(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075534
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20230101AFI20230524BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20230524BHJP
C02F 1/64 20230101ALI20230524BHJP
【FI】
C02F1/52
C02F1/52 J
C02F1/52 K
C02F1/58 M
C02F1/64 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188497
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優
【テーマコード(参考)】
4D015
4D038
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BA25
4D015BB05
4D015CA17
4D015CA18
4D015EA13
4D015EA16
4D015EA32
4D015FA01
4D015FA11
4D038AA08
4D038AB41
4D038AB43
4D038AB60
4D038AB65
4D038AB66
4D038AB67
4D038AB68
4D038AB69
4D038AB74
4D038AB79
4D038BA02
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB13
4D038BB18
(57)【要約】
【課題】改質槽への汚泥返送量を適正なものとし、処理水質や排出汚泥性状を常に良好にすることができる排水の処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】原水を反応槽2に導入し、改質槽8からの消石灰添加返送汚泥と混合した後、凝集槽3で高分子凝集剤を添加して凝集処理する。凝集処理液を沈殿槽4に導入して汚泥を分離する。汚泥の一部を汚泥返送ライン7で改質槽8に導入する。前記原水の流量aと、前記返送汚泥の濃度bと、原水発生SS濃度cと、汚泥返送比Rとに基づいて返送汚泥の目標流量を設定し、この目標流量となるように汚泥返送量を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水排出源からの原水にアルカリ剤添加返送汚泥を添加して反応させ、次いで凝集処理した後、固液分離処理して汚泥を処理水から分離し、
分離した汚泥の一部を返送汚泥とし、この返送汚泥を改質槽に導入して前記アルカリ剤を添加して前記原水に添加し、
汚泥の残部を引き抜き汚泥として排出する排水の処理方法において、
前記原水の流量aと、前記返送汚泥の濃度bと、原水発生SS濃度cと、汚泥返送比Rとに基づいて返送汚泥の目標流量を設定し、この目標流量となるように汚泥返送量を制御することを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
前記原水はフッ素含有排水であり、前記アルカリ剤は消石灰であり、前記原水発生SS濃度cを原水フッ素濃度×(フッ化カルシウムの分子量)/(F2の分子量)とする、請求項1の排水の処理方法。
【請求項3】
前記原水はFe3+含有排水であり、前記アルカリ剤は消石灰であり、前記原水発生SS濃度cを原水Fe3+濃度×(Fe(OH)3の分子量)/(Feの原子量)とする、請求項1の排水の処理方法。
【請求項4】
前記Rは、前記排出源について得られている経験値である、請求項1~3のいずれかの排水の処理方法。
【請求項5】
前記返送汚泥の目標流量を(a・c・R)/bとする、請求項4の排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を凝集及び固液分離処理する排水の処理方法に係り、特に凝集汚泥の一部を反応槽に返送すると共に、この返送汚泥に消石灰等のアルカリ剤を添加するようにした排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水を凝集及び固液分離処理して、濃縮性に富み、脱水性に優れた高濃度汚泥を得る方法として、アルカリ汚泥法等の高密度汚泥法(HDS法:High Density Sludge)が知られている。アルカリ汚泥法では、凝集処理の後段の固液分離処理で分離されて返送される汚泥の一部に消石灰(Ca(OH)2)等のアルカリを添加する。
【0003】
図2は、従来の高密度凝集汚泥処理法の代表的な装置を示す系統図であり、原水はpH調整槽1にてpH調整剤が添加されてpH2.5~3.0程度に調整された後、反応槽2に導入され、後述の改質槽8から導入される改質汚泥と混合され、反応する。この反応液は、次いで凝集槽3に送給され、高分子凝集剤添加手段3aにより高分子凝集剤が添加されて凝集処理された後、沈殿槽4で固液分離される。沈殿槽4の上澄水は処理水として系外へ排出される。沈殿槽4からポンプ5により引き抜かれた分離汚泥の一部は汚泥返送ライン7により改質槽8に返送され、残部は排出ライン6により系外へ排出される。
【0004】
改質槽8では、アルカリ剤添加手段としての消石灰添加手段9により供給される消石灰の溶解/分散液(消石灰の一部は溶解し、残部は分散している液)と返送汚泥とが混合される。この混合液(改質汚泥)は反応槽2に供給される。この反応槽2における反応は所定のpH範囲(例えば6~11、特に6~8)で行うのが好ましく、このようなpH範囲となるように、反応槽2に設けられたpH計2aの検出pHに基づいて改質槽8に供給される消石灰の量が調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-7879号公報
【特許文献2】特開2003-71469号公報
【特許文献3】特開2013-208599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
改質槽8への汚泥の返送量が適正量よりも少ないと、沈殿槽4で沈殿した汚泥の粘性が高くなり、運転トラブルが生じるおそれがある。
【0007】
逆に、改質槽8への汚泥の返送量が適正量よりもが多いと、沈殿槽4の上澄水中の微粒子SS(懸濁物質)が増加し、処理水にリークするおそれがある。
【0008】
本発明は、改質槽への汚泥返送量を適正量とすることができる排水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の排水の処理方法は次を要旨とする。
【0010】
[1] 排水排出源からの原水にアルカリ剤添加返送汚泥を添加して反応させ、次いで凝集処理した後、固液分離処理して汚泥を処理水から分離し、
分離した汚泥の一部を返送汚泥とし、この返送汚泥を改質槽に導入して前記アルカリ剤を添加して前記原水に添加し、
汚泥の残部を引き抜き汚泥として排出する排水の処理方法において、
前記原水の流量aと、前記返送汚泥の濃度bと、原水発生SS濃度cと、汚泥返送比Rとに基づいて返送汚泥の目標流量を設定し、この目標流量となるように汚泥返送量を制御することを特徴とする排水の処理方法。
【0011】
[2] 前記原水はフッ素含有排水であり、前記アルカリ剤は消石灰であり、前記原水発生SS濃度cを原水フッ素濃度×(フッ化カルシウムの分子量)/(F2の分子量)とする、[1]の排水の処理方法。
【0012】
[3] 前記原水はFe3+含有排水であり、前記アルカリ剤は消石灰であり、前記原水発生SS濃度cを原水Fe3+濃度×(Fe(OH)3の分子量)/(Feの原子量)とする、[1]の排水の処理方法。
【0013】
[4] 前記Rは、前記排出源について得られている経験値である、[1]~[3]のいずれかの排水の処理方法。
【0014】
[5] 前記返送汚泥の目標流量を(a・c・R)/bとする、[4]の排水の処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排水の処理方法によると、固液分離手段からの改質槽への汚泥返送量が適正量となるので、処理水質及び汚泥性状が常に良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に係る排水の処理方法を説明するためのフロー図である。
【
図2】従来例に係る排水の処理方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る排水の処理方法が適用された排水処理設備のフロー図である。なお、
図2と同一部分には同一符号を付してある。
【0018】
この実施の形態においても、
図2と同様に、原水はpH調整槽1にてpH調整剤が添加されてpH2.5~3.5程度に調整された後、反応槽2に導入され、改質槽8から導入される改質汚泥と混合され、反応する。この反応液は、次いで凝集槽3に送給され、高分子凝集剤添加手段3aにより高分子凝集剤が添加されて凝集処理された後、沈殿槽4で固液分離される。沈殿槽4の上澄水は処理水として系外へ排出される。沈殿槽4からポンプ5により引き抜かれた分離汚泥の一部は汚泥返送ライン7により改質槽8に返送され、残部は排出ライン6により系外へ排出される。
【0019】
改質槽8では、アルカリ剤添加手段としての消石灰添加手段9により供給される消石灰の溶解/分散液と返送汚泥とが混合される。この混合液(改質汚泥)は反応槽2に供給される。この反応槽2における反応は所定のpH範囲(例えば6~11、特に6~8)で行うのが好ましく、このようなpH範囲となるように、反応槽2に設けられたpH計2aの検出pHに基づいて改質槽8に供給される消石灰の量が調節される。
【0020】
汚泥排出ライン6及び汚泥返送ライン7には流量調整バルブ12が設けられている。流量調整バルブ12を制御手段(図示略)によって開度調整することにより、改質槽8への汚泥返送量が制御される。
【0021】
この実施の形態においては、pH調整槽1に流入する原水流量を測定するように流量計10が設けられている。また、汚泥返送ライン7に、流量計13と返送汚泥のSS濃度を測定するSS計14とが設けられている。これらの流量計10,13及びSS計14の検出信号が制御装置15に入力され、制御装置15によってバルブ12の開度が制御される。
【0022】
この制御装置15は、流量計13で検出される汚泥返送流量Qが
Q=(a・c・R)/b
(ただし、a:流量計10による原水流量(m3/hr)
c:原水発生SS濃度(mg/L)
R:定数
b:SS計14による汚泥濃度(mg/L=10-3kg/m3)
となるようにバルブ12を制御する。
【0023】
なお、原水発生SS濃度cは、単位時間(hr)当りにpH調整槽1に流入した原水中の処理対象元素の全量L(kg/hr)に対する、この原水中の処理対象元素の全量が沈殿物になったときの固形物量P(kg/hr)の比P/Lと原水濃度(フッ素または
Fe3+の濃度)との積である。
【0024】
処理対象元素(イオン)がF-の場合、生成する沈殿物はCaF2である。F2、CaF2の分子量は、38,78であるので、流入F-量がF2として1(kg/hr)の場合、生成固形物量は1×(78/38)(kg/hr)であり、原水のフッ素濃度が100(mg/L)とすると、c=100×78/38=205(mg/L)となる。
【0025】
処理対象元素(イオン)がFe3+の場合、生成する沈殿物はFe(OH)3である。Feの原子量は55.85、Fe(OH)3の分子量は106.85であるので、流入Fe量がFeとして1(kg/hr)の場合、生成固形物量は1×(106.85/55.85)(kg/hr)であり、原水のFe3+濃度が100(mg/L)とすると、c=100×106.85/55.85=191(mg/L)となる。
【0026】
原水中の処理対象イオン(例えばF-又はFe3+)の種類及び濃度は一定であり、原水の流量が経時的に変化する場合は、原水流量aに基づいて、沈殿槽4における単位時間当りの生成固形物量Wはa・c(10-3kg/hr=m3/hr×10-3kg/m3)として算出される。
【0027】
沈殿槽4で単位時間当りに生成する固形物量a・cのうちどれ位を改質槽8に返送すればよいかは、
図1に示す排水処理装置が設置された現場毎に経験的に分かっているので、この経験値をRとする。(例えば、生成汚泥の10~80倍を返送するのが適正であると分かっている排水処理装置の場合、Rは10~80として設定される。)
【0028】
従って、汚泥返送ライン7を介して改質槽8に送られる単位時間当りの汚泥(固形物)返送量W(10-3kg/hr)をW=[単位時間当りの汚泥(固形物)生成量]・R=a・c・Rとすることにより、適正な処理が行われる。
【0029】
単位時間当りの固形物返送量W=a・c・R(10-3kg/hr)は、汚泥スラリー流量としては、Wをスラリー濃度b(mg/L=10-3kg/m3)で除算したW/b=(a・c・R)/bとなる。従って、流量計13の検出流量が(a・c・R)/bとなるようにバルブ12を制御することにより、常に適正な処理が行われる。
【0030】
本発明で処理対象とする原水としては、フッ素含有排水、リン含有排水、鉄、亜鉛、銅、クロム、ニッケル、鉛、またはアルミニウムなどの重金属含有排水が例示されるが、これらに限定されない。
【0031】
上記実施の形態では、改質槽8にアルカリ剤として消石灰を添加しているが、これに限定されるものではなく、特に重金属含有排水の場合、苛性ソーダなどであってもよい。
【0032】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の態様とされてもよい。例えば、バルブ12の開度を制御することにより、汚泥返送量を制御してもよい。また、バルブ12の開度調節だけでなく、汚泥返送ライン7に汚泥返送ポンプを設け、この汚泥返送ポンプをインバータ制御して汚泥返送量を制御してもよい。
【符号の説明】
【0033】
2 反応槽
3 凝集反応槽
4 沈殿槽
8 改質槽
9 消石灰添加手段
10,13 流量計
14 SS計
15 制御装置