とする。
【0017】
削減ステップは、第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、畳み込み演算を行うことによりY方向の次元を1次元に削減して、第2のデータを出力することが好ましい。
【0018】
削減ステップは、第1のデータにおけるX方向の値各々に関し、Y方向に対して最も大きい値を出力することによりY方向の次元を1次元に削減して、第2のデータを出力してもよい。
【0019】
本願第4の発明によるアナログ波形処理プログラムは、X及びY方向に対してデータを有する画像に畳み込み演算を行って第1のデータを出力する第1の畳み込みステップと、第1のデータに対してY方向の次元を削減して第2のデータを出力する削減ステップと、第2のデータに対して畳み込み演算を行って、1次元のデータから成る第3のデータを出力する第2の畳み込みステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所望の精度でグラフを認識可能なアナログ波形処理装置、システム、方法、及びプログラムを得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願第1の発明によるアナログ波形処理システムを概略的に示すブロック図である。
図2】範囲指定手段による画面を示した概略図である。
図3】基線指定手段による画面を示した概略図である。
図4】円弧及び片振れ補正手段による画面を示した概略図である。
図5】スケーリング手段による画面を示した概略図である。
図6A】出力手段による画面を示した概略図である。
図6B】出力手段による画面を示した概略図である。
図6C】出力手段による画面を示した概略図である。
図6D】出力手段による画面を示した概略図である。
図7】第1のニューラルネットワークの概略を示した図である。
図8】アナログ波形処理システムが実行する処理方法を示すフローチャートである。
図9】第1の学習データ及び第1の検証データの一例である記象紙画像である。
図10】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図11】第2の学習データ及び第2の検証データの一例である記象紙画像である。
図12】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図13】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図14】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図15】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図16】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図17】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図18】波形処理装置により得られた波形データを破線、記象紙画像の波形線を実線で描いた図である。
図19A】学習及び検証データとして用いた記象紙画像のリストである。
図19B】学習及び検証データとして用いた記象紙画像のリストである。
図19C】学習及び検証データとして用いた記象紙画像のリストである。
図19D】学習及び検証データとして用いた記象紙画像のリストである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1から図10を用いて、本発明の第1の実施形態によるアナログ波形処理システム10、その方法、及びプログラムについて説明する。アナログ波形処理システム10は、波形処理部21を含むサーバ20と、地震波形読み取り部31を含むクライアント30とを主に備える。
【0023】
クライアント30は、ユーザによって直接操作されるいわゆるパソコンであって、例えばインターネットなどのネットワークを介してサーバ20に接続される。現在、地震波形はデジタルデータとして記録されているが、過去においては、煤書き記象紙やインク書き記象紙にアナログデータとして記録されたものがある。以下、煤書き記象紙やインク書き記象紙を用いて地震波形を記録する方式を煤書き記録等方式といい、煤書き記象紙やインク書き記象紙に記録された地震波形をアナログ地震波形という。クライアント30には、デジタルカメラやスキャナなどの画像読み取り手段36が接続されている。クライアント30は、画像読み取り手段36を介してアナログ地震波形を電子データ化して記象紙画像を得る。
【0024】
クライアント30は、地震波形読み取りプログラムを実行可能である地震波形読み取り部31を主に添える。地震波形読み取りプログラムは、前処理手段32と、点列生成手段33と、修正手段34と、出力手段35とを主に備え、記象紙画像又はデジタルデータを画面に表示させる。図2を参照すると、画面中の右側に記象紙画像31aが表示され、左側にメニュー31bが表示される。
【0025】
前処理手段32は、記象紙画像に前処理を行うものであって、範囲指定手段、基線指定手段、円弧補正手段、片振れ補正手段、及びスケーリング手段のうち、少なくとも1つを備える。
【0026】
範囲指定手段は、画面に表示された記象紙画像において、デジタルデータ化したい波形の範囲を指定する。この指定された範囲の少なくとも一部がデジタルデータ化される。煤書き記録等方式では、並んで設置された複数の記録針が各々の支点を中心に地震動の強さ(以下、振幅ともいう)に応じて旋回し、1つの回転する円筒に巻きつけられた煤書き記象紙に地震動を記録する。そのため、1枚の記象紙に複数の波形が記録されている。そこで、ユーザは、複数の波形のうち、デジタルデータ化したい範囲を指定する必要がある。あるいは、1枚の記象紙に1つの波形しか記録されていない場合であっても、1つの波形のうちユーザがデジタルデータ化したい範囲が存在する場合には、デジタルデータ化したい範囲を指定する必要がある。図2を参照すると、ユーザが、メニュー31bにおいて「範囲指定」を選択した後、右側に表示された記象紙画像31aを参照して、マウス等をクリック&ドラッグすることにより、記象紙画像に記録された複数の波形からデジタルデータ化したい範囲を指定する。図2において、破線で示された範囲が、ユーザが入力した範囲である。範囲指定手段は、ユーザが入力した範囲の記象紙画像上における位置データをメモリ上に保持する。
【0027】
基線指定手段は、記象紙画像に記録されている波形において、波形振幅の基準となる基線を指定する。円筒に巻きつけられた記録用紙に1本の記録針が徐々に位置をずらしながら複数周回して振幅を記録している場合、あるいは記象紙を読み取って記象紙画像を作成する際に記象紙が傾くなどした場合など、波形振幅のゼロ点を成す基線が記象紙画像の一辺と平行でない場合がある。そこで、ユーザは、記象紙画像上において基線を指定する必要がある。図3を参照すると、ユーザが、メニュー31bにおいて「基線指定」を選択した後、右側に表示された記象紙画像31aを参照して、マウス等をクリック&ドラッグすることにより、波形振幅の基準となる線を入力する。図3に示される破線が、ユーザが入力した線である。基線指定手段は、ユーザが入力した線の記象紙画像上における位置データを、波形振幅の基準となる基線としてメモリ上に保持する。
【0028】
円弧補正手段は、記象紙画像に記録されている波形において、波形に含まれる円弧成分を補正し、片振れ補正手段は、記象紙画像に記録されている波形において、波形振幅の基準となる基線のずれ、すなわち片振れを補正する。記録針は支点を中心に旋回するため、旋回による円弧成分を波形が含んでいる。そこで、正確な地震波形のデータを得るために、この円弧成分を補正した上で、デジタルデータ化する必要がある。また、何らかの原因により、記録針の先端と支点とを結ぶ線が、記象紙を巻きつける円筒の回転方向に対して平行でない状態、すなわち片振れを含んだ波形が記録されることがある。そこで、正確なデータを得るために、片振れによる影響を補正した上で、デジタルデータ化する必要がある。図4を参照すると、ユーザがメニュー31bにおいて「円弧&片振れ補正」を選択するとき、円弧補正手段及び片振れ補正手段は、右側に表示された記象紙画像31a下部に、スライドバー41を画面に表示する(図4参照)。ユーザは、表示された記象紙画像を参照して、スライドバー41のスライダー42をマウス等でドラッグすることにより、円弧による影響及び片振れの補正パラメータを入力する。円弧補正手段は、入力された補正パラメータに基づいて、画面に表示されている記象紙画像を補正し、補正した記象紙画像を表示する。これにより、入力された補正パラメータが即座に画面上の記象紙画像に反映される。円弧補正手段及び片振れ補正手段は、ユーザが入力した補正パラメータをメモリ上に保持する。
【0029】
スケーリング手段は、記象紙画像に記録されている波形を振幅方向(Y方向)に縮小する。後述される波形処理部21は、記象紙画像に含まれた波形の振幅が大きい場合、振幅を小さく認識する傾向がある。そこで、記象紙画像において、時間方向(X方向)の大きさを維持したまま、振幅方向(Y方向)を縮小、すなわち振幅を小さくすることで読み取り結果が改善される場合がある。ユーザが、表示された記象紙画像を参照して、マウス等をクリック&ドラッグすることにより、縮小された波形振幅の大きさを入力する。ユーザの操作に応じて、画面に表示された記象紙画像が振幅方向(Y方向)に伸縮する(図5参照)。スケーリング手段は、ユーザが入力した大きさに基づいて、波形振幅の縮小率を算出し、メモリ上に保持する。
【0030】
前処理手段32は、範囲指定手段、基線指定手段、円弧補正手段、片振れ補正手段、及びスケーリング手段のうち、全ての処理が完了した後、あるいは少なくとも1つの処理が完了した後に、メモリ上に保持されている、範囲指定手段及び基線指定手段により得られた位置データ、円弧補正手段及び片振れ補正手段により得られた補正パラメータ、並びにスケーリング手段により得られた縮小率を用いて画像を補正する。
【0031】
点列生成手段33は前処理手段32によって補正された画像データをサーバ20に送信し、後述される波形処理部21によって出力された第3のデータを受信する。後述される波形処理部21は、記象紙画像に記録されている波形線をベクトルデータなどのデジタルデータ、例えばSVG形式で波形データとして出力する。つまり、波形データは、波形処理部21により作成される点列データであって、点と線のベクトルデータを有し、これらのベクトルデータが波形を表す。地震波形読み取りプログラムは、ベクトルデータから成る波形を記象紙画像に重畳させて画面に表示させる。
【0032】
クライアント30は、過去に波形処理部21によって出力された第3のデータをSVGファイルとして記録しておくことができる。点列生成手段33は、記録済みのSVGファイルを読み込み、点列を生成できる。
【0033】
修正手段34は、正解点指定手段、点移動手段、点追加手段、点削除手段、及び振幅伸縮手段のうち、少なくとも1つを備え、点列生成手段33が作成した波形データを修正する。
【0034】
正解点指定手段では、ユーザは、画面に表示された波形及び記象紙画像を見ながら、波形データ、すなわちベクトルデータが地震波形上に存在しない場合、地震波形上の正しい位置を点として2点以上指定する。正解点指定手段は、ユーザによって指定された複数の点を、正しい位置にある点として、指定された複数の点の間の画素値を参照し、波形線に沿うよう動的計画法により補間する。
【0035】
点移動手段では、ユーザは、画面に表示された波形及び記象紙画像を見ながら、波形データが地震波形上に存在しない場合、マウス等をクリック&ドラッグすることにより、ベクトルデータの任意の点を地震波形上の正しい位置に移動させる。点移動手段は、当該任意の点の位置を移動、すなわちユーザによって移動された位置を、当該任意の点の新たなベクターデータとして記録する。
【0036】
点追加手段では、ユーザは、画面に表示された波形及び記象紙画像を見ながら、波形データ上の点が足りない場合、波形データの線上の位置における任意の点をマウス等を用いてクリックする。点追加手段は、ユーザがクリックした点の位置をベクターデータとして追加し、追加された点と隣接する両側の点との間を、線を表すベクターデータで補完する。
【0037】
点削除手段では、ユーザは、画面に表示された波形及び記象紙画像を見ながら、波形データ上の任意の点をマウス等を用いてクリックする。点削除手段は、ユーザによってクリックされた点とその点に繋がる線のベクターデータを削除し、削除された点に繋がれていた点どうしの間を、線を表すベクターデータで補完する。
【0038】
振幅伸縮手段では、ユーザは、画面に表示された波形及び記象紙画像を見ながら、マウス等を用いてX方向(時間方向)における2点をクリックし、振幅を伸縮させる範囲を指定する。そして、次に1点をクリック&ドラッグして、伸縮の程度を示す伸縮スケールを指定する。振幅伸縮手段は、ユーザによって指定されたX方向範囲に含まれる波形を、指定された伸縮スケールに応じてY方向に伸縮し、伸縮された値をベクターデータとして記録する。これにより、ベクターデータから成る波形が振幅方向(Y方向)に伸縮される。
【0039】
以上の手段を用いて修正された点列データと記象紙画像とが、出力手段35に送られる。
【0040】
出力手段35は、ユーザによって修正された点列データを、任意の解像度及び時間間隔のデータに加工して出力する手段であって、加工には、パラメータとして、点列データの画像解像度、時間解像度、及びリサンプリング間隔を用いる。画像解像度は、X方向の1インチあたりのドット数、及びY方向の1インチあたりのドット数または1ピクセルあたりの長さ(mm)である。時間解像度は任意時間あたりの長さ(mm)である。任意時間は、例えば1分である。リサンプリング間隔は、時間方向に対する所望のサンプリング間隔であり、0.10秒又は0.20秒のいずれかが選択される。
【0041】
以下に、図6A~6Dを用いて、画像解像度、時間解像度、及びリサンプリング間隔をユーザが指定する手法について説明する。ここで、記象紙画像は、その画像解像度をデータとして、その画像ファイル内に記録している。ユーザがメニュー31b(図2等参照)において「単位変換&CSV出力」を選択すると、出力手段35は、記象紙画像から画像解像度を読み出すとともに、記象紙画像の画素数(ドット数)と記象紙画像の実寸との比率を算出する。そして、テキストボックス61a及びテキストボックス61bに画像解像度を表示し、テキストボックス61cに記象紙画像の画素数と記象紙画像の実寸との比率を表示した、ダイアログ61を画面に表示する(図6A参照)。ユーザは、テキストボックス61a~61dにおいて、具体的な数値を直接テキストボックスに直接入力して、画像解像度、時間解像度、及びリサンプリング間隔を設定可能である。リサンプリング間隔については、デフォルト値として0.10秒が選択されている。テキストボックス61b及びテキストボックス61cの値は、いずれも記象紙画像の画素数と記象紙画像の実寸との比率を表す値である。出力手段35は、テキストボックス61b及びテキストボックス61cのいずれか一方がユーザによって変更された場合、その変更に応じて他方の値を自動的に変更する。ダイアログ61において、ユーザが「画像から指定」ボタン61eをクリックすると、画面にダイアログ62が表示される(図6B参照)。この画面において、ユーザは、画面上方に設けられた数値ボックス62aに時間幅を数値で入力した上で、画像上の2点をマウスでクリック等する(図6C参照)。画像上においてクリックされた2点間の距離が、入力した時間幅に対応する長さである。指定が完了すると、ユーザは、「OK」ボタンをクリックすることによりダイアログ62を閉じる。そして、出力手段35は、ユーザが指定した2点間の距離と時間幅から計算された1分あたりの実寸(mm/分)をテキストボックス61dに表示する(図6D参照)。ユーザによってダイアログ61のOKボタンがクリックされると、画像解像度、時間解像度、及びリサンプリング間隔が出力手段35に入力され、出力手段35は点列データを指定された時間間隔でリサンプリングし、データをCSV形式で出力する。以上説明したように、出力手段35がダイアログ61に自動的に画像解像度を表示し、リサンプリング間隔については0.10秒が選択済みであるため、ユーザは、少なくとも時間解像度を指定すればよい。なお、リサンプリング間隔については、装置の外部から入力されたファイルに記載された値を用いて設定することも可能である。
【0042】
次に、サーバ20について説明する。サーバ20は、波形処理部21を主に備える。波形処理部21は、アナログ波形処理装置を成し、前処理済みの画像データをクライアント30から受け取って波形データを形成する。波形処理部21は、アナログ波形処理プログラム及びアナログ波形処理方法を実行可能である。アナログ波形処理プログラム及びアナログ波形処理方法は、教師あり学習によるコンボリューショナルニューラルネットワークを実装するものであって、学習したパラメータ及び記象紙画像を用いて、記象紙画像から波形データを形成する。以下、図7を用いて、アナログ波形処理プログラムを成す第1のニューラルネットワークについて詳細に説明する。
【0043】
第1のニューラルネットワークは21層から成り、入力されるデータは、X方向にW画素、Y方向にH画素を有する1枚のグレースケール画像から成る記象紙画像である。始めの第1~4層は、第1の畳み込み部の少なくとも一部を成すものであり、主に畳み込み層から構成される。
【0044】
第1層は、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、記象紙画像にパディング3を施し、これに、7x7のカーネルサイズを持つフィルタをストライド幅1で適用し、32チャンネルのデータを得る。そして第1層は、得られたデータにバッチ正規化及び活性化関数ReLUを適用し、出力する。
【0045】
第2層は、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、第1層から受けた32チャンネルのデータに対してパディング1を施し、これに4x4のカーネルサイズを持つフィルタをストライド幅2で適用し、64チャンネルのデータを得る。そして第2層は、得られたデータにバッチ正規化及び活性化関数ReLUを適用した後、出力する。
【0046】
第3層は、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、第2層から受けた64チャンネルのデータに対してパディング1を施し、これに4x4のカーネルサイズを持つフィルタをストライド幅2で適用し、128チャンネルのデータを得る。そして第3層は、得られたデータにバッチ正規化及び活性化関数ReLUを適用した後、出力する。
【0047】
第4層は、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、第3層から受けた128チャンネルのデータに対してパディング1を施し、これに4x4のカーネルサイズを持つフィルタをストライド幅2で適用し、256チャンネルのデータを得る。そして第4層は、得られたデータにバッチ正規化及び活性化関数ReLUを適用した後、出力する。第4層を適用した後のデータは、X方向及びY方向に画素数が1/8に変換された256枚のデータ、すなわちX方向にW/8画素、Y方向にH/8画素を有する256枚のデータである。
【0048】
次に、第5~13層を成す9層のResidual層を適用する。第5~13層は、第1の畳み込み部の少なくとも一部を成すものである。Residual層は、入力値と出力値の残差を計算する層であって、パディング1、カーネルサイズ3x3、及びストライド幅1である2層の畳み込み層と活性化関数ReLU層とを備える。入力値には、まず1つめの畳み込み層が適用された後、これに活性化関数ReLU層が適用され、その後、さらに2つめの畳み込み層及び活性化関数ReLU層が適用される。そして得られた出力値を入力値から引いた残差を出力する。これを第5~13層において実行する。第13層を適用した後のデータは、X方向及びY方向に画素数が1/8に変換された256枚のデータ、すなわちX方向にW/8画素、Y方向にH/8画素を有する256枚のデータであり、そのデータサイズは、第4層を適用した後のデータと同じである。
【0049】
ここで、第1~13層までは、実質的に畳み込み層のみで構成されている。そのため、X方向及びY方向の画素数(W、H)がどのような値であっても計算可能である。あるいは、パディング、カーネルサイズ、及びストライド幅といったパラメータを適宜調節することにより、メモリ使用量及び計算量などを調節可能である。
【0050】
次に、第14層を成すY方向MaxPooling層を適用する。第14層は、削減部の少なくとも一部を成すものであり、X方向の値各々に対してY方向における最も大きい値を抽出して出力する。これにより、Y方向の次元が1次元に削減される。これを256チャンネル全てについて行うことにより、X方向の次元がW/8、Y方向の次元が1次元である256チャンネルのデータが得られる。ここでMaxPooling層を適用するのは、Y方向に対して最も波形らしい画素の位置を抽出するためである。そのため、第14層より前に第1~13層を記象紙画像に適用することにより、第1~13層は、バックプロパゲーションにおいて、地震波形を形成するに特徴的な画素を出力可能となるように学習できる。
【0051】
次に、第15層を成すUnPooling層を適用する。第15層は、第2の畳み込み部の少なくとも一部を成すものであり、第14層が出力したデータに対してX方向にのみデータを拡大する。より詳細には、第14層から受けたデータに対し、パディング0、カーネルサイズ2、かつストライド幅2による1次元UnPoolingを適用する。カーネルサイズ2を適用することにより、前層に含まれる1画素の値を1x2に広げ、X方向にのみデータを拡大する。以上の処理を256チャンネル全てについて行う。
【0052】
次に、第16層を成す畳み込み層を適用する。第16層は、第2の畳み込み部の少なくとも一部を成すものであり、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、第15層から受けた256チャンネルの各データに対してパディング1を施し、これにカーネルサイズ3のフィルタをストライド幅1で適用し、128チャンネルのデータを得て、これにバッチ正規化及び活性化関数ReLUを適用した後、出力する。
【0053】
次に、第17層を成すUnPooling層を適用する。第17層は、第2の畳み込み部の少なくとも一部を成すものである。第17層の処理は、第15層と同様に、前層からのデータをUnPooling処理して出力するものであるため、説明を省略する。
【0054】
次に、第18層を成す畳み込み層を適用する。第18層は、第2の畳み込み部の少なくとも一部を成すものであり、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、第17層から受けた128チャンネルのデータに対してパディング1を施したものに、カーネルサイズ3のフィルタをストライド幅1で適用し、64チャンネルのデータを得て、これにバッチ正規化及び活性化関数ReLUを適用した後、出力する。
【0055】
次に、第19層を成すUnPooling層を適用する。第19層は、第2の畳み込み部の少なくとも一部を成すものである。第19層の処理は、第15層と同様に、前層からのデータをUnPooling処理して出力するものであるため、説明を省略する。
【0056】
次に、第20層を成す畳み込み層を適用する。第20層は、第2の畳み込み部の少なくとも一部を成すものであり、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、第19層から受けた64チャンネルのデータに対してパディング1を施したものに、カーネルサイズ3のフィルタをストライド幅1で適用し、32チャンネルのデータを得て、これにバッチ正規化層及び活性化関数ReLU層を適用した後、出力する。
【0057】
次に、第21層を成す畳み込み層を適用する。第21層は、第2の畳み込み部の少なくとも一部を成すものであり、畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLU層とを有する。畳み込み層は、第20層から受けた32チャンネルのデータに対してパディング3を施したものに、カーネルサイズ7のフィルタをストライド幅1で適用し、1チャンネルのデータを得て、これにバッチ正規化層及び活性化関数ReLU層を適用した後、出力する。
【0058】
これにより、X方向にW画素かつY方向に1つの値を有するデータであって、Y方向の値が地震波の位置を表すデータを得る。ここでいう地震波の位置は、前処理済みの画像データにおいて、地震波が描画されている位置である。波形処理部21は、第1のニューラルネットワークが出力した点列データをクライアント30内の地震波形読み取り部31に送信する。
【0059】
図8を用いて、アナログ波形処理システムが実行する処理方法について説明する。この処理を実行する前に、後述される学習データを用いて第1のニューラルネットワークが完成されており、波形処理部21として機能している。
【0060】
まず、ステップS801において、サーバ20及びクライアント30が起動され、これによりシステムが起動される。次のステップS802において、ユーザは、画像読み取り手段33を用いて得た記象紙画像、あるいは既存の記象紙画像を、地震波形読み取り部31に入力する。地震波形読み取り部31は、入力された記象紙画像を画面に表示する。
【0061】
次のステップS803において、ユーザは、画面に表示された記象紙画像を参照しながら、マウス等をクリック&ドラッグして、複数の波形からデジタルデータ化したい範囲を指定する。範囲指定手段は、記象紙画像に記録された複数の波形から、ユーザが入力した範囲の記象紙画像上における位置データを、波形処理部21が処理を行う範囲としてメモリ上に保持する。
【0062】
次のステップS804では、ユーザが、画面に表示された記象紙画像を参照しながら、マウス等をクリック&ドラッグして、波形振幅の基準となる線を入力する。基線指定手段は、ユーザが入力した線の記象紙画像上における位置データを、波形振幅の基準となる基線としてメモリ上に保持する。
【0063】
次のステップS805では、ユーザが、画面に表示された記象紙画像を参照しながら、スライドバーのスライダーをマウス等でドラッグして、円弧による影響及び片振れの補正パラメータを入力する。円弧補正手段及び片振れ補正手段は、ユーザが入力した補正パラメータをメモリ上に保持する。
【0064】
次のステップS806において、ユーザが、記象紙画像に含まれた波形の振幅が大きいと判断した場合、ステップS807において、スケーリングを行う。ユーザが、画面に表示された記象紙画像を参照しながら、マウス等をクリック&ドラッグすることにより、縮小された波形振幅の大きさを入力する。スケーリング手段は、ユーザが入力した大きさに基づいて、波形振幅の縮小率を算出し、メモリ上に保持する。
【0065】
次のステップS808では、地震波形読み取り部31が、範囲指定手段、基線指定手段、円弧補正手段、片振れ補正手段、及び/又はスケーリング手段が取得したパラメータ、及び記象紙画像を用いて記象紙画像を前処理し、サーバ20に送信する。サーバ20内の波形処理部21は、受信した前処理済みの記象紙画像に第1のニューラルネットワークを適用して、波形データを作成する。そして、作成された波形データをクライアント30に送信する。クライアント30内の地震波形読み取り部31は、波形データを前処理済みの記象紙画像に重ねて画面に表示する。
【0066】
次のステップS809では、ユーザが、波形データに修正が必要であると判断した場合、ステップS810において、修正手段34を用いて、正解点指定手段、点移動手段、点追加手段、点削除手段、及び振幅伸縮手段のうち、少なくとも1つを実行し、波形データを修正する。
【0067】
次のステップS811では、地震波形読み取り部31は、修正した波形データを、CSV形式でファイルとして出力する。そして、ステップS812において処理を終了する。
【0068】
次に、学習データ及び検証データについて説明する。「公益財団法人 地震予知総合研究振興会」の地震調査研究センターが蓄積している、ベクトルデータを持つ記象紙画像のうち、振幅がある程度大きい1本の波形と複数の水平線(時間軸と平行な線)とが描画されているものを158枚選択し、このうち136枚を第1の学習データ、22枚を第1の検証データとして用いた。そして、記象紙画像に記録されている波形のうち、最も振幅が大きい波形部分について、波形処理部21を用いて波形データを形成した。なお、記象紙画像に含まれる円弧及び片振れは補正済みである。第1の学習データ及び第1の検証データの一例として図9を示した。図9において矢印で示されている地震波形が、読み取り対象、つまり波形データの形成対象である。ここで、第1の学習データ及び第1の検証データは、第1のニューラルネットワークに対する入力信号を成す記象紙画像と、教師信号を成すベクトルデータとを含む。
【0069】
実施例1として、第1のニューラルネットワークに第1の学習データを学習させた結果について説明する。第1の学習データで学習した第1のニューラルネットワークは、エポック番号1213において、平均二乗誤差の平方根が10.43となった。図10は、図9に示した記象紙画像を学習済みの第1のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。波形データは、記象紙画像に記録されている波形線を近似しており、精度良く波形線を再現できた。
【0070】
本実施形態によれば、振幅がある程度大きい1本の波形と複数の水平線(時間軸と平行な線)とが描画されている記象紙画像において、好ましい精度で地震波形を読み取り、波形データを形成できる。
【0071】
また、記象紙画像に記録されたアナログ波形自体がかすれ、不均一な線の太さ、不均一な色の濃さを有していても、好ましい精度で地震波形を読み取り、波形データを形成できる。さらに、記象紙画像に記録されたアナログ波形が、波形以外の図、文字、又は汚れ等をも含んでいても、好ましい精度で地震波形を読み取り、波形データを形成できる。
【0072】
次に、第2の実施形態による第2のニューラルネットワークについて説明する。第1の実施形態と同様の構成については、説明を省略する。本実施形態では、第1のニューラルネットワークの第14層を成すY方向MaxPooling層に代えて、1x1畳み込み層を用いる点、及び第2の学習データ並びに第2の検証データを用いる点が異なる。
【0073】
波形処理部21を成す第2のニューラルネットワークについて説明する。第2のニューラルネットワークの第14層は1x1畳み込み層を含む。第14層は、1x1畳み込み層と、バッチ正規化層と、活性化関数ReLUとを有する。1x1畳み込み層は、第13層から受けた256チャンネルのデータに対して、まずチャンネル軸とY軸を入れ替える。軸を入れ替えたデータに対し、パディング0を施し、これに1x1のカーネルサイズを持つフィルタをストライド幅1で適用し、さらにチャンネル軸とY軸を入れ替える。これにより、Y方向の次元が1次元に削減された、256チャンネルのデータを得る。そして第14層は、得られたデータにバッチ正規化及び活性化関数ReLUを適用した後、出力する。以上の処理により、X方向の次元がW、Y方向の次元が1次元である256チャンネルのデータが得られる。ここで1x1畳み込み層を適用するのは、データ量を削減しながら、出力データに入力信号のY座標値を反映させ、Y方向における特徴量を抽出するためである。
【0074】
次に、学習データ及び検証データについて説明する。第1の実施形態による第1の学習データ及び第1の検証データに加え、「公益財団法人 地震予知総合研究振興会」の地震調査研究センターが蓄積している、ベクトルデータを持つ記象紙画像のうち、第1の実施形態で用いた地震波形よりも比較的振幅が小さい波形を含み、かつ記象紙画像に複数の地震波形が含まれ、地震波形を成す波形線どうしが重なっており、かつ重なっている複数の波形線のうち振幅が小さい波形線のベクトルデータがあるものを、新たに259枚追加した。このうち233枚を学習データ、26枚を検証データとして用いた。つまり、第1の学習データと合わせて、第2の学習データを369枚、第2の検証データを48枚とした。そして、記象紙画像に記録されている波形のうち、複数の波形線が重なっている部分を含み、かつ振幅が小さい波形部分について、波形処理部21を用いて波形データを形成した。なお、記象紙画像に含まれる円弧及び片振れは補正済みである。第2の学習データ及び第2の検証データの一例として図11を示した。図11において矢印で示されている地震波形が、読み取り対象、つまり波形データの形成対象である。
【0075】
実施例2として、第2のニューラルネットワークに第2の学習データを学習させた結果について説明する。第2の学習データで学習した第2のニューラルネットワークは、エポック番号608において、平均二乗誤差の平方根が8.63となった。図12は、図9に示した記象紙画像を学習済みの第2のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。図13は、図11に示した記象紙画像を学習済みの第2のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。波形データは、2つの波形が重なっている場合であっても、読み取りたい波形線を近似しており、精度良く波形線を再現できた。
【0076】
本実施形態によれば、記象紙画像に記録されている波形のうち、比較的振幅が小さい波形を含み、かつ記象紙画像に複数の地震波形が含まれ、地震波形を成す波形線どうしが重なっており、かつ重なっている複数の波形線のうち振幅が小さい波形線を読み取る場合に、好ましい精度で地震波形を読み取り、波形データを形成できる。
【0077】
ここで、参考として、図14を示す。図14は、図11に示した記象紙画像を実施例1により学習済みの第1のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。
【0078】
次に、比較例について説明する。比較例1として、第1のニューラルネットワークに第2の学習データを学習させた。第2の学習データで学習した第1のニューラルネットワークは、エポック番号336において、平均二乗誤差の平方根が11.46となった。図15は、図9に示した記象紙画像を学習済みの第1のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。図16は、図11に示した記象紙画像を学習済みの第1のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。
【0079】
比較例2として、第2のニューラルネットワークに第1の学習データを学習させた。第1の学習データで学習した第2のニューラルネットワークは、エポック番号733において、平均二乗誤差の平方根が9.02となった。図17は、図9に示した記象紙画像を学習済みの第2のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。図18は、図11に示した記象紙画像を学習済みの第2のニューラルネットワークで読み取り、これにより得られた波形データを破線、記象紙画像に記録されている波形線を実線で描いたものである。
【0080】
次に、実施例1、2及び比較例1、2によるエポック番号及び平均二乗誤差の平方根を示す。
【表1】
学習及び検証データとして用いた記象紙画像のリストを図19A~19Dに記載した。図中、「第1」は第1の学習データ及び第1の検証データとして用いられたことを意味し、「第2」は第2の学習データ及び第2の検証データとして用いられたことを意味する。また、「○」は学習データとして用いられたことを意味し、「◎」は検証データとして用いられたことを意味する。1枚の記象紙画像に含まれる3つの地震波のうち、「X成分」はE-W方向の地震波を意味し、「Y成分」はN-S方向の地震波を意味し、「Z成分」はU-D方向の地震波を意味する。
【0081】
実施例1は、第1の学習データを学習した第1のニューラルネットワークである。実施例1は、比較例1である第2の学習データを学習した第1のニューラルネットワークと比較して、誤差の小さいニューラルネットワークとなった。
【0082】
実施例2は、第2の学習データを学習した第2のニューラルネットワークである。実施例2は、比較例1である第2の学習データを学習した第1のニューラルネットワークと比較して、誤差の小さいニューラルネットワークとなり、比較例2である第1の学習データを学習した第2のニューラルネットワークと比較して、誤差の小さいニューラルネットワークとなった。また、実施例2は、実施例1、比較例1、2に対して、有意に小さな誤差を示した。
【0083】
これにより、第2のニューラルネットワークは、振幅がある程度大きい1本の波形と複数の水平線(時間軸と平行な線)とが描画されている記象紙画像、及び比較的振幅が小さい波形を含み、かつ記象紙画像に複数の地震波形が含まれ、地震波形を成す波形線どうしが重なっており、かつ重なっている複数の波形線のうち振幅が小さい波形線のベクトルデータがある記象紙画像、いずれの記象紙画像であっても、高い認識能力があることが示された。
【0084】
アナログ波形処理システム10について、クライアントとサーバとがネットワークを介して接続されるとして説明したが、アナログ波形処理システム10は1台のコンピュータによって実行されるものであってもよい。
【0085】
いずれの実施形態においても、第1~4層は、畳み込み層、バッチ正規化、及び活性化層の組み合わせから成る1以上の層に置換可能である。また、バッチ正規化層は用いられなくてもよく、層の深さによって適宜用いられる。活性化関数はReLUに限定されない。
【0086】
いずれの実施形態においても、第5~13層のResidual層の数は、9層に限定されず、1層以上であればよい。また、Residual層に含まれる2層の畳み込み層と活性化関数ReLU層について、畳み込み層の数は2層に限定されず、活性化関数はReLUに限定されない。Residual層は、非ボトルネックデザインとして説明したが、ボトルネックデザインを用いてもよい。
【0087】
いずれの実施形態においても、第15及び16層、第17及び18層、及び第19及び20層の組合せは、3つに限定されず、1以上であればよい。また、第21層を設けずに、第21層より前の畳み込み層で1チャンネルを出力してもよい。
【0088】
本明細書および図中に示したパラメータ、及び数値は例示であって、これらの値に限定されない。
【0089】
ここに付随する図面を参照して本発明の実施形態が説明されたが、記載された発明の範囲と精神から逸脱することなく、変形が各部の構造と関係に施されることは、当業者にとって自明である。
【符号の説明】
【0090】
10 アナログ波形処理システム
20 サーバ
21 波形処理部
30 クライアント
31 地震波形読み取り部
31a 記象紙画像
31b メニュー
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図19D