IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧

特開2023-75529集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法
<>
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図1
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図2
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図3
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図4
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図5
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図6
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図7
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図8
  • 特開-集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075529
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】集電装置のピッチング振動検知装置及び集電装置のピッチング振動検知方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 5/26 20060101AFI20230524BHJP
   G01M 17/08 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
B60L5/26 Z
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188487
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】小林 樹幸
(72)【発明者】
【氏名】天野 佑基
【テーマコード(参考)】
5H105
【Fターム(参考)】
5H105AA14
5H105BA02
5H105BB01
5H105CC02
5H105GG02
5H105GG12
5H105GG17
(57)【要約】
【課題】集電装置のピッチング振動を適切に検知可能な集電装置のピッチング振動検知装置等を提供する。
【解決手段】鉄道車両の集電装置においてトロリ線Tと接触するすり板体140又はすり板体を支持するすり板体支持部材130のピッチング振動を検出する集電装置のピッチング振動検出装置を、前後方向又は上下方向の成分を有する加速度を検出するとともに、すり板体とすり板体支持部材との少なくとも一方に、すり板体をまくらぎ方向から見たときの検出軸方向が一致しない状態で複数取り付けられた加速度センサS01~S06と、複数の加速度センサの出力に基づいて、すり板体又はすり板体支持部材のピッチング方向の加速度を算出する加速度算出部300とを備える構成とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の集電装置においてトロリ線と接触するすり板体又は前記すり板体を支持するすり板体支持部材のピッチング振動を検出する集電装置のピッチング振動検出装置であって、
前後方向又は上下方向の成分を有する加速度を検出するとともに、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方に、前記すり板体をまくらぎ方向から見たときの検出軸方向が一致しない状態で複数取り付けられた加速度センサと、
複数の前記加速度センサの出力に基づいて、前記すり板体又は前記すり板体支持部材のピッチング方向の加速度を算出する加速度算出部と
を備えることを特徴とする集電装置のピッチング振動検知装置。
【請求項2】
複数の前記加速度センサは、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の前後方向加速度を検出する第1の加速度センサと、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の上下方向加速度を検出する第2の加速度センサとを含むこと
を特徴とする請求項1に記載の集電装置のピッチング振動検知装置。
【請求項3】
前記第1の加速度センサと前記第2の加速度センサとを、単一の多軸加速度センサにより構成したこと
を特徴とする請求項2に記載の集電装置のピッチング振動検知装置。
【請求項4】
複数の前記加速度センサは、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の上下方向加速度を検出する第1の加速度センサと、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の上下方向加速度を検出するとともにまくらぎ方向から見たときの検出軸が前記第1の加速度センサの検出軸に対してずらして配置された第2の加速度センサとを含むこと
を特徴とする請求項1に記載の集電装置のピッチング振動検知装置。
【請求項5】
複数の前記加速度センサは、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の前後方向加速度を検出する第1の加速度センサと、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の前後方向加速度を検出するとともにまくらぎ方向から見たときの検出軸が前記第1の加速度センサの検出軸に対してずらして配置された第2の加速度センサとを含むこと
を特徴とする請求項1に記載の集電装置のピッチング振動検知装置。
【請求項6】
前記加速度算出部は、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の複数箇所で測定した加速度に基づいて、被計測物が剛体運動をするものと仮定した場合の加速度検出箇所における運動と重心における運動との関係式から前記ピッチング方向の加速度を算出すること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の集電装置のピッチング振動検知装置。
【請求項7】
前記加速度センサが、ひずみゲージ式加速度センサであること
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の集電装置のピッチング振動検知装置。
【請求項8】
鉄道車両の集電装置においてトロリ線と接触するすり板体又は前記すり板体を支持するすり板体支持部材のピッチング振動を検出する集電装置のピッチング振動検知方法であって、
前後方向又は上下方向の成分を有する加速度を検出する加速度センサを、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方に、前記すり板体をまくらぎ方向から見たときの検出軸方向が一致しない状態で複数取り付け、
複数の前記加速度センサの出力に基づいて、前記すり板体又は前記すり板体支持部材のピッチング方向の加速度を算出すること
を特徴とする集電装置のピッチング振動検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の集電装置のピッチング振動検知装置及びピッチング振動検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電車、電気機関車等の鉄道車両には、軌道の上方に張設された架線(トロリ線)に接触し、しゅう動して集電するすり板体を有するパンタグラフ等の集電装置が設けられる。
パンタグラフが走行する際に、架線とすり板との間の摩擦によって、パンタグラフに異常振動が発生するという事象が報告されている。
例えば、非特許文献1においては、摩擦力によってすり板を支持する舟体にピッチング振動(まくらぎ方向に沿った軸回りの揺動挙動)が生じることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】坂本真彦,加来洋成,鈴木優太,ED76形式パンタグラフのピッチング対策,R&m,日本鉄道車両機械技術協会,2012年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行中のパンタグラフに異常振動が生じると、架線とパンタグラフとの接触力が顕著に変化することから、トロリ線やすり板の摩耗が進展し、交換周期が短くなると考えられる。
また、異常振動によってパンタグラフが集電不能となる事例も報告されていることから、異常振動が小さい時点で集電装置のピッチング振動を検知し、集電不能となる前に、例えばノッチ制限による走行速度の抑制や、パンタグラフ降下などの対策を施し、ピッチング振動の増大を防止することは、鉄道の安定輸送及び低コスト化に有効である。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、集電装置のピッチング振動を適切に検知可能な集電装置のピッチング振動検知装置及びピッチング振動検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る集電装置のピッチング振動検知装置は、鉄道車両の集電装置においてトロリ線と接触するすり板体又は前記すり板体を支持するすり板体支持部材のピッチング振動を検出する集電装置のピッチング振動検出装置であって、前後方向又は上下方向の成分を有する加速度を検出するとともに、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方に、前記すり板体をまくらぎ方向から見たときの検出軸方向が一致しない状態で複数取り付けられた加速度センサと、複数の前記加速度センサの出力に基づいて、前記すり板体又は前記すり板体支持部材のピッチング方向の加速度を算出する加速度算出部とを備えることを特徴とする。
これによれば、すり板体又はすり板体支持部材(典型的には舟体)に複数の加速度センサを設け、各加速度センサの出力に基づいてピッチング方向の加速度(典型的には角加速度)を算出することにより、簡単な装置構成により精度よくピッチング振動の検出を行うことができる。
また、このように算出されたピッチング方向の加速度には、すり板体やすり板体支持部材の並進方向の加速度が重畳され難く、集電装置の集電性能を損なうおそれのある異常振動の検出に適する。
【0006】
本発明において、複数の前記加速度センサは、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の前後方向加速度を検出する第1の加速度センサと、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の上下方向加速度を検出する第2の加速度センサとを含む構成とすることができる。
これによれば、すり板体又はすり板体支持部材の前後方向加速度、上下方向加速度に基づいて、最低限一対の加速度センサにより適切にピッチング振動を検出することができる。
この場合、前記第1の加速度センサと前記第2の加速度センサとを、単一の多軸加速度センサにより構成した構成とすることができる。
これによれば、加速度センサの集電装置への取り付け作業を簡易化することができる。
【0007】
本発明において、複数の前記加速度センサは、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の上下方向加速度を検出する第1の加速度センサと、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の上下方向加速度を検出するとともにまくらぎ方向から見たときの検出軸が前記第1の加速度センサの検出軸に対してずらして配置された第2の加速度センサとを含む構成とすることができる。
また、本発明において、複数の前記加速度センサは、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の前後方向加速度を検出する第1の加速度センサと、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の前後方向加速度を検出するとともにまくらぎ方向から見たときの検出軸が前記第1の加速度センサの検出軸に対してずらして配置された第2の加速度センサとを含む構成とすることができる。
これらの各発明においても、上下方向又は前後方向に沿った検出軸を相互にずらして配置された最低限一対の加速度センサにより、適切にピッチング振動を検出することができる。
【0008】
本発明において、前記加速度算出部は、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方の複数箇所で測定した加速度に基づいて、被計測物が剛体運動をするものと仮定した場合の加速度検出箇所における運動と重心における運動との関係式から前記ピッチング方向の加速度を算出する構成とすることができる。
これによれば、加速度センサの出力に基づいて、適切にピッチング振動を検出することができる。
本発明において、前記加速度センサが、ひずみゲージ式加速度センサである構成とすることができる。
これによれば、集電装置、トロリ線などから発せられる電気的なノイズへの耐性を確保し、ピッチング振動検知装置の信頼性、耐久性を確保することができる。
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の他の一態様に係る集電装置のピッチング振動検知方法は、鉄道車両の集電装置においてトロリ線と接触するすり板体又は前記すり板体を支持するすり板体支持部材のピッチング振動を検出する集電装置のピッチング振動検知方法であって、前後方向又は上下方向の成分を有する加速度を検出する加速度センサを、前記すり板体と前記すり板体支持部材との少なくとも一方に、前記すり板体をまくらぎ方向から見たときの検出軸方向が一致しない状態で複数取り付け、複数の前記加速度センサの出力に基づいて、前記すり板体又は前記すり板体支持部材のピッチング方向の加速度を算出することを特徴とする。
本発明においては、上述した集電装置のピッチング振動検知装置に係る発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、集電装置のピッチング振動を適切に検知可能な集電装置のピッチング振動検知装置及びピッチング振動検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した集電装置のピッチング振動検知装置及びピッチング振動検知方法の実施形態の適用対象となるパンタグラフの一例の構成を模式的に示す図である。
図2図1のパンタグラフのすり板体及び舟体の構成を模式的に示す図である。
図3】実施形態において用いられるパンタグラフ試験装置の構成を模式的に示す図である。
図4】実施形態におけるすり板体への加速度センサの配置を示す図である。
図5】しゅう動試験における舟体の角度を模式的に示す図である。
図6】6個の加速度センサから推定されたピッチング振動の角加速度を示す図であって、すり板体の迎え角が頭上げ1°の状態を示す図である。
図7】6個の加速度センサから推定されたピッチング振動の角加速度を示す図であって、すり板体の迎え角が頭下げ1°の状態を示す図である。
図8】加速度センサの個数によるピッチング振動の推定結果を比較する図である。
図9】実施形態の手法によって推定されたすり板体のピッチング方向の角加速度と舟体の上下加速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した集電装置のピッチング振動検知装置及びピッチング振動検知方法の実施形態について説明する。
先ず、ピッチング振動の検知を行う対象となる集電装置であるパンタグラフの一例について説明する。
図1は、実施形態の集電装置のピッチング振動検知装置及びピッチング振動検知方法の適用対象となるパンタグラフの一例の構成を模式的に示す図である。
【0013】
パンタグラフ100は、図示しない鉄道車両の車体の屋根上に設けられ、車両上方に設置されるトロリ線(架線)から電力供給を受ける集電装置である。
パンタグラフ100は、例えば、台枠110、枠組120、舟体130等を有するシングルアーム式のものである。
【0014】
台枠110は、鉄道車両の車体の屋根上に取り付けられ、パンタグラフ100の基部となる部分である。
台枠110には、舟体130が上昇する方向に枠組120を付勢し、所定の静押上力を発生する主ばねが設けられている。
【0015】
枠組120は、舟体130を台枠110に対して相対的に上下(昇降)可能に支持するリンク機構である。
枠組120は、アーム状の上枠121、下枠122、釣合ロッド123等を有する。
上枠121は、舟体130の下部と、下枠122の上端部とに、それぞれ揺動可能に連結されたアーム状の部材である。
上枠121には、舟体130の昇降時(上枠121の揺動時)に、舟体130を実質的に水平に保持する図示しない舟支えロッドが設けられている。
下枠122は、上枠121の下端部と台枠110とに、それぞれ揺動可能に連結されたアーム状の部材である。
釣合ロッド123は、上枠121及び舟体130の姿勢保持のため、下枠122と協働して平衡リンクを構成する部材である。
【0016】
舟体130は、枠組120の上部(上枠121の上端部)に連結され、まくらぎ方向に沿った長手方向を有するすり板体支持部材である。
舟体130は、以下説明するすり板体140を保持する機能を有する。
図2は、図1のパンタグラフのすり板体及び舟体の構成を模式的に示す図である。
図2は、舟体130及びすり板体140を、前後方向における中間部で、まくらぎ方向及び鉛直方向に沿った平面で切って見た断面を模式的に示している。
【0017】
舟体130は、支柱131、ピン132、補助すり板133、補助すり板支持部134、ホーン135(図1参照)等を有する。
支柱131は、すり板体140のまくらぎ方向における両端部を、ピン132を介して支持するものである。
支柱131は、舟体130の本体部から上方へ突出して形成され、まくらぎ方向に離間して一対が設けられている。
ピン132は、支柱131の上端部に設けられ、すり板体140の両端部を、車両前後方向に沿った軸回りに揺動可能に支持するものである。
【0018】
補助すり板133は、舟体130の上部であって、すり板体140に対してまくらぎ方向外側の領域に設けられた部材である。
補助すり板133は、舟体130に対するトロリ線のまくらぎ方向の相対変位が著大であり、すり板体140からはみ出した際に、トロリ線としゅう動する部分である。
補助すり板133の上面部の高さは、すり板体140の上面部の高さと実質的に同等となるように配置されている。
【0019】
補助すり板支持部134は、補助すり板133を支持する部分である。
補助すり板支持部134は、舟体130の本体部のまくらぎ方向における両端部を上方に張り出させて形成されている。
補助すり板133の下面部は、補助すり板支持部134の上面部に当接した状態で固定されている。
【0020】
ホーン135は、舟体130のまくらぎ方向における両端部から外側へ突出して設けられ、突端部が下垂するよう、上方が凸となる弧状に湾曲して形成されている。
ホーン135は、トロリ線が舟体130の下方へもぐり込むことを防止する機能を有する。
【0021】
すり板体140は、トロリ線Tとしゅう動可能な状態で当接し、トロリ線Tと導通して集電を行う部材である。
すり板体140は、例えば鉄系の焼結合金等によって形成された複数のすり板片を、まくらぎ方向に沿って連結し、配列して構成されている。
すり板体140の上部には、トロリ線Tとしゅう動するしゅう動面141が設けられている。
【0022】
上述したようなパンタグラフ100において、すり板体140、舟体130の異常振動のメカニズムは、以下のように考えられる。
上述した構造のパンタグラフ100は、すり板体140のレール方向に沿った軸回りに関するたわみを許容するために、すり板体140の両端が、舟体130へ、ピン132を介してピン結合される。
このピン結合部には、間隙があるため、すり板体140は、まくらぎ方向に沿った軸回りに回動するピッチング挙動の自由度を有する。
【0023】
トロリ線Tとすり板体140のしゅう動面141とがしゅう動することで、両者の間に摩擦力が作用し、これによってすり板体140にピッチング方向の揺動挙動(ピッチング振動)が生じる。
摩擦力が比較的小さい場合には、実質的にすり板体140のピッチング振動が発生するだけだが、摩擦力が比較的大きくなると、ピン結合部の間隙がなくなり、摩擦力がピン132を介して舟体130、枠組120へ伝達される。
これによって、枠組120に振動が発生し、舟体130、すり板体140も上下に振動し、振動が増大してしまう。
【0024】
したがって、ピッチング振動を初期に検出することは、異常振動防止の観点から重要である。
これらのピッチング方向に発生する振動を、検知対象とする異常振動と定義する。
本実施形態では、すり板体140の複数箇所で測定した加速度に基づいて、すり板体140のピッチング振動(特に異常振動)を推定する。
すり板体140が剛体運動をするものと仮定した場合に、すり板体140上の任意の点iにおける運動と、重心における運動との関係は、次式で表される。

【数1】
【0025】
ただし、x,y,z,θxi,θyi,θziは、それぞれ剛体上の任意の点iにおけるx, y, z方向の並進加速度および角加速度を表す。
また、x,y,z,θ,θ,θは、それぞれ重心におけるx, y, z方向の並進加速度および角加速度を表す。
また、x,y,zはそれぞれ、剛体の重心を原点とした点iのx, y, z座標を表す。
すり板体140上で測定された加速度と、測定点の座標から、式1に基づいて、最小二乗法を適用することにより、すり板体140の重心位置CGにおける加速度を推定することができる。
【0026】
以下、実施形態の集電装置のピッチング振動検知装置、及び、ピッチング振動検知方法を用いたパンタグラフの異常振動検知を検証するために、定置式のパンタグラフ試験装置を用いた試験を行った。
本試験では、パンタグラフ試験装置として、台上に設置されたパンタグラフのすり板の上部に、円盤に取り付けられた環状の模擬トロリ線をしゅう動させるものを用いる。
図3は、実施形態において用いられるパンタグラフ試験装置の構成を模式的に示す図である。
パンタグラフ試験装置200は、パンタグラフ100の台上試験(ベンチテスト)に際し、模擬的なトロリ線をすり板体140に対して当接させ、しゅう動させることにより、パンタグラフ100のすり板体140との間に前後方向の摩擦力を発生させるものである。
パンタグラフ試験装置200は、回転円盤210、主軸220、駆動装置230等を有して構成されている。
【0027】
回転円盤210は、例えば、鉛直方向に沿った中心軸方向を有する円盤状に形成されている。
回転円盤210の外周縁部には、模擬トロリ線211が設けられている。
模擬トロリ線211は、回転円盤210の周方向に延在する環状の部材である。
模擬トロリ線211は、実際のトロリ線Tと同様の材料によって形成されている。
模擬トロリ線211は、下端部において、パンタグラフ100のすり板体140のしゅう動面141と当接する。
模擬トロリ線211のすり板体140との当接箇所近傍を、回転円盤210の中心軸を含む平面で切って見た断面形状は、実際のトロリ線Tの下部の横断面形状と同様となるように形成されている。
実施形態のパンタグラフ試験装置においては、回転円盤210を中心軸回りに回転させることにより、実際の鉄道線区においてすり板体140とトロリ線Tとがしゅう動して走行する状態を再現可能となっている。
【0028】
主軸220は、回転円盤210を回転可能に支持する回転軸である。
主軸220は、回転円盤210から下方に突出して設けられている。
主軸220の下端部は、駆動装置230によって支持されている。
駆動装置230は、主軸220を介して、回転円盤210をその中心軸回りに回転するよう回転駆動するものである。
また、駆動装置230は、回転円盤210を、パンタグラフ100の台枠110に対して、上下方向及びまくらぎ方向(車両の幅方向・舟体130の長手方向)に相対変位させる機能を有する。
【0029】
以下、実施形態の集電装置のピッチング振動検知装置の構成について説明する。
実施形態のピッチング振動検知装置は、すり板体140に取り付けられた複数の加速度センサの出力を用いて、すり板体140のピッチング振動を算出する。
図4は、実施形態におけるすり板体への加速度センサの配置を示す図である。
図4(a)は、すり板体140を上方から見た平面視図である。
図4(b)は、すり板体140を車両前後方向から見た図(図4(a)のb-b部矢視図)である。
図4(c)は、すり板体140を長手方向(まくらぎ方向)から見た図(図4(a)のc-c部矢視図)である。
実施形態のピッチング振動検知装置は、すり板体140に取り付けられた複数の加速度センサS01,S02,S03,S04,S05,S06と、各加速度センサの出力に基づいて、すり板体のピッチング方向の角加速度を推定する振動推定演算部300とを有する。
【0030】
加速度センサS01,S02,S03,S04,S05,S06は、例えば、単軸のひずみゲージ式加速度センサである。
なお、図4において、各加速度センサS01~S06の検出軸方向を破線矢印で図示している。
加速度センサS01,S02は、すり板体140の上面部であるしゅう動面141に取り付けられている。
加速度センサS01,S02は、すり板体140の長手方向における一方側(例えば主ばね側)、他方側(例えば下げシリンダ側)の端部近傍に、それぞれ設けられている。
加速度センサS01は、車両前後方向における一方側の端面に隣接して配置されている。
加速度センサS02は、車両前後方向における他方側(加速度センサS01と反対側)の端面に隣接して配置されている。
加速度センサS01、S02は、検出軸方向が車両前後方向に沿うように配置されている。
【0031】
加速度センサS03、S04は、すり板体140の車両前後方向における一方側(加速度センサS01が隣接する側)の端面に取り付けられている。
加速度センサS05、S06は、すり板体140の車両前後方向における他方側(加速度センサS02が隣接する側)の端面に取り付けられている。
加速度センサS03、S05は、まくらぎ方向(すり板体140の長手方向)における位置が、加速度センサS01と一致するよう配置されている。
加速度センサS04、S06は、まくらぎ方向における位置が、加速度センサS02と一致するよう配置されている。
加速度センサS03、S04、S05、S06は、検出軸方向が上下方向に沿うように配置されている。
また、各加速度センサS01~S06の検出軸は、図4(c)に示すようにまくらぎ方向から見た場合に、すり板体140の重心CGに対してオフセットして配置されている。
なお、以上説明した各センサS01~S06の検出軸方向は、すり板体140のしゅう動面141が水平な状態を基準とする。
【0032】
実施形態の集電装置のピッチング振動検知装置においては、上述した加速度センサS01~S06の出力に基づいて、上述した式1を用いて、すり板体140のピッチング方向の角加速度を算出(推定)する加速度算出部300が設けられる。
加速度算出部300は、例えば、各加速度センサS01~S06の出力をA/D変換するA/D変換器、デジタル化された各加速度センサS01~S06の出力を処理するCPU等の情報処理部、ROMやRAMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するコンピュータとして構成することができる。
加速度の算出は、例えば、加速度算出部300を車両に搭載し、リアルタイムで行ってもよい。
また、例えば車上では各加速度センサの出力履歴の記録のみを行い、加速度の算出は例えば地上などに設けた加速度算出部300で別途行ってもよい。
【0033】
本試験では、円盤を周速4km/hで回転させながら、すり板体140と模擬トロリ線とをしゅう動させた。
加速度センサS01~S06をすり板体140に取り付けたパンタグラフ100をパンタグラフ試験装置200に取り付け、しゅう動状態における加速度を測定した。
このとき、試験は以下の2条件により行った。
図5は、しゅう動試験における舟体の角度を模式的に示す図である。
しゅう動試験は、すり板体140が模擬トロリ線211に対してなす角度(迎え角)を2水準に異ならせて行った。
図5(a)は、すり板体140と模擬トロリ線211との間の摩擦係数を高めるため、円盤210の回転方向に対して、舟体130が頭上げ1°となるようにした状態を示す。
図5(b)は、すり板体140と模擬トロリ線211との間の摩擦係数を低くするため、舟体130が頭下げ1°となるようにした状態を示す。
【0034】
はじめに、6個の加速度センサS01~S06の全てを用いてピッチング振動を推定した。
図6は、6個の加速度センサから推定されたピッチング振動の角加速度を示す図であって、すり板体の迎え角が頭上げ1°の状態を示す図である。
図7は、6個の加速度センサから推定されたピッチング振動の角加速度を示す図であって、すり板体の迎え角が頭下げ1°の状態を示す図である。
図6図7において、横軸は時間を示し、すり板体のピッチング方向(まくらぎ方向に沿った軸回り回動方向)の角加速度を示している。
いずれの条件においても、すり板体140のピッチング振動を検知できていることがわかる。
【0035】
次に、図4に示す加速度センサS04、S06のみを用いて、ピッチング振動の推定を行った結果について説明する。
図8は、加速度センサの個数によるピッチング振動の推定結果を比較する図である。
図8において、横軸は時間を示し、縦軸は舟体頭上げ1°でのピッチング加速度を示している。
また、加速度センサ6個を用いて推定した結果を実線で示し、加速度センサ2個を用いて推定した結果を破線で示す。
【0036】
図8に示すように、加速度センサ2個を用いた推定においても、6個を用いた推定と同等の結果が得られていることがわかる。
なお、同様のピッチング振動の検知は、例えば、前後方向の加速度を検出する加速度センサS01又はS02と、上下方向の加速度を検出する加速度センサS03~S06のいずれか1つの2個の加速度センサにおいても可能である。
また、例えば、すり板体140の上下面にそれぞれ前後方向の加速度を検出する加速度センサを設けて、これら2個の加速度センサを用いてもピッチング振動の検知は可能である。
【0037】
図9は、実施形態の手法によって推定されたすり板体のピッチング方向の角加速度と舟体の上下加速度を示す図である。
図9において、横軸は時間を示し、縦軸はすり板体140のピッチング方向の角加速度、及び、舟体130の上下加速度を示している。
すり板体140のピッチング方向の角加速度は、上述した本実施形態の手法により推定したものである。
舟体130の上下加速度は、舟体130に図示しない加速度センサを取り付けて測定したものである。
【0038】
図9に示す例においては、試験開始後4秒を経過した頃から、すり板体140のピッチング振動が増大し、ほぼ同時期から模擬トロリ線211とすり板体140とが離線、衝突を繰り返すことによる著大な加速度が舟体130の上下方向に生じていることがわかる。
このことから、実施形態の手法によりすり板体140のピッチング方向の振動を初期に検知することができれば、著大な振動の発生を未然に防止する措置をとることができ、鉄道車両の運行の安定化、低コスト化に寄与することができる。
【0039】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)すり板体140に複数の加速度センサS01~S06を設け、各加速度センサS01~S06の出力に基づいてピッチング方向の角加速度を算出することにより、簡単な装置構成により精度よくピッチング振動の検出を行うことができる。
また、このように算出されたピッチング方向の加速度には、すり板体140や舟体130の並進方向の加速度が重畳され難く、パンタグラフ100の集電性能を損なうおそれのある異常振動の検出に適する。
(2)複数の加速度センサは、すり板体140の前後方向加速度を検出する加速度センサS01、S02と、上下方向加速度を検出する加速度センサS03~S06とを含むことにより、すり板体140の前後方向加速度、上下方向加速度に基づいて、これらのうち最低限一対の加速度センサにより適切にピッチング振動を検出することができる。
(3)複数の加速度センサは、すり板体140の上下方向加速度を検出する加速度センサS03、S04と、すり板体140の上下方向加速度を検出するとともにまくらぎ方向から見たときの検出軸が加速度センサS03、S04の検出軸に対してずらして配置された加速度センサS05,S06とを含むことにより、すり板体140の異なった位置における上下方向加速度に基づいて、最低限一対の加速度センサにより適切にピッチング振動を検出することができる。
(4)加速度算出部300は、すり板体140の複数箇所で測定した加速度に基づいて、すり板体140が剛体運動をするものと仮定した場合の加速度検出箇所における運動と重心における運動との関係式からピッチング方向の加速度を算出することにより、各加速度センサS01~S06の出力に基づいて、適切にピッチング振動を検出することができる。
(5)加速度センサS01~S06を、ひずみゲージ式加速度センサとしたことにより、パンタグラフ100、トロリ線Tなどから発せられる電気的なノイズへの耐性を確保し、ピッチング振動検知装置の信頼性、耐久性を確保することができる。
【0040】
(他の実施形態)
なお、本発明は上述した各実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
(1)本発明の適用対象となる集電装置は、実施形態で一例として説明したようなシングルアームパンタグラフに限らず、例えば菱形や下枠交差型など異なった構成の枠体を有する各種パンタグラフ等の集電装置であってもよい。
(2)実施形態では、すり板体に加速度センサを取り付けてすり板体のピッチング振動を推定しているが、例えば舟体とすり板体とが一体の剛体とみなせる程度に強固に結合されている場合には、一部又は全部の加速度センサを舟体に取り付け、舟体のピッチング振動を推定するようにしてもよい。
(3)複数の加速度センサの配置は、実施形態の構成に限らず、適宜変更することができる。
この場合、少なくとも一対の加速度センサが前後方向又は上下方向の成分を有する加速度を検出するとともに、これら一対の加速度センサがまくらぎ方向から見たときに検出軸が一致しないよう配置すればよい。
例えば、まくらぎ方向から見たときに検出軸が異なった方向(典型的には前後方向と上下方向)に配置される構成や、検出軸が平行かつオフセットして配置される構成とすることができる。
また、加速度センサの個数も、実施例における2個、6個の構成に特に限定されず、例えば6個以上あるいは3乃至5個の加速度センサを用いてもよい。
(4)実施形態では、加速度センサは一例として単軸のひずみゲージ式の加速度センサであったが、加速度センサの種類はこれに限らず適宜変更することができる。
また、二軸以上の複数軸の加速度センサをユニット化したものを用いることもできる。
例えば、単一のユニットにより、上下方向及び前後方向などのように、異なった方向の加速度を検出することもできる。
【符号の説明】
【0041】
100 パンタグラフ 110 台枠
120 枠組 121 上枠
122 下枠 123 釣合ロッド
130 舟体 131 支柱
132 ピン 132 補助すり板
134 補助すり板支持部 135 ホーン
140 すり板体 141 しゅう動面
200 パンタグラフ試験装置
210 回転円盤 211 模擬トロリ線
220 主軸 230 駆動装置
S01~S06 加速度センサ
300 加速度算出部
T トロリ線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9