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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075474
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
D06N3/14 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188403
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】松村 平
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA03
4F055AA21
4F055AA30
4F055BA12
4F055BA13
4F055CA18
4F055DA02
4F055DA08
4F055EA01
4F055EA04
4F055EA21
4F055EA23
4F055EA30
4F055FA18
4F055FA20
4F055GA02
4F055GA11
(57)【要約】
【課題】表面タッチ性に優れた合成皮革を提供する。
【解決手段】基材と、当該基材の一方の側に直接又は間接的に設けられた樹脂層とを含む積層体を備えた合成皮革であって、前記樹脂層は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含み、前記積層体を63mm×63mmの寸法に切断し、得られた切断片における前記樹脂層の表面を、共布を用いて荷重500g、速度1000mm/minで摩擦したときの動摩擦係数Raが、0.70 ≦ Ra ≦ 1.00を充たすように構成される合成皮革。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、当該基材の一方の側に直接又は間接的に設けられた樹脂層とを含む積層体を備えた合成皮革であって、
前記樹脂層は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含み、
前記積層体を63mm×63mmの寸法に切断し、得られた切断片における前記樹脂層の表面を、共布を用いて荷重500g、速度1000mm/minで摩擦したときの動摩擦係数Raが、以下の式(1):
0.70 ≦ Ra ≦ 1.00 ・・・(1)
を充たすように構成される合成皮革。
【請求項2】
前記動摩擦係数Raと、
前記積層体を63mm×63mmの寸法に切断し、得られた切断片における前記樹脂層の表面を、共布を用いて荷重200g、速度100mm/minで摩擦したときの動摩擦係数Rbとが、以下の式(2):
0.6 ≦ Ra/Rb ≦ 0.8 ・・・(2)
を充たすように構成される請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記樹脂層の表面粗さ(SMD)が、0.35~0.80μmである請求項1又は2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記樹脂層の表面に、深さ7~38μm、間隔29~120μmの微小凹凸が形成されている請求項1~3の何れか一項に記載の合成皮革。
【請求項5】
前記樹脂層は、有機溶媒を実質的に含有しない請求項1~4の何れか一項に記載の合成皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、当該基材の一方の側に直接又は間接的に設けられた樹脂層とを含む積層体を備えた合成皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、外観に高級感があり、肌触りも良く、耐久性も高いため、電化製品の表面、車両や航空機等のシートの表面等に多く使用されている。電化製品としては、パソコン、タブレット端末、携帯電話、ヘッドホン等が挙げられ、これらのケース、カバー、及びキーボード等の表面に合成皮革が適用される。車両としては、自動車、鉄道車両等が挙げられる。
【0003】
この種の合成皮革として、例えば、表面動摩擦係数(平均表面動摩擦係数MIU)が0.20~0.50であるヌバック調シート状物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/136921号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
合成皮革においては、適度の滑り易さを有し、表面の手触りの感触(以下、「表面タッチ性」ともいう)に優れていることが要望されている。
【0006】
この点に関し、上記特許文献1に示すようなヌバック調の合成皮革は、滑り難いため、上述した電化製品等の合成皮革が適用される製品(被適用品)に合成皮革が適用されたもの(適用品)の取り扱いが難しくなる傾向にある。一方、合成皮革が滑り易い場合には、適用品を取り扱う際に落下させ易く、破損に繋がるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、表面タッチ性に優れた(適度なぬめり感を有する)合成皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記特許文献1に示すように、従来の合成皮革においては、平均表面動摩擦係数MIUに基づいて特性評価を行っていたが、平均表面動摩擦係数MIUでは、合成皮革が優れた表面タッチ性を有するように設計することは困難であった。そこで、本発明者らが鋭意研究したところ、合成皮革から測定試料に加えて、測定試料を摩擦するための共布を切り出し、測定試料と共布とを用いて動摩擦係数Raを測定し、この動摩擦係数Raに基づいて合成皮革の特性の評価を行えば、合成皮革が優れた表面タッチ性を有するように設計し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る合成皮革の特徴構成は、
基材と、当該基材の一方の側に直接又は間接的に設けられた樹脂層とを含む積層体を備えた合成皮革であって、
前記樹脂層は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含み、
前記積層体を63mm×63mmの寸法に切断し、得られた切断片における前記樹脂層の表面を、共布を用いて荷重500g、速度1000mm/minで摩擦したときの動摩擦係数Raが、以下の式(1):
0.70 ≦ Ra ≦ 1.00 ・・・(1)
を充たすように構成されることにある。
【0010】
本構成の合成皮革によれば、動摩擦係数Raが上記式(1)を充たすことにより、当該合成皮革が、滑り難くも滑り易くもなく、適度な滑り易さを有するため、表面タッチ性に優れたものとなる。
【0011】
本発明に係る合成皮革において、
前記動摩擦係数Raと、
前記積層体を63mm×63mmの寸法に切断し、得られた切断片における前記樹脂層の表面を、共布を用いて荷重200g、速度100mm/minで摩擦したときの動摩擦係数Rbとが、以下の式(2):
0.6 ≦ Ra/Rb ≦ 0.8 ・・・(2)
を充たすように構成されることが好ましい。
【0012】
本構成の合成皮革によれば、動摩擦係数Raに加えてさらに動摩擦係数Rbを用い、動摩擦係数Raと動摩擦係数Rbとの比Ra/Rbが上記式(2)を充たすことにより、当該合成皮革が、表面タッチ性に優れたものとなる。
【0013】
本発明に係る合成皮革において、
前記樹脂層の表面粗さ(SMD)が、0.35~0.80μmであることが好ましい。
【0014】
本構成の合成皮革によれば、樹脂層の表面粗さ(SMD)が、0.35~0.80μmであることにより、当該合成皮革が、表面タッチ性に優れたものとなる。
【0015】
本発明に係る合成皮革において、
前記樹脂層の表面に、深さ7~38μm、間隔29~120μmの微小凹凸が形成されていることが好ましい。
【0016】
本構成の合成皮革によれば、樹脂層の表面に、深さ7~38μm、間隔29~120μmの微小凹凸が形成されていることにより、当該合成皮革が、表面タッチ性に優れたものとなる。
【0017】
本発明に係る合成皮革において、
前記樹脂層は、有機溶媒を実質的に含有しないことが好ましい。
【0018】
本構成の合成皮革によれば、樹脂層が有機溶媒を実質的に含有しないことにより、当該合成皮革が、身体に対する有害性が抑制されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係る合成皮革を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る合成皮革の製造時において、合成皮革の樹脂層に離型紙が積層された状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の合成皮革について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する構成や、後述する実施例に限定することを意図するものではない。なお、各図において、合成皮革の各層の実際のサイズ関係を厳密に再現したものではなく、説明容易化のため適宜誇張してある。また本明細書において、合成皮革における樹脂層の「表面」とは、合成皮革が被適用品の表面に設けられた際に、被適用品とは反対側の外部に露出している外面を意味する。
【0021】
<合成皮革>
図1は、本発明の実施形態に係る合成皮革1の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態の合成皮革1は、基材10と、当該基材10の一方の側(図1の上側)に直接又は間接的に設けられた樹脂層20とを含む積層体30を備える。本実施形態の積層体30は、基材10と樹脂層20との間に接着層40をさらに備える(すなわち、基材10の一方の側に樹脂層20が間接的に設けられたものである)が、本発明の合成皮革は、積層体30が接着層40を備えない態様も採用できる。
【0022】
(基材)
基材10としては、繊維質基材、熱可塑性樹脂フィルム等が挙げられる。例えば、耐薬剤性を向上させる場合には、繊維質基材が好ましく、表面タッチ性や耐熱プレス性を向上させる場合には、熱可塑性樹脂フィルムが好ましい。
【0023】
基材10が繊維質基材である場合、繊維質基材としては、編物、織物、不織布などの布帛が挙げられる。布帛には、従来公知の溶剤系、無溶剤系(水系を含む)の高分子溶液(好ましくは、ポリウレタン樹脂やその共重合体、あるいはポリウレタン樹脂を主成分とする高分子溶液)を塗布又は含浸し、乾式凝固又は湿式凝固させたものを用いることもできる。また、基材10を構成する繊維の素材も特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。なかでも、耐熱性や耐光性などの点から、合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維がより好ましく、ポリエチレンテレフタレート繊維がさらに好ましい。
【0024】
基材10が熱可塑性樹脂フィルムである場合、熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリレート、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニルなどが挙げられるが、柔軟性、伸び、密着などの点から、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂フィルム等が挙げられる。
【0025】
基材10としては、樹脂層20側の表面が平坦であるものが好ましく、この観点において、例えば、天竺編、リブ編、パール編、スムース編といった編物、平織、綾織、朱子織といった織物、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂といった熱可塑性樹脂からなるフィルム等を用いることが好ましい。
【0026】
基材10の厚さは、合成皮革1の表面タッチ性、耐薬剤性、及び耐熱プレス性を向上させるという観点から、0.05~1.5mmであることが好ましく、0.1~0.5mmであることがより好ましい。なお、基材10は、染料又は顔料によって着色されたものであってもよい。
【0027】
(樹脂層)
樹脂層20は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含む。樹脂層20がポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含むことにより、合成皮革1が表面タッチ性に優れたものとなる。
【0028】
ここで、例えば合成皮革を被適用品に適用して得られた適用品は、人の肌(及び肌が有する油分)によって多く接触される傾向にある。また、人の肌には、種々の薬剤(日焼止め、ハンドクリーム、消毒液等)が塗布されている場合が多い。このように、合成皮革は、薬剤に接触される機会が多く、合成皮革の樹脂層に薬剤が接触されることにより、薬剤の影響を受けて樹脂層に膨潤、溶解、変色といった悪影響が生じるおそれがある。
【0029】
しかし、樹脂層20がポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含むことにより、熱プレス時の加熱及び加圧による樹脂層20の軟化を抑制する性能、すなわち耐熱プレス性を向上させるだけでなく、さらに耐薬剤性を向上させることができる。
【0030】
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂としては、水系ポリエーテル系ポリウレタン樹脂が好ましく、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂としては、水系ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。このように、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、水系の樹脂であることにより、合成皮革1の樹脂層20に有機溶媒が含有されることを抑制することができる。
【0031】
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂との質量比(配合比)は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂として表すとき、20:80~80:20であることが好ましく、30:70~50:50であることがより好ましい。配合比が上記範囲内であることにより、合成皮革の表面タッチ性、耐薬剤性、及び耐熱プレス性を向上させることができる。
【0032】
樹脂層20におけるポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の合計含有量(固形分換算)は、55~93質量%が好ましく、70~85質量%がより好ましい。合計含有量が上記範囲内であることにより、合成皮革1の表面タッチ性、耐薬剤性、及び耐熱プレス性を向上させることができる。樹脂層20は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂、その他の樹脂を含有してもよい。
【0033】
樹脂層20は、架橋剤をさらに含有することが好ましい。架橋剤としては、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤などが挙げられるが、(架橋度が高い)カルボジイミド系架橋剤がより好ましい。樹脂層20における架橋剤の含有量(固形分換算)は、2~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。
【0034】
樹脂層20は、樹脂及び架橋剤以外の添加剤を含有していてもよく、このような添加剤としては、濡れ性向上剤、消泡剤、顔料、成膜助剤、平滑剤、艶消し剤、充填剤、増粘剤等が挙げられる。濡れ性向上剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、有機溶剤等が挙げられる。消泡剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤等が挙げられる。顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料、有機顔料、染料等が挙げられる。成膜助剤としては、有機溶剤等が挙げられる。平滑剤としては、シリコーン系オイル、シリコーン系パウダー、フッ素系樹脂、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。艶消し剤としては、ウレタンビーズ、シリカ粒子等が挙げられる。充填剤としては、炭酸カルシウム等が挙げられる。増粘剤としては、アルカリ増粘剤、ウレタン会合型増粘剤等が挙げられる。樹脂層20における添加剤の含有量は、樹脂層20の表面タッチ性、耐薬剤性、耐熱プレス性に悪影響を及ぼさない程度において適宜設定され得る。
【0035】
樹脂層20の目付(単位面積当たりの樹脂層20の質量)は、30g/m~150g/mであることが好ましく、60g/m~80g/mであることがより好ましい。樹脂層20の目付が30g/m~150g/mであることにより、合成皮革1の表面タッチ性、耐薬剤性、及び耐熱プレス性を向上させることができる。
【0036】
樹脂層20の厚さは、20~150μmであることが好ましく、50~80μmであることがより好ましい。樹脂層20の厚さが20~150μmであることにより、合成皮革1の表面タッチ性、耐薬剤性、及び耐熱プレス性を向上させることができる。ここで、樹脂層20の厚さは、合成皮革1の垂直断面を、マイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH-8000)を用いて撮影し、得られた画像(写真)における任意の10箇所の樹脂層20の厚さを測定し、測定結果の平均値を算出することによって測定される。
【0037】
樹脂層20は、有機溶媒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「有機溶媒を実質的に含有しない」とは、合成皮革における有機溶媒の含有量が5質量ppm以下であることを意味する。
【0038】
例えば樹脂層を形成する際にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒を用いるような場合には、形成された樹脂層に有機溶媒が残留するおそれがある。樹脂層が有機溶媒を含有する場合、この樹脂層を備える合成皮革は、身体に対する有害性を引き起こすおそれがある。しかし、樹脂層20が有機溶媒を実質的に含有しないことにより、当該合成皮革1が、身体に対する有害性が抑制されたものとなる。
【0039】
(接着層)
接着層40は、基材10と樹脂層20との間に配置され、基材10と樹脂層20とを接着する。接着層40は、例えばポリウレタン樹脂と、架橋剤とを含有する。ポリウレタン樹脂としては、水系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等が挙げられる。接着層40には、ポリウレタン樹脂及び架橋剤以外に、添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、濡れ性向上剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、難燃剤等が挙げられる。濡れ性向上剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、有機溶剤等が挙げられる。消泡剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤等が挙げられる。増粘剤としては、アルカリ増粘剤、ウレタン会合型増粘剤等が挙げられる。充填剤としては、炭酸カルシウム等が挙げられる。難燃剤としては、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン系難燃剤等が挙げられる。
【0040】
接着層40の目付(単位面積当たりの接着層40の質量)は、20g/m~150g/mであることが好ましく、60g/m~80g/mであることがより好ましい。接着層40の目付が20g/m~150g/mであることにより、接着層40によって基材10と樹脂層20とを、より強固に接着させることができる。
【0041】
接着層40の厚さは、20~200μmであることが好ましく、50~150μmであることがより好ましい。接着層40の厚さが20~200μmであることにより、基材10と樹脂層20とを、より強固に接着させることができる。ここで、接着層40の厚さは、合成皮革1の垂直断面を、マイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH-8000)を用いて撮影し、得られた画像(写真)における任意の10箇所の接着層40の厚さを測定し、測定結果の平均値を算出することによって、測定される。
【0042】
(合成皮革の特性)
本発明では、合成皮革1から、測定試料と、当該測定試料を摩擦するための共布とを切り出し、測定試料と共布とを用いて動摩擦係数Raを測定し、この動摩擦係数Raに基づいて合成皮革1の特性の評価を行うことで、合成皮革1が優れた表面タッチ性を有するように設計することができる。具体的には、合成皮革1は、積層体30を63mm×63mmの寸法に切断し、得られた切断片における樹脂層20の表面21を、共布を用いて荷重500g、速度1000mm/minで摩擦したときの動摩擦係数Raが、以下の式(1):
0.70 ≦ Ra ≦ 1.00 ・・・(1)
を充たすように構成される。本実施形態において使用する「共布」は、切断片とは別途、前記積層体を200mm×200mmの寸法に切断して得られる。以下において、「共布」は同義である。また、動摩擦係数Raは、切断片を移動させる際に切断片に加えられる力と、摩擦力との関係をプロットしたグラフにおいて、共布に対して切断片を移動させた直後のピークを除いた力の領域における摩擦力の平均値(N)を、荷重(N)で除した値である。
【0043】
動摩擦係数Raが0.70以上1.00以下であることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。表面タッチ性を向上させることができるという観点において、動摩擦係数Raは、0.73以上0.94以下であることが好ましく、0.77以上0.87以下であることがより好ましい。
【0044】
動摩擦係数Raの測定の際に動摩擦係数Raと共に測定される静摩擦係数Rcは、0.9以上1.3以下であることが好ましい。ここで、静摩擦係数Rcは、動摩擦係数Raの測定の際、加えられる力と摩擦力との関係をプロットしたグラフにおいて、共布に対して切断片を移動させた直後のピークの摩擦力(N)を、荷重(N)で除した値である。
【0045】
静摩擦係数Rcが0.9以上1.3以下であることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。
【0046】
本発明では、上記の動摩擦係数Raと、別の条件で測定した動摩擦係数Rbとに基づいて合成皮革1の特性の評価を行うことで、合成皮革1が優れた表面タッチ性を有するように設計することができる。具体的には、合成皮革1は、動摩擦係数Raと、積層体30を63mm×63mmの寸法に切断し、得られた切断片における樹脂層20の表面21を、共布を用いて荷重500g、速度1000mm/min(動摩擦係数Raと同じ速度条件)で摩擦したときの動摩擦係数Rbとが、以下の式(2):
0.6 ≦ Ra/Rb ≦ 0.8 ・・・(2)
を充たすように構成されることが好ましい。
【0047】
動摩擦係数Raと動摩擦係数Rbとの比Ra/Rbが0.6以上0.8以下であることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。
【0048】
動摩擦係数Rbの測定の際に動摩擦係数Rbと共に測定される静摩擦係数Rdは、1.0以上1.6以下であることが好ましい。ここで、静摩擦係数Rdは、動摩擦係数Rbの測定の際、加えられる力と摩擦力との関係をプロットしたグラフにおいて、共布に対して切断片を移動させた直後のピークの摩擦力(N)を、荷重(N)で除した値である。
【0049】
静摩擦係数Rdが1.0以上1.6以下であることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。
【0050】
合成皮革1においては、樹脂層20(の表面21)の表面粗さ(SMD)が、0.35~0.80μmであることが好ましく、0.40~0.70であることがより好ましい。ここで、樹脂層20の表面粗さ(SMD)は、合成皮革1を試料とし、この試料をKES表面試験機(KES-FB4-A、カトーテック株式会社製)に取り付け、太さ(厚さ)0.5mmで接触幅5mmのワイヤーセンサーに10gfの荷重を加えた状態で、試料上を1mm/secの速度で移動させることによって測定される。
【0051】
樹脂層20の表面粗さ(SMD)が、0.35~0.80μmであることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。
【0052】
合成皮革1においては、樹脂層20の表面21に、深さ7~38μm、間隔29~120μmの微小凹凸が形成されていることが好ましい。ここで、微小凹凸の深さ、及び間隔は、合成皮革1の垂直断面を、マイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH-8000)を用いて撮影し、得られた画像(写真)における任意の10箇所において樹脂層20の表面21の凹凸の深さ、及び間隔を測定し、測定結果の平均値を算出することによって、測定される。
【0053】
樹脂層20の表面21に、深さ7~38μm、間隔29~120μmの微小凹凸が形成されていることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。
【0054】
合成皮革1においては、入射角度60°で測定される樹脂層20の表面21のグロス値が、0.2~0.6であることが好ましい。ここで、樹脂層20の表面21のグロス値は、マイクログロス60°S(BYK社製)によって測定される。
【0055】
上記樹脂層20の表面21のグロス値が0.2~0.6であることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。
【0056】
合成皮革1においては、JIS L1096 A法 45°カンチレバー法に準拠して測定される積層体30の剛軟度が、タテ方向で16~25mm、ヨコ方向で14~29mmであることが好ましい。
【0057】
積層体30の剛軟度が、タテ方向で16~25mm、ヨコ方向で14~29mmであることにより、合成皮革1の表面タッチ性を向上させることができる。
【0058】
(合成皮革の製造)
本実施形態の合成皮革1は、以下の各工程を実施することにより製造することができる。すなわち、離型紙50の離型処理面上に、樹脂層20を形成するための塗布液を塗布し、乾燥して硬化させて樹脂層20を形成する(樹脂層形成工程)。樹脂層20の形成後、樹脂層20上(すなわち、樹脂層20における離型紙50とは反対の側の面上)に、接着層40を形成するための塗布液を塗布し、完全に硬化しないように乾燥させて半硬化状態の接着層を形成する(接着層形成工程)。半硬化状態の接着層の形成後、半硬化状態の接着層の表面上に基材10を載置し、加圧し、その後、乾燥して半硬化状態の接着を硬化させることにより、接着層40を介して樹脂層20と基材10とを接着させる(接着工程)。これにより、図2に示すように、離型紙50、樹脂層20、接着層40、及び基材10が、この順に積層された離型紙付きの積層体1´が得られる。そして、得られた離型紙付きの積層体1´(すなわち、積層体30(合成皮革1)の樹脂層20上に離型紙50が積層されたもの)から離型紙50を剥離する(剥離工程)。このように、樹脂層形成工程、接着層形成工程、接着工程、及び剥離工程を行うことによって、合成皮革1を製造することができる。
【0059】
剥離工程において使用される離型紙50は、合成皮革1の製造時、樹脂層20に剥離可能に接着されるものである。離型紙50は、合成皮革1の製造後、被適用品の表面に設けられるまでの間、合成皮革1に接着された状態とされてもよい。
【0060】
離型紙50の離型処理面(すなわち、樹脂層20側の面)に、深さ7~10μm、間隔30~135μmの微小凹凸が形成されていることが好ましい。ここで、微小凹凸の深さ、及び間隔は、離型紙50の垂直断面を、マイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH-8000)を用いて撮影し、得られた画像(写真)における任意の10箇所において離型処理面の凹凸の深さ、及び間隔を測定し、測定結果の平均値を算出することによって、測定される。
【0061】
このような離型紙50としては、例えばSpectra800(Sappi社製)、FRZ(リンテック株式会社製)、R331(リンテック株式会社製)等が挙げられる。
【0062】
樹脂層形成工程においては、樹脂層20を構成する原料として、ポリウレタン樹脂(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)、架橋剤、及びその他の添加剤を用い、これらを混合して塗布液を調製した後、硬化する前に塗布液を離型紙50の離型処理面上に塗布し、所定の加熱温度で所定の時間加熱して乾燥する。これにより、硬化体としての樹脂層20が形成される。なお、ポリウレタン樹脂と架橋剤とを混合した後、24時間以内に塗布液を基材10に塗布することが好ましい。
【0063】
接着層形成工程においては、接着層40を構成する原料として、水系ポリウレタン樹脂、架橋剤、及びその他の添加剤を用い、これらを混合して塗布液を調製した後、硬化する前に塗布液を樹脂層20上(すなわち、樹脂層20における離型紙50とは反対の側の面上)に塗布し、塗布液が完全に硬化しないように所定温度で所定時間加熱して乾燥する。これにより、半硬化状態の接着層を形成する。なお、ポリウレタン樹脂と架橋剤とを混合した後、4時間以内に塗布液を樹脂層20に塗布することが好ましい。また、合成皮革1が接着層40を含まない場合には、接着層形成工程を省略することができる。
【0064】
接着工程においては、半硬化状態の接着層上に基材10を積層し、得られた積層体を所定の圧力で所定の時間加圧した後、所定の温度で所定の時間エージングすることにより、半硬化状態の接着層を硬化させる。これにより、離型紙50、樹脂層20、接着層40、及び基材10が、この順に積層された積層体1´が得られる。
【0065】
なお、合成皮革1が接着層40を含有しない場合には、樹脂層20上に基材10を直接積層することにより、離型紙50、樹脂層20、及び基材10が、この順に積層された積層体が得られる。この場合、樹脂層20を形成するための塗布液を基材10上に塗布した後、基材を積層し、所定の温度で所定の時間加熱して乾燥する。これにより、離型紙50、樹脂層20、及び基材10が、この順に積層された積層体1´が得られる。
【0066】
剥離工程においては、上記離型紙付きの積層体1´から離型紙50を剥離する。これにより、合成皮革1が得られる。
【0067】
上述した通り、本実施形態の合成皮革1は、樹脂層20がポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含み、積層体30の動摩擦係数Raが0.70~1.00を充たすものである。これにより、当該合成皮革1は、適度な滑り易さを有し、表面タッチ性に優れ、加えて、耐薬剤性、及び耐熱プレス性にも優れたものとなる。
【実施例0068】
本発明の合成皮革による表面タッチ性、耐薬剤性、及び耐熱プレス性を検証するため、本発明の特徴構成を備えた合成皮革(実施例1~8)を準備した。また、比較のため、本発明の特徴構成を一部又は全部備えていない合成皮革(比較例1~7)を準備した。
【0069】
[実施例1]
表1に示すように、離型紙として、Spectra800(Sappi社製 凹凸深さ7μm、凹凸間隔30μm)を用いた。樹脂層を形成するための塗布液を、表1の処方に基づいて、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂I(DS-450(DIC株式会社製) 水系)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂I(DS-300(DIC株式会社製) 水系)と、濡れ性向上剤(BYK-3455(BYK社製))と、消泡剤(TEGO Formex 800(EVONIC社製))と、顔料(カーボンブラック)と、成膜助剤(1,3-ブタンジオール(東京化成工業株式会社))と、架橋剤I(高架橋型カルボジイミド架橋剤(V-02-L2、日清紡ケミカル株式会社))と、増粘剤I(Borchi Gel A LA(Borchers社製))とを混合することにより、調製した。なお、表1において「-」は、成分が配合されないことを示す。
【0070】
得られた塗布液が硬化する前に(具体的には水系ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及び水系ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂と、架橋剤とを接触させた後、24時間が経過する前に)、コンマコーターを用いて塗布液を離型紙の離型処理面上に、塗布厚さが140μm(固形分が70g/m)となるように塗布した。塗布後、乾燥機を用いて80℃の加熱温度で5分間加熱することにより、乾燥して、硬化体としての樹脂層を形成した。
【0071】
接着剤を形成するための塗布液を、表1の処方に基づいて、ポリカーボネート/ポリエーテル系ポリウレタン樹脂(DA-700(DIC株式会社製) 水系)と、濡れ性向上剤(BYK-3455(BYK社製))と、消泡剤(TEGO Formex 800(EVONIC社製))と、架橋剤III(イソシアネート架橋剤(BAYHYDUR XP2655、Covestro社製))と、増粘剤II(Borchi Gel 0626(Borchers社製))とを混合することにより、調製した。
【0072】
得られた塗布液が硬化する前に(具体的には水系ポリウレタン樹脂と、架橋剤とを接触させた後、4時間以内に)、コンマコーターを用いて塗布液を樹脂層上に、塗布厚さが170μm(固形分が70g/m)となるように塗布した。塗布後、乾燥機を用いて、塗布液が完全に硬化しないように80℃の加熱温度で4分間加熱することにより乾燥し、これにより、半硬化状態の接着層を形成した。
【0073】
得られた半硬化状態の接着層上に、表1に示すように、基材としてのPET33T/36f(33dtex/36fのポリエチレンテレフタレート繊維)の丸編みスムース 44ゲージ(編機1インチ(2.45cm)当たりの針本数)を重ね合わせ、圧力4kgf/cmで1分間加圧した。得られた積層体を50℃で48時間エージングすることにより、半硬化状態の接着層を硬化させ、これにより、接着層を介して樹脂層と基材とを接着させた。その後、離型紙を剥離することにより、実施例1の合成皮革を作製した。表1には、使用した離型紙の離型処理面における微小凹凸の深さ及び間隔を、上述した測定方法によって測定した結果を示す。
【0074】
[実施例2、3、5]
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂Iとポリカーボネート系ポリウレタン樹脂Iとの配合量を、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、3、5の合成皮革を作製した。
【0075】
[実施例4]
表1に示すように、架橋剤として、架橋剤I(高架橋型のカルボジイミド架橋剤(V-02-L2、日清紡ケミカル株式会社))に代えて、架橋剤II(カルボジイミド架橋剤(V-02、日清紡ケミカル株式会社))を用いたこと以外は実施例3と同様にして、実施例4の合成皮革を作製した。
【0076】
【表1】
【0077】
[実施例6]
表2に示すように、離型紙として、Spectra800(Sappi社製)に代えて、FRZ(リンテック株式会社製 凹凸深さ10μm、凹凸間隔125μm)を用いたこと以外は実施例3(表1参照)と同様にして、実施例6の合成皮革を作製した。表2には、使用した離型紙の離型処理面における微小凹凸の深さ及び間隔を、上述した測定方法によって測定した結果を示す。なお、表2において「-」は、成分が配合されないことを示す。
【0078】
[実施例7]
表2に示すように、離型紙として、Spectra800(Sappi社製)に代えて、R331(リンテック株式会社製 凹凸深さ8μm、凹凸間隔42μm)を用いたこと以外は実施例3(表1参照)と同様にして、実施例7の合成皮革を作製した。
【0079】
[実施例8]
表2に示すように、基材として、PET33T/36fの丸編みスムース 44ゲージに代えて、熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(TPU)フィルム(硬度85A)を用いたこと以外は実施例3(表1参照)と同様にして、実施例8の合成皮革を作製した。
【0080】
[比較例1]
表2に示すように、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂Iを用いず、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂Iを100質量部としたこと以外は、実施例1(表1参照)と同様にして、比較例1の合成皮革を作製した。
【0081】
[比較例2]
表2に示すように、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂Iを用いず、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂Iを100質量部としたこと以外は、実施例1(表1参照)と同様にして、比較例2の合成皮革を作製した。
【0082】
【表2】
【0083】
[比較例3]
表3に示すように、離型紙として、Spectra800(Sappi社製)に代えて、R86M(リンテック株式会社製 凹凸深さ37μm、凹凸間隔750μm)を用いたこと以外は実施例3(表1参照)と同様にして、比較例3の合成皮革を作製した。表3には、使用した離型紙の離型処理面における微小凹凸の深さ及び間隔を、上述した測定方法によって測定した結果を示す。なお、表3において「-」は、成分が配合されないことを示す。
【0084】
[比較例4]
表3に示すように、離型紙として、Spectra800(Sappi社製)に代えて、TPD130(リンテック株式会社製 凹凸深さ3μm、凹凸間隔160μm)を用いたこと以外は実施例3(表1参照)と同様にして、比較例4の合成皮革を作製した。
【0085】
[比較例5]
表3に示すように、離型紙として、DE-90(大日本印刷株式会社製 凹凸深さ68μm、凹凸間隔1800μm)を用いた。樹脂層を形成するための塗布液を、表3の処方に基づいて、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂II(クリスボンS-705(DIC株式会社製) 非水系)と、有機溶媒としてのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)と、顔料としてのカーボンブラックとを混合することによって調製した。
【0086】
得られた塗布液が硬化する前に、塗布液を離型紙の離型処理面上に、固形分が70g/mとなるように塗布した。塗布後、80℃の加熱温度で5分間加熱することにより、乾燥して、硬化体としての樹脂層を形成した。
【0087】
接着剤を形成するための塗布液を、表3の処方に基づいて、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂III(クリスボンTA-205FT(DIC株式会社製) 非水系)と、有機溶媒としてのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)とを混合することにより、調製した。
【0088】
得られた塗布液が硬化する前に、塗布液を樹脂層上に、固形分が70g/mとなるように塗布した。塗布後、塗布液が完全に硬化しないように80℃の加熱温度で4分間加熱することにより、仮乾燥して、半硬化状態の接着層を形成した。
【0089】
得られた半硬化状態の接着層上に、表3に示すように、基材として、28ゲージ ポリエステルトリコット84T/36fを重ね合わせ、圧力4kgf/cmで1分間加圧した。得られた積層体を50℃で72時間エージングすることにより、半硬化状態の接着層を硬化させ、これにより、接着層を介して樹脂層と基材とを接着させた。その後、離型紙を剥離することにより、比較例5の合成皮革を作製した。
【0090】
[比較例6]
表3に示すように、離型紙として、DE-90(大日本印刷株式会社製)に代えて、T-FLAT(大日本印刷株式会社製 凹凸深さ4μm、凹凸間隔45μm)を用いたこと以外は比較例5と同様にして、比較例6の合成皮革を作製した。
【0091】
[比較例7]
表3に示すように、離型紙として、R231(リンテック株式会社製 凹凸深さ7μm、凹凸間隔38μm)を用いた。樹脂層を形成するための塗布液を、表3の処方に基づいて、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂II(DLU(Covestro社製) 水系)と、水系シリコーン樹脂(MF56(信越シリコーン株式会社))と、顔料(カーボンブラック)と、消泡剤(formex800(Evonic社製))と、濡れ性向上剤(BYK-3455(BYK社製))とを混合することにより、調製した。
【0092】
得られた塗布液が硬化する前に、塗布液を離型紙の離型処理面上に、固形分が70g/mとなるように塗布した。塗布後、80℃の加熱温度で5分間加熱することにより、乾燥し、これにより、樹脂層を形成した。
【0093】
接着剤を形成するための塗布液を、表3に示すように、実施例1(表1参照)と同様にして調製した。
【0094】
得られた塗布液が硬化する前に、実施例1(表1参照)と同様にして、塗布液を樹脂層上に、固形分が70g/mとなるように塗布し、塗布後、80℃の加熱温度で4分間加熱することにより、半硬化状態の接着層を形成した。
【0095】
得られた半硬化状態の接着層上に、表3に示すように、実施例1(表1参照)と同様の基材を重ね合わせ、実施例1と同様に加圧及びエージングすることにより、接着層を介して樹脂層と基材とを接着し、その後、離型紙を剥離することにより、比較例7の合成皮革を作製した。
【0096】
【表3】
【0097】
[動摩擦係数Ra及び静摩擦係数Rcの測定]
合成皮革(積層体)を200mm×200mmの寸法に切断することにより、共布を作製した。合成皮革(積層体)における共布を切断した領域以外の領域を63mm×63mmに切断し、試料としての切断片を作製した。別途、63mm×63mmのフェルトを準備し、このフェルトに、試料における基材の表面を両面テープによって貼り合わせた。オートグラフ AG-IS(島津製作所製)に樹脂層が上方を向くように共布を設置し、共布の樹脂層上に、試料の樹脂層を重ね合わせ、フェルト上(すなわち試料上)に荷重500gを加え、速度1000mm/minで、共布に対して試料を移動させることによって摩擦し、その際に試料に加えられる力、及び摩擦力を測定した。得られた力と摩擦力との関係をプロットしたグラフにおいて、試料を移動させた直後のピークの摩擦力(N)を、荷重(N)で除した値を静摩擦係数Rcとして測定し、試料を移動させた直後のピークを除いた力の領域における摩擦力の平均値(N)を、荷重(N)で除した値を動摩擦係数Raとして測定した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0098】
[動摩擦係数Rb及び静摩擦係数Rdの測定]
荷重を500gから200gに変更し、速度を1000mm/minから100mm/minに変更したこと以外は、上記動摩擦係数Ra及び静摩擦係数Rcの測定方法と同様にして、動摩擦係数Rb及び静摩擦係数Rdを測定した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0099】
[動摩擦係数Ra/動摩擦係数Rbの算出]
上記で得られた動摩擦係数Ra及び動摩擦係数Rbを用いて、動摩擦係数Raと動摩擦係数Rbとの比Ra/Rbを算出した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0100】
[従来法による平均表面動摩擦係数MIUの測定]
合成皮革を63mm×63mmの寸法に切断し、試料としての切断片を作製した。この試料をKES表面試験機(KES-FB4-A、カトーテック株式会社製)に取り付け、ピアノワイヤーセンサー10mm角を試料上に載せ、このセンサーに50gfの荷重を加えた状態で、試料上を1mm/secの速度で移動させ、その際に試料に加えられる力、及び摩擦力を測定した。得られた力と摩擦力との関係をプロットしたグラフにおいて、センサーを移動させた直後のピークを除いた領域における摩擦力の平均値(N)を、荷重(N)で除した値を平均表面動摩擦係数MIUとして測定した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0101】
[表面粗さ(SMD)の測定]
上述した表面粗さ(SMD)の測定方法に基づいて、合成皮革の樹脂層の表面の表面粗さ(SMD)を測定した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0102】
[微小凹凸の深さ及び間隔の測定]
上述した微小凹凸の深さ及び間隔の測定方法に基づいて、合成皮革の樹脂層の表面の微小凹凸の深さ及び間隔を測定した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0103】
[グロス値の測定]
上述した樹脂層の表面のグロス値の測定方法に基づいて、入射角度60°での樹脂層の表面のグロス値を測定した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0104】
[剛軟度の測定]
上述した積層体(合成皮革)の剛軟度の測定方法に基づいて、合成皮革の剛軟度を測定した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
【0105】
[有機溶媒による汚染性の評価]
合成皮革における有機溶媒としてのDMFの含有量を、ISO TS 16189に準拠して測定し、以下の判定基準で評価した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
A:有機溶媒の残存量が検出限界(5質量ppm)以下
B:有機溶媒の残存量が5質量ppm超
【0106】
[表面タッチ性の評価]
訓練された1名のパネラーが、合成皮革の樹脂層の表面を素手で触り、触った感触を、以下の判定基準で評価した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
A:ぬめり感が適度にある
B:ぬめり感が若干弱い、又は強い
C:ぬめり感が著しく弱い、又は強い
【0107】
[滑り易さ(滑り性)の評価]
合成皮革で製品(被適用品)をカバーした状態(使用時)において、合成皮革が滑り過ぎても、滑らなさ過ぎても良くない。滑り過ぎる場合、合成皮革でカバーされた製品(適用品)が滑り落ち易く、内側の被適用品が破損するリスクが高くなる、適用品を手で持って作業する際、適用品が滑ってしまい、作業し難くなる、といった不具合が生じるおそれがある。一方、滑らなさ過ぎる場合、適用品の表面(合成皮革の)に汚れが付着し易くなる、適用品を鞄、ケースなどに収納する際の出し入れが困難になるおそれがある、適用品の表面(合成皮革の表面)に傷がつき易くなる、といった不具合が生じるおそれがある。そこで、合成皮革を製品にカバーした状態を想定し、合成皮革の滑り易さを評価した。合成皮革を63mm×63mmサイズに切断し、得られた切断片を、水平面から角度40度で傾斜させた板の表面(上面)に、切断片の樹脂層の表面(使用時の露出面)が接触するように載置し、切断片が滑らないように手で支持しながら、切断片上に一定の荷重(200g)を加えた。上記板として、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂素材で構成されたOLFA Cutting mat(OLFA株式会社製)を使用した。次いで、上記のように切断片を手で支持した状態から、手を放し、手を放してから切断片が下方に向けて距離30.0cmを滑るのに要した時間(秒)を所要時間として測定した。10.0秒経過しても距離30.0cmまで滑らなかった切断片については、所要時間を10.0秒と判定し、10.0秒経過するまでに滑った距離を、制動距離(移動距離)として測定した。なお、10.0秒経過するまでに距離30.0cm以上滑った場合、制動距離を30.0cmと判定した。測定された所要時間、及び制動距離について、以下の判定基準で評価した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
A:所要時間が2.0秒以上10.0秒以下であり、かつ10.0秒経過するまでの制動距離が20.0cm以上である(滑り性が優れる)
B:所要時間が2.0秒以上10.0秒以下であり、かつ10.0秒経過するまでの制動距離が2.0cm以上20.0cm未満である(滑り性が良好)
C:所要時間が2.0秒未満であるか、又は制動距離が2.0cm未満である(滑り過ぎ、又は滑らなさ過ぎであり、すなわち、滑り性が不良)
【0108】
[耐薬剤性の評価]
薬剤として、日焼止め(Banana Boat Sunscreen SPF-30)、ハンドクリーム(Cucina Fruits and Passion Hand)、オリーブオイル(Extra Virgin Olive Oil)、及びオレイン酸(試薬、ナカライテクス株式会社製)を用いた。合成皮革の樹脂層の表面における2cm×2cmの領域に、各薬剤をそれぞれ0.05g塗布し、塗布後、22℃×55%RHの環境下に24時間静置した後、樹脂層の外観を以下の判定基準で評価した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
A:樹脂層の表面の外観に変化が無い
B:樹脂層の表面に弱い膨潤が観察される
C:樹脂層の表面に強い膨潤が観察される
D:樹脂層の表面が溶解した
【0109】
[耐熱プレス性の評価]
エアー駆動式全自動転写用プレスHP-4536A-12(株式会社HASHIMA社製)を用い、樹脂層が上方に位置するように合成皮革をステージ上に載置し、加熱温度120℃、圧力6MPaで15秒間プレスした。プレス後、プレスされた樹脂層の表面の外観をルーペで観察し、下記の判定基準で評価した。結果を表4、表5、及び表6に示す。
A:樹脂層が基材の凹凸の影響を受けず、表面が平坦である
B:樹脂層が基材の凹凸の影響を若干受け、表面に若干の凹凸が存在する
C:樹脂層が基材の凹凸の影響を受け、目視でも認識できる程度の凹凸が存在する
D:樹脂層が基材の凹凸の影響を受け、基材と同様の凹凸が存在する
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
樹脂層の表面の動摩擦係数Raが0.70~1.00である実施例1~8の合成皮革は、表面タッチ性の評価が「A」又は「B」であり、一定以上の表面タッチ性を示した。
【0114】
実施例1~8の合成皮革は、滑り性の評価が「A」又は「B」であり、一定以上の滑り性を示した。実施例1~8の合成皮革のうち、実施例1~3、5~8の合成皮革は、耐熱プレス性の評価が「A」又は「B」であり、一定以上の耐熱プレス性を示した。また、架橋剤の種類以外は互いに同じ樹脂層の処方の実施例3と実施例4とを比較すると、相対的に高架橋型のカルボジイミド架橋剤を用いる実施例3の合成皮革の方が、相対的に低架橋型のカルボジイミド架橋剤を用いる実施例4よりも、優れた耐熱プレス性を示した。一方、実施例3と実施例4とを比較すると、同程度に優れた滑り性を示した。
【0115】
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂との質量比が60:40~40:60である実施例2、3は、80:20である実施例1、及び20:80である実施例5よりも、優れた表面タッチ性を示した。上記質量比が60:40以上である実施例2、3、5~8は、上記質量比が80:20である実施例1よりも、優れた耐熱プレス性を示した。上記質量比が60:40以上である実施例2~8は、上記質量比が80:20である実施例1よりも、優れた滑り性を示した。
【0116】
実施例1~8の合成皮革においては、有機溶媒としてのDMFの残存量が5質量ppm以下であり、身体に対する有害性が抑制されたものであった。
【0117】
実施例1~8の合成皮革においては、作製に使用した離型紙の離型処理面の微小凹凸の深さが7~10μm、間隔が30~125μmの範囲内にあり、優れた表面タッチ性を有する合成皮革を作製し得ることがわかる。
【0118】
これに対し、比較例1~7の合成皮革は、表面タッチ性の評価が「C」であり、表面タッチ性が劣るものであった。
【0119】
従来法の平均表面動摩擦係数MIUと、表面タッチ性との間に相関は確認されず、優れた表面タッチ性を有する合成皮革を平均表面動摩擦係数MIUによって規定することは困難であることが示された。
【0120】
以上の結果、樹脂層がポリエーテル系ポリウレタン樹脂と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含み、積層体の動摩擦係数Raが0.70~1.00である合成皮革は、優れた表面タッチ性を有するとともに、優れた耐薬剤性及び優れた耐熱プレス性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の合成皮革は、パソコン、タブレット端末、携帯電話、ヘッドホン等の電化製品のケース、カバー、及びキーボード等の表面、並びに、自動車、鉄道車両、航空機などのシートの表面等に好適に利用可能であり、特に、ノートパソコン及びタブレット端末のカバーの表面に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 合成皮革
10 基材
20 樹脂層
30 積層体
40 接着層
50 離型紙
図1
図2