(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075461
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】めっき製品,めっき製品の製造方法及びめっき液
(51)【国際特許分類】
C23C 18/16 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
C23C18/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188382
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】515086252
【氏名又は名称】株式会社 コーア
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】椎名 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】椎名 志津子
(72)【発明者】
【氏名】今 一郎
(72)【発明者】
【氏名】千葉 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】三上 憲秀
(72)【発明者】
【氏名】工藤 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】成田 翔汰
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA06
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA32
4K022DA01
4K022DA07
4K022DB02
4K022EA04
(57)【要約】
【課題】 高価になることなく抗菌性を向上させ、汎用性の向上を図る。
【解決手段】 母材Wをめっき液に浸漬し無電解めっき処理を行って被膜Sを被覆するめっき処理工程と、めっき処理工程後に被膜Sに対して酸溶液により酸化処理して被膜Sの表面を黒色にする酸化処理工程とを備え、母材Wに表面が黒色の被膜Sが被覆されためっき製品Mを製造するめっき製品Mの製造方法において、めっき処理工程で使用するめっき液を、めっき金属の金属塩,還元剤及び錯化剤を含んで構成し、金属塩としてニッケル塩とコバルト塩とを用い、還元剤として次亜リン酸塩を用いて構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に無電解めっき処理及びその後の酸化処理により黒色の表面を有した被膜を被覆しためっき製品において、
上記被膜が、ニッケル-コバルト-リン合金及びこれらの酸化物を有して構成されることを特徴とするめっき製品。
【請求項2】
上記被膜において、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、43重量%~88重量%、コバルトの含有率が、3重量%~48重量%、リンの含有率が8重量%~13重量%の範囲であることを特徴とする請求項1記載のめっき製品。
【請求項3】
母材をめっき液に浸漬し無電解めっき処理を行って被膜を被覆するめっき処理工程と、該めっき処理工程後に上記被膜に対して酸溶液により酸化処理して該被膜の表面を黒色にする酸化処理工程とを備え、上記母材に表面が黒色の被膜が被覆されためっき製品を製造するめっき製品の製造方法において、
上記めっき処理工程で使用するめっき液を、めっき金属の金属塩,還元剤及び錯化剤を含んで構成し、金属塩としてニッケル塩とコバルト塩とを用い、還元剤として次亜リン酸塩を用いて構成したことを特徴とするめっき製品の製造方法。
【請求項4】
上記めっき処理工程において、上記母材に被覆された被膜を、該被膜の酸化処理前の蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、45重量%~90重量%、コバルトの含有率が、5重量%~50重量%、リンの含有率が、4重量%~7重量%の範囲になるように形成することを特徴とする請求項3記載のめっき製品の製造方法。
【請求項5】
上記めっき液において、上記ニッケル塩として、硫酸ニッケル,塩化ニッケル,硝酸ニッケル,炭酸ニッケルから選択される少なくとも1種を用い、
上記コバルト塩として、硫酸コバルト,塩化コバルト,硝酸コバルト,炭酸コバルトから選択される少なくとも1種を用い、
上記次亜リン酸塩として、次亜リン酸ナトリウムを用いたことを特徴とする請求項3または4記載のめっき製品の製造方法。
【請求項6】
上記めっき液において、上記錯化剤として、酢酸,乳酸,グリシン,クエン酸,マロン酸,りんご酸,しゅう酸,こはく酸,酒石酸,チオグリコール酸,アンモニア,アラニン,グルタミン酸,エチレンジアミン及び/またはそれらの塩から選択される少なくとも1種を用いたことを特徴とする請求項5記載のめっき製品の製造方法。
【請求項7】
上記めっき液は、硝酸鉛及び/または硝酸ビスマスからなる安定剤を含むことを特徴とする請求項5または6記載のめっき製品の製造方法。
【請求項8】
上記めっき液は、pH調整剤を含み、該めっき液のpHを、7.0~10.0にしたことを特徴とする請求項5乃至7何れかに記載のめっき製品の製造方法。
【請求項9】
上記めっき液として、硫酸ニッケル六水和物(ニッケル塩),硫酸コバルト七水和物(コバルト塩)を用いて構成し、
硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比を、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.1~1.5)にしたことを特徴とする請求項8記載のめっき製品の製造方法。
【請求項10】
上記めっき液は、
硫酸ニッケル六水和物(ニッケル塩)を、0.04~0.08mol/L、
硫酸コバルト七水和物(コバルト塩)を、0.01~0.05mol/Lを含み、
硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比を、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.125~1.25)にし、
次亜リン酸ナトリウム(還元剤)を、0.1~0.29mol/L、
グリシン(錯化剤)を、0.08~0.21mol/L、
クエン酸三ナトリウム二水和物(錯化剤)を、0.14~0.2mol/L、
硫酸アンモニウム(反応促進剤)を、0.45~0.61mol/L、
ホウ酸(反応促進剤)を、0.81~1.13mol/L、
硝酸ビスマス五水和物(安定剤)を、1.03×10-5~3.09×10-5mol/Lを含む構成とし、
上記めっき処理工程において、めっき液の温度を80℃~95℃にし、該めっき液を撹拌しながらめっき処理を行なうことを特徴とする請求項9記載のめっき製品の製造方法。
【請求項11】
上記酸化処理工程において、
酸溶液として、酢酸,塩酸,硫酸,乳酸,ギ酸,クエン酸,リン酸から選択される少なくとも1種を用いて構成したことを特徴とする請求項3乃至10何れかに記載のめっき製品の製造方法。
【請求項12】
上記酸化処理工程において、酸溶液の温度を25℃~40℃にし、該酸溶液に被膜が被覆された母材を浸漬するとともに該酸溶液を撹拌しながら行なうことを特徴とする請求項11記載のめっき製品の製造方法。
【請求項13】
上記請求項3乃至10何れかに記載のめっき液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき処理及びその後の酸化処理により黒色の被膜を被覆しためっき製品,このめっき製品を製造する方法及びこの方法に用いることに有効なめっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のめっき製品としては、例えば、特公昭64-7153号公報(特許文献1)に掲載されたものが知られている。これは、母材にニッケル膜またはコバルト膜を被覆し、酸化処理して表面を黒色にしている。このめっき製品の製造方法は、ニッケル膜を被覆したものでは、硫酸ニッケル,酒石酸ナトリウム及び還元剤としての次亜リン酸ナトリウムを主成分としためっき液に母材を浸漬して、母材に7重量%以下のリン濃度のニッケルの被膜を被覆する。次に、塩酸に母材を浸漬して酸化処理している。一方、コバルト膜を被覆したものでは、上記のめっき液において、硫酸ニッケルに変えて、適宜のコバルト塩を含め、同様に処理して母材に7重量%以下のリン濃度のコバルト膜を被覆し、その後、酸化処理している。これにより、耐食性,耐摩耗性及び耐候性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この従来のめっき製品において、ニッケル膜を被覆して黒色化したものでは、耐食性,耐摩耗性及び耐候性の向上を図ってはいるが、近年、注目されている抗菌性については、必ずしも優れているとは言えない。一方、コバルト膜を被覆して黒色化したものは、抗菌性について期待できるが、ニッケルに比較して析出しにくく析出条件の規定が難しいとともに、高価なので、汎用性に劣る。
本発明は、この点に鑑みてなされたもので、高価になることなく抗菌性を向上させ、汎用性の向上を図った黒色のめっき製品,めっき製品の製造方法及びめっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、研究によりニッケルとコバルトとを混合した被膜においても黒色を呈し、しかも、抗菌性を奏することを見出し、本発明を完成させた。即ち、上記目的を達成するため、本発明のめっき製品は、母材に無電解めっき処理及びその後の酸化処理により黒色の表面を有した被膜を被覆しためっき製品において、
上記被膜が、ニッケル-コバルト-リン合金及びこれらの酸化物を有して構成される。
被膜の厚さは、例えば、0.5μm~30μmである。
【0006】
これにより、このめっき製品においては、黒色の表面を有した被膜が被覆され、耐食性,耐摩耗性及び耐候性を奏するとともに、優れた抗菌作用を奏する。そのため、コバルト膜単体のめっき製品に比較してコストを安くすることができる。また、ニッケル膜単体のめっき製品やコバルト膜単体のめっき製品に比較して、抗菌性を向上させることができる。この結果、高価になることなく抗菌性を向上させ、汎用性の向上を図ることができる。
【0007】
そして、必要に応じ、上記被膜において、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、43重量%~88重量%、コバルトの含有率が、3重量%~48重量%、リンの含有率が8重量%~13重量%の範囲である構成としている。
【0008】
本発明においては、ニッケルとコバルトを混合するので、この範囲の含有率において、黒色の色味を十分に表出することができるとともに、色も均一に現れるようにすることができる。また、コバルトの含有率が3重量%に満たないと、抗菌性が不十分になる一方、48重量%を超えると、ニッケルに比較してコバルトは析出しにくいことから、めっき条件が規定しにくくなるとともに、コスト高になる。即ち、本発明においては、高価になることなく、抗菌効果も高くして、品質を向上させることができる。望ましくは、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、60重量%~80重量%、コバルトの含有率が、10重量%~30重量%、リンの含有率が8.5重量%~12.5重量%の範囲である。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明のめっき製品の製造方法は、母材をめっき液に浸漬し無電解めっき処理を行って被膜を被覆するめっき処理工程と、該めっき処理工程後に上記被膜に対して酸溶液により酸化処理して該被膜の表面を黒色にする酸化処理工程とを備え、上記母材に表面が黒色の被膜が被覆されためっき製品を製造するめっき製品の製造方法において、
上記めっき処理工程で使用するめっき液を、めっき金属の金属塩,還元剤及び錯化剤を含んで構成し、金属塩としてニッケル塩とコバルト塩とを用い、還元剤として次亜リン酸塩を用いて構成している。
【0010】
これにより、めっき処理工程で、母材をめっき液に浸漬して無電解めっきを行うと、母材にニッケル-コバルト-リン合金が被覆される。その後、めっき液から母材を取出して、例えば、洗浄して乾燥後、酸化処理工程において、酸溶液により酸化処理する。これにより、被膜の表面が酸化されて黒色になり、めっき製品が製造される。このように製造されためっき製品によれば、黒色の表面を有した被膜が被覆され、耐食性,耐摩耗性及び耐候性を奏するとともに、優れた抗菌作用を奏する。そのため、コバルト膜単体のめっき製品に比較してコストを安くすることができる。また、ニッケル膜単体のめっき製品やコバルト膜単体のめっき製品に比較して、抗菌性を向上させることができる。この結果、高価になることなく抗菌性を向上させ、汎用性の向上を図ることができる。
【0011】
そして、必要に応じ、上記めっき処理工程において、上記母材に被覆された被膜を、該被膜の酸化処理前の蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、45重量%~90重量%、コバルトの含有率が、5重量%~50重量%、リンの含有率が、4重量%~7重量%の範囲になるように形成する構成としている。
【0012】
酸化処理工程で酸溶液で処理すると、ニッケルとコバルトを混合するので、被膜の色が、灰色や茶系色になったり、干渉色(まだら模様)になる等、黒色の色味や均一さに差が出ることがあるが、この範囲の含有率にすると、黒色の色味を十分に表出することができるとともに、色も均一に現れるようにすることができる。また、コバルトの含有率が5重量%に満たないと、抗菌性が不十分になる一方、50重量%を超えると、ニッケルに比較してコバルトは析出しにくいことから、めっき条件が規定しにくくなるとともに、コスト高になる。即ち、本発明においては、高価になることなく、抗菌効果も高くして、品質を向上させることができる。望ましくは、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、60重量%~85重量%、コバルトの含有率が、10重量%~35重量%であり、リンの含有率が、4.5重量%~6.5重量%の範囲である。
【0013】
また、必要に応じ、上記めっき液において、上記ニッケル塩として、硫酸ニッケル,塩化ニッケル,硝酸ニッケル,炭酸ニッケルから選択される少なくとも1種を用い、
上記コバルト塩として、硫酸コバルト,塩化コバルト,硝酸コバルト,炭酸コバルトから選択される少なくとも1種を用い、
上記次亜リン酸塩として、次亜リン酸ナトリウムを用いた構成としている。
これにより、めっき処理工程後、母材にニッケル-コバルト-リン合金を被覆し、その後、酸化処理工程において、酸溶液により酸化処理すると、所望のめっき製品を製造することができる。
【0014】
この場合、上記めっき液において、上記錯化剤として、酢酸,乳酸,グリシン,クエン酸,マロン酸,りんご酸,しゅう酸,こはく酸,酒石酸,チオグリコール酸,アンモニア,アラニン,グルタミン酸,エチレンジアミン及び/またはそれらの塩から選択される少なくとも1種を用いたことが有効である。
【0015】
また、上記めっき液は、硝酸鉛及び/または硝酸ビスマスからなる安定剤を含むことが有効である。
【0016】
更に、上記めっき液は、pH調整剤を含み、該めっき液のpHを、7.0~10.0にした構成としている。これにより、母材にニッケル-コバルト-リン合金を確実に被覆することができる。
【0017】
そして、必要に応じ、上記めっき液として、硫酸ニッケル六水和物(ニッケル塩),硫酸コバルト七水和物(コバルト塩)を用いて構成し、硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比を、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.1~1.5)にした構成としている。
より具体的には、上記めっき液は、
硫酸ニッケル六水和物(ニッケル塩)を、0.04~0.08mol/L、
硫酸コバルト七水和物(コバルト塩)を、0.01~0.05mol/Lを含み、
硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比を、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.125~1.25)にし、
次亜リン酸ナトリウム(還元剤)を、0.1~0.29mol/L、
グリシン(錯化剤)を、0.08~0.21mol/L、
クエン酸三ナトリウム二水和物(錯化剤)を、0.14~0.2mol/L、
硫酸アンモニウム(反応促進剤)を、0.45~0.61mol/L、
ホウ酸(反応促進剤)を、0.81~1.13mol/L、
硝酸ビスマス五水和物(安定剤)を、1.03×10-5~3.09×10-5mol/Lを含む構成とし、
上記めっき処理工程において、めっき液の温度を80℃~95℃にし、該めっき液を撹拌しながらめっき処理を行なう構成としている。
これにより、母材にニッケル-コバルト-リン合金をより一層確実に被覆することができる。望ましくは、硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比は、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.125~0.625)である。
【0018】
また、必要に応じ、上記酸化処理工程において、
酸溶液として、酢酸,塩酸,硫酸,乳酸,ギ酸,クエン酸,リン酸から選択される少なくとも1種を用いて構成している。望ましくは、有機酸を用いる。より望ましくは、酢酸または乳酸である。後述の試験結果から分かるように、酢酸または乳酸において、他に比較し、均一な黒色被膜を形成することができる。
【0019】
この場合、上記酸化処理工程において、酸溶液の温度を25℃~40℃にし、該酸溶液に被膜が被覆された母材を浸漬するとともに該酸溶液を撹拌しながら行なう構成としている。これにより、酸溶液により酸化処理すると、被膜の表層が酸化されて黒色化するが、均一で色味も良いものとなり、めっき製品の品質を向上させることができる。
【0020】
そしてまた、上記目的を達成するための本発明のめっき液は、上記のめっき液になる。上記と同様の作用,効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るめっき製品によれば、黒色の表面を有した被膜が被覆され、耐食性,耐摩耗性及び耐候性を奏するとともに、優れた抗菌作用を奏する。そのため、コバルト膜単体のめっき製品に比較してコストを安くすることができる。また、ニッケル膜単体のめっき製品やコバルト膜単体のめっき製品に比較して、抗菌性を向上させることができる。この結果、高価になることなく抗菌性を向上させ、汎用性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係るめっき製品の製造方法を示す工程図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るめっき液の組成を示す図である。
【
図3】本発明の実施例及び比較例に用いためっき液の組成を示す図である。
【
図4】本発明の実施例及び比較例に係るめっき製品の製造過程の条件を示すとともに、これらについて行った抗菌性能試験の結果及び被膜の表面状態の評価結果を示す表図である。
【
図5】本発明の試験例に係り、酸化処理工程における酸溶液の種類の違いによるめっき製品の表面状態の評価を行った結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係るめっき製品,めっき製品の製造方法及びめっき液について詳細に説明する。
実施の形態に係るめっき製品は、実施の形態に係るめっき製品の製造方法によって製造されるので、先ず、この実施の形態に係るめっき製品の製造方法について説明する。また、実施の形態に係るめっき液は、本発明の実施の形態に係るめっき製品の製造方法で使用されるので、この本発明の実施の形態に係るめっき製品の製造方法において説明する。
【0024】
本発明の実施の形態に係るめっき製品の製造方法は、
図1に示すように、母材Wに無電解めっき処理及びその後の酸化処理により黒色の表面を有した被膜Sを被覆しためっき製品Mを製造するものであり、母材Wを被覆する被膜Sを、ニッケル-コバルト-リン合金及びこれらの酸化物を有して構成されるめっき製品Mを製造する。
【0025】
母材Wとしては、金属,樹脂等どのようなものでも良く、導電性,非導電性は問わない。例えば、鉄,銅,アルミニウムやそれらの合金素材,ステンレス,プラスチック,ガラス,セラミック等を挙げることができる。
【0026】
詳しくは、実施の形態に係るめっき製品の製造方法は、
図1に示すように、めっき製品Mの母材Wを前処理する前処理工程(1)と、この母材Wをめっき液に浸漬し無電解めっき処理を行って被膜Sを被覆するめっき処理工程(2)と、めっき処理され被膜Sが被覆された母材Wを中間処理する中間処理工程(3)と、この母材Wに被覆された被膜Sに対して酸溶液により酸化処理してこの被膜Sの表面を黒色にする酸化処理工程(4)と、表面が黒色の被膜Sが被覆された母材Wを後処理してめっき製品Mを完成させる後処理工程(5)とを備えて構成されている。以下、各工程について説明する。
【0027】
(1)前処理工程
前処理工程としては、脱脂処理、酸活性、エッチング、ストライクめっきなどが挙げられ、母材Wによって内容が異なるため、母材Wに適した一般的な前処理工程を行う。例えば、ステンレス(SUS)の場合には、母材Wに対して、周知の脱脂処理を行ない、酸溶液に浸漬させて酸化被膜を除去し、下地となるストライクめっき被膜を施す。
【0028】
(2)めっき処理工程
この工程で用いるめっき液は、
図2に示すように、めっき金属の金属塩,還元剤及び錯化剤を含んで構成され、金属塩としてニッケル塩とコバルト塩とを用い、還元剤として次亜リン酸塩を用いて構成されている。ニッケル塩としては、硫酸ニッケル,塩化ニッケル,硝酸ニッケル,炭酸ニッケルから選択される少なくとも1種を挙げることができる。また、コバルト塩としては、硫酸コバルト,塩化コバルト,硝酸コバルト,炭酸コバルトから選択される少なくとも1種を挙げることができる。次亜リン酸塩としては、例えば、次亜リン酸ナトリウムを用いる。
【0029】
また、錯化剤としては、酢酸,乳酸,グリシン,クエン酸,マロン酸,りんご酸,しゅう酸,こはく酸,酒石酸,チオグリコール酸,アンモニア,アラニン,グルタミン酸,エチレンジアミン及び/またはそれらの塩から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0030】
また、めっき液は、硝酸鉛及び/または硝酸ビスマス等からなる安定剤を含む。更に、めっき液は、pH調整剤を含む。pH調整剤としては、アルカリまたは酸であれば特に制限はない。アルカリとしては、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,炭酸ナトリウム,アンモニア水等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物溶液を使用することができる。その他、反応促進剤等、適宜薬品を添加することができる。
【0031】
具体的には、
図2に示すように、めっき液は、硫酸ニッケル六水和物(ニッケル塩),硫酸コバルト七水和物(コバルト塩)を用いて構成し、硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比を、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.1~1.5)にした構成としている。より具体的には、めっき液は、硫酸ニッケル六水和物(ニッケル塩)を、0.04~0.08mol/L、硫酸コバルト七水和物(コバルト塩)を、0.01~0.05mol/L、次亜リン酸ナトリウム(還元剤)を、0.1~0.29mol/L、グリシン(錯化剤)を、0.08~0.21mol/L、クエン酸三ナトリウム二水和物(錯化剤)を、0.14~0.2mol/L、硫酸アンモニウム(反応促進剤)を、0.45~0.61mol/L、ホウ酸(反応促進剤)を、0.81~1.13mol/L、硝酸ビスマス五水和物(安定剤)を、1.03×10
-5~3.09×10
-5mol/L含む構成としている。この場合、硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比を、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.125~1.25)にしている。望ましくは、硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とのモル比は、硫酸ニッケル六水和物:硫酸コバルト七水和物=1:(0.125~0.625)である。pH調整剤としては、水酸化ナトリウムを適量使用する。これにより、めっき液のpHを、7.0~10.0にしている。望ましくは、pHを、8.0~10.0にする。
【0032】
そして、この工程において、めっき液の温度を80℃~95℃、望ましくは、85℃~95℃にし、めっき液を撹拌しながら、例えば、0.1時間~2時間めっき処理を行なう。これにより、母材Wにニッケル-コバルト-リン合金が被覆される。この被膜Sにおいては、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、45重量%~90重量%、コバルトの含有率が、5重量%~50重量%、リンの含有率が、4重量%~7重量%の範囲になり、ニッケルとコバルトとの重量比でいうと、ニッケル:コバルト=1:(0.05~1.12)の範囲になるように形成される。望ましくは、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、60重量%~85重量%、コバルトの含有率が、10重量%~35重量%であり、リンの含有率が、4.5重量%~6.5重量%の範囲になり、ニッケルとコバルトとの重量比でいうと、ニッケル:コバルト=1:(0.11~0.6)の範囲である。
【0033】
(3)中間処理工程
めっき処理され被膜Sが被覆された母材Wを洗浄し、乾燥する。
【0034】
(4)酸化処理工程
母材Wに被覆された被膜Sに対して酸溶液により酸化処理してこの被膜Sの表面を黒色にする。酸溶液としては、酢酸,塩酸,硫酸,乳酸,ギ酸,クエン酸,リン酸から選択される少なくとも1種を用いる。実施の形態では、有機酸を選択し、そのうち、酢酸を用いた。酢酸においては、1.75~10.5mol/L、望ましくは、8.5~9.0mol/L用いる。
【0035】
そして、この酢酸の溶液のpHを、4以下、望ましくは、2.5以下とし、酸溶液の温度を25℃~40℃、望ましくは、30℃~35℃にし、この酸溶液に被膜Sが被覆された母材Wを入れ、この酸溶液を1~6時間、望ましくは、3~6時間、常時撹拌して処理した。これにより、被膜Sの表面が酸化されて黒色になった。
【0036】
(5)後処理工程
酸化処理され被膜Sのある母材Wを洗浄し、乾燥し、めっき製品Mを完成させる。
【0037】
このように製造されためっき製品Mは、母材Wに黒色の表面を有した被膜Sが被覆される。この被膜Sは、ニッケル-コバルト-リン合金及びこれらの酸化物を有して構成される。上記のめっき処理し及び酸化処理の条件では、被膜Sにおいて、例えば、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、43重量%~88重量%、コバルトの含有率が、3重量%~48重量%、リンの含有率が8重量%~13重量%であり、ニッケルとコバルトとの重量比でいうと、ニッケル:コバルト=1:(0.03~1.12)の範囲になる。望ましくは、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、60重量%~80重量%、コバルトの含有率が、10重量%~30重量%、リンの含有率が8.5重量%~12.5重量%であり、ニッケルとコバルトとの重量比でいうと、ニッケル:コバルト=1:(0.125~0.5)の範囲である。
【0038】
このめっき製品Mによれば、黒色の表面を有した被膜Sが被覆され、耐食性,耐摩耗性及び耐候性を奏するとともに、優れた抗菌作用を奏する。そのため、コバルト膜単体のめっき製品Mに比較してコストを安くすることができる。また、ニッケル膜単体のめっき製品やコバルト膜単体のめっき製品に比較して、抗菌性を向上させることができる。この結果、高価になることなく抗菌性を向上させ、汎用性の向上を図ることができる。
【実施例0039】
次に、本発明の実施例1及至6を比較例1乃至4とともに示す。用いた母材Wは全て、ステンレス(「SUS304」)で、縦500mm×横330mm×厚さ0.30mmの板材とした。これらの母材Wに対しては、前処理工程において、周知の脱脂工程を行い、酸溶液に浸漬させて酸化被膜を除去し、下地となるストライクめっき被膜を施した。
【0040】
めっき処理工程において、めっき液は、
図3に示すように、各実施例及び各比較例に用いためっき浴の組成は金属塩のみモル濃度とpHを変え、それ以外の薬品は一定のモル濃度で建浴した。このめっき工程においては、めっき浴として、2.0Lのビーカを使用し、温度を85℃~90℃に調整するとともに、pHを8.0~10.0に調整した。母材Wをめっき液に浸漬し、スターラにより、15~50分撹拌しながら、膜厚4~6μmの被膜Sを形成した。そして、各実施例及び各比較例の酸化処理前の被膜Sについて、蛍光X線装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 SEA6000VX)により、ニッケル,コバルト,リンの各成分について定量分析し、重量成分比を求めた。結果を
図4に示す。
【0041】
酸化処理工程において、酸溶液としては、8.75mol/Lの酢酸を用いた。0.5Lのビーカに入れ、温度を34℃~35℃に調整するとともに、pHを1.3~1.6に調整した。母材Wを酸溶液に浸漬し、スターラにより、6時間撹拌した。そして、各実施例及び各比較例の酸化処理後の被膜Sについて、蛍光X線装置(同上)により、ニッケル,コバルト,リンの各成分について定量分析し、重量成分比を求めた。結果を
図4に示す。
【0042】
これらについて、黒色被膜Sの形成具合を目視により判定するとともに、抗菌性試験を行った。抗菌性試験は、「JIS L1902」に従って行った。
【0043】
結果を
図4に示す。この結果から、比較例1のように、ニッケル膜のみを被覆して黒色化したものは抗菌性に優れているとは言えない。比較例2、比較例3のように、ニッケルの成分量を減らしていくと、黒色被膜の形成が不十分になる。これは、コバルトのニッケルに対する重量比が増すと、ニッケルに比較してコバルトは析出しにくくなることに起因して、めっき被膜が形成されても、被膜の色が、灰色や茶系色になったり、干渉色(まだら模様)になる等、黒色被膜の形成に支障が生じるものと考えられる。比較例4では、ニッケルがなくなると障害になるものがないことに起因して、コバルトのみが析出した。このコバルト膜のみのものは、黒色被膜を形成するとともに抗菌性も呈した。しかしながら、高価になる。実施例1乃至6のニッケル-コバルト-リン合金被膜にすることで、適正な黒色被膜を形成し、抗菌性を向上させ、汎用性の向上を図ることが出来た。
【0044】
これにより、酸化処理前のニッケル-コバルト-リン合金被膜において、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、45重量%~90重量%、コバルトの含有率が、5重量%~50重量%、リンの含有率が、4重量%~7重量%の範囲であり、ニッケルとコバルトとの重量比でいうと、ニッケル:コバルト=1:(0.05~1.12)の範囲になることが、抗菌性がある黒色被膜の形成を可能にすると判断される。また、その結果、酸化処理後(黒色処理後)の製品の被膜において、蛍光X線分析方法により測定されるニッケルの含有率が、43重量%~88重量%、コバルトの含有率が、3重量%~48重量%、リンの含有率が8重量%~13重量%であり、ニッケルとコバルトとの重量比でいうと、ニッケル:コバルト=1:(0.03~1.12)の範囲であることが有効であると判断される。
【0045】
次に、試験例について示す。
試験例においては、酸化処理工程で用いる酸溶液について試験した。試験片は、上記の実施例3で用いためっき処理工程後のものを用い、
図5に示すように、酸として、酢酸,塩酸,硫酸,乳酸,ギ酸,クエン酸及びリン酸を選択し、これらの酸の10%(V/V)溶液(
図5には各酸のモル濃度及びpHを示す)を、上記と同様に、0.5Lのビーカに入れ、温度を34℃~35℃に調整し、スターラで攪拌しながら3時間処理した。そして、黒色の程度を目視により判定した。
【0046】
結果を
図5に示す。いずれの酸も、被膜Sを黒色にする機能を呈した。その中でも、有機酸の酢酸と乳酸が優れた結果を示した。
【0047】
尚、上記に本発明の実施の形態及び実施例を挙げたが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態や実施例に多くの変更を加えることができ、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。