(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075427
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】加飾部材
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230524BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20230524BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230524BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230524BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230524BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
B32B15/08 H
B32B15/01 H
B32B9/00 A
C23C14/06 F
C23C28/00 A
B41M1/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188327
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000144072
【氏名又は名称】SANEI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】元矢 伸二
【テーマコード(参考)】
2H113
4F100
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
2H113AA06
2H113BA05
2H113BA09
2H113BA18
2H113BA41
2H113BB10
2H113BB22
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2H113BB32
2H113DA03
2H113DA04
2H113DA56
2H113DA60
2H113EA02
2H113EA07
2H113EA24
2H113FA32
4F100AA37D
4F100AB01C
4F100AB13C
4F100AB16C
4F100AB17A
4F100AB31A
4F100AK01B
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100HB00
4F100HB00B
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4F100JA02B
4F100JJ03B
4K029AA02
4K029BA07
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4K029BA35
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4K044BC05
4K044BC09
4K044BC11
4K044CA07
4K044CA13
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】印刷のデザイン性が損なわれにくい加飾部材を提供すること。
【解決手段】銅合金の加飾部材1であり、銅合金製の母材本体2と、樹脂製の加飾層4と、中間層となる金属層5と、ta-Cに分類されるアモルファスカーボン被膜から成るDLC被膜層6と、を少なくとも含む。金属層5は、DLC被膜層6と母材本体2との間に積層状に介在するように配置されている。加飾層4が、金属層5と母材本体2との間に積層状に介在するように配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金の加飾部材であり、
銅合金製の母材本体、樹脂製の加飾層、金属層、およびta-C被膜から成るDLC被膜層を少なくとも含み、
前記金属層が、前記DLC被膜層と前記母材本体との間に配置されており、
前記加飾層が、前記金属層と前記母材本体との間に配置されている、加飾部材。
【請求項2】
前記加飾層が、耐熱温度が150℃以上、かつ、線膨張係数が0.1~0.6×10-4/℃の樹脂から成る、請求項1に記載の加飾部材。
【請求項3】
前記DLC被膜層が、SP-3構造を50~90%含み、かつ、その厚さが、0.1~3.0μmである、請求項1~2のいずれか1項に記載の加飾部材。
【請求項4】
前記母材本体と前記加飾層との間に配置される、ニッケルおよびクロムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む層からなるめっき層をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の加飾部材。
【請求項5】
前記加飾層が、パッド印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷、水転送印刷およびオフセット印刷で構成される群より選択される少なくとも1種の印刷により形成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の加飾部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金の加飾部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、銅合金から成る衛生水栓のめっき表面に印刷が施され、その表面に保護膜となるクリアラッカー塗装が施された技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、クリアラッカー塗装が、経年劣化により変色して透明度を低下させたり、清掃により擦り傷が付きやすかったりすることから、印刷のデザイン性が損なわれやすい。そこで、本発明は、印刷のデザイン性が損なわれにくい加飾部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の加飾部材は次の手段をとる。すなわち、本発明の加飾部材は、銅合金の加飾部材であり、銅合金製の母材本体、樹脂製の加飾層、金属層、およびta-C被膜から成るDLC被膜層を少なくとも含む。金属層は、DLC被膜層と母材本体との間に配置されている。加飾層が、金属層と母材本体との間に配置されている。
【0006】
ここで、DLC被膜は、一般に、SP-3構造を含むアモルファスカーボン被膜として知られるものである。DLCは、そのSP-2結合とSP-3結合との比率や水素含有量に基づいて、ta-C(テトラへドラルアモルファスカーボン)、a-C(アモルファスカーボン)、ta-C:H(水素化テトラへドラルアモルファスカーボン)およびa-C:H(水素化アモルファスカーボン)の4種類に分類される。
【0007】
このうち、ta-Cは、DLCの中では最もSP-3構造の比率が高く、最も高密度でかつ硬質な特徴を備えることが知られている。また、ta-Cは、耐摩耗性、絶縁性、耐熱性、および化学的非反応性にも優れる特徴を持つ。ta-Cは、PVD法(物理蒸着法)に分類される真空アーク蒸着法により形成することが可能とされる。真空アーク蒸着法は、真空中におけるアーク放電(真空アーク放電)によって発生させた高エネルギのイオンを持つ真空アークプラズマ(真空アーク放電プラズマ)を利用してワークに薄膜を蒸着する方法である。
【0008】
上記構成によれば、母材本体上に樹脂製の加飾層を設け、その表面にta-C被膜からなるDLC被膜層を設けることで、加飾部材の部材表面に加飾層による加飾模様を形成しつつ、部材表面の耐摩耗性、耐候性、耐食性および耐傷付性を適切に高めることができる。DLC被膜層は、中間層となる金属層を間に介して母材本体上に設けられることで、母材本体上に密着性良く成膜される。これらの構成により、加飾部材の印刷のデザイン性を損ないにくくすることができる。
【0009】
また、本発明の加飾部材は、更に次のように構成されていてもよい。加飾層が、耐熱温度が150℃以上、かつ、線膨張係数が0.1~0.6×10-4/℃の樹脂から成る。ここで、銅合金の線膨張係数は、一般に、約18×10-6/℃であることが知られている。加飾層で用いられる樹脂と銅合金との間の線膨張係数の差が大きいと、これらを高温に加熱した場合に、これらの間に大きな熱応力が発生し、クラックや剥離が発生しやすくなる懸念がある。
【0010】
上記構成によれば、加飾層に銅合金と近い線膨張係数を備え、かつ、高い耐熱性を備えた樹脂を用いることにより、加飾層を母材本体上に適切に接着させた状態に設けることができる。なお、耐熱温度が150℃以上、かつ、線膨張係数が0.1~0.6×10-4/℃の樹脂としては、エポキシ樹脂やフェノール樹脂が挙げられる。
【0011】
また、本発明の加飾部材は、更に次のように構成されていてもよい。DLC被膜層が、SP-3構造を50~90%含み、かつ、その厚さが、0.1~3.0μmである。上記構成によれば、DLC被膜層を上記厚さの範囲内で薄膜状に成膜することで、DLC被膜層を半透明状に成膜して、加飾層による加飾模様を部材表面に透過させることが可能となる。また、DLC被膜層を上記厚さの範囲内に設定することで、加飾層の厚みによる凹凸形状に依存した形状の加飾模様を部材表面に形成することが可能となる。上記構成によれば、加飾部材の部材表面に加飾層による加飾模様を適切に形成することができる。
【0012】
また、本発明の加飾部材は、更に次のように構成されていてもよい。加飾部材が、母材本体と加飾層との間に配置される、ニッケルおよびクロムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む層からなるめっき層をさらに含む。上記構成によれば、上記群から選択される金属からなるめっき層により、加飾部材の耐久性をより適切に高めることができる。また、DLC被膜層が薄膜状の半透明に成膜される場合には、めっき層による金属光沢を部材表面に透過させることができる。
【0013】
また、本発明の加飾部材は、更に次のように構成されていてもよい。加飾層が、パッド印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷、水転送印刷およびオフセット印刷で構成される群より選択される少なくとも1種の印刷により形成される。上記構成によれば、母材本体上に精度良く加飾層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る加飾部材を模式的に示す概略斜視図である。
【
図2】(めっき層を備える場合)加飾部材の断面構造を模式的に示す概略断面図である。
【
図3】(めっき層を備えない場合)加飾部材の断面構造を模式的に示す概略断面図である。
【
図4】(めっき層を備える場合)加飾部材の製造方法を示す工程図である。
【
図5】(めっき層を備えない場合)加飾部材の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
(加飾部材1)
始めに、本発明の実施形態に係る加飾部材1の構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る加飾部材1は、屋内の水まわり環境で使用される水栓用配管として構成される。加飾部材1は、
図2~
図3に示すように、銅合金製の母材本体2と、母材本体2の表面に印刷された樹脂製の加飾層4と、加飾層4を含む母材本体2の表面に被膜された金属層5と、金属層5の表面に被膜されたDLC被膜層6と、を備える。
【0017】
詳しくは、本実施形態に係る加飾部材1は、
図2に示すように、母材本体2と加飾層4との間にめっき層3が設けられるタイプの加飾部材1Aと、
図3に示すように、めっき層が設けられないタイプの加飾部材1Bと、の2種類の中から用途に合わせて選択的に適用することが可能な構成とされる。
図2に示すタイプの加飾部材1Aは、母材本体2の表面上にめっき層3が形成されて、めっき層3の表面上の一部に加飾層4が積層状に設けられる構成とされる。
【0018】
そして、上記タイプの加飾部材1Aは、加飾層4を含むめっき層3の表面全体に薄膜状の金属層5が被膜され、更に金属層5の表面全体に薄膜状のDLC被膜層6Aが被膜される構成とされる。それにより、加飾部材1Aは、薄膜状の金属層5及びDLC被膜層6Aが半透明状に成膜されて、加飾層4による加飾模様及びめっき層3による金属光沢が部材表面に透過される構成とされる。また、加飾部材1Aの部材表面には、加飾層4の積層に伴い加飾層4の凸形状に依存した形に突出する凸部Dが形成される。
【0019】
一方、
図3に示すタイプの加飾部材1Bは、母材本体2の表面上の一部に加飾層4が直接、積層状に設けられる構成とされる。そして、上記タイプの加飾部材1Bは、加飾層4を含む母材本体2の表面全体に薄膜状の金属層5が被膜され、更に金属層5の表面全体に厚膜状のDLC被膜層6Bが被膜される構成とされる。
【0020】
それにより、加飾部材1Bは、DLC被膜層6Bが黒青色をした不透明状の厚手の被膜として形成されて、その裏層側にある加飾層4及び母材本体2がDLC被膜層6Bにより適切に保護される構成とされる。また、加飾部材1Bの部材表面には、加飾層4の積層に伴い加飾層4の凸形状に依存した形に突出する凸部Dが形成される。以下、加飾部材1を構成する各部の具体的な構成について説明する。
【0021】
なお、本説明文中で加飾部材1と示す場合には、上述した加飾部材1Aと加飾部材1Bとを総称して示す場合である。また、DLC被膜層6と示す場合には、上述したDLC被膜層6AとDLC被膜層6Bとを総称して示す場合である。
【0022】
(母材本体2)
母材本体2は、銅を主成分とする銅合金からなる。具体的には、母材本体2は、50%以上の銅を含有し、残部が、鉛、亜鉛、錫、鉄、ニッケル、およびアンチモンからなる銅合金からなる。なお、母材本体2は、純銅、真鍮、青銅、白銅、あるいは洋白からなるものであってもよい。母材本体2の具体的な形状は特に限定されず、円管や角管等の管形状の他、円柱や角柱等の柱形状や球形状、あるいは板形状からなるものであってもよい。
【0023】
母材本体2は、鋳造後に切削加工されて所定形状に形作られた後、表面がバフ研磨されて所定粗さに仕上げられる(前工程S1:
図4~
図5参照)。その後、母材本体2は、
図4に示すように、鉛除去処理工程S2を経て、
図4に示すめっき処理工程S3(加飾部材1Aの場合)或いは
図5に示す鏡面仕上げ処理工程S4(加飾部材1Bの場合)にかけられる。
【0024】
図4に示すめっき処理工程S3では、
図2に示すように、母材本体2の表面全体に、ニッケルめっき処理とクロムめっき処理とをこの順に施して、積層状のめっき層3を形成する。
図5に示す鏡面仕上げ処理工程S4では、母材本体2の表面全体を鏡のように磨いた状態に仕上げる。上記めっき処理工程S3(
図4参照)或いは鏡面仕上げ処理工程S4(
図5参照)の後、母材本体2は、印刷工程S5にかけられる。
【0025】
その際、加飾部材1が
図2に示すタイプの加飾部材1Aの場合には、
図4に示す印刷工程S5において、めっき層3の表面上の一部に樹脂製の加飾層4が印刷される。また、加飾部材1が
図3に示すタイプの加飾部材1Bの場合には、
図5に示す印刷工程S5において、母材本体2の表面上の一部に樹脂製の加飾層4が印刷される。
【0026】
そして、
図4~
図5に示すように、上記印刷工程S5の後、母材本体2は、洗浄処理工程S6にかけられて、表面に付着した汚れが取り除かれて洗浄される。更にその後、母材本体2は、金属層成膜工程S7にかけられて、その表面に中間層となる金属層5が成膜される。その後、母材本体2は、DLC被膜層成膜工程S8にかけられて、その表面に成膜された金属層5の更に表面にta-Cに分類されるDLC被膜層6が成膜される。以下、各工程についての詳細を説明する。
【0027】
(めっき処理工程S3)
図4に示すめっき処理工程S3では、
図2に示すように、母材本体2の表面全体に、電気めっきを用いたニッケルめっき処理とクロムめっき処理とをこの順に行い、ニッケルめっき層3Aとクロムめっき層3Bとを積層状に有するめっき層3を形成する。ニッケルめっき層3Aは、約0.6μmの厚さに形成されることが好ましい。クロムめっき層3Bは、約0.3μmの厚さに形成されることが好ましい。母材本体2は、その表面にニッケルめっき層3Aが積層状に設けられることで、耐食性が適切に高められる。
【0028】
また、母材本体2は、ニッケルめっき層3Aの表面にクロムめっき層3Bが更に設けられることで、耐傷付性が適切に高められると共に、金属光沢を有する見栄えの良い形に仕上げられる。なお、めっき処理工程S3により形成されるめっき層3は、ニッケルめっき層3Aのみ、或いはクロムめっき層3Bのみであっても良い。ニッケルめっき層3Aは、母材本体2を構成する銅合金との密着性に優れ、硬質で、かつ、耐食性および耐熱性に優れた特徴を有する。クロムめっき層3Bは、ニッケルめっき層3Aの保護膜となるものであり、光反射性、熱反射性および耐食性に優れる特徴を有する。
【0029】
(鏡面仕上げ処理工程S4)
図5に示す鏡面仕上げ処理工程S4では、母材本体2の表面全体に、粒径の小さなメディア(例えば、SDC:金属被覆合成ダイヤモンド #10000等のメディア)を用いたブラスト処理(鏡面仕上げ処理)を行い、母材本体2の表面全体を鏡のように磨いた状態に仕上げる。この鏡面仕上げ処理により、先のバフ研磨によって母材本体2の表面に付いた傷を除去する。
【0030】
鏡面仕上げ処理工程S4では、母材本体2の表面全体を2μm以下の均一な深さの研削量で研削する。この鏡面仕上げ処理により、母材本体2の表面を、JIS B 0601-2001に規定される算術平均粗さ(表面粗さ)Raが0.1μm以下となるように仕上げる。鏡面仕上げ処理により仕上げられる母材本体2の表面粗さは、メディアの粒径、形状、材質、投射圧、投射密度等の調整によって適宜制御することができる。
【0031】
(印刷工程S5)
図4に示す印刷工程S5では、
図2に示すように、めっき層3の表面上の一部に、樹脂製の加飾層4を印刷する。また、
図5に示す印刷工程S5では、
図3に示すように、母材本体2の表面上の一部に、樹脂製の加飾層4を印刷する。加飾層4の被印刷面への印刷方法としては、特に限定されないが、パッド印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷、水転送印刷およびオフセット印刷が挙げられる。
【0032】
パッド印刷は、エッチング処理された金属板のドットパターンにインクを充填した後、シリコンパッドを用いてドットパターンのインクを移し取って被印刷面に押し付けて模様転写を行う印刷方法である。パッド印刷では、弾力のあるシリコンパッドを用いて模様転写を行うため、被印刷面が平面でなく湾曲面であっても、適切に印刷を行うことが可能となる。
【0033】
インクジェット印刷は、電子制御されたヘッドノズルからインクを噴霧することで印刷を行う公知の印刷方法である。インクジェット印刷を用いることで、多色印刷や3D印刷を安価に精度良く行うことが可能となる。なお、インクジェット印刷を行う場合には、被印刷面に下地となる不図示の粘着用の透明フィルムを貼着し、透明フィルム上にインクを噴霧すると良い。それにより、被印刷面に高精度な印刷を行うことが可能となる。
【0034】
スクリーン印刷は、孔のあいた版にインクをのせて、スキージ(ヘラ)を使って孔から被印刷面に向けてインクを押し出すことで、被印刷面に模様転写を行う公知の印刷方法である。スクリーン印刷を用いることで、被印刷面にインクを厚くのせることが可能となる。
【0035】
水転送印刷(水圧転写)は、水面上に専用フィルムを浮かべ、そのフィルム上に被印刷面を上方から沈み込ませる水圧により、フィルムに印刷されたインクを被印刷面に転写する公知の印刷方法である。水転送印刷を用いることで、被印刷面が平面でなく湾曲面であっても、適切に印刷を行うことが可能となる。
【0036】
オフセット印刷は、凹凸のない平板状の版にインクを付けて、この版に付いたインクをブランケット胴に転写してブランケット胴から被印刷面にインクを転写する公知の印刷方法である。オフセット印刷を用いることで、版が被印刷面に直接触れないため、版の摩耗を抑制することができると共に、模様転写を鮮明に行うことが可能となる。
【0037】
なお、印刷工程S5は、上述した各印刷工法が組み合わされて加飾層4を印刷するものであっても良い。上述した各印刷工法において、加飾層4として模様転写されるインクには、エポキシ樹脂及び/又はフェノール樹脂が用いられる。
【0038】
エポキシ樹脂は、耐熱温度が150~200℃で、かつ、線膨張係数が0.2~0.4×10-4/℃の樹脂として知られる。フェノール樹脂は、耐熱温度が150℃で、かつ、線膨張係数が約0.4×10-4/℃の樹脂として知られる。加飾層4は、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂以外の樹脂から成るものであっても良いが、耐熱温度が150℃以上、かつ、線膨張係数が0.1~0.6×10-4/℃の樹脂から成ることが好ましい。
【0039】
その理由は次の通りである。すなわち、母材本体2を構成する銅合金の線膨張係数は、一般に、約18×10-6/℃であることが知られている。加飾層4で用いられる樹脂と銅合金との間の線膨張係数の差が大きいと、これらを高温に加熱した場合に、これらの間に大きな熱応力が発生し、クラックや剥離が発生しやすくなる懸念がある。したがって、加飾層4に銅合金と近い線膨張係数と高い耐熱温度とを備える樹脂を用いることで、加飾層4を被印刷面上に適切に接着させた状態に設けることができる。
【0040】
(洗浄処理工程S6)
図4~
図5に示す洗浄処理工程S6では、炭化水素系の洗浄液を用いた洗浄方法により、被洗浄体に付着する汚れを取り除いて洗浄する。なお、洗浄処理工程S6は、水系洗浄液、準水系洗浄液、もしくは塩素・臭素・フッ素系の溶剤系洗浄液を用いた洗浄方法により、被洗浄体の表面を洗浄する工程であっても良い。
【0041】
洗浄処理工程S6では、先ず、荒洗浄として、水洗浄により被洗浄体の表面に付着した研磨材を除去する処理を行う。次に、本洗浄として、エマルジョン洗浄により被洗浄体の表面を洗浄する処理を行う。このエマルジョン洗浄では、超音波により水を振動させる超音波洗浄方法と、洗浄槽の内部を真空近くまで減圧したり腹圧したりするのを繰り返す真空洗浄方法と、が組み合わされて洗浄が行われる。
【0042】
エマルジョン洗浄に超音波洗浄方法が組み合わされることで、被洗浄体に付着している汚れを効果的に洗浄することが可能となる。また、エマルジョン洗浄に真空洗浄方法が組み合わされることで、大気圧下では洗浄できない止まり穴や袋穴の中まで洗浄液を行き渡らせて、被洗浄体の細かい隙間まで効果的に洗浄することが可能となる。特に、真空洗浄方法と超音波洗浄方法とが組み合わされることで、大気圧下と比べて超音波の効果がより高くなるため、より効果的な洗浄を行うことが可能となる。なお、上記洗浄方法に加えて、あるいは上記洗浄方法に代えて、エマルジョン洗浄に脱気洗浄方法、回転洗浄方法、揺動洗浄方法、あるいはシャワー洗浄方法を組み合わせても良い。
【0043】
脱気洗浄方法を組み合わせることで、超音波洗浄方法を用いた際の超音波の効きを更に高めることが可能となる。回転洗浄方法・揺動洗浄方法を組み合わせることで、洗浄液の流れを物理的に作り出して洗浄効果を更に高めることができる。また、超音波が被洗浄体の表面に均等に当たりやすくなる。また、その他にも、洗浄液の流れを物理的に作り出す方法として、水を循環させたりバブリングさせたりする方法が挙げられる。また、シャワー洗浄方法を組み合わせることで、被洗浄体に対して洗浄液を上からだけでなく、横や下からもかけて、適切な洗浄を行うことが可能となる。なお、その他の洗浄方法として、高圧ジェット洗浄方法、スプレー洗浄方法、あるいはブラシ洗浄方法等が挙げられる。
【0044】
上記洗浄により、被洗浄体の表面に付着していた油などの汚れは、洗浄液に溶解して、洗浄液全体へと拡散される。また、被洗浄体に付着している汚れは、洗浄液に溶解して洗浄液へと置換される。次に、洗浄処理工程S6では、すすぎ洗浄として、被洗浄体の表面をベーパー洗浄する処理を行う。ベーパー洗浄では、洗浄液を沸騰させた蒸気で洗浄することで、被洗浄体の表面に残る汚れを更に高精度に洗浄する。
【0045】
次に、洗浄処理工程S6では、乾燥処理として、被洗浄体の表面に残る洗浄液を乾燥させる処理を行う。この乾燥処理は、いわゆる真空乾燥により行われる。真空乾燥は、洗浄槽の内部を真空近くまで減圧することで、洗浄液の沸点を急激的に上げて、洗浄液を突沸乾燥させる公知の方法である。真空乾燥を用いることで、先のベーパー洗浄により加温された洗浄槽内の減圧によって洗浄液の突沸乾燥を効果的に促すことができ、被洗浄体の表面にシミなどを残さないように適切に乾燥処理することができる。
【0046】
なお、乾燥処理は、熱風乾燥あるいは吸引乾燥によって行われても良い。熱風乾燥は、熱風を洗浄槽の内部に送り込むことで、被洗浄体の表面を乾燥させる公知の方法である。吸引乾燥は、圧縮された熱風を洗浄槽の内部に送り込むと同時に、吸引ブロアで反対側から引き抜くことで、被洗浄体の表面を乾燥させる公知の方法である。熱風乾燥及び吸引乾燥は、真空乾燥が行えない水系洗浄液を用いた洗浄槽にも適用することが可能である。
【0047】
(金属層5)
金属層5は、加飾部材1が
図2に示すタイプの加飾部材1Aの場合には、加飾層4を含むめっき層3の表面全体に均一な厚さを持つ形に積層状に成膜される。また、金属層5は、
図3に示すように、加飾部材1が
図3に示すタイプの加飾部材1Bの場合には、加飾層4を含む母材本体2の表面全体に均一な厚さを持つ形に積層状に成膜される。金属層5は、その表面に成膜される後述するDLC被膜層6を密着性良く成膜するための中間層として機能する。なお、金属層5は、めっき層3(
図2参照)或いは母材本体2(
図3参照)の一部を残す表面に部分的に成膜される構成であっても良い。
【0048】
金属層5には、ニッケル、チタン、クロム、タングステン、またはケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の金属を用いることができる。なお、金属層5は、上記群より選択される1種の金属からなる単層構造からなるものであっても良く、2種以上の金属の積層構造からなるものであっても良い。なお、金属層5を単層構造で成膜する場合には、耐食性に優れ、かつ、めっき層3(
図2参照)や母材本体2(
図3参照)、DLC被膜層6との密着性に優れたチタンからなることが好ましい。
【0049】
金属層5をチタンで構成する場合の厚さは、加飾部材1が
図2に示すタイプの加飾部材1Aである場合には、約0.2μmであることが好ましい。金属層5となるチタンを上記厚みで成膜することにより、金属層5をその下層にある加飾層4を透過可能な半透明状に成膜することができる。なお、加飾部材1が
図3に示すタイプの加飾部材1Bである場合も、金属層5となるチタンを上記厚みで成膜することが好ましい。
【0050】
金属層5は、
図4~
図5に示す金属層成膜工程S7において、それぞれ、PVD法(物理蒸着法)に分類されるスパッタリング法により被成膜体の表面上に積層状に成膜される。金属層成膜工程S7では、先ず、アルゴンイオンを用いたイオンボンバードメント処理が行われ、被成膜体の表面に表出する酸化膜や水酸化膜などの不動態被膜が除去される。
【0051】
次いで、スパッタリング法により、不活性ガス(アルゴンガス)の導入された真空中で、陰極ターゲット(成膜材料)にマイナスの電圧を印加してグロー放電を発生させ、ガスイオンを成膜材料に衝突させることで叩き出した成膜材料の粒子を被成膜体の表面に付着・堆積させて緻密な薄膜を形成する。金属層5をスパッタリング法で成膜することで、被成膜体を液体や高温気体にさらすことなく被成膜体の表面に緻密でかつ密着性の高い薄膜を成膜することができる。
【0052】
なお、金属層5は、スパッタリング法の他、アークイオンプレーティング法により、被成膜体の表面上に成膜される構成であっても良い。アークイオンプレーティング法は、真空中で成膜材料を蒸発させ、アーク放電によりイオン化(電離)させたプラス電荷の成膜材料を、マイナス電荷が印加された被成膜体の表面に引き寄せて成膜する公知の方法である。
【0053】
(DLC被膜層6)
DLC被膜層6は、
図4~
図5に示すDLC被膜層成膜工程S8において、PVD法(物理蒸着法)に分類される真空アーク蒸着法により、上記成膜された金属層5の表面に均一な厚さを持つ形に積層状に成膜される。DLC被膜層6は、上記真空アーク蒸着法により、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)の中では最もSP-3構造の比率が高く、最も高密度でかつ硬質な特徴を備えるとされるta-Cに分類される被膜層として形成される。ta-Cは、SP-3構造の比率が50%~90%で、かつ、水素含有量が5質量%以下のアモルファスカーボンである。
【0054】
詳しくは、DLC被膜層6は、真空アーク蒸着法の中でも特に表面の欠陥を少なく成膜できる手法として知られる公知のFCVA法(フィルタード陰極真空アーク法)により成膜される。FCVA法は、真空アーク蒸着法によりta-C被膜をワークに蒸着する際、陰極ターゲットの蒸発源である固体黒鉛から放出され得る電気的に中性な蒸発粒子であるドロップレット(SP-2構造あるいはそれに近い組成構造を持つマクロパーティカル)をプラズマの輸送中にプラズマからフィルタリングして、被膜に付着させにくくすることができる公知の手法である。
【0055】
ドロップレットが被膜に付着されにくくなることで、被膜の表面を凹凸の少ない幾何学的均一性(平坦性)及び化学的均一性を担保した形に形成することができる。その結果、DLC被膜層6を、表面が平滑で、かつ、機械特性の低下しにくい形に形成することができる。DLC被膜層6は、上記FCVA法を用いて、表面粗さRaが0.1μm以下であり、かつ、表面の欠陥が20%以下となるように形成されることが好ましい。また、DLC被膜層6は、厚さが0.1~3.0μmで、かつ、被膜のビッカース硬さが1,500~5,000Hvに形成されることが好ましい。被膜の硬さは、被膜の厚みが数十nm~数十μmの場合には、ナノインデンテーション硬さで示されることがある。
【0056】
また、DLC被膜層6は、上記FCVA法を用いて、表層部の屈折率が波長550nmにおいて1.5~3.0のta-C被膜として形成されることが好ましい。上記屈折率の測定方法としては、薄膜の屈折率を求める手法として知られる公知の分光エリプソメトリー法(薄膜に対する入射光と反射光の偏光状態の変化を測定する分析手法)や光干渉法が挙げられる。
【0057】
DLC被膜層6の表層部の屈折率は、DLC被膜層6の密度が低い場合、入射光が被膜内に吸収されて反射光の光量が少なくなることから小さくなる。反対に、DLC被膜層6の表層部の屈折率は、DLC被膜層6の密度が高い場合、入射光が被膜内に吸収されにくく反射光の光量が多くなることから大きくなる。
【0058】
したがって、母材本体2上に上記屈折率を備えた高密度なta-C被膜からなるDLC被膜層6を設けることで、部材表面からの水分の浸透を適切に防止することができる。DLC被膜層6は、中間層となる金属層5を間に介して母材本体2上に設けられることで、母材本体2上に密着性良く成膜される。これらの構成により、加飾部材1の水分による耐食性を適切に高めることができる。
【0059】
DLC被膜層6の成膜により、加飾部材1の表面には、
図2~
図3に示すように、加飾層4の積層に伴い加飾層4の凸形状に依存した形に突出する凸部Dを持つ高密度、硬質、かつ、高い耐摩耗性を備える被膜層が形成される。詳しくは、DLC被膜層6及びその下層に形成される金属層5は、それぞれ、上述した真空アーク蒸着法やスパッタリング法により、母材本体2の表面に均一な厚さを持つ形に積層状に成膜される。したがって、DLC被膜層6及び金属層5は、それぞれ、母材本体2上に積層状に設けられた加飾層4の略真上の位置に、加飾層4の形状に即して突出した装飾模様となる凸部Dを形成する形に成膜される。
【0060】
上記加飾部材1の部材表面に形成される凸部Dは、その周囲の基端側の角部に被膜が肉盛り状に堆積することなく加飾層4の形状に依存して突出する、輪郭が鮮明な角部を成す形に形成される。したがって、加飾層4の厚みを大きく設定しなくても、加飾部材1の表面に輪郭が鮮明な凸模様を形成することができる。DLC被膜層6がta-C被膜から成ることで、加飾部材1の表面に形成される凸部Dを耐摩耗性、耐候性、耐食性および耐傷付性の高い鮮明な模様形状に仕上げることができ、凸部Dの形状を崩しにくくすることができる。
【0061】
DLC被膜層6は、加飾部材1が
図2に示すタイプ(めっき層3が設けられるタイプ)の加飾部材1Aの場合には、その下層にある金属層5と共に、約0.2μmの厚さとなる薄膜状のDLC被膜層6Aとして形成されることが好ましい。それにより、DLC被膜層6Aは、金属層5と共に、これらの下層側にある加飾層4及びめっき層3をDLC被膜層6Aの表面に透過させることが可能な半透明状に成膜される。上記構成により、加飾部材1Aを、DLC被膜層6Aの被膜による高い保護機能を備えた上で、その下層にある加飾層4及びめっき層3の色彩をDLC被膜層6Aの表面に透過させることができるデザイン性の高い構成とすることができる。
【0062】
また、DLC被膜層6は、加飾部材1が
図3に示すタイプ(めっき層が設けられないタイプ)の加飾部材1Bの場合には、金属層5の表面上に約2.5μmの厚さとなる厚膜状のDLC被膜層6Bとして形成されることが好ましい。それにより、DLC被膜層6Bは、黒青色をした不透明状の厚手の被膜として形成される。上記構成により、加飾部材1Bを、DLC被膜層6Bの被膜による高い保護機能を備えた上で、その下層にある加飾層4の凸形状に依存した凸形状を部材表面上に凸部Dとして形成することができるデザイン性の高い構成とすることができる。
【0063】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は、上記実施形態に示した構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々の変更、追加、および削除が可能なものである。例えば、本発明の加飾部材は、屋内外の水まわり環境で使用される水栓用配管の他、水栓用配管以外にも適用することができるものである。
【符号の説明】
【0064】
1 加飾部材
1A 加飾部材
1B 加飾部材
2 母材本体
3 めっき層
3A ニッケルめっき層
3B クロムめっき層
4 加飾層
5 金属層
6 DLC被膜層
6A DLC被膜層
6B DLC被膜層
S1 前工程
S2 鉛除去処理工程
S3 めっき処理工程
S4 鏡面仕上げ処理工程
S5 印刷工程
S6 洗浄処理工程
S7 金属層成膜工程
S8 DLC被膜層成膜工程
D 凸部