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特開2023-75374新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療剤および医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075374
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療剤および医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230524BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230524BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230524BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20230524BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20230524BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230524BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20230524BHJP
   A61P 11/00 20060101ALN20230524BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P31/14
A61P43/00 121
A61K31/4375
A61K31/495
A61K31/519
A61K31/404
A61P11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020077867
(22)【出願日】2020-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】501280921
【氏名又は名称】インタープロテイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛史
(72)【発明者】
【氏名】池田 健
(72)【発明者】
【氏名】松崎 尹雄
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZB331
4C084ZC201
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086BC50
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】SARS-CoV-2のプロテアーゼ(3CLpro)抑制作用を有するコロナウイルス肺炎の新規予防及び/又は治療剤の提供。
【解決手段】3CLproを阻害する活性を有する化合物を有効成分として含有する、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防又は治療剤。前記化合物はトスフロキサシン、メクリジン、パルボシクリブ及びフルバスタチンからなる群から選択されることが好ましく、前記予防又は治療剤は、前記化合物群から選択される少なくとも2種以上の化合物を含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3CLproを阻害する活性を有する化合物を有効成分として含有する、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療剤。
【請求項2】
前記化合物が、下記の一般式(1)、(2)、(3)もしくは(4)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩またはその溶媒和物である、[1]に記載の予防または治療剤。
【化1】
(式中、R1は、水素原子またはカルポキシル保護基を示し、R2は置換されていてもよいアリール基を示し、R3はハロゲン原子または置換されていてもよい環状アミノ基を示す。)

【化2】
(式中、X1およびX2は独立して水素、ハロゲン、直鎖または分岐鎖低級アルキル、アルコキシまたはヒドロキシルラジカルを表し、Rはアルキル、アルケニル、アラルアルキル、アラルアルケニル、ヒドロキシアルキル、アリールオキシアルキル、アルコキシアルキルなどの基から選択される。)

【化3】

(式中、破線はオプションの結合を表し、
X1、X2、およびX3は独立して水素、ハロゲン、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C1-C8アルコキシ、C1-C8アルコキシアルキル、CN-NO2、OR5-NR5R6、CO2R5、COR5、S(O)nR5、CONR5R6-NR5COR6-NR5SO2R6、SO2NR5R6、およびP(O)(OR5)(OR6)からなる群から選ばれ、
Nは0-2であり、
R1は、各場合において、独立して、水素、ハロゲン、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C1-C6ヒドロキシアルキル、またはC3-C7シクロアルキルであり、
R2およびR4は、水素、ハロゲン、C1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル、C1-C8アルコキシ、C1-C8アルコキシアルキル、C1-C8ハロアルキル、C1-C8ヒドロキシアルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8アルキニル、ニトリル、ニトロ、OR5、SR5-NR5R6-N(O)R5R6、P(O)(OR5)(OR6)、(CR5R6)mNR7R8、COR5、(CR4R5)mC(O)R7、CO2R5、CONR5R6、C(O)NR5SO2R6-NR5SO2R6、C(O)NR5OR6、S(O)nR5、SO2NR5R6、P(O)(OR5)(OR6)、(CR5R6)mP(O)(OR7)(OR8)、(CR5R6)m-アリール、(CR5R6)m-ヘテロアリール、T(CH2)mQR5、-C(O)T(CH2)mQR5-NR5C(O)T(CH2)mQR5、及び-CR5=CR6C(O)R7からなる群から選ばれ、
または
R1およびR2は、3~7環員、好ましくは5~6環員を含む炭素環式基を形成してもよく、そのうち4つまでは、酸素、硫黄、窒素から独立して選択されるヘテロ原子で任意に置き換えることができ、該炭素環式基は非置換であるか、またはハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトリル、低級C1-C8アルキル、低級C1-C8アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、トリフルオロメチル-N-ヒドロキシアセトアミド、トリフルオロメチルアルキル、アミノ、およびモノまたはジアルキルアミノ、(CH2)mC(O)NR5R6、およびO(CH2)mC(O)OR5から独立して選択される1、2、または3つの基で置換され、
TはO、S-NR7-N(O)R7-NR7R8W、またはCR7R8であり、
QはO、S-NR7-N(O)R7-NR7R8W、CO2、O(CH2)m-ヘテロアリール、O(CH2)mS(O)nR8、(CH2)-ヘテロアリール、または3~7個の環員を含む炭素環であり、そのうち4つまでは、酸素、硫黄、窒素から独立して選択されるヘテロ原子で任意に置き換えることができ、該炭素環基は非置換であるか、またはハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、トリフルオロメチル-N-ヒドロキシアセトアミド、トリフルオロメチルアルキル、アミノ、およびモノまたはジアルキルアミノから独立して選択される1、2、または3つの基で置換され、
Wは、塩化物、臭化物、トリフルオロ酢酸、およびトリエチルアンモニウムからなる群から選択される陰イオンであり、
mは0-6であり、
R4およびX1、X2およびX3の1つは 、酸素、硫黄、および窒素から独立して選択された最大3つのヘテロ原子を含む芳香環を形成してもよく、該芳香環は、
ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、アミノアルキルカルボニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチルアルキル、トリフルオロメチルアルキルアミノアルキル、アミノ、モノまたはジアルキルアミノ-N-ヒドロキシアセトアミド、アリール、ヘテロアリール、カルボキシアルキル、ニトリル-NR7SO2R8、C(O)NR7R8-NR7C(O)R8、C(O)OR7、C(O)NR7SO2R8、(CH2)mS(O)nR7、(CH2)m-ヘテロアリール、O(CH2)m-ヘテロアリール、(CH2)、C(O)NR7R8、O(CH2)mC(O)OR7、(CH2)mSO2NR7R8およびC(O)R7 から独立して選択された最大4つの基で任意に置換されていてもよく、
R3は水素、アリール、C1-C8アルキル、C1-C8アルコキシ、C3-C7シクロアルキル、またはC3-C7-ヘテロシクリルであり、
R5およびR6は独立して水素、C1-C8アルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8アルキニル、アリールアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキルであり、または
R5およびR6は、同じ窒素原子に結合している場合、それらが結合している窒素と一緒に、3~8個の環員を含む複素環を形成してよく、そのうちの4つまでのメンバーは、必要に応じて独立して酸素、硫黄、S(O)、S(O)2および窒素から独立して選択されるヘテロ原子で置き換えることができ、該複素環は非置換であるか、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、アミノアルキルカルボニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチルアルキル、トリフルオロメチルアルキルアミノアルキル、アミノ、ニトリル、モノまたはジアルキルアミノ-N-ヒドロキシアセトアミド、アリール、ヘテロアリール、カルボキシアルキル-NR7SO2R8、C(O)NR7R8-NR7C(O)R8、C(O)OR7、C(O)NR7SO2R8、(CH2)mS(O)nR7、(CH2)m-ヘテロアリール、O(CH2)m-ヘテロアリール、(CH2)mC(O)NR7R8、O(CH2)mC(O)OR7、および(CH2)SO2NR7R8 から独立して選択される1、2、または3つの基で置換されていてもよく、
R7およびR8は、独立して、水素、C1-C8アルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8アルキニル、アリールアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキルであり、または
R7とR8は、同じ窒素原子に結合している場合、それらが結合している窒素と一緒に、3~8の環員を含む複素環を形成してもよく、そのうちの4つまでのメンバーは、必要に応じて独立して酸素、硫黄、S(O)、S(O)2および窒素から独立して選択されるヘテロ原子で置き換えることができ、該複素環基が非置換であるか、またはハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、アミノアルキルカルボニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチルアルキル、トリフルオロメチルアルキルアミノアルキル、アミノ、ニトリル、モノ-またはジアルキルアミノ-N-ヒドロキシアセトアミド、アリール、ヘテロアリール、カルボキシアルキルから独立して選択される1、2、または3つの基で置換されていてもよい。)

【化4】
(式中、RおよびRoの一方は

であり、もう一方は、第一級または第二級のC1-6アルキル、C1-3シクロアルキルまたはフェニル-(CH2)m-、
ここで、R4は水素、C1-3アルキル-N-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、C1-3アルコキシ-N-ブトキシ、i-ブトキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
R5は水素、C1-3アルキル、C1-3アルコキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
R5aは水素、C-1-2アルキル、C-1-2アルコキシ、フルオロ、またはクロロであり、
mは1、2、または3であり、
R2は水素、C1-3アルキル-N-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、C3-6シクロアルキル、C1-3アルコキシ-N-ブトキシ、i-ブトキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
R3は、水素、C1-3アルキル、C1-3アルコキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
Xは-(CH2)-N-または-CH=CH-であり、
nは0-1、2、または3であり、
Zは

であり、
ここで、R6は水素またはC1-3アルキルであり、R7は水素、C1-3アルキル-N-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ベンジル、またはMであり、Mはカチオンである。)
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、トスフロキサシンである、請求項2に記載の予防または治療剤。
【請求項4】
前記式(2)で表される化合物が、メクリジンである、請求項2に記載の予防または治療剤。
【請求項5】
前記式(3)で表される化合物が、パルボシクリブである、請求項2に記載の予防または治療剤。
【請求項6】
前記式(4)で表される化合物が、フルバスタチンである、請求項2に記載の予防または治療剤。
【請求項7】
トスフロキサシン、メクリジン、パルボシクリブおよびフルバスタチンからなる群から選択される少なくとも2種以上の化合物を含有する、請求項1に記載の予防または治療剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の予防または治療剤および薬学的に許容される担体を含む、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療用医薬組成物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス特有のプロテアーゼ(3-chymotrypsin-like protease;3CLpro)を阻害する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療剤および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年の年末に現われた新興感染症である。COVID-19は、疫学的には重症急性呼吸器症候群(SARS:severe acute respiratory syndrome)とも、また新型インフルエンザともまったく異なり、多くの感染者が無症候・軽症であり、すべての感染連鎖を見つけることはほぼ不可能である。
【0003】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病原体として特定されている。
【0004】
3CLproは、細胞内複製に関与する新規コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主要プロテアーゼであることが知られており、該プロテアーゼはウイルスのライフサイクルでの重要な機能を示すだけでなく、コロナウイルス肺炎の症状を引き起こす原因となっている。よって、SARS-CoV-2 が持つプロテアーゼ3CLproは、コロナウイルス肺炎の治療の有効な薬剤ターゲットと考えられるが、コロナウイルス肺炎の有効な予防または治療剤の開発には至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来法では、コロナウイルス肺炎を十分に予防および/ または治療することができなかったため、コロナウイルス肺炎を有効に治療することができる新たな方法が望まれていた。そこで、本発明では、3CLproを阻害するCOVID-19の予防または治療剤および医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、複数の含窒素複素環を有する化合物がSARS-CoV-2 のプロテアーゼ(3CLpro)を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記記載の発明を提供することにより、上記課題を解決したものである。
[1]
3CLproを阻害する活性を有する化合物を有効成分として含有する、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療剤。
[2]
前記化合物が、下記の一般式(1)、(2)、(3)もしくは(4)で表される化合物もしくはその薬学的に許容される塩またはその溶媒和物である、[1]に記載の予防または治療剤。
【化1】

(式中、R1は、水素原子またはカルポキシル保護基を示し、R2は置換されていてもよいアリール基を示し、R3はハロゲン原子または置換されていてもよい環状アミノ基を示す。)
【化2】
(式中、X1およびX2は独立して水素、ハロゲン、直鎖または分岐鎖低級アルキル、アルコキシまたはヒドロキシルラジカルを表し、Rはアルキル、アルケニル、アラルアルキル、アラルアルケニル、ヒドロキシアルキル、アリールオキシアルキル、アルコキシアルキルなどの基から選択される。)

【化3】

(式中、破線はオプションの結合を表し、
X1、X2、およびX3は独立して水素、ハロゲン、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C1-C8アルコキシ、C1-C8アルコキシアルキル、CN-NO2、OR5-NR5R6、CO2R5、COR5、S(O)nR5、CONR5R6-NR5COR6-NR5SO2R6、SO2NR5R6、およびP(O)(OR5)(OR6)からなる群から選ばれ、
Nは0-2であり、
R1は、各場合において、独立して、水素、ハロゲン、C1-C6アルキル、C1-C6ハロアルキル、C1-C6ヒドロキシアルキル、またはC3-C7シクロアルキルであり、
R2およびR4は、水素、ハロゲン、C1-C8アルキル、C3-C7シクロアルキル、C1-C8アルコキシ、C1-C8アルコキシアルキル、C1-C8ハロアルキル、C1-C8ヒドロキシアルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8アルキニル、ニトリル、ニトロ、OR5、SR5-NR5R6-N(O)R5R6、P(O)(OR5)(OR6)、(CR5R6)mNR7R8、COR5、(CR4R5)mC(O)R7、CO2R5、CONR5R6、C(O)NR5SO2R6-NR5SO2R6、C(O)NR5OR6、S(O)nR5、SO2NR5R6、P(O)(OR5)(OR6)、(CR5R6)mP(O)(OR7)(OR8)、(CR5R6)m-アリール、(CR5R6)m-ヘテロアリール、T(CH2)mQR5、-C(O)T(CH2)mQR5-NR5C(O)T(CH2)mQR5、及び-CR5=CR6C(O)R7からなる群から選ばれ、
または
R1およびR2は、3~7環員、好ましくは5~6環員を含む炭素環式基を形成してもよく、そのうち4つまでは、酸素、硫黄、窒素から独立して選択されるヘテロ原子で任意に置き換えることができ、該炭素環式基は非置換であるか、またはハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトリル、低級C1-C8アルキル、低級C1-C8アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、トリフルオロメチル-N-ヒドロキシアセトアミド、トリフルオロメチルアルキル、アミノ、およびモノまたはジアルキルアミノ、(CH2)mC(O)NR5R6、およびO(CH2)mC(O)OR5から独立して選択される1、2、または3つの基で置換され、
TはO、S-NR7-N(O)R7-NR7R8W、またはCR7R8であり、
QはO、S-NR7-N(O)R7-NR7R8W、CO2、O(CH2)m-ヘテロアリール、O(CH2)mS(O)nR8、(CH2)-ヘテロアリール、または3~7個の環員を含む炭素環であり、そのうち4つまでは、酸素、硫黄、窒素から独立して選択されるヘテロ原子で任意に置き換えることができ、該炭素環基は非置換であるか、またはハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、トリフルオロメチル-N-ヒドロキシアセトアミド、トリフルオロメチルアルキル、アミノ、およびモノまたはジアルキルアミノから独立して選択される1、2、または3つの基で置換され、
Wは、塩化物、臭化物、トリフルオロ酢酸、およびトリエチルアンモニウムからなる群から選択される陰イオンであり、
mは0-6であり、
R4およびX1、X2およびX3の1つは 、酸素、硫黄、および窒素から独立して選択された最大3つのヘテロ原子を含む芳香環を形成してもよく、該芳香環は、
ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、アミノアルキルカルボニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチルアルキル、トリフルオロメチルアルキルアミノアルキル、アミノ、モノまたはジアルキルアミノ-N-ヒドロキシアセトアミド、アリール、ヘテロアリール、カルボキシアルキル、ニトリル-NR7SO2R8、C(O)NR7R8-NR7C(O)R8、C(O)OR7、C(O)NR7SO2R8、(CH2)mS(O)nR7、(CH2)m-ヘテロアリール、O(CH2)m-ヘテロアリール、(CH2)、C(O)NR7R8、O(CH2)mC(O)OR7、(CH2)mSO2NR7R8およびC(O)R7 から独立して選択された最大4つの基で任意に置換されていてもよく、
R3は水素、アリール、C1-C8アルキル、C1-C8アルコキシ、C3-C7シクロアルキル、またはC3-C7-ヘテロシクリルであり、
R5およびR6は独立して水素、C1-C8アルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8アルキニル、アリールアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキルであり、または
R5およびR6は、同じ窒素原子に結合している場合、それらが結合している窒素と一緒に、3~8個の環員を含む複素環を形成してよく、そのうちの4つまでのメンバーは、必要に応じて独立して酸素、硫黄、S(O)、S(O)2および窒素から独立して選択されるヘテロ原子で置き換えることができ、該複素環は非置換であるか、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、アミノアルキルカルボニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチルアルキル、トリフルオロメチルアルキルアミノアルキル、アミノ、ニトリル、モノまたはジアルキルアミノ-N-ヒドロキシアセトアミド、アリール、ヘテロアリール、カルボキシアルキル-NR7SO2R8、C(O)NR7R8-NR7C(O)R8、C(O)OR7、C(O)NR7SO2R8、(CH2)mS(O)nR7、(CH2)m-ヘテロアリール、O(CH2)m-ヘテロアリール、(CH2)mC(O)NR7R8、O(CH2)mC(O)OR7、および(CH2)SO2NR7R8 から独立して選択される1、2、または3つの基で置換されていてもよく、
R7およびR8は、独立して、水素、C1-C8アルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8アルキニル、アリールアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロアリールアルキルであり、または
R7とR8は、同じ窒素原子に結合している場合、それらが結合している窒素と一緒に、3~8の環員を含む複素環を形成してもよく、そのうちの4つまでのメンバーは、必要に応じて独立して酸素、硫黄、S(O)、S(O)2および窒素から独立して選択されるヘテロ原子で置き換えることができ、該複素環基が非置換であるか、またはハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、低級アルキル、低級アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、アミノアルキル、アミノアルキルカルボニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメチルアルキル、トリフルオロメチルアルキルアミノアルキル、アミノ、ニトリル、モノ-またはジアルキルアミノ-N-ヒドロキシアセトアミド、アリール、ヘテロアリール、カルボキシアルキルから独立して選択される1、2、または3つの基で置換されていてもよい。)
【化4】
(式中、RおよびRoの一方は
であり、もう一方は、第一級または第二級のC1-6アルキル、C1-3シクロアルキルまたはフェニル-(CH2)m-であり
ここで、R4は水素、C1-3アルキル-N-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、C1-3アルコキシ-N-ブトキシ、i-ブトキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
R5は水素、C1-3アルキル、C1-3アルコキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
R5aは水素、C-1-2アルキル、C-1-2アルコキシ、フルオロ、またはクロロであり、
mは1、2、または3であり、
R2は水素、C1-3アルキル-N-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、C3-6シクロアルキル、C1-3アルコキシ-N-ブトキシ、i-ブトキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
R3は、水素、C1-3アルキル、C1-3アルコキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり、
Xは-(CH2)-N-または-CH=CH-であり、
nは0-1、2、または3であり、
Zは

であり、
ここで、R6は水素またはC1-3アルキルであり、R7は水素、C1-3アルキル-N-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ベンジル、またはMであり、Mはカチオンである。)。
[3]
前記式(1)で表される化合物が、トスフロキサシンである、[2]に記載の予防または治療剤。
[4]
前記式(2)で表される化合物が、メクリジンである、[2]に記載の予防または治療剤。
[5]
前記式(3)で表される化合物が、パルボシクリブである、[2]に記載の予防または治療剤。
[6]
前記式(4)で表される化合物が、フルバスタチンである、[2]に記載の予防または治療剤。
[7]
トスフロキサシン、メクリジン、パルボシクリブおよびフルバスタチンからなる群から選択される少なくとも2種以上の化合物を含有する、[1]に記載の予防または治療剤。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載の予防または治療剤および薬学的に許容される担体を含む、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の阻害剤を用いることにより、3CLproを特異的に抑制することができ、それによってSARS-CoV-2の複製を阻害することができる。本発明の阻害剤は、COVID-19の予防または治療剤として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
特に言及しない限り、本明細書および特許請求の範囲で用いた用語は、以下に述べる意味を有する。
【0011】
本発明の3CLproの阻害剤は、SARS-CoV-2を含む種々のコロナウイルスが宿主細胞内で複製する際に必須の蛋白質分解酵素の一つである3CLproに結合し、その活性を抑制することによりコロナウイルスの複製を阻害し、コロナウイルスによって生じる肺炎、敗血症および多臓器不全などの症状を予防または改善することが期待される薬剤である。
【0012】
本発明で使用する前記化合物は遊離形態であってもよく、塩の形態であってもよく、溶媒和物の形態であってもよく、または修飾もしくは誘導体化されていてもよい。
【0013】
本発明の化合物の薬学的に許容される塩としては、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩およびカルシウム塩等)、アンモニウム塩、モノ-、ジ-またはトリ-低級(アルキルまたはヒドロキシアルキル)アンモニウム塩(例えば、エタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、トロメタミン塩)、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝 酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、トリクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メシチレンスルホン酸塩およびナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。また、塩は、無水物、または溶媒和物であってもよく、溶媒和物としては、水和物、メタノール和物、エタノール和物、プロパノール和物および2-プロパノール和物等が挙げられる。
【0014】
上記式(1)~(4)で表される化合物は、ラセミ体であってもよく、純粋なエナンチオマーであってもよい。
【0015】
上記式(1)で表される化合物は、トスフロキサシン(Tosufloxacin)であってもよい。トスフロキサシンは、7-(3-アミノピロリジン-1-イル)-1-(2,4-ジフルオロフェニル)-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロ-1,8-ナフチリジン-3-カルボン酸の国際一般名(INN)であり、下記式(5)で表される化学構造を有する化合物である。また、下記式(5)の化合物のCAS番号は、1400591-39-0である。
【0016】
【化5】
【0017】
上記式(2)で表される化合物は、メクリジン(Meclizine)であってもよい。メクリジンは、(RS)-1-[(4-クロロフェニル)(フェニル)メチル]-4-(3-メチルベンジル)ピペラジンの国際一般名(INN)であり、下記式(6)で表される化学構造を有する化合物である。また、下記式(6)の化合物のCAS番号は、1104-22-9である。
【0018】
【化6】
【0019】
上記式(3)で表される化合物は、パルボシクリブ(Palbociclib)であってもよい。パルボシクリブは、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-{[5-(ピペラジン-1-イル)ピリジン-2-イル]アミノ}ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オンの国際一般名(INN)であり、下記式(7)で表される化学構造を有する化合物である。また、下記式(7)の化合物のCAS番号は、827022-32-2である。
【0020】
【化7】
【0021】
上記式(4)で表される化合物は、フルバスタチン(Fluvastatin)であってもよい。フルバスタチンは、(3R、5S、6E)-7-[3-(4-フルオロフェニル)-1-(プロパン-2-イル)-1H-インドール-2-イル]-3,5-ジヒドロキシヘプタ-6-エン酸の国際一般名(INN)であり、下記式(8)で表される化学構造を有する化合物である。また、下記式(8)の化合物のCAS番号は、93957-55-2である。
【0022】
【化8】
【0023】
本発明の一実施態様において、本発明は、上記の3CLproを阻害する活性を有する化合物を有効成分として含有する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療剤および薬学的に許容される担体を含む、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療用の医薬組成物を提供する。
【0024】
本発明の3CLproの阻害剤または薬学的に許容される塩は、そのままCOVID-19の予防または治療剤のための薬剤として用いてもよく、または医薬上許容される担体または賦形剤を用いて、当業者に公知の方法により様々な剤形に処方してもよい。使用する担体または賦形剤は当業者に公知であり、適宜選択することができる。本発明の薬剤は、当業者に公知の手段・方法を用い製造することができる。本発明の薬剤の調製に際し、増粘剤、吸収促進剤、pH調整剤、保存剤、分散剤、湿潤剤、安定剤、防腐剤、懸濁剤、界面活性剤等の医薬上許容される添加剤を用いてもよい。
【0025】
本発明のCOVID-19の予防または治療剤の剤形は特に限定されず、予防または治療すべき患者の状態等に応じて適宜選択することができる。本発明のCOVID-19の予防または治療剤は液状、半固形、固形のいずれであってもよい。本発明のCOVID-19の予防または治療剤の剤形の例としては、注射剤、輸液剤、点鼻剤、点眼剤、ローション剤、スプレー剤、クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤、座剤、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、シロップ剤、エアロゾール剤、経皮剤、経粘膜剤、吸入剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。あるいは本発明の薬剤は、投与時に生理食塩水やリン酸緩衝生理食塩水などの医薬上許容される担体に懸濁される凍結乾燥品の形態であってもよい。
【0026】
本発明のCOVID-19の予防または治療剤の投与経路も特に限定されず、予防または治療すべき患者の状態等に応じて適宜選択することができる。本発明の薬剤の投与経路の例としては、皮下注射、皮内注射、静脈注射、点滴、経口投与、経粘膜投与、経腸投与、点眼、点鼻、点耳、吸入、経皮投与などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明のCOVID-19の予防または治療剤の用量は、予防または治療すべき患者の状態等応じて医師が適宜用量を決定することができる。
【0028】
本発明の一実施態様において、3CLproの阻害剤を他の薬剤と併用することを特徴する、COVID-19の予防または治療剤を提供する。他の薬剤に関し、薬物代謝酵素の阻害および/または誘導等によって各化合物の曝露量が大きく変化し、有効性および/または安全性に影響を及ぼす場合を除いて、3CLpro阻害作用を示す薬剤、その他の機序でSARS-CoV-2cの侵入・複製・遊離等を阻害する薬剤、種々の作用機序によってヒトの抗作用を誘導および/または増強する薬剤等の様々な薬剤との併用が可能である。他の薬剤としては、例えば、プロテアーゼ合成阻害薬であり抗HIV薬であるカレトラ(ロピナビル・リトナビル)、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬であり新型インフルエンザ薬であるアビガン(ファビピラビル)、吸入ステロイド薬であるオルベスコ(シクレソニド)、セリンプロテアーゼ阻害薬であるナファモスタットおよびカモスタット、ウイルスのRNAポリメラーゼ阻害薬であるレムデシビル、抗マラリア薬であるクロロキン、クレオシドのグアノシンアナログでありウイルスのRNA合成阻害薬であるリバビリンヌならびにインターフェロン等が例示される。
【0029】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものと解してはならない。
【実施例0030】
阻害活性の評価方法
インタープロテイン株式会社が独自に開発した低分子化合物用の活性予測システムであるAI-guided INTENDD(登録商標)を用いて、各化合物の予測活性を8クラス(クラス0~7)に選別した。各クラスの活性範囲は次の通りである;クラス0=0.1ナノモル/L以上1ナノモル/L未満、クラス1=1ナノモル/L以上10ナノモル/L未満、クラス2=10ナノモル/L以上100ナノモル/L未満、クラス3=100ナノモル/L以上1マイクロモル/L未満、クラス4=1マイクロモル/L以上10マイクロモル/L未満、クラス5=10マイクロモル/L以上100マイクロモル/L未満、クラス6=100マイクロモル/L以上1ミリモル/L未満、クラス7=1ミリモル/L以上10ミリモル/L未満)
【0031】
AI-guided INTENDDとは、標的蛋白質とそれに結合した既存低分子化合物のX線結晶構造情報(独自の前処理を施した原子レベルの3次元情報を含む。)および活性を機械学習(深層学習)させた後、活性未知の低分子化合物の結合ポーズを予測した上でその化合物の活性を予測するシステムである。本発明の化合物トスフロキサシン(Tosufloxacin)、パルボシクリブ(Palbociclib)、フルバスタチン(Fluvastatin)およびメクリジン(Meclizine)に対する予測活性を下記の表に示す。
【0032】

ai score:AI-guided INTENDDにおいて、予測確度を示す独自の指標であり、低値に対して高値の方が、予測精度がより高いことを示す。
predicted class:予測活性クラスを示す。
docking score:汎用ソフトウェアを用い、標的化合物と低分子化合物との結合強度を結合自由エネルギー(主にエンタルピー;enthalpy)を基に計算した際のスコアである。低値の方が、結合強度が強いことを示す。
【0033】
COVID-19の予防または治療剤となるための3CLproの阻害剤の選択基準として、AI-guided INTENDDによる活性予測において、100マイクロモル/L未満のKD値で3CLproへの結合が期待される化合物を、既にFDAによって薬剤として承認されている化合物の中から選定した。