(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007550
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】スポンジケーキ用組成物及びそれを用いたケーキ類
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20230112BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20230112BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110458
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙紀
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB06
4B032DB35
4B032DK12
4B032DK15
4B032DL20
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、D-プシコースを添加することにより低減するスポンジケーキのボリュームを改善する組成物、及びそれを用いて製造されるケーキ類を提供することにある。
【解決手段】 30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉を、D-プシコースを含むケーキバッター生地に添加することにより、前記D-プシコースに起因して生じる焼成時のボリューム低減という課題は解決される。また、D-プシコースを1.9~10.5%を含むケーキバッター生地において、上記の凝集性を示す架橋澱粉を0.8~26%添加すれば、前記課題が解決されるにとどまらず、スポンジケーキのボリュームが相乗的に向上する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉及びD-プシコースを含有するスポンジケーキ用ミックス。
【請求項2】
30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%及びD-プシコース1.9~12.8%を含有するケーキバッター生地。
【請求項3】
30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%及びD-プシコース1.9~12.8%を含有するケーキバッター生地を焼成してなるスポンジケーキ。
【請求項4】
30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%及びD-プシコース1.9~12.8%を含有するケーキバッター生地を調製する工程と、これを型充填する工程と、100℃以上の焼成機で焼成する工程からなる、スポンジケーキの製造方法。
【請求項5】
30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉を含む、スポンジケーキ膨化用組成物。
【請求項6】
さらにD-プシコースを含む、請求項5記載のスポンジケーキ膨化用組成物。
【請求項7】
D-プシコースを1.9~12.8%含むケーキバッター生地に、30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%を含有させ、その生地を型充填して100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化向上方法。
【請求項8】
ケーキバッター生地に、D-プシコース1.9~10.5%と、30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.8~26%を含有させ、その生地を型充填して100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポンジケーキ用組成物及びそれを用いたケーキ類に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキは、一般に、穀粉(主に小麦粉)、卵及び砂糖を主に含む生地を卵の起泡力で膨らませ、その起泡状態を維持しながら焼成してなるものである。スポンジケーキは、通常、ふんわりとしたボリューム感あるものが好まれるため、卵の起泡力に加えて、ベーキングパウダー又は重曹を生地に配合し、その溶解時又は加熱時に発生する二酸化炭素を利用してボリュームアップさせる手法をとることもある。また、生地中に発生した気泡の消泡を焼成完了まで抑えるために、乳化剤を添加することによりボリュームを維持させる手法をとることもある。
【0003】
さらに、ケーキ類のボリュームを向上させるため、上述のほか、穀粉の一部として澱粉、とくに加工澱粉を利用することも検討されている。例えば、特許文献1には、体積が大きくて軽い食感を有する菓子類を得ようと、膨潤度3~15の膨潤抑制澱粉(最も好ましくは架橋タピオカ澱粉)と小麦粉を7:93~70:30の重量割合で使用される菓子類が開示されている。
【0004】
ところで、D-プシコースは、食品としてのエネルギー値は0kcal/gであり、食後血糖の上昇抑制効果がありながら、砂糖の甘味度の60~70%を有することから、ケーキ生地原料の砂糖の代替として使用されることがある。しかし、D-プシコースを一定量以上添加すると、ケーキ類のボリュームが低減することが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、D-プシコースを添加することにより低減するスポンジケーキのボリュームを改善する組成物、及びそれを用いて製造されるケーキ類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、澱粉の中でも、一定の凝集性を示す架橋澱粉をケーキバッター生地に特定量添加することにより、D-プシコースにより生じる焼成時のボリューム低減の課題が解決されることを見出した。そして、当該澱粉自体がスポンジケーキのボリュームを改善する効果を奏するだけでなく、上記課題を生ずるD-プシコースと組み合わせたときに、意外にも相乗的にスポンジケーキのボリュームを向上させることをさらに見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、主に6つの発明(ケーキ用ミックス、ケーキバッター生地、焼成ケーキ、ケーキの製造方法、ケーキ膨化用組成物、ケーキの膨化方法)からなり、具体的には以下[1]~[8]である。
[1]30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉及びD-プシコースを含有するスポンジケーキ用ミックス。
[2]30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%及びD-プシコース1.9~12.8%を含有するケーキバッター生地。
[3]30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%及びD-プシコース1.9~12.8%を含有するケーキバッター生地を焼成してなるスポンジケーキ。
[4]30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%及びD-プシコース1.9~12.8%を含有するケーキバッター生地を調製する工程と、これを型充填する工程と、100℃以上の焼成機で焼成する工程からなる、スポンジケーキの製造方法。
[5]30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉を含む、スポンジケーキ膨化用組成物。
[6]さらにD-プシコースを含む、上記[5]記載のスポンジケーキ膨化用組成物。
[7]D-プシコースを1.9~12.8%含むケーキバッター生地に、30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.25~26%を含有させ、その生地を型充填して100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化向上方法。
[8]ケーキバッター生地に、D-プシコース1.9~10.5%と、30質量%の澱粉ゲルの凝集性が0.11~0.69である架橋澱粉0.8~26%を含有させ、その生地を型充填して100℃以上の焼成機で焼成する、スポンジケーキの膨化向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、D-プシコースをケーキバッター生地に添加して焼成したときに生じる焼成ケーキの膨化抑制を改善するというだけでなく、相乗的にスポンジケーキのボリュームを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にいうスポンジケーキとは、主成分である穀粉、卵及び砂糖のほか、牛乳、油脂、塩、調味料などの副原料を混合して得られるバッター生地を型に充填して焼成してなるものをいい、イースト発酵を伴うパン類とは区別される。本発明にいうスポンジケーキは、いわゆるスポンジケーキに限るものでなく、穀粉、卵及び砂糖を主原料として焼成されるケーキ類であればよく、例えば、シフォンケーキ、カップケーキ、マドレーヌ、フィナンシェ、ホットケーキ、どら焼き、蒸しどら、たい焼き、人形焼、鈴カステラ、ワッフルといった、焼成後のボリュームが必要とされるケーキ類一般を指す。本発明の効果がよく発揮されるスポンジケーキの形態は、卵の気泡性を利用した生地を使用して製造される、いわゆるスポンジケーキのほか、シフォンケーキ、ホットケーキ、カステラ、ブッセ、ロールケーキ、バウムクーヘンである。スポンジケーキの製造手順は定法に従えばよく、例えば、シュガーバッター法、共立て法、オールイン法、フラワーバッター法、別立て法などが挙げられる。焼成工程における生地温度が80℃を超える場合に膨化が最大となるため、本発明の効果がより明確にみられる。
【0011】
上記の「卵」は、一般に鶏の全卵を指すが、それ以外の卵であってもよく、卵黄又は卵白のみを利用することができ、卵液のほか、その冷凍品、粉末品などの加工品を用いることもできる。また、上記の「砂糖」は、ショ糖、スクロースともいい、その粒の大きさや精製度により、グラニュー糖、粉糖、上白糖、三温糖などと名称が異なることがあるが、いずれを用いてもよい。
【0012】
本発明のスポンジケーキの主原料である「穀粉」は、小麦粉に限定されず、米粉、コーンフラワー、大豆粉、ライ麦粉、大麦粉、あわ粉、ひえ粉、澱粉などを併用してもよく、澱粉には加工澱粉(但し、後述する本発明の必須成分である特定の凝集性を有する架橋澱粉は除く)が含まれる。加工澱粉の具体例は、架橋澱粉(例えば、リン酸架橋澱粉)、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシプロピル澱粉)、エステル化澱粉(例えば、酢酸澱粉)、これら加工を組合せた加工澱粉(例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉やヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)、オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉、酸化澱粉、酸処理澱粉などが挙げられる。
【0013】
本発明の必須成分である「架橋澱粉」は、リン酸架橋澱粉を指し、澱粉懸濁液にトリメタリン酸ナトリウムやオキシ塩化リンなどの架橋剤を反応させて得られる加工澱粉であって、エステル化又はエーテル化処理がされた架橋澱粉を含む。この架橋澱粉の加工程度の指標としては、沈降積がよく用いられるが、その測定方法は以下である;まず、澱粉試料0.15g(固形物換算)を試験管に計量し、あらかじめ調製しておいた試薬(塩化アンモニウム26質量%、塩化亜鉛10質量%、水64%により調製)15mLを注ぎ込む。次に、卓上バイブレーターを用いて、試験管中の澱粉試料を均一に分散させ、直ちに沸騰浴中に固定して10分間加熱後、25~35℃まで冷却する。そして、この試験管中の澱粉試料を、卓上バイブレーターを用いて再度分散させ、10mL容量メスシリンダーに10mL流し込み、25℃にて20時間静置後、その沈殿物の目盛値を読み取る。
【0014】
本発明で用いる用語である「凝集性」とは、食品に負荷を加えると変形・破損するところ、食品に負荷を連続2回加えたときの1回目と2回目の負荷面積(エネルギー)の比で表したものである。凝集性の数値(最大値1)は、その物質が凝集して塊を形成しやすいかを示す指標であり、数値が大きいほど、弾力性及び復元力があるといえる。本発明における澱粉の凝集性の測定方法は、例えば、以下である; まず、開口部の一方をタコ糸で結束した円周120mmのケーシングに無水30%澱粉の懸濁液を入れ、半ば糊化するまで沸騰浴中で攪拌加熱してから、ケーシングのもう一方の開口部をタコ糸で結束する。これを沸騰浴に投入して30分間加熱後、氷冷及び1日冷蔵することにより、澱粉ゲルとする。次に、クリープメータ(山電製RE2-3305B)のテクスチャー解析モードを用い、プランジャー20mm円型、測定速度5mm/秒、測定歪率50%及び測定回数2回の条件下、20mm厚にカットした該澱粉ゲルに圧縮負荷を加え、得られる負荷面積の比を求める。
【0015】
そして、本発明で用いる架橋澱粉は、凝集性が0.11~0.69、0.11~0.56、0.11~0.22であることが好ましい。凝集性が0.69を超えるとき、又は0.10を下回るとき(=測定不能)は、D-プシコースに起因するボリューム低減を改善する効果がみられず、また、D-プシコース無添加ケーキにおけるボリューム向上の効果もみられない。当該特定の凝集性を有する架橋澱粉は、スポンジケーキの原材料のひとつとして用いればよく、ミックス調製時又はバッター生地調製時に、少なくとも焼成前の生地中に0.25%以上となるよう添加すればよいが、D-プシコースによるスポンジケーキのボリューム低減を抑制するだけでなく相乗的にボリュームを向上させたいときは、0.8%以上配合することを要する。また、ボリュームだけでなく、ケーキとしての味質をより重視するときは、1.0~26%、1.2~20%の範囲で配合するのが好ましい。
【0016】
もっとも、ケーキバッター生地中にD-プシコースが12.82%を超えて含まれるときは、当該架橋澱粉を上記の量範囲で添加しても、スポンジケーキのボリューム改善効果が顕著にみられることはないので、D-プシコースについては、ケーキバッター生地中に12.8%以下にとどめるのがよく、相乗的なボリューム向上効果を期待するときは、D-プシコースを1.9~10.5%の範囲とするのがよい。
【0017】
ところで、D-プシコースは、D-フラクトース(果糖)のエピマーであり、自然界に少量しか存在しない糖ではあるが、近年、大量生産技術の開発によって入手が比較的容易となり、結晶品(例えば、松谷化学工業株式会社製「Astraea」(規格純度95%以上)。)や液状混合品(例えば、松谷化学工業株式会社製「レアシュガースウィート」)として入手可能である。
【0018】
本発明にいう「ボリュームが改善する」、「ボリューム向上」、「膨化改善」、「膨化向上」などは、すべて同義であり、特に、D-プシコースを添加したときに低減するボリュームが改善する、すなわち、スポンジケーキの体積が、D-プシコース無添加時と同程度又はそれ以上になることをいい、好ましくは、比容積(cm3/g)が4.0以上、より好ましくは4.2以上、さらに好ましくは4.4以上であることをいう。ここで、比容積とは、焼成ケーキを室温で冷まし、レーザー体積計(例えば、アステックス株式会社製、Selnac Win VM2000シリーズなど)で測定した体積(cm3)を質量(g)で除したもの(cm3/g)をいう。なお、レーザー体積計とは、一定の波長(パルス長)をもったレーザーを対象物に投光し、その反射光を受光部で受光するまでの時間を測定することにより対象物の形状をスキャンし、体積を測定するものである。
【0019】
本発明のスポンジケーキ用のミックスは、先述のとおり、必須成分である凝集性が0.11~0.69の架橋澱粉を含めばよく、主原料となる穀粉、卵、砂糖とともにあらかじめ混合してミックス粉として提供するのでもよいし、スポンジケーキの製造者が、凝集性0.11~0.69の架橋澱粉に対して好みの材料を後から混合して使用することもできる。また、上記主原料のほか、重曹、ベーキングパウダー、乳製品、油脂、塩などの調味料のほか、レーズンやナッツなどの具材を含むことができる。また、本発明のスポンジケーキは、前提として、砂糖の一部又は全部をD-プシコースに置き換えて製造されるケーキであるため、最終製品における甘味質を調節するなどの目的で、本発明の効果を害しない範囲において砂糖以外の甘味材を含むことができ、甘味材の例としては、ブドウ糖、果糖、オリゴ糖、水飴、糖アルコールのほか高甘味度甘味料などが挙げられる。また、高甘味度甘味料の例としては、アセスルファムカリウム、スクラロース、ソーマチン、アスパルテーム、ステビア(レバウディオサイドA,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,O、ステビオサイドなど)、サッカリン、サッカリンナトリウム、甘草、羅漢果、ネオテーム、モネリン、グリチルリチン、アリテーム、ネオヘスペリジンなどが挙げられる。
【0020】
本発明の効果を得るには、凝集性が0.11~0.69の架橋澱粉は、先述のとおり、少なくともバッター生地の段階において0.25~25質量%の範囲で含まれるようにする必要があるので、例えば、スポンジケーキ用ミックス粉100質量部に対して添加する液(水、牛乳、卵などの混合液)が300質量部である設計の製品にあっては、当該ミックス粉中に1.0~100質量%の範囲で含まれるよう調製することとなる。
【実施例0021】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。なお、以下の実験例において、とくに断りのない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。
【0022】
<D-プシコースがケーキ比容積に及ぼす影響>
以下の[表1]の手順に従い、[表2]の配合で各スポンジケーキを焼成した。焼成したスポンジケーキの比容積は、レーザー体積計(アステックス株式会社製「Selnac Win VM2000シリーズ」)で測定し、体積(cm3)を質量(g)で除した数値(cm3/g)として、[表2]に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
ケーキバッター生地にD-プシコースを0.26%添加して焼成したケーキは、D-プシコース無添加の焼成ケーキに比べて比容積は低減しなかったが(試験区2)、D-プシコースを1.92%、5.13%、25.64%と添加していくと、比容積が低減することがわかった(試験区3~5)。
【0026】
<D-プシコースを含むケーキの比容積を改善する素材の検討>
D-プシコースを添加して焼成したケーキの比容積が低減することが確認されたので、次に、この低減した比容積を改善できる素材を検討することとした。検討した素材は、以下[表3]のとおりである(表中、(4)記載の未加工澱粉以外は、すべて松谷化学工業株式会社のリン酸架橋澱粉製品)。
【0027】
なお、検討した素材の凝集性の測定は、以下のとおり行った;まず、開口部の一方をタコ糸で結束した円周120mmのケーシングに無水換算30%の澱粉懸濁液を入れ、半ば糊化するまで沸騰浴中で攪拌加熱してから、ケーシングのもう一方の開口部をタコ糸で結束する。これを沸騰浴に投入して30分間加熱後、氷冷及び1日冷蔵することにより、澱粉ゲルとする。次に、クリープメータ(山電製RE2-3305B)のテクスチャー解析モードを用い、プランジャー20mm円型、測定速度5mm/秒、測定歪率50%及び測定回数2回の条件下、20mm厚にカットした該澱粉ゲルに圧縮負荷を加え、得られる負荷面積の比を求める。
【0028】
また、沈降積の測定は、以下のとおり行った;まず、澱粉試料0.15g(固形物換算)を試験管に計量し、あらかじめ調製しておいた試薬(塩化アンモニウム26質量%、塩化亜鉛10質量%、水64%により調製)15mLを注ぎ込む。次に、卓上バイブレーターを用いて、試験管中の澱粉試料を均一に分散させ、直ちに沸騰浴中に固定して10分間加熱後、25~35℃まで冷却する。そして、この試験管中の澱粉試料を、卓上バイブレーターを用いて再度分散させ、10mL容量メスシリンダーに10mL流し込み、25℃にて20時間静置後、その沈殿物の目盛値を読み取る。
【0029】
一方、得られたスポンジケーキについては、上の[表1]の手順に従って下の[表4]の配合で焼成し、その比容積をレーザー体積計(同上)で測定した。
【0030】
【0031】
【0032】
「D-プシコースを含まないケーキ」においては、いずれの架橋澱粉を用いても、その比容積は試験区1(=対照区。プシコース・架橋澱粉のいずれも含まない。)と同等又はそれ以上であった。一方、「D-プシコースを含むケーキ」においては、用いた架橋澱粉の凝集性が0.70~0.93のときは、その比容積は対照区(試験区1)と同等又はそれ以下であり、用いた架橋澱粉の凝集性が0.11~0.69のときは、その比容積は対照区より顕著に向上した。すなわち、凝集性が0.11~0.69の架橋澱粉は、D-プシコースに起因するボリューム低減を改善するのみでなく、D-プシコースと併存することにより、ケーキのボリュームを相乗的に向上させた。また、30%ゲルが形成されず凝集性を測定することができない架橋澱粉には「D-プシコースを含むケーキ」の比容積を改善する効果はみられず、凝集性が0.11~0.69の範囲(0.54又は0.53)にあっても、それが未加工澱粉のときは「D-プシコースを含むケーキ」の比容積を改善する効果はみられなかった。
【0033】
<D-プシコースを含むケーキの比容積を改善する架橋澱粉の添加量の検討>
D-プシコースを含むケーキの比容積を改善する効果を有する架橋澱粉について、添加量による効果の違いを検討した。スポンジケーキは、上の[表1]の手順に従って下の[表5]の配合で焼成し、その比容積はレーザー体積計(同上)で測定した。
【0034】
【0035】
D-プシコースを含むケーキにおいて、特定の凝集性を有する架橋澱粉を生地中に0.26%以上添加したときは、D-プシコースの有無にかかわらず比容積の向上がみられた。もっとも、当該架橋澱粉を0.77%までの添加では、D-プシコース併存による相乗的な比容積向上効果は認められず、当該架橋澱粉そのものによる若干の比容積向上効果のみが確認された。一方、当該架橋澱粉を生地中に1.28%、5.13%、12.82%、19.23%、25.64%を配合すると、D-プシコースに起因するケーキ比容積低減を改善するだけでなく、ケーキ比容積が飛躍的に向上し、D-プシコース併存による相乗効果が確認された。
【0036】
<D-プシコースの添加量の検討>
上記試験(表2)のとおり、D-プシコースを生地中に1.92%以上添加すると、ケーキ比容積が低下する。しかし、特定の凝集性を有する架橋澱粉と併存すると、意外にもケーキ比容積が相乗的に向上するため、その相乗効果が認められるD-プシコースの添加量を検討した。具体的には、上の[表1]の手順に従って下の[表6]の配合でスポンジケーキを焼成し、比容積をレーザー体積計(同上)で測定した。
【0037】
【0038】
特定の凝集性を有する架橋澱粉を含むケーキにおいて、D-プシコースを生地中に1.28%添加しても比容積は低減傾向にあり、12.82%を超えて添加すると当該架橋澱粉においてもその比容積は改善しなかったが、D-プシコースを生地中に1.92~10.26%の範囲で添加すると、当該架橋澱粉が併存することによる相乗的な比容積向上効果がみられた。