IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075416
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】ホース用ゴム組成物及びホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/04 20060101AFI20230524BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20230524BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230524BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20230524BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20230524BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
F16L11/04
C08L9/02
C08K3/04
C08K5/521
C08K5/098
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188306
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】都甲 真利
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA12
3H111BA32
3H111BA34
3H111DB27
4J002AC071
4J002DA036
4J002DJ019
4J002EG028
4J002EG038
4J002EG048
4J002EW047
4J002FD019
4J002FD178
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】本発明は、耐油性、製品寿命及び耐寒性が優れる、ホース用ゴム組成物、ホースを提供することを目的とする。
【解決手段】アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラックと、リン酸エステルとを含有し、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムが有するアクリロニトリル量がゴム成分中の35~42質量%である、ホース用ゴム組成物、及び、ホース用ゴム組成物を用いて形成されたホース。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラックと、リン酸エステルとを含有し、前記アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムが有するアクリロニトリル量が前記ゴム成分中の35~42質量%である、ホース用ゴム組成物。
【請求項2】
前記リン酸エステルが、トリリン酸エステルを含む、請求項1に記載のホース用ゴム組成物。
【請求項3】
前記リン酸エステルが、リン酸トリクレジルを含む、請求項1又は2に記載のホース用ゴム組成物。
【請求項4】
前記リン酸エステルの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、10~30質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載のホース用ゴム組成物。
【請求項5】
前記カーボンブラックが、FTカーボンブラック及び/又はSRFカーボンブラックを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のホース用ゴム組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、60~100質量部である、請求項1~5のいずれか1項に記載のホース用ゴム組成物。
【請求項7】
更に、脂肪酸金属塩を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のホース用ゴム組成物。
【請求項8】
更に、シリカを含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のホース用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のホース用ゴム組成物を用いて形成されたホース。
【請求項10】
マリンホースである、請求項9に記載のホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホース用ゴム組成物及びホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホースの1種として、主にガソリンや原油を輸送するためにマリンホースが使用されている。また、耐油性と製品寿命とを優れたレベルで両立させうるマリンホース等の提供を目的として、例えば特許文献1のようなマリンホース用ゴム組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-138985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者は特許文献1を参考にして、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム(NBR)として極高ニトリルNBR、及び、可塑剤としてジイソノニルフタレート(DINP)を含有するゴム組成物を調製しこれを評価したところ、上記のようなゴム組成物のなかには、耐油性、製品寿命又は耐寒性について改善の余地があるケースがあることがわかった。
【0005】
そこで、本発明は、耐油性、製品寿命及び耐寒性が優れる、ホース用ゴム組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、ホースを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ゴム組成物が、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム(NBR)を含むゴム成分と、カーボンブラックと、リン酸エステルとを含有し、上記NBRが有するアクリロニトリル量がゴム成分中の35~42質量%であることによって所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0007】
[1]
アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラックと、リン酸エステルとを含有し、上記アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムが有するアクリロニトリル量が上記ゴム成分中の35~42質量%である、ホース用ゴム組成物。
[2]
上記リン酸エステルが、トリリン酸エステルを含む、[1]に記載のホース用ゴム組成物。
[3]
上記リン酸エステルが、リン酸トリクレジルを含む、[1]又は[2]に記載のホース用ゴム組成物。
[4]
上記リン酸エステルの含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、10~30質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載のホース用ゴム組成物。
[5]
上記カーボンブラックが、FTカーボンブラック及び/又はSRFカーボンブラックを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のホース用ゴム組成物。
[6]
上記カーボンブラックの含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、60~100質量部である、[1]~[5]のいずれかに記載のホース用ゴム組成物。
[7]
更に、脂肪酸金属塩を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載のホース用ゴム組成物。
[8]
更に、シリカを含有する、[1]~[7]のいずれかに記載のホース用ゴム組成物。
【0008】
[9]
[1]~[8]のいずれかに記載のホース用ゴム組成物を用いて形成されたホース。
[10]
マリンホースである、[9]に記載のホース。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホース用ゴム組成物は、耐油性、製品寿命及び耐寒性が優れる。
また、本発明のホースは、耐油性、製品寿命及び耐寒性が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について以下詳細に説明する。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
本明細書において、耐油性、製品寿命及び耐寒性のうちの少なくとも1つがより優れることを、本発明の効果がより優れるということがある。
【0011】
[ホース用ゴム組成物]
本発明のホース用ゴム組成物(本発明のゴム組成物)は、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラックと、リン酸エステルとを含有し、上記アクリロニトリルブタジエン共重合ゴムが有するアクリロニトリル量が上記ゴム成分中の35~42質量%である、ホース用ゴム組成物である。
以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について詳述する。
【0012】
〔ゴム成分〕
本発明において、ゴム成分はアクリロニトリルブタジエン共重合ゴムを含む。
【0013】
〔アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム〕
アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム(NBR)は、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体、又は、その水素添加物である。
【0014】
<アクリロニトリル量>
NBRのアクリロニトリル量(結合アクリロニトリル量。以下「AN量」と称する場合がある。)は、本発明の効果(特に耐油性)がより優れるという観点から、NBR中の、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、38質量%以上であることが更に好ましい。
また、NBRのAN量は、本発明の効果がより優れるという観点から、NBR中の、50質量%以下であることが好ましく、42質量%以下であることがより好ましい。
本発明において、NBRのアクリロニトリル量は、JIS K6451-2:2016に準じてケルダール法で測定できる。
【0015】
〔その他のゴム〕
上記ゴム成分は、NBR以外のゴム(その他のゴム)を更に含むことができる。
その他のゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)のような共役ジエン系ゴム;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)のような非共役ジエン系ゴムが挙げられる。
【0016】
<NBRの含有量>
NBRの含有量(NBRを2種以上組み合わせて使用する場合は、上記NBRの全量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、ゴム成分全量中の、80~100質量%が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0017】
〔ゴム成分中のアクリロニトリル量〕
本発明において、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム(NBR)が有するアクリロニトリル量(AN量)は、ゴム成分中の35~42質量%である。
本発明は、NBRが有するAN量がゴム成分中の上記数値範囲であることによって、耐油性、製品寿命、耐寒性が優れる。
本発明において、NBRが有するAN量はゴム成分中の上記数値範囲であればよく、使用するNBR、必要に応じて使用できるその他のゴムは特に制限されない。
NBRが有するAN量は、本発明の効果がより優れるという観点から、ゴム成分中の38~41質量%が好ましい。
【0018】
NBRは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。NBRを2種以上組み合わせて使用する場合、例えば、AN量が異なるNBRを組み合わせてもよい。
【0019】
〔ゴム成分の態様とAN量〕
・ゴム成分がNBRのみである場合
ゴム成分がNBRのみである場合、ゴム成分が全てNBRなので、上記NBRのAN量が35~42質量%であればよい。
上記の場合、NBRとして、AN量が35~42質量%であるNBRを単独で使用してもよく、AN量が異なる2種以上のNBRを使用しこれらのNBRの平均AN量が35~42質量%となればよい。
【0020】
・ゴム成分が更にその他のゴムを含む場合
ゴム成分が更にその他のゴムを含む場合、NBRが有するAN量が、ゴム成分全量中の35~42質量%となればよい。
【0021】
〔カーボンブラック〕
本発明のゴム組成物はカーボンブラックを含有する。
カーボンブラックは特に限定されず、例えば従来公知のものを用いることができる。
【0022】
<カーボンブラックの窒素吸着比表面積>
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、本発明の効果(特に耐油性)がより優れるという観点から、20~40m/gであることが好ましく、20~30m/gがより好ましい。
本発明において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2017「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定できる。
【0023】
<カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量>
カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP吸油量)は、本発明の効果(特に耐油性)がより優れるという観点から、20~80ml/100gであることが好ましく、20~50ml/100gがより好ましい。
本発明において、カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量は、JIS K6217-4:2017「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む)」に準じて測定できる。
【0024】
カーボンブラックは、本発明の効果がより優れるという観点から、FT(Fine Thermal)カーボンブラック、GPF(General Purpose Furnace)カーボンブラック、又は、SRF(Semi-Reinforcing Furnace)カーボンブラック等のようなソフトカーボンを含むことが好ましく、FTカーボンブラック及び/又はSRFカーボンブラックを含むことがより好ましく、FTカーボンブラックを含むことが更に好ましい。
【0025】
〔カーボンブラックの含有量〕
カーボンブラックの含有量は、本発明の効果がより優れ、接着性が優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して、60~100質量部であることが好ましく、70~95質量部であることがより好ましく、75~85質量部であることが更に好ましい。
【0026】
〔リン酸エステル〕
本発明のゴム組成物は、リン酸エステルを含有する。
リン酸エステルは、リン酸が有する少なくとも1つのOH基がエステル化されている化合物である。
本発明において、リン酸エステルは、ゴム組成物を可塑化又は軟化し得る可塑剤として機能することができる。
本発明は、リン酸エステルを含有することによって、耐油性、製品寿命、耐寒性が優れる。
また、本発明は、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム(NBR)を含みNBRのアクリロニトリル量がゴム成分中の35~42質量%であるゴム成分と、リン酸エステルとを含有することによって、耐油性、製品寿命、耐寒性が優れる。
【0027】
・トリリン酸エステル
リン酸エステルは、本発明の効果がより優れるという観点から、トリリン酸エステルを含むことが好ましく、リン酸トリクレジルを含むことがより好ましい。
トリリン酸エステルは、リン酸が有するOH基の水素原子が全て炭化水素基で置換されている化合物である。
【0028】
リン酸エステルが有する炭化水素基(リン酸が有するOH基の水素原子を置換する炭化水素基。炭化水素基は上記酸素原子と結合する)は特に制限されない。例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組合せが挙げられる。
上記炭化水素基は、本発明の効果がより優れるという観点から、芳香族炭化水素基を有することが好ましく、芳香族炭化水素基がリン酸が有するOH基の酸素原子に結合してエステルを形成することがより好ましい。上記芳香族炭化水素基にアルキル基が結合してもよい。
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基(トルエンのベンゼン環から水素を1個除いた基)が挙げられる。
【0029】
リン酸トリクレジルとしては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化1】
【0030】
<リン酸エステルの含有量>
リン酸エステルの含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して、10~30質量部であることが好ましく、18~23質量部がより好ましい。
【0031】
〔脂肪酸金属塩〕
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れるという観点から、更に、脂肪酸金属塩を含有することが好ましい。脂肪酸金属塩は、脂肪酸と金属との塩である。
【0032】
脂肪酸金属塩を構成し得る脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、カプロン酸(ヘキサン酸)、ヘプタン酸、カプリル酸(オクタン酸)、ノナン酸、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ウンデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキジン酸(エイコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸;リシノレイン酸、ヒドロキシステアリン酸のヒドロキシ脂肪酸等が挙げられる。脂肪酸は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
これらの脂肪酸のうち、本発明の効果(特に製品寿命)がより優れるという観点から、炭素数6以上の脂肪酸であることが好ましい。
【0034】
脂肪酸金属塩を構成し得る金属としては、例えば、アルカリ金属(リチウム、カリウム、ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなど)、遷移金属(3~11族の金属)、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。
【0035】
上記金属は、本発明の効果(特に製品寿命)がより優れ、脂肪酸と錯体を形成しやすいという観点から、亜鉛であることが好ましい。
【0036】
脂肪酸金属塩は、本発明の効果(特に、耐油性、製品寿命)がより優れるという観点から、脂肪酸亜鉛塩を含むことが好ましく、飽和脂肪酸亜鉛塩を含むことがより好ましい。
脂肪酸亜鉛塩としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ラウリル酸亜鉛、及びリノール酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとの1種が挙げられる。
なお、本発明において、脂肪酸金属塩は、上述の脂肪酸金属塩と脂肪族炭化水素及び/又は無機フィラーとの混合物であってもよい(以下同様)。
【0037】
脂肪酸金属塩は、加工性が良好となる観点から、融点が85~105℃であることが好ましい。
本発明においては、脂肪酸金属塩の融点は、ASTM D3418に準じて示差走査熱量測定(DSC)により、10℃/minの昇温速度で測定できる。
脂肪酸金属塩を上記のような混合物の形態として使用する場合、混合物の融点は、上述した脂肪酸金属塩の融点と同様とできる。
【0038】
・脂肪酸金属塩の含有量
本発明のゴム組成物が更に脂肪酸金属塩を含有する場合、脂肪酸金属塩の含有量は、本発明の効果(特に製品寿命)がより優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して、1.0~10質量部であることが好ましい。
脂肪酸金属塩を上記のような混合物の形態として使用する場合、ゴム成分100質量部に対する混合物の含有量は、上述した脂肪酸金属塩の含有量と同様とできる。
【0039】
また、本発明のゴム組成物が更に脂肪酸金属塩を含有する場合、脂肪酸金属塩の含有量に対するリン酸エステルの含有量の質量比(リン酸エステル/脂肪酸金属塩)は、本発明の効果がより優れるという観点から、1.0~10.0が好ましい。
本発明のゴム組成物が更に脂肪酸金属塩及びシリカを含有する場合、脂肪酸金属塩の含有量は、シリカの含有量の5質量%以上50質量%未満であることが好ましく、5~45質量%であることがより好ましい。
【0040】
〔シリカ〕
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れるという観点から、更に、シリカを含有することが好ましい。シリカは特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
シリカは、本発明の効果がより優れるという観点から、酸性シリカが好ましい。なお、酸性シリカのpHは7より小さければ特に制限されない。
本発明において、シリカのpHは、JIS K5101-17-2:2004に準じて測定できる。
【0041】
・シリカの含有量
本発明のゴム組成物が更にシリカを含有する場合、シリカの含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して10~60質量部であることが好ましく、15~50質量部がより好ましい。
【0042】
〔添加剤〕
本発明のゴム組成物は、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤を、更に含有することができる。添加剤としては、例えば、リン酸エステル以外の可塑剤、フェノール樹脂、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、硫黄のような加硫剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、接着助剤、加硫遅延剤、シリカ及びカーボンブラック以外の充填剤が挙げられる。
【0043】
・硫黄
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れ、接着性が優れるという観点から、更に硫黄を含有することが好ましい。硫黄は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
本発明のゴム組成物が更に硫黄を含有する場合、硫黄の含有量は、本発明の効果がより優れ、接着性が優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して、1~3質量部であることが好ましく、1~2質量部がより好ましい。
【0044】
・加硫促進剤
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れ、接着性が優れるという観点から、更に加硫促進剤を含有することが好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤を含有することがより好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
本発明のゴム組成物が更に加硫促進剤を含有する場合、加硫促進剤の含有量は、本発明の効果がより優れ、接着性が優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましく、0.5~2質量部がより好ましい。
【0045】
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)を用いて、混合する方法等が挙げられる。
本発明のゴム組成物を製造する際の混合温度は、例えば、50~120℃が好ましい。
また、本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫条件で加硫することができる。
【0046】
本発明のゴム組成物は、ホースを形成する際に使用することができる。ホースとしては、例えばマリンホースが挙げられる。
【0047】
[ホース]
本発明のホースは、本発明のホース用ゴム組成物を用いて形成されたホースである。
本発明のホースに使用されるゴム組成物は、本発明のゴム組成物であれば特に制限されない。本発明のホースは、上記ゴム組成物を用いて形成されたこと以外、特に制限されない。
本発明のホースとしては、例えば、マリンホースが挙げられる。
【0048】
本発明のゴム組成物をホース(例えばマリンホース)のいずれの構成部分に使用するかは特に制限されない。本発明のゴム組成物は耐油性等が優れるという観点から、本発明のゴム組成物をホースの内層(例えば最内層)に適用することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0049】
本発明のホース(例えばマリンホース。以下同様)は、例えば、最内層、補強層、最外層を上記の順に有することができる。
最内層と補強層との間、または、補強層と最外層との間に、更に、中間ゴム層を有することができる。
補強層を複数層有する場合、補強層と補強層との間に、更に、中間ゴム層を有することができる。
本発明のホースが補強層を複数層有し、補強層と補強層との間に中間ゴム層を有することができる場合、ホースの形態としては、例えば、最内層/[中間ゴム層/補強層]/中間ゴム層/最外層が挙げられる。上記形態において、ホースは、[中間ゴム層/補強層]をn層有することができる。nは例えば2~10とできる。[中間ゴム層/補強層]は、例えば、中間ゴム層と補強層との積層体、又は、中間ゴム層がコートゴムとして予め補強層に付与されたものを意味する。
【0050】
〔最内層〕
本発明のホースは、本発明のゴム組成物を用いて形成された最内層を有することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
最内層が本発明のゴム組成物を用いて形成された場合、上記最内層の厚さは、例えば、1.5~8.0mmとできる。
【0051】
〔補強層〕
補強層は特に限定されない。
補強層の材質としては、例えば、金属、繊維材料(ポリアミド、ポリエステル等)が挙げられる。
補強層の形態としては、例えば、スパイラル構造又はブレード構造に編組されたもの、織布(例えば、帆布)、不織布等が挙げられる。
補強層は表面処理されたものであってもよい。また、補強層は、例えば、中間ゴム層がコートゴムとして予め補強層に付与されたものであってもよい。
補強層(例えば、1層の補強層)の厚さ(又はコートゴムが予め付与された補強層の厚さ)は、例えば、0.5~1.5mmとできる。
【0052】
〔中間ゴム層〕
中間ゴム層は特に限定されない。中間ゴム層に含まれるゴムとしては、例えば、天然ゴム及び/又は合成ゴムが挙げられる。
中間ゴム層の厚さは、例えば、2.0~8.0mmとできる。コートゴムが予め片面又は両面に付与された補強層によって中間ゴム層が形成される場合、補強層(コートゴム層を除く)間の中間ゴム層の厚さは、例えば、0.5mm以上とできる。
【0053】
〔最外層〕
最外層は特に限定されない。最外層は例えばゴム層であってもよい。最外層に含まれるゴムとしては、例えば、天然ゴム及び/又は合成ゴムが挙げられる。最外層は本発明のゴム組成物で形成されてもよい。
最外層の厚さは、例えば、2.0~10.0mmとできる。
【0054】
本発明のホースの内径は特に制限されない。例えば、10~30インチとできる。
本発明のホースの長さは特に制限されない。例えば、5~20メートルとできる。
【0055】
本発明のゴム組成物で形成されたホース(例えばマリンホース)を製造する方法としては、例えば、まず、マンドレルに本発明のゴム組成物のシートを巻き付ける。本発明のゴム組成物のシートをマンドレルに巻き付ける方法は特に制限されないが、例えば、シート同士を一部重ねながら(例えば螺旋状に)巻き付ける方法が挙げられる。次に、本発明のゴム組成物のシートの上に、例えば、樹脂層、補強層、中間ゴム層、浮力材層及び最外層(例えば、カバーゴム層)からなる群から選ばれる少なくとも1種を積層させることができる。上記各種の層は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。また、上記各種の層について、例えば、材料、ホースにおける配置等は、特に制限されない。
上記のように得られた積層体を加硫等させることによって、本発明のゴム組成物で形成された(最内層を有する)ホースを製造できる。
【0056】
ホースがマリンホースである場合、マリンホースは一般的に大型なので、上記積層体を加硫等する際、初期段階において、上記積層体を、例えば、100~110℃の範囲で1~1.5時間加熱し、その後、130~147℃の条件で加熱して加硫等を完了させることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【実施例0057】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0058】
<ゴム組成物の製造>
下記第1表の各成分を同表に示す組成(質量部)で用いて、ゴム組成物を製造した。具体的には、まず、下記表に示す成分のうち、硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.5リットルの密閉型ミキサーで100℃の条件下で5分間混合してマスターバッチを得た。次に、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤を下記表に示す量で加え、これらをオープンロールで50℃の条件下で混合し、ゴム組成物を製造した。
【0059】
<評価>
上記のとおり製造された各ゴム組成物を用いて以下の評価を行った。結果を第1表に示す。
〔初期試験片の作製〕
上記のとおり製造された各ゴム組成物を148℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で195分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。
JIS K6251:2017に準じて、上記加硫シートからJIS規格の3号ダンベルを打ち抜き、初期試験片を作製した。
【0060】
〔耐油性〕
初期試験片を、JIS K6258:2016の付属書Aに規定される試験用燃料油C〔2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)とトルエンの体積分率が50対50〕に室温の条件下で48時間浸漬させた。
浸漬前後において、各試験片の体積を測定し、下記式から体積変化率を算出した。
体積変化率(%)=[(浸漬後の体積-浸漬前の体積)/(浸漬前の体積)]×100
・耐油性の評価基準
本発明において、体積変化率が26.0%以下であった場合、耐油性が優れると評価した。体積変化率が0%に近いほど、耐油性がより優れる。
一方、体積変化率が26.0%を超えた場合、耐油性が悪いと評価した。
【0061】
〔破断特性(製品寿命)〕
初期試験片を用いて、JIS K6251:2017に準拠して、室温の条件下で引張速度500mm/分で引張試験を行い、破断特性(破断強度(TB)[MPa]、破断時伸び(EB)[%])を測定した。
・製品寿命の評価基準
TBが13.0MPa以上であり、かつ、EBが450%以上であった場合、製品寿命が長いと評価した。
製品寿命が長いと評価された際、TBが13.0MPaより大きかった場合、及び/又は、EBが450%より大きかった場合、製品寿命がより長いと評価した。
一方、TBが13.0MPa未満であった場合、又は、EBが450%未満であった場合、製品寿命が短いと評価した。
【0062】
〔耐寒性(低温脆化)〕
耐寒性の評価は、初期試験片の低温脆化温度を測定することにより行った。低温脆化温度は、JIS K6261-2:2017の「低温衝撃脆化試験」に準じて測定した。
・耐寒性の評価基準
低温脆化温度が-15.0℃未満であった場合、耐寒性が優れると評価した。
低温脆化温度が-15.0℃より低いほど、耐寒性がより優れると評価した。
一方、低温脆化温度が-15.0℃以上であった場合、耐寒性が悪いと評価した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
第1表に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
・NBR1:Nipol DN005M(NBR1中のAN量45質量%、ムーニー粘度50、日本ゼオン社製)
・NBR2:Nipol 1041(NBR2中のAN量40.5質量%、ムーニー粘度78、日本ゼオン社製)
【0066】
・カーボンブラック:FTカーボン(アサヒサーマル、窒素吸着比表面積24m2/g、ジブチルフタレート吸油量28ml/100g、旭カーボン社製)
【0067】
・シリカ:ニップシールAQ(東ソー・シリカ社製)酸性シリカ、pH6.4
【0068】
・比較可塑剤 DINP:フタル酸ジイソノニル(ジェイ・プラス社製)
・リン酸エステル TCP:リン酸トリクレジル(下記構造。大八化学工業社製)
【化2】
【0069】
・カルダノール由来のフェノール樹脂:カルダノールに由来し、下記構造で表される化合物。商品名CD-5L、東北化工社製。25℃の条件下において液体。
【化3】
上記構造式において、各Rの位置は各ベンゼン環上のOH基に対してm位である。上記フェノール樹脂は、Rが以下のとおり表され、nが1~3であるフェノール樹脂の混合物である。
【0070】
R=-C1531(約5%)
-(CH27CH=CH(CH25CH3(約35%)
-(CH27CH=CHCH2CH=CH(CH22CH3(約20%)
-(CH27CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH2(約40%)
上記各Rの%数は、上記フェノール樹脂が有するR全量に対する各Rの含有量の質量%である。
【0071】
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(正同化学工業社)
・ステアリン酸:ステアリン酸YR(NOF CORPORATION社製)
・老化防止剤RD:2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物(ノクラック224、大内新興化学工業製)
【0072】
・加工助剤(脂肪酸亜鉛):混合脂肪酸亜鉛(商品名:Aktiplast ST、融点:85~100℃、RheinChemie社製)飽和脂肪酸亜鉛を含む。
【0073】
・硫黄:油処理イオウ(細井化学工業社製)
・加硫促進剤CZ:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド。ノクセラーCZ-G(大内新興化学工業社製)
・加硫促進剤TOT-N:テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド。ノクセラーTOT-N(大内新興化学工業社製)
【0074】
第1表に示す結果から、ゴム成分中のAN量が所定の範囲を満たさず、リン酸エステルを含まない比較例1,2,5は、少なくとも、耐油性、製品寿命が悪かった。比較例2,5は耐寒性も悪かった。
ゴム成分中のAN量が所定の範囲を満たさない比較例3,4は、少なくとも、耐油性、耐寒性が悪かった。比較例3は製品寿命も悪かった。
リン酸エステルを含まず、代わりにDINPを含む比較例6、7は、耐油性が悪かった。
【0075】
これに対して、本発明のゴム組成物は、耐油性、製品寿命、耐寒性が優れた。
上記の結果から、本発明のホース(具体的には例えばマリンホース)は、耐油性、製品寿命、耐寒性が優れる。
【0076】
第1表では、DINPをこれと同量のリン酸エステルに変更することについて、比較例1、3の組合せAと比較例6、実施例1の組合せBとを比較することができる。つまり、ゴム成分中のAN量が所定の範囲である組合せBにおいて、比較例6のDINPをリン酸エステルに変更した際(実施例1)、実施例1は比較例6よりも、耐油性が基準値を満たすように向上し、TBが向上し、EBの低下を抑制でき、耐寒性が向上した。一方、ゴム成分中のAN量が所定の範囲を外れる組合せAにおいては、比較例1のDINPをリン酸エステルに変更した際(比較例3)、比較例3は、耐油性は基準値を満たさないままであり、EB及び耐寒性が比較例1よりも悪化して基準値を満たさなくなった。
DINPをこれより増量したリン酸エステルに変更することについて、比較例1、比較例4の組合せCと、比較例6、実施例2の組合せDとの比較は、上述の組合せAと組合せBとの比較結果とほぼ同様の結果を示した。なお、実施例2のEBは比較例6より向上した。
以上から、本発明においては、ゴム成分中の(NBR由来の)AN量が所定の範囲であることとリン酸エステルを使用することとの組み合わせが、耐油性、製品寿命、及び、耐寒性を向上させるように影響を与えていると考えられる。本発明における効果の傾向は、ゴム成分中の(NBR由来の)AN量が所定の範囲を外れる場合、及び/又は、リン酸エステル以外の可塑剤を使用する場合とは異なると考えられる。
また、本発明においては、ゴム成分中のAN量が所定の範囲であるゴム成分に対してリン酸エステルの含有量を更に増やすことによって、耐油性、EB(製品寿命)をより向上させることができる。
また、本発明のゴム組成物が更に脂肪酸金属塩を含有する場合、EB(製品寿命)をより向上させることができる。