(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075286
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】癌を治療するためのII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ阻害剤及びICOS結合タンパク質の組合せ
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230523BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230523BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230523BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20230523BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230523BHJP
C12N 9/99 20060101ALN20230523BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/506
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N9/99
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040526
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2020566206の分割
【原出願日】2019-05-24
(31)【優先権主張番号】62/678,398
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルバシュ,オレナ アイ.
(72)【発明者】
【氏名】フェドリウ,アンドルー マーク
(72)【発明者】
【氏名】コレンチュク,スーザン
(72)【発明者】
【氏名】シャーク,クリスティアン エス.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より有効な、及び/又は増強された、癌を治療する方法および組み合わせを提供する。
【解決手段】それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及びヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分を投与することを含む方法とする。前記II型PRMT阻害剤が、下記化合物(C)であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及びヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分を投与することを含む方法。
【請求項2】
II型PRMT阻害剤が、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5)阻害剤、又はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9)阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
II型PRMT阻害剤が、式(III):
【化1】
(式中、
【化2】
は、単結合又は二重結合を表し、
R
1は、水素、R
z、又は-C(O)R
z(式中、R
zは、場合により置換されているC
1~6アルキルである)であり、
Lは、-N(R)C(O)-、-C(O)N(R)-、-N(R)C(O)N(R)-、-N(R)C(O)O-、又は-OC(O)N(R)-であり、
Rはそれぞれ独立して、水素又は場合により置換されているC
1~6脂肪族であり、
Arは、独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される0個~4個のヘテロ原子を有する単環式又は二環式芳香環であり、Arは、原子価が許容する場合、0個、1個、2個、3個、4個、又は5個のR
y基で置換され、
R
yはそれぞれ独立して、ハロ、-CN、-NO
2、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているアリール、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているヘテロアリール、-OR
A、-N(R
B)
2、-SR
A、-C(=O)R
A、-C(O)OR
A、-C(O)SR
A、-C(O)N(R
B)
2、-C(O)N(R
B)N(R
B)
2、-OC(O)R
A、-OC(O)N(R
B)
2、-NR
BC(O)R
A、-NR
BC(O)N(R
B)
2、-NR
BC(O)N(R
B)N(R
B)
2、-NR
BC(O)OR
A、-SC(O)R
A、-C(=NR
B)R
A、-C(=NNR
B)R
A、-C(=NOR
A)R
A、-C(=NR
B)N(R
B)
2、-NRBC(=NR
B)R
B、-C(=S)R
A、-C(=S)N(R
B)
2、-NR
BC(=S)R
A、-S(O)R
A、-OS(O)
2R
A、-SO
2R
A、-NR
BSO
2R
A、又は-SO
2N(R
B)
2からなる群から選択され、
R
Aはそれぞれ独立して、水素、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、及び場合により置換されているヘテロアリールからなる群から選択され、
R
Bはそれぞれ独立して、水素、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、及び場合により置換されているヘテロアリールからなる群から選択されるか、或いは、2個のR
B基は、それらの間に介在する原子と一緒になって、場合により置換されている複素環を形成し、
R
5、R
6、R
7、及びR
8は、独立して、水素、ハロ、又は場合により置換されている脂肪族であり、
R
xはそれぞれ独立して、ハロ、-CN、場合により置換されている脂肪族、-OR'、及びN(R")
2からなる群から選択され、
R
'は、水素又は場合により置換されている脂肪族であり、
R
"はそれぞれ独立して、水素又は場合により置換されている脂肪族であるか、或いは、2個のR
"は、それらの間に介在する原子と一緒になって、複素環を形成し、
nは、原子価が許容する場合、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10である)
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
II型PRMT阻害剤が、式(X):
【化3】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
II型PRMT阻害剤が、化合物C:
【化4】
又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ICOS結合タンパク質が、抗ICOS抗体又はその抗原結合断片である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ICOS結合タンパク質が、ICOSアゴニストである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、直接等価体が、前記CDRにおいて2つ以下のアミノ酸置換を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、前記ICOS結合タンパク質が、ヒトICOSに特異的に結合する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及びヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を投与することを含み、II型PRMT阻害剤が、化合物C:
【化5】
又はその薬学的に許容可能な塩であり、ICOS結合断片又はその抗原結合断片が、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、直接等価体が、前記CDRにおいて2つ以下のアミノ酸置換を有する、方法。
【請求項11】
それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及びヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を投与することを含み、I型PRMT阻害剤が、化合物C:
【化6】
又はその薬学的に許容可能な塩であり、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むV
Hドメイン及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むV
Lドメインを含み、前記ICOS結合タンパク質が、ヒトICOSに特異的に結合する、方法。
【請求項12】
それを必要とするヒトにおいて癌を治療する際の使用のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項13】
II型PRMT阻害剤が、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5)阻害剤、又はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9)阻害剤である、請求項12に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項14】
II型PRMT阻害剤が、式(III):
【化7】
(式中、
【化8】
は、単結合又は二重結合を表し、
R
1は、水素、R
z、又は-C(O)R
z(式中、R
zは、場合により置換されているC
1~6アルキルである)であり、
Lは、-N(R)C(O)-、-C(O)N(R)-、-N(R)C(O)N(R)-、-N(R)C(O)O-、又は-OC(O)N(R)-であり、
Rはそれぞれ独立して、水素又は場合により置換されているC
1~6脂肪族であり、
Arは、独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される0個~4個のヘテロ原子を有する単環式又は二環式芳香環であり、Arは、原子価が許容する場合、0個、1個、2個、3個、4個、又は5個のR
y基で置換され、
R
yはそれぞれ独立して、ハロ、-CN、-NO
2、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているアリール、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているヘテロアリール、-OR
A、-N(R
B)
2、-SR
A、-C(=O)R
A、-C(O)OR
A、-C(O)SR
A、-C(O)N(R
B)
2、-C(O)N(R
B)N(R
B)
2、-OC(O)R
A、-OC(O)N(R
B)
2、-NR
BC(O)R
A、-NR
BC(O)N(R
B)
2、-NR
BC(O)N(R
B)N(R
B)
2、-NR
BC(O)OR
A、-SC(O)R
A、-C(=NR
B)R
A、-C(=NNR
B)R
A、-C(=NOR
A)R
A、-C(=NR
B)N(R
B)
2、-NRBC(=NR
B)R
B、-C(=S)R
A、-C(=S)N(R
B)
2、-NR
BC(=S)R
A、-S(O)R
A、-OS(O)
2R
A、-SO
2R
A、-NR
BSO
2R
A、又は-SO
2N(R
B)
2からなる群から選択され、
R
Aはそれぞれ独立して、水素、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、及び場合により置換されているヘテロアリールからなる群から選択され、
R
Bはそれぞれ独立して、水素、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、及び場合により置換されているヘテロアリールからなる群から選択されるか、或いは、2個のR
B基は、それらの間に介在する原子と一緒になって、場合により置換されている複素環を形成し、
R
5、R
6、R
7、及びR
8は、独立して、水素、ハロ、又は場合により置換されている脂肪族であり、
R
xはそれぞれ独立して、ハロ、-CN、場合により置換されている脂肪族、-OR'、及びN(R")
2からなる群から選択され、
R
'は、水素又は場合により置換されている脂肪族であり、
R
"はそれぞれ独立して、水素又は場合により置換されている脂肪族であるか、或いは、2個のR
"は、それらの間に介在する原子と一緒になって、複素環を形成し、
nは、原子価が許容する場合、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10である)
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項12又は13に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項15】
II型PRMT阻害剤が、式(X):
【化9】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項12から14のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項16】
II型PRMT阻害剤が、化合物C:
【化10】
又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項12から15のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項17】
ICOS結合タンパク質が、抗ICOS抗体又はその抗原結合断片である、請求項12から16のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項18】
ICOS結合タンパク質が、ICOSアゴニストである、請求項12から17のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項19】
ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、直接等価体が、前記CDRにおいて2つ以下のアミノ酸置換を有する、請求項12から18のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項20】
ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、前記ICOS結合タンパク質が、ヒトICOSに特異的に結合する、請求項12から19のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項21】
それを必要とするヒトにおいて癌を治療する際の使用のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片であって、II型PRMT阻害剤が、化合物C:
【化11】
又はその薬学的に許容可能な塩であり、ICOS結合断片又はその抗原結合断片が、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、直接等価体が、前記CDRにおいて2つ以下のアミノ酸置換を有する、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項22】
それを必要とするヒトにおいて癌を治療する際の使用のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片であって、II型PRMT阻害剤が、化合物C:
【化12】
又はその薬学的に許容可能な塩であり、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むV
Hドメイン及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むV
Lドメインを含み、前記ICOS結合タンパク質が、ヒトICOSに特異的に結合する、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項23】
II型PRMT阻害剤、或いはICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片が、同時、順次、任意の順序、全身的、経口、静脈内、及び腫瘍内から選択される経路で患者に投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法、又は請求項12から22のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項24】
II型PRMT阻害剤が、経口投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法、又は請求項12から23のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項25】
ICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片が、静脈内投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法、又は請求項12から24のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項26】
癌が、結腸直腸癌(CRC)、胃癌、食道癌、子宮頸癌、膀胱癌、乳癌、頭頸部癌、卵巣癌、黒色腫、腎細胞癌(RCC)、EC扁平上皮癌、非小細胞肺癌、中皮腫、膵臓癌、前立腺癌、及びリンパ腫からなる群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法、又は請求項12から25のいずれか一項に記載のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片。
【請求項27】
癌を治療するための医薬の製造のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の使用。
【請求項28】
癌を治療するための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物において癌を治療する方法及びそのような治療に有用な組合せに関する。特に、本発明は、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及び抗ICOS抗体のような免疫調節剤の組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
癌を含む過剰増殖性障害の有効な治療は、腫瘍学分野において引き続き継続している目標である。概して、癌は、細胞分裂、分化及びアポトーシス細胞死を制御する正常プロセスの調節解除に起因し、無制限の成長、局所的な増殖及び全身転移の可能性を持つ悪性細胞の増殖を特徴とする。正常プロセスの調節解除は、シグナル伝達経路における異常及び正常細胞に見られる応答とは異なる因子に対する応答を含む。
【0003】
アルギニンメチル化は、様々な細胞プロセス、例えば、遺伝子調節、RNAプロセシング、DNA損傷応答、及びシグナル伝達に関与するタンパク質に対する重要な翻訳後修飾である。メチル化されたアルギニンを含有するタンパク質は、核画分及び細胞質画分の両方の中に存在し、メチル基の、アルギニン上への転移を触媒する酵素も、これらの細胞内区画全体にわたって存在することが示唆されている(Yang, Y. & Bedford, M. T. Protein arginine methyltransferases and cancer. Nat Rev Cancer 13, 37-50, doi:10.1038/nrc3409 (2013)、Lee, Y. H. & Stallcup, M. R. Minireview: protein arginine methylation of nonhistone proteins in transcriptional regulation. Mol Endocrinol 23, 425-433, doi:10.1210/me.2008-0380 (2009)に概説される)。哺乳動物細胞において、メチル化されたアルギニンは、3つの主要な形態:ω-NG-モノメチル-アルギニン(MMA)、ω-NG,NG-非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)、又はω-NG,NG-対称性ジメチルアルギニン(SDMA)で存在する。各メチル化状態は、種々の方法でタンパク質間相互作用に影響を及ぼすことができ、したがって、基質の生物活性に関して特徴的な機能的帰結を付与する能力を有する(Yang, Y. & Bedford, M. T. Protein arginine methyltransferases and cancer. Nat Rev Cancer 13, 37-50, doi:10.1038/nrc3409 (2013))。
【0004】
アルギニンメチル化は、メチル基をS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)から基質アルギニン側鎖に転移させて、S-アデノシル-ホモシステイン(SAH)及びメチル化されたアルニギンを産生するタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)のファミリーの活性により、グリシン、アルギニンリッチな(GAR)モチーフの文脈で起きることが多い。このファミリーのタンパク質は、10個の成員で構成され、そのうちの9個が、酵素活性を有することが示されている(Bedford, M. T. & Clarke, S. G. Protein arginine methylation in mammals: who, what, and why. Mol Cell 33, 1-13, doi:10.1016/j.molcel.2008.12.013 (2009))。PRMTファミリーは、酵素反応の生成物に応じて、4つのサブタイプ(I型~IV型)に分類される。IV型酵素は、内部のグアニジノ窒素をメチル化し、酵母においてのみ記載されており(Fisk, J. C. & Read, L. K. Protein arginine methylation in parasitic protozoa. Eukaryot Cell 10, 1013-1022, doi:10.1128/EC.05103-11 (2011))、I型~III型酵素は、単回のメチル化事象によりモノメチル-アルギニン(MMA、Rme1)を生成する。MMA中間体は、比較的低い存在量の中間体であるとみなされるが、PRMT7の主にIII型の活性の特定の基質が、モノメチル化されたままの状態であり得るのに対して、I型及びII型酵素は、MMAから、それぞれ非対称性ジメチルアルギニン(ADMA、Rme2a)又は対称性ジメチルアルギニン(SDMA、Rme2s)のいずれかへの進行を触媒する。II型PRMTは、PRMT5、及びPRMT9を包含するが、PRMT5は、対称性ジメチル化の形成に関与する主要な酵素である。I型酵素として、PRMT1、PRMT3、PRMT4、PRMT6及びPRMT8が挙げられる。PRMT1、PRMT3、PRMT4、及びPRMT6は、遍在的に発現されるのに対して、PRMT8は、主に脳に制限されている(Bedford, M. T. & Clarke, S. G. Protein arginine methylation in mammals: who, what, and why. Mol Cell 33, 1-13, doi:10.1016/j.molcel.2008.12.013 (2009)に概説される)。
【0005】
PRMT5は、細胞質及び核において、幾つかのタイプの複合体で機能し、PRMT5の結合パートナーは、基質認識及び選択性に必要とされる。メチロソーム(Methylosome)タンパク質50(MEP50)は、PRMT5結合並びにヒストン及び他の基質に対する活性に必要とされるPRMT5の既知の補因子である(Ho MC, et al. Structure of the arginine methyltransferase PRMT5-MEP50 reveals a mechanism for substrate specificity. PLoS One. 2013;8(2))。
【0006】
PRMT5は、アルギニン残基及びグリシン残基に富んだ領域において優先的に、多重タンパク質におけるアルギニンを対称的にメチル化する(Karkhanis V, et al. Versatility of PRMT5-induced methylation in growth control and development. Trends Biochem Sci. 2011 Dec;36(12):633-41)。PRMT5は、スプライシング因子、ヒストン、転写因子、キナーゼ及びその他を含む各種細胞タンパク質におけるアルギニンをメチル化する(Karkhanis V, et al. Versatility of PRMT5-induced methylation in growth control and development. Trends Biochem Sci. 2011 Dec;36(12):633-41)。スプライセオソームの多重構成成分のメチル化は、スプライセオソーム構築において重要な事象であり、ノックダウン又は遺伝子ノックアウトによるPRMT5活性の減衰は、細胞スプライシングの破綻を招く(Bezzi M, et al. Regulation of constitutive and alternative splicing by PRMT5 reveals a role for Mdm4 pre-mRNA in sensing defects in the spliceosomal machinery. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16)。PRMT5はまた、ヒストンアルギニン残基(H3R8、H2AR3及びH4R3)もメチル化し、これらのヒストンの特徴は、腫瘍抑制遺伝子、例えば、RB及びST7の転写サイレンシングと関連付けられる(Wang L, Pal S, Sif S. Protein arginine methyltransferase 5 suppresses the transcription of the RB family of tumor suppressors in leukemia and lymphoma cells. Mol Cell Biol. 2008 Oct;28(20):6262-77)。更に、H2AR3の対称的なジメチル化は、胚幹細胞における分化遺伝子のサイレンシングに関係している(Tee WW, Pardo M, Theunissen TW, Yu L, Choudhary JS, Hajkova P, Surani MA. Prmt5 is essential for early mouse development and acts in the cytoplasm to maintain ES cell pluripotency. Genes Dev. 2010 Dec 15;24(24):2772-7)。PRMT5はまた、EGFR及びPI3Kのメチル化により細胞シグナル伝達において役割を果たす(Hsu JM, Chen CT, Chou CK, Kuo HP, Li LY, Lin CY, Lee HJ, Wang YN, Liu M, Liao HW, Shi B, Lai CC, Bedford MT, Tsai CH, Hung MC. Crosstalk between Arg 1175 methylation and Tyr 1173 phosphorylation negatively modulates EGFR-mediated ERK activation. Nat Cell Biol. 2011 Feb;13(2):174-81、Wei TY, Juan CC, Hisa JY, Su LJ, Lee YC, Chou HY, Chen JM, Wu YC, Chiu SC, Hsu CP, Liu KL, Yu CT. Protein arginine methyltransferase 5 is a potential oncoprotein that upregulates G1 cyclins/cyclin-dependent kinases and the phosphoinositide 3-kinase/AKT signaling cascade. Cancer Sci. 2012 Sep;103(9):1640-50)。
【0007】
PRMT5が、腫瘍形成に関与することを示唆する証拠が増えている。PRMT5タンパク質は、リンパ腫、神経膠腫、乳癌及び肺癌を含む幾つかの癌タイプにおいて過剰発現され、PRMT5過剰発現は単独で、正常な線維芽細胞を形質転換するのに十分である(Pal S, Baiocchi RA, Byrd JC, Grever MR, Jacob ST, Sif S. Low levels of miR-92b/96 induce PRMT5 translation and H3R8/H4R3 methylation in mantle cell lymphoma. EMBO J. 2007 Aug 8;26(15):3558-69、Ibrahim R, et al. Expression of PRMT5 in lung adenocarcinoma and its significance in epithelial-mesenchymal transition. Hum Pathol. 2014 Jul;45(7):1397-405、Powers MA, et al. Protein arginine methyltransferase 5 accelerates tumor growth by arginine methylation of the tumor suppressor programmed cell death 4. Cancer Res. 2011 Aug 15;71(16):5579-87、Yan F, et al. Genetic validation of the protein arginine methyltransferase PRMT5 as a candidate therapeutic target in glioblastoma. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65)。PRMT5のノックダウンは、癌細胞株における細胞成長及び生存期間の減少を引き起こす場合が多い。乳癌では、高いPRMT5発現は、高いPDCD4(プログラム細胞死4)レベルとともに、乏しい全生存期間を予測する(Powers MA, et al. Cancer Res. 2011 Aug 15;71(16):5579-87)。PRMT5は、PDCD4をメチル化して、腫瘍関連機能を変更させる。乳癌の同所性モデルにおけるPRMT5及びPDCD4の同時発現は、腫瘍成長を促進する。神経膠腫におけるPRMT5の高い発現は、高い腫瘍悪性度及び乏しい全生存期間と関連付けられ、PRMT5ノックダウンは、同所性神経膠芽腫モデルにおいて生存利益を提供する(Yan F, et al. Genetic validation of the protein arginine methyltransferase PRMT5 as a candidate therapeutic target in glioblastoma. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65)。PRMT5発現及び活性の増加は、神経膠腫細胞株において幾つかの腫瘍抑制遺伝子のサイレンシングに寄与する。
【0008】
PRMT5と癌との間の現在記載されている最も強い機構的な関連が、マントル細胞リンパ腫(MCL)に見られる。PRMT5は、MCLで頻繁に過剰発現され、核区画で高度に発現され、核区画で、PRMT5は、ヒストンメチル化のレベルを増加させて、腫瘍抑制遺伝子のサブセットを発現停止させる(silences)。最近の研究により、MCLにおけるPRMT5発現のアップレギュレーションにおけるmiRNAの役割が明らかとなった。50個超のmiRNAが、PRMT5 mRNAの3'非翻訳領域にアニーリングすると予測される。miR-92b及びmiR-96レベルが、MCLにおいてPRMT5レベルと逆相関すること、またMCL細胞におけるこれらのmiRNAのダウンレギュレーションが、PRMT5タンパク質レベルのアップレギュレーションをもたらすことが報告された。MCL患者の大部分において転座される発癌遺伝子であるサイクリンD1は、PRMT5と会合し、cdk4依存的メカニズムにより、PRMT5活性を増加させる(Aggarwal P, et al. Nuclear cyclin D1/CDK4 kinase regulates CUL4 expression and triggers neoplastic growth via activation of the PRMT5 methyltransferase. Cancer Cell. 2010 Oct 19;18(4):329-40)。PRMT5は、サイクリンD1依存的新生物成長を可能にするDNA複製を負に調節する重要な遺伝子の抑制を媒介する。PRMT5ノックダウンは、サイクリンD1依存的細胞形質転換を阻害して、腫瘍細胞の死を引き起こす。これらのデータは、MCLにおけるPRMT5の重要な役割を強調しており、PRMT5阻害を、MCLにおける治療上の戦略として使用することができることを示唆している。
【0009】
他の腫瘍タイプにおいて、PRMT5は、分化、細胞死、細胞周期進行、細胞成長及び増殖において役割を果たすと想定されている。PRMT5を腫瘍発生に関連付ける主なメカニズムが未知であるのに対して、PRMT5が、遺伝子発現(ヒストンメチル化、転写因子結合、又はプロモーター結合)の調節、スプライシングの変更、及びシグナル伝達に寄与することを示唆するデータが出現している。転写因子E2F1のPRMT5メチル化は、細胞成長を抑制して、アポトーシスを促進する、その能力を減少させる(Zheng S, et al. Arginine methylation-dependent reader-writer interplay governs growth control by E2F-1. Mol Cell. 2013 Oct 10;52(1):37-51)。PRMT5はまた、DNA損傷に応答してp53をメチル化し(Jansson M, et al. Arginine methylation regulates the p53 response. Nat Cell Biol. 2008 Dec;10(12):1431-9)、p53の、細胞周期停止を誘導する能力を低減させると同時に、p53依存的アポトーシスを増加させる。これらのデータは、PRMT5阻害がp53依存的アポトーシスの誘導により、細胞をDNA損傷剤に対して感受性にし得ることを示唆している。
【0010】
PRMT5は、p53を直接的にメチル化することに加えて、スプライシング関連のメカニズムによりp53経路をアップレギュレートする。マウス神経前駆細胞におけるPRMT5ノックアウトは、MDM4遺伝子のアイソフォームスイッチング(isoform switching)を含む細胞スプライシングの変更をもたらす(Bezzi M, et al. Regulation of constitutive and alternative splicing by PRMT5 reveals a role for Mdm4 pre-mRNA in sensing defects in the spliceosomal machinery. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16)。Bezziらは、PRMT5ノックアウト細胞が、長いMDM4アイソフォーム(機能的なp53ユビキチンリガーゼを生じる)の発現を減少させ、MDM4の短いアイソフォーム(不活性リガーゼを生じる)の発現を増加させることを発見した。MDM4スプライシングにおけるこれらの変化が、MDM4の不活性化をもたらし、p53タンパク質の安定性、続いて、p53経路の活性化及び細胞死を増加させる。MDM4選択的スプライシングはまた、PRMT5ノックダウン癌細胞株においても観察された。これらのデータにより、PRMT5阻害は、p53経路の多重ノードを活性化することができることが示唆される。
【0011】
癌細胞成長及び生存の調節に加えて、PRMT5はまた、上皮間葉移行(EMT)に関係している。PRMT5は、転写因子SNAILに結合し、E-カドヘリン発現の重要なコリプレッサーとして機能を果たし、PRMT5のノックダウンは、E-カドヘリンレベルのアップレギュレーションをもたらす(Hou Z, et al. The LIM protein AJUBA recruits protein arginine methyltransferase 5 to mediate SNAIL-dependent transcriptional repression. Mol Cell Biol. 2008 May;28(10):3198-207)。
【0012】
免疫療法は、過剰増殖性障害を治療するための別のアプローチである。抗腫瘍T細胞機能を高め、T細胞増殖を誘導することは有力であり、癌治療にとって新たなアプローチである。3つの免疫腫瘍学抗体(例えば、免疫調節因子)が、現在販売されている。抗CTL-4(YERVOY/イピリムマブ)は、T細胞プライミングの時点で免疫応答を増強させると考えられ、抗PD-1抗体(OPDIVO/ニボルムマブ及びKEYTRUDA/ペムブロリズマブ)は、すでにプライミングされて活性化された腫瘍特異的なT細胞において阻害性チェックポイントを軽減することによって、局所的な腫瘍微小環境で作用すると考えられる。
【0013】
ICOSは、CD28/CTLA-4-Igスーパーファミリーと構造的及び機能的関係を有する共刺激T細胞受容体である(Hutloff, et al., "ICOS is an inducible T-cell co-stimulator structurally and functionally related to CD28", Nature, 397: 263-266 (1999))。ICOSの活性化は、ICOS-L(B7RP-1/B7-H2)による結合により起きる。B7-1もB7-2も(CD28及びCTLA4に関するリガンド)、ICOSに結合せず、また活性化もしない。しかしながら、ICOS-Lは、CD28及びCTLA-4の両方に弱く結合することが示されている(Yao S et al., "B7-H2 is a costimulatory ligand for CD28 in human", Immunity, 34(5); 729-40 (2011))。ICOSの発現は、T細胞に制限されるようである。ICOS発現レベルは、異なるT細胞サブセット間で、またT細胞活性化状態で多様である。ICOS発現は、静止したTH17、T濾胞性ヘルパー(TFH)及び調節性T細胞(Treg)細胞で示されているが、CD28とは異なり、ICOS発現は、自然TH1及びTH2エフェクターT細胞集団上で高度に発現されない(Paulos CM et al., "The inducible costimulator (ICOS) is critical for the development of human Th17 cells", Sci Transl Med, 2(55); 55ra78 (2010))。ICOS発現は、TCR会合による活性化後に、CD4+及びCD8+エフェクターT細胞上で高度に誘導される(Wakamatsu E, et al., "Convergent and divergent effects of costimulatory molecules in conventional and regulatory CD4+ T cells", Proc Natal Acad Sci USA, 110(3); 1023-8 (2013))。ICOS受容体による共刺激性シグナル伝達は、同時発生のTCR活性化シグナルを受け取るT細胞においてのみ行われる(Sharpe AH and Freeman GJ. "The B7-CD28 Superfamily", Nat. Rev Immunol, 2(2); 116-26 (2002))。活性化された抗原特異的なT細胞では、ICOSは、IFN-γ、TNF-α、IL-10、IL-4、IL-13他を含むTH1及びTH2サイトカインの両方の産生を調節する。ICOSはまた、CD28よりも比較的規模が小さいが、エフェクターT細胞増殖を刺激する(Sharpe AH and Freeman GJ. "The B7-CD28 Superfamily", Nat. Rev Immunol, 2(2); 116-26 (2002))。
【0014】
CD4+及びCD8+エフェクターT細胞上のICOSの活性化が、抗腫瘍能を有するというという概念を支持する文献が増えている。ICOS-L-Fc融合タンパク質は、SA-1(肉腫)、Meth A(線維肉腫)、EMT6(乳癌)及びP815(肥満細胞腫)及びEL-4(形質細胞腫)同系腫瘍を有するマウスにおいて、腫瘍成長の遅延及び完全な腫瘍根絶を引き起こした一方で、あまり免疫原性ではないことが知られているB16-F10(黒色腫)腫瘍モデルでは活性は観察されなかった(Ara G et al., "Potent activity of soluble B7RP-1-Fc in therapy of murine tumors in syngeneic hosts", Int. J Cancer, 103(4); 501-7 (2003))。ICOS-L-Fcの抗腫瘍活性は、活性がヌードマウスで成長した腫瘍において完全に損失されたため、無傷の免疫応答に依存した。ICOS-L-Fc処理したマウス由来の腫瘍の分析により、処理に応答して腫瘍におけるCD4+及びCD8+T細胞浸潤の著しい増加を示し、これらのモデルにおいてICOS-L-Fcの免疫刺激性効果を支持した。
【0015】
ICSO-/-及びICOS-L-/-マウスを使用した別の報告により、B16/B16黒色腫同系腫瘍モデルにおいて、抗CTLA4抗体の抗腫瘍活性を媒介する上でICOSシグナル伝達が必要なことが示された(Fu T et al., "The ICOS/ICOSL pathway is required for optimal antitumor responses mediated by anti-CTLA-4 therapy", Cancer Res, 71(16); 5445-54 (2011))。ICOS又はICOS-Lを欠如したマウスは、抗CTLA4抗体処理後の野生型マウスと比較した場合に、生存率を著しく減少させた。別々の研究において、B16/B16腫瘍細胞は、組換えマウスICOS-Lを過剰発現するように形質導入させた。これらの腫瘍は、対照タンパク質で形質導入したB16/B16腫瘍細胞と比較した場合に、抗CTLA4処理に対して、より著しく感受性が高いことがわかった(Allison J et al., "Combination immunotherapy for the treatment of cancer",国際公開第2011/041613 A2号(2009))。これらの研究により、単独で、及び他の免疫調節抗体と組み合わせて、ICOSアゴニストの抗腫瘍能の証拠が提供される。
【0016】
抗CTLA4抗体で処理した患者からの新たなデータはまた、抗腫瘍免疫応答を媒介する際のICOS+エフェクターT細胞の積極的な役割を指し示す。イピリムマブ処理後の循環性且つ腫瘍浸潤性CD4+ICOS+及びCD8+ICOS+T細胞の絶対的な計数を増加させた転移性黒色腫(Giacomo AMD et al., "Long-term survival and immunological parameters in metastatic melanoma patients who respond to ipilimumab 10 mg/kg within an expanded access program", Cancer Immunol Immunother., 62(6); 1021-8 (2013))、尿路上皮癌(Carthon BC et al., "Preoperative CTLA-4 blockade: Tolerability and immune monitoring in the setting of a presurgical clinical trial" Clin Cancer Res., 16(10); 2861-71 (2010))、乳癌(Vonderheide RH et al., "Tremelimumab in combination with exemestane in patients with advanced breast cancer and treatment-associated modulation of inducible costimulator expression on patient T cells", Clin Cancer Res., 16(13); 3485-94 (2010))及び前立腺癌を有する患者は、増加がほとんど観察されないか、又は全く観察されない患者よりも非常に良好な治療関連の結末を有する。重要なことに、イピリムマブは、ICOS+T細胞:Treg比を変化させて、処理前のTregの存在量が多い状態から、処理後のTエフェクターがTregに対して存在量がかなり多い状態に戻すことが示された(Liakou CI et al., "CTLA-4 blockade increases IFN-gamma producing CD4+ICOShi cells to shift the ratio of effector to regulatory T cells in cancer patients", Proc Natl Acad Sci USA. 105(39)、14987-92 (2008))及び(Vonderheide RH et al., Clin Cancer Res., 16(13); 3485-94 (2010))。したがって、ICOS陽性Tエフェクター細胞は、アゴニストICOS抗体で細胞のこの集団を活性化する潜在的利点を指し示すイピリムマブ応答の確かな予測バイオマーカーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2011/041613 A2号(2009)
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Yang, Y. & Bedford, M. T. Protein arginine methyltransferases and cancer. Nat Rev Cancer 13, 37-50, doi:10.1038/nrc3409 (2013)
【非特許文献2】Lee, Y. H. & Stallcup, M. R. Minireview: protein arginine methylation of nonhistone proteins in transcriptional regulation. Mol Endocrinol 23, 425-433, doi:10.1210/me.2008-0380 (2009)
【非特許文献3】Bedford, M. T. & Clarke, S. G. Protein arginine methylation in mammals: who, what, and why. Mol Cell 33, 1-13, doi:10.1016/j.molcel.2008.12.013 (2009)
【非特許文献4】Fisk, J. C. & Read, L. K. Protein arginine methylation in parasitic protozoa. Eukaryot Cell 10, 1013-1022, doi:10.1128/EC.05103-11 (2011)
【非特許文献5】Ho MC, et al. Structure of the arginine methyltransferase PRMT5-MEP50 reveals a mechanism for substrate specificity. PLoS One. 2013;8(2)
【非特許文献6】Karkhanis V, et al. Versatility of PRMT5-induced methylation in growth control and development. Trends Biochem Sci. 2011 Dec;36(12):633-41
【非特許文献7】Bezzi M, et al. Regulation of constitutive and alternative splicing by PRMT5 reveals a role for Mdm4 pre-mRNA in sensing defects in the spliceosomal machinery. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16
【非特許文献8】Wang L, Pal S, Sif S. Protein arginine methyltransferase 5 suppresses the transcription of the RB family of tumor suppressors in leukemia and lymphoma cells. Mol Cell Biol. 2008 Oct;28(20):6262-77
【非特許文献9】Tee WW, Pardo M, Theunissen TW, Yu L, Choudhary JS, Hajkova P, Surani MA. Prmt5 is essential for early mouse development and acts in the cytoplasm to maintain ES cell pluripotency. Genes Dev. 2010 Dec 15;24(24):2772-7
【非特許文献10】Hsu JM, Chen CT, Chou CK, Kuo HP, Li LY, Lin CY, Lee HJ, Wang YN, Liu M, Liao HW, Shi B, Lai CC, Bedford MT, Tsai CH, Hung MC. Crosstalk between Arg 1175 methylation and Tyr 1173 phosphorylation negatively modulates EGFR-mediated ERK activation. Nat Cell Biol. 2011 Feb;13(2):174-81
【非特許文献11】Wei TY, Juan CC, Hisa JY, Su LJ, Lee YC, Chou HY, Chen JM, Wu YC, Chiu SC, Hsu CP, Liu KL, Yu CT. Protein arginine methyltransferase 5 is a potential oncoprotein that upregulates G1 cyclins/cyclin-dependent kinases and the phosphoinositide 3-kinase/AKT signaling cascade. Cancer Sci. 2012 Sep;103(9):1640-50
【非特許文献12】Pal S, Baiocchi RA, Byrd JC, Grever MR, Jacob ST, Sif S. Low levels of miR-92b/96 induce PRMT5 translation and H3R8/H4R3 methylation in mantle cell lymphoma. EMBO J. 2007 Aug 8;26(15):3558-69
【非特許文献13】Ibrahim R, et al. Expression of PRMT5 in lung adenocarcinoma and its significance in epithelial-mesenchymal transition. Hum Pathol. 2014 Jul;45(7):1397-405
【非特許文献14】Powers MA, et al. Protein arginine methyltransferase 5 accelerates tumor growth by arginine methylation of the tumor suppressor programmed cell death 4. Cancer Res. 2011 Aug 15;71(16):5579-87
【非特許文献15】Yan F, et al. Genetic validation of the protein arginine methyltransferase PRMT5 as a candidate therapeutic target in glioblastoma. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65
【非特許文献16】Powers MA, et al. Cancer Res. 2011 Aug 15;71(16):5579-87
【非特許文献17】Yan F, et al. Genetic validation of the protein arginine methyltransferase PRMT5 as a candidate therapeutic target in glioblastoma. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65
【非特許文献18】Aggarwal P, et al. Nuclear cyclin D1/CDK4 kinase regulates CUL4 expression and triggers neoplastic growth via activation of the PRMT5 methyltransferase. Cancer Cell. 2010 Oct 19;18(4):329-40
【非特許文献19】Zheng S, et al. Arginine methylation-dependent reader-writer interplay governs growth control by E2F-1. Mol Cell. 2013 Oct 10;52(1):37-51
【非特許文献20】Jansson M, et al. Arginine methylation regulates the p53 response. Nat Cell Biol. 2008 Dec;10(12):1431-9
【非特許文献21】Bezzi M, et al. Regulation of constitutive and alternative splicing by PRMT5 reveals a role for Mdm4 pre-mRNA in sensing defects in the spliceosomal machinery. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16
【非特許文献22】Hou Z, et al. The LIM protein AJUBA recruits protein arginine methyltransferase 5 to mediate SNAIL-dependent transcriptional repression. Mol Cell Biol. 2008 May;28(10):3198-207
【非特許文献23】Hutloff, et al., "ICOS is an inducible T-cell co-stimulator structurally and functionally related to CD28", Nature, 397: 263-266 (1999)
【非特許文献24】Yao S et al., "B7-H2 is a costimulatory ligand for CD28 in human", Immunity, 34(5); 729-40 (2011)
【非特許文献25】Paulos CM et al., "The inducible costimulator (ICOS) is critical for the development of human Th17 cells", Sci Transl Med, 2(55); 55ra78 (2010)
【非特許文献26】Wakamatsu E, et al., "Convergent and divergent effects of costimulatory molecules in conventional and regulatory CD4+ T cells", Proc Natal Acad Sci USA, 110(3); 1023-8 (2013)
【非特許文献27】Sharpe AH and Freeman GJ. "The B7-CD28 Superfamily", Nat. Rev Immunol, 2(2); 116-26 (2002)
【非特許文献28】Ara G et al., "Potent activity of soluble B7RP-1-Fc in therapy of murine tumors in syngeneic hosts", Int. J Cancer, 103(4); 501-7 (2003)
【非特許文献29】Fu T et al., "The ICOS/ICOSL pathway is required for optimal antitumor responses mediated by anti-CTLA-4 therapy", Cancer Res, 71(16); 5445-54 (2011)
【非特許文献30】Giacomo AMD et al., "Long-term survival and immunological parameters in metastatic melanoma patients who respond to ipilimumab 10 mg/kg within an expanded access program", Cancer Immunol Immunother., 62(6); 1021-8 (2013)
【非特許文献31】Carthon BC et al., "Preoperative CTLA-4 blockade: Tolerability and immune monitoring in the setting of a presurgical clinical trial" Clin Cancer Res., 16(10); 2861-71 (2010)
【非特許文献32】Vonderheide RH et al., "Tremelimumab in combination with exemestane in patients with advanced breast cancer and treatment-associated modulation of inducible costimulator expression on patient T cells", Clin Cancer Res., 16(13); 3485-94 (2010)
【非特許文献33】Liakou CI et al., "CTLA-4 blockade increases IFN-gamma producing CD4+ICOShi cells to shift the ratio of effector to regulatory T cells in cancer patients", Proc Natl Acad Sci USA. 105(39)、14987-92 (2008)
【非特許文献34】Vonderheide RH et al., Clin Cancer Res., 16(13); 3485-94 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
癌の治療において多くの最近の進歩が見られているが、癌の影響を被る個体のより有効な、及び/又は増強された治療が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一態様において、本発明は、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、該ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及び該ヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分を投与することを含む方法を提供する。
【0021】
一態様において、本発明は、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する際の使用のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を提供する。
【0022】
一態様において、本発明は、癌を治療するための医薬の製造のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の使用を提供する。
【0023】
一態様において、本発明は、癌の治療のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】PRMTによって触媒されるタンパク質アルギニンメチル化の4つのタイプの図である。
【
図2】既知のPRMT5基質の図である。PRMT5は、アルギニン残基及びグリシン残基に富んだ領域において優先的に、多重タンパク質におけるアルギニンを対称的にメチル化する(Karkhanis V, et al. Versatility of PRMT5-induced methylation in growth control and development. Trends Biochem Sci. 2011 Dec;36(12):633-41)。これらの基質の大部分が、PRMT5と相互作用する、その能力により同定された。
【
図3】PRMT5/MEP50複合体活性と、サイクリンD1発癌遺伝子駆動型経路との分子相関の図である。PRMT5共調節因子(coregulatory factor)であるMEP50は、cdk4基質であり、MEP50リン酸化は、PRMT5/MEP50活性を増加させる。PRMT5活性の増加は、CUL4(カリン4)抑圧、CDT1過剰発現、及びDNA再複製を含むサイクリンD1依存的新生物成長と関連付けられる重要な事象を媒介する(出典Aggarwal P, et al. Nuclear cyclin D1/CDK4 kinase regulates CUL4 expression and triggers neoplastic growth via activation of the PRMT5 methyltransferase. Cancer Cell. 2010 Oct 19;18(4):329-40)。
【
図4】PRMT5/MEP50に対する化合物IC
50値の図である。平衡条件(見かけのK
mでの基質濃度)下で放射性アッセイを使用して、PRMT5/MEP50(4nM)活性をモニタリングして、化合物C、化合物F、化合物B、又は化合物Eによる処理後のSAMからH4ペプチドへの
3Hの転移を測定した。データを3-パラメーター用量-応答方程式にフィットさせることによって、IC
50値を決定した。
【
図5】化合物C及びシネファンギンと複合体を形成したPRMT5/MEP50に関する2.8Åで解像した結晶構造の図である。挿入図により、化合物が、ペプチド結合ポケットにおいて結合して、PRMT5骨格と重要な相互作用を生み出すことが明らかである。
【
図6】選択性パネルにおいて検査したメチルトランスフェラーゼを強調する系統樹の図である。化合物Cは、任意の他の検査した酵素(・、10
-5M超)に対するよりも、PRMT5(●、10
-8M)に対してはるかに大きな効力を示した。PRMT9は、系図内の相関目的のみのために示され、パネルでは評価されなかった。図の出典はRichon VMら。
【
図7】癌細胞株のパネルにおける6日成長/死亡アッセイからの化合物C gIC
50値の図である。DLBCL-びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、GBM-神経膠芽腫、MCL-マントル細胞リンパ腫、MM-多発性骨髄腫。
【
図8】癌細胞株のパネルにおける6日成長/死亡アッセイからの化合物C gIC
100値(黒四角)及びY
min-T0(棒)値(このアッセイで使用する最高濃度は30μMであった)の図である。DLBCL-びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、GBM-神経膠芽腫、MCL-マントル細胞リンパ腫、MM-多発性骨髄腫。
【
図9】10日の2D成長アッセイからの癌細胞株(n=240)における化合物B gIC
50値の図である。ALL-急性リンパ芽球性白血病、AML-急性骨髄性白血病、CML-慢性骨髄性白血病、DLBCL-びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、HL-ホジキンリンパ腫、HN-頭頸部癌、MM-多発性骨髄腫、NHL-非ホジキンリンパ腫、NSCLC-非小細胞肺癌、PEL-原発性滲出性リンパ腫、SCLC-小細胞肺癌、TCL-T細胞リンパ腫。
【
図10】患者由来の腫瘍モデル及び細胞株腫瘍モデルで実施した8日~13日のコロニー形成アッセイからの化合物E相対IC
50値の図である。
【
図11】SDMAの化合物C阻害の図である。(A)3日目の代表的なSDMA用量応答曲線(GAPDHに対して正規化した総SDMA)(上)及び1日目及び3日目のZ138細胞からのIC
50値(下)。(B)MCL株のパネルにおけるSDMAのIC
50値(4日目)。
【
図12】PRMT5阻害剤で処理したリンパ腫細胞株における遺伝子発現変化の図である。A.化合物B(0.1μM及び0.5μM)処理後(2日目及び4日目)のリンパ腫細胞株における差次的に発現される(DE)遺伝子の定量化。B.リンパ腫株にわたるDE遺伝子の重複。
【
図13】RNAシーケンシングによって同定された11個の遺伝子のパネルにおける化合物C遺伝子発現EC
50値の図である。CDKN1Aに関する代表的な用量応答曲線(2日目及び4日目、左パネル)及び遺伝子パネルEC
50値の総括表(右パネル、4日目)。
【
図14】化合物Bが、リンパ腫細胞株におけるイントロンのサブセットのスプライシングを減衰させる図である。A.細胞スプライシングの調節のメカニズム(出典Bezzi M.ら)。B.化合物B 0.1μM又は0.5μMで処理したリンパ腫株におけるイントロン発現の分析。
【
図15】化合物Bが、リンパ腫細胞株における遺伝子のサブセットに関するアイソフォームスイッチングを誘導する図である。A.化合物B(0.1μM及び0.5μM)で2日間及び4日間処理した4個のリンパ腫細胞株におけるアイソフォームスイッチの定量化。B.4個のリンパ腫株におけるアイソフォームスイッチの重複。C.4個全てのリンパ腫株において選択的スプライシングを受ける遺伝子のリスト(4個の細胞株の重複)。
【
図16】化合物Cで処理したMCL細胞株におけるMDM4選択的スプライシング及びp53活性化の図である。A.10nM及び200nMの化合物C又は5μMのヌトリン-3で2日間及び3日間処理した4個のマントル細胞リンパ腫株のパネルにおけるMDM4アイソフォーム発現分析(MDM4-FL-長、MDM4-S-短)。B.10nM及び200nMの化合物C又は5μMのヌトリン-3で3日間処理したMCL細胞株におけるp53及びp21発現のウェスタン分析。
【
図17】化合物Cが、MDM4 RNAスプライシング(A)及びZ138細胞(B)におけるSDMA/p53/p21レベルの用量依存的変化を誘導する図である。
【
図18】MCL細胞株におけるPRMT5阻害剤及びイブルチニブの、単一作用物質としての、及び組み合わせた活性の図である。A.6日成長/死亡CTGアッセイにおける化合物C及びイブルチニブに関するgIC
50値。B.REC1細胞における化合物B及びイブルチニブの組合せに関する代表的な成長曲線(6日目、比1:1)。C.表示した比での6日成長/死亡CTGアッセイにおける化合物B:イブルチニブに関する組合せ指数(CI)。
【
図19】Z138異種移植片モデルにおける化合物Cの有効性及びPDの図である。A.Z138異種移植片モデルにおける化合物Cの21日有効性研究。B.有効性研究の最後に収集した腫瘍からの定量化SDMAウエスタンデータ(最後の投薬の3時間後)。
【
図20】Maver-1異種移植片モデルにおける化合物Cの有効性及びPDの図である。A. Maver-1異種移植片モデルにおける化合物Cの21日有効性研究。B.有効性研究の最後の収集した腫瘍からの定量化SDMAウエスタンデータ(最後の投薬の3時間後)。
【
図21】7日成長2Dアッセイからの乳癌細胞株のパネルにおける化合物B成長IC
50値の図である(TNBC-トリプルネガティブ乳癌、HER2-Her2陽性、HR-ホルモン受容体陽性)。
【
図22】PRMT5阻害剤である化合物C及びPRMT5阻害剤である化合物Bを使用した胸部細胞株及びMCL細胞株における10日~12日成長/死亡アッセイからのY
min-T0値の図である。
【
図23】30nM、200nM及び1000nMの化合物Cで、様々な期間(2日目、7日目及び10日目、生物学的n=2、エラーバーは、標準偏差を表す)処理した乳癌株のヨウ化プロピジウムFACS分析の図である。
【
図24】乳癌細胞株のパネルにおける1μMの化合物B処理後のSDMA阻害の時間経過の図である。細胞を、DMSO又は1μMの化合物Bで、表示した期間処理し、細胞溶解産物を、SDMA及びアクチン抗体を用いたウェスタンブロットによって分析した。各ブロットの最終レーンは、DMSO対照の1/2である。
【
図25】MDA-MB-468異種移植片モデルにおける化合物C有効性(左)及びPK/PD(右)の図である。
【
図26】PRMT5阻害剤である化合物C及びPRMT5阻害剤ツール分子である化合物Bを使用したGBM細胞株における14日成長/死亡CTGアッセイ(Y
min-T0)の図である。
【
図27】化合物B(1μM)が、GBM及びリンパ腫細胞株において、SDMAレベルを減少させ(B)、MDM4の選択的スプライシングを誘導し(A)、p53を活性化する図である。
【
図28A】同系腫瘍モデルにおける化合物Cと組み合わせた抗マウスICOSアゴニスト抗体の活性の図である。CT26(結腸癌)又はEMT6(乳癌)の皮下同種移植片を保有する免疫担当(Immunocompetent)マウスを、5mg/kgの抗ICOS(Icos17G9-GSK)及び100mg/kgの化合物Cで、単独で及び組み合わせて処理した。CT26(A)及びEMT6(B)に関する生存曲線:化合物C及び抗ICOSの組合せ。
【
図28B】同系腫瘍モデルにおける化合物Cと組み合わせた抗マウスICOSアゴニスト抗体の活性の図である。CT26(結腸癌)又はEMT6(乳癌)の皮下同種移植片を保有する免疫担当(Immunocompetent)マウスを、5mg/kgの抗ICOS(Icos17G9-GSK)及び100mg/kgの化合物Cで、単独で及び組み合わせて処理した。CT26(A)及びEMT6(B)に関する生存曲線:化合物C及び抗ICOSの組合せ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本明細書中で使用する場合、「II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ阻害剤」又は「II型PRMT阻害剤」は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5)及び/又はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9)を阻害する作用物質を意味する。幾つかの実施形態において、II型PRMT阻害剤は、小分子化合物である。幾つかの実施形態において、II型PRMT阻害剤は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5)及び/又はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9)を選択的に阻害する。幾つかの実施形態において、II型PRMT阻害剤は、PRMT5の阻害剤である。幾つかの実施形態において、II型PRMT阻害剤は、PRMT5の選択的阻害剤である。
【0026】
アルギニンメチルトランスフェラーゼは、多様な生物学的プロセスの調節におけるそれらの役割を前提として、調整にとって魅力的な標的である。ここで、本明細書中に記載する化合物、及びそれらの薬学的に許容可能な塩及び組成物が、アルギニンメチルトランスフェラーゼの阻害剤として有効であることを見い出した。
【0027】
具体的な官能基及び化学用語の定義は、以下でより詳細に記載する。化学元素は、the Elements, CAS version, Handbook of Chemistry and Physics, 75th Ed.の表紙裏の周期表に従って特定され、具体的な官能基は概して、そこに記載されるように定義される。更に、有機化学、並びに具体的な官能基部分及び反応性の通則は、Thomas Sorrell, Organic Chemistry, University Science Books, Sausalito, 1999、Smith and March, March's Advanced Organic Chemistry, 5th Edition, John Wiley & Sons, Inc., New York, 2001、Larock, Comprehensive Organic Transformations, VCH Publishers, Inc., New York, 1989、及びCarruthers, Some Modern Methods of Organic Synthesis, 3rd Edition, Cambridge University Press, Cambridge, 1987に記載されている。
【0028】
本明細書中に記載する化合物は、1つ以上の不斉中心を含んでもよく、したがって、各種異性体形態、例えば、エナンチオマー及び/又はジアステレオマーで存在し得る。例えば、本明細書中に記載する化合物は、個々のエナンチオマー、ジアステレオマー若しくは幾何異性体の形態で存在し得るか、又はラセミ混合物及び1つ以上の立体異性体に富んだ混合物を含む立体異性体の混合物の形態で存在し得る。キラル高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)並びにキラル塩の形成及び結晶化を含む、当業者に既知の方法によって、異性体を混合物から単離してもよく、或いは好ましい異性体を、不斉合成によって調製してもよい。例えば、Jacques et ah, Enantiomers, Racemates and Resolutions (Wiley Interscience, New York, 1981)、Wilen et ah, Tetrahedron 33:2725 (1977)、Eliel, Stereochemistry of Carbon Compounds (McGraw- Hill, NY, 1962)、及びWilen, Tables of Resolving Agents and Optical Resolutions p. 268 (E.L. Eliel, Ed., Univ. of Notre Dame Press, Notre Dame, IN 1972)を参照されたい。本開示は、他の異性体を実質的に含まない個々の異性体として、或いは、各種異性体の混合物として本明細書中に記載する化合物を更に包含する。
【0029】
本発明の化合物が、種々の互変異性体として示されてもよいことは理解されよう。また、化合物が、互変異性形態を有する場合、互変異性形態は全て、本発明の範囲に包含されると意図され、本明細書中に記載する任意の化合物の命名が、いかなる互変異性体形態も排除しないことが理解されるべきである。
【0030】
【0031】
別記しない限り、本明細書中に示す構造はまた、1つ以上の同位体に富んだ(isotopically enriched)原子の存在のみが異なる化合物を包含すると意図される。例えば、水素の、重水素又はトリチウムによる置き換え、19Fの、18Fでの置き換え、又は炭素の、13C又は14Cに富んだ炭素による置き換えを除くこの構造を有する化合物は、本開示の範囲内である。そのような化合物は、例えば、生物学的アッセイにおける分析ツール又はプローブとして有用である。
【0032】
「脂肪族」という用語は、本明細書中で使用する場合、飽和及び不飽和の両方の非芳香族の直鎖(即ち、未分岐状)炭化水素、分岐状炭化水素、非環式炭化水素、及び環式(即ち、炭素環式)炭化水素を包含する。幾つかの実施形態において、脂肪族基は、場合により、1個以上の官能基で置換されている。当業者に理解されるように、「脂肪族」は、アルキル部分、アルケニル部分、アルキニル部分、シクロアルキル部分、及びシクロアルケニル部分を包含すると本明細書中で意図される。
【0033】
様々な範囲が列挙される場合、各範囲及びその範囲内の部分的な範囲も包含すると意図される。例えば、「C1~6アルキル」は、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C1~6、C1~5、C1~4、C1~3、C1~2、C2~6、C2~5、C2~4、C2~3、C3~6、C3~5、C3~4、C4~6、C4~5、及びC5~6アルキルを包含すると意図される。
【0034】
「遊離基」は、特定の基上の結合点を指す。遊離基は、特定の基上の二価の遊離基を含む。
【0035】
「アルキル」は、炭素原子1個~20個を有する直鎖又は分岐状の飽和炭化水素基の遊離基(「C1~20アルキル」)を指す。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~10個を有する(「C1~10アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~9個を有する(「C1~9アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~8個を有する(「C1~8アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~7個を有する(「C1~7アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~6個を有する(「C 1~6アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~5個を有する(「C1~5アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~4個を有する(「C1~4アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~3個を有する(「C1~3アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個~2個を有する(「C1~2アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子1個を有する(「C1アルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル基は、炭素原子2個~6個を有する(「C2~6アルキル」)。C1~6アルキル基の例として、メチル(C1)、エチル(C2)、n-プロピル(C3)、イソプロピル(C3)、n-ブチル(C4)、tert-ブチル(C4)、sec-ブチル(C4)、イソ-ブチル(C4)、n-ペンチル(C5)、3-ペンタニル(C5)、アミル(C5)、ネオペンチル(C5)、3-メチル-2-ブタニル(C5)、tert-アミル(C5)、及びn-ヘキシル(C6)が挙げられる。アルキル基の更なる例として、n-ヘプチル(C7)、n-オクチル(C8)等が挙げられる。或る特定の実施形態において、アルキル基の各場合は、独立して、場合により置換され、例えば、無置換である(「無置換アルキル」)か、又は1個以上の置換基で置換されている(「置換アルキル」)。或る特定の実施形態において、アルキル基は、無置換C1~10アルキル(例えば、-CH3)である。或る特定の実施形態において、アルキル基は、置換C1~10アルキルである。
【0036】
幾つかの実施形態において、アルキル基は、1つ以上のハロゲンで置換されている。「パーハロアルキル」は、本明細書中で定義されるような置換アルキル基であり、ここで、水素原子は全て、独立して、ハロゲン、例えば、フルオロ、ブロモ、クロロ、又はヨードによって置き換えられている。幾つかの実施形態において、アルキル部分は、炭素原子1個~8個を有する(「C1~8パーハロアルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル部分は、炭素原子1個~6個を有する(「C1~6パーハロアルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル部分は、炭素原子1個~4個を有する(「C1~4パーハロアルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル部分は、炭素原子1個~3個を有する(「C1~3パーハロアルキル」)。幾つかの実施形態において、アルキル部分は、炭素原子1個~2個を有する(「C1~2パーハロアルキル」)。幾つかの実施形態において、水素原子は全て、フルオロで置き換えられている。幾つかの実施形態において、水素原子は全て、クロロで置き換えられている。パーハロアルキルの例として、-CF3、-CF2CF3、-CF2CF2CF3、-CCl3、-CFCl2、-CF2Cl等が挙げられる。
【0037】
「アルケニル」は、炭素原子2個~20個及び1個以上の炭素間二重結合(例えば、1個、2個、3個、又は4個の二重結合)、及び場合により、1個以上の三重結合(例えば、1個、2個、3個、又は4個の三重結合)を有する直鎖又は分岐状の炭化水素基の遊離基(「C2~20アルケニル」)を指す。或る特定の実施形態において、アルケニルは、三重結合を含まない。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~10個を有する(「C2~10アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~9個を有する(「C2~9アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~8個を有する(「C2~8アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~7個を有する(「C2~7アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~6個を有する(「C2~6アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~5個を有する(「C2~5アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~4個を有する(「C2~4アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個~3個を有する(「C2~3アルケニル」)。幾つかの実施形態において、アルケニル基は、炭素原子2個を有する(「C2アルケニル」)。1個以上の炭素間二重結合は、内部(例えば、2-ブテニルで見られるような)又は末端(例えば、1-ブテニルで見られるような)であり得る。C2~4アルケニル基の例として、エテニル(C2)、1-プロペニル(C3)、2-プロペニル(C3)、1-ブテニル(C4)、2-ブテニル(C4)、ブタジエニル(C4)等が挙げられる。C2~6アルケニル基の例として、上述のC2~4アルケニル基、並びにペンテニル(C5)、ペンタジエニル(C5)、ヘキセニル(C6)等が挙げられる。アルケニルの更なる例として、ヘプテニル(C7)、オクテニル(C8)、オクタトリエニル(C8)等が挙げられる。或る特定の実施形態において、アルケニル基の各場合は、独立して、場合により置換され、例えば、無置換である(「無置換アルケニル」)か、又は1個以上の置換基で置換されている(「置換アルケニル」)。或る特定の実施形態において、アルケニル基は、無置換C2~10アルケニルである。或る特定の実施形態において、アルケニル基は、置換C2~10アルケニルである。
【0038】
「アルキニル」は、炭素原子2個~20個及び1個以上の炭素間三重結合(例えば、1個、2個、3個、又は4個の三重結合)、及び場合により、1個以上の二重結合(例えば、1個、2個、3個、又は4個の二重結合)を有する直鎖又は分岐状の炭化水素基の遊離基(「C2~20アルキニル」)を指す。或る特定の実施形態において、アルキニルは、二重結合を含まない。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~10個を有する(「C2~10アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~9個を有する(「C2~9アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~8個を有する(「C2~8アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~7個を有する(「C2~7アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~6個を有する(「C2~6アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~5個を有する(「C2~5アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~4個を有する(「C2~4アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個~3個を有する(「C2~3アルキニル」)。幾つかの実施形態において、アルキニル基は、炭素原子2個を有する(「C2アルキニル」)。1個以上の炭素間三重結合は、内部(例えば、2-ブチニルで見られるような)又は末端(例えば、1-ブチニルで見られるような)であり得る。C2~4アルキニル基の例として、エチニル(C2)、1-プロピニル(C3)、2-プロピニル(C3)、1-ブチニル(C4)、2-ブチニル(C4)等が挙げられるが、限定されない。C2~6アルキニル基の例として、上述のC2~4アルキニル基、並びにペンチニル(C5)、ヘキシニル(C6)等が挙げられる。アルキニルの更なる例として、へプチニル(C7)、オクチニル(C8)等が挙げられる。或る特定の実施形態において、アルキニル基の各場合は、独立して、場合により置換され、例えば、無置換である(「無置換アルキニル」)か、又は1個以上の置換基で置換されている(「置換アルキニル」)。或る特定の実施形態において、アルキニル基は、無置換C2~10アルキニルである。或る特定の実施形態において、アルキニル基は、置換C2~10アルキニルである。
【0039】
「縮合」又は「オルト縮合」は、本明細書中で交換可能に使用され、共通した2個の原子及び1個の結合を有する2環、例えば、
【化2】
を指す。
【0040】
「架橋」は、(1)同じ環の2個以上の隣接していない位置に結合する橋頭原子(bridgehead)若しくは原子の基、又は(2)環系の異なる環の2個以上の位置に結合し、それによりオルト縮合環を形成しない橋頭原子若しくは原子の基を含有する環系、例えば、
【化3】
を指す。
【0041】
「スピロ」又は「スピロ縮合」は、炭素環系又は複素環系の同じ原子に結合し(ジェミナルな結合)、それにより環を形成する原子の基、例えば、
【化4】
を指す。
【0042】
橋頭原子でのスピロ縮合もまた意図される。
【0043】
「カルボシクリル」又は「炭素環式」は、非芳香族環系において環炭素原子3個~14及びヘテロ原子0個を有する非芳香族環式炭化水素基の遊離基(「C3~14カルボシクリル」)を指す。或る特定の実施形態において、カルボシクリル基は、非芳香族環系において環炭素原子3個~10個及びヘテロ原子0個を有する非芳香族環式炭化水素基の遊離基(「C3~10カルボシクリル」)を指す。幾つかの実施形態において、カルボシクリル基は、環炭素原子3個~8個を有する(「C3~8カルボシクリル」)。幾つかの実施形態において、カルボシクリル基は、環炭素原子3個~6個を有する(「C3~6カルボシクリル」)。幾つかの実施形態において、カルボシクリル基は、環炭素原子5個~10個を有する(「C5~10カルボシクリル」)。例示的なC 3~6カルボシクリル基として、シクロプロピル(C3)、シクロプロペニル(C3)、シクロブチル(C4)、シクロブテニル(C4)、シクロペンチル(C5)、シクロペンテニル(C5)、シクロヘキシル(C6)、シクロヘキセニル(C6)、シクロヘキサジエニル(C6)等が挙げられるが、限定されない。例示的なC 3~8カルボシクリル基として、上述のC3~6カルボシクリル基、並びにシクロヘプチル(C7)、シクロヘプテニル(C7)、シクロヘプタジエニル(C7)、シクロヘプタトリエニル(C7)、シクロオクチル(C8)、シクロオクテニル(C8)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル(C7)、ビシクロ[2.2.2]オクタニル(C8)等が挙げられるが、限定されない。例示的なC3~10カルボシクリル基として、上述のC3~8カルボキシリル基並びにシクロノニル(C9)、シクロノネニル(C9)、シクロデシル(C10)、シクロデセニル(C10)、オクタヒドロ-1H-インデニル(C9)、デカヒドロナフタレニル(C10)、スピロ[4.5]デカニル(C10)等が挙げられるが、限定されない。先述の例が説明するように、或る特定の実施形態において、カルボシクリル基は、単環式(「単環式カルボシクリル」)であるか、又は二環式系(「二環式カルボシクリル」)等の、縮合環系、架橋環系若しくはスピロ縮合環系であるかのいずれかであり、飽和していることも、又は部分的に不飽和なこともある。「カルボシクリル」はまた、上記で定義するようなカルボシクリル環が、1個以上のアリール基又はヘテロアリール基と縮合され、結合点がカルボシクリル環上に存在する環系を包含し、そのような場合、炭素数が、炭素環式環系における炭素数を指定し続ける。或る特定の実施形態において、カルボシクリル基の各場合は、独立して、場合により置換され、例えば、無置換である(「無置換カルボシクリル」)か、又は1個以上の置換基で置換されている(「置換カルボシクリル」)。或る特定の実施形態において、カルボシクリル基は、無置換C3~10カルボシクリルである。或る特定の実施形態において、カルボシクリル基は、置換C3~10カルボシクリルである。
【0044】
幾つかの実施形態において、「カルボシクリル」は、環炭素原子3個~14個を有する単環式飽和カルボシクリル基(「C3~14シクロアルキル」)である。幾つかの実施形態において、「カルボシクリル」は、環炭素原子3個~10個を有する単環式飽和カルボシクリル基(「C3~10シクロアルキル」)である。幾つかの実施形態において、シクロアルキル基は、環炭素原子3個~8個を有する(「C3~8シクロアルキル」)。幾つかの実施形態において、シクロアルキル基は、環炭素原子3個~6個を有する(「C3~6シクロアルキル」)。幾つかの実施形態において、シクロアルキル基は、環炭素原子5個~6個を有する(「C5~6シクロアルキル」)。幾つかの実施形態において、シクロアルキル基は、環炭素原子5個~10個を有する(「C5~10シクロアルキル」)。C5~6シクロアルキル基の例として、シクロペンチル(C5)及びシクロヘキシル(C5)が挙げられる。C3~6シクロアルキル基の例として、上述のC5~6シクロアルキル基並びにシクロプロピル(C3)及びシクロブチル(C4)が挙げられる。C3~8シクロアルキル基の例として、上述のC3~6シクロアルキル基並びにシクロヘプチル(C7)及びシクロオクチル(C8)が挙げられる。或る特定の実施形態において、シクロアルキル基の各場合は、独立して、無置換であるか(「無置換シクロアルキル」)、又は1個以上の置換基で置換されている(「置換シクロアルキル」)。或る特定の実施形態において、シクロアルキル基は、無置換C3~10シクロアルキルである。或る特定の実施形態において、シクロアルキル基は、置換C3~10シクロアルキルである。
【0045】
「ヘテロシクリル」は、又は「複素環式」は、環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する3員環~14員環の非芳香族環系の遊離基を指し、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「3員環~14員環のヘテロシクリル」)。或る特定の実施形態において、ヘテロシクリル又は複素環式は、環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する3員環~10員環の非芳香族環系の遊離基を指し、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「3員環~10員環のヘテロシクリル」)。1個以上の窒素原子を含有するヘテロシクリル基において、結合点は、原子価が許容する場合、炭素原子又は窒素原子であり得る。ヘテロシクリル基は、単環式(「単環式ヘテロシクリル」)環系、又は縮合環系、架橋環系若しくはスピロ縮合環系、例えば二環式系(「二環式ヘテロシクリル」)のいずれかであってもよく、飽和していることも、又は部分的に不飽和なこともある。ヘテロシクリル二環式環系は、一方又は両方の環中に1個以上のヘテロ原子を包含し得る。「ヘテロシクリル」はまた、上記で定義するようなヘテロシクリル環が、1個以上のカルボシクリル基と縮合され、結合点がカルボシクリル環又はヘテロシクリル環上に存在する環系、或いは上記で定義するようなヘテロシクリル環が、1個以上のアリール基又はヘテロアリール基と縮合され、結合点がヘテロシクリル環上に存在する環系を包含し、そのような場合、環の成員の数が、ヘテロシクリル環系における環の成員の数を指定し続ける。或る特定の実施形態において、ヘテロシクリルの各場合は、独立して、場合により置換され、例えば、無置換であるか(「無置換ヘテロシクリル」)、又は1個以上の置換基で置換されている(「置換ヘテロシクリル」)。或る特定の実施形態において、ヘテロシクリル基は、無置換3員環~10員環のヘテロシクリルである。或る特定の実施形態において、ヘテロシクリル基は、置換3員環~10員環のヘテロシクリルである。
【0046】
幾つかの実施形態において、ヘテロシクリル基は、環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~10員環の非芳香族環系であり、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~10員環のヘテロシクリル」)。幾つかの実施形態において、ヘテロシクリル基は、環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~8員環の非芳香族環系であり、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~8員環のヘテロシクリル」)。幾つかの実施形態において、ヘテロシクリル基は、環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~6員環の非芳香族環系であり、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~6員環のヘテロシクリル」)。幾つかの実施形態において、5員環~6員環のヘテロシクリルは、独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される環ヘテロ原子1個~3個を有する。幾つかの実施形態において、5員環~6員環のヘテロシクリルは、独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される環ヘテロ原子1個~2個を有する。幾つかの実施形態において、5員環~6員環のヘテロシクリルは、窒素、酸素、及び硫黄から選択される環ヘテロ原子1個を有する。
【0047】
例示的な、ヘテロ原子1個を含有する3員環のヘテロシクリル基として、アジルジニル(azirdinyl)、オキシラニル、及びチオレエニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子1個を含有する4員環のヘテロシクリル基として、アゼチジニル、オキセタニル、及びチエタニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子1個を含有する5員環のヘテロシクリル基として、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチオフェニル、ジヒドロチオフェニル、ピロリジニル、ジヒドロピロリル、及びピロリル-2,5-ジオンが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子2個を含有する5員環のヘテロシクリル基として、ジオキソラニル、オキサスルフラニル、ジスルフラニル、及びオキサゾリジン-2-オンが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子3個を含有する5員環のヘテロシクリル基として、チアゾリニル、オキサジアゾリニル、及びチアジアゾリニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子1個を含有する6員環のヘテロシクリル基として、ピペリジニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピリジニル、及びチアニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子2個を含有する6員環のヘテロシクリル基として、ピペラジニル、モルホリニル、ジチアニル、及びジオキサニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子3個を含有する6員環のヘテロシクリル基として、トリアジナニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子1個を含有する7員環のヘテロシクリル基として、アゼパニル、オキセパニル及びチエパニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子1個を含有する8員環のヘテロシクリル基として、アゾカニル、オキセカニル、及びチオカニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、C6アリール環に縮合された5員環のヘテロシクリル基(本明細書中では、5,6-二環式複素環とも称される)として、インドリニル、イソインドリニル、ジヒドロベンゾフラニル、ジヒドロベンゾチエニル、ベンゾオキサゾリノニル等が挙げられるが、限定されない。例示的な、アリール環に縮合された6員環のヘテロシクリル基(本明細書中では、6,6-二環式複素環とも称される)として、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル等が挙げられるが、限定されない。
【0048】
「アリール」は、芳香族環系中に提供される環炭素原子6個~14個及びヘテロ原子0個を有する単環式又は多環式(例えば、二環式又は三環式)の4n+2芳香族環系(例えば、π電子6個、10個又は14個が環状アレイにおいて共有されている)の遊離基(「C6~14アリール」)を指す。幾つかの実施形態において、アリール基は、環炭素原子6個を有する(「C6アリール」、例えばフェニル)。幾つかの実施形態において、アリール基は、環炭素原子10個を有する(「C10アリール」、例えば、1-ナフチル及び2-ナフチル等のナフチル)。幾つかの実施形態において、アリール基は、環炭素原子14個を有する(「C14アリール」、例えばアントラシル)。「アリール」はまた、上記で定義するようなアリール環が、1個以上のカルボシクリル基又はヘテロシクリル基と縮合され、遊離基又は結合点がアリール環上に存在する環系を包含し、そのような場合、炭素原子の数が、アリール環系における炭素原子の数を指定し続ける。或る特定の実施形態において、アリール基の各場合は、独立して、場合により置換され、例えば、無置換であるか(「無置換アリール」)又は1個以上の置換基で置換されている(「置換アリール」)。或る特定の実施形態において、アリール基は、無置換C6~14アリールである。或る特定の実施形態において、アリール基は、置換C6~14アリールである。
【0049】
「ヘテロアリール」は、芳香族環系中に提供される環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~14員環の単環式又は多環式(例えば、二環式又は三環式)の4n+2芳香族環系(例えば、π電子6個又は10個が環状アレイにおいて共有されている)の遊離基を指し、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~14員環のヘテロアリール」)。或る特定の実施形態において、ヘテロアリールは、芳香族環系中に提供される環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~10員環の単環式又は二環式の4n+2芳香族環系の遊離基を指し、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~10員環のヘテロアリール」)。1個以上の窒素原子を含有するヘテロアリール基において、結合点は、原子価が許容する場合、炭素原子又は窒素原子であり得る。ヘテロアリール二環式環系は、一方又は両方の環中に1個以上のヘテロ原子を包含し得る。「ヘテロアリール」は、上記で定義するようなヘテロアリール環が、1個以上のカルボシクリル基又はヘテロシクリル基と縮合され、結合点がヘテロアリール環上に存在する環系を包含し、そのような場合、環の成員の数が、ヘテロアリール環系における環の成員の数を指定し続ける。「ヘテロアリール」はまた、上記で定義するようなヘテロアリール環が、1個以上のアリール基と縮合され、結合点がアリール環又はヘテロアリール環上に存在する環系を包含し、そのような場合、環の成員の数が、縮合(アリール/ヘテロアリール)環系における環の成員の数を指定し続ける。一方の環がヘテロ原子を含有せず(インドリル、キノリニル、カルバゾリル等)、結合点が、いずれかの環、例えば、ヘテロ原子を保有する環(例えば、2-インドリル)又はヘテロ原子を含有しない環(例えば、5-インドリル)のいずれか上に存在する二環式ヘテロアリール基。
【0050】
幾つかの実施形態において、ヘテロアリール基は、芳香族環系中に提供される環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~14員環の芳香族環系であり、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~14員環のヘテロアリール」)。幾つかの実施形態において、ヘテロアリール基は、芳香族環系中に提供される環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~10員環の芳香族環系であり、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~10員環のヘテロアリール」)。幾つかの実施形態において、ヘテロアリール基は、芳香族環系中に提供される環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~8員環の芳香族環系であり、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~8員環のヘテロアリール」)。幾つかの実施形態において、ヘテロアリール基は、芳香族環系中に提供される環炭素原子及び環ヘテロ原子1個~4個を有する5員環~6員環の芳香族環系であり、ここで、ヘテロ原子はそれぞれ独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される(「5員環~6員環のヘテロアリール」)。幾つかの実施形態において、5員環~6員環のヘテロアリール基は、独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される環ヘテロ原子1個~3個を有する。幾つかの実施形態において、5員環~6員環のヘテロアリール基は、独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される環ヘテロ原子1個~2個を有する。幾つかの実施形態において、5員環~6員環のヘテロシクリル基は、窒素、酸素、及び硫黄から選択される環ヘテロ原子1個を有する。或る特定の実施形態において、ヘテロアリール基の各場合は、独立して、場合により置換され、例えば、無置換であるか(「無置換ヘテロアリール」)又は1個以上の置換基で置換されている(「置換ヘテロアリール」)。或る特定の実施形態において、ヘテロアリール基は、無置換5員環~14員環ヘテロアリールである。或る特定の実施形態において、ヘテロアリール基は、置換5員環~14員環ヘテロアリールである。
【0051】
例示的な、ヘテロ原子1個を含有する5員環のヘテロアリール基として、ピロリル、フラニル及びチオフェニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子2個を含有する5員環のヘテロアリール基として、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、及びイソチアゾリルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子3個を含有する5員環のヘテロアリール基として、トリアゾリル、オキサジアゾリル、及びチアジアゾリルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子4個を含有する5員環のヘテロアリール基として、テトラゾリルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子1個を含有する6員環のヘテロアリール基として、ピリジニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子2個を含有する6員環のヘテロアリール基として、ピリダジニル、ピリミジニル、及びピラジニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子3個又は4個を含有する6員環のヘテロアリール基として、それぞれ、トリアジニル及びテトラジニルが挙げられるが、限定されない。例示的な、ヘテロ原子1個を含有する7員環のヘテロアリール基として、アゼピニル、オキセピニル、及びチエピニルが挙げられるが、限定されない。例示的な6,6-二環式ヘテロアリール基として、ナフチリジニル、プテリジニル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キノキサリニル、フタラジニル、及びキナゾリニルが挙げられるが、限定されない。例示的な5,6-二環式ヘテロアリール基として、下記式のいずれか1つが挙げられるが、限定されない:
【0052】
【0053】
単環式又は二環式ヘテロアリール基のいずれかにおいて、結合点は、原子価が許容する場合、任意の炭素原子又は窒素原子であり得る。
【0054】
「部分的に不飽和」は、少なくとも1個の二重結合又は三重結合を含む基を指す。「部分的に不飽和」という用語は、不飽和の多重部位を有する環を包含すると意図されるが、本明細書中で定義するような芳香族基(例えば、アリール基又はヘテロアリール基)を含まないと意図される。同様に、「飽和」は、二重結合又は三重結合を含有しない、即ち、全て単結合を含有する基を指す。
【0055】
幾つかの実施形態において、本明細書中で定義するような脂肪族、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリール基は、場合により置換されている(例えば、「置換」若しくは「無置換」の脂肪族基、「置換」若しくは「無置換」のアルキル基、「置換」若しくは「無置換」のアルケニル基、「置換」若しくは「無置換」のアルキニル基、「置換」若しくは「無置換」のカルボシクリル基、「置換」若しくは「無置換」のヘテロシクリル基、「置換」若しくは「無置換」のアリール基、又は「置換」若しくは「無置換」のヘテロアリール基)。概して、「置換」という用語は、「場合により」という用語が先行しようとしまいと、基(例えば、炭素原子又は窒素原子)上に存在する少なくとも1個の水素が、許容できる置換基、例えば、置換すると、安定な化合物、例えば転位、環化、脱離又は他の反応等の変換を自発的に受けない化合物を生じる置換基で置き換えられていることを意味する。別記しない限り、「置換」基は、基の1個以上の置換可能な位置で置換基を有し、任意の所与の構造において1個よりも多い位置が置換されている場合、置換基は、各位置で同じであるか、又は異なる。「置換」という用語は、安定な化合物の形成をもたらす本明細書中に記載する置換基のいずれかを含む、有機化合物の全ての許容できる置換基による置換を含むと意図される。本開示は、安定な化合物に達するために、任意の且つ全てのそのような組合せを意図する。本開示の目的で、ヘテロ原子、例えば窒素は、水素置換基及び/又はヘテロ原子の原子価を満たして、安定な部分の形成をもたらす本明細書中に記載する任意の適切な置換基を有し得る。
【0056】
例示的な炭素原子置換基として、ハロゲン、-CN、-NO2、-N3、-SO2H、-S03H、-OH、-ORaa、-ON(Rbb)2、-N(Rbb)2、-N(Rbb)3
+X、-N(ORcc)Rbb、-SH、-SRaa、-SSRCC、-C(=O)Raa、-CO2H、-CHO、-C(ORcc)2、-CO2Raa、-OC(=O)Raa、-OCO2Raa、-C(=O)N(Rbb)2、-OC(=O)N(Rbb)2、-NRbbC(=O)Raa、-NRbbCO2Raa、-NRbbC(=O)N(Rbb)2、-C(=NRbb)Raa、-C(=NRbb)ORaa、-OC(=NRbb)Raa、-OC(=NRbb)ORaa、-C(=NRbb)N(Rbb)2、-OC(=NRbb)N(Rbb)2、-NRbbC(=NRbb)N(Rbb)2、-C(=O)NRbbSO2Raa、-NRbbSO2Raa、-SO2N(Rbb)2、-SO2Raa、-SO2ORaa、-OSO2Raa、-S(=O)Raa、-OS(=O)Raa、-Si(Raa)3、-OSi(Raa)3 -C(=S)N(Rbb)2、-C(=O)SRaa、-C(=S)SRaa、-SC(=S)SRaa、-SC(=O)SRaa、-OC(=O)SRaa、-SC(=O)ORaa、-SC(=O)Raa、-P(=O)2Raa、-OP(=O)2Raa、-P(=O)(Raa)2、-OP(=O)(Raa)2、-OP(=O)(ORcc)2、-P(=O)2N(Rbb)2、-OP(=O)2N(Rbb)2、-P(=O)(NRbb)2、-OP(=O)(NRbb)2、-NRbbP(=O)(ORcc)2、-NRbbP(=O)(NRbb)2、-P(RCC)2、-P(RCC)3、-OP(Rcc)2、-OP(Rcc)3、-B(Raa)2、-B(ORcc)2、-BRaa(ORcc)、C1~10アルキル、C1~10パーハロアルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~14員環のヘテロシクリル、C6~14アリール、及び5員環~14員環のヘテロアリールが挙げられるが、これらに限定されず、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rdd基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、
又は炭素原子上のジェミナルな水素2個は、基=O、=S、=NN(Rbb)2、=NNRbbC(=O)Raa、=NNRbbC(=O)ORaa、=NNRbbS(=O)2Raa、=NRbb、又は=NORccで置き換えられ、Raaの各場合は、独立して、C1~10アルキル、C1~10パーハロアルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~14員環のヘテロシクリル、C6~14アリール、及び5員環~14員環のヘテロアリールから選択されるか、又はRaa基2個が結合されて、3員環~14員環のヘテロシクリル環又は5員環~14員環のヘテロアリール環を形成し、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rdd基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、 Rbbの各場合は、独立して、水素、-OH、-ORaa、-N(RCC)2、-CN、-C(=O)Raa、-C(=O)N(Rcc)2、-CO2Raa、-S02Raa、-C(=NRcc)ORaa、-C(=NRCC)N(RCC)2、-SO2N(Rcc)2、-SO2Rcc、-SO2ORcc、-SORaa、-C(=S)N(RCC)2、-C(=O)SRcc、-C(=S)SRCC、-P(=O)2Raa、-P(=O)(Raa)2、-P(=O)2N(Rcc)2、-P(=O)(NRcc)2、C1~10アルキル、C1~10パーハロアルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~14員環のヘテロシクリル、C6~14アリール、及び5員環~14員環のヘテロアリールから選択されるか、又はRbb基2個が結合されて、3員環~14員環のヘテロシクリル環又は5員環~14員環のヘテロアリール環を形成し、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rdd基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、
Rccの各場合は、独立して、水素、C1~10アルキル、C1~10パーハロアルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~14員環のヘテロシクリル、C6~14アリール、及び5員環~14員環のヘテロアリールから選択されるか、又はRcc基2個が結合されて、3員環~14員環のヘテロシクリル環又は5員環~14員環のヘテロアリール環を形成し、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rdd基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、
Rddの各場合は、独立して、ハロゲン、-CN、-NO2、-N3、-SO2H、-SO3H、-OH、-ORee、-ON(Rff)2、-N(Rff)2、-N(Rff)3
+X、-N(ORee)Rff、-SH、-SRee、-SSRee、-C(=O)Ree、-CO2H、-CO2Ree、-OC(=O)Ree、-OCO2Ree、-C(=O)N(Rff)2、-OC(=O)N(Rff)2、-NRffC(=O)Ree、-NRffCO2Ree、-NRffC(=O)N(Rff)2、-C(=NRff)ORee、-OC(=NRff)Ree、-OC(=NRff)ORee、-C(=NRff)N(Rff)2、-OC(=NRff)N(Rff)2、-NRffC(=NRff)N(Rff)2、-NRffSO2Ree、-SO2N(Rff)2、-SO2Ree、-S02ORee、-OS02Ree、-S(=O)Ree、-Si(Ree)3、-OSi(Ree)3、-C(=S)N(Rff)2、-C(=O)SRee、-C(=S)SRee、-SC(=S)SRee、-P(=O)2Ree、-P(=O)(Ree)2、-OP(=O)(Ree)2、-OP(=O)(ORee)2、C1~6アルキル、C1~6パーハロアルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~10員環のヘテロシクリル、C6~10アリール、5員環~10員環のヘテロアリールから選択され、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rgg基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換されているか、又はジェミナルなRdd置換基2個が結合されて、=O又は=Sを形成してもよく、
Reeの各場合は、独立して、C1~6アルキル、C1~6パーハロアルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10カルボシクリル、C6~10アリール、3員環~10員環のヘテロシクリル、及び3員環~10員環のヘテロアリールから選択され、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rgg基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、
Rffの各場合は、独立して、水素、C1~6アルキル、C1~6パーハロアルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~10員環のヘテロシクリル、C1~6アリール、及び5員環~10員環のヘテロアリールから選択されるか、又はRff基2個が結合されて、3員環~14員環のヘテロシクリル環又は5員環~14員環のヘテロアリール環を形成し、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rgg基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、
Rggの各場合は、独立して、ハロゲン、-CN、-NO2、-N3、-SO2H、-SO3H、-OH、-O1~6アルキル、-ON(C1~6アルキル)2、-N(C1~6アルキル)2、-N(C1~6アルキル)3
+X-、-NH(C1~6アルキル)2
+X-、-NH2(C1~6アルキル)+X-、-NH3
+X、-N(OC1~6アルキル)(C1~6アルキル)、-N(OH)(C1~6アルキル)、-NH(OH)、-SH、-S1~6アルキル、-SS(C1~6アルキル)、-C(=O)(C1~6アルキル)、-CO2H、-CO2(C1~6アルキル)、-OC(=O)(C1~6アルキル)、-OCO2(C1~6アルキル)、-C(=O)NH2、-C(=O)N(C1~6アルキル)2、-OC(=O)NH(C1~6アルキル)、-NHC(=O)(C1~6アルキル)、-N(C1~6アルキル)C(=O)(C1~6アルキル)、-NHCO2(C1~6アルキル)、-NHC(=O)N(C1~6アルキル)2、-NHC(=O)NH(C1~6アルキル)、-NHC(=O)NH2、-C(=NH)O(C1~6アルキル)、-OC(=NH)(C1~6アルキル)、-OC(=NH)OC1~6アルキル、-C(=NH)N(C1~6アルキル)2、-C(=NH)NH(C1~6アルキル)、-C(=NH)NH2、-OC(=NH)N(C1~6アルキル)2、-OC(NH)NH(C1~6アルキル)、-OC(NH)NH2、-NHC(NH)N(C1~6アルキル)2、-NHC(=NH)NH2、-NHSO2(C1~6アルキル)、-SO2N(C1~6アルキル)2、-SO2NH(C1~6アルキル)、-SO2NH2、-SO2 C1~6アルキル、-SO2OC1~6アルキル、-OSO2C1~6アルキル、-SOC1~6アルキル、-Si(C1~6アルキル)3、-OSi(C1~6アルキル)3 -C(=S)N(C1~6アルキル)2、C(=S)NH(C1~6アルキル)、C(=S)NH2、-C(=O)S(C1~6アルキル)、-C(=S)SC1~6アルキル、-SC(=S)SC1~6アルキル、-P(=O)2(C1~6アルキル)、-P(=O)(C1~6アルキル)2、-OP(=O)(C1~6アルキル)2、-OP(=O)(OC1~6アルキル)2、C1~6アルキル、C1~6パーハロアルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10カルボシクリル、C6~10アリール、3員環~10員環のヘテロシクリル、及び5員環~10員環のヘテロアリールから選択されるか、又はジェミナルなRgg置換基2個が結合されて、=O又は=Sを形成してもよく、Xは、対イオンである。
【0057】
「対イオン」又は「陰イオン性対イオン」は、電子的な中性を維持するために、陽イオン性第四級アミノ基と会合した負に帯電した基である。例示的な対イオンとして、ハロゲン化物イオン(例えば、F-、CI-、Br-、I-)、NO3
-、ClO4
-、OH-、H2PO4
-、HSO4
-、スルホン酸塩イオン(例えば、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、10-カンファースルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸-5-スルホン酸塩、エタン-1-スルホン酸-2-スルホン酸塩等)、及びカルボン酸塩イオン(例えば、酢酸塩、エタン酸塩、プロパン酸塩、安息香酸塩、グリセリン酸塩、乳酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩等)が挙げられる。
【0058】
「ハロ」又は「ハロゲン」は、フッ素(フルオロ、-F)、塩素(クロロ、-Cl)、臭素(ブロモ、-Br)、又はヨウ素(ヨード、-I)を指す。
【0059】
窒素原子は、原子価が許容する場合、置換され得るか、又は無置換であってもよく、第一級、第二級、第三級、及び第四級窒素原子を含む。例示的な窒素原子置換基として、水素、-OH、-ORaa、-N(RCC)2、-CN、-C(=O)Raa、-C(=O)N(Rcc)2、-CO2Raa、-SO2Raa、-C(=NRbb)Raa、-C(=NRcc)ORaa、-C(=NRCC)N(RCC)2、-SO2N(Rcc)2、-SO2Rcc、-SO2ORcc、-SORaa、-C(=S)N(RCC)2、-C(=O)SRcc、-C(=S)SRCC、-P(=O)2Raa、-P(=O)(Raa)2、-P(=O)2N(Rcc)2、-P(=O)(NRcc)2、C1~10アルキル、C1~10パーハロアルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~14員環のヘテロシクリル、C6~14アリール、及び5員環~14員環のヘテロアリールが挙げられるが、これらに限定されず、又は窒素原子に結合されたRCC基2個が結合されて、3員環~14員環のヘテロシクリル環又は5員環~14員環のヘテロアリール環を形成し、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、Rdd基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、Raa、Rbb、Rcc及びRddは、上記で定義する通りである。
【0060】
或る特定の実施形態において、窒素原子上に存在する置換基は、窒素保護基(アミノ保護基とも称される)である。窒素保護基として、-OH、-ORaa、-N(RCC)2、-C(=O)Raa、-C(=O)N(Rcc)2、-CO2Raa、-SO2Raa、-C(=NRcc)Raa、-C(=NRcc)ORaa、-C(=NRCC)N(RCC)2、-SO2N(Rcc)2、-SO2Rcc、-SO2ORcc、-SORaa、-C(=S)N(RCC)2、-C(=O)SRcc、-C(=S)SRCC、C1~10アルキル(例えば、アラルキル、ヘテロアラルキル)、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、C3~10カルボシクリル、3員環~14員環のヘテロシクリル、C6~14アリール、及び5員環~14員環のヘテロアリールが挙げられるが、これらに限定されず、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アラルキル、アリール、及びヘテロアリールはそれぞれ独立して、R基0個、1個、2個、3個、4個、又は5個で置換され、Raa、Rbb、Rcc及びRddは、上記で定義する通りである。窒素保護基は、当該技術分野で周知であり、参照により援用されるProtecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999において詳述されるものを含む。
【0061】
アミド窒素保護基(例えば、-C(=O)Raa)として、ホルムアミド、アセトアミド、クロロアセトアミド、トリクロロアセトアミド、トリフルオロアセトアミド、フェニルアセトアミド、3-フェニルプロパンアミド、ピコリンアミド、3-ピリジルカルボキシアミド、N-ベンゾイルフェニルアラニル誘導体、ベンズアミド、p-フェニルベンズアミド、o-ニトロフェニルアセトアミド、o-ニトロフェノキシアセトアミド、アセトアセトアミド、(N'-ジチオベンジルオキシアシルアミノ)アセトアミド、3-(p-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド、3-(o-ニトロフェニル)プロパンアミド、2-メチル-2-(o-ニトロフェノキシ)プロパンアミド、2-メチル-2-(o-フェニルアゾフェノキシ)プロパンアミド、4-クロロブタンアミド、3-メチル-3-ニトロブタンアミド、o-ニトロシンナミド、N-アセチルメチオニン、o-ニトロベンズアミド、及びo-(ベンゾイルオキシメチル)ベンズアミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
カルバメート窒素保護基(例えば、-C(=O)ORaa)として、メチルカルバメート、エチルカルバメート、9-フルオレニルメチルカルバメート(Fmoc)、9-(2-スルホ)フルオレニルメチルカルバメート、9-(2,7-ジブロモ)フルオレニルメチルカルバメート、2,7-ジ-t-ブチル-[9-(10,10-ジオキソ-10,10,10,10-テトラヒドロチオキサンチル)]メチルカルバメート(DBD-Tmoc)、4-メトキシフェナシルカルバメート(Phenoc)、2,2,2-トリクロロエチルカルバメート(Troc)、2-トリメチルシリルエチルカルバメート(Teoc)、2-フェニルエチルカルバメート(hZ)、1-(1-アダマンチル)-1-メチルエチルカルバメート(Adpoc)、1,1-ジメチル-2-ハロエチルカルバメート、1,1-ジメチル-2,2-ジブロモエチルカルバメート(DB-t-BOC)、1,1-ジメチル-2,2,2-トリクロロエチルカルバメート(TCBOC)、1-メチル-1-(4-ビフェニルイル)エチルカルバメート(Bpoc)、1-(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-1-メチルエチルカルバメート(t-Bumeoc)、2-(2'-及び4'-ピリジル)エチルカルバメート(Pyoc)、2-(N,N-ジシクロヘキシルカルボキサミド)エチルカルバメート、t-ブチルカルバメート(BOC)、1-アダマンチルカルバメート(Adoc)、ビニルカルバメート(Voc)、アリルカルバメート(Alloc)、1-イソプロピルアリルカルバメート(Ipaoc)、シンナミルカルバメート(Coc)、4-ニトロシンナミルカルバメート(Noc)、8-キノリルカルバメート、N-ヒドロキシピペリジニルカルバメート、アルキルジチオカルバメート、ベンジルカルバメート(Cbz)、p-メトキシベンジルカルバメート(Moz)、p-ニトロベンジルカルバメート、p-ブロモベンジルカルバメート、p-クロロベンジルカルバメート、2,4-ジクロロベンジルカルバメート、4-メチルスルフィニルベンジルカルバメート(Msz)、9-アントリルメチルカルバメート、ジフェニルメチルカルバメート、2-メチルチオエチルカルバメート、2-メチルスルホニルカルバメート、2-(p-トルエンスルホニル)エチルカルバメート、[2-(1,3-ジチアニル)]メチルカルバメー
ト(Dmoc)、4-メチルチオフェニルカルバメート(Mtpc)、2,4-ジメチルチオフェニルカルバメート(Bmpc)、2-ホスホニオエチルカルバメート(Peoc)、2-トリフェニルホスホニオイソプロピルカルバメート(Ppoc)、1,1-ジメチル-2-シアノエチルカルバメート、m-クロロ-p-アシルオキシベンジルカルバメート、p-(ジヒドロキシボリル)ベンジルカルバメート、5-ベンズイソオキサゾリルメチルカルバメート、2-(トリフルオロメチル)-6-クロモニルメチルカルバメート(Tcroc)、m-ニトロフェニルカルバメート、3,5-ジメトキシベンジルカルバメート、o-ニトロベンジルカルバメート、3,4-ジメトキシ-6-ニトロベンジルカルバメート、フェニル(o-ニトロフェニル)メチルカルバメート、t-アミルカルバメート、S-ベンジルチオカルバメート、p-シアノベンジルカルバメート、シクロブチルカルバメート、シクロヘキシルカルバメート、シクロペンチルカルバメート、シクロプロピルメチルカルバメート、p-デシルオキシベンジルカルバメート、2,2-ジメトキシアシルビニルカルバメート、o-(N,N-ジメチルカルボキサミド)ベンジルカルバメート、1,1-ジメチル-3-(N,N-ジメチルカルボキサミド)プロピルカルバメート、1,1-ジメチルプロピニルカルバメート、ジ(2-ピリジル)メチルカルバメート、2-フラニルメチルカルバメート、2-ヨードエチルカルバメート、イソボリニルカルバメート、イソブチルカルバメート、イソニコチニルカルバメート、p-(p'-メトキシフェニルアゾ)ベンジルカルバメート、1-メチルシクロブチルカルバメート、1-メチルシクロヘキシルカルバメート、1-メチル-1-シクロプロピルメチルカルバメート、1-メチル-1-(3,5-ジメトキシフェニル)エチルカルバメート、1-メチル-1-(p-フェニルアゾフェニル)エチルカルバメート、1-メチル-1-フェノルエチルカルバメート、1-メチル-1-(4-ピリジル)エチルカルバメート、フェニルカルバメート、p-(フェニルアゾ)ベンジルカルバメート、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニルカルバメート、4-(トリメチルアンモニウム)ベンジルカルバメート、及び2,4,6-トリメチルベンジルカルバメートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
スルホンアミド窒素保護基(例えば、-S(=O)2Raa)として、p-トルエンスルホンアミド(Ts)、ベンゼンスルホンアミド、2,3,6-トリメチル-4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Mtr)、2,4,6-トリメトキシベンゼンスルホンアミド(Mtb)、2,6-ジメチル-4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Pme)、2,3,5,6-テトラメチル-4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Mte)、4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Mbs)、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホンアミド(Mts)、2,6-ジメトキシ-4-メチルベンゼンスルホンアミド(iMds)、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホンアミド(Pmc)、メタンスルホンアミド(Ms)、β-トリメチルシリルエタンスルホンアミド(SES)、9-アントラセンスルホンアミド、4-(4',8'-ジメトキシナフチルメチル)ベンゼンスルホンアミド(DNMBS)、ベンジルスルホンアミド、トリフルオロメチルスルホンアミド、及びフェナシルスルホンアミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
他の窒素保護基として、フェノチアジニル-(10)-アシル誘導体、N'-p-トルエンスルホニルアミノアシル誘導体、N'-フェニルアミノチオアシル誘導体、N-ベンゾイルフェニルアラニル誘導体、N-アシルメチオニン誘導体、4,5-ジフェニル-3-オキサゾリン-2-オン、N-フタルイミド、N-ジチアサクシンイミド(Dts)、N-2,3-ジフェニルマレイミド、N-2,5-ジメチルピロール、N-1,1,4,4-テトラメチルジシリルアザシクロペンタン付加体(STABASE)、5-置換1,3-ジメチル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン-2-オン、5-置換1,3-ジベンジル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン-2-オン、1-置換3,5-ジニトロ-4-ピリドン、N-メチルアミン、N-アリルアミン、N-[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メチルアミン(SEM)、N-3-アセトキシプロピルアミン、N-(1-イソプロピル-4-ニトロ-2-オキソ-3-ピロリン(pyroolin)-3-イル)アミン、第四級アンモニウム塩、N-ベンジルアミン、N-ジ(4-メトキシフェニル)メチルアミン、N-5-ジベンゾスベリルアミン、N-トリフェニルメチルアミン(Tr)、N-[(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチル]アミン(MMTr)、N-9-フェニルフルオレニルアミン(PhF)、N-2,7-ジクロロ-9-フルオレニルメチレンアミン、N-フェロセニルメチルアミノ(Fcm)、N-2-ピコリルアミノN'-オキシド、N-1,1-ジメチルチオメチレンアミン、N-ベンジリデンアミン、N-p-メトキシベンジリデンアミン、N-ジフェニルメチレンアミン、N-[(2-ピリジル)メシチル]メチレンアミン、N-(N',N'-ジメチルアミノメチレン)アミン、N,N'-イソプロピリデンジアミン、N-p-ニトロベンジリデンアミン、N-サリチリデンアミン、N-5-クロロサリチリデンアミン、N-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニル)フェニルメチレンアミン、N-シクロヘキシリデンアミン、N-(5,5-ジメチル-3-オキソ-1-シクロヘキセニル)アミン、N-ボラン誘導体、N-ジフェニルボリン酸誘導体、N-[フェニル(ペンタアシルクロム-又はタングステン)アシル]アミン、N-銅キレート、N-亜鉛キレート、N-ニトロアミン、N-ニトロソアミン、アミンN-オキシド、ジフェニルホスフィンアミド(Dpp)、ジメチルチオホ
スフィンアミド(Mpt)、ジフェニルチオホスフィンアミド(Ppt)、ジアルキルホスホルアミデート類、ジベンジルホスホルアミデート、ジフェニルホスホルアミデート、ベンゼンスルフェンアミド、o-ニトロベンゼンスルフェンアミド(Nps)、2,4-ジニトロベンゼンスルフェンアミド、ペンタクロロベンゼンスルフェンアミド、2-ニトロ-4-メトキシベンゼンスルフェンアミド、トリフェニルメチルスルフェンアミド、及び3-ニトロピリジンスルフェンアミド(Npys)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
或る特定の実施形態において、酸素原子上に存在する置換基は、酸素保護基(ヒドロキシル保護基とも称される)である。酸素保護基として、-Raa、-N(Rbb)2、-C(=O)SRaa、-C(=O)Raa、-CO2Raa、-C(=O)N(Rbb)2、-C(=NRbb)Raa、-C(=NRbb)ORaa、-C(=NRbb)N(Rbb)2、-S(=O)Raa、-SO2Raa、-Si(Raa)3、-P(RCC)2、-P(RCC)3、-P(=O)2Raa、-P(=O)(Raa)2、-P(=O)(ORcc)2、-P(=O)2N(Rbb)2、及び-P(=O)(NRbb)2が挙げられるが、これらに限定されず、ここで、Raa、Rbb及びRccは、上記で定義する通りである。酸素保護基は、当該技術分野で周知であり、参照により援用されるProtecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999において詳述されるものを包含する。
【0066】
例示的な酸素保護基として、メチル、メトキシメチル(MOM)、メチルチオメチル(MTM)、t-ブチルチオメチル、(フェニルジメチルシリル)メトキシメチル(SMOM)、ベンジルオキシメチル(BOM)、p-メトキシベンジルオキシメチル(PMBM)、(4-メトキシフェノキシ)メチル(p-AOM)、グアイアコールメチル(GUM)、t-ブトキシメチル、4-ペンテニルオキシメチル(POM)、シロキシメチル、2-メトキシエトキシメチル(MEM)、2,2,2-トリクロロエトキシメチル、ビス(2-クロロエトキシ)メチル、2-(トリメチルシリル)エトキシメチル(SEMOR)、テトラヒドロピラニル(THP)、3-ブロモテトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、1-メトキシシクロヘキシル、4-メトキシテトラヒドロピラニル(MTHP)、4-メトキシテトラヒドロチオピラニル、4-メトキシテトラヒドロチオピラニルS,S-ジオキシド、1-[(2-クロロ-4-メチル)フェニル]-4-メトキシピぺリジン-4-イル(CTMP)、1,4-ジオキサン-2-イル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、2,3,3a,4,5,6,7,7a-オクタヒドロ-7,8,8-トリメチル-4,7-メタノベンゾフラン-2-イル、1-エトキシエチル、1-(2-クロロエトキシ)エチル、1-メチル-1-メトキシエチル、1-メチル-1-ベンジルオキシエチル、1-メチル-1-ベンジルオキシ-2-フルオロエチル、2,2,2-トリクロロエチル、2-トリメチルシリルエチル、2-(フェニルセレニル)エチル、t-ブチル、アリル、p-クロロフェニル、p-メトキシフェニル、2,4-ジニトロフェニル、ベンジル(Bn)、p-メトキシベンジル、3,4-ジメトキシベンジル、o-ニトロベンジル、p-ニトロベンジル、p-ハロベンジル、2,6-ジクロロベンジル、p-シアノベンジル、p-フェニルベンジル、2-ピコリル、4-ピコリル、3-メチル-2-ピコリルN-オキシド、ジフェニルメチル、p,p'-ジニトロベンズヒドリル、5-ジベンゾスベリル、トリフェニルメチル、α-ナフチルジフェニルメチル、p-メトキシフェニルジフェニルメチル、ジ(p-メトキシフェニル)フェニルメチル、トリ(p-メトキシフェニル)メチル、4-(4'-ブロモフェナシルオキシフェニル)ジフェニルメチル、4,4',4"-トリス(4,5-ジクロロフタルイミドフェニル)メチル、4,4',4"-トリス(レブリノイルオキシフェニル)メチル、4,4',4"-トリス(ベンゾイルオキシフェニル)メチル、3-(イミダゾール-1-イル)ビス(4',4"-ジメトキシフェニル)メチル、1,1-ビス(4-メトキシフェニル)-1'-ピレニルメチル、9-アントリル、9-(9-フェニル)キサンテニル、9-(9-フェニル-10-オキソ)アントリル、1,3-ベンゾジスルフラン-2-イル、ベンズイソチアゾリルS,S-ジオキシド、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、ジメチルイソプロピルシリル(IPDMS)、ジエチルイソプロピルシリル(DEIPS)、ジメチルヘキシルシリル(dimethylthexylsilyl)、t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、t-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、トリベンジルシリル、トリ-p-キシリルシリル、トリフェニルシリル、ジフェニルメチルシリル(DPMS)、t-ブチルメトキシフェニルシリル(TBMPS)、ホルメート、ベンゾイルホルメート、アセテート、クロロアセテート、ジクロロアセテート、トリクロロアセテート、トリフルオロアセテート、メトキシアセテート、トリフェニルメトキシアセテート、フェノキシアセテート、p-クロロフェノキシアセテート、3-フェニルプロピオネート、4-オキソペンタノエート(レブリネート)、4,4-(エチレンジチオ)ペンタノエート(レブリノイルジチオアセタール)、ピバロエート、アダマントエート、クロトネート、4-メトキシクロトネート、ベンゾエート、p-フェニルベンゾエート、2,4,6-トリメチルベンゾエート(メシトエート)、t-ブチルカーボネート(BOC)、アルキルメチルカーボネート、9-フルオレニルメチルカーボネート(Fmoc)、アルキルエチルカーボネート、アルキル2,2,2-トリクロロエチルカーボネート(Troc)、2-(トリメチルシリル)エチルカーボネート(TMSEC)、2-(フェニルスルホニル)エチルカーボネート(Psec)、2-(トリフェニルホスホニオ)エチルカーボネート(Peoc)、アルキルイソブチルカーボネート、アルキルビニルカーボネート、アルキルアリルカーボネート、アルキルp-ニトロフェニルカーボネート、アルキルベンジルカーボネート、アルキルp-メトキシベンジルカーボネート、アルキル3,4-ジメトキシベンジルカーボネート、アルキルo-ニトロベンジルカーボネート、アルキルp-ニトロベンジルカーボネート、アルキルS-ベンジルチオカーボネート、4-エトキシ-1-ナフチルカーボネート、メチルジチオカーボネート、2-ヨードベンゾエート、4-アジドブチレート、4-ニトロ-4-メチルペンタノエート、o-(ジブロモメチル)ベンゾエート、2-ホルミルベンゼンスルホネート、2-(メチルチオメトキシ)エチル、4-(メチルチオメトキシ)ブチレート、2-(メチルチオメトキシメチル)ベンゾエート、2,6-ジクロロ-4-メチルフェノキシアセテート、2,6-ジクロロ-4-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)フェノキシアセテート、2,4-ビス(1,1-ジメチルプロピル)フェノキシアセテート、クロロジフェニルアセテート、イソブチレート、モノサクシノエート、(E)-2-メチル-2-ブテノエート、o-(メトキシアシル)ベンゾエート、a-ナフトエート、ニトレート、アルキルN,N,N',N'-テトラメチルホスホロジアミデート、アルキルN-フェニルカルバメート、ボレート、ジメチルホスフィノチオイル、アルキル2,4-ジニトロフェニルスルフェネート、スルフェート、メタンスルホネート(メシレート)、ベンジルスルホネート、及びトシレート(Ts)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
或る特定の実施形態において、硫黄原子上に存在する置換基は、硫黄保護基(チオール保護基とも称される)である。硫黄保護基として、-Raa、-N(Rbb)2、-C(=O)SRaa、-C(=O)Raa、-CO2Raa、-C(=O)N(Rbb)2、-C(=NRbb)Raa、-C(=NRbb)ORaa、-C(=NRbb)N(Rbb)2、-S(=O)Raa、-SO2Raa、-Si(Raa)3 -P(RCC)2、-P(RCC)3、-P(=O)2Raa、-P(=O)(Raa)2、-P(=O)(ORcc)2、-P(=O)2N(Rbb)2、及び-P(=O)(NRbb)2が挙げられるが、これらに限定されず、ここで、Raa、Rbb及びRccは、上記で定義する通りである。硫黄保護基は、当該技術分野で周知であり、参照により援用されるProtecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999において詳述されるものを包含する。
【0068】
本明細書中で使用する場合、「脱離基」、又は「LG」は、ヘテロリシス結合開裂時に電子対とともに抜ける(departs)分子断片を指すと当該技術分野で理解されている用語であり、ここで、分子断片は、陰イオン又は中性分子である。例えば、Smith, March Advanced Organic Chemistry 6th ed. (501-502)を参照されたい。適切な脱離基の例として、ハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物、又はヨウ化物)、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、アルカンスルホニルオキシ、アレーンスルホニルオキシ、アルキルカルボニルオキシ(例えば、アセトキシ)、アリールカルボニルオキシ、アリールオキシ、メトキシ、N,O-ジメチルヒドロキシルアミノ、ピキシル、ハロホルメート、-NO
2、トリアルキルアンモニウム、及びアリールヨードニウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、脱離基は、スルホン酸エステルである。幾つかの実施形態において、スルホン酸エステルは、式-OSO
2R
LG1(式中、R
LG1は、場合により置換されているアルキル、場合により置換されているアルケニル、場合により置換されているヘテロアルキル、場合により置換されているアリール、場合により置換されているヘテロアリール、場合により置換されているアリールアルキル、及び場合により置換されているヘテロアリールアルキルからなる群から選択される)を含む。幾つかの実施形態において、R
LGlは、置換又は無置換C
1~C
6アルキルである。幾つかの実施形態において、R
LGlは、メチルである。幾つかの実施形態において、R
LGlは、置換又は無置換アリールである。幾つかの実施形態において、R
LGlは、置換又は無置換フェニルである。幾つかの実施形態において、R
LGlは、
【化6】
である。
【0069】
幾つかの場合において、脱離基は、トルエンスルホネート(トシレート、Ts)、メタンスルホネート(メシレート、Ms)、p-ブロモベンゼンスルホニル(ブロシレート、Bs)、又はトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート、Tf)である。幾つかの場合において、脱離基は、ブロシレート(p-ブロモベンゼンスルホニル)である。幾つかの場合において、脱離基は、ノシレート(2-ニトロベンゼンスルホニル)である。幾つかの実施形態において、脱離基は、スルホネート含有基である。幾つかの実施形態において、脱離基は、トシレート基である。脱離基はまた、ホスフィンオキシド(例えば、光延反応中に形成される)又は内部脱離基、例えばエポキシド又は環状スルフェートであり得る。
【0070】
「薬学的に許容可能な塩」は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応等を伴わずに、ヒト及び他の動物の組織と接触した使用に適しており、合理的なベネフィット/リスク比に見合う塩を指す。薬学的に許容可能な塩は、当該技術分野で周知である。例えば、Bergeらは、J. Pharmaceutical Sciences (1977) 66: 1-19において、薬学的に許容可能な塩について詳述している。本明細書中に記載する化合物の薬学的に許容可能な塩として、適切な無機酸及び無機塩基並びに有機酸及び有機塩基に由来するものが挙げられる。薬学的に許容可能な無毒性の酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸及び過塩素酸等の無機酸と、又は酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、若しくはマロン酸等の有機酸と、或いは当該技術分野で使用される他の方法、例えばイオン交換を使用することによって形成されるアミノ基の塩である。他の薬学的に許容可能な塩として、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、カンファーレート、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩(pectinate)、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオ酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデカン酸、吉草酸塩等が挙げられる。適切な塩基に由来する塩として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム及びN+(C1~4アルキル)4塩が挙げられる。代表的なアルカリ金属又はアルカリ土類金属として、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。更なる薬学的に許容可能な塩は、適切な場合には、第四級塩を包含する。
【0071】
本発明は、II型PRMT阻害剤を提供する。一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式(III):
【化7】
(式中、
【化8】
は、単結合又は二重結合を表し、
R
1は、水素、R
z、又は-C(O)R
z(式中、R
zは、場合により置換されているC
1~6アルキルである)であり、
Lは、-N(R)C(O)-、-C(O)N(R)-、-N(R)C(O)N(R)-、-N(R)C(O)O-、又は-OC(O)N(R)-であり、
Rはそれぞれ独立して、水素又は場合により置換されているC
1~6脂肪族であり、
Arは、独立して、窒素、酸素、及び硫黄から選択される0個~4個のヘテロ原子を有する単環式又は二環式芳香環であり、Arは、原子価が許容する場合、0個、1個、2個、3個、4個、又は5個のR
y基で置換され、
R
yはそれぞれ独立して、ハロ、-CN、-NO
2、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているアリール、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているヘテロアリール、-OR
A、-N(R
B)
2、-SR
A、-C(=O)R
A、-C(O)OR
A、-C(O)SR
A、-C(O)N(R
B)
2、-C(O)N(R
B)N(R
B)
2、-OC(O)R
A、-OC(O)N(R
B)
2、-NR
BC(O)R
A、-NR
BC(O)N(R
B)
2、-NR
BC(O)N(R
B)N(R
B)
2、-NR
BC(O)OR
A、-SC(O)R
A、-C(=NR
B)R
A、-C(=NNR
B)R
A、-C(=NOR
A)R
A、-C(=NR
B)N(R
B)
2、-NRBC(=NR
B)R
B、-C(=S)R
A、-C(=S)N(R
B)
2、-NR
BC(=S)R
A、-S(O)R
A、-OS(O)
2R
A、-SO
2R
A、-NR
BSO
2R
A、又は-SO
2N(R
B)
2からなる群から選択され、
R
Aはそれぞれ独立して、水素、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、及び場合により置換されているヘテロアリールからなる群から選択され、
R
Bはそれぞれ独立して、水素、場合により置換されている脂肪族、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、及び場合により置換されているヘテロアリールからなる群から選択されるか、或いは、2個のR
B基は、それらの間に介在する原子と一緒になって、場合により置換されている複素環を形成し、
R
5、R
6、R
7、及びR
8は、独立して、水素、ハロ、又は場合により置換されている脂肪族であり、
R
xはそれぞれ独立して、ハロ、-CN、場合により置換されている脂肪族、-OR'、及びN(R")
2からなる群から選択され、
R
'は、水素又は場合により置換されている脂肪族であり、
R
"はそれぞれ独立して、水素又は場合により置換されている脂肪族であるか、或いは、2個のR
"は、それらの間に介在する原子と一緒になって、複素環を形成し、
nは、原子価が許容する場合、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10である)
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0072】
一態様において、Lは、-C(O)N(R)-である。一態様において、R1は、水素である。一態様において、nは0である。
【0073】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式(IV):
【化9】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。一態様において、少なくとも1つのR
yが、-NHR
Bである。一態様において、R
Bは、場合により置換されているシクロアルキルである。
【0074】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式(VII):
【化10】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。一態様において、Lは、-C(O)N(R)-である。一態様において、R
1は、水素である。一態様において、nは0である。
【0075】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式(VIII):
【化11】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。一態様において、Lは、-C(O)N(R)-である。一態様において、R
1は、水素である。一態様において、nは0である。
【0076】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式(IX):
【化12】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。一態様において、R
1は、水素である。一態様において、nは0である。
【0077】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、化合物B:
【化13】
又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0078】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式(X):
【化14】
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。一態様において、R
yは、-NHR
Bである。一態様において、R
Bは、場合により置換されているヘテロシクリルである。
【0079】
或る特定の実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式(XI):
【化15】
(式中、Xは、-C(R
XC)
2-、-O-、-S-、又は-NR
XN-(式中、R
XCの各場合は、独立して、水素、場合により置換されているアルキル、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、又は場合により置換されているヘテロアリールであり、R
XNは、独立して、水素、場合により置換されているアルキル、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、場合により置換されているヘテロアリール、C(=O)R
XA、又は窒素保護基であり、R
XAは、場合により置換されているアルキル、場合により置換されているカルボシクリル、場合により置換されているヘテロシクリル、場合により置換されているアリール、又は場合により置換されているヘテロアリールである)である)
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0080】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、化合物C:
【化16】
又はその薬学的に許容可能な塩である。化合物C及び化合物Cを作製する方法は、PCT/US2013/077235号において、少なくとも141頁(化合物208)及び291頁のパラグラフ[00464]~294頁のパラグラフ[00469]に開示されている。
【0081】
別の実施形態において、II型PRMT阻害剤は、化合物E:
【化17】
又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0082】
別の実施形態において、II型PRMT阻害剤は、化合物F:
【化18】
又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0083】
II型PRMT阻害剤は更に、PCT/US2013/077235号及びPCT/US2015/043679号に開示されており、これらは、参照により援用される。例示的なII型PRMT阻害剤は、PCT/US2013/077235号の表1A、表1B、表1C、表1D、表1E、表1F、及び表1Gに開示されており、II型PRMT阻害剤を作製する方法は、PCT/US2013/077235号の少なくとも239頁のパラグラフ[00359]~301頁のパラグラフ[00485]に記載されている。II型PRMT阻害剤又はPRMT5阻害剤の他の非限定的な例は、下記の公開済の特許出願である国際公開第2011/079236号、国際公開第2014/100695号、国際公開第2014/100716号、国際公開第2014/100730号、国際公開第2014/100764号、及び国際公開第2014/100734号、並びに米国仮出願第62/017,097号及び同第62/017,055に開示されている。これらの特許出願に記載される一般的な化合物及び特定の化合物は、参照により援用され、本明細書中に記載するような癌を治療するのに使用され得る。幾つかの実施形態において、II型PRMT阻害剤は、核酸(例えば、siRNA)である。PRMT5に対するsiRNAは、例えば、Mol Cancer Res. 2009 Apr;7(4): 557-69, and Biochem J. 2012 Sep 1;446(2):235-41に記載されている。
【0084】
「抗原結合タンパク質(ABP)」は、抗体に類似した様式で機能する抗体又は操作された分子を含む、抗原に結合するタンパク質を意味する。そのような代替的な抗体型式として、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、ミニ抗体、及びミニボディが挙げられる。また、本開示による任意の分子の1個以上のCDRを、適切な非免疫グロブリンタンパク質スキャフォールド又は骨格上に配置させることができる代替的なスキャフォールド、例えば、アフィボディ(affibody)、SpAスキャフォールド、LDL受容体クラスAドメイン、アビマー(avimer)(例えば、米国特許出願公開第2005/0053973号、同第2005/0089932号、同第2005/0164301号を参照)又はEGFドメインも包含される。ABPはまた、そのような抗体又は他の分子の抗原結合断片を包含する。更に、ABPは、適切な軽鎖と対形成される場合、完全長抗体、(Fab')2断片、Fab断片、二特異性若しくはバイパラトピック分子又はそれらの等価体(例えば、scFV、バイボディ(bi-bodies)、トリボディ(tri-bodies)又はテトラボディ(tetra- bodies)、Tandab等)に合わせた(formatted)本発明のVH領域を含み得る。ABPは、IgG1、IgG2、IgG3、若しくはIgG4、若しくはIgM、IgA、IgE若しくはIgD、又はそれらの修飾変異体である抗体を含み得る。抗体重鎖の定常ドメインは、相応して選択され得る。軽鎖定常ドメインは、カッパ又はラムダ定常ドメインであり得る。ABPはまた、国際公開第86/01533号に記載されるタイプのキメラ抗体であってもよく、それは、抗原結合領域及び非免疫グロブリン領域を含む。「ABP」、「抗原結合タンパク質」、及び「結合タンパク質」という用語は、本明細書中で交換可能に使用される。
【0085】
本明細書中で使用する場合、「ICOS」は、任意の誘導性T細胞共刺激分子タンパク質を意味する。ICOS(誘導性T細胞共刺激分子)に関する別名として、AILIM、CD278、CVID1、JTT-1又はJTT-2、MGC39850、又は8F4が挙げられる。ICOSは、活性化T細胞で発現されるCD28-スーパーファミリー共刺激分子である。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、CD28及びCTLA-4細胞表面受容体ファミリーに属する。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、ホモ二量体を形成し、細胞間のシグナル伝達、免疫反応、及び細胞増殖の調節において重要な役割を果たす。ヒトICOS(アイソフォーム2)のアミノ酸配列(アクセッション番号UniProtKB-Q9Y6W8-2)を、配列番号9として以下に示す。
【0086】
MKSGLWYFFLFCLRIKVLTGEINGSANYEMFIFHNGGVQILCKYPDIVQQFKMQLLKGGQILCDLTKTKGSGNTVSIKSLKFCHSQLSNNSVSFFLYNLDHSHANYYFCNLSIFDPPPFKVTLTGGYLHIYESQLCCQLKFWLPIGCAAFVVVCILGCILICWLTKKM
(配列番号9)
【0087】
ヒトICOS(アイソフォーム1)のアミノ酸配列(アクセッション番号UniProtKB-Q9Y6W8-1)を、配列番号10として以下に示す。
【0088】
MKSGLWYFFL FCLRIKVLTG EINGSANYEM FIFHNGGVQI LCKYPDIVQQ
FKMQLLKGGQ ILCDLTKTKG SGNTVSIKSL KFCHSQLSNN SVSFFLYNLD
HSHANYYFCN LSIFDPPPFK VTLTGGYLHI YESQLCCQLK FWLPIGCAAF
VVVCILGCIL ICWLTKKKYS SSVHDPNGEY MFMRAVNTAK KSRLTDVTL
(配列番号10)
【0089】
ICOSの活性化は、ICOS-L(B7RP-1/B7-H2)による結合により起きる。B7-1もB7-2も(CD28及びCTLA4に関するリガンド)、ICOSに結合せず、また活性化もしない。しかしながら、ICOS-Lは、CD28及びCTLA4の両方に弱く結合することが示されている(Yao S et al., "B7-H2 is a costimulatory ligand for CD28 in human", Immunity, 34(5); 729-40 (2011))。ICOSの発現は、T細胞に制限されるようである。ICOS発現レベルは、異なるT細胞サブセット間で、またT細胞活性化状態で多様である。ICOS発現は、静止したTH17、T濾胞性ヘルパー(TFH)及び調節性T細胞(Treg)細胞で示されているが、CD28とは異なり、ICOS発現は、自然TH1及びTH2エフェクターT細胞集団上で高度に発現されない(Paulos CM et al., "The inducible costimulator (ICOS) is critical for the development of human Th17 cells", Sci Transl Med, 2(55); 55ra78 (2010))。ICOS発現は、TCR会合による活性化後に、CD4+及びCD8+エフェクターT細胞上で高度に誘導される(Wakamatsu E, et al., "Convergent and divergent effects of costimulatory molecules in conventional and regulatory CD4+ T cells", Proc Natal Acad Sci USA, 110(3); 1023-8 (2013))。ICOS受容体による共刺激性シグナル伝達は、同時発生のTCR活性化シグナルを受け取るT細胞においてのみ行われる(Sharpe AH and Freeman GJ. "The B7-CD28 Superfamily", Nat. Rev Immunol, 2(2); 116-26 (2002))。活性化された抗原特異的なT細胞では、ICOSは、IFN-γ、TNF-α、IL-10、IL-4、IL-13他を含むTH1及びTH2サイトカインの両方の産生を調節する。ICOSはまた、CD28よりも比較的規模が小さいが、エフェクターT細胞増殖を刺激する(Sharpe AH and Freeman GJ. "The B7-CD28 Superfamily", Nat. Rev Immunol, 2(2); 116-26 (2002))。ICOSに対する抗体及び疾患の治療において使用する方法は、例えば、国際公開第2012/131004号、米国特許出願公開第20110243929号、及び米国特許出願公開第20160215059号に記載されている。米国特許第20160215059号は、参照により援用される。アゴニスト活性を有するヒトICOSに対するマウス抗体に関するCDRは、PCT/EP2012/055735号(国際公開第2012/131004号)に示されている。ICOSに対する抗体はまた、国際公開第2008/137915号、国際公開第2010/056804号、欧州特許第374902号、欧州特許第1374901号、及び欧州特許第1125585号に開示されている。ICOSに対するアゴニスト抗体又はICOS結合タンパク質は、国際公開第2012/13004号、国際公開第2014/033327号、国際公開第2016/120789号、米国特許出願公開第20160215059、及び米国特許出願公開第20160304610号に開示されている。米国特許第2016/0304610号の例示的な抗体は、37A10S713を包含する。37A10S713の配列を、配列番号11~配列番号18として以下で再現する:
【0090】
37A10S713重鎖可変領域:
【0091】
EVQLVESGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS DYWMDWVRQA PGKGLVWVSN IDEDGSITEY SPFVKGRFTI SRDNAKNTLY LQMNSLRAED TAVYYCTRWG RFGFDSWGQG TLVTVSS
(配列番号11)
【0092】
37A10S713軽鎖可変領域:
【0093】
DIVMTQSPDS LAVSLGERAT INCKSSQSLL SGSFNYLTWY QQKPGQPPKL LIFYASTRHT GVPDRFSGSG SGTDFTLTIS SLQAEDVAVY YCHHHYNAPP TFGPGTKVDI K
(配列番号12)
【0094】
37A10S713 VH CDR1: GFTFSDYWMD(配列番号13)
37A10S713 VH CDR2: NIDEDGSITEYSPFVKG(配列番号14)
37A10S713 VH CDR3: WGRFGFDS(配列番号15)
37A10S713 VL CDR1: KSSQSLLSGSFNYLT(配列番号16)
37A10S713 VL CDR2: YASTRHT(配列番号17)
37A10S713 VL CDR3: HHHYNAPPT(配列番号18)
【0095】
「ICOSに対する作用物質」とは、ICOSに結合することが可能な任意の化学化合物又は生物学的分子を意味する。幾つかの実施形態において、ICOSに対する作用物質は、ICOS結合タンパク質である。幾つかの実施形態において、ICOSに対する作用物質は、ICOSアゴニストである。
【0096】
「ICOS結合タンパク質」は本明細書中で使用する場合、ICOSに結合することが可能な抗体及び他のタンパク質、例えばドメインを指す。幾つかの場合において、ICOSは、ヒトICOSである。「ICOS結合タンパク質」という用語は、「ICOS抗原結合タンパク質」と交換可能に使用され得る。したがって、当該技術分野で理解されるように、抗ICOS抗体及び/又はICOS抗原結合タンパク質は、ICOS結合タンパク質とみなされる。本明細書中で使用する場合、「抗原結合タンパク質」は、抗原、例えばICOSに結合する、抗体、ドメイン及び本明細書中に記載する他の構築物を含むがこれらに限定されない任意のタンパク質である。本明細書中で使用する場合、ICOS結合タンパク質の「抗原結合部分」は、抗原結合抗体断片を含むがこれに限定されない、ICOSに結合することが可能なICOS結合タンパク質の任意の部分を包含する。
【0097】
一実施形態において、本発明のICOS抗体は、下記CDR:
CDRH1: DYAMH(配列番号1)
CDRH2: LISIYSDHTNYNQKFQG(配列番号2)
CDRH3: NNYGNYGWYFDV(配列番号3)
CDRL1: SASSSVSYMH(配列番号4)
CDRL2: DTSKLAS(配列番号5)
CDRL3: FQGSGYPYT(配列番号6)
のいずれか1つ又は組合せを含む。
【0098】
幾つかの実施形態において、本発明の抗ICOS抗体は、配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。適切には、本発明のICOS結合タンパク質は、配列番号7に対して約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含み得る。
【0099】
ヒト化重鎖(VH)可変領域(H2):
【0100】
QVQLVQSGAE VKKPGSSVKV SCKASGYTFT DYAMHWVRQA PGQGLEWMGL
ISIYSDHTNY NQKFQGRVTI TADKSTSTAY MELSSLRSED TAVYYCGRNN
YGNYGWYFDV WGQGTTVTVS S
(配列番号7)
【0101】
本発明の一実施形態において、ICOS抗体は、配列番号8に記載するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域におけるCDRL1(配列番号4)、CDRL2(配列番号5)、及びCDRL3(配列番号6)を含む。配列番号8に記載するヒト化軽鎖可変領域を含む本発明のICOS結合タンパク質を、「L5」と呼ぶ。したがって、配列番号7の重鎖可変領域及び配列番号8の軽鎖可変領域を含む本発明のICOS結合タンパク質を、本明細書中ではH2L5と呼んでもよい。
【0102】
幾つかの実施形態において、本発明のICOS結合タンパク質は、配列番号8に記載するアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する軽鎖可変領域を含む。適切には、本発明のICOS結合タンパク質は、配列番号8に対して約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変領域を含み得る。
【0103】
ヒト化軽鎖(VL)可変領域(L5):
【0104】
EIVLTQSPAT LSLSPGERAT LSCSASSSVS
YMHWYQQKPG QAPRLLIYDT
SKLASGIPAR FSGSGSGTDY TLTISSLEPE DFAVYYCFQG
SGYPYTFGQG TKLEIK
(配列番号8)
【0105】
CDR又は最小結合単位は、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失又は付加によって修飾されてもよく、ここで、変異体抗原結合タンパク質は、配列番号7及び配列番号8を含む未修飾タンパク質、例えば抗体の生物学的特徴を実質的に保持する。
【0106】
CDR H1、H2、H3、L1、L2、L3はそれぞれ、単独で、又は任意の他のCDRと組み合わせて、任意の並べ替え(permutation)又は組合せで修飾され得ることが理解されよう。一実施形態において、CDRは、最大3個のアミノ酸、例えば1個又は2個のアミノ酸、例えば1個のアミノ酸の置換、欠失又は付加によって修飾される。通常、修飾は、例えば以下の表1に示すような置換、特に保存的置換である。
【0107】
【0108】
抗体のサブクラスは幾分、二次エフェクター機能、例えば、補体活性化又はFc受容体(FcR)結合及び抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)等を決定する(Huber, et al., Nature 229(5284): 419-20 (1971)、Brunhouse, et al., Mol Immunol 16(11): 907-17 (1979))。特定の用途用の抗体の最適なタイプを同定する際に、抗体のエフェクター機能が考慮され得る。例えば、hIgG1抗体は、比較的長い半減期を有し、補体を固定するのに非常に有効であり、hIgG1抗体は、FcγRI及びFcγRIIの両方に結合する。対比して、ヒトIgG4抗体は、より短い半減期を有し、補体を固定せず、FcRに対してより低い親和性を有する。IgG4のFc領域における、セリン228の、プロリンによる置き換え(S228P)は、hIgG4で観察される不均一性を低減して、血清の半減期を延ばす(Kabat, et al., "Sequences of proteins of immunological interest" 5.sup.th Edition (1991)、Angal, et al., Mol Immunol 30(1): 105-8 (1993))。ロイシン235をグルタミン酸で置き換える第2の突然変異(L235E)は、残留FcR結合及び補体結合活性を排除する(Alegre, et al., J Immunol 148(11): 3461-8 (1992))。両方の突然変異を有する得られた抗体をIgG4PEと称する。hIgG4アミノ酸の付番は、EU付番参照に由来した:Edelman, G.M. et al., Proc. Natl. Acad. USA, 63, 78-85 (1969). PMID: 5257969。本発明の一実施形態において、ICOS抗体は、IgG4アイソタイプである。一実施形態において、置き換えS228P及びL235Eを含むIgG4 Fc領域を含むICOS抗体を、IgG4PEと称し得る。
【0109】
本明細書中で使用する場合、「ICOS-L」及び「ICOSリガンド」は交換可能に使用され、ヒトICOSの膜結合型の天然リガンドを指す。ICOSリガンドは、ヒトにおいて、ICOSLG遺伝子によってコードされるタンパク質である。ICOSLGはまた、CD275(分化275のクラスター)とも呼ばれている。ICOS-Lに関する別名として、B7RP-1及びB7-H2が挙げられる。
【0110】
本明細書中で使用する場合、「免疫調節物質」又は「免疫調節剤」は、免疫系に影響を及ぼすモノクローナル抗体を含む任意の物質を指す。幾つかの実施形態において、免疫調製物質又は免疫調節剤は、免疫系をアップレギュレートする。免疫調節物質は、癌の治療のための抗腫瘍剤として使用され得る。例えば、免疫調節物質として、抗PD-1抗体(オプジーボ/ニボルマブ及びキイトルーダ/ペムブロリズマブ)、抗CTLA-4抗体、例えばイピリムマブ(ヤーボイ)、抗OX-40抗体、及び抗ICOS抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
本明細書中で使用する場合、「アゴニスト」という用語は、同時シグナル伝達受容体と接触すると、下記の(1)受容体を刺激又は活性化すること、(2)受容体の活性、機能若しくは存在を増強するか、増加するか、促進するか、誘導するか、又は延長させること及び/又は(3)受容体の発現を増強するか、増加するか、促進するか、又は誘導することの1つ以上を引きこす抗体を含むがこれに限定されない抗原結合タンパク質を指す。アゴニスト活性は、細胞シグナル伝達、細胞増殖、免疫細胞活性化マーカー、サイトカイン産生の測定を含むがこれらに限定されない、当該技術分野で既知の各種アッセイによって、in vitroで測定することができる。アゴニスト活性はまた、T細胞増殖又はサイトカイン産生の測定等であるがこれらに限定されない、サロゲートエンドポイントを測定する各種アッセイによって、in vivoで測定することができる。
【0112】
本明細書中で使用する場合、「アンタゴニスト」という用語は、下記の同時シグナル伝達受容体と接触すると、(1)その天然リガンドによって受容体の活性化を減衰させるか、阻止するか、又は不活性化し、及び/又は阻止すること、(2)受容体の活性、機能若しくは存在を低減するか、減少させるか、又は短縮させること及び/又は(3)受容体の発現を低減するか、減少するか、抑止することの1つ以上を引きこす抗体を含むがこれに限定されない抗原結合タンパク質を指す。アンタゴニスト活性は、細胞シグナル伝達、細胞増殖、免疫細胞活性化マーカー、サイトカイン産生の増加又は減少の測定等であるがこれらに限定されない、当該技術分野で既知の各種アッセイによって、in vitroで測定することができる。アンタゴニスト活性はまた、T細胞増殖又はサイトカイン産生の測定等であるがこれらに限定されない、サロゲートエンドポイントを測定する各種アッセイによって、in vivoで測定することができる。
【0113】
「抗体」という用語は、最も広義では、免疫グロブリン様ドメイン(例えば、IgG、IgM、IgA、IgD又はIgE)を有する分子を指すのに本明細書中で使用され、モノクローナル抗体、組換え抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、二特異性抗体を含む多特異性抗体、及びヘテロコンジュゲート抗体;単一可変ドメイン(例えば、VH、VHH、VL、ドメイン抗体(dAb(商標)))、抗原結合抗体断片、Fab、F(ab')2、Fv、ジスルフィド連結Fv、単鎖Fv、ジスルフィド連結scFv、ダイアボディ、TANDABS(商標)等、並びに上述のいずれかの修飾バーションを包含する(代替的な「抗体」型式の概要に関して、例えば、Holliger and Hudson, Nature Biotechnology, 2005, Vol 23, No. 9, 1126-1136を参照)。
【0114】
代替的な抗体型式として、抗原結合タンパク質の1個以上のCDRを、適切な非免疫グロブリンタンパク質スキャフォールド又は骨格上に配置させることができる代替的なスキャフォールド、例えば、アフィボディ、SpAスキャフォールド、LDL受容体クラスAドメイン、及びアビマー(例えば、米国特許出願公開第2005/0053973号、同第2005/0089932号、同第2005/0164301号を参照)又はEGFドメイン等が挙げられる。
【0115】
「ドメイン」という用語は、タンパク質の残余に関係なく、その三次構造を保持する、フォールディングされたタンパク質構造を指す。概して、ドメインは、タンパク質の別々の機能特性に関与し、多くの場合、タンパク質及び/又はドメインの残部の機能の損失なく、他のタンパク質に付加、除去又は移行され得る。
【0116】
「単一可変ドメイン」という用語は、抗体可変ドメインに特徴的な配列を含む、フォールディングされたポリペプチドドメインを指す。したがって、「単一可変ドメイン」という用語は、完全抗体可変ドメイン、例えばVH、VHH及びVL並びに例えば、1個以上のループが、抗体可変ドメインに特徴的でない配列で置き換えられている修飾抗体可変ドメイン、或いは切断されているか、又はN末端若しくはC末端伸長を含む抗体可変ドメイン、並びに完全長ドメインの少なくとも結合活性及び特異性を保持する可変ドメインのフォールディングされた断片を包含する。単一可変ドメインは、異なる可変領域又はドメインに関係なく、抗原又はエピトープに結合することが可能である。「ドメイン抗体」又は「dAb(商標)」は、「単一可変ドメイン」と同じであるとみなされ得る。単一可変ドメインは、ヒト単一可変ドメインであり得るが、他の種、例えば齧歯類、テンジクザメ及びラクダ科のVHH dAb(商標)由来の単一可変ドメインも包含する。ラクダ科のVHHは、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、及びグアナコを含む種に由来し、天然で軽鎖を欠如する重鎖抗体を産生する、免疫グロブリン単一可変ドメインポリペプチドである。そのようなVHHドメインは、当該技術分野で利用可能な標準的な技法に従ってヒト化されてもよく、そのようなドメインは、「単一可変ドメイン」であるとみなされる。本明細書中で使用する場合、VHは、ラクダ科のVHHドメインを包含する。
【0117】
抗原結合断片は、非抗体タンパク質スキャフォールド上での1個以上のCDRの配置を用いて提供され得る。「タンパク質スキャフォールド」は本明細書中で使用する場合、免疫グロブリン(Ig)スキャフォールド、例えば、IgGスキャフォールドを包含するが、これらに限定されず、「タンパク質スキャフォールド」は、四鎖又は二鎖抗体であってもよく、又は抗体のFc領域のみを含んでもよく、又は抗体由来の1個以上の定常領域を含んでもよく、その定常領域は、ヒト又は霊長類起源であってもよく、又はヒト及び霊長類の定常領域の人工的なキメラであってもよい。
【0118】
タンパク質スキャフォールドは、Igスキャフォールド、例えば、IgG、又はIgAスキャフォールドであり得る。IgGスキャフォールドは、抗体の幾つか又は全てのドメイン(即ち、CH1、CH2、CH3、VH、VL)を含み得る。抗原結合タンパク質は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4又はIgG4PEから選択されるIgGスキャフォールドを含み得る。例えば、スキャフォールドは、IgG1であり得る。スキャフォールドは、抗体のFc領域からなってもよく、又は抗体のFc領域を含んでもよく、或いはその一部である。
【0119】
親和性は、1つの分子、例えば、本発明の抗原結合タンパク質の、別の分子、例えばその標的抗原への単一の結合部位での結合の強度である。抗原結合タンパク質の、その標的への結合親和性は、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又はラジオイムノアッセイ(RIA))、又は動態(例えば、BIACORE(商標)分析)によって決定され得る。例えば、実施例5で記載されるBIACORE(商標)法を、結合親和性を測定するために使用し得る。
【0120】
アビディティは、2つの分子の、互いへの、多重部位での結合の強度の合計であり、例えば、相互作用の原子価を考慮する。
【0121】
「単離」とは、分子、例えば抗原結合タンパク質又は核酸等が、それが自然に見い出され得る環境から取り出されることを意図する。例えば、分子は、一般的にともに自然に存在する物質から精製され得る。例えば、試料中の分子の質量は、総質量の95%であり得る。
【0122】
「発現ベクター」は本明細書中で使用する場合、目的核酸を、目的の核酸配列がペプチド鎖、例えばタンパク質として発現される細胞、例えば真核細胞若しくは原核細胞、又は無細胞発現系へ導入するのに使用され得る単離核酸を意味する。そのような発現ベクターは、例えば、目的の核酸を含むコスミド、プラスミド、ウイルス配列、トランスポゾン、及び線状核酸であり得る。発現ベクターが、細胞又は無細胞発現系(例えば、網状赤血球溶解産物)へ導入されると、目的の核酸によってコードされるタンパク質が、転写/翻訳機構によって産生される。本開示の範囲内の発現ベクターは、真核生物又は原核生物発現用の必須要素を提供してもよく、ウイルスプロモーター駆動型ベクター、例えばCMVプロモーター駆動型ベクター、例えば、pcDNA3.1、pCEP4、及びそれらの誘導体、バキュロウイルス発現ベクター、ショウジョウバエ(Drosophila)発現ベクター、及び哺乳動物遺伝子プロモーター、例えばヒトIg遺伝子プロモーターによって駆動される発現ベクターを包含する。他の例として、原核生物発現ベクター、例えばT7プロモーター駆動型ベクター、例えば、pET41、ラクトースプロモーター駆動型ベクター及びアラビノース遺伝子プロモーター駆動型ベクターが挙げられる。当業者は、他の適切な発現ベクター及び発現系を認識する。
【0123】
「組換え宿主細胞」という用語は本明細書中で使用する場合、細胞へのその導入に先立って単離された目的の核酸配列を含む細胞を意味する。例えば、目的の核酸配列は、発現ベクター中に存在し得るのに対して、細胞は、原核生物又は真核生物であり得る。例示的な真核細胞は、哺乳動物細胞、例えば、COS-1、COS-7、HEK293、BHK21、CHO、BSC-1、HepG2、653、SP2/0、NS0、293、ヒーラ、黒色腫、リンパ腫細胞又はその任意の誘導体である。最も好ましくは、真核細胞は、HEK293、NS0、SP2/0、又はCHO細胞である。大腸菌(E. coli)は、例示的な原核細胞である。本開示による組換え細胞は、トランスフェクション、細胞融合、不死化、又は当該技術分野で周知の他の手順によって生成され得る。細胞へトランスフェクトされた、目的の核酸配列、例えば発現ベクターは、染色体外であり得るか、又は細胞の染色体へ安定に組み込まれ得る。
【0124】
「キメラ抗体」は、アクセプター抗体に由来する軽鎖及び重鎖定常領域と会合している、ドナー抗体に由来する天然に存在する可変領域(軽鎖及び重鎖)を含有する操作された抗体のタイプを指す。
【0125】
「ヒト化抗体」は、非ヒトドナー免疫グロブリンに由来するそのCDRを有し、分子の残りの免疫グロブリン由来の部分が、1つ以上のヒト免疫グロブリン(複数可)に由来する、操作された抗体のタイプを指す。更に、フレームワーク支持残基は、結合親和性を保存するように変更され得る(例えば、Queen et al. Proc. Natl Acad Sci USA, 86:10029-10032 (1989), Hodgson, et al., Bio/Technology, 9:421 (1991)を参照)。適切なヒトアクセプター抗体は、ドナー抗体のヌクレオチド及びアミノ酸配列に対する相同性によって、従来のデータベース、例えばKABAT(商標)データベース、Los Alamosデータベース、及びSwiss Proteinデータベースから選択されるものであり得る。ドナー抗体のフレームワーク領域に対する相同性(アミノ酸基準で)を特徴とするヒト抗体は、ドナーCDRの挿入のための重鎖定常領域及び/又は重鎖可変フレームワーク領域を提供するのに適切であり得る。軽鎖定常領域又は可変フレームワーク領域を供与することが可能な適切なアクセプター抗体は、類似した様式で選択され得る。アクセプター抗体重鎖及び軽鎖は、同じアクセプター抗体が起源である必要はないことに留意すべきである。従来技術は、そのようなヒト化抗体を産生する幾つかの方法について記載している。例えば、欧州特許第A-0239400号及び欧州特許第EP-A-054951号を参照されたい。
【0126】
「完全ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域(存在する場合)を有する抗体を含む。本発明のヒト配列抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでランダム若しくは部位特異的突然変異誘発によって、又はin vivoで体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含み得る。完全ヒト抗体は、究極的にはヒト起源を有するポリヌクレオチドのみによってコードされるアミノ酸配列、又はそのような配列に同一であるアミノ酸配列を含む。本明細書中で意図されるように、トランスジェニックマウスにおいて産生されるマウスゲノムに挿入したヒト免疫グロブリンコードDNAによってコードされる抗体は、それらが、究極的にはヒト起源を有するDNAによってコードされるため、完全ヒト抗体である。この状況において、ヒト免疫グロブリンコードDNAは、マウス内で再編成されて(抗体をコードするように)、体細胞突然変異もまた起きる場合がある。マウスにおいてそのような変化を受けたヒトDNAによって本来コードされる抗体は、本明細書中で意図されるような完全ヒト抗体である。そのようなトランスジェニックマウスの使用により、ヒト抗原に対する完全ヒト抗体を選択することが可能となる。当該技術分野で理解されるように、完全ヒト抗体を、ファージディスプレイ技術を使用して作製することができ、ここで、ヒトDNAライブラリーは、ヒト生殖系列DNA配列を含む抗体の生成のためにファージに挿入される。
【0127】
「ドナー抗体」という用語は、その可変領域、CDR、又はそれらの機能的断片若しくは類似体のアミノ酸配列を、第1の免疫グロブリンパートナーに提供する抗体を指す。したがって、ドナーは、変更された免疫グロブリンコード領域を提供し、且つ結果として発現された、ドナー抗体に特徴的な抗原特異性及び中和活性を有する変更された抗体を提供する。
【0128】
「アクセプター抗体」という用語は、その重鎖及び/又は軽鎖フレームワーク領域及び/又は重鎖及び/又は軽鎖定常領域をコードするアミノ酸配列の全て(又は任意の部分)を、第1の免疫グロブリンパートナーに提供するドナー抗体にとって異種である抗体を指す。ヒト抗体は、アクセプター受容体であり得る。
【0129】
「VH」及び「VL」という用語は、それぞれ抗原結合タンパク質の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を指すのに本明細書中で使用される。
【0130】
「CDR」は、抗原結合タンパク質の相補性決定領域アミノ酸配列として定義される。これらは、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の超可変領域である。免疫グロブリンの可変部分において、3個の重鎖及び3個の軽鎖CDR(又はCDR領域)が存在する。したがって、「CDR」は本明細書中で使用する場合、3個全ての重鎖CDR、3個全ての軽鎖CDR、全ての重鎖CDR及び軽鎖CDR、又は少なくとも2個のCDRを指す。
【0131】
本明細書全体にわたって、可変ドメイン配列及び完全長抗体配列におけるアミノ酸残基を、Kabat付番の慣例に従って付番する。同様に、実施例で使用する「CDR」、「CDRL1」、「CDRL2」、「CDRL3」、「CDRH1」、「CDRH2」、「CDRH3」は、Kabat付番の慣例に従う。更なる情報に関しては、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., U.S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health (1991)を参照されたい。
【0132】
可変ドメイン配列及び完全長抗体配列におけるアミノ酸残基に関する代替的な付番の慣例が存在することは、当業者に明らかである。同様に、CDR配列に関する代替的な付番の慣例、例えば、Chothia et al. (1989) Nature 342: 877-883に記載されるものが存在する。抗体の構造及びタンパク質フォールディングは、他の残基がCDR配列の一部であるとみなされることを意味してもよく、当業者によってそのように理解される。
【0133】
当業者に利用可能なCDR配列に関する他の付番の慣例として、「AbM」(University of Bath)法及び「contact」(University College London)法が挙げられる。Kabat、Chothia、AbM及びcontact法の少なくとも2つを使用した最小重複領域を決定して、「最小結合単位」を提供することができる。最小結合単位は、CDRの一部分であり得る。
【0134】
一態様において、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する際の使用のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片が提供される。
【0135】
別の態様において、それを必要とするヒトにおいて癌を治療するための方法であって、該ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及び該ヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分を投与することを含む方法が提供される。
【0136】
更なる別の態様において、癌を治療するための医薬の製造のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の使用が提供される。
【0137】
別の態様において、癌の治療のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の使用が提供される。
【0138】
一態様において、本発明は、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を含む医薬組成物及び治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を含む第2の医薬組成物を提供する。
【0139】
別の態様において、本発明は、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を含む医薬組成物を提供する。
【0140】
更なる別の態様において、本発明は、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の組合せを提供する。
【0141】
別の態様において、ヒト対象において癌を治療する際の使用のための複合調製物としてのII型PRMT阻害剤及び抗ICOS抗体又はその抗原結合断片を含有する製品が提供される。
【0142】
一実施形態において、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片は、抗ICOS抗体又はその抗原結合断片である。別の実施形態において、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片は、ICOSアゴニストである。一実施形態において、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片は、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、ここで、直接等価体は、上記CDRにおいて2個以下のアミノ酸置換を有する。別の実施形態において、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、ここで、上記ICOS結合タンパク質は、ヒトICOSに特異的に結合する。一実施形態において、ICOS結合タンパク質は、配列番号1、配列番号2、及び配列番号3を含む重鎖可変領域及び配列番号4、配列番号5及び配列番号6を含む軽鎖可変領域を含む。一実施形態において、ICOS結合タンパク質は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。別の実施形態において、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分は、ヒトIgG1アイソタイプ及びヒトIgG4アイソタイプから選択されるスキャフォールドを含む。別の実施形態において、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分は、hIgG4PEスキャフォールドを含む。一実施形態において、ICOS結合タンパク質は、モノクローナル抗体である。別の実施形態において、ICOS結合タンパク質は、ヒト化モノクローナル抗体である。一実施形態において、ICOS結合タンパク質は、完全モノクローナル抗体である。
【0143】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5)阻害剤又はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9)阻害剤である。一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、式III、式IV、式VII、式VIII、式IX、式X、又は式XIの化合物である。別の実施形態において、II型PRMT阻害剤は、化合物Bである。一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、化合物Cである。
【0144】
一態様において、本発明は、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する際の使用のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を提供し、ここで、II型PRMT阻害剤は、化合物C又はその薬学的に許容可能な塩であり、ICOS結合断片又はその抗原結合断片は、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、ここで、直接等価体は、上記CDRにおいて2個以下のアミノ酸置換を有する。
【0145】
別の態様において、本発明は、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する際の使用のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を提供し、ここで、II型PRMT阻害剤は、化合物C又はその薬学的に許容可能な塩であり、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、上記ICOS結合タンパク質は、ヒトICOSに特異的に結合する。
【0146】
一態様において、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、該ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及び該ヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片を投与することを含み、II型PRMT阻害剤が、化合物C又はその薬学的に許容可能な塩であり、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片が、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、直接等価体が、上記CDRにおいて2個以下のアミノ酸置換を有する、方法が提供される。
【0147】
別の態様において、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、該ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及び該ヒトに、治療有効量のICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分を投与することを含み、該II型PRMT阻害剤が、化合物C又はその薬学的に許容可能な塩であり、該ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、前記ICOS結合タンパク質が、ヒトICOSに特異的に結合する、方法が提供される。
【0148】
別の態様において、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、該ヒトに、治療有効量のII型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤を投与すること、及び治療有効量のイブルチニブを該ヒトに投与することを含む方法が提供される。一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、PRMT5阻害剤である。一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、化合物Cである。
【0149】
一実施形態において、癌は、固形腫瘍又は血液癌である。一実施形態において、癌は、黒色腫、乳癌、リンパ腫、又は膀胱癌である。
【0150】
一実施形態において、癌は、頭頸部癌、乳癌、肺癌、結腸癌、卵巣癌、前立腺癌、神経膠腫、神経膠芽腫、星状細胞腫、多形性神経膠芽腫、バナヤン・ゾナナ症候群、カウデン病、レルミット・デュクロ病、炎症性乳癌、ウィルムス腫瘍、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、上衣腫、髄芽腫、腎臓癌、肝臓癌、黒色腫、膵癌、肉腫、骨肉腫、骨巨細胞腫、甲状腺癌、リンパ芽球性T細胞白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、有毛細胞白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、AML、慢性好中球性白血病、急性リンパ芽球性T細胞白血病、形質細胞腫、免疫芽球性大細胞型白血病、マントル細胞白血病、多発性骨髄腫巨核芽球性白血病、多発性骨髄腫、急性巨核芽球性白血病、前骨髄球性白血病、赤白血病、悪性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、リンパ球芽性T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、神経芽細胞腫、膀胱癌、尿路上皮癌、外陰癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎癌、中皮腫、食道癌、唾液腺癌、肝細胞癌、胃癌、上咽頭癌、口腔癌、口内癌、GIST(消化管間質性腫瘍)、及び精巣癌から選択される。
【0151】
一態様において、本発明の方法は、少なくとも1つの腫瘍剤を上記ヒトに投与することを更に含む。
【0152】
一実施形態において、ヒトは、固形腫瘍を有する。一態様において、腫瘍は、頭頸部癌、胃癌、黒色腫、腎細胞癌(RCC)、食道癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、卵巣癌及び膵癌から選択される。別の態様において、ヒトは、液体腫瘍、例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、多発性骨髄腫、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)、濾胞性リンパ腫、急性骨髄性白血病及び慢性骨髄性白血病を有する。
【0153】
本開示はまた、脳(神経膠腫)、神経膠芽腫、バナヤン・ゾナナ症候群、カウデン病、レルミット・デュクロ病、乳癌、炎症性乳癌、ウィルムス腫瘍、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、上衣腫、髄芽腫、結腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、肝臓癌、黒色腫、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、肉腫、骨肉腫、骨巨細胞腫、甲状腺癌、リンパ芽球性T細胞白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、有毛細胞白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性好中球性白血病、急性リンパ芽球性T細胞白血病、形質細胞腫、免疫芽球性大細胞型白血病、マントル細胞白血病、多発性骨髄腫巨核芽球性白血病、多発性骨髄腫、急性巨核芽球性白血病、前骨髄球性白血病、赤白血病、悪性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、リンパ球芽性T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、神経芽細胞腫、膀胱癌、尿路上皮癌、肺癌、外陰癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎癌、中皮腫、食道癌、唾液腺癌、肝細胞癌、胃癌、上咽頭癌、口腔癌、口内癌、GIST(消化管間質性腫瘍)及び精巣癌から選択される癌の重篤性を治療又は減少する方法に関する。
【0154】
「治療すること」という用語及びその文法的な変化形は、本明細書中で使用する場合、治療学的療法を意味する。特定の状態に関連して、治療することは、(1)状態の生物学的徴候の1つ以上の状態を回復させること、(2)(a)状態を引き起こすか、若しくは状態に関与する生物学的カスケードにおける1つ以上の点又は(b)状態の生物学的徴候の1つ以上を妨害すること、(3)状態と関連付けられる症状、作用若しくは副作用の1つ以上を軽減すること或いはそれらの治療、又は(4)状態の進行若しくは状態の生物学的徴候の1つ以上を遅らせることを意味する。予防学的療法もまた、それに意図される。「防止」は、絶対的な用語ではないことは、当業者に理解されよう。医学において、「防止」は、状態又はその生物学的徴候の見込み又は重篤性を実質的に減少させるための、或いはそのような状態又はその生物学的徴候の発症を遅延させるための薬物の予防学的投与を指すと理解される。予防学的療法は、例えば、対象が、癌を発症する危険性が高いとみなされる場合に、例えば対象が、癌の強力な家族歴を有する場合、又は対象が、発癌性物質に曝露された場合に適切である。
【0155】
本明細書中で使用する場合、「癌」、「新生物」、及び「腫瘍」という用語は、交換可能に使用され、単数形又は複数形のいずれかで、細胞を、宿主生物に対して病的なものにさせる悪性形質転換を受けた細胞を指す。原発癌細胞は、十分に確立された技法、特に組織学的検査によって、非癌性細胞と容易に区別することができる。癌細胞の定義は、本明細書中で使用する場合、原発癌細胞だけでなく、癌細胞原型(ancestor)に由来する任意の細胞も包含する。これは、転移した癌細胞、並びに癌細胞に由来するin vitro培養物及び細胞株を包含する。一般的に固形腫瘍として現れる癌のタイプについて言及する場合、「臨床的に検出可能な」腫瘍は、例えば、コンピュータ断層撮影法(CT)スキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、X線、身体診察に関する超音波若しくは触診などの手順によって、腫瘍塊に基づいて検出可能であるもの、及び/又は患者から得られる試料における1個以上の癌特異的な抗原の発現により検出可能であるものである。腫瘍は、造血(又は血液又は血液性又は血液関連)癌、例えば、血液細胞又は免疫細胞に由来する癌であってもよく、それらは、「液体腫瘍」と称され得る。血液腫瘍に基づく臨床状態の具体例として、白血病、例えば慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病及び急性リンパ球性白血病;形質細胞悪性腫瘍、例えば多発性骨髄腫、MGUS及びワンデルストレームマクログロブリン血症;リンパ腫、例えば非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫が挙げられる。
【0156】
癌は、異常数の芽細胞又は望ましくない細胞増殖が存在するか、又はリンパ系悪性腫瘍若しくは骨髄系悪性腫瘍の両方を含む血液性癌として診断される任意の癌であり得る。骨髄系悪性腫瘍として、急性骨髄系(又は骨髄球性又は骨髄性又は骨髄芽球性)白血病(未分化又は分化)、急性前骨髄系(又は前骨髄急性又は前骨髄性又は前骨髄芽球性)白血病、急性骨髄単球性(又は骨髄単芽球性)白血病、急性単球性(又は単芽球性)白血病、赤白血病及び巨核球性(巨核芽球性)白血病が挙げられるが、これらに限定されない。これらの白血病は、まとめて急性骨髄系(又は骨髄球性又は骨髄性)白血病(AML)と称され得る。骨髄系悪性疾患はまた、骨髄増殖性障害(MPD)を包含し、骨髄増殖性障害(MPD)として、慢性骨髄性(又は骨髄系)白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、本態性血小板血症(又は血小板増加症)、及び真性多血症(PCV)が挙げられるが、これらに限定されない。骨髄系悪性腫瘍としては、不応性貧血(RA)とも称する骨髄異形成症(又は骨髄異形成症候群又はMDS)、芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB)及び移行期の芽球増加を伴う不応性貧血(RAEBT)、並びに原発性骨髄化生を伴うか、又は伴わない骨髄線維症(MFS)も挙げられる。
【0157】
造血癌はまた、リンパ系悪性腫瘍を含み、これらは、リンパ節、脾臓、骨髄、末梢血、及び/又は節外性部位に影響を及ぼし得る。リンパ系の癌には、B細胞悪性腫瘍が包含され、B細胞悪性腫瘍として、B細胞非ホジキンリンパ腫(B-NHL)が挙げられるが、これに限定されない。B-NHLは、低悪性度(又は低度)、中悪性度(又は侵襲性)又は高悪性度(又は超侵襲性)であり得る。低悪性度B細胞リンパ腫として、濾胞性リンパ腫(FL);小リンパ球性リンパ腫(SLL);結節性MZL、節外性MZL、脾性MZL及び絨毛リンパ球を伴う脾性MZLを含む辺縁帯リンパ腫(MZL);リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL);及び粘膜関連リンパ組織(MALT又は節外性辺縁帯)リンパ腫が挙げられる。中悪性度B-NHLとして、白血病性併発を伴うマントル細胞リンパ腫(MCL)、びまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)、濾胞性第細胞型(又はグレード3又はグレード3B)リンパ腫、及び縦隔原発リンパ腫(PML)が挙げられる。高悪性度B-NHLとして、バーキットリンパ腫(BL)、バーキット様リンパ腫、小型非切れ込み核細胞性リンパ腫(SNCCL)及びリンパ芽性リンパ腫が挙げられる。他のB-NHLとして、免疫芽球性リンパ腫(又は免疫細胞腫)、原発性滲出性リンパ腫、HIV関連(又はAIDS関連)リンパ腫、及び移植後リンパ増殖性障害(PTLD)又はリンパ腫が挙げられる。また、B細胞悪性腫瘍として、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、ワンデルストレームマクログロブリン血症(WM)、有毛細胞白血病(HCL)、大型顆粒リンパ球(LGL)白血病、急性リンパ系(又はリンパ髄球性又はリンパ芽球性)白血病、及びキャッスルマン病が挙げられるが、これらに限定されない。NHLはまた、T細胞非ホジキンリンパ腫(T-NHL)を含んでもよく、T細胞非ホジキンリンパ腫(T-NHL)として、非特定型(NOS)T細胞非ホジキンリンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)、未分化大細胞リンパ腫(ALCL)、血管免疫芽球性リンパ系障害(AILD)、鼻型ナチュラルキラー(NK)細胞/T細胞リンパ腫、ガンマ/デルタリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、菌状息肉腫、及びセザリー症候群が挙げられるが、これらに限定されない。
【0158】
血液癌はまた、古典的ホジキンリンパ腫、結節硬化型ホジキンリンパ腫、混合細胞型ホジキンリンパ腫、リンパ球優位型(LP)ホジキンリンパ腫、結節型LPホジキンリンパ腫、及びリンパ球減少型ホジキンリンパ腫を含むホジキンリンパ腫(又は疾患)を含む。造血癌はまた、形質細胞疾患又は癌、例えばくすぶり型MMを含む多発性骨髄腫(MM)、意識不明の(又は未知又は不明確)の単クローン性グロブリン血症(MGUS)、形質細胞腫(骨、髄外性)、リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)、ワンデルストレームマクログロブリン血症、形質細胞性白血病、及び原発アミロイドーシス(AL)を含む。造血癌はまた、多形核白血球(又は好中球)、好塩基球、好酸球、樹状細胞、血小板、赤血球及びナチュラルキラー細胞を含む更なる造血細胞の他の癌を包含し得る。本明細書中で「造血細胞組織」と称される造血細胞を含む組織として、骨髄、末梢血、胸腺、及び末梢リンパ系組織、例えば、脾臓、リンパ節、粘膜と関連付けられるリンパ系組織(例えば、腸関連リンパ系組織等)、扁桃腺、パイエル板及び虫垂、並びに他の粘膜と関連付けられるリンパ系組織、例えば気管支裏層(bronchial linings)が挙げられる。
【0159】
一実施形態において、本発明の組合せの1つ以上の構成成分は、静脈内投与される。一実施形態において、本発明の組合せの1つ以上の構成成分は、経口投与される。別の実施形態において、本発明の組合せの1つ以上の構成成分は、筋内投与される。別の実施形態において、本発明の組合せの1つ以上の構成成分は、全身、例えば静脈内投与され、本発明の組合せの1つ以上の他の構成成分は、筋内投与される。例えば、このパラグラフにおける実施形態のいずれかにおいて、本発明の構成成分は、1つ以上の医薬組成物として投与される。
【0160】
一実施形態において、II型PRMT阻害剤又はICOS結合タンパク質若しくはその抗原結合断片は、同時に、順次、任意の順序で、全身、経口、静脈内、及び腫瘍内から選択される経路で、患者に投与される。一実施形態において、II型PRMT阻害剤は、経口投与される。別の実施形態において、ICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片は、静脈内投与される。
【0161】
一実施形態において、本発明の方法は更に、少なくとも1つの腫瘍剤を上記ヒトに投与することを更に含む。本発明の方法はまた、癌治療の他の治療的方法とともに用いてもよい。
【0162】
通常、治療される感受性腫瘍に対して活性を有する任意の抗腫瘍剤は、本発明における癌の治療において同時投与され得る。そのような腫瘍剤の例は、Cancer Principles and Practice of Oncology by V.T. Devita, T.S. Lawrence, and S.A. Rosenberg (editors), 10th edition (December 5, 2014), Lippincott Williams & Wilkins Publishersに見い出すことができる。当業者は、作用物質のどの組合せが、関与する薬物及び癌の特性に基づいて有用であるかを識別することが可能である。本発明において有用な典型的な抗腫瘍剤として、微小管阻害剤又は有糸分裂阻害剤、例えばジテルペノイド又はビンカアルカロイド;白金配位錯体;アルキル化剤、例えばナイトロジェンマスタード、オキサザホスホリン、アルキルホスホネート、ニトロソウレア、及びトリアゼン;抗生剤、例えばアクチノマイシン、アントラサイクリン、及びブレオマイシン;トポイソメラーゼI阻害剤、例えばカンプトテシン;トポイソメラーゼII阻害剤、例えばエピポドフィロトキシン;代謝拮抗薬、例えばプリン及びピリミジン類似体並びに葉酸代謝拮抗薬化合物;ホルモン及びホルモン類似体;シグナル伝達経路阻害剤;非受容体チロシンキナーゼ血管新生阻害剤;免疫療法剤;アポトーシス促進剤;細胞周期シグナル伝達阻害剤;プロテアソーム阻害剤;熱ショックタンパク質阻害剤;癌代謝の阻害剤;及び癌遺伝子療法剤、例えば遺伝子組換えT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0163】
本方法又は組合せと組み合わせた使用のための、又は同時投与される更なる有効成分(単数又は複数)の例は、抗腫瘍剤である。抗腫瘍剤の例として、化学療法剤;免疫調節剤;免疫調節物質;及び免疫刺激アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例0164】
下記の実施例は、本発明の様々な非限定的な態様を示す。
【0165】
[実施例1]
背景
PRMT5は、対称性タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼである
タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)は、グリシン残基及びアルギニン残基に富んだ領域(GARモチーフ)を含有するタンパク質中のアルギニンをメチル化する酵素のサブセットである。PRMTは、酵素反応の生成物に基づいて、4つのサブタイプ(I型~IV型)に分類される(
図1、Fisk JC, et al. A type III protein arginine methyltransferase from the protozoan parasite Trypanosoma brucei. J Biol Chem. 2009 Apr 24;284(17):11590-600)。I型~III型酵素は、ω-N-モノメチル-アルギニン(MMA)を生成する。最大のサブタイプであるI型(PRMT1、PRMT3、PRMT4、PRMT6及びPRMT8)は、MMAを、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)へと進行させるのに対して、II型は、対称性ジメチルアルギン(SDMA)を生成する。PRMT9/FBXO11もまた、SDMAを生成するのに対して、PRMT5は、対称性ジメチル化に関与する主要な酵素である。PRMT5は、細胞質及び核において、幾つかのタイプの複合体で機能し、PRMT5の結合パートナーは、基質認識及び選択性に必要とされる。メチロソームタンパク質50(MEP50)は、PRMT5結合並びにヒストン及び他の基質に対する活性に必要とされるPRMT5の既知の補因子である(Ho MC, et al. Structure of the arginine methyltransferase PRMT5-MEP50 reveals a mechanism for substrate specificity. PLoS One. 2013;8(2))。
【0166】
PRMT5基質
PRMT5は、スプライシング因子、ヒストン、転写因子、キナーゼ及びその他を含む各種細胞タンパク質におけるアルギニンをメチル化する(
図2)(Karkhanis V, et al. Trends Biochem Sci. 2011 Dec;36(12):633-41)。スプライセオソームの多重構成成分のメチル化は、スプライセオソーム構築において重要な事象であり、ノックダウン又は遺伝子ノックアウトによるPRMT5活性の減衰は、細胞スプライシングの破綻を招く(Bezzi M, et al. Regulation of constitutive and alternative splicing by PRMT5 reveals a role for Mdm4 pre-mRNA in sensing defects in the spliceosomal machinery. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16)。PRMT5はまた、ヒストンアルギニン残基(H3R8、H2AR3及びH4R3)もメチル化し、これらのヒストンの特徴は、腫瘍抑制遺伝子、例えば、RB及びST7の転写サイレンシングと関連付けられる(Wang L, et,al. Protein arginine methyltransferase 5 suppresses the transcription of the RB family of tumor suppressors in leukemia and lymphoma cells. Mol Cell Biol. 2008 Oct;28(20):6262-77、Pal S, et al. Low levels of miR-92b/96 induce PRMT5 translation and H3R8/H4R3 methylation in mantle cell lymphoma. EMBO J. 2007 Aug 8;26(15):3558-69)。更に、H2AR3の対称的なジメチル化は、胚幹細胞における分化遺伝子のサイレンシングと関係している(Tee WW et.al, Prmt5 is essential for early mouse development and acts in the cytoplasm to maintain ES cell pluripotency. Genes Dev. 2010 Dec 15;24(24):2772-7)。PRMT5はまた、EGFR及びPI3Kのメチル化により細胞シグナル伝達において役割を果たす(Hsu JM, et.al. Crosstalk between Arg 1175 methylation and Tyr 1173 phosphorylation negatively modulates EGFR-mediated ERK activation. Nat Cell Biol. 2011 Feb;13(2):174-81、Wei TY, Juan CC, Hisa JY, Su LJ, Lee YC, Chou HY, Chen JM, Wu YC, Chiu SC, Hsu CP, Liu KL, Yu CT. Protein arginine methyltransferase 5 is a potential oncoprotein that upregulates G1 cyclins/cyclin-dependent kinases and the phosphoinositide 3-kinase/AKT signaling cascade. Cancer Sci. 2012 Sep;103(9):1640-50)。癌関連経路に関与するタンパク質のメチル化におけるPRMT5の役割を以下に記載する。
【0167】
PRMT5ノックアウトモデル
PRMT5の完全損失は、胚性致死である。PRMT5は、胚発生において重要な役割を果たし、このことは、PRMT5ヌルマウスが、胎生期3.5日~6.5日で死亡するという事実によって実証される(Tee WW, et al. Prmt5 is essential for early mouse development and acts in the cytoplasm to maintain ES cell pluripotency. Genes Dev. 2010 Dec 15;24(24):2772-7)。初期の研究により、PRMT5は、HSC(造血幹細胞)及びNPC(神経前駆細胞)発達において重要な役割を果たすことが示唆されている。ヒト臍帯血CD34+細胞におけるPRMT5のノックダウンは、赤血球分化の増加を引き起こす(Liu F, et al. JAK2V617F-mediatedphosphorylation of PRMT5 downregulates its methyltransferase activity and promotes myeloproliferation. Cancer Cell. 2011 Feb 15;19(2):283-94)。NPCでは、PRMT5は、神経分化、細胞成長及び生存期間を調節する(Bezzi M, et al. Regulation of constitutive and alternative splicing by PRMT5 reveals a role for Mdm4 pre-mRNA in sensing defects in the spliceosomal machinery. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16)。
【0168】
癌におけるPRMT5
PRMT5が、腫瘍形成に関与することを示唆する証拠が増えている。PRMT5タンパク質は、リンパ腫、神経膠腫、乳癌及び肺癌を含む幾つかの癌タイプにおいて過剰発現され、PRMT5過剰発現は単独で、正常な線維芽細胞を形質転換するのに十分である(Pal S, et al. Low levels of miR-92b/96 induce PRMT5 translation and H3R8/H4R3 methylation in mantle cell lymphoma. EMBO J. 2007 Aug 8;26(15):3558-69、Ibrahim R, et al. Expression of PRMT5 in lung adenocarcinoma and its significance in epithelial-mesenchymal transition. Hum Pathol. 2014 Jul;45(7):1397-405、Powers MA, et al. Protein arginine methyltransferase 5 accelerates tumor growth by arginine methylation of the tumor suppressor programmed cell death 4. Cancer Res. 2011 Aug 15;71(16):5579-87、Yan F, et al. Genetic validation of the protein arginine methyltransferase PRMT5 as a candidate therapeutic target in glioblastoma. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65)。PRMT5のノックダウンは、癌細胞株における細胞成長及び生存期間の減少を引き起こす場合が多い。乳癌では、高いPRMT5発現は、高いPDCD4(プログラム細胞死4)レベルとともに、乏しい生存期間を予測する(Powers MA, et al. Protein arginine methyltransferase 5 accelerates tumor growth by arginine methylation of the tumor suppressor programmed cell death 4. Cancer Res. 2011 Aug 15;71(16):5579-87)。PRMT5は、PDCD4をメチル化して、腫瘍関連機能を変更させる。乳癌の同所性モデルにおけるPRMT5及びPDCD4の同時発現は、腫瘍成長を促進する。神経膠腫におけるPRMT5の高い発現は、高い腫瘍悪性度及び乏しい全生存期間と関連付けられ、PRMT5ノックダウンは、同所性神経膠芽腫モデルにおいて生存利益を提供する(Yan F, et al. Genetic validation of the protein arginine methyltransferase PRMT5 as a candidate therapeutic target in glioblastoma. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65)。PRMT5発現及び活性の増加は、神経膠腫細胞株において幾つかの腫瘍抑制遺伝子のサイレンシングに寄与する。
【0169】
PRMT5と癌との間の現在記載されている最も強い機構的な関連が、マントル細胞リンパ腫(MCL)に見られる。PRMT5は、MCLで頻繁に過剰発現され、核区画で高度に発現され、核区画で、PRMT5は、ヒストンメチル化のレベルを増加させて、腫瘍抑制遺伝子のサブセットを発現停止させる。最近の研究により、MCLにおけるPRMT5発現のアップレギュレーションにおけるmiRNAの役割が明らかとなった。50個超のmiRNAが、PRMT5 mRNAの3'非翻訳領域にアニーリングすると予測される。miR-92b及びmiR-96レベルが、MCLにおいてPRMT5レベルと逆相関すること、またMCL細胞におけるこれらのmiRNAのダウンレギュレーションが、PRMT5タンパク質レベルのアップレギュレーションをもたらすことが報告された。MCL患者の大部分において転座される発癌遺伝子であるサイクリンD1は、PRMT5と会合し、cdk4依存的メカニズムにより、PRMT5活性を増加させる(
図3、Aggarwal P, et al. Cancer Cell. 2010 Oct 19;18(4):329-40)。PRMT5は、DNA複製を負に調節する重要な遺伝子の抑制を媒介して、サイクリンD1依存的新生物成長を可能にする。PRMT5ノックダウンは、サイクリンD1依存的細胞形質転換を阻害して、腫瘍細胞の死を引き起こす。これらのデータは、MCLにおけるPRMT5の重要な役割を強調しており、PRMT5阻害を、MCLにおける治療上の戦略として使用することができることを示唆している。
【0170】
他の腫瘍タイプにおいて、PRMT5は、分化、細胞死、細胞周期進行、細胞成長及び増殖において役割を果たすと想定されている。PRMT5を腫瘍発生に関連付ける主なメカニズムが未知であるのに対して、PRMT5が、遺伝子発現(ヒストンメチル化、転写因子結合、又はプロモーター結合)の調節、スプライシングの変更、及びシグナル伝達に寄与することを示唆するデータが出現している。転写因子E2F1のPRMT5メチル化は、細胞成長を抑制して、アポトーシスを促進する、その能力を減少させる(Zheng S, et al. Arginine methylation-dependent reader-writer interplay governs growth control by E2F-1. Mol Cell. 2013 Oct 10;52(1):37-51)。PRMT5はまた、DNA損傷に応答してp53をメチル化し(Jansson M, et al. Arginine methylation regulates the p53 response. Nat Cell Biol. 2008 Dec;10(12):1431-9)、p53の、細胞周期停止を誘導する能力を低減させると同時に、p53依存的アポトーシスを増加させる。これらのデータは、PRMT5阻害がp53依存的アポトーシスの誘導により、細胞をDNA損傷剤に対して感受性にし得ることを示唆している。
【0171】
PRMT5は、p53を直接的にメチル化することに加えて、スプライシング関連のメカニズムによりp53経路をアップレギュレートする。マウス神経前駆細胞におけるPRMT5ノックアウトは、MDM4遺伝子のアイソフォームスイッチングを含む細胞スプライシングの変更をもたらす(Bezzi M, et al. Regulation of constitutive and alternative splicing by PRMT5 reveals a role for Mdm4 pre-mRNA in sensing defects in the spliceosomal machinery. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16)。Bezziらは、PRMT5ノックアウト細胞が、長いMDM4アイソフォーム(機能的なp53ユビキチンリガーゼを生じる)の発現を減少させ、MDM4の短いアイソフォーム(不活性リガーゼを生じる)の発現を増加させることを発見した。MDM4スプライシングにおけるこれらの変化が、MDM4の不活性化をもたらし、p53タンパク質の安定性、続いて、p53経路の活性化及び細胞死を増加させる。MDM4選択的スプライシングはまた、PRMT5ノックダウン癌細胞株においても観察された。これらのデータより、PRMT5阻害は、p53経路の多重ノードを活性化することができることが示唆される。
【0172】
癌細胞成長及び生存の調節に加えて、PRMT5はまた、上皮間葉移行(EMT)に関係している。PRMT5は、転写因子SNAILに結合し、E-カドヘリン発現の重要なコリプレッサーとして機能を果たし、PRMT5のノックダウンは、E-カドヘリンレベルのアップレギュレーションをもたらす(Hou Z, et al. The LIM protein AJUBA recruits protein arginine methyltransferase 5 to mediate SNAIL-dependent transcriptional repression. Mol Cell Biol. 2008 May;28(10):3198-207)。
【0173】
これらのデータは、多重癌関連経路の重要な調節因子としてPRMT5の役割を強調し、PRMT5阻害剤が、ヘム及び固形癌において広い活性を有し得ることを示唆する。MCL、並びに乳癌及び脳癌における治療上の戦略としてのPRMT5阻害剤に関する強力な理論的根拠が存在する。これらのデータはまた、下記のための適切な細胞の文脈におけるPRMT5阻害剤の使用に関するメカニズム的理論的根拠も強調する:
・MCLにおいてサイクリンD1依存的機能を阻害するため、
・p53経路活性を活性化及び調整するため、
・E2F1依存的細胞成長及びアポトーシス機能を調整するため、
・E-カドヘリン発現を抑圧するため。
【0174】
化合物Cは、良好な全物理特性及び経口バイオアベイラビリティを有するPRMT5/MEP50複合体の中間分子量(MW=452.55)の強力で選択的でペプチド競合的で可逆的な阻害剤である。化合物Cは、in vitro及びin vivoの両方のモデルにおいて最終的に強力な抗癌活性を引き起こす幾つかの癌関連経路に影響を与え、MCL、乳癌及び脳癌の治療にとって新規の治療上のメカニズムを提供する。
【0175】
生化学
化合物Cを、幾つかのin vitroの生化学アッセイにおいてプロファイリングして、PRMT5の阻害の効力、可逆性、選択性、及びメカニズムを特性決定した。
【0176】
SAMから、ヒストンペプチドライブラリースクリーンから同定されるヒストンH4由来のペプチドへの
3H転移を測定する放射性活性アッセイを使用して、化合物Cの阻害効力を評価した。長期反応時間である120分を使用して、効力における任意の時間依存的な増加を捉えた。化合物Cは、IC
50 8.7±5nM(n=3)を有するPRMT5/MEP50の強力な阻害剤であることがわかった。この効力は、アッセイの強固な結合(tight binding)限界に匹敵し(2nM)、したがって、分子の真の効力に対する上限を表す(
図4)。阻害効力は、幾つかの生物学研究においてツール化合物として使用された化合物F、化合物B及び化合物Eを含む化合物Cの緊密な類似体(分子の左側に重要な差)に類似した。
【0177】
化合物Cの、ヒストンH4以外の細胞基質のPRMT5依存的メチル化を阻害する能力を評価するために、SmD3、Lsm4、hnRNPH1及びFUBP1を含むPRMT5基質のパネルを、評価用に構築した(スプライシング及び転写サイレンシングに関与するこれらの基質の大部分が、生物学のセクションにおいて以下で記載する細胞Methylscan(商標)研究により発見された)。化合物Cは、これらの基質全てのPRMT5/MEP50を触媒とするメチル化を有効に阻害したが、極めて低い見かけのKmが、効力の正確な決定を妨げた。
【0178】
安全性研究の解釈を可能にするために、化合物Cの効力をまた、ヒトPRMT5アッセイと類似した条件下で、PRMT5/MEP50複合体のラット及びイヌのオルソログに対して評価した。化合物Cの効力は、全ての種に対して<3倍で変化した(表2)。
【0179】
【0180】
阻害のメカニズム及び阻害剤結合様式を決定するために、化合物Cを、PRMT5/MEP50複合体及び天然産物であるSAM類似体のシネファンギンとともに共結晶化させた(解像度2.8Å)(
図5)。阻害剤は、基質ペプチドによって一般的に占有されるクレフトにおいて、SAMポケットを占有するシネファンギンに近接して結合する。テトラヒドロイソキノリンのアリール環は、シネファンギンのアミノ基とのπ-アリールスタッキング相互作用を作り出すようである。化合物Cの水酸基と、Leu437骨格と、Glu244との間に水素結合が形成される。水素結合相互作用はまた、ピリミジン環のアミドと、Phe580の骨格NH基との間でも形成される。末端ピぺリジンアセトアミドは、明白な重大な接触を伴わずに溶媒露出表面に存在する。概して、構造は、SAMと不競合的であり、基質と競合的である阻害メカニズムを支持する。
【0181】
化合物Cが、PRMT5/MEP50の可逆的な阻害剤であるかどうかを決定するために、また阻害メカニズムを更に探究するために、親和性選択質量分析(ASMS)を使用して、化合物Cの、各種PRMT5/MEP50複合体への結合を測定した。SAM、シネファンギン又はSAHとのPRMT5/MEP50を含有する二成分複合体において、PRMT5/MEP50:H4ペプチド:SAH又はシネファンギンのデッドエンド三成分複合体に対して、正の結合が検出され得る。ASMSは、不可逆的に結合した化合物Cを検出することができないため、これらの結果は、可逆的な結合メカニズムと一致する。10倍過剰のH4ペプチドとの競合時に、化合物Cの結合は、PRMT5/MEP50:H4ペプチド:シネファンギン複合体内で低減した。化合物Cの結合は、PRMT5/MEP50:H4ペプチド複合体を用いて、又はPRMT5/MEP50単独を用いて検出されず、SAM結合ポケットが、化合物C結合に占有される必要があることを示唆した。これらの結果は、SAMと不競合的であり、H4ペプチドと競合的である阻害メカニズムと最良にフィットする。
【0182】
I型及びII型PRMT並びにリジンメチルトランスフェラーゼ(KMT)を含む酵素のパネルにおいて、化合物Cの選択性を評価した。他のII型PRMTであり、THWループを欠如する唯一のPRMTであるPRMT9/FBXO11は、機能的な酵素アッセイの欠如に起因して含めなかった。化合物Cは、40μM超のIC
50値を有するメチルトランスフェラーゼ選択性パネル上の19個の酵素のいずれも阻害せず、PRMT5/MEP50に対して4000倍超の選択性をもたらした(
図6)。他のメチルトランスフェラーゼにわたるPRMT5/MEP50に対する選択性もまた、この文書の生化学のセクションで使用されるPRMT5ツール化合物(化合物B、化合物F及び化合物E)に関して観察された。
【0183】
まとめると、化合物Cは、IC50 8.7±5nMを有する、PRMT5/MEP50複合体の強力で選択的で可逆的な阻害剤である。化合物Cと複合体を形成したPRMT5/MEP50の結晶構造及びASMS結合データは、SAM不競合的なタンパク質基質競合的なメカニズムと一致する。
【0184】
生物学
概要
PRMT5は、幾つかのヒト癌において過剰発現され、多重の癌関連経路に関係している。MCL、並びに乳癌及び脳癌における治療上の戦略としてのPRMT5阻害剤の使用に関する強力な理論的根拠が存在する。PRMT5阻害剤抗増殖活性の範囲を理解するために、2D及び3D成長アッセイを使用して、様々なin vitro及びin vivo腫瘍モデルにおいて、化合物Cをプロファイリングした。
【0185】
PRMT5阻害によって影響される遺伝子及び経路のアイデンティティは、適応症の優先付け、予測バイオマーカーの発見及び合理的な組合せの研究の設計に必要とされるPRMT5阻害剤のメカニズムの理解に重要である。幾つかのin vitroでのメカニズム的研究を実施して、PRMT5阻害に対する応答の生物学を評価した。幾つかのPRMT5基質のアルギニンメチル化レベルを評価して、細胞及び異種移植片腫瘍におけるPRMT5に対する化合物C活性をモニタリングした。幾つかの細胞株のRNAシーケンシングを実施して、遺伝子発現、スプライシング、並びにPRMT5活性によって調節される他の分子メカニズム及び経路に対する化合物Cの効果を評価した。p53経路活性を、PRMT5阻害剤で処理した細胞株においてモニタリングした。
【0186】
最終的に、化合物C活性を、MCL及び乳癌の幾つかの異種移植片モデルにおいて検査して、前臨床癌モデルにおけるPRMT5阻害の有効性を評価して、応答の分子メカニズム及び潜在的なバイオマーカーを評価した。
【0187】
細胞株感受性
各種腫瘍タイプにおいてPRMT5阻害の抗増殖活性を評価するために、癌細株及び患者由来の腫瘍モデルの広範のパネルを使用して、化合物Cを、2D及び3D in vitroアッセイでプロファイリングした。まず、2D 6日成長/死亡アッセイで、癌細胞株のパネルにおいて、化合物Cを評価した(
図7)。細胞株は、PRMT5活性が重要な経路及び/又は細胞成長及び生存期間を調節すると報告されている腫瘍タイプを表すように選択された(例えば、リンパ腫及びMCL、神経膠腫、乳癌及び肺癌株)。概して、検査した細胞株の大部分が、1μM未満のgIC
50値を示したのに対して、最も感受性の高いリンパ腫株(マントル細胞リンパ腫及びびまん性大細胞B細胞リンパ腫細胞株)は、1桁のnM範囲でgIC
50値を有した。
【0188】
化合物Cは、6日成長/死亡アッセイにおいて100nMを上回る濃度で、びまん性大細胞B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、神経膠芽腫、乳癌及び膀胱癌細胞株のサブセットにおいて細胞障害性応答を誘導した(
図8、負のY
min-T0値)。概して、MCL及びDLBLC株は、最も強い細胞傷害性応答を示した。乳癌株の大部分が、低いY
min-T0値を有し、PRMT5阻害が、乳癌モデルでは完全な成長阻害をもたらすことを示唆したのに対して、細胞株の残りは、部分的な細胞分裂阻害的(cytostatic)応答を示した(正のY
min-T0値)。
【0189】
PRMT5阻害の抗増殖活性を、PRMT5ツール分子を用いて実施した大型癌細胞株スクリーン(240個の細胞株、10日2D成長アッセイ)で更に検査した(
図9、
図4における化合物C及び化合物Bの生化学活性/細胞活性の比較)。概して、細胞株の大部分が、1μM未満のgIC
50値を示した。100nM未満のメジアンgIC
50を有する腫瘍タイプは、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキンリンパ腫(HL)、多発性骨髄腫(MM)、乳癌、神経膠腫、腎臓癌、黒色腫、及び卵巣癌であった。これらのデータは、PRMT5阻害剤が、様々なヘム及び固形腫瘍タイプに対して広範囲の抗増殖活性を示すことを示唆している。
【0190】
類似した広範囲の抗成長効果が、軟質寒天3Dコロニー形成アッセイで、患者由来の腫瘍モデル及び細胞株(n=73)のパネルにおいて、PRMT5ツール化合物を用いた場合に観察された(
図10)。1μM未満の相対成長IC
50値は、非小細胞肺癌(NSCLC)、乳癌、黒色腫、結腸癌及び神経膠腫を含むモデルの37%で観察された。最も低いメジアンIC
50値を有する腫瘍タイプは、大細胞肺癌、乳癌、腎臓癌及び神経膠腫であった。
【0191】
概して、これらのデータは、PRMT5阻害剤が、様々な固形癌モデル及び血液性癌モデルにおいて強力な抗増殖活性を有することを実証している。上記研究で観察される活性に基づく更なる検討、文献仮説及び臨床開発の可能性に関して、下記の適応症を選択した:
・MCL及びDLBCL(PRMT5阻害に対する強力な抗増殖性応答及び細胞傷害性応答)
・乳癌(細胞株における低いgIC50値及び完全な成長阻害並びに患者由来のモデルのパネルにおけるコロニー形成アッセイでの低いIC50値)
・神経膠芽腫(コロニー形成アッセイでの低いIC50値)。
【0192】
リンパ腫生物学
上述するように、化合物Cは、マントル細胞及びびまん性大細胞B細胞リンパ腫細胞株のサブセットにおいて強力な細胞障害性応答を誘導した(
図7~
図8)。PRMT5は、MCLにおいて過剰発現される場合が多く、MCL経路(例えば、サイクリンD1及びp53)において重要な役割を果たすため、化合物Cの活性及びメカニズムを、幾つかの細胞メカニズム的研究で評価した。化合物Cの有効性を、マントル細胞リンパ腫の2個の異種移植片モデルで評価した。
【0193】
細胞メカニズム的データ(リンパ腫)
SDMA阻害
PRMT5は、細胞対称性アルギニンジメチル化の大部分に関与している。PRMT5阻害を抗癌表現型に結び付ける生物学的メカニズムをより良好に理解するために、アルギニン残基で対称的にジメチル化される細胞タンパク質のサブセットを認識する基質を、SDMA抗体を使用して同定した。SDMA抗体によって検出されるタンパク質のアイデンティティは、SDMA抗体を用いた免疫沈降及び質量分析(Methylscan(商標))によってZ138細胞溶解産物(対照及びPRMT5阻害剤処理細胞由来)において決定された。SDMA含有タンパク質の中でも、大部分が、細胞スプライシング及びRNAプロセシング(SmB、Lsm4、hnRNPH1及びその他)、転写(FUBP1)及び翻訳に関与する因子であり、細胞RNAホメオスタシスの重要な調節因子としてのPRMT5の役割を強調した。
【0194】
次に、SDMA抗体をウェスタン及びELISAアッセイで使用して、メチル化の化合物C依存的阻害を測定した。まず、Z138 MCL細胞(化合物C gIC
50 2.7nM、gIC
95 82nM及びgIC
100 880nM、6日成長/死亡アッセイにおける細胞傷害性応答、
図7~
図8)を、増加濃度の化合物Cで処理して、処理後の1日目及び3日目にSDMA阻害の細胞IC
50を決定した(
図11)。SDMA ELISAにより、3日目にIC
50値4.79nM並びに1日目及び3日目にそれぞれEC
50 7.3及び2.35で、SDMAレベルの時間依存的変化が明らかになった(FIG11、パネルA)。SDMAの完全阻害は、3日目に19nM(EC
90)を上回る濃度で観察された。Z138細胞における完全成長阻害は、gIC
95(82nM)~gIC
100(880nM)で(6日成長/死亡アッセイで)、SDMA阻害のEC
90を上回る濃度で観察された。これらのデータは、Z138細胞において完全な成長阻害及び細胞傷害性を誘発するためには、PRMT5活性が、90%超阻害される必要があることを示唆している。
【0195】
SDMAレベルの阻害が、化合物Cに対する細胞成長応答を予測しているかどうかを評価するために、MCL細胞株のパネルにおいて、SDMA IC
50値を決定した。SDMA IC
50値は、5個のMCL株のパネルにおいて、0.3nM~14nMの範囲であり(
図11、パネルB)(感受性Z138、Granta-519、Maver-1並びに中程度の耐性であるMino、及びJeko-1、
図7~
図8)、SDMAが、応答マーカーではなく、感受性モデル及び耐性モデルにおいてPRMT5阻害をモニタリングするのに使用され得るPRMT5活性のマーカーであることを示唆した。
【0196】
リンパ腫細胞株の遺伝子発現のプロファイリング
PRMT5は、ヒストン及びRNAプロセシングに関与するタンパク質をメチル化し、したがって、PRMT5阻害は、細胞mRNAホメオスタシスに対して大きな効果を有すると予測される。PRMT5によって調節され、PRMT5阻害剤に対する細胞応答に寄与する細胞メカニズムを更に解読するために、全般的な遺伝子発現変化を、PRMT5阻害に対して感受性のリンパ腫モデルで評価した。PRMT5阻害剤処理時にリンパ腫細胞株において起きる遺伝子発現変化を解明するために、4個の感受性リンパ腫株(MCL株2個-Z138及びGranta-519並びにDLBCL株2個-DOHH2及びRL)をRNAシーケンシングによってプロファイリングした。
【0197】
まず、増加濃度のPRMT5ツール分子で、2日間及び4日間処理したリンパ腫株において、遺伝子発現の変化を評価した(
図12)。RNA発現に対する効果は、時間依存的且つ用量依存的であり、48個の遺伝子が、4個のリンパ腫細胞株にわたって一般に調節された。これらのデータにより、PRMT5阻害が、数百の遺伝子の発現の変化を誘発し、これらの変化のサブセットは、検査した4個全ての感受性リンパ腫株に関して共通していることが実証される。PRMT5阻害に対する細胞応答のメカニズムにおけるこれらの遺伝子の関連性は、評価中である。
【0198】
SDMA及び遺伝子発現の変化
RNA-seq実験によって発見される遺伝子発現の変化を確認するために、遺伝子のサブセットの発現のqPCR分析を実施した(頑強な変化を有する遺伝子及びp53経路に関与する遺伝子)。Z138細胞を、増加用量の化合物Cで2日間及び4日間処理し、RNAを単離して、qPCRによって分析した。
図13は、左パネルに代表的な用量-応答曲線を示し、遺伝子発現EC
50値(4日目)を右パネルに概要する。概して、検査した11個全ての遺伝子が、時間依存的及び用量依存的発現の変化を示し、EC
50値は、22nM~332nMの範囲であり、メジアン遺伝子発現EC
50は、212nMであった。重要なことに、遺伝子発現メジアンEC
50値は、Z138における細胞メチル化の最大阻害をもたらす化合物C濃度(SDMA抗体ELISAによって測定した場合、
図11)に相当し、遺伝子発現プログラムにおける変化を確立するにはPRMT5活性のほぼ完全な阻害が必要とされることを示唆している。これらのデータは、PRMT5阻害の程度と、遺伝子発現及び成長表現型の変化との関連を強調しており、ここで、両者は、PRMT5活性のほぼ完全な阻害を必要とする。
【0199】
PRMT5阻害及びスプライシング
PRMT5は、スプライセオソームサブユニットをメチル化して、PRMT5阻害は、スプライシングに関与する幾つかのタンパクのアルギニンメチル化を減衰するため、細胞スプライシングに対するPRMT5阻害の効果を研究した。RNAスプライシングの変化は、上述のリンパ腫RNA-seqデータセットで評価した。
【0200】
細胞スプライシングが調節され得るメカニズムによって幾つかの分子メカニズムが存在し(
図14、パネルA)、ここで、イントロンの保持(B)は通常、遺伝子発現の変化をもたらすのに対して、エクソンスキッピング又は選択的スプライス部位の利用は、アイソフォームスイッチングを引き起こす(A、C~E)。PRMT5ツール化合物処理は、検査した全てのリンパ腫株においてイントロン保持の用量依存的且つ時間依存的増加をもたらした(
図14、パネルB)。興味深いことに、スプライシング因子のマップ分析により、スプライシング因子結合部位のサブセットは、hnRNPH1(PRMT5によって直接メチル化される)、hnRNPF、SRSF1及びSRSF5を含む4個全ての細胞株にわたって、保持されたイントロンで富化されることが示唆され、細胞スプライシングに対するPRMT5効果は、スプライセオソーム機構の多重構成成分(Sm及びhnRNPタンパク質)のメチル化に依存し得ることを示唆した。PRMT5阻害はまた、リンパ腫細胞株においてアイソフォームスイッチング(選択的スプライシング)を誘導し(
図15、パネルA)、34個の遺伝子が、検査した細胞株全てにわたって一貫した選択的スプライシング変化を示した(
図15、パネルB及びパネルC)。
【0201】
概して、数百の遺伝子のスプライシングの変化が観察され、スプライシングに対するPRMT5効果は全般的ではなく、限定数のRNAに特異的であることを強調した。そのような特異性の可能性のある説明の1つは、PRMT5が、特異的なスプライシング因子、例えばhnRNPH1及びその他のRNA結合を直接調節することであり得る。PRMT5阻害剤の作用メカニズムにおける選択的スプライシングの変化の役割は探究中であり、特定の例の1つを以下のセクションで論述する。
【0202】
MDM4スプライシング及びp53経路の活性化
PRMT5ノックアウト又はノックダウンが、MDMアイソフォームスイッチをもたらし、MDM4アイソフォームスイッチが、p53に対するMDM4ユビキチンリガーゼ活性の不活性化を引き起こすと報告されている(背景のセクションに記載)。PRMT5阻害は、RNA-seq実験(GSEA)で検査した4個のリンパ腫株においてp53経路の活性化をもたらした。p53活性化が、MDM4アイソフォームスイッチングと関連付けられるかどうかを理解するために、MDM4選択的スプライシングを分析した。MDM4アイソフォームスイッチが、4個全てのリンパ腫株で観察された。次に、MDM4スプライシングの変化は、RT-PCRによって4個のMCL株のパネルにおいて確認された(
図16、パネルA、Z138、JVM-2及びMAVER-1 MCL株は、化合物Cに対して感受性であるのに対して、REC-1は、最も耐性のMCL株である)。Z318細胞及びJVM-2細胞(共に、p53野生型)では、化合物Cは、MDM4アイソフォームスイッチングを誘導した。MAVER-1細胞及びREC-1細胞(共に、p53突然変異体)では、MDM4の長形態の基礎発現は、低く/検出不可能であり、したがって、MDM4アイソフォームスイッチングを検出することができなかった。続いて、p53及びp21(又はCDKN1A、p53標的遺伝子)タンパク質発現は、JVM-2細胞及びZ138細胞において増加した(
図16、パネルB)。重要なことに、Z138細胞では、200nMの化合物C及び5μMのMDM2阻害剤(ヌトリン-3)処理は、類似したレベルにp53及びp21発現を増加させた。これらのデータは、PRMT5阻害が、高レベルのMDM4長アイソフォームを発現する細胞株においてMDM4スプライシングを調節して、p53野生型細胞株においてp53経路活性を誘導することを示唆している。PRMT5阻害に対するp53野生型MCL細胞の応答の生物学におけるp53経路の役割は、評価中である。
【0203】
更に、増加濃度の化合物Cで処理したZ138細胞において、MDM4スプライシング、SDMA阻害及びp53発現の変化の用量応答を評価して、PRMT5阻害、MDM4スプライシング及びp53活性化の関連性を評価した(
図17、パネルA及びパネルB)。SDMAレベルは、8nMを上回る化合物Cの濃度で、ウェスタンブロットによって検出不可能であった。同時に、MDM4スプライシング及びp53/p21タンパク質発現の変化は、8nMを上回る化合物Cの濃度で明らかであった。これらの結果は、遺伝子スプライシング及び続く経路活性の変化が起きる(MDM4/p53/p21)前に、PRMT5活性が、実質的に阻害される(SDMAレベルが、ウェスタンによって検出不可能である)必要があることを示唆している。
【0204】
これらのデータは、PRMT5阻害が、MDM4スプライシングの調節により野生型p53を活性化することを示唆している。そのようなメカニズムは、p53が、高頻度で突然変異されない癌タイプ、例えば、ヘム及び小児科悪性腫瘍において有用であり得る。リンパ腫モデルでは、PRMT5阻害は、p53経路の著しく(GSEA分析)、且つ比較的迅速な活性化を引き起こし、このことが、PRMT5阻害剤で処理した細胞株において観察される成長/死亡表現型に寄与する可能性が高い。ノックダウン/レスキュー実験を使用して、PRMT5阻害剤に誘導される細胞応答におけるMDM4/p53経路の役割を更に評価する。
【0205】
MDM4アイソフォーム発現及びp53突然変異は、MCLにおけるPRMT5阻害に対する応答の潜在的な予測バイオマーカーである。MCL細胞株パネルにおいて、2個の野生型p53株Z138及びJVM-2のみが、最も感受性の高い株であった(最も低いgIC50値及び6日成長/死亡アッセイにおいて細胞傷害性を示すたった2個のMCL株)。両方の細胞株において、化合物C処理は、MDM4アイソフォームスイッチ及びp53経路活性化を引き起こした。限定数のMCL細胞株及び主要なMCLモデルの確立の極めて低い成功率により、本発明者らがp53予測バイオマーカー仮説を更に評価するのを妨げる。p53経路は、PRMT5阻害剤に対するp53野生型細胞の応答の生物学にとって重要であり得るのに対して、本発明者らのデータは、PRMT5阻害が、機能的p53の非存在下で抗増殖性効果をもたらすため、同様に抗腫瘍有効性を駆動し得る他の経路の重要性を強く強調している(例えば、Maver-1細胞株)。
【0206】
マントル細胞リンパ腫:化合物C及びイブルチニブの比較並びに組合せ活性
ブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害剤であるイブルチニブは、再発/難治性状況においてほぼ70パーセントの空前の全応答率でMCLにおける使用に関して最近認可された(Wang ML, et al. N Engl J Med. 2013 Aug 8;369(6):507-16)。しかしながら、イブルチニブで治療した患者の大部分が、完全な寛解を達成せず、メジアン無増悪生存期間は、およそ14ヵ月である。化合物Cをイブルチニブ耐性MCLで使用することができるかどうかを理解するために、化合物C及びイブルチニブの感受性を6日成長/死亡アッセイで評価した(
図18、パネルA)。低い化合物CのgIC
50値を有する細胞株(Z-138、Maver-1及びJVM-2)は、イブルチニブに耐性であるのに対して、イブルチニブ感受性株(Mino、Jeko-1)は、化合物Cに対してほんの穏やかに感受性であった(
図18、パネルA)。これらのデータは、イブルチニブ及び化合物Cの活性プロファイルが重複しないこと、またイブルチニブ耐性MCLモデルが、PRMT5阻害に対して感受性であることを示唆している。更に、PRMT5阻害剤及びイブルチニブの組合せは、検査したMCL株の大部分において相乗的な抗増殖活性を示し(組合せ指数(CI)1未満)(
図18、パネルB及びパネルC)、2つの化合物の組合せが、治療上の有益性の増加を提供し得ることを示唆した。これらのデータは、PRMT5阻害剤が、イブルチニブ耐性MCL患者集団において使用することができること、またPRMT5阻害剤と、イブルチニブとの組合せが、イブルチニブ難治性状況及びイブルチニブ感受性状況の両方で探究され得ることを示す。
【0207】
マントル細胞リンパ腫モデルにおける有効性
リンパ腫細胞株モデルにおけるin vitro成長/死亡アッセイで観察される有効性が、in vivo状況に転換可能であるかどうかを検査するために、マントル細胞リンパ腫(感受性Z138及びMaver-1細胞株)の異種移植片モデルにおいて、化合物C有効性研究を実施した。まず、腫瘍成長に対する化合物C処理の治療効果を、Z138MCL異種移植片モデルにおいて、21日有効性研究で検査した。全ての化合物C用量群の腫瘍が、ビヒクル試料と比較して、重量及び体積において有意な差を示し、最も低い用量群(25mg/kg BID)での最低40%のTGIから、最も高い100mg/kg BID用量群における90%超程度まで及んだ(重量損失は、提示する全ての有効性研究における全ての群で観察されなかった、
図19、パネルA)。SDMAウェスタンを使用した腫瘍のPD分析により、全ての用量群が、メチルの特徴の70%よりも高い低減を有し、最も高い用量群にでは98%超程度に及ぶことが示された(
図19、パネルB)。
【0208】
次に、Maver-1 MCL異種移植片モデルにおいて、化合物Cの有効性を評価した(
図20)。18日目に測定した全ての化合物C用量群全てにおける腫瘍が、ビヒクル試料と比較して、体積において有意な差を示し、最も低い用量群(25mg/kg BID)での最低50%のTGIから、最も高い用量群における90%超程度まで及んだ。SDMAを使用した腫瘍のPD分析により、全ての用量群が、メチルの特徴の80%~95%低減を有することが示された。
【0209】
これらのデータは、化合物C処理が、マントル細胞リンパ腫の異種移植片モデルにおいて、著しい腫瘍成長阻害(100%TGIに近い)をもたらすことを実証している。SDMAシグナルのほぼ完全な阻害(90%超)が、最大TGI(90%超)必要とされるようであり、腫瘍において顕著な有効性を得るには、PRMT5活性が90%超で阻害される必要があることを示唆している。
【0210】
リンパ腫生物学の概要
・PRMT5と癌との間の現在記載されている最も強いメカニズム的関連が、MCLに見られる。PRMT5は、MCLで頻繁に過剰発現され、核区画で高度に発現され、核区画で、PRMT5は、ヒストンメチル化のレベルを増加させて、腫瘍抑制遺伝子のサブセットを発現停止させる。重要なことに、MCL患者の大部分において転座される発癌遺伝子であるサイクリンD1は、PRMT5と会合し、cdk4依存的メカニズムにより、PRMT5活性を増加させる。PRMT5は、DNA複製を負に調節する重要な遺伝子の抑制を媒介して、サイクリンD1依存的新生物成長を可能にする。PRMT5ノックダウンは、サイクリンD1依存的細胞形質転換を阻害して、腫瘍細胞の死を引き起こす。これらのデータは、MCLにおけるPRMT5の重要な役割を強調しており、PRMT5阻害を、MCLにおける治療上の戦略として使用することができることを示唆している。
・化合物Cは、MCL細胞株において、成長を阻害し、死を誘導し、これは、今日に至るまで検査した(6日成長/死亡アッセイで)中でも最も感受性の高い細胞株である。検査したMCL株のパネルでは、3個の細胞株が10nM未満のgIC50を有し、2個の株が、100nM以下のgIC50を示し、1個の細胞株が、1μM超のgIC50を有した。PRMT5及びサイクリンD1の下流標的に対する化合物Cの効果は、現在検討中であり、化合物Cが、抗成長及びアポトーシス応答に寄与するかどうかを評価する。
・SDMA抗体Methylscan(商標)を使用して、MCL株においてPRMT5基質を評価した。SDMA含有タンパク質の大部分が、細胞スプライシング及びRNAプロセシング(SmB、Lsm4、hnRNPH1及びその他)、転写(FUBP1)及び翻訳に関与する因子であり、細胞RNAホメオスタシスの重要な調節因子としてのPRMT5の役割を強調した。MCL株のパネルにおいてPRMT5阻害を評価するのに、SDMA抗体を更に使用し、ここで、SDMA IC50値は、感受性モデル及び耐性モデルにおいて類似しており、SDMAが、応答のマーカーではなく、PRMT5阻害のマーカーであることを示唆した。
・化合物C処理は、RNAのサブセットにおいてスプライシング変化を誘導し、特にMDM4アイソフォームスイッチが、MCL株及びDCBCL株で観察され、PRMT5阻害が、MDM4スプライシングの調節によりp53経路を活性化することを示唆した。ノックダウン/レスキュー実験を使用して、PRMT5阻害剤に誘導される細胞応答におけるMDM4/p53経路の役割を更に評価する。
・MDM4アイソフォーム発現及びp53突然変異は、MCLにおけるPRMT5阻害に対する応答の潜在的な予測バイオマーカーである。MCL細胞株パネルにおいて、2個の野生型p53株Z138及びJVM-2が、最も感受性の高い株であった(最も低いgIC50値及び6日成長/死亡アッセイにおいて細胞傷害性を示すたった2個のMCL株)。
・近年では、イブルチニブの臨床検査が、MCL処理に対するアプローチを劇的に変化させた。in vitroでのデータは、PRMT5阻害剤が、イブルチニブ耐性MCL患者集団において使用され得ること、またPRMT5阻害剤と、イブルチニブとの組合せが、イブルチニブ難治性状況及びイブルチニブ感受性状況の両方で探究され得ることを示す。
・in vivoでの研究は、化合物C処理が、マントル細胞リンパ腫の異種移植片モデルにおいて、著しい腫瘍成長阻害(100%TGIに近い)をもたらすことを実証している。腫瘍において最大の有効性I(90%超のTGI)を得るには、PRMT5活性のほぼ完全な阻害(90%超)が必要とされるようである。
【0211】
乳癌の生物学
細胞株スクリーニングデータは、乳癌細胞株が、PRMT5阻害に対して感受性であり、2D6日成長/死亡アッセイにおいてほぼ完全な成長阻害を示すことを実証している(低いY
min-T0、
図7~
図9)。更に、患者由来の(PDX)腫瘍モデルのパネルにおけるコロニー形成アッセイからのデータにより、乳腺腫瘍が、パネルにおける中でも最も感受性の高い腫瘍であることが示唆された(化合物E相対IC
50値に基づく、
図10)。したがって、乳癌細胞株を、幾つかの成長/死研究及びメカニズム的研究で評価して、乳癌におけるPRMT5阻害の役割及び治療可能性を評価した。
【0212】
種々の胸腺腫瘍サブタイプにわたるPRMT5阻害剤活性を理解するために、PRMT5ツール化合物を使用して、乳癌細胞株のパネルを、7日成長アッセイでプロファイリングした(
図21)。PRMT5阻害は、検査した乳癌細胞株の各種サブタイプにわたって低いIC
50値で細胞成長を減衰させる。メジアンIC
50値は、HER2又はホルモン受容体(HR)陽性株と比較して、TNBC(トリプルネガティブ乳癌)細胞株において最も低かった。
【0213】
6日成長/死亡アッセイでは、乳癌細胞株の大部分が、細胞分裂阻害的効果を示した。化合物Cへの長期にわたる曝露が、応答の細胞分裂阻害性対細胞傷害性に影響を及ぼすかどうかを評価するために、PRMT5阻害剤を、より長期の成長/死亡アッセイで評価した(
図22)。SKBR3細胞、MDA-MB-468細胞及びMCF-7細胞では、化合物C(並びにツール分子化合物B)による処理は、化合物への長期にわたる曝露(7日~10日)時に細胞障害性応答を引き起こした。ZR-75-1細胞では、PRMT5阻害剤は、全ての時点(3日目~12日目)で細胞分裂阻害的応答を誘発したのに対して、Z-138(MCL、対照として含まれる)細胞は、アッセイの全ての時点(3日目~10日目)で全体的に激しい正味の細胞死を示した。これらのデータは、PRMT5阻害が、乳癌細胞株のサブセットにおいて、より長期の曝露(5日超)時に正味の細胞死(細胞傷害性応答)を引き起こすことを示唆している。
【0214】
細胞成長に対する化合物Cの効果が、細胞周期分布の変化と関連付けられるかどうかを検査するために、細胞周期に対する化合物Cの効果を、ヨウ化プロピジウムFACS(蛍光活性化細胞選別)分析を使用して評価した(
図23)。概して、FACSの結果は、長期の増殖データと一致し、4個の乳癌株のうち3個において、長期の化合物C処理が、処理の7日~10日後に細胞死の誘導(2N未満で増加)をもたらすことを実証した。MCF-7細胞(p53野生型)では、化合物C処理は、10日目のsub-G1期(2N未満)における細胞の蓄積から明らかなように、続く細胞死を伴う、2日目のG1期(2N)における細胞の蓄積及び細胞周期のS期(2N超且つ4N未満)からの細胞の損失を引き起こした。ZR-75-1細胞(p53野生型)では、化合物Cは、細胞周期分布に対して効果が小さく、ここでは、7日目及び10日目にG1(2N)における減少及び4N超の細胞分画における増加が見られた。MDA-MB-468細胞株及びSKBR-3細胞株は、G1(2N)期(7日目又は10日目)における減少、G2/M(4N)及び4N超のDNA含有量の増加を伴う化合物C処理と同様に応答し、これは、細胞死を示すsubG1(2N未満)における細胞の蓄積と一致した。これらのデータは、PRMT5阻害剤が、細胞周期における細胞の分布に影響すること、また表現型の結果が、細胞の文脈に依存することを示唆している。
【0215】
PRMT5活性が、感受性乳癌株及び耐性乳癌株において同様に阻害されるかどうかを評価するために、SDMAのレベルを、PRMT5阻害剤処理後に細胞で測定した(
図24)。概して、SDMA減少のタイミングは、検査した細胞株(感受性及び耐性)全てに関して類似していた。SDMAの最大阻害は、3日目に観察された。MDA-MB-468細胞におけるSDMA IC
50は、Z138細胞におけるSDMA IC
50に類似して、5.4nMであった。これらのデータにより、SDMAは、PRMT5触媒活性のマーカーであり、PRMT5阻害に対する抗増殖性応答を予測しないことが示される。SDMA IC
50値は、乳癌株のパネルにおいて更に評価中である。
【0216】
in vivo乳癌モデルにおける有効性
次に、乳癌のin vivoモデルにおいて、PRMT5阻害の有効性を評価した。まず、トリプルネガティブ乳癌異種移植片モデルであるMDA-MB-468を、100mg/kg(QD及びBID)及び200mg/kg(QD)の化合物Cで処理した(
図25)。最大腫瘍成長阻害(TGI=83%)は、100mg/kg BID処理群で観察され、ここでは、SDMA阻害が90%を超えたのに対して、100mg/kg QD処理動物では、化合物C処理は効果的でなく、SDMA阻害は、80%未満であった。このデータは、in vivo乳癌異種移植片モデルにおいて、著しいTGIを見込むためには、SDMAレベルが、ほぼ完全に(90%超)阻害される必要があることを示唆している。
【0217】
乳癌の概要
・乳癌では、高いPRMT5発現及び高いPDCD4(プログラム細胞死4)レベルは、乏しい全生存期間を予測する。
・乳癌細胞株及び乳癌患者由来のモデルは、2D成長/死及びコロニー形成アッセイで検査した中でも最も感受性の高いモデルであった。
・化合物C処理は、6日成長/死亡アッセイにおいて、完全成長阻害をもたらし、PRMT5阻害剤への長期にわたる曝露は、検査した4個の細胞株のうち3個において細胞死を誘導した。
・7日増殖アッセイにおいて、TNBC細胞株は、Her2及びホルモン受容体陽性株よりもPRMT5阻害に対して感受性が高かった。
・SDMAレベルは、PRMT5阻害剤で処理した感受性乳癌株及び耐性乳癌株で減少し、SDMAが、応答のマーカーではなく、PRMT5活性のマーカーであることを示唆した。
・MDA-MB-468異種移植片モデルでは、化合物C処理は、100mg/kg BID処理群において、腫瘍成長阻害(TGI=83%)をもたらし、ここでは、SDMA阻害が90%を超えたのに対して、100mg/kg QD処理動物では、化合物C処理は効果的でなく、SDMA阻害は、80%未満だった。このデータは、in vivo乳癌異種移植片モデルにおいて、著しいTGIを見込むためには、SDMAレベルが、ほぼ完全に(90%超)阻害される必要があることを示唆している。
・概して、これらのデータは、乳癌における、特にTNBCサブタイプにおける潜在的な治療上の戦略としてのPRMT5阻害を示唆している。
【0218】
神経膠芽腫(GBM)の生物学
PRMT5タンパク質は、神経膠芽腫の腫瘍において頻繁に過剰発現され、高いPRMT5レベルは、GBM患者におけるグレード(グレードIV)及び乏しい生存期間の両方と強力に相関している(Yan F, et al. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65)。PRMT5ノックダウンは、GBM細胞株の成長及び生存期間を減衰させて、同所性Gli36異種移植片モデルにおいて生存期間を大幅に改善させる(Yan F, et al. Cancer Res. 2014 Mar 15;74(6):1752-65)。PRMT5はまた、神経前駆細胞の成長及び分化の調節により、正常なマウス脳発達において重要な役割を果たす(Bezzi M, et al. Genes Dev. 2013 Sep 1;27(17):1903-16)。
【0219】
神経膠芽腫細胞株モデルは、軟質寒天コロニー形成アッセイにおける中でも最も感受性の高い腫瘍タイプであった(
図10)。2Dの6日成長/死亡CTGアッセイでは、GBM細胞株は、40nM~22000nMの範囲のgIC
50値を有し、ここで、応答は、SF539細胞株を除いて、主に細胞分裂阻害的であった(
図7及び
図8)。PRMT5阻害剤に対するより長期の曝露時の細胞成長及び生存期間に対するPRMT5阻害の効果を理解するために、化合物C活性を、2Dの14日成長/死亡CTGアッセイで検査した(
図26)。概して、細胞分裂阻害的/細胞傷害性応答の性質は、化合物へのより長期の曝露時に変化せず、PRMT5阻害に応答してアポトーシスを受けた唯一の細胞株は、SF539であった。
【0220】
次に、細胞メチル化及びp53経路に対する効果を、PRMT5阻害剤で処理したGBM細胞において、SDMA、p53及びp21タンパク質レベル及びMDM4スプライシングを測定することによって評価した(
図27)。PRMT5阻害は、検査した全ての細胞株において、PRMT5阻害に対するそれらの感受性に関係なく、SDMAシグナルの低減をもたらした(
図27、パネルB)。選択的MDM4スプライシングは、p53突然変異体であり、長いMDM4アイソフォームの低い基礎発現を有するSF539以外の全ての細胞株で検出された(
図27、パネルA)。p53レベルは、全ての細胞株において増加したのに対して、p21タンパク質の誘導は、野生型p53を有する細胞株(Z138(MCL)、U87-MG及びA172(GBM))においてのみ観察された。これらのデータは、リンパ腫モデルで観察される効果と同様に、PRMT5阻害が、潜在的にMDM4活性の不活性化により、GBMモデルにおいてp53経路を活性化させることができることを示唆している。重要なことに、GBM細胞株の感受性は、p53の突然変異状態と相関せず、更なるメカニズムが、PRMT5阻害によって誘導される成長阻害性表現型に寄与することを示唆した。興味深いことに、PRMT5阻害は、野生型p53 GBM細胞株において細胞分裂阻害的応答をもたらした。PRMT5阻害に対するGBM細胞株の応答におけるp53の役割は、今後の研究で更に検査されよう。更に、GBMモデルにおける細胞周期及び神経分化に対するPRMT5阻害の効果は探究中である。
【0221】
神経膠芽腫の概要
・PRMT5タンパク質は、神経膠芽腫の腫瘍において頻繁に過剰発現され、高いPRMT5レベルは、GBM患者における高いグレード(グレードIV)及び乏しい生存期間の両方と強力に相関している。
・神経膠芽腫細胞株モデルは、軟質寒天コロニー形成アッセイにおける中でも最も感受性の高い腫瘍タイプであった。
・2Dの6日及び14日成長/死亡CTGアッセイにおいて、PRMT5阻害に対するGBM応答は、主に細胞分裂阻害的であった(4個の株のうち3個、1個の細胞株が、細胞傷害性応答を有した)。
・PRMT5阻害は、検査した全ての細胞株において、PRMT5阻害に対するそれらの感受性に関係なく、SDMAシグナルの低減をもたらした。
【0222】
更なる感受性腫瘍タイプ
・細胞株及び患者由来のモデルスクリーニングデータにより、PRMT5阻害剤は、広範囲の腫瘍タイプにおいて細胞成長及び生存時間を減衰させることが示唆される(
図7~
図10)。
【0223】
全体的な生物学の概要
・化合物Cは、スプライセオソーム構成成分、ヒストン、転写因子、及びキナーゼを含む様々な細胞タンパク質上での対称性アルギニンジメチル化を阻害する。したがって、PRMT5阻害剤は、転写、スプライシング、及びmRNA翻訳の変化を含む数多くのメカニズムにより、RNAホメオスタシスに影響する。
・PRMT5阻害は、遺伝子発現及びスプライシング変化を引き起こして、最終的にはp53の誘導をもたらす。化合物Cは、p53ユビキチンリガーゼMDM4においてアイソフォームスイッチを誘導して、p53タンパク質を安定化して、マントル細胞及びびまん性大細胞B細胞リンパ腫並びに乳癌及び神経膠腫癌細胞株(これまで検査した腫瘍タイプのみ)において、p53標的遺伝子発現シグナル伝達を誘導する。
・化合物Cは、広範囲の固形及びヘム腫瘍細胞株において増殖を阻害し、マントル細胞及びびまん性大細胞B細胞リンパ腫、乳癌、膀胱癌、及び神経膠腫細胞株のサブセットにおいて細胞死を誘導する。最も強力な成長阻害は、マントル細胞及びびまん性大細胞B細胞リンパ腫細胞株で観察された。化合物Cの有効性を、マントル細胞リンパ腫及び乳癌の異種移植片モデルで検査して、ここで、化合物Cは、腫瘍成長を著しく阻害した。これらのデータは、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞B細胞リンパ腫細胞株、乳癌及び脳癌における治療上の戦略としての化合物Cの使用に関して強力な理論的根拠を提供する。
【0224】
[実施例2]
組合せ
同系癌モデルにおけるII型PRMTの阻害と組み合わせたICOSアゴニズムの活性
本発明者らは、化合物CによるII型RPMT阻害の組合せが、免疫担当腫瘍モデルにおける抗ICOS抗体の有効性を増加させることができるかどうかを探究した。化合物Cを、単独で、及び抗ICOSアゴニスト抗体(Icos17G9-GSK)と組み合わせて投薬した。
図28A及び
図28Bは、組合せを示す。CT26及びEMT6腫瘍モデルの両方において、組合せは、いずれかの単一作用物質を上回る生存利益を提供した(
図28A、
図28B)。
【0225】
実施例2に記載する結果は、下記の材料及び方法を使用して得られた:
【0226】
マウス、腫瘍負荷及び処理
7週齢の雌BALB/cマウス(BALB/cAnNCrl、Charles Rivers社)を、the USDA Laboratory Animal Welfare Actに準拠して、完全に公認のAAALAC施設(Charles River Laboratories)において、in-vivo研究に利用した。3×105個(CT26)又は5×106個(EMT6)の細胞を、右側腹部に皮下接種した。腫瘍を、キャリパーで1週につき2回、二次元で測定し、式:0.5×長さ×幅2を使用して、腫瘍体積を算出した。腫瘍が100mm3~150mm3に達したら、マウス(n=10/処理群)を無作為化して、生理食塩水(1日1回、経口投与)、100mg/kgの化合物C(1日2回、経口投与)、5mg/kgの抗ICOS(17G9、腹腔内注射により1週間に2回)、又は化合物C及び抗ICOSの組合せを付与した。全ての研究に関して、化合物Cを3週間投与して、CT26及びEMT6モデルに、それぞれ、3回用量又は4回用量の抗ICOS抗体を付与した。個々のマウスに関する2,000mm3を超える腫瘍寸法及び/又は開放性潰瘍の発達があると、マウスを研究から除去した。
II型PRMT阻害剤が、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ5(PRMT5)阻害剤、又はタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ9(PRMT9)阻害剤である、請求項1に記載の組み合わせ。
ICOS結合タンパク質又はその抗原結合部分が、配列番号1に記載されるCDRH1、配列番号2に記載されるCDRH2、配列番号3に記載されるCDRH3、配列番号4に記載されるCDRL1、配列番号5に記載されるCDRL2及び/又は配列番号6に記載されるCDRL3、又は各CDRの直接等価体の1つ以上を含み、直接等価体が、前記CDRにおいて2つ以下のアミノ酸置換を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の組み合わせ。
癌が、結腸直腸癌(CRC)、胃癌、食道癌、子宮頸癌、膀胱癌、乳癌、頭頸部癌、卵巣癌、黒色腫、腎細胞癌(RCC)、EC扁平上皮癌、非小細胞肺癌、中皮腫、膵臓癌、前立腺癌、及びリンパ腫からなる群から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の組み合わせ。
癌を治療するための医薬の製造のための、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(II型PRMT)阻害剤及びICOS結合タンパク質又はその抗原結合断片の使用。