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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075290
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】生物活性複合体の調製
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230523BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230523BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230523BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 38/38 20060101ALI20230523BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20230523BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230523BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K9/08 ZNA
A61K9/19
A61K38/47
A61K47/02
A61K47/12
A61P31/12
A61P35/00
A61K38/38
A23L33/17
C07K14/47
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040807
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2019563219の分割
【原出願日】2018-05-14
(31)【優先権主張番号】1707715.7
(32)【優先日】2017-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】506291863
【氏名又は名称】ハムレット・ファルマ・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】ナディーム,アフターブ
(72)【発明者】
【氏名】スヴァンボルグ,カタリナ
(72)【発明者】
【氏名】ホ,チン シン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特に腫瘍の治療又は抗菌剤若しくは抗ウイルス剤としての治療活性を有する生物活性複合体、及びその調製方法を提供する。
【解決手段】粉末形態のポリペプチド要素と固体のオレイン酸又はその医薬的に許容可能な塩との混合物を少なくとも2つの塩を含む水性溶媒に溶解することを含み、第1の塩は塩化ナトリウム又は塩化カリウムであり、第2の塩はリン酸二ナトリウム又はリン酸一カリウムであり、前記溶解は、50℃以下の適温で行われる、調製方法。前記ポリペプチド要素は、膜を摂動する活性を有するαラクトアルブミンであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号6のペプチドとオレイン酸又はその塩とを含む生物活性複合体。
【請求項2】
前記ペプチドは配列番号7に記載のペプチドである、請求項1に記載の生物活性複合体。
【請求項3】
配列番号6のペプチド。
【請求項4】
配列番号7のペプチドである、請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
生物活性複合体を調製する方法であって、
粉末形態のポリペプチド要素と固体のオレイン酸又はその医薬的に許容可能な塩との混合物を少なくとも2つの塩を含む水性溶媒に溶解することを含み、
第1の塩は塩化ナトリウム又は塩化カリウムであり、第2の塩はリン酸二ナトリウム又はリン酸一カリウムであり、
前記溶解は、50℃以下の適温で行われる、方法。
【請求項6】
前記水性溶媒は、リン酸一ナトリウム又はリン酸一カリウムである第3の塩をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記適温は、10℃~40℃である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
外気温で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶解により得られた溶液を濾過することをさらに含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
溶媒を除去し、固体の前記複合体を得ることをさらに含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒は凍結乾燥により除去される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリペプチド要素は、膜を摂動する活性を有するαラクトアルブミン、リゾチーム若しくは他のタンパク質から選択される天然タンパク質、又はそれらの分子内結合が欠損したそれらの変異体若しくは断片である、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリペプチド要素は、50アミノ酸以下のペプチド断片である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチド断片は、請求項12で定義された天然タンパク質又はそれらの変異体のαヘリックスドメインを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチドは、配列番号1、2、5又は6のペプチドである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドは、配列番号7のペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリペプチドは、αラクトアルブミンである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドは、ウシαラクトアルブミンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の塩は、塩化ナトリウムである、請求項5~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の塩は、リン酸二ナトリウムである、請求項5~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記第3の塩は、リン酸一カリウムである、請求項6に記載の方法。
【請求項22】
前記複合体は、使用直前に無菌水を用いて再構成される請求項10又は11に記載の方法。
【請求項23】
請求項5~22のいずれか1項に記載の方法により得られる生物活性複合体。
【請求項24】
請求項23に記載の生物活性複合体を含む医薬組成物。
【請求項25】
請求項23に記載の生物活性複合体を含む機能性食品組成物。
【請求項26】
請求項23に記載の生物活性複合体又は請求項24若しくは25に記載の組成物の有効量を、それらを必要とする患者に投与することを含む、癌又はウイルス感染を治療又は予防する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に腫瘍の治療又は抗菌剤若しくは抗ウイルス剤としての治療活性を有する生物活性複合体を調製する方法に関する。さらに、本発明は、腫瘍及び癌の治療の方法に関し、特に健康な細胞よりも腫瘍細胞を選択的に標的にする方法、並びにそれらの方法に用いるための新規の複合体及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに部分的に折り畳まれていないタンパク質及び脂質を含む複合体の生成に関心がもたれてきた。これらのタンパク質は、完全に折り畳まれた状態の対応のタンパク質と比較して大幅に異なる特性、特に生物学的特性を有し得る。部分的なタンパク質の折り畳み及び脂肪酸の結合による新規の有益な機能の獲得は、驚くべき現象であり、それらの立体構造の状態及び結合するリガンドの変化を介してタンパク質の機能的多様化の重要な一般的経路を反映し得る。従って、mRNA転写産物の選択的スプライシング、翻訳後修飾、及び特定のドメインの三次構造における変更に加えて、元の天然タンパク質の部分的な折り畳みは、機能的多様性の生成のためのメカニズムとして認識されてきた。これは、折り畳まれていないタンパク質及び脂質コファクターに対する細胞応答によるものであり、それはそれらの変更された特性を定義する。しかしながら、この応答は、例えば腫瘍細胞で異なり得、それはそれらの治療可能性を生じさせ得ることを意味する。安定部分の形成のために、折り畳まれていないタンパク質は、何らかの方法でしばしば改変され、特に脂肪酸コファクター等のコファクターに結合され得る。このように形成された複合体は、安定であり、治療選択肢を生じさせ得る。
【0003】
HAMLET(腫瘍細胞を致死させるヒトαラクトアルブミン)は、重要な特性を有する殺腫瘍性分子の新規ファミリーの例の一つである。部分的に折り畳まれたαラクトアルブミンと必須の構成としてのオレイン酸から形成されたHAMLETは、バクテリアが細胞に結合することを防止するためのヒトミルクの能力の研究の際に偶然発見された。初期のインビトロの実験は、HAMLETが高い腫瘍選択性を有する広い抗腫瘍活性を示すことを示し、後の治療的研究は、インビボでの腫瘍組織に対するHAMLETの殺腫瘍性及び相対的選択性を確認した。プラセボ対照臨床試験において、局所的HAMLET投与は、皮膚パピローマのサイズを除去又は低減し、膀胱癌の患者におけるHAMLETの局所注入は腫瘍細胞の迅速な死を引き起こしたが、腫瘍の周辺の健康な組織を殺傷しなかった。膀胱癌におけるHAMLETの治療有効性は、マウスの膀胱癌モデルで近年証明され、また、ラットのグリオブラストーマ異種移植モデルにおいてHAMLETによる治療は、健康な脳組織の細胞死の形跡無く、腫瘍の進行を遅延し、生存率を増大させた。従って、HAMLETは、腫瘍細胞において保存された死経路を同定するために現れ、これにより、健康な分化細胞からそれらを識別できる。
【0004】
ウマリゾチーム及びオレイン酸を用いた他の複合体も細胞死をさせることが発見されており(Vukojevicet al. Langmuir, 2010, 26(18) 14782-14787)、折り畳まれたタンパク質は適当なコファクターと結合すると細胞毒性を示し得ると提案されている。
【0005】
他の研究は、用いられ得るこれらのタンパク質のペプチド断片の使用に注目している(例えば欧州特許第2643010号及び英国特許出願第1621752.3号を参照)。
【0006】
古典的に、これらの型の複合体は、Svensson et.al, (2000). Proc Natl Acad Sci U. S. A. 97, 4221-4226.に記載されるように調製される。天然のαラクトアルブミンは、疎水性相互作用クロマトグラフィーによりヒトのミルクから精製された。そのタンパク質は、EDTAにより展開され、オレイン酸により前処理されたマトリクスでのイオン交換クロマトグラフィーにかけられ、生物活性複合体を得るために高濃度塩、特に1MのNaClにより溶出された。この型の手順は、ウシαラクトアルブミからンBAMLETを含む
他の生物活性複合体を生成するのに用いられており、その複合体は、αラクトアルブミンの組換え型、特にWO2010/079362号に記載されているようにシステイン残基が無い組換え型から形成された。
【0007】
そのような生物活性複合体の代替的調製は、WO2010/131010号に記載されている。この参考文献において、BAMLETは、単相方式で調製され、当該単相方式において、αラクトアルブミンがリン酸緩衝生理食塩水(PBS)及び添加されたオレイン酸ナトリウムで再構成される。その後、その混合液は、60℃以上の温度に加熱され、活性複合体が得られる。この方法は、実行のために単純化されている利点があり、キットを用いた臨床状況でのインサイチュでさえ行われ得る。
【0008】
他の参考文献において、生物活性複合体は、事前に凍結乾燥された複合体を使用のためにPBSで溶解することにより調製される(例えばWO2010/079362号を参照)。
【0009】
従って、この型の複合体は、それらの生成において塩の存在に依存することが明らかである。以前から用いられているリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、少なくとも3つ、時々4つの塩の混合物を含む。これらは、塩化ナトリウム、リン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムであり、塩化カリウムを含む場合もある。
【0010】
本出願人らは、化合物の調製において用いられる塩混合物の影響について調べ、驚くべきことに、生成において用いられる正確な塩の性質が生成物の活性に影響し得ることを発見した。この提示は、生成物が識別され得、従って、特定の塩バランスのそれらは、唯一の生成物である。
【発明の概要】
【0011】
本発明によると、生物活性複合体を調製する方法であって、粉末形態のポリペプチド要素と固体のオレイン酸又はその医薬的に許容可能な塩との混合物を少なくとも2つの塩を含む水性溶媒に溶解することを含み、第1の塩は塩化ナトリウム又は塩化カリウムであり、第2の塩はリン酸二ナトリウム又はリン酸一カリウムであり、特にその方法は適温で行われる方法が提供される。
【0012】
本明細書において用いられる「適温」の表現は、50℃以下の温度、例えば0~50℃、例えば10~40℃、より具体的には15~25℃、例えば外気温の温度を意味する。そのような温度は、ポリペプチドが展開又は変性する温度である「融解温度」よりも概して低い。しかしながら、本出願人らは、それらの塩の条件下で生物活性複合体を形成できることを発見した。
【0013】
本出願人らは、生物活性複合体は、明らかに濃度依存的反応を示す本発明の単純な溶解方法により調製され得ることを発見した。その混合物は、例えば50℃以下、例えば急速な溶解を達成するために40℃以下に温められてもよいが、溶液に対して記載されるように沸騰させる等の大規模な加熱をする必要なく、適切な塩バランスが水性溶媒において存在するのみである。従って、特定の実施形態において、その方法は外気温で行われる。
【0014】
溶解は、撹拌することにより、例えばボルテックスすることにより促進され得る。必要であれば、溶液は、この段階で細菌濾過フィルタにより濾過され得る。適切なフィルタは、ポリエーテルスルホン膜(PES)又はMinisart(登録商標) NML Cellulose酢酸塩膜を含む。
【0015】
そのような撹拌プロセスのいずれかは、その塩溶液における要素の溶解を保証するのに十分な期間行われるであろう。正確なタイミングは、用いられるポリペプチドの特定の性質及び混合液が置かれる温度g等の要素に依存して異なり得るが、そのタイミングは、典型的には例えばわずか10分で、例えば約2分等の1~5分といった極めて短い時間であろう。
【0016】
特定の実施形態において、その溶媒は、さらに第3の塩を含み、それはリン酸一ナトリウム又はリン酸一カリウムであり、特にリン酸一カリウムである。そのような混合液は従来のPBS溶液で見られる。
【0017】
従って、この方法は、種々の製造環境及び非製造環境における調製が容易である。
【0018】
本明細書において用いられる「ポリペプチド」の用語は、タンパク質及び長鎖ペプチドを含むペプチドを含む。
【0019】
本発明の方法において用いられる適切な「ポリペプチド要素」は、天然タンパク質、特に膜を摂動する活性を有するαラクトアルブミン、リゾチーム若しくは他のタンパク質、例えばシステイン残基の変異により分子内結合を欠損した前記天然タンパク質の特定の変異体、又は50アミノ酸以下のペプチドでそれらのタンパク質のいずれかの断片を含む。
【0020】
「変異体」の表現は、同一の生物学的機能を有するがアミノ酸配列がその由来となる元
の配列と比較して、配列内の1つ以上のアミノ酸が他のアミノ酸と置換されて異なるタンパク質又はポリペプチドを意味する。アミノ酸置換は、「保存的に」アミノ酸が広く同様の特性を有する異なるアミノ酸に変えられることとされている。非保存的置換は、アミノ酸が異なる型のアミノ酸に置換されることである。
【0021】
「保存的置換」は、同一のクラスの他のアミノ酸によるアミノ酸の置換を意味し、そのクラスは以下に定義される。
【0022】
当業者に周知のように、保存的置換によるペプチドの一次構造を変更することは、その配列に挿入されたアミノ酸の側鎖が置換を受けたアミノ酸の側鎖と同様の結合及び接触を形成でき得るので、そのペプチドの活性を顕著に変更しないことがある。これは、置換がペプチドの立体構造を決定するのに重要な領域で起こる場合であっても言える。
【0023】
非保存的置換は、これらがDNA結合ドメインのポリペプチドの機能を妨げない限り可能性がある。
【0024】
大まかにいうと、ポリペプチドの生物学的活性を変更しない非保存的置換はほとんど無い。
【0025】
置換(及び実際にはアミノ酸欠失又は挿入)の影響の決定は、完全に当業者のルーチンの範囲内であり、当業者は、変異体ポリペプチドが基本特性及び塩基性タンパク質の活性を保持するかどうかを容易に決定できる。例えば、ポリペプチドの変異体が本発明の範囲内にあるかどうかを決定する際、当業者は変異体を含む複合体が天然タンパク質の非折り畳み型で形成された複合体の生物学的活性(例えば腫瘍細胞死)を保持するかどうかを決定するであろうし、そのポリペプチドは、少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%、95%、96%、97%、98%、99%又
は100%の天然タンパク質を有する。
【0026】
ポリペプチドの変異体は、αラクトアルブミン又はリゾチーム配列等の天然タンパク質の配列に対して、少なくとも70%の同一性、例えば少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み得る又は実質的に該アミノ酸配列からなり得る。
【0027】
配列同一性のレベルは、元の配列としての天然タンパク質配列と共にBLASTPコンピュータプログラムを用いて適切に決定される。これは、天然タンパク質配列が同一性の割合を決定するための比較配列を形成することを意味する。BLASTソフトウェアは、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi(2017年5月10日にアクセス可能)で公にアクセス可能である。
【0028】
特定の実施形態において、ポリペプチド要素は、わずか50アミノ酸を有する、特に10~45アミノ酸を有し得るペプチドである。そのような複合体は、調製が容易であり、出発物質のコストがより低い。例えば、ペプチドは、ペプチドの生成のための従来の方法を用いて調製され得る。形成された複合体は、小さい分子量のため、取り扱い及び投与のための製剤化が容易となり得る。
【0029】
それは天然タンパク質又はその変異体から適切に導出される。適切なタンパク質は、αラクトアルブミン、βラクトアルブミン又はリゾチーム等のそのような複合体において活性となるものとして同定されたものであるが、膜摂動タンパク質に由来し得る。
【0030】
膜摂動タンパク質は、細胞膜の境界面に相互作用する能力、特に細胞膜の管形成等の摂動を引き起こす能力を有するタンパク質である。典型的に、タンパク質は、細胞膜に埋め込まれるようになるであろう。そのようなタンパク質の例は、COPI、COPII(SAR1等)、HOPS/CORVET、SEA(Seh1関連)等のコート複合体、エンドフィリン等のクラスリン複合体BARドメインタンパク質、及びSnf7ドメインサブユニットを含むESCRT複合体を含む。
【0031】
特に、ペプチドは、上記の天然タンパク質のαヘリックスドメインに由来する。そのタンパク質のαヘリックスドメインは、本技術分野において周知又は従来の方法を用いて決定され得る。
【0032】
αヘリックスドメインがシステイン残基を含む場合、いくつかの実施形態において、それらは、分子間ジスルフィド結合を避けるために、アラニン残基等の異なるアミノ酸残基に変異され得る。
【0033】
特定の実施形態において、ペプチドは、αラクトアルブミンの断片であり、特にαラクトアルブミンのαドメインの断片である。特定の実施形態において、ペプチドは、ヒトαラクトアルブミンのα1(1~40番目残基)若しくはα2(81~123番目残基)、又はウシαラクトアルブミン等の他のαラクトアルブミンのアナログ領域を含む。
【0034】
ペプチドは、折り畳みを生じさせる要素を適切に含まず、従って、システイン残基等の分子内結合を生じさせるアミノ酸を適切に欠いている。特に、ペプチドが天然タンパク質に由来する場合、いずれかのシステイン残基は、アラニン等の他のアミノ酸に置換されている。
【0035】
従って、特定の実施形態において、複合体は、ヒトαラクトアルブミンのα1(1~40番目残基)又はα2(81~123番目残基)を含み、分子間結合を防止するために、システインはアラニン等の他のアミノ酸に置換されている。
【0036】
従って、ペプチドは、配列番号1又は配列番号2であってもよく、
KQFTKXELSQLLKDIDGYGGIALPELIXTMFHTSGYDTQA(配列番号1)
LDDDITDDIMXAKKILDIKGIDYWLAHKALXTEKLEQWLXEKL(配列番号2)
Xはシステイン以外のアミノ酸残基である。
【0037】
そのような配列の特定の例は、配列番号3又は配列番号4の配列である。
KQFTKAELSQLLKDIDGYGGIALPELIATMFHTSGYDTQA(配列番号3)
LDDDITDDIMAAKKILDIKGIDYWLAHKALATEKLEQWLAEKL(配列番号4)
【0038】
いくつかの場合において、配列番号1のペプチドは、例えば、終端のアラニン残基が省略されることによりトランケートされ得、それにより配列番号6のペプチドが生じ、配列番号7はその特定の例である。
KQFTKXELSQLLKDIDGYGGIALPELIXTMFHTSGYDTQ(配列番号6)
KQFTKAELSQLLKDIDGYGGIALPELIATMFHTSGYDTQ(配列番号7)
【0039】
そのようなペプチドは新規であり、それを含む生物活性複合体と共に本発明のさらなる態様を形成する。
【0040】
他のペプチドも、その複合体に用いられてもよく、適合性は、脂肪酸塩を含む複合体が例えば以下に説明されるような方法を用いて細胞を死滅する活性があるかどうかを決定することにより試験され得る。
【0041】
他の実施形態において、ペプチドは、SAR1等のCOPIIファミリータンパク質に由来する。そのようなペプチドの特定の例は、配列番号5のペプチドである。
MAGWDIFGWF RDVLASLGLW NKH(配列番号5)
【0042】
他の実施形態において、ポリペプチド要素は、特にヒト、ウシ、ヒツジ若しくはラクダαラクトアルブミン等のαラクトアルブミンの天然タンパク質又はその合成型である。特にそのタンパク質はウシラクトアルブミンである。
【0043】
本明細書において用いられる「生物活性」の用語は、生物学的活性を有する複合体を意味し、その活性はそれぞれの構成成分とは異なる又はより強い。特に、複合体は細胞死を誘導でき、特に腫瘍細胞選択制的に細胞死を誘導できる、及び/又は他の治療効果が得られ得るが例えばαラクトアルブミンの単量体型を含む天然タンパク質では見られない抗菌若しくは抗ウイルス効果を有する。
【0044】
特に、本発明の方法において用いられるオレイン酸は、化学式がCH(CHCH=CH(CHCOOH又はCH(CHCH=CH(CHCOOであるC18:1オレイン酸である。
【0045】
特定の実施形態において、オレイン酸の医薬的に許容可能な塩は、プロセスにおいて用いられる。適切な医薬的に許容可能な塩は本技術分野において理解されるであろう。
【0046】
塩、特にオレイン酸、脂肪酸又は脂質の水溶性塩の使用は、水溶液が例えばイオン交換カラム等への適用のために形成され得るため、その調製方法が促進されることを意味する。適切な水溶性塩は、ナトリウム又はカリウム塩等のアルカリ又はアルカリ土類金属塩である。
【0047】
さらに、塩及び特にオレイン酸ナトリウム等の塩が元々殺腫瘍効果を有することが発見されている。従って、複合体におけるそれの含有は、増大された活性を生じさせ得る。
【0048】
特定の実施形態において、本発明の方法において用いられる第1の塩は、塩化ナトリウムである。
【0049】
他の実施形態において、本発明の方法において用いられる第2の塩は、リン酸二ナトリウムである。
【0050】
他の特定の実施形態において、本発明の方法において用いられる第3の塩は、リン酸一カリウムである。
【0051】
本発明の方法において用いられる第1の塩:第2の塩の比は、適切に8:1~1:1であり、例えば5:1~2:1であり、特に4:1~3.5:1である。第1の塩:第3の塩の比は20:1~5:1であり、例えば15:1~10:1であり、特に12.5:1~11.5:1である場合がある。
【0052】
特定の実施形態において、第1の塩:第2の塩:第3の塩の比は、13~12:4~3:1である。
【0053】
本発明の方法において混合されたオレイン酸又はオレイン酸塩:ペプチドの比は、適切に20:1~1:1の範囲内であるが、好ましくは過剰のオレイン酸塩が存在し、例えばオレイン酸塩:ペプチドの比は約5:1である。混合は、0~50℃の温度で行われ得、便利には外気温及び大気圧で行われ得る。
【0054】
必要であれば、本発明のプロセスの生成物は、保存又は製剤化のために例えば凍結乾燥により固体化され得る。その後、使用のために特に無菌水を用いて再構成され得る。そのような手順は、ポリペプチドがタンパク質よりもむしろペプチドである場合に特に適切となり得る。本出願人らは、タンパク質がそのような凍結乾燥等の処理を受ける場合に天然の折り畳み状態に戻り得ることを発見した。
【0055】
その問題は、本調製方法の際に、例えば溶液のpHを例えば4以下に低くする、又はEDTA等のカルシウムキレート剤を溶媒に加えることにより、非折り畳み状態でポリペプチドを安定化することにより軽減され得る。第2の態様において、本発明は、第1の態様の方法により得られ得る複合体を提供する。
【0056】
従って、本発明の第2の態様の複合体は、従来の方法でそれらを医薬的に許容可能なキャリアと組み合わせることにより有用な医薬組成物に製剤化され得る。そのような組成物は本発明の第3の態様を形成する。
【0057】
本発明の第3の態様による組成物は、例えばクリーム、軟膏、ゲル、又は水性若しくは油性の溶若しくは懸濁液の局所使用に適切な形態の適切な医薬組成物である。これらは、医薬的に許容可能な一般に周知のキャリア、フィルタ及び/又は手段を含み得る。
【0058】
局所溶液又はクリームは、タンパク質複合体を希釈剤又はクリーム基剤と共にするために乳化剤を適切に含む。
【0059】
複合体の1日量は、標準の臨床診療に従って、異なって、患者、治療される条件の性質等に依存する。一般に2~200mg/用量の生物活性複合体が各投与で用いられる。
【0060】
本発明のさらなる態様において、上記のような生物活性複合体を、それを必要とする患者に投与することを含む癌を治療するための方法が提供される。
【0061】
特に、複合体は、ヒトの皮膚パピローマ、ヒト膀胱癌、及びグリオブラストーマ等の癌を治療するのに用いられ得る。後者の場合において、投与は本技術分野において周知の注入によりなされ得る。
【0062】
本発明は、治療、特に癌の治療に用いるための上記のような生物活性複合体を提供する。
【0063】
その複合体は、癌、特にWO2014/023976号等に記載されるような消化器癌の予防に用いられ得る。この場合、その複合体は、機能性食品として用いるためにヨーグルト等の乳製品等の食品と組み合わされ得る。この型の組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0064】
本明細書の詳細な説明から特許請求の範囲までの全てにおいて、「含む(comprise)」及び「含む(contain)」の用語並びに例えば「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」といったそれらの用語のバリエーションは、「限定されないが~を含む」を意味し、他の構成要素、整数又はステップを除外しない。さらに、単数形は、別段に定めがない限り、複数形を含み、特に不定冠詞が用いられる場合、明細書では、別段に定めがない限り複数形及び単数形と考えるものとして理解される。
【0065】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかに結合して説明されるものとなされ得る。この出願の範囲内で、種々の態様、実施形態、実施例及び変形例が前段、特許請求の範囲、並びに/又は以下の詳細な説明及び図面に提示され、特にそれらのそれぞれの特徴は独立して取られる又はいずれかが組み合わせられることが明示的に意図される。すなわち、全ての実施形態及び/又はいずれかの実施形態の特徴は、何らか組み合わされ得る及び/又はそのような特徴が両立しないことはない限り組み合わされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0066】
本発明は、以下の添付する図面を参照して、実施例によって具体的に説明される。
図1A図1Aは、以下で説明されるような腫瘍細胞に対して所定の範囲の生物活性複合体を用いて得られたATPライト、プレストブルー及びトリパンブルー試験の結果を示す。
図1B図1Bは、以下で説明されるような腫瘍細胞に対して所定の範囲の生物活性複合体を用いて得られたATPライト、プレストブルー及びトリパンブルー試験の結果を示す。
図1C図1Cは、以下で説明されるような腫瘍細胞に対して所定の範囲の生物活性複合体を用いて得られたATPライト、プレストブルー及びトリパンブルー試験の結果を示す。
図2図2は、溶液の濾過をして及び濾過をせずに得られた同様の結果の比較を示す。
図3図3は、ウシαラクトアルブミンを含む複合体の調製の図及び写真である。
図4図4は、得られた溶液が投与された腫瘍細胞のATPライト、プレストブルー及びトリパンブルー試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
(実施例1)
生物学的に許容可能な複合体の生成
所定範囲の生物活性複合体を配列番号7のペプチドを用いて調製した。
Ac-KQFTKAELSQLLKDIDGYGGIALPELIATMFHTSGYDTQ-OH(配列番号7)
これは、ヒトαラクトアルブミンの断片の変異体である。
【0068】
凍結乾燥状態のペプチド(700μM)をオレイン酸ナトリウム剥片(3.5mM)と共にチューブに加えた。その後、各チューブを以下のいずれかの必要体積で再構成した。
1)リン酸緩衝生理食塩水(NaCl6.8g/L)、NaHPO×2HO(4.
8g/L)及びKHPO(1.3g/L)(pH7.2)
2)NaCl溶液(116mM)(pH7.01)
3)NaHPO溶液(31mM)(pH8.6)
4)KH2PO4溶液(9.56mM)(pH4.6)
5)(2)及び(4)の混合液(pH4.63)
6)(2)及び(3)の混合液(pH8.37)
7)(3)及び(4)の混合液(pH7.29)
各混合液は溶液が透明になるまでボルテックスされる。
【0069】
その後、得られた複合体を凍結乾燥した。凍結乾燥条件は、1.2mbar未満の圧力及び-55℃未満の温度とした。
【0070】
各チューブを-20℃以下で保存し、使用直前に30mLの無菌水の添加により再構成した。
【0071】
(実施例2)
細胞死アッセイ
ヒト肺癌細胞(A549、ATCC)を、37℃、5%COで、非必須アミノ酸(1
:100)、1mMのピルビン酸ナトリウム、50μg/mlのゲンタマイシン及び5~10%のウシ胎児血清(FCS)を含むRPMI-1640で培養した。細胞死試験のために、細胞を96ウェルプレート(2×10/ウェル、Tecan Group Ltd)で一晩中培養した。細胞を、37℃で、7、21又は35μMのペプチドに相当する用量の実施例1で得られた生物活性複合体を含む無血清RPMI-1640中でインキュベートした。FCSを1時間後に加えた。細胞死を、1)ATPライトキット(Parkin Elmer)に基づく発光を用いた細胞のATPレベルの評価、2)プレストブルー蛍光染色(Invitrogen、A13262)及び3)トリパンブルー排除アッセイを含む3つの生物学的方法により、ペプチド-オレイン酸塩処理から3時間後に定量した。蛍光及び発光をマイクロプレートリーダ(InfiniteF200、Tecan)を用いて測定した。
【0072】
図1に結果を示す。PBSで調製された複合体は、高い活性を有し、濃度依存的に細胞死を引き起こした(図1A)。PBSの単一塩のみで調製された複合体では、顕著な活性の低減を示した(図1B)。しかしながら、図1Cに示すように、上記混合液(6)は、濃度依存的に腫瘍細胞死活性の合理的なレベルを維持した。
【0073】
(実施例3)
方法における濾過の効果
実施例1の方法を、PBS溶液(1)を用いて2度繰り返したが、ここでは、各溶液を、ポリエーテルスルホン膜(12846445、VWR)及びMinisart(登録商標) NML Cellulose酢酸塩膜(60810103、Sartorius)のいずれかの化学的に異なるフィルタに通した。生成物の生物学的効果を、濾過しなかった生成物と並べて比較して実施例2で説明したように試験した。結果を図2に示す。
【0074】
総細胞ATPレベル、プレストブルー染色及びトリパンブルー排除アッセイの測定により定量された複合体の生物学的活性に顕著な差は観察されなかった。
【0075】
(実施例4)
BAMLETの生成
凍結乾燥状態のウシαラクトアルブミン(700μM)を、オレイン酸ナトリウム剥片と共にチューブ(3.5mM)に加えた。その後、リン酸緩衝生理食塩水(1ml)をチューブに加え、室温で1~2分間ボルテックスした。透明の溶液が生成された(図3A)。
【0076】
得られた溶液を実施例2で説明したアッセイを用いて試験した。結果を図4に示す。その溶液が生物学的に活性であり、濃度依存的にA549肺癌細胞を殺傷することが明らかである。この効果は一過性であるが、複合体の凍結乾燥は活性を除去した。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
【配列表】
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