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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075381
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】結晶形状可変機構を有する湾曲結晶
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/06 20060101AFI20230524BHJP
   G01N 23/085 20180101ALI20230524BHJP
【FI】
G21K1/06 B
G01N23/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188244
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】396007188
【氏名又は名称】株式会社ジェイテックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】一井 愛雄
(72)【発明者】
【氏名】米山 明男
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA13
2G001CA01
2G001DA09
2G001EA02
(57)【要約】
【課題】X線分光用結晶基板を用いて、電圧印加によって結晶構造を楕円、円筒、平面、放物、双曲といった任意の形に変形・補正することのできる、結晶形状可変機構を有する湾曲結晶を提供する。
【解決手段】少なくとも表面側がX線の分光性能を備えた薄板状のX線分光用結晶基板と、圧電素子とが接合若しくは接着されていて、圧電素子への電圧印加によってX線分光用結晶材料を湾曲させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面側がX線の分光性能を備えた薄板状のX線分光用結晶基板と、圧電素子とが接合若しくは接着されていて、該圧電素子への電圧印加によって当該X線分光用結晶材料を湾曲させられ、前記X線分光用結晶基板の変形モードにおいて、一次元方向に少なくとも3次関数以上の高次の関数を含む近似多項式で表現される任意形状に変形可能な機能を有することを特徴とする、結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項2】
前記X線分光用結晶基板の表面側の特定領域をX線を照射するX線照射部とし、該X線分光用結晶基板の前記X線照射部の脇に沿って第1圧電素子群が配置され、該第1圧電素子群が配置された部分の裏面側の対称位置に第2圧電素子群が配置されている、請求項1記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項3】
前記X線分光用結晶基板の表面側の短手方向の中心線部に、長手方向に延びる前記X線照射部を備え、前記圧電素子が前記X線照射部を除く領域に存在している、請求項1又は2記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項4】
前記圧電素子と、X線分光用結晶基板とが、金属ナノ粒子を使った金属接合体を介して接合されている、請求項1~3何れか1項に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の粒径が100nm以下のものを含む、請求項1~4何れか1項に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項6】
前記X線分光用結晶基板の少なくとも表面側が研磨されている、請求項1~5何れか1項に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項7】
前記X線分光用結晶基板が、ブラッグケースによるX線回折を利用した分光機能を有している、請求項1~6何れか1項に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項8】
前記X線分光用結晶基板が、ラウエケースによるX線回折を利用した分光機能を有している、請求項1~6何れか1項に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【請求項9】
少なくとも表面側がX線の分光性能を備えた薄板状のX線分光用結晶基板に、少なくとも1つの圧電素子を接合若しくは接着して、該圧電素子への電圧印加によって当該X線分光用結晶材料を湾曲させることを特徴とする、結晶の湾曲方法。
【請求項10】
請求項1~8何れか1項に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶を用いることを特徴とする、波長分散型X線吸収微細構造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線光学系に使用する結晶形状可変機構を有する湾曲結晶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シンクロトロン光施設におけるX線吸収分光(XAFS)による測定においては、多くの場合、平板状の結晶を利用した分光器が用いられていて、例えばSi結晶における、(111)面や、(220)面を使ったブラッグ反射を利用して、目的のエネルギーのX線を選択して、サンプルに照射して測定が行われる。その際には試料へ入射するX線のエネルギーを逐次変化させて吸収スペクトルを測定する方法が一般的であり,高強度の放射光源と高速掃引分光器を用いたとしても、正味の測定時間と分光器の機械的な駆動に要する時間が必要となる。
【0003】
一方で、当該の結晶を湾曲させることで、掃引分光器がなくても、X線吸収分光におけるエネルギー領域全体を一度に測定できるDXAFS(Dispersive X-ray Absorption Fine Structure:波長分散型X線吸収微細構造)が知られている。この方法では、目的のエネルギー領域全体を一度に測定でき、湾曲による集光によって短時間でもシグナル強度が高くなるため、単発的な現象を追跡できる(非特許文献1)。
【0004】
当該の湾曲結晶の製作方法として、主にホットプレス法とベント法がある。ホットプレス法ではSi半導体結晶バルクウエハに対して加熱しながら湾曲させることで、ウエハに所定の湾曲構造を転写する方法である。この方法では転写時において高温加熱しながら湾曲させているため、曲げる際にひずみの影響が出てしまうが、これを解消することができない。また、エネルギー範囲を柔軟に調整できないというデメリットがあった。一方で、ベント型では測定するエネルギー範囲を柔軟に調整することができる。焦点での収差を低減して集光点サイズを小さくするためには楕円面湾曲が理想的であり、そのためには二点に独立な湾曲モーメントを負荷できる四点支持型ベンダー等の方法で機械的に理想形状に近づける方法が知られている(非特許文献1、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、これらの方法を用いても機械的な方法では収差を十分に除去することができない。機械曲げでは、端部2箇所からの圧縮応力により、主となる2次関数は制御可能であったが、意図しない制御不可能な4次関数が印加されてしまうという問題点があった。このため、機械曲げだと収差の除去は難しく、目的となる楕円形状を形成することすらできないという課題があった。このため、全反射型のX線ミラーなどでは機械曲げに加えて圧電素子を使って電圧制御による形状可変ミラーが開発されている(非特許文献2)。
【0006】
また、従来の湾曲結晶では機械曲げで構造を変形させているため、目的の形状をナノメータレベルで製作することは困難であったため、蒸着などを利用して薄層の結晶基板を作る検討がなされている(特許文献2)。
【0007】
更には白色X線が照射されて波長分散を行う場合、特にシンクロトロン放射光施設におけるアンジュレータなどを光源とする場合では、ビームによる熱で光学素子の変形が生じるといわれている(非特許文献3)。これを補正するためにも、3次関数以上の高次の成分の補正が可能なX線全反射ミラーが必要とされていて、現在、ミラーと圧電素子とを耐熱材料により接合できるようになっている(特許文献3、非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9-236697号公報
【特許文献2】特開2014-9131号公報
【特許文献3】特許第6854517号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】稲田康宏,丹羽尉博,野村昌治,放射光学会誌,July 2007,Vol.20,No.4,p.242
【非特許文献2】TAKUMI GOTO,SATOSHI MATSUYAMA,HIROKI HAYASHI,HIROYUKI YAMAGUCHI,JUNKI SONOYAMA,KAZUTERU AKIYAMA,HIROKI NAKAMORI,YASUHISA SANO,YOSHIKI KOHMURA,MAKINA YABASHI,TETSUYA ISHIKAWA,AND KAZUTO YAMAUCHI,OPTICS EXPRESS Vol.26,No.13,(2018)17477
【非特許文献3】Manuel Sanchez del Rio,Antoine Wojdyla,Kenneth A.Goldberg,Grant D.Cutler,Daniele Cocco and Howard A.Padmore.J.Synchrotron Rad.(2020).27,p1141&#8211;1152
【非特許文献4】Yoshio Ichii,Hiromi Okada,Hiroki Nakamori,Akihiko Ueda,Hiroyuki Yamaguchi,Satoshi Matsuyama,and Kazuto Yamauchi,Rev.Sci.Instrum.90,021702 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、平板からなる結晶素材に、圧電素子を、圧電素子のキュリー温度よりも十分に低い温度で両者を強固に接合し、電圧制御により、当該結晶を任意形状に湾曲させて、エネルギー分散と集光とを同時に実現させ、更には、耐熱性にも優れ、真空中で使用しても汚染物質の放出量が少ない結晶形状可変機構を有する湾曲結晶を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述の課題解決のために、以下に示す結晶形状可変機構を有する湾曲結晶、結晶の湾曲方法及び波長分散型X線吸収微細構造法を構成した。
【0012】
(1)
少なくとも表面側がX線の分光性能を備えた薄板状のX線分光用結晶基板と、圧電素子とが接合若しくは接着されていて、該圧電素子への電圧印加によって当該X線分光用結晶材料を湾曲させられ、前記X線分光用結晶基板の変形モードにおいて、一次元方向に少なくとも3次関数以上の高次の関数を含む近似多項式で表現される任意形状に変形可能な機能を有することを特徴とする、結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0013】
(2)
前記X線分光用結晶基板の表面側の特定領域をX線を照射するX線照射部とし、該X線分光用結晶基板の前記X線照射部の脇に沿って第1圧電素子群が配置され、該第1圧電素子群が配置された部分の裏面側の対称位置に第2圧電素子群が配置されている、(1)記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0014】
(3)
前記X線分光用結晶基板の表面側の短手方向の中心線部に、長手方向に延びる前記X線照射部を備え、前記圧電素子が前記X線照射部を除く領域に存在している、(1)又は(2)記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0015】
(4)
前記圧電素子と、X線分光用結晶基板とが、金属ナノ粒子を使った金属接合体を介して接合されている、(1)~(3)何れか1に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0016】
(5)
前記金属ナノ粒子の粒径が100nm以下のものを含む、(1)~(4)何れか1に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0017】
(6)
前記X線分光用結晶基板の少なくとも表面側が研磨されている、(1)~(5)何れか1に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0018】
(7)
前記X線分光用結晶基板が、ブラッグケースによるX線回折を利用した分光機能を有している、(1)~(6)何れか1に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0019】
(8)
前記X線分光用結晶基板が、ラウエケースによるX線回折を利用した分光機能を有している、(1)~(6)何れか1に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶。
【0020】
(9)
少なくとも表面側がX線の分光性能を備えた薄板状のX線分光用結晶基板に、少なくとも1つの圧電素子を接合若しくは接着して、該圧電素子への電圧印加によって当該X線分光用結晶材料を湾曲させることを特徴とする、結晶の湾曲方法。
【0021】
(10)
(1)~(8)何れか1に記載の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶を用いることを特徴とする、波長分散型X線吸収微細構造法。
【発明の効果】
【0022】
本発明による結晶形状可変機構を有する湾曲結晶を用いれば、電圧制御により、当該結晶を任意形状に湾曲させて、エネルギー分散と集光とを同時に実現させることができる。更には、湾曲形状が単純な円筒構造などではなく、楕円形状、放物形状、双曲形状など様々な形状に変形させることができ、集光や、平行化など、X線ビームを自在に制御することが可能になる。更には、耐熱性にも優れ、更に真空中で使用しても汚染物質の放出量が少なく、アンジュレータ光照射による温度上昇があったとしても結晶の湾曲特性への影響を抑えることができたり、温度上昇による形状変化の影響を補正できたりすることが可能になる。当該素子を用いることで、X線吸収分光におけるエネルギー領域全体を一度に測定できるDXAFS(Dispersive X-ray Absorption Fine Structure:波長分散型X線吸収微細構造)におけるシグナル強度を強くすることができ、短時間、かつ高精度に計測することが可能となる。更に、収差が小さく、微小スポットに全エネルギーのX線を集光できるため、空間的に不均一な試料でもあっても正確なDAXAFS計測を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶の構造の一例となる平面図である。
図2図1における長手方向の断面図である。
図3図1における短手方向の断面図である。
図4】本発明の結晶形状可変変機構を有する湾曲結晶の構造の一例となる平面図である。
図5図4における長手方向の断面図である。
図6図4の形態における圧電素子へ電圧印加時のうねり成分についての有限要素解析結果である。
図7】放射光実験における計測セットアップである。
図8】圧電素子への電圧印加前のプロジェクション像である。
図9】圧電素子への調整電圧印加後のプロジェクション像である。
図10】圧電素子への調整電圧印加後の集光点でのビームプロファイルである。
図11】圧電素子への調整電圧印加後の各種サンプルにおけるX線吸収分散スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶は、少なくとも表面側がX線の分光性能を備えた薄板状のX線分光用結晶基板と、圧電素子とが接合若しくは接着されていて、圧電素子への電圧印加によって当該X線分光用結晶材料を湾曲させることで実現する。
【0025】
薄板状のX線分光用結晶基板には、シリコンやゲルマニウム、ダイヤモンド、グラファイトといったブラッグ反射(X線回折)による分光性能を有する結晶材料を用いる。例えば、シリコンであれば(111)面や(220)面を用いることでブラッグ反射を利用して所定のエネルギーのX線を取り出すことができる。
【0026】
圧電素子としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が適している。圧電素子は一体でできていても、分割されていてもよい。一体のバータイプのものだと、ニッケル等の電極を分割して成膜されていることが好ましい。長手方向に任意の電極数に分割されていることで、各圧電素子への制御された電圧印加によって、前記X線分光用結晶基板の変形モードにおいて、一次元方向に少なくとも3次関数以上の高次の関数を含む近似多項式で表現される任意形状に変形可能となる。
【0027】
また、前記X線分光用結晶基板の表面側の特定領域をX線を照射するX線照射部とし、圧電素子は、前記薄板状のX線分光用結晶基板の表面側と、裏面側とにそれぞれ接合若しくは接着されていて、X線分光用結晶基板の前記X線照射部の脇に沿って第1圧電素子群が配置され、該第1圧電素子群が配置された部分の裏面側の対称位置に第2圧電素子群が配置されていることが好ましい。圧電素子が表面側と裏面側とに配置されることで、X線の熱による膨張が表裏で均等化されるので、環境の温度変化による圧電素子における熱変形の影響を抑えることができる。
【0028】
前記X線分光用結晶基板の表面側の短手方向の中心線部に、長手方向に延びる前記X線照射部を備え、前記圧電素子が前記X線照射部を除く領域に存在していることが好ましい。X線分光用結晶基板の中心線を挟み込むように2列で圧電素子群が配置されることで、1列のときと比較して2倍程度変形量が大きくすることが可能となる。前記X線照射部は、ブラッグケースによるX線回折を利用した分光機能やラウエケースによるX線回折を利用した分光機能を有する。
【0029】
前記圧電素子と、X線分光用結晶基板とが、金属ナノ粒子を使った金属接合体を介して接合されていることが好ましい。前記金属ナノ粒子を含む接合材料は、粒径100nm以下の金属ナノ粒子を含む接合材料により、接合温度150℃~300℃で、X線分光用結晶基板と、圧電素子を接合していて、該接合部での樹脂成分若しくは揮発成分の含有量が10重量%以下であることが好ましい。ここで、金属ナノ粒子の粒径サイズは小さければ小さいほど、低温で接合が開始されるので、好ましくは100nm、より好ましくは50nm、更により好ましくは10nm以下、数nmのものを含むことが好ましい。また、金属ナノ粒子は、バルク状態での融点が圧電素子のキュリー温度以上であることが必要である。
【0030】
前記接合材料による接合温度は、金属ナノ粒子の粒径によって制御可能である。前記接合材料による接合温度が150℃より小さければ、金属ナノ粒子の粒径をより小さくしなければならず、その調整が難しくなる。また、前記接合材料による接合温度が300℃以上であれば、圧電素子の配向性が変化してしまうため、150℃~300℃の範囲が望ましい。
【0031】
前記接合材料における樹脂成分若しくは揮発成分の含有量は、少なければ少ない方が好ましく、10重量%以下であることが好ましい。ここで、前記接合材料における樹脂成分若しくは揮発成分は、金属ナノ粒子の凝集を防止するために用いるコーティング材に起因する。
【0032】
本発明の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶における接合材料での、金属ナノ粒子の接合部の空孔率が30%以下であることが好ましい。空孔率が大きいと接合強度が低下して、変形によって疲労が生じやすくなる。また、空隙部に水分等が入り込むため、真空引きをした際にこれらが放出されてしまう。このため、空孔率は30%以下であることが好ましい。
【0033】
次に、本発明による実施の形態について、添付図面に基づき説明する。
【実施例0034】
本発明の実施の形態における実施例1にかかる結晶形状可変機構を有する湾曲結晶の平面図を図1、その断面図を図2図3に示す。
【0035】
図1図3に示すように本発明の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶は、X線分光用結晶基板1(以下単に「結晶基板1」と表す)、金属ナノ粒子を主成分とする接合材料により接合された金属接合体2、圧電素子3と、結晶基板1と金属接合体2との間の金属製バインダー材料4、金属接合体2と圧電素子3との間の金属製バインダー材料5、電極6で構成されている。結晶基板1の表面側には、X線を照射するX線照射部7が設けられている。
【0036】
前記結晶基板1の材料は、シリコンやゲルマニウム、ダイヤモンド、グラファイトといったブラッグ反射による分光性能を有する単結晶材料が好ましい。例えばシリコンであれば(111)面や(220)面を用いることでブラッグ反射を利用して所定のエネルギーを取り出すことができる。特にX線照射部7は結晶歪みを除去しておく必要がある。
【0037】
図1に示すように、圧電素子3は、前記結晶基板1の表面側であって短手方向の中心線部となるX線照射部7を除く領域に存在していることが好ましい。前記結晶基板1の短手方向の中心線部に、長手方向に延びるX線照射部7があり、その両側に圧電素子3を2列配置すると、電圧印加によって湾曲させる際に、1列のときと比較して2倍程度変形量が大きくすることが可能となる。
【0038】
図2は、図1の平面図の長手方向の断面図を示していて、また、図3図1の平面図の短手方向の断面図を示している。当該図にあるように圧電素子3は、結晶基板1の表面側と、裏面側とにそれぞれ接合若しくは接着されていて、表面側上にX線照射部7が存在し、当該X線照射部7の脇に、第1圧電素子群8が配置され、その配置された部分の裏面側の対称となる位置に第2圧電素子群9が配置されていることが好ましい。圧電素子が表面側と裏面側とに配置されることで、熱による膨張が表裏で均等化されるので、環境温度変化による素子における熱変形の影響を抑えることができる。
【0039】
金属ナノ粒子を主成分とする接合材料により接合された金属接合体2は、銀ナノ粒子、金ナノ粒子、銅ナノ粒子といった材料が好ましい。金属ナノ粒子は、金属本来の融点よりは低温で溶解し始める特性がある。このため、例えば銀の場合は、融点が962℃であるものの、銀ナノ粒子であることで、300℃以下でもナノ粒子同士が溶け合って、金属接合体2となる。このため、1度接合させると、例えば銀の融点である962℃まで上昇させないと、融解しないことから、X線ビームが継続して結晶のX線照射部7に照射されて、仮に圧電素子自体が200~300℃程度まで温度が上がっても接合部は変性しない。
【0040】
前記圧電素子3としては、チタン酸ジルコン酸鉛(通称PZT)が最も好ましい。厚さ方向に配向させた当該板状のPZTの表面及び裏面にそれぞれ電極を付与して、両電極間に電圧を印加すると変形する。
【0041】
前記金属製バインダー4としては、金属ナノ粒子との密着性が高い材料で、且つ結晶基板1との密着性が高いことが好ましい。例えば金属製バインダー4は、2層構造であってもよく、結晶基板1側にはクロム、金属ナノ粒子側(金属接合体2側)は金、銀、若しくは銅であってもよい。前記金属製バインダー4は、金属ナノ粒子を主成分とする接合材料により接合する前に、前記結晶基板1の表面にコーティングしておき、好ましくは物理蒸着により形成するが、めっきでも良い。前記金属製バインダー5は、金属ナノ粒子との密着性が高い材料で、且つ圧電素子3との密着性が高いことが好ましい。前記圧電素子3が、PZTであれば、前記金属製バインダー4と同じで良い。
【0042】
そして、前記圧電素子3の表面に電極6を設けるとともに、該圧電素子3と結晶基板1の間に存在する前記金属接合体2及び金属製バインダー材料4,5の何れか又は全てを共通電極とし、結晶基板1の変形に影響を与えない適宜な電圧印加手段にて電圧を印加する。
【0043】
前記X線照射部7は、前記結晶基板1の片面(表面側)、両面(表面側と裏面側)の何れであってもよい。当該結晶基板1はX線照射部7を設けた面を凹型に曲げる必要がある。仮に、接合時のプレス加工においてX線照射部7を設けた面が凸型になってしまうと、逆方向に曲げることが必要となるので、余分な曲げ応力を印加することが必要となる。一方で、前記結晶基板1の両面を研磨して、X線照射部7をそれぞれの面に設けておくことで、何れにおいても使用することができるので、目的の機能を発揮しやすくなる。
【実施例0044】
本発明の実施の形態における実施例2にかかる結晶形状可変機構を有する湾曲結晶の平面図を図4に示す。図4及び図5に示すように本発明の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶は、結晶基板1、金属ナノ粒子を主成分とする接合材料により接合された金属接合体2、圧電素子3と、結晶基板1と金属接合体2との間の金属製バインダー材料4、金属接合体2と圧電素子3との間の金属製バインダー材料5、電極6で構成されている。実施例1と違う点としては、圧電素子3自体がある一定の間隔で区切られている点となる。それ以外は、実施例1と同様である。
【0045】
このように圧電素子3がある一定の間隔で区切られることで、前記結晶基板1と圧電素子3の接合時のひずみを可能な限り減らすことができる。圧電素子3は焼結法で作製されるものであると、1枚の素子サイズが大きくなると、当該プレート状の圧電素子は平坦ではなくなり、撓みを含んだ状態になる。このため、接合時にプレスをすると、圧電素子にクラックが発生するリスクがあった。それに対して、本実施例のように、圧電素子そのものを小さくすることで、接合時のプレス加工時のひずみを抑えることができ、結晶構造を乱すことが少なくなる。
【0046】
一方で、当該構造のように、圧電素子間にギャップが存在すると、曲げたときにギャップの領域は曲がらない、且つ、厚みが薄い領域になるので、ギャップと近接する領域はうねりの影響が出てくる。有限要素解析をすると図6に示すように、圧電素子(PZT)のエッジだと、うねりの影響が顕著にみられるが、圧電素子のエッジから短手方向へ距離を徐々に離していくと、そのうねりの影響は軽減される。例えば図6に示すように、距離を11.5mm程度まで離すと、圧電素子のギャップ起因の基板形状のうねりは無視できるレベルに抑えることができる。つまり、X線照射部7が、圧電素子群8から、一定距離離れると、ギャップの影響を軽減させることができる。
【0047】
<結晶形状可変機構を有する湾曲結晶の使用例>
次に、具体例として本発明の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶を使った放射光実験について図7図11を用いて説明する。実験は佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターBL07にて実施した。図7は本実験におけるセットアップで、本発明の湾曲結晶ユニット10が配置されている。当該ユニットには11chの圧電素子が接続されていて、電圧印加によって変形させることができる。当該湾曲結晶ユニットにおける分光結晶材料はSi(111)で、厚み0.5mmのものを用いた。入射放射光(X線)のサイズを規定するTC1スリット11の開口は水平方向8mm、垂直方向1.5mmに設定した。TC1スリット11を通ったX線はシャッター12を介して湾曲結晶ユニット10に入射する。X線の入射角は12.4度に設定し、X線画像検出器13にはフォトンカウンティング型検出器であるPilatus100Kを用い、集光点から約1mの場所に設置した。湾曲結晶ユニット10の圧電素子には、PZT電源14から制御PC(パーソナルコンピューター)15で制御された電圧を印加する。
【0048】
圧電素子に電圧印加がないときのX線画像検出器13における撮像パターンを図8に、電圧印加による形状調整後の撮像パターンを図9に示す。
【0049】
更に、図9の条件では、曲率半径を約1m程度まで湾曲させていて、当該条件における集光点でのビームプロファイルを評価した結果を図10に示す。当該評価においてはPINダイオードによって20μmのスリットをスキャンすることでピークプロファイルを測定した。アンプは485、送りは40pls=10μmステップ、1秒である。その結果、結晶-集光点間距離103mmにおいて、ビーム幅がFWHMで約110μmとなっていることが分かった。当該条件で価数の異なるニオブ酸化物(Nb、NbO、NbO、Nb)のDXAFS実験を行った結果、図11に示すようなX線吸収分光プロファイルが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の結晶形状可変機構を有する湾曲結晶は、DXAFS(Dispersive X-ray Absorption Fine Structure:波長分散型X線吸収微細構造)での各種解析に用いられるだけでなく、電子顕微鏡での特性X線を用いた元素構造解析(EPMA)、X線全反射蛍光分析(XRF)にも利用することができる。
る光学系に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 結晶基板
2 金属ナノ粒子を主成分とする接合材料により接合された金属接合体
3 圧電素子
4 金属製バインダー材料
5 金属製バインダー材料
6 電極
7 X線照射部
8 第1圧電素子群
9 第2圧電素子群
10 湾曲結晶ユニット
11 TC1スリット
12 シャッター
13 X線画像検出器
14 PZT電源
15 制御PC
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11