(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075325
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】X線回折による高分子測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2055 20180101AFI20230523BHJP
G01N 23/205 20180101ALI20230523BHJP
【FI】
G01N23/2055 310
G01N23/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044179
(22)【出願日】2023-03-20
(62)【分割の表示】P 2022077319の分割
【原出願日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021079813
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【弁理士】
【氏名又は名称】畠中 省伍
(72)【発明者】
【氏名】稲益 礼奈
(72)【発明者】
【氏名】山口 央基
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕次
(72)【発明者】
【氏名】三尾 和弘
(57)【要約】
【課題】表面(界面)における高分子の運動を測定でき、X線の全反射状態で高分子を観測することによって、標識なしに観測対象の表面近傍の情報が得られる、分析装置および分析方法を提供する。
【解決手段】高分子のX線に対する全反射角度前後でX線を高分子に照射し、時分割回折・散乱像を取得できる分析装置:ならびにX線の全反射角度でX線を高分子試料に照射する工程、時分割回折・散乱像を取得し、高分子表面の運動性を評価する工程を有する、高分子の分析方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨界角前後の入射角でX線を高分子に照射し、時分割回折・散乱像を取得できる分析装置。
【請求項2】
X線が透過する物質が高分子試料の表面上に存在していた場合でも、高分子試料の時分割回折・散乱像を取得できる請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
X線が透過する物質が高分子試料の表面上に存在していた場合に、そのX線を透過する物質の散乱・回折像を取得できる請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
分析装置が、
臨界角前後の入射角でX線を高分子に照射するビーム照射部、
試料からのX線を検出するセンサー部、
センサー部に設定した検出窓における信号を抽出する信号抽出部
を備える請求項1~3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
X線を照射するX線源部および試料を載せる試料台部の少なくとも1つについて可動を制御することによって、X線を全反射させる機構を有し、試料に入射させるX線の入射角度を表面に対して微小の角度に設定できる請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
臨界角前後の入射角でX線を高分子試料に照射する工程、
試料からのX線を検出する工程、および時分割回折・散乱像を取得し、高分子表面の運動性を評価する工程
を有する、高分子の分析方法。
【請求項7】
高分子試料に照射する工程において、X線の入射角は、0.001°~5°である請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
試料からのX線を検出する工程において、HPAD(ハイブリッドピクセルアレイ型検出器)によって検出を行う請求項6に記載の分析方法。
【請求項9】
時分割回折・散乱像を取得する工程において、温度調節装置の設定温度が-100℃~300℃である請求項6に記載の分析方法。
【請求項10】
高分子表面の運動性を評価する工程において、DXT法(Diffracted X-ray Tracking;X線1分子追跡法)またはDXB法(Diffracted X-ray Blinking;X線回折点滅観察)を用い、さらに、ACF(Autocorrelation Function;自己相関関数)を用いる請求項6~9のいずれかに記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線回折による高分子測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折を用いた種々の測定装置および測定方法が知られている。
特許文献1は、観測対象に標識を付して、ダメージを低減できる簡易なX線源を用いて対象物の運動を評価できる運動計測装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、観測対象への標識(例えば、金ナノ結晶)が必須であり、観測対象について、平均化されたバルクの情報しか得られない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、臨界角(X線が全反射する最大の角度)前後の入射角でX線を高分子に照射し、時分割回折・散乱像を取得できる分析装置を提供する。
加えて、本開示は、X線を照射するX線源部、試料を載せる試料台部、試料からのX線を検出する検出部、および検出部で検出された信号を処理する信号処理部を備えた分析装置を提供する。分析装置は、
臨界角前後の入射角でX線を高分子に照射するビーム照射部、
試料からの回折・散乱X線を検出するセンサー部、
センサー部に設定した検出窓における信号を抽出する信号抽出部
を備えることが好ましい。
さらに、本開示は、臨界角前後の入射角でX線を高分子試料に照射する工程、
試料からの回折・散乱X線を検出する工程、および
時分割回折・散乱像を取得する工程
を有する、高分子の分析方法を提供する。
本開示の分析装置および分析方法を用いることによって、種々の高分子を評価できる。
【0006】
本開示によれば、表面(界面)における高分子の運動を測定できる。X線が全反射する状態で温度制御しながら高分子を観測することによって、標識なしに観測対象の表面近傍の運動情報が得られる。また、低温環境下にて測定することにより、高分子表面上に水あるいは氷存在時の運動についても測定することができる。
【0007】
本開示の好ましい態様は、次のとおりである。
態様1:
高分子のX線に対する臨界角前後の入射角でX線を高分子に照射し、時分割回折・散乱像を取得できる分析装置。
態様2:
X線が透過する物質が高分子試料の表面上に存在していた場合でも、高分子試料の時分割回折・散乱像を取得できる態様1に記載の分析装置。
態様3:
X線が透過する物質が高分子試料の表面上に存在していた場合に、そのX線を透過する物質の散乱・回折像を取得できる態様1または2に記載の分析装置。
態様4:
分析装置が、
臨界角前後の入射角でX線を高分子に照射するビーム照射部、
試料からのX線を検出するセンサー部、
センサー部に設定した検出窓における信号を抽出する信号抽出部
を備える態様1~3のいずれかに記載の分析装置。
態様5:
X線を照射するX線源部および試料を載せる試料台部の少なくとも1つについて可動を制御することによって、X線を全反射させる機構を有し、試料に入射させるX線の入射角度を表面に対して微小の角度に設定できる態様4に記載の分析装置。
態様6:
臨界角前後の入射角でX線を高分子試料に照射する工程、
試料からのX線を検出する工程、および時分割回折・散乱像を取得し、高分子表面の運動性を評価する工程
を有する、高分子の分析方法。
態様7:
高分子試料に照射する工程において、X線の入射角は、0.001°~5°である態様6に記載の分析方法。
態様8:
試料からのX線を検出する工程において、試料との距離を任意で調整できるHPAD(ハイブリッドピクセルアレイ型検出器)によって検出を行う、態様6または7に記載の分析方法。
態様9:
時分割回折・散乱像を取得する工程において、温度調節装置の設定温度が-100℃~300℃である態様6~8のいずれかに記載の分析方法。
態様10:
高分子表面の運動性を評価する工程において、DXT法(Diffracted X-ray Tracking;X線1分子追跡法)またはDXB法(Diffracted X-ray Blinking;X線回折点滅観察)を用い、さらに、ACF(Autocorrelation Function;自己相関関数)を用いる態様6~9のいずれかに記載の分析方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、観測対象への標識(例えば、金ナノ結晶)を必要とせずに、高分子表面近傍に特化した時分割測定を行うことができる。
本開示において、観測対象は、高分子、特に合成高分子である。
全反射測定法の導入により、高感度に表面(界面)近傍における分子レベルの運動性を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】合成例1の高分子について、20℃条件で500ミリ秒の時間分解能における2D(2次元)GI-WAXD(Grazing Incidence Wide Angle X-ray Diffraction)回折プロファイルである。
【
図2】合成例1の高分子について、-15℃条件で凝縮水が試料表面に存在した状態での500ミリ秒の時間分解能における2D GI-WAXD回折プロファイルである。
【
図3】実施例1~4で得られた自己相関関数と減衰係数分布図である。
【
図4】実施例5~10で得られた減衰係数分布図である。
【
図5】比較例1~2で得られた自己相関関数と減衰係数分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示によれば、臨界角前後の入射角でX線を高分子に照射し、観測対象物への標識なしに、時分割回折・散乱像を取得できる。
本開示によれば、全反射回折系を導入して高分子表面近傍の分子動態を高感度に測定することができる。
【0011】
本開示において、DXT法(Diffracted X-ray Tracking;X線1分子追跡法)により分子動態を計測することができる。DXT法は、標識結晶からの透過型白色X線回折点(ラウエ斑点)の強度と位置から分子動態を評価する技術であり、空間・時間ともに高分解能で分子動態を計測できる手法である。並進運動換算で最大ピコメートルの空間分割観察が可能であり、マイクロ秒~ミリ秒の時間分解能で計測可能である。測定最高速度は数百ナノ秒の時分割観察が現在まで報告されている。今までに、分子動態計測は色々な系で実現しており、DNAや膜タンパク質分子などの多くの分子内運動計測に用いられている。
【0012】
本開示において、DXB法(Diffracted X-ray Blinking;X線回折点滅観察)を用いることが好ましい。DXB法は単色X線を用いて、ラウエ斑点の強度変化から分子動態を評価する技術であり、観測範囲であるデバイ-シェラーリングを出入りする回折輝点=回折強度のゆらぎ(Blinking)を分析することで動態情報を議論する。大型放射光設備のような白色X線で強度の大きい装置でのみ実施可能であったDXT法の時間分解能を汎用なX線回折装置でも可能にした手法である。DXB法を高分子に適用することは、従来、知られていなかった。DXB法は、回折X線を用いて分子動態を評価する技術であり、数ミリ秒~数秒の時間分解能で計測可能である。DXB法は、単色X線を用いるため汎用性が高く、白色X線に比べ測定対象物へ与えるダメージが小さいので、ミリ秒から秒オーダーの長時間の測定が可能である。
DXB法は、ラボレベルの汎用X線回折装置でも測定可能な手法であり、簡易で短時間に、極時分割X線回折測定が可能な手法である。
【0013】
本開示において、GIXD(Grazing Incidence X-ray Diffraction)を用いることが好ましい。GIXDにおいて、測定試料表面すれすれに(すなわち、小さい入射角で)X線を臨界角より小さな角度にて試料に入射すると全反射が生じる。これは、X線に対する物質の屈折率が1よりもわずかに小さいことに起因している。臨界角前後の入射角でX線を入射させ、X線の散乱および回折を測定することで、試料の最表面近傍や内部の凝集状態を議論できる。
【0014】
本開示において、ACF(Autocorrelation Function;自己相関関数)を用いることが好ましい。X線回折2次元画像を、数ミリ秒から数秒の時間分解能で、100~10000枚、例えば約2000枚撮影する。各ピクセルに対して、回折強度の時系列変化を抽出し、そこから自己相関関数を用いた解析を行う。
式中、y
0は自己相関関数の収束値、Aは減衰の幅で、Tが減衰係数、すなわち自己相関関数の減衰速度を表している。減衰係数Tの値が大きいほど、減衰は速くなる(すなわち、運動性が高い)。
【0015】
本開示によれば、温度を制御しながら測定することで、高分子薄膜表面の分子鎖の運動性や高分子薄膜上での水/氷の運動挙動、水/氷界面での高分子表面の分子鎖の動きを捉え得る。
【0016】
本開示のX線分析装置は、X線回折装置に、試料に入射したX線を試料表面にて全反射させる機構を組み込んだものである。X線回折装置は、汎用なX線回折装置であってよい。
【0017】
X線回折装置は、X線を照射するX線源部、試料を載せる試料台部、試料からのX線を検出する検出部、検出部で検出された信号を処理する信号処理部を備えていることが好ましい。X線源部および試料台部の一方または両方において、試料に入射したX線を試料表面にて全反射させる機構が組み込まれている。
【0018】
X線回折装置は、例えば、特開2018-84447号公報に記載されている運動計測装置であってよい。この公報の開示を参照として本願明細書に組み込む。この運動計測装置は、試料に量子ビーム(X線)を照射するビーム照射部と、試料からの量子ビームを検出するセンサー(センサー部)と、センサーに設定した所定の検出窓における信号を抽出する信号抽出部を備える。この運動計測装置では、標識が用いられているが、本開示においては結晶性を有する合成高分子を測定対象に用いるため、標識は一般に不要である。
【0019】
ビーム照射部は、量子ビームとしてX線を照射する。
センサー部は、回折されたX線を検出するセンサーを有する。
信号抽出部は、センサー部の検出面の検出領域内に配列された複数の画素(検出窓)によって計測した検出強度をデータとして徐々に抽出する。
【0020】
X線を全反射させる機構は、例えば、試料に入射させるX線の入射角度を表面に対して微小(例えば、5°以下、1°以下または0.1°以下、例示すれば0.05°)に設定できる。特開2018-84447号公報に記載されている運動計測装置において、制御装置(制御デバイス)が、ステージ駆動部を介してサンプルステージの動作を制御しており、サンプルステージに支持されるサンプルセルの位置や姿勢を調整することができ、試料に入射させるX線の入射角度が調整される。
【0021】
X線が全反射する最大の角度(臨界角)は、高分子の種類などによって変化する。一般に、全反射が生じる高分子への入射角(X線が入射するときに、入射方向と高分子表面がなす角度)は0.001°~5°、例えば0.01°~4°または0.03°~3°であってよい。あるいは、入射角は、0.01°~3°または0.02°~2°または0.03~1.5°であってよい。
【0022】
X線は白色または単色であってよいが、試料へのダメージ低減の観点より単色であることが好ましい。単色X線を使用した場合、X線の強度変化を明確な点滅(Blinking X-ray: X線ブリンキング)として検出する。X線の波長は、一般に、0.01Å~100Å、例えば、0.1Å~10Å、特に0.5Å~5Åである。
【0023】
X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることによって、回折斑点の運動特性を評価できる。回折斑点は、その強度と広さによって、例えばシャープなパターン、およびハロー(連続)パターンとして表示できる。回折斑点の運動特性は、自己相関関数と減衰係数分布によって数値化することができる。
【0024】
高分子の分析方法は、
臨界角前後の入射角でX線を高分子試料に照射する工程、
試料からのX線を検出する工程、および
時分割回折・散乱像を取得し、高分子表面の運動性を評価する工程
を有する。
【0025】
高分子試料に照射する工程において、X線の入射角は、0.001°~5°、例えば0.01°~4°または0.03°~3°であってよい。X線の入射角は、臨界角前後の入射角であり、X線が全反射する角度、およびX線が全反射する最大の角度(臨界角)付近でX線が試料に(μmオーダー以上にて、例えば1μm以上または10μm以上にて)侵入するか、もしくは試料を透過する角度である。X線の入射角は、限定されるものではないが、下限が0.001°、0.005°、0.01°、0.03°、0.05°、0.07°、0.1°、0.15°、0.2°、0.3°、0.4°、0.5°、0.6°、0.7°または0.8°であってよく、上限が5°、4°、3.5°、3°、2.5°、2°、1.5°、1.2°または1°であってよい。
【0026】
試料から全反射・回折・散乱されたX線を検出する工程において、検出器は、一般に使用する検出器であってよい。2次元検出部として、世界の放射光施設で利用されているHPAD(ハイブリッドピクセルアレイ型検出器)が、読み出し速度が高速でシャッターレス測定が可能であり、低ノイズである観点から、好ましい。また、試料とHPADの距離は、試料中におけるÅ~μm程度の構造に関する分子動態情報を取得する観点から、取得したい構造の分子動態に応じて任意で調整できることが好ましい。
【0027】
次いで、試料からのX線回折斑点の運動すべてを時分割追跡して、時分割回折・散乱像を取得し、高分子表面の運動性を評価する。測定において、数ミリ秒の時分割が可能である。X線回折2次元画像を、数ミリ秒から数秒の時間分解能で、100~10000枚、例えば約2000枚撮影してよい。X線回折強度のACF(Autocorrelation Function;自己相関関数)を算出し減衰係数を求めることによって、回折斑点の運動特性の評価が容易になる。
【0028】
本開示の具体例を以下に説明する。
【0029】
Rf基含有高分子:
【化1】
について、次のような分析を行った。フルオロアルキル基(以下、Rf基と称する)含有高分子は、実施例(合成例1)で製造した合成高分子と同一である。合成高分子の1%溶液をシリコン基板上に2000rpm、30秒間条件でスピンコートした。この高分子塗布基板について、100℃で10分間熱処理を加えた試料と、熱処理を行わなかった試料を用意し、それぞれ測定を行った。X線は、単色X線(波長1.5418Å(CuKα))を用いた。熱処理ありの高分子試料は、シャープなパターン(結晶性であると考えられる)を示し、一方、熱処理なしの高分子試料は、ハロー(連続)パターン(前者に比較すると非晶的である)を示した。
【0030】
(1)2D GI-WAXD回折プロファイル
合成例1の高分子について、20℃条件で500ミリ秒の時間分解能における2D GI-WAXD回折プロファイルを得た。回折プロファイルを
図1に示す。
図1から、熱処理の有無に関係なく、回折プロファイルを得ることができること、および熱処理の有無でのRf基の2次元凝集構造、その高次構造の配向性の違いを確認できた。
【0031】
(2)凝縮水が試料表面に存在した状態での回折プロファイル
合成例1の高分子について、-15℃条件で凝縮水が試料表面に存在した状態での500ミリ秒の時間分解能における2D GI-WAXD回折プロファイルを得た。回折プロファイルを
図2に示す。
凝縮水のハロー、氷の結晶と考えられるプロファイルを観察した。
Rf基の凝集状態が異なることで、凝縮水の挙動が異なる可能性を示している。熱処理なしの場合には、水のハローがなくなり氷の結晶と思われる回折が観察され、一方、熱処理ありの場合には、水のハローのみが観察された。このことは、過冷却解除に分子鎖凝集構造が影響しており、規則的な凝集構造が過冷却解除遅延させる可能性を示している。
【実施例0032】
以下、実施例および比較例を示し、本開示を具体的に説明するが、この説明は、本開示を限定するものではない。
【0033】
下記装置と条件によりX線回折測定を行った。
(1)実施例1~4
X線装置:Rigaku社製 MicroMax-007HF
検出器:Rigaku社製 PILATUS(pixel apparatus for the SLS)3R 200K-A
X線の波長:1.5418Å(CuKα)
照射角度:0.05°
温調器:ジャパンハイテック社 顕微鏡用ペルチェ式冷却加熱ステージ10021
検出距離:50mm
露光時間:50ミリ秒
撮影枚数:2000フレーム
【0034】
(2)実施例5~6
X線装置:Rigaku社製 MicroMax-007HF
検出器:Rigaku社製 PILATUS(pixel apparatus for the SLS)3R 200K-A
X線の波長:1.5418Å(CuKα)
照射角度:0.07°
温調器:ジャパンハイテック社 顕微鏡用ペルチェ式冷却加熱ステージ10021
検出距離:55mm
露光時間:50ミリ秒(実施例5)、500ミリ秒(実施例6)
撮影枚数:2000フレーム
【0035】
(3)実施例7~8
X線装置:Rigaku社製 MicroMax-007HF
検出器:Rigaku社製 PILATUS(pixel apparatus for the SLS)3R 200K-A
X線の波長:1.5418Å(CuKα)
照射角度:0.22°
温調器:ジャパンハイテック社 顕微鏡用ペルチェ式冷却加熱ステージ10021
検出距離:55mm
露光時間:50ミリ秒(実施例7)、500ミリ秒(実施例8)
撮影枚数:2000フレーム
【0036】
(4)実施例9~10
X線装置:Rigaku社製 MicroMax-007HF
検出器:Rigaku社製 PILATUS(pixel apparatus for the SLS)3R 200K-A
X線の波長:1.5418Å(CuKα)
照射角度:1.0°
温調器:ジャパンハイテック社 顕微鏡用ペルチェ式冷却加熱ステージ10021
検出距離:55mm
露光時間:50ミリ秒(実施例9)、500ミリ秒(実施例10)
撮影枚数:2000フレーム
【0037】
(5)比較例1~2
X線装置:Rigaku社製 MicroMax-007HF
検出器:Rigaku社製 PILATUS(pixel apparatus for the SLS)3R 200K-A
X線の波長:1.5418Å(CuKα)
照射角度:透過(90°)
温調器:ジャパンハイテック社 顕微鏡用ペルチェ式冷却加熱ステージ10084L
検出距離:70mm
露光時間:50ミリ秒
撮影枚数:2000フレーム
【0038】
合成例1
反応容器に1H,1H,2H,2H-Heptadecafluorodecyl Acrylate(東京化成工業株式会社の市販試薬)を10.1g入れ、反応フラスコ内を窒素置換した後、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.04gを添加し、65℃で一晩反応させて、重合体(以下、化合物A)を8.8g得た。
化合物Aの重量平均分子量は約57万(PMMA換算)であった。
【0039】
実施例1
合成例1で得られた化合物Aの1%溶液をシリコン基板上に2000rpm、30秒間条件でスピンコートした後、100℃で10分アニールした。この基板を温度調節装置上に載せ、10℃条件で測定を行った。X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価した。この時の自己相関関数と減衰係数分布図を
図3(上の図)に示す。
【0040】
実施例2
合成例1で得られた化合物Aの1%溶液をシリコン基板上に2000rpm、30秒間条件でスピンコートした後、100℃で10分アニールした。この基板を温度調節装置上に載せ、-10℃条件で測定を行った。X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価した。この時の自己相関関数と減衰係数分布図を
図3(上の図)に示す。
【0041】
実施例3
合成例1で得られた化合物Aの1%溶液をシリコン基板上に2000rpm、30秒間条件でスピンコートした。この基板を温度調節装置上に載せ、10℃条件で測定を行った。X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価した。この時の自己相関関数と減衰係数分布図を
図3(下の図)に示す。
【0042】
実施例4
合成例1で得られた化合物Aの1%溶液をシリコン基板上に2000rpm、30秒間条件でスピンコートした。この基板を温度調節装置上に載せ、-10℃条件で測定を行った。X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価した。この時の自己相関関数と減衰係数分布図を
図3(下の図)に示す。
【0043】
実施例5~10
合成例1で得られた化合物Aの1%溶液をシリコン基板上に2000rpm、30秒間条件でスピンコートした後、100℃で10分アニールした。この基板を温度調節装置上に載せ、20℃条件で測定を行った。X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価した。この時の減衰係数分布図を
図4に示す。
【0044】
比較例1
合成例1で得られた化合物A 0.05gをポリイミド紙(カプトン(登録商標)紙)上に載せ、130℃まで加熱し溶かしてから、もう一枚のカプトン紙で挟み、10℃条件で透過測定を行った。X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価した。この時の自己相関関数と減衰係数分布図を
図5に示す。
【0045】
比較例2
合成例1で得られた化合物A 0.05gをポリイミド紙(カプトン(登録商標)紙)上に載せ、130℃まで加熱し溶かしてから、もう一枚のカプトン紙で挟み、-10℃条件で透過測定を行った。X線回折強度の自己相関関数を測定し減衰係数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価した。この時の自己相関関数と減衰係数分布図を
図5に示す。
【0046】
比較例1と2と同様に、実施例1~10においてもX線回折の強度変化より減衰関数を求めることで、回折斑点の運動特性を評価することができた。
表1は、実施例1~10および比較例1と2の結果を示す。
【0047】