(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075561
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】抗ウイルス性板紙
(51)【国際特許分類】
D21H 21/36 20060101AFI20230524BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
D21H21/36
D21H27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188536
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】松野 祐也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎吾
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG03
4L055AH21
4L055AH50
4L055BD16
4L055EA04
4L055EA14
4L055EA32
4L055EA40
4L055GA26
4L055GA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、優れた抗ウイルス活性を備えた板紙を提供することである。
【解決手段】本発明によって、セルロース繊維を含有する抗ウイルス性板紙が提供される。本発明に係る抗ウイルス性板紙は、JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に基づいて測定したインフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の紙層を有する抗ウイルス性板紙であって、
板紙の表層の少なくとも1つが、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Znからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属イオンおよび/または金属粒子を含有するセルロース繊維をその紙層中に2.0%以上含んでなり、
JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に基づいて測定したインフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上である、上記抗ウイルス性板紙。
【請求項2】
前記セルロース繊維が、抗ウイルス性板紙中に0.3~2.0%含まれている、請求項1に記載の抗ウイルス性板紙。
【請求項3】
前記セルロース繊維がCuおよび/またはAgを含有する、請求項1または2に記載の抗ウイルス性板紙。
【請求項4】
前記セルロース繊維がCuを含有する、請求項1~3のいずれかに記載の抗ウイルス性板紙。
【請求項5】
インフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が3.0以上である、請求項1~4のいずれかに記載の抗ウイルス性板紙。
【請求項6】
前記板紙が、金属イオンおよび/または金属粒子を含有するセルロース繊維を含まない紙層を有する、請求項1~5のいずれかに記載の抗ウイルス性板紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性板紙に関する。より具体的には、複数の紙層を有する抗ウイルス性板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状の基材に機能性付与剤を付与した機能性シートは、さまざまな産業分野において使用されている。機能の例としては、一般に、消臭、抗菌、耐熱、耐湿、耐候、耐溶剤、耐磨耗、電磁波遮断等を挙げることができ、用途の例としては、包装材料(紙器、段ボール、樹脂フィルム等)、建材(壁紙、化粧紙、敷紙等)、生活用品(脱臭材、芳香材)、工業用品(フィルター、ワイパー等)、医療品(マスク等)、衣類、その他紙製品(カレンダー等)等がある。中でも消臭、抗菌機能は、多くの産業分野で必要とされることが多い。
【0003】
機能性シートに求められる性能としては、上記機能のほか、シートの力学特性として、引張強さ、引裂強さ、破裂強さ、および必要に応じ通気性や印刷適性等が求められる。
シート状の基材に消臭・抗菌機能を付与するために、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1及び2では、ゼオライトの構成成分であるケイ素化合物又はアルミニウム化合物のどちらか一方の水溶液を、セルロース繊維等の親水性高分子基材に含浸させ、塩基性物質と他方の水溶液を混合し、これを更に含浸させて、セルロース繊維の内部にゼオライトを担持させた無機多孔結晶-親水性高分子複合体が提案されており、さらに該ゼオライトに金属を担持することにより、抗菌効果や脱臭効果を付与することができることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、ケイ素化合物及び塩基性物質含有水溶液と、アルミニウム化合物及び塩基性物質含有水溶液とを繊維構造物に含浸させた後、湿熱加熱してセルロース繊維内部でケイ素化合物とアルミニウム化合物とを反応させてシリカ・アルミナ多孔体であるゼオライトを生成させるセルロース繊維構造物が開示されている。さらに、このシリカ・アルミナ多孔体中に金属イオンを導入することにより、抗菌性、防かび性を付与することができることが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4では、銀ゼオライトと銀燐酸ジルコニウムと銀燐酸カルシウムと銀溶解性ガラスより選ばれた一種または二種以上の銀系抗菌剤を含有する抗菌性セルロ-ス繊維が開示されている。
【0006】
さらにまた、特許文献5には、脱臭性等を有する機能性シート用の紙基材が開示されており、紙基材に、カルボキシル基の量が酸化パルプの絶乾重量に対して1.0~2.0mmol/gである酸化パルプを含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-120923号公報
【特許文献2】特開平11-315492号公報
【特許文献3】特開2008-031591号公報
【特許文献4】特開平11-107033号公報
【特許文献5】国際公開2014/097929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4などに記載されているものは、セルロース繊維と金属成分を含む無機化合物の単なる混合体であり、セルロース繊維と金属成分を含む無機化合物とが化学的に強固に結合しているわけではない。すなわち、金属成分を含む無機化合物は繊維のように物理的、化学的なネットワークを形成しないため、これを用いて機能性シートを製造した場合、引張強さや引裂強さなど、基材としての力学特性が低下するほか、金属成分を含む無機化合物が基材から脱落する問題がある。
【0009】
また、従来の機能性シートは、高湿度環境下に置かれたり、湿潤したりした場合に、抗ウイルス機能などが低下する問題がある。ここで湿潤時とは、例えば、不織布の乾燥後の一定質量に対して質量比で100%以上の水分を含んだ状態をいう。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明は、優れた抗ウイルス活性を備えた抗ウイルス性の板紙を提供することである
【課題を解決するための手段】
【0011】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 複数の紙層を有する抗ウイルス性板紙であって、板紙の表層の少なくとも1つが、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Znからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属イオンおよび/または金属粒子を含有するセルロース繊維をその紙層中に2.0%以上含んでなり、JIS L 1922:2016(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に基づいて測定したインフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上である、上記抗ウイルス性板紙。
[2] 前記セルロース繊維が、抗ウイルス性板紙中に0.30~2%含まれている、[1]に記載の抗ウイルス性板紙。
[3] 前記セルロース繊維がCuおよび/またはAgを含有する、[1]または[2]のいずれかに記載の抗ウイルス性板紙。
[4] 前記セルロース繊維がCuを含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の抗ウイルス性板紙。
[5] インフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が3.0以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗ウイルス性板紙。
[6] 前記板紙が、金属イオンおよび/または金属粒子を含有するセルロース繊維を含まない紙層を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の抗ウイルス性板紙。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた抗ウイルス性を有する板紙が提供される。本発明に係る抗ウイルス性板紙は、抗ウイルス活性などに寄与する機能性成分がしっかりと定着したセルロース繊維を含むため、抗ウイルス活性などの機能が十分に発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、抗ウイルス性板紙に関しており、複数の紙層を含んで構成される。本発明に係る抗ウイルス性板紙は、JIS L 1922:2016 繊維製品の抗ウイルス性試験方法において、インフルエンザウイルスまたはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス活性値(Mv)が2.0以上であり、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属イオン及び/または金属粒子を含有する金属含有セルロース繊維を含む。
【0014】
本発明における抗ウイルス性板紙は、複数の紙層が積層された多層構造となっており、例えば、2層以上10層以下であることが好ましく、3層以上9層以下であることがより好ましい。多層構造の場合、少なくとも1層以上が、前記金属含有セルロース繊維を含む必要がある。本発明の抗ウイルス性板紙は、3層以上の紙層を含むものであってもよい。この時、内層が金属含有セルロース繊維を含有してもよいが、内層以外の外層が金属含有セルロース繊維を含むことが好ましい。
【0015】
抗ウイルス性板紙の坪量は、特に限定されないが、50~1000g/m2の範囲であることが好ましく、100~500g/m2や150~300g/m2の範囲であることがより好ましい。各層の坪量は10g/m2以上であることが、均一かつ製造時の取り扱いにおいて最低限の強度を持つ板紙を製造する点から好ましく、15~200g/m2や20~100g/m2の範囲であることがより好ましい。なお、本発明における抗ウイルス性板紙の坪量は、0.05m2以上の面積のサンプルを105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその質量を測定し、1m2当たりの質量(g)を算出すればよい。
【0016】
抗ウイルス性板紙の厚さは、特に限定されないが、例えば、100~1500μmの範囲であることが好ましく、140~1000g/m2や180~500μmの範囲であることがより好ましい。抗ウイルス性板紙を構成する各層の厚さは、均一な板紙を製造する観点から、20~500μmの範囲であることが好ましく、30~100μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の抗ウイルス性板紙は、通常の板紙と同様に抄紙することで製造できる。すなわち、金属含有セルロース繊維を混合したパルプスラリー(紙料)から、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網式抄紙機等の公知の抄紙機を用いて抄紙すればよく、その抄紙条件は限定されない。
【0018】
本発明に係る抗ウイルス性板紙は、セルロース繊維であるパルプを用いて抄紙することができる。金属含有セルロース繊維ではないセルロース繊維(一般セルロース繊維ともいう)としては、例えば、木材パルプ;竹、綿、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば、アセトバクターなど酢酸菌)生産物などの非木材パルプ;、再生セルロース、レーヨン等を例示できる。一般セルロース繊維としては木材パルプが好ましく、1種又は2種類以上の一般セルロース繊維を混合して使用することができる。抗ウイルス性板紙中の一般セルロース繊維の含有量が99質量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明に用いる製紙用パルプとしては、例えば、脱墨パルプ(DIP)、針葉樹または広葉樹クラフトパルプ(NKPまたはLKP)、針葉樹または広葉樹を用いた機械パルプ、例えば、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等、段ボールを離解した古紙パルプ、塗工紙や塗工原紙、その他の紙を含む損紙を離解してなるコートブローク、及び、これらのパルプの2種以上の混合物を併用して抄紙してもよい。
【0020】
セルロース繊維の数平均繊維径や数平均繊維長は、いずれも特に制限されず、要求される引張強さや引裂き強さ等の力学特性、通気性、風合い等に応じて、任意の値のものを用いることができる。また、数平均繊維径及び数平均繊維長の異なる2種類以上の繊維を、任意の比率で混合して用いてもよい。一つの態様において、天然セルロース繊維の一つである針葉樹クラフトパルプ(NBKP)の場合は、数平均繊維径30~60μm程度、数平均繊維長2~5mm程度、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)の場合、数平均繊維径は10~30μm程度、数平均繊維長は1~2mm程度である。
【0021】
セルロース繊維は、叩解処理を1回以上施されてもよい。ここで叩解処理とは、繊維に対し機械的剪断力を与える処理のことである。叩解処理により、セルロース繊維の一部がフィブリル化又はナノファイバー化し、引張強さ等の力学特性が向上する。一般セルロース繊維のろ水度は、特に制限されず、一般的なろ水度の範囲、例えば5~950mlの範囲から、求める品質に応じて自由に選択することができる。
【0022】
叩解に用いる装置は特に限定されず、公知の装置を任意に用いることができる。叩解装置の例としては、リファイナーやビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、パルプ繊維同士の摩擦によるもの、ならびに高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、各種ミル、石臼型磨砕機等の装置を挙げることができる。
【0023】
本発明においては、紙を抄造する際に薬品を添加してもよい。添加する薬品としては、ロジンエマルションや中性ロジン、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン/アクリル共重合体などのサイズ剤、カチオン性や両イオン性、アニオン性のポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアクリル酸を含む樹脂、グアーガムなどの乾燥紙力増強剤、カチオン性や両イオン性、アニオン性の変性澱粉、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、カルボキシメチルセルロースなどの湿潤紙力増強剤、濾水性向上剤、着色剤、染料、蛍光染料、凝結剤、嵩高剤、歩留剤などが挙げられる。
【0024】
本発明の原紙には、填料が内添されていてもよい。かかる填料としては特に限定されるものではないが、例えば、ケイソウ土、タルク、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、非晶質シリカ、亜硫酸カルシウム、石膏、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、製紙スラッジ、脱墨フロスからの再生無機粒子等の無機填料、尿素―ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、プラスチック微小中空粒子などの有機填料、さらには古紙やブロークに含まれている填料を単独もしくは適宜2種類以上組み合わせて使用される。原紙への上記填料の配合割合(原紙灰分)は、10重量%以上であることが好ましい。
【0025】
本発明において多層板紙を乾燥させる方法は制限されない。例えば、蒸気加熱シリンダ、加熱熱風エアドライヤ、ガスヒータードライヤ、電気ヒータードライヤ、赤外線ヒータードライヤ等各種の方法が単独、もしくは併用して用いられる。
【0026】
本発明の抗ウイルス性板紙は、そのまま使用してもよいし、必要に応じて他の基材とさらに積層したり、エンボス加工やプリーツ加工等の各種加工を施したりした上で、各種用途に対し好適に使用することができる。
【0027】
本発明において抗ウイルス性板紙の用途としては、特に限定されないが、抗ウイルス機能が必要とされる任意の用途に用いることができる。すなわち、抗ウイルス性板紙をそのまま使用するか、必要に応じて各種加工を施した上で、各種用途に使用することができる。例としては、包装材料(紙器、段ボール、樹脂フィルム、包装紙等)、建材(壁紙、化粧紙、敷紙等)、生活用品(パーティション、脱臭材、芳香材、鍋つかみ、使い捨てスリッパ、カーペット基材、靴の中敷き、手提げバッグ、等)、園芸・農業用資材(園芸用シート、農業用シート、苗床用シート、果実袋等)、防災・アウトドア用品(紙製ベッド、紙製テント等)を挙げることができる。
【0028】
金属含有セルロース繊維
本発明の金属含有セルロース繊維は、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属イオン及び/または金属粒子を含有する金属含有セルロース繊維を含む。また、後述するが金属含有セルロース繊維としては金属含有アニオン変性セルロース繊維であることが好ましい。
【0029】
金属含有セルロース繊維は、板紙を構成するすべての紙層に含まれている必要はなく、いずれか1つ以上の紙層に含まれていればよい。好ましい態様において、金属含有セルロース繊維は、板紙の表層のいずれかあるいは両方に含まれていることが好ましい。金属含有セルロース繊維の含有量は、金属含有セルロース繊維を含む紙層において1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上がより好ましい。上記含有量が少なすぎると、十分な抗ウイルス効果を付与することができない場合がある。上記含有量の上限値は特に限定されず、求める抗ウイルス効果の程度に応じて適宜調整できるが、100重量%であってもよく、50重量%以下や30重量%以下であってよい。好ましい態様において、金属含有セルロース繊維の含有量は、金属含有セルロース繊維を含む紙層において1.5~10重量%であり、2.0~8.0重量%や2.5~6.0重量%がより好ましい。
【0030】
金属含有セルロース繊維の含有量は、板紙に対し0.01質量%以上であることが好ましい。上記含有量が少なすぎると、十分な抗ウイルス効果を付与することができない場合がある。上記含有量の上限値は特に限定されず、求める消臭・抗菌・抗ウイルス効果の程度に応じて適宜調整できるが、100質量%であってもよい。好ましい態様において、金属含有セルロース繊維の含有量は、板紙の0.01~30重量%であり、0.1~10重量%がより好ましく、0.2~5.0重量%や0.3~2.0重量%がより好ましい。
【0031】
金属含有セルロース繊維の場合、叩解処理を行うことにより、金属イオン及びまたは金属粒子を担持させた後の抗ウイルス効果などをさらに高めることができる。叩解度合いの指標としては、一般にろ水度(カナダ標準ろ水度:CSF)が用いられる。金属含有セルロース繊維のろ水度は、30~800mlの範囲であることが好ましい。ろ水度が低すぎると、板紙の製造工程における歩留りが低下し、またろ水度が高すぎると、フィブリル化が不十分で、比表面積が低くなる結果、金属イオンの表面への暴露が小さくなるために抗ウイルス効果などが不十分になることがある。
【0032】
金属含有セルロース繊維としては、アニオン基を有するセルロース繊維に金属イオンがイオン結合している金属含有アニオン変性セルロース繊維が好ましい。アニオン変性セルロース繊維としては、例えば、酸化セルロース、エーテル化セルロース(カルボキシメチル化セルロース等)、エステル化セルロース(リン酸エステル化セルロース等)が挙げられる。
【0033】
アニオン基を有するセルロース繊維中のアニオン基量は、カルボキシル基、カルボキシレート基、リン酸基またはスルホン酸基を有する酸化セルロース繊維においては、以下の方法で測定することができる。なお、上記官能基を合わせて「酸基」ともいう。
(アニオン基量) 酸基を有する酸化セルロース繊維試料の0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する。
酸基を有する酸化セルロース繊維のアニオン性基量〔mmol/g〕=a〔ml〕×0.05/酸基を有する酸化セルロース繊維質量〔g〕/x。
x:酸基の価数に相当する値(カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基:1、リン酸基:2)
カルボキシアルキル化処理によるアニオン性基の量を定量する場合、以下の手法を用いる。カルボキシアルキル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシアルキルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシアルキル置換度(DS)を、次式によって算出した:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型アルボキシアルキル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシアルキル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター。
【0034】
上記セルロース繊維のアニオン性基の量は、0.01~3.0mmol/gが好ましい。酸基の量が0.01mmol/g未満であると、後述する金属イオンを担持する工程において、セルロース繊維表面に存在する金属イオンの量が十分でなく、消臭、抗菌、抗ウイルス機能が劣ることがある。一方、酸基の量が3.0mmol/gを超えると、酸化反応時に副反応としてセルロースの切断が起こりやすくなり、収率が低下する。
【0035】
上記金属含有アニオン変性セルロース繊維は、一般セルロース繊維を、以下のように化学変性処理して表面のグルコース単位中にアニオン変性基を導入し、その後にさらに金属イオン及び/または金属粒子を担持させることにより製造することができる。
【0036】
以下、セルロース繊維の表面におけるグルコース単位中にアニオン変性基を導入する方法、及び、その後に金属イオン及び/または金属粒子を担持する方法について、それぞれ説明する。
【0037】
(1)セルロース繊維の変性
セルロースは、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性処理を行うことが可能である。酸化セルロースとは、後述する工程においてセルロース繊維の少なくとも一部に対してカルボキシル基又はカルボキシレート基を導入する変性を行う。
【0038】
ここで、カルボキシル基とは-COOHで表される基をいい、カルボキシレート基とは-COO-で表される基をいう。カルボキシレート基のカウンターイオンは特に限定されない。なお、カルボキシル基またはカルボキシレート基を合わせて「酸基」ともいう。
【0039】
カルボキシル基又はカルボキシレート基を導入する変性の方法としては、変性後のセルロース繊維がカルボキシル基又はカルボキシレート基を含有していれば特に限定されない。
【0040】
(1-1)酸化
本発明において、セルロース繊維を酸化する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。一例としては、N-オキシル化合物、臭化物、ヨウ化物、及びこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で、酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0041】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0042】
N-オキシル化合物の使用量は、セルロース繊維を酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.02~0.5mmolがさらに好ましい。
【0043】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0044】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。特に、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。
【0045】
酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。
【0046】
N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましく、上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0047】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温であってもよい。
【0048】
反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは10~11程度である。
【0049】
通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0050】
酸化における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。
【0051】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0052】
酸化方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0053】
オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。
【0054】
オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100質量%に対し、0.1量部以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。上限は、通常30質量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100質量%に対し、0.1~30質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。
【0055】
オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。
【0056】
オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。
【0057】
オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。対酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0058】
酸化セルロース繊維中に含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0059】
(1-2)エーテル化
エーテル化としては、後工程においてセルロース繊維に金属イオンを導入する都合上、反応後の官能基にカルボキシル基又はカルボキシレート基を含有する方法であればいずれの方法でもよく、公知の方法を用いることができる。例としては、カルボキシメチル(エーテル)化、カルボキシエチル(エーテル)化、カルボキシプロピル(エーテル)化、カルボキシブチル(エーテル)化等のカルボキシアルキルエーテル化や、カルボキシフェニル(エーテル)化を挙げることができる。この中から一例としてカルボキシメチル化の方法を以下に説明する。
【0060】
カルボキシメチル化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通用溶媒を用いる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。
【0061】
混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60質量%以上又は95質量%以下であり、60~95質量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3質量倍である。上限は特に限定されないが20質量倍である。従って、溶媒の量は3~20質量倍であることが好ましい。
【0062】
マーセル化は通常、セルロース原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルがさらに好ましい。
【0063】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0064】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05~10.0倍モルであり、より好ましくは0.5~5であり、更に好ましくは0.8~3倍モルである。
【0065】
反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。
【0066】
カルボキシメチル化反応の間は必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
カルボキシメチル化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカルボキシメチル化セルロース繊維中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30が更に好ましい。
【0067】
カルボキシメチル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法によって行うことができる。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えて得られた硝酸メタノール溶液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F'-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する
1NのNaOH量(mL)
F':0.1NのNaOHのファクター
F:0.1NのH2SO4のファクター
(1-3)エステル化
エステル化としては、アニオン性を有する官能基を導入する方法であればいずれの方法でもよく、公知の方法を用いることができる。例としては、リン酸エステル化、硫酸エステル化を挙げることができる。この中から一例としてリン酸エステル化、硫酸エステル化の方法を以下に説明する。
【0068】
リン酸エステル化セルロースは、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物でリン酸エステル化されたセルロースである。リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステルや塩が挙げられる。これらの化合物は、低コストであり、扱い易い。
【0069】
リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられる。中でも、リン酸エステル化または亜リン酸エステル化の効率が高く、かつ工業的に適用し易いという理由で、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸二水素ナトリウムがより好ましい。リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせて用いてもよい。
【0070】
リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースにおいて、リン酸エステル化セルロース、あるいは亜リン酸エステル化セルロース1g(重量)あたりのリン酸基あるいは亜リン酸基の導入量の下限は、0.1mmоl/g以上が好ましい。3.5mmоl/g超であると、所望の物性が得られない可能性がある。リン酸エステル化セルロース、あるいは亜リン酸エステル化セルロース1g(重量)あたりのリン酸基あるいは亜リン酸基の導入量は、0.1~3.5mmolが好ましい。
【0071】
リン酸エステル化反応、あるいは亜リン酸エステル化反応は、例えば、セルロース原料に対し、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させて行う。セルロース原料とリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させる方法としては、例えば、セルロース原料にリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液を添加する方法が挙げられる。これらの中でも、反応の均一性が高まり、かつリン酸エステル化効率、亜リン酸エステル化効率が高くなるという理由で、セルロース原料又はそのスラリーにリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液を混合する方法が好ましい。リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液のpHは、リン酸基あるいは亜リン酸基の導入の効率を高める観点から、7以下が好ましく、加水分解を抑える観点から、3~7がより好ましい。
【0072】
リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の添加量の下限は、セルロース原料100質量部に対して、リン原子換算で、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースの収率を向上し得る。一方、その上限は、500質量部以下が好ましく、400質量部以下がより好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の添加量に見合った収率を効率よく得ることができる。
【0073】
リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の添加量は、0.2~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましい。
セルロース原料と、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させる際、さらに塩基性化合物を反応系に加えてもよい。塩基性化合物を反応系に加える方法としては、例えば、セルロース原料のスラリー、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液、又はセルロース原料とリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物のスラリーに、添加する方法が挙げられる。塩基性化合物は特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。「塩基性を示す」とは、通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で塩基性化合物の水溶液が桃~赤色を呈すること、または塩基性化合物の水溶液のpHが7より大きいことを意味する。
【0074】
塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。中でも、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンが挙げられる。これらの中でも、低コストで扱いやすいという理由で、尿素が好ましい。
【0075】
塩基性化合物の添加量は、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は、0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常、1~600分程度であり、30~480分が好ましい。反応条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースに過度にリン酸基あるいは亜リン酸基が導入されて溶解し易くなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースの収率を向上し得る。
【0076】
セルロース原料にリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させた後、通常、懸濁液が得られる。懸濁液を必要に応じて脱水する。脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100~170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱することがより好ましい。
【0077】
リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースは、煮沸後、冷水で洗浄する等の洗浄処理を施すことが好ましい。
(1-4)スルホン化
スルホン化セルロースは、硫酸基を有する化合物でスルホン化されたセルロースである。硫酸酸基を有する化合物としては、例えば、硫酸、スルファミン酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、これらのエステルや塩が挙げられる。これらの化合物は、低コストであり、扱い易い。
【0078】
スルホン化試薬としては、スルファミン酸が好ましく用いられる。スルファミン酸は、無水硫酸や硫酸水溶液等に比べてセルロース溶解性が小さいだけでなく、酸性度が低いために重合度の保持が可能である。また、強酸性かつ高腐食性のある無水硫酸や硫酸水溶液に対して、取り扱いに制限がなく、大気汚染防止法の特定物質にも指定されていないため、環境に対する負荷が小さい。
【0079】
スルファミン酸の使用量は、セルロース繊維への置換基の導入量を考慮して適宜調整することができる。スルファミン酸は、例えば、セルロース分子中のグルコース単位1モル当たり、好ましくは0.01~50モル、より好ましは0.1~30モルで使用することができる。
【0080】
(2)金属イオン及び/または金属粒子の担持
セルロース繊維に対し、更にAg、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオン又は粒子を担持させることにより、高い抗ウイルス効果が発現する。特にAg、Cuを用いることにより、抗ウイルス機能がさらに向上する。
【0081】
特にアニオン変性セルロース繊維は、この金属とセルロース繊維が化学的に結合しているため、シート状に抄紙した際に、シートから金属成分が脱離しにくく、また引張強さ等の力学特性も良好である。
【0082】
上記セルロース繊維に対し上記金属イオンを担持する方法としては、特に限定されず、例えば、予め調製した上記セルロース繊維の分散液と金属化合物水溶液を混合してもよく、また上記セルロース繊維を含む分散液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に金属化合物水溶液を滴下して含浸させてもよい。このとき、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。
【0083】
これらの方法により、金属化合物に由来する金属イオンが、カルボキシレート基のようなアニオン変性基と既にイオン結合していたナトリウムイオンと対イオン交換することで、セルロース繊維に対して金属イオンが付加される。この対イオン交換は、金属イオン同士のイオン化傾向の差によって起こると考えられる。
【0084】
ここで金属化合物水溶液とは、金属塩の水溶液である。金属塩の例には、錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩が挙げられる。金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、セルロース繊維1gに対して0.2~2.2mmolが好ましく、0.4~1.8mmolがより好ましい。金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。
【0085】
接触させる際の温度は特に限定されないが、2~50℃の範囲であることが好ましい。また、接触させる際の液のpHは特に限定されないが、pHが低いと、アニオン変性基に金属イオンが結合しにくくなるため、7~13の範囲であることが好ましく、pH8~12の範囲であることが特に好ましい。
【0086】
本発明では、上記のようにセルロース繊維に金属イオンを導入することが可能であるが、金属イオンの一部が還元され金属粒子になっている場合がある。また、必要に応じ、金属イオン担持セルロース繊維に結合した金属イオンの一部を還元剤などの添加により、還元することによって、セルロース繊維の表面上に金属粒子を部分的に形成させることも可能である。
【0087】
ただし、特別な還元処理を行わず、金属化合物の全量を金属のイオンのまま用いることが、抗ウイルス効果の点から好ましい。
上記で得られた金属含有セルロース繊維中の金属化合物を還元することによって金属粒子をセルロース繊維中に生成させる機構は明らかでないが、以下のように推察される。還元反応により金属化合物含有セルロース繊維中の金属化合物または金属化合物由来のイオンは還元されて金属となる。このとき、生成した金属は、セルロース繊維の表面に担持される。同様に生成した近隣の金属同士は一体化するので、粒子が成長してナノ粒子が形成される。一方、セルロース繊維の近傍に存在するもののセルロース繊維と結合せずに存在していた金属化合物等も還元されて金属を生成する。この金属は、速やかにセルロース繊維表面の金属と一体化して金属粒子を形成する。
【0088】
還元反応は、公知の方法で行ってよいが、金属化合物を還元しつつ、金属化合物と酸基との結合を開裂しないように行うことが好ましい。このような還元方法の例には、水素による気相還元法、および水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの還元剤を用いた液相還元法が含まれる。気相還元における時間、温度等の条件は適宜調整されるが、例えば50~60℃で1~3時間程度反応すればよい。気相還元反応は、金属含有セルロース繊維が水や溶媒を含んでいない状態で行うことが好ましい。還元反応においては、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。液相還元の場合は、上記分散液から膜を得て、これを乾燥してあるいは乾燥しないまま還元反応に供することができる。また、分散液を乾燥することなく液相還元反応に供することもできる。液相還元における反応温度は4~40℃が好ましく、室温がより好ましい。
【0089】
セルロース繊維が金属イオンか金属粒子を含有していることは、走査型電子顕微鏡像、及び強酸による抽出液のICP発光分析で確認できる。つまり、金属イオンは走査型電子顕微鏡像では存在を確認できず、一方でICP発光分析では金属を含有していることを確認できる。これに対し、例えば上記金属がイオンから還元されて金属粒子として存在している場合は、走査型電子顕微鏡像で金属粒子を確認することができるので、金属イオンの有無を判定できる。また、走査型電子顕微鏡像とエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピングによっても金属イオンの有無を判定できる。つまり、走査型電子顕微鏡像では金属イオンを確認できないが、元素マッピングをすることで金属イオンが存在することを確認できる。
【0090】
前記金属イオン又は金属粒子を担持する工程において、セルロース繊維に対する金属の含有量は、セルロース繊維に対し10~100mg/gの範囲であることが好ましく、15~80mg/gの範囲であることがさらに好ましく、20~60mg/gの範囲であることが特に好ましい。10mg/gより少ないと、抗ウイルス、消臭、抗菌機能が劣る場合がある。一方、100mg/gを超えると、製造時に金属イオンが溶出し易くなり、排水処理の負荷が大きくなる。
【0091】
本発明における金属含有セルロース繊維は、前記変性処理を行う前から、前記金属担持処理を行った後の間に少なくとも1回以上叩解処理を行ってもよい。ここで叩解処理とは、繊維に機械的剪断力を与える処理のことである。叩解処理により、セルロース繊維の一部がフィブリル化し、表面積が増大することにより、一般的には乾燥時における繊維間結合を強くすることができるほか、比表面積を大きくすることができ、金属イオンを表面に露出させることができるので、本発明においてはさらに抗ウイルス効果、消臭効果や抗菌効果を高めることができる。一方、叩解処理を過剰に行い、セルロース繊維を過度に微細化しすぎると、パルプと配合して製造する際に歩留りが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、金属含有セルロース繊維が有する抗ウイルス効果が低下したりするため好ましくない。叩解度合いの指標としては、ろ水度(CSF)を用いることができる。具体的には、ろ水度が低すぎると歩留りが低くなって板紙の抗ウイルス効果が低下する一方、ろ水度が高すぎるとフィブリル化が不十分で金属含有セルロース繊維の抗ウイルス効果が低下することがある。
【0092】
叩解に用いる装置は特に限定されず、公知の装置を任意に用いることができる。叩解装置の例としては、リファイナーやビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、パルプ繊維同士の摩擦によるもの、並びに高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、各種ミル、石臼型磨砕機等の装置を挙げることができる。
【0093】
また、叩解、または必要に応じて叩解前に行う分散処理に先立って、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理としては、例えば、混合、撹拌、乳化、分散が挙げられ、公知の装置(例、高速せん断ミキサー)を用いて行えばよい。
【0094】
金属イオン含有セルロース繊維をナノファイバー化してもよい。ナノファイバー化した部位では表面積が増大し、抗ウイルス効果、消臭効果、抗菌効果を高めることができる。一方、繊維を完全にナノファイバー化し過ぎると、繊維が完全離解し、パルプと配合して製造する際に歩留りが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、金属イオン含有セルロース繊維が有する効果が低下したりする。ここで、ナノファイバー化とは、金属イオン含有セルロース繊維を繊維径100nm以下まで解繊した繊維にすることをいう。ナノファイバー化するためには、叩解に用いると同様の公知の装置を任意に用いることができる。
【0095】
その他の材料
本発明の抗ウイルス性板紙においては、上記金属含有セルロース繊維、一般セルロース繊維以外に、必要に応じて、他の材料を一種類以上含んでもよい。他の材料の種類としては、特に限定されないが、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤等の安定剤、充填剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの材料の合計含有量は、板紙に対し10質量%を超えない範囲であることが好ましい。
【0096】
安定剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール(BHT)等の老化防止剤;テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル、2,2'-オキザミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、フェノール系酸化防止剤;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、1,2-ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩;グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート等の多価アルコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0097】
充填剤としては、例えば、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ペントナイト、グラファイト、アルミニウム粉、硫化モリブデン等が挙げられる。
【0098】
着色剤としては、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機系着色剤、フタロシアニン等の有機系着色剤などが挙げられる。
滑剤としては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【実施例0099】
本発明を具体例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本明細書において濃度などは質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0100】
実験1.金属含有セルロース繊維の製造
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル;Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。
【0101】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように反応系へ添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。
【0102】
反応後の混合物をガラスフィルターで濾過した後、十分な水の量による水洗、ろ過を2回繰り返すことにより、酸化セルロース繊維を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.68mmol/gであった。
【0103】
上記酸化セルロース繊維に水を加えて固形分濃度2%の分散液とし、pHを9.0に調整した後、CuCl2(富士フイルム和光純薬)を、酸化セルロース繊維1gに対する濃度が1.0mmol/gになるよう撹拌しながら加え、さらに30分間撹拌することにより、酸化セルロース繊維にCuイオンを含有させた。
【0104】
これに対し、十分な水の量による水洗、ろ過を2回繰り返すことにより、未反応の金属塩を除去し、Cuイオン担持酸化セルロース繊維(金属含有セルロース繊維)を得た。酸化セルロース繊維に対する金属イオンの含有量は40mg/gであり、金属イオン含有セルロース繊維のろ水度(CSF)は500mlであった。
【0105】
実験2.抗ウイルス性板紙の製造
2-1.サンプル1~7(4層構造の板紙)
(1)サンプル1~4
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、CSF:400ml)と金属含有セルロース繊維の重量比を変えて混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層を抄紙するための紙料スラリーを調製した。NUKPと金属含有セルロース繊維の重量比は、100:0~95:5の範囲で変化させ、混合したパルプスラリーのカナダ標準濾水度(CSF)は390mlであった。
【0106】
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層用湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約30g/m2)。なお、絶乾坪量は、0.05m2以上の面積のサンプルを105℃で一定質量になるまで乾燥させてから、1m2当たりの質量(g)を測定すればよい。
【0107】
また、古紙パルプのパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層以外を抄紙するための紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層以外の湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約45g/m2)。
【0108】
次いで、表層以外の湿紙シート3枚の上に、表層用湿紙シートを重ねて4層のシートとした後、プレス、乾燥して、4つの紙層を有する板紙を得た(サンプル1~2:比較例、サンプル3~4:実施例)。
(2)サンプル5~7(比較例)
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、CSF:400ml)と金属含有セルロース繊維の重量比を変えて混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層を抄紙するための紙料スラリーを調製した。NUKPと金属含有セルロース繊維の重量比は、99.5:0.5~98.5:1.5の範囲で変化させ、混合したパルプスラリーのカナダ標準濾水度(CSF)は390mlであった。
【0109】
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層用湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約30g/m2)。
【0110】
また、古紙パルプと金属含有セルロース繊維を99.5:0.5~98.5:1.5の重量比で混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層以外を抄紙するための紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層以外の湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約45g/m2)。
【0111】
次いで、表層以外の湿紙シート3枚の上に、表層用湿紙シートを重ねて4層のシートとした後、プレス、乾燥して、4つの紙層を有する板紙を得た。サンプル5~8は、すべての紙層に金属含有セルロースを配合したが、各層における金属含有セルロースの配合率は、サンプル5が0.5%、サンプル6が1.0%、サンプル7が1.5%とした。
【0112】
2-2.サンプル8~14(5層構造の板紙)
(1)サンプル8~11
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、CSF:400ml)と金属含有セルロース繊維の重量比を変えて混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層を抄紙するための紙料スラリーを調製した。NUKPと金属含有セルロース繊維の重量比は、100:0~95:5の範囲で変化させ、混合したパルプスラリーのカナダ標準濾水度(CSF)は390mlであった。
【0113】
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層用湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約40g/m2)。
【0114】
また、古紙パルプのパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層以外を抄紙するための紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層以外の湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約45g/m2)。
【0115】
次いで、表層以外の湿紙シート4枚の上に、表層用湿紙シートを重ねて5層のシートとした後、プレス、乾燥して、5つの紙層を有する板紙を得た(サンプル8~9:比較例、サンプル10~11:実施例)。
(2)サンプル12~14(比較例)
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、CSF:400ml)と金属含有セルロース繊維の重量比を変えて混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層を抄紙するための紙料スラリーを調製した。NUKPと金属含有セルロース繊維の重量比は、99.5:0.5~98.5:1.5の範囲で変化させ、混合したパルプスラリーのカナダ標準濾水度(CSF)は390mlであった。
【0116】
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層用湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約40g/m2)。
【0117】
また、古紙パルプと金属含有セルロース繊維を99.5:0.5~98.5:1.5の重量比で混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層以外を抄紙するための紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層以外の湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約45g/m2)。
【0118】
次いで、表層以外の湿紙シート4枚の上に、表層用湿紙シートを重ねて5層のシートとした後、プレス、乾燥して、5つの紙層を有する板紙を得た。サンプル12~14は、すべての紙層に金属含有セルロースを配合したが、各層における金属含有セルロースの配合率は、サンプル12が0.5%、サンプル13が1.0%、サンプル14が1.5%とした。
【0119】
実験3.抗ウイルス性板紙の評価
以下に示す方法により、抗ウイルス機能などを評価した。
3-1.銅の含有量
サンプル1gあたりの金属イオンおよび金属粒子の含有量(mg/g)を、ICP発光分光分析(ICP-OES)により、下記の手順によって測定した。
(1) 測定の前に測定用サンプルを乾燥(50℃、1日)させておく
(2) 乾燥させた測定用サンプル0.1gを秤量し、50ml容のビーカーに入れる
(3) 濃硝酸をホールピペットで10ml取り、測定用サンプルの入ったビーカーに加えて測定サンプル液を作成する(10倍希釈)
(4) 30分間静置してから、シリンジフィルターに通して測定サンプル液から繊維分を除去(ろ過)する
(5) ろ過した測定サンプル液をマイクロピペットで1ml取り、蒸留水を49ml入れた試験管に加える(50倍希釈)
(6) 試験管の蓋をしっかり閉め、振って攪拌する
(7) ICP-OES(Agilent Technology社製、ICP-OES 5110)を使用して、金属イオンおよび金属粒子の含有量を測定(定量)する
(8) ICP-OESによる定量結果(ppb)から、サンプル1gあたりの金属イオンおよび金属粒子の含有量(mg/g)を下式に基づいて算出する。
(ICP-OESによる定量結果(ppb)×10×50)/(測定用試料の重量(g))×1000/1000000000
3-2.抗ウイルス活性
抗ウイルス機能試験は、JIS L 1922:2016にて実施し、抗ウイルス活性値(Mv)を算出した。試験に供したサンプルの重量は0.4g(約4cm×5cm)であり、試験ウイルスとして、下記の2種を使用した。
・インフルエンザウイルス(H3N2、ATCC VR―1679)
・ネコカリシウイルス(Strain:F-9 ATCC VR-782)
【0120】
【0121】
上記の表から明らかなように、金属含有セルロース繊維を配合した紙層を表層に有する板紙は、高い抗ウイルス性を発現した。また、板紙の表層に配合する金属含有セルロース繊維を多くすると抗ウイルス性が高くなった。
【0122】
一方、板紙に配合する金属含有セルロース繊維の量が同程度であっても、表層でない紙層に配合する金属含有セルロース繊維の割合が多いと、抗ウイルス性が低くなった。