(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007545
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】弦楽器移調支援システム
(51)【国際特許分類】
G10G 1/04 20060101AFI20230112BHJP
G10D 1/05 20200101ALI20230112BHJP
【FI】
G10G1/04
G10D1/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110443
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】721006426
【氏名又は名称】寺下 直行
(72)【発明者】
【氏名】寺下 直行
【テーマコード(参考)】
5D002
5D182
【Fターム(参考)】
5D002BB01
5D182AA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】演奏者が複数の異なる音からなる楽曲を移調して演奏する場合に、楽曲に含まれる任意の2音に対応する演奏者の指の押下位置の相対位置を移調前後で変化させず、かつ移調前後で演奏者が視覚的な差異を感じないようにする。
【解決手段】移調支援システム100は、全音調律弦楽器121と、複数のマーカー位置において、複数のマーカー位置に含まれる任意の位置が複数のカテゴリのいずれに属するかを演奏者が外観によって識別可能であり、その外観を制御できる制御可能マーカー122と、演奏者の入力に基づいて新たに指定された主音とし、指定された主音に基づいてマーカーの外観を変更する制御可能マーカー制御部123と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指板上に第一の方向に配列された複数のフレットと前記複数のフレットの上方で第二の方向に配列された複数の弦を備え、前記第一の方向と前記第二の方向が垂直であり、前記複数の弦は、任意の隣接する2本の弦について、該2本の弦のうち前記第二の方向に位置する弦の任意の位置を押下して生じる音が、もう一方の弦を該位置と前記第一の方向が同じ位置を押下して生じる音より全音だけ高くなるよう調律され、前記複数のフレットは、任意の隣接する2つのフレットについて、前記第一の方向に位置するフレット上で任意の弦を押下して生じる音が、もう一方のフレット上の該弦を押下して生じる音より半音だけ高くなるよう配置されることを特徴とする弦楽器と、隣接する2つのフレット間の指板上であって前記複数の弦の直下である複数の位置において、該複数の位置の各位置が、指定された主音をもつ長音階、及び指定された主音をもつ長音階以外の2つのカテゴリを含む複数のカテゴリのいずれに属するかを演奏者がその外観によって識別可能であり、その外観を制御することができることを特徴とするマーカーと、演奏者の入力を取得し該入力を出力する操作部と、前記操作部から得られる前記入力に基づいて前記指定された主音と異なる音名を新たに指定された主音とし、該指定された主音に基づいて前記マーカーの外観を変更する制御部と、を有することを特徴とする移調支援システム。
【請求項2】
前記複数のカテゴリが、前記指定された主音のカテゴリを含むことを特徴とする、請求項1に記載の移調支援システム。
【請求項3】
前記複数のカテゴリが、前記指定された主音に対する階名である12のカテゴリのうち少なくとも1つのカテゴリを含むことを特徴とする、請求項1に記載の移調支援システム。
【請求項4】
前記マーカーに、点消灯及び色、あるいはその両方を制御可能であり前記複数の位置に取り付けられる複数のLED照明を用いることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の移調支援システム。
【請求項5】
前記複数のLED照明が、前記隣接する2つのフレット間の指板に取り付けられる電子基板上に取り付けられ、該電子基板が前記複数のLED照明に配電することを特徴とする、請求項4に記載の移調支援システム。
【請求項6】
前記電子基板が、前記電子基板表面と、演奏者の通常の演奏範囲内の任意の力で押下され変形した任意の弦の下端との高さ方向の距離が0mmより大きく、前記複数のLED照明の上端と、前記変形した任意の弦の前記複数のLED照明の直上の位置の下端との高さ方向の距離が0mmよりも大きいことを特徴とする、請求項5に記載の移調支援システム。
【請求項7】
前記電子基板の前記第一方向の端部と該電子基板の前記第一の方向に隣接するフレットとの前記第一方向についての距離と、該電子基板の前記第一方向と反対方向の端部と該電子基板の前記第一の方向と反対方向に隣接するフレットとの前記第一の方向についての距離が、1mm以下であることを特徴とする、請求項5及び請求項6のいずれかに記載の移調支援システム。
【請求項8】
前記複数のLED照明が、指板に設けられた複数のくぼみ内に取り付けられることを特徴とする、請求項4に記載の移調支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマーカーを有する弦楽器の移調支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
弦楽器のマーカーに関し、特許文献1には「In accordance with some embodiments of the present invention, the fretboard 102 is marked with a plurality of markers 116 and 118 in the first region 120 (the region which utilizes a whole tone tuning system). A marker may be a symbol, shape, indentation, raised area, color, light, or other identifying feature. The use of whole tone tuning system still allows a ‘piano-like’ marking scheme to be used.」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弦楽器は、指板上に第一の方向に配列された複数のフレットと前記複数のフレットの上方で第二の方向に配列された複数の弦を備え、前記第一の方向と前記第二の方向が垂直であり、前記複数の弦は、任意の隣接する2本の弦について、該2本の弦のうち前記第二の方向に位置する弦の任意の位置を押下して生じる音が、もう一方の弦を該位置と前記第一の方向が同じ位置を押下して生じる音より全音だけ高くなるよう調律され、前記複数のフレットは、任意の隣接する2つのフレットについて、前記第一の方向に位置するフレット上で任意の弦を押下して生じる音が、もう一方のフレット上の該弦を押下して生じる音より半音だけ高くなるよう配置される楽器である。特許文献1に記載の弦楽器の一つの形態では、ピアノの鍵盤に慣れた演奏者が容易に音階を識別することができるよう、弦の直下であって、隣接する2つのフレット間である位置の指板上に、ピアノの鍵の色と同様の役割を担うマーカーが取り付けられている。
【0005】
特許文献1に記載の弦楽器は、ピアノと比較し、同一楽曲を調の主音を変更する移調を伴う演奏が比較的容易であるという利点がある。例えば、Cを主音とする長調の音階であるC長音階から成るメロディをC#長音階に移調する場合を考えると明らかである。ピアノでは、C長音階に対応する鍵はすべて白鍵であるが、C長音階においてC、D、F、G、及びAに対応する白鍵で演奏される音は、C#長音階に移調する場合、それぞれ、C#、D#、F#、G#、及びA#に対応する黒鍵で演奏される必要がある。これらの音を含む楽曲をC長音階からC#長音階に移調して演奏する場合、C#長音階において押下される複数の鍵同士の位置関係はC長音階の場合と異なる。このため、ピアノにおいて移調を伴う演奏には演奏技術の熟練を要する。一方、特許文献1に記載の弦楽器では、同一の相対位置をもつ任意の2つの押下位置で生じる2音は常に同一音程である。このため、例えばC長音階から成る楽曲を演奏する際の楽曲内の複数の音に対応する押下位置の間の位置関係と、前記楽曲をC#長音階に移調して演奏する場合の複数の音に対応する押下位置の間の位置関係は同一であり、演奏者は移調によって複数の音に対応する押下位置の位置関係を変化させる必要がない。これが特許文献1に記載の弦楽器を使用した移調を伴う演奏が、ピアノと比較し容易である理由である。
【0006】
しかし、依然として特許文献1に記載の弦楽器における移調を伴う演奏は特許文献1に記載のマーカーに頼った演奏を行う多くの演奏者にとって容易ではない。これは、移調前後で押下位置の指板上のマーカーが異なるために、移調前後で視覚情報に差異が生じるためである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、演奏者が複数の異なる音からなる楽曲を移調して演奏する場合に、楽曲に含まれる任意の2音に対応する演奏者の指の押下位置の相対位置を移調前後で変化させず、かつ移調前後で演奏者が視覚的な差異を感じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため移調支援システムは、指板上に第一の方向に配列された複数のフレットと前記複数のフレットの上方で第二の方向に配列された複数の弦を備え、前記第一の方向と前記第二の方向が垂直であり、前記複数の弦は、任意の隣接する2本の弦について、該2本の弦のうち前記第二の方向に位置する弦の任意の位置を押下して生じる音が、もう一方の弦を該位置と前記第一の方向が同じ位置を押下して生じる音より全音だけ高くなるよう調律され、前記複数のフレットは、任意の隣接する2つのフレットについて、前記第一の方向に位置するフレット上で任意の弦を押下して生じる音が、もう一方のフレット上の該弦を押下して生じる音より半音だけ高くなるよう配置されることを特徴とする弦楽器と、隣接する2つのフレット間の指板上であって前記複数の弦の直下である複数の位置において、該複数の位置の各位置が、指定された主音をもつ長音階、及び指定された主音をもつ長音階以外の2つのカテゴリを含む複数のカテゴリのいずれに属するかを演奏者がその外観によって識別可能であり、その外観を制御することができることを特徴とするマーカーと、演奏者の入力を取得し該入力を出力する操作部と、前記操作部から得られる前記入力に基づいて前記指定された主音と異なる音名を新たに指定された主音とし、該指定された主音に基づいて前記マーカーの外観を変更する制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
演奏者が複数の異なる音からなる楽曲を移調して演奏する場合に、楽曲に含まれる任意の2音に対応する演奏者の指の押下位置の相対位置を移調前後で変化させず、かつ移調前後で演奏者が視覚的な差異を感じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】移調支援システム100の構成を示すブロック図である。
【
図3】全音調律弦楽器121への制御可能マーカー122及び制御可能マーカー配電部130の実装の形態を図示している。
【
図4】制御可能マーカー配電基板Z、LED照明z1…LED照明z16、コネクタCZ、制御可能マーカー配電基板Zの第一の方向及び第一の方向の反対方向に隣接するフレット、及び制御可能マーカー配電基板Zの回路を図示している。
【
図5】線分131の断面図、及び演奏者の押下によって変形した弦101を示している。
【
図6】制御可能マーカー制御部123の構成を示すブロック図である。
【
図7】コネクタ端子NA1…NA16…NS1…NS16と制御装置陽極端子201…212の接続関係を例示している。
【
図8】制御装置134が電圧を付加する複数の制御装置陽極端子の組合せの例を図示している。
【
図9】制御装置134のハードウェア構成を図示している。
【
図10】制御可能マーカーの外観の2つの例を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて実施例を説明する。
【実施例0012】
本実施例では、本発明を演奏者の移調支援に適用する場合について説明する。
【0013】
図1は実施例1に係る移調支援システムの構成を示すブロック図である。
図1において、移調支援システム100は全音調律弦楽器121、制御可能マーカー122、制御可能マーカー配電部130、制御可能マーカー制御部123、及び操作部124を備える。
【0014】
全音調律弦楽器121は、指板上に第一の方向に配列され取り付けられた複数のフレットと前記複数のフレットの上方で第二の方向に配列された複数の弦で構成され、第一の方向と第二の方向が垂直であるような楽器である。ここで、指板は全音調律弦楽器121の上方向の表面である。また、複数の弦は、任意の隣接する2本の弦について、該2本の弦のうち第二の方向に位置する弦の任意の位置を押下して生じる音が、もう一方の弦を該位置と前記第一の方向が同じ位置を押下して生じる音より全音だけ高くなるよう調律される。さらに、複数のフレットは、任意の隣接する2つのフレットについて、第一の方向に位置するフレット上で任意の弦を押下して生じる音が、もう一方のフレット上の該弦を押下して生じる音より半音だけ高くなるよう配置される。全音調律弦楽器121は、例えば特許文献1に記載の弦楽器である。
図2は弦が16本でフレットが19個である場合の全音調律弦楽器121の例を示している。
図2において全音調律弦楽器121は、弦101…弦116、フレットFA…フレットFS、前側ブリッジ125、及び後側ブリッジ126を備える。フレットFA…フレットFSは、第一の方向の手前から表記の順に指板に取り付けられ、弦101…弦116は、第二の方向の手前から表記の順に指板上方に取り付けられている。
【0015】
後側ブリッジ126と前側ブリッジ125はそれぞれ、弦101…弦116の第一の方向の端と第一の方向と反対方向の端を保持する。
【0016】
また、フレットFB…フレットFSのそれぞれについて、フレットとその第一の方向と反対方向に隣接するフレットとの間の指板部分をフレット間指板BB…フレット間指板BSと呼称する。例えば、フレット間指板BBはフレットFBとフレットFAとの間の指板部分である。また、フレットFAと前側ブリッジ125の間の指板部分をフレット間指板BAと呼称する。
【0017】
制御可能マーカー122は、上方から見たときフレット間指板BA…BSと弦101…弦116が交差する指板上の位置である複数のマーカー位置において、複数のマーカー位置に含まれる任意の位置が複数のカテゴリのいずれに属するかを演奏者が外観によって識別可能であり、その外観を制御することができるマーカーである。ここで、マーカーは、色、光、あるいはその他の識別機能である。また、本実施例において複数のマーカー位置は、弦101…弦116とフレット間指板BA…フレット間指板BSが交差する16×19=304個の位置である。また、本実施例において前記複数のカテゴリは、指定された主音をもつ長音階及び指定された主音をもつ長音階以外の2つのカテゴリである。この場合、演奏者は任意の弦を任意のフレット間指板上の上部で押下したときに生じる音が、指定された主音をもつ長音階、及び指定された主音をもつ長音階以外のいずれに属するかをマーカーの外観によって識別する。本実施例において指定された主音は、C、C♯、D、D♯、E、F♯、F、G、G♯、A、A♯、及びBのいずれかの音名である。本実施例において制御可能マーカー122は、前記複数のマーカー位置の各位置に一つずつ取り付けられる複数のLED照明である。この場合LED照明は、その取付け位置が指定された主音をもつ長音階に属する場合に点灯し、その取付け位置が指定された主音をもつ長音階以外に属する場合に消灯する。演奏者は各マーカー位置に取り付けられるLED照明の点消灯によって各位置がいずれのカテゴリに属するかを識別できる。
【0018】
制御可能マーカー配電部130は、制御可能マーカー122の外観を制御するために制御可能マーカー制御部123と制御可能マーカー122とを電気的に接続する装置である。本実施例において、制御可能マーカー配電部130はフレット間指板と同数の制御可能マーカー配電基板とコネクタを備える。
【0019】
図3を用いて、全音調律弦楽器121への制御可能マーカー122及び制御可能マーカー配電部130の実装の形態について説明する。
図3において、全音調律弦楽器121には制御可能マーカー配電基板A…制御可能マーカー配電基板S、LED照明a1…LED照明s16、コネクタCA…コネクタCS、及びコネクタ端子NA1…コネクタ端子NS17が備えられている。なお、
図3において連番によって対応する記号が類推可能な一部のLED照明及びコネクタ端子については、記号の記載を省略している。
【0020】
制御可能マーカー配電基板A…Sはそれぞれフレット間指板BA…フレット間指板BS上に取り付けられる。
【0021】
制御可能マーカー配電基板A表面にはコネクタCA及び第二の方向の手前から順にLED照明a1…LED照明a16が取り付けられ、制御可能マーカー配電基板B表面にはコネクタCB及び第二の方向の手前から順にLED照明b1…LED照b16が取り付けられており、制御可能マーカー配電基板C…制御可能マーカー配電基板Sについても同様の表記ルールに従ってLED照明及びコネクタが取り付けられている。
【0022】
コネクタCAには第一の方向の手前から順にコネクタ端子NA1…NA17が取り付けられ、コネクタCBには第一の方向の手前から順にコネクタ端子NB1…NB17が取り付けられており、コネクタCC…コネクタCSについても同様の表記ルールに従ってコネクタ端子が取り付けられている。
【0023】
以下、制御可能マーカー配電基板A…制御可能マーカー配電基板Sに含まれる任意の制御可能マーカー配電基板を制御可能マーカー配電基板Zと呼称する。制御可能マーカー配電基板Zが取り付けられているフレット間指板をフレット間指板BZ、制御可能マーカー配電基板Z表面のLED照明を第二の方向の手前から順にLED照明z1…LED照明z16、制御可能マーカー配電基板Zに取り付けられるコネクタをコネクタCZ、コネクタCZに取り付けられるコネクタ端子を第一の方向の手前から順にコネクタ端子NZ1…コネクタ端子NZ17と呼称する。
【0024】
制御可能マーカー122及び制御可能マーカー配電部130は演奏者の演奏を妨げないように全音調律弦楽器121に実装されることを特徴とする。
図4を用いて、制御可能マーカー122及び制御可能マーカー配電部130のより詳細な実装の形態について説明する。
図4は制御可能マーカー配電基板Z、LED照明z1…LED照明z16、コネクタCZ、コネクタ端子NZ1…コネクタ端子NZ17、制御可能マーカー配電基板Zの第一の方向及び第一の方向の反対方向に隣接するフレット、及び制御可能マーカー配電基板Zの回路を図示したものである。
【0025】
制御可能マーカー配電基板Zは、コネクタCZを通じて供給される電流によってLED照明z1…LED照明z16を点灯させる長方形の基板である。制御可能マーカー配電基板Zの第二の方向の長さは、弦101と弦116との第二の方向の距離よりも大きいことを特徴とする。これによりLED照明z1…LED照明z16はそれぞれ弦101…弦116の直下に位置することができる。また制御可能マーカー配電基板Zは、制御可能マーカー配電基板Zの第一方向の端部と制御可能マーカー配電基板Zの第一の方向に隣接するフレットとの第一の方向についての距離及び、制御可能マーカー配電基板Zの第一方向と反対方向の端部と制御可能マーカー配電基板Zの第一の方向と反対方向に隣接するフレットとの第一の方向についての距離が、1mm以下となる第一の方向の長さを有することを特徴とする。これにより、演奏者が弦を押下しながら第一の方向あるいはその反対方向に指を移動させるスライド演奏をする際に、演奏者の指の移動が制御可能マーカー配電基板Zの第一の方向あるいは第一の方向と反対方向の端部との接触によって妨げられることを防ぐことができる。制御可能マーカー配電基板Zは例えば、裏面に貼り付けられる両面粘着テープを用いてフレット間指板BZに取り付けられる。
【0026】
LED照明z1…LED照明z16は、それぞれ弦101…弦116の直下であって制御可能マーカー配電基板Z表面であって、制御可能マーカー配電基板Zの第一の方向の端部付近に取り付けられ、回路に接続される。
【0027】
LED照明z1…LED照明z16の陽極は回路を通じてそれぞれコネクタ端子NZ1…コネクタ端子NZ16に接続される。また、LED照明z1…LED照明z16のすべての陰極は回路を通じてコネクタ端子NZ17に接続される。コネクタCZは、弦101…弦116のすべてから十分に離れた位置に配置され、回路に接続される。例えば、コネクタCZは制御可能マーカー配電基板Zの第二の方向の端部付近に取り付けられる。これにより、演奏者の指がコネクタCZに触れることで演奏が妨げられることを防ぐことができる。また、
図5は
図4の線分131の断面図、及び演奏者の押下によって変形した弦101を示している。
図5を用いて、LED照明z1及び制御可能マーカー配電基板Zの形状及び取付け位置の特徴について説明する。制御可能マーカー配電基板Zは、演奏者が通常の演奏範囲内のいかなる力で弦を押下した場合でも変形した弦101の下端133と制御可能マーカー配電基板Z表面との高さ方向の距離が0mmより大きくなる十分に薄い形状を有することを特徴とする。同様に、制御可能マーカー配電基板Zは、演奏者の押下によって変形した弦102…116の下端と制御可能マーカー配電基板Z表面との高さ方向の距離が0mmより大きくなる十分に薄い形状を有する。また、LED照明z1の高さ及び第一の方向の長さは、変形した弦101のLED照明z1の直上の下端132とLED照明上端との高さ方向の距離が0mmより大きいことを特徴とする。同様に、LED照明z2…z16は、それぞれの直上の弦102…弦116についてLED照明z1と同様の形状及び取付け位置の特徴を有する。これによって、弦と制御可能マーカー配電基板との接触、あるいは弦とLED照明との接触によって演奏者の演奏が妨げられることを防ぐことができる。
【0028】
操作部124は演奏者の入力を取得し、該入力を制御可能マーカー制御部123に出力する。演奏者は、操作部124への入力によって、制御可能マーカー制御部123による制御可能マーカー122の外観の変更方法を決定することができる。
【0029】
制御可能マーカー制御部123は、操作部124から取得する演奏者の入力に基づいて制御可能マーカー122の外観を変更する。
【0030】
本実施例において制御可能マーカー制御部123は指定された主音をもつ長音階に対応したLED照明を点灯させ、操作部124から取得する入力に基づいて指定された主音をもつ長音階を該主音と異なる主音をもつ長音階に変更し、制御可能マーカー122の外観を変化させる。ここで長音階は、C、C♯、D、D♯、E、F♯、F、G、G♯、A、A♯、及びBのいずれかを主音とする長音階である。
【0031】
以下、
図6を用いて制御可能マーカー制御部123及び操作部124の実現方法について説明する。
【0032】
図6において制御可能マーカー制御部123は、端子間接続回路135と、制御装置陽極端子201…212、制御装置接地端子213、及び制御装置134を備え、操作部124は半音上げスイッチ128及び半音下げスイッチ129の2つの押しボタンスイッチを備える。
【0033】
コネクタ端子NA1…NA16…NS1…NS16は端子間接続回路135に接続され、
図7に従ってそれぞれ制御装置陽極端子201…212のいずれかに接続される。また、NA17…NS17は制御装置接地端子213に接続される。
図7は、コネクタ端子NA1…NA16…NS1…NS16と制御装置陽極端子201…212の接続関係を例示している。
図7に記載の接続関係は、対応するLED照明上部の弦を押下して生じる音の音名が同じである複数のコネクタ端子を同一の制御装置陽極端子に接続させるものである。特にLED照明a1上部の弦を押下して生じる音の音名がCである場合、制御装置陽極端子201…212はそれぞれ音名C…音名Bに対応する。
【0034】
制御装置134は、あらかじめ定められた組合せの複数の制御装置陽極端子に電圧を付加することで一部のLED照明を点灯させる。例えば
図7に記載の接続関係を用いるとき、前期組合せは、
図8に図示するパターン301…パターン312のいずれかである。LED照明a1の取付け位置の弦の押下で生じる音の音名Cである場合、パターン301…パターン312でONと指定される制御装置陽極端子への電圧の付加は、それぞれ、Cを主音とする長音階…Bを主音とする長音階に対応する位置のLED照明を点灯させる。また、制御装置134は、半音上げスイッチ128及び半音下げスイッチ129から取得する信号に基づいて、パターンを変更する。
【0035】
上記動作のため、制御装置134は図示しない表示制御処理を実行する。パターン301…パターン312を用いるとき、表示制御処理は例えば次のステップ401…405から成る処理である。
【0036】
ステップ401:不揮発性メモリであるROMから、長音階基本配列と呼ぶ配列[true, false, true, false, true, true, false, true, false, true, false, true]を取得し、長音階配列に代入する。これはパターン301に対応する。
ステップ402:長音階配列の各要素をインデックスの小さい順に制御装置陽極端子201…212に対応させたときの、trueの要素に対応する制御装置陽極端子に電圧を付加し、falseの要素に対応する制御装置陽極端子への電圧の付加を停止し、ステップ403に進む。
ステップ403:演奏者の入力を待機し、演奏者が半音上げスイッチ128を押下及び離上したときステップ404に、演奏者が半音下げスイッチ129を押下及び離上したときステップ405に進む。
ステップ404:長音階配列の1番目…11番目の各要素をそれぞれ長音階配列の2番目…12番目の要素に、長音階配列の12番目の要素を長音階配列の1番目の要素に代入し、ステップ402に進む。このステップの実行前における長音階配列がパターン301に対応するとき、前記代入はパターン301からパターン302への変更に対応する。
ステップ405:長音階配列の2番目…12番目の各要素をそれぞれ長音階配列の1番目…11番目の要素に、長音階配列の1番目の要素を長音階配列の12番目の要素に代入し、ステップ402に進む。このステップの実行前における長音階配列がパターン301に対応するとき、前記代入はパターン301からパターン312への変更に対応する。
【0037】
制御装置134は例えば
図9に記載のハードウェア構成を備える。
図9において制御装置134は、バス136、RAM137、ROM138、及びCPU139を備える。ROM138は表示制御処理のプログラム及び長音階基本配列を格納する不揮発性メモリである。CPU139は表示制御処理の演算に用いられ、RAM137は表示制御処理に使用される揮発性メモリである。バス136は半音上げスイッチ128、半音下げスイッチ129、制御装置陽極端子201…212、RAM137、ROM138及びCPU139を接続する。
【0038】
図10は、制御可能マーカーの外観の2つの例である、マーカー外観1301とマーカー外観1302を図示している。LED照明a1の取付け位置の弦の押下で生じる音の音名がCである場合、マーカー外観1301は、制御装置134がパターン301に従って制御装置陽極端子201…212に電圧の付加することでCを主音とする長音階に対応するLED照明を点灯させた場合の制御可能マーカー122の外観であり、マーカー外観1302は、半音上げスイッチ128の入力によってパターンをパターン301からパターン302に変更し、パターン302に従い制御装置陽極端子201…212に電圧の付加することでCよりも半音高いC#を主音とする長音階に対応するLED照明を点灯させた場合の制御可能マーカー122の外観である。なお、白抜きの正方形が点灯しているLED照明、黒塗りの正方形が消灯しているLED照明を示している。また、
図10は見やすさのため弦101…116及び全音調律弦楽器121の第一の方向側の一部を図示していない。
図10を用いて、演奏者がCを主音とする長音階において演奏するC、E、及びGから成る和音を、C#を主音とする長音階に移調して演奏する場合について説明する。演奏者が移調前に前記和音を位置141、位置142、及び位置143付近の弦を同時に押下することで演奏し、移調後、移調によって半音高くなった前記和音を位置144、位置145、及び位置146付近の弦の押下によって演奏する場合を考える。このとき、移調前にパターン301を使用し、移調後にパターン302を使用することで、移調前に演奏者が注視する領域147と移調後に演奏者が注視する領域148との間に視覚的な差異が生じないようにすることができる。
【0039】
本発明によれば、演奏者が複数の異なる音からなる楽曲を移調して演奏する場合に、楽曲に含まれる任意の2音に対応する演奏者の指の押下位置の相対位置を移調前後で変化させず、かつ移調前後で演奏者が視覚的な差異を感じないようにすることができる。
【0040】
本実施例で、制御可能マーカー122は、複数のマーカー位置のそれぞれに取り付けられるLED照明であるとしたが、制御可能マーカー122は、複数のマーカー位置に含まれる任意の位置が複数のカテゴリのいずれに属するかを演奏者が外観で識別でき、演奏者が外観を制御できる装置であればよい。例えば制御可能マーカー122は、白熱電球などの他の照明装置や、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、及びビデオプロジェクタなどの画像表示装置であってもよい。
【0041】
制御可能マーカー122に白熱電球などを用いる場合はLED照明の場合と同様に使用される。
【0042】
制御可能マーカー122に液晶ディスプレイあるいは有機ELディスプレイを用いる場合は、例えば本実施例における制御可能マーカー配電基板A…Sと同形状の液晶ディスプレイあるいは有機ELディスプレイをそれぞれフレット間指板BA…BSに貼り付け、複数のマーカー位置において、指定された主音をもつ長音階に対応する位置と指定された主音をもつ長音階以外に対応する位置で色の異なる長方形図形を含む画像を表示する。例えば、指定された主音をもつ長音階に対応する位置において白の長方形を長音階に対応しない位置において黒の長方形を表示する。この場合、制御装置134は操作部124から取得する信号に基づいて表示する画像を切り替えることで、指定された主音をもつ長音階を該主音と異なる主音をもつ長音階に変更し、画像を変化させる。
【0043】
制御可能マーカー122がビデオプロジェクタである場合は、例えばビデオプロジェクタを全音調律弦楽器121の上部にビデオプロジェクタを固定し、指板上に画像を投影する。このとき前記画像及びビデオプロジェクタ取付け位置は、複数のマーカー位置において、例えば指定された主音をもつ長音階に対応する位置において白の長方形が、指定された主音をもつ長音階に対応しない位置において黒の長方形が投影されるよう設定される。この場合、制御装置134は操作部124から取得する信号に基づいて表示する画像を切り替えることで、指定された主音をもつ長音階を該主音と異なる主音をもつ長音階に変更し、画像を変化させる。
【0044】
また本実施例において、複数のマーカー位置に含まれる任意の位置は複数のカテゴリのいずれかに属し、複数のカテゴリは、指定された主音をもつ長音階及び指定された主音をもつ長音階以外の2つのカテゴリであるであるとしたが、複数のカテゴリは2つのカテゴリに限らない。また、各マーカー位置は、複数のカテゴリに同時に属していてもよい。
【0045】
例えば、複数のカテゴリは、指定された主音、指定された主音をもつ長音階、及び指定された主音をもつ長音階以外、の3つのカテゴリであってもよい。このとき、制御可能マーカー122は例えば複数のLED照明であり、LED照明は、その取付け位置が指定された主音をもつ長音階に属する場合に点灯し、その取付け位置が指定された主音をもつ長音階以外に属する場合に消灯し、その取付け位置が指定された主音及び指定された主音をもつ長音階に属する場合に一定周期で点滅を繰り返す。また、例えば、複数のカテゴリは指定された主音に対する相対的な高さである階名に対応する12のカテゴリであってもよい。このとき、制御可能マーカー122のおける制御可能マーカーは例えばLED照明であり、12のカテゴリがそれぞれ異なる色に対応し、LED照明は、その取付け位置が属するカテゴリに割り当てられた色で点灯する。この場合でも、演奏者は指定された主音の長音階に対応する色の組合せを記憶することで、各位置が、指定された主音をもつ長音階、及び指定された主音をもつ長音階以外の2つのカテゴリのいずれに属するかを識別することができる。
【0046】
また、全音調律弦楽器121に複数のLED照明を取り付ける方法は、指板上に制御可能マーカー配電基板を備える方法に限らない。例えば、複数のLED照明を、それらの上端が指板の表面上端よりも低くなるよう指板に設けられた複数のくぼみ内に取り付けられてもよい。この場合でも、演奏者の指と制御可能マーカー122との接触によって演奏が妨げられることを防ぐことができる。
【0047】
また、本実施例において、LED照明a1の取り付け位置の押下で生じる音の音名がCに対応する場合について説明したが、LED照明a1の取り付け位置の押下が対応する音名はCに限らない。例えばLED照明a1の取り付け位置の押下で生じる音の音名はGでもよく、この場合、パターン301…パターン312に従う制御装置陽極端子201…212への電圧の付加は、それぞれ、Gを主音とする長音階…F#を主音とする長音階に対応する位置のLED照明を点灯させる。
【0048】
また、本実施例において、全音調律弦楽器121の16本の弦と19個のフレットを備えるとしたが、全音調律弦楽器121の仕様はこれに限らない。例えば、弦の本数が12本や24本であってもよいし、フレットの個数が15個であってもよい。
【0049】
また、本実施において操作部124は半音上げスイッチ128及び半音下げスイッチ129の2つの押しボタンスイッチを備えるとしたが、操作部124は制御可能マーカー制御部123が制御可能マーカー122を演奏者の操作に基づいて制御できる情報を取得できればよい。例えば、操作部124はタッチパネルあるいは回転式のノブスイッチを備えていてもよい。またこの場合、操作部124は、本実施例における「半音上げ」や「半音下げ」という情報でなく、タッチパネルあるいは回転式のノブスイッチを用いて指定された主音を演奏者が選択し、制御可能マーカー制御部123に指定された主音の情報を出力してもよい。
【0050】
また、本実施例において、コネクタ端子は弦の本数より一つ多い17個であり、制御装置陽極端子は音名の数と同数の12個であるとしたが、制御装置134がLED照明を対応する音名ごとに制御できればよく、例えばコネクタ端子の個数は、同音名のLED照明に一つのコネクタ端子を割り当てる場合の本実施例より少ない7個であってもよいし、制御装置陽極端子の個数は各制御装置陽極端子を一つのLED照明に割り当てる場合の本実施例より多いLED照明と同数個であってもよい。