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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075573
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20230524BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230524BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230524BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230524BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/13
H01M10/054
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188557
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山谷 将大
(72)【発明者】
【氏名】角田 啓
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AA04
5H017AS02
5H017BB08
5H017CC01
5H017EE01
5H017EE06
5H017HH03
5H017HH04
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL13
5H029AM11
5H029BJ13
5H029CJ22
5H029HJ04
5H029HJ07
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA04
5H050GA22
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】生産効率が高く低コストであり、かつ大面積な集電体層も容易に形成可能である、蓄電デバイス用部材の製造方法を提供する。
【解決手段】湿式成膜法により集電体層2を形成する工程を備えることを特徴とする蓄電デバイス用部材10の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により集電体層を形成する工程を備えることを特徴とする蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項2】
前記湿式成膜法が、スプレー塗工法、スクリーン印刷法、ディスペンサー法、スリットダイコート法、インクジェット法、キャスト法またはスピンコート法であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項3】
前記湿式成膜法が、スプレー塗工法であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項4】
前記集電体層が、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Mo、Ag及びAuから選択される少なくとも1種の金属、または、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及びグラフェンから選択される少なくとも1種の炭素材料を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項5】
前記集電体層が電極層表面に形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項6】
前記集電体層の厚みが0.1~1000μmであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項7】
前記集電体の面積が0.1cm以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項8】
前記蓄電デバイスがナトリウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項9】
前記蓄電デバイスが全固体ナトリウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項8に記載の蓄電デバイス用部材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法により蓄電デバイス用部材を製造する工程を備えることを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用パソコンや携帯電話の普及に伴い、リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの開発が急速に進みつつある。また、現行の蓄電デバイスには電解質として有機系電解液が主に用いられているが、有機系電解液は高いイオン伝導度を示すものの、液体でありかつ可燃性であることから、蓄電デバイスとして用いた場合に、漏洩、発火等の危険性が懸念されている。そのため、有機系電解液に代えて固体電解質を使用するとともに、正極及び負極を固体で構成した全固体電池の開発も進められている。
【0003】
一般に、蓄電デバイスが備える電極層の表面には、電子を取り出す端子としての役割を果たす金属箔等からなる集電体層が設けられる。ここで、電極層と金属箔との密着性に劣り、電極に十分な導電性を付与できない場合は、スパッタリングまたは蒸着等の気相法が用いられることがある(例えば特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-97034号公報
【特許文献2】WO2018/225494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気相法による成膜方法は真空プロセスを必要とし、成膜レートが低いため、集電体層の成膜に時間を要する。そのため、生産効率が低く、製造コストが高いという問題があった。また、気相法による成膜方法では成膜装置(チャンバー)の大きさに制約があるため、大面積の集電体層を形成することが困難であるという問題もあった。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、生産効率が高く低コストであり、かつ大面積な集電体層も容易に形成可能である、蓄電デバイス用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、湿式成膜法により集電体層を形成する工程を備えることを特徴とする。湿式成膜法を利用すると、従来の気相法と比較して、短時間で集電体層を形成することができるため、蓄電デバイス用部材の生産効率を向上させることができる。また気相法と比較して、成膜装置の大きさによる制約も小さいため、大面積な集電体層も容易に形成可能である。
【0008】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、前記湿式成膜法が、スプレー塗工法、スクリーン印刷法、ディスペンサー法、スリットダイコート法、インクジェット法、キャスト法またはスピンコート法であることが好ましい。
【0009】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、前記湿式成膜法が、スプレー塗工法であることが好ましい。湿式成膜法のなかでも、スプレー塗工法は装置を簡素化しやすいため、本発明の効果を享受しやすい。
【0010】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、前記集電体層が、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Mo、Ag及びAuから選択される少なくとも1種の金属、または、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及びグラフェンから選択される少なくとも1種の炭素材料を含むことが好ましい。
【0011】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、前記集電体層が電極層表面に形成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、前記集電体層の厚みが0.1~1000μmであることが好ましい。
【0013】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、前記集電体の面積が0.1cm以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の蓄電デバイス用部材の製造方法は、前記蓄電デバイスがナトリウムイオン二次電池であることが好ましく、全固体ナトリウム二次電池であることがより好ましい。
【0015】
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、上記いずれかの方法により蓄電デバイス用部材を製造する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生産効率が高く低コストであり、かつ大面積な集電体層も容易に形成可能である、蓄電デバイス用部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の方法により製造される蓄電デバイス用部材の一実施形態を示す模式的断面図である。
図2】本発明の方法により製造される蓄電デバイスの一実施形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0019】
図1は、本発明の方法により製造される蓄電デバイス用部材の一実施形態を示す模式的断面図である。図1に示すように、蓄電デバイス用部材10は、正極層1と集電体層2を備えている。集電体層2は、正極層1の一方の主表面上に形成されている。なお、蓄電デバイス用部材10は、正極層1の代わりに負極層を備えていてもよい。
【0020】
図2は、本発明の方法により製造される蓄電デバイスの一実施形態を示す模式的断面図である。本実施形態の蓄電デバイスは全固体電池である。図2に示すように、蓄電デバイス20は、正極層1、負極層3、固体電解質層4及び集電体層2を備えている。ここで、固体電解質層4の一方の主面に正極層1、他方の主面に負極層3が形成されている。また、正極層1の固体電解質層4とは反対側の主面に集電体層2が形成されており、負極層3の固体電解質層4とは反対側の主面に集電体層2が形成されている。正極層1と負極層3の各表面に形成する集電体層2は、同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。なお、本実施形態では、正極層1及び負極層3の両方の主面に集電体層2が形成されているが、正極層1及び負極層3のいずれか一方の主面のみに集電体層2が形成されていてもよい。
【0021】
本発明では、集電体層2を湿式成膜法により形成することに特徴がある。湿式成膜法を利用すると、従来の気相法と比較して、短時間で集電体層を形成することができるため、蓄電デバイス用部材の生産効率を向上させることができる。また気相法と比較して、成膜装置の大きさによる制約も小さいため、大面積な集電体層も容易に形成可能である。湿式成膜法としては、スプレー塗工法、スクリーン印刷法、ディスペンサー法、スリットダイコート法、インクジェット法、キャスト法またはスピンコート法が挙げられる。なかでも、スプレー塗工法は装置を簡素化しやすいため、上述の効果を享受しやすい。
【0022】
集電体層2は、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Mo、Ag及びAuから選択される少なくとも1種の金属、または、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及びグラフェンから選択される少なくとも1種の炭素材料を含むことが好ましい。なかでも、導電性に優れるAl、Fe、Ni、Cu、Ag及びAuから選択される少なくとも1種の金属で構成されることがより好ましい。最も好ましくは、導電性に優れかつ軽量であるAlである。また、上記集電体層2は1種の材料から構成されるものでも、2種以上の複合材料や合金から構成されるものでもよい。
【0023】
集電体層2の厚みは0.1~1000μm、0.1~500μm、特に0.1~100μmであることが好ましい。集電体層が薄すぎると抵抗が大きくなり、厚すぎると蓄電デバイス用部材10及び蓄電デバイス20の単位体積当たりのエネルギー密度及び単位重量当たりのエネルギー密度が低下する傾向がある。
【0024】
集電体層2の面積は特に限定されないが、大きいほど本発明の効果を享受しやすくなる。集電体層2の面積は、具体的には0.1cm以上、1cm以上、10cm以上、特に100cm以上であることが好ましい。集電体層2の面積の上限は特に限定されないが、大きすぎると厚みを均一に制御することが困難になるため、1000cm以下であることが好ましい。
【0025】
集電体層2の成膜に用いられる塗料は有機成分を含むことが好ましい。塗料が有機成分を含むことにより、集電体層2を構成する金属成分(金属粒子)を塗料中に分散させやすくなり、結果として均一な厚みの集電体層2を得やすくなる。有機成分の具体例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;n-ブタノール、イソプロピルアルコール、エタノール、ジアセトンアルコール、イソブタノール等のアルコール;ジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチレンエーテル等のエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド;N-メチルピロリドン;アクリル樹脂等が挙げられる。
【0026】
上記塗料を用いて湿式成膜法により集電体層2を成膜した後、必要に応じて、有機成分除去のための加熱や洗浄等の後処理を行ってもよい。加熱処理は有機成分の分解温度付近で行うことが好ましい。なお、必ずしもこのような後処理を行わなくてもよい。
【0027】
以下に、集電体層2以外の構成要素について説明する。
【0028】
(正極層1)
正極層1は、例えば正極活物質前駆体粉末を焼結することにより作製することができる。正極活物質前駆体粉末は、焼成により正極活物質結晶を生成する非晶質酸化物材料からなることが好ましい。非晶質酸化物材料は焼成時に正極活物質結晶が生成するとともに、軟化流動してより緻密な正極層1を形成することが可能となる。その結果、イオン伝導パスが良好に形成されるため好ましい。また、本発明において、「非晶質酸化物材料」は完全に非晶質の酸化物材料に限定されず、一部結晶を含有しているもの(例えば結晶化度10%以下)も含むものとする。
【0029】
正極活物質前駆体粉末は、酸化物換算のモル%で、NaO 25%~55%、Fe+Cr+MnO+CoO+NiO 10%~30%、及びP 25%~55%を含有することが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0030】
NaOは、一般式Na(MはFe、Cr、Mn、Co及びNiから選択される少なくとも1種以上の遷移金属元素、1.20≦x≦2.10、0.95≦y≦1.60)で表される正極活物質結晶の主成分である。NaOの含有量は、25%~55%であることが好ましく、30%~50%であることがより好ましい。NaOの含有量が少なすぎる、あるいは、多すぎると、充放電容量が低下する傾向にある。
【0031】
Fe、Cr、MnO、CoO及びNiOも、一般式Naで表される正極活物質結晶の主成分である。Fe+Cr+MnO+CoO+NiOの含有量は10%~30%であることが好ましく、15%~25%であることがより好ましい。Fe+Cr+MnO+CoO+NiOの含有量が少なすぎると、充放電容量が低下する傾向にある。一方、Fe+Cr+MnO+CoO+NiOの含有量が多すぎると、望まないFe、Cr、MnO、CoOまたはNiO等の結晶が析出しやすくなる。なお、サイクル特性を向上させるためには、Feを積極的に含有させることが好ましい。Feの含有量は、1%~30%であることが好ましく、5%~30%であることがより好ましく、10%~30%であることがさらに好ましく、15%~25%であることが特に好ましい。Cr、MnO、CoO及びNiOの各成分の含有量は、それぞれ、0%~30%であることが好ましく、10%~30%であることがより好ましく、15%~25%であることがさらに好ましい。また、Fe、Cr、MnO、CoO及びNiOから選択される少なくとも2種の成分を含有させる場合、その合量は10%~30%であることが好ましく、15%~25%であることがより好ましい。
【0032】
なお、本明細書において「x+y+・・・」は各成分の合量を意味する。ここで各成分を必ずしも必須成分として含有する必要はなく、含有しない(即ち含有量が0%)の成分が存在してもよい。
【0033】
も一般式Naで表される正極活物質結晶の主成分である。Pの含有量は25%~55%であることが好ましく、30%~50%であることがより好ましい。Pの含有量が少なすぎる、あるいは、多すぎると、充放電容量が低下する傾向にある。
正極活物質前駆体粉末には、上記成分以外にも、V、Nb、MgO、Al、TiO、ZrOまたはScを含有させてもよい。これらの成分は導電性(電子伝導性)を高める効果があり、正極活物質の高速充放電特性が向上しやすくなる。上記成分の含有量は合量で0%~25%であることが好ましく、0.2%~10%であることがより好ましい。上記成分の含有量が多すぎると、電池特性に寄与しない異種結晶が生じ、充放電容量が低下しやすくなる。
【0034】
また上記成分以外に、SiO、B、GeO、Ga、SbまたはBiを含有していてもよい。これら成分を含有させることにより、ガラス形成能が向上し、均質な正極活物質前駆体粉末を得やすくなる。上記成分の含有量は合量で、0%~25%であることが好ましく、0.2%~10%であることがより好ましい。上記成分は電池特性に寄与しないため、その含有量が多すぎると、充放電容量が低下する傾向にある。
【0035】
正極活物質前駆体粉末は、原料バッチを溶融、成形することにより作製することが好ましい。当該方法によれば、均質性に優れた非晶質の正極活物質前駆体粉末を得やすくなるため好ましい。具体的には、正極活物質前駆体粉末は以下のようにして製造することができる。
【0036】
まず、所望の組成となるように原料を調製して原料バッチを得る。次に、得られた原料バッチを溶融する。溶融温度は、原料バッチが均質に溶融されるよう適宜調整すればよい。例えば、溶融温度は800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、溶融温度が高すぎるとエネルギーロスや、ナトリウム成分等の蒸発につながるため、1500℃以下であることが好ましく、1400℃以下であることがより好ましい。
【0037】
次に、得られた溶融物を成形する。成形方法としては特に限定されず、例えば、溶融物を一対の冷却ロール間に流し込み、急冷しながらフィルム状に成形してもよいし、あるいは、溶融物を鋳型に流し出し、インゴット状に成形しても構わない。
【0038】
続いて、得られた成形体を粉砕することにより正極活物質前駆体粉末を得る。正極活物質前駆体粉末の平均粒子径は、0.01μm以上、50μm未満であることが好ましく、0.03μm以上、10μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上、0.6μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上、0.5μm以下であることが特に好ましい。正極活物質前駆体粉末の平均粒子径が小さすぎると、ペースト化して使用する場合に粒子同士の凝集力が強くなり、ペースト中に分散しにくくなる。また、固体電解質粉末等と混合する場合に、混合物中に正極活物質前駆体粉末を均一に分散することが困難となり、内部抵抗が上昇するため出力特性が下がり充放電容量が低下する恐れがある。一方、正極活物質前駆体粉末の平均粒子径が大きすぎると、正極材料中でのイオンと電子の拡散距離が長くなることで、内部抵抗が大きくなるため出力特性が下がり、結果として充放電容量が低下する傾向がある。さらに、固体電解質粉末と混合する場合に、正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末との密着性が低下するため、正極層1の機械的強度が低下し、結果的に充放電容量が低下する傾向にある。あるいは、正極層1と固体電解質層4との密着性にも劣り、正極層1が固体電解質層4から剥離する恐れがある。
【0039】
なお、本発明において、平均粒子径は、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指す。
【0040】
(負極層3)
負極層3は、充放電に伴いナトリウムイオンを吸蔵及び放出できる負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば金属Na、金属Sn、金属Bi、金属Zn、Sn-Cu合金、Bi-Cu合金等の金属系材料、ハードカーボン等のカーボン材料、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料等を用いることができる。なかでも、カーボン材料、または、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料が高い安全性を有しており、また資源的に豊富であることから好ましい。特に、充放電に伴う酸化還元電位が1.5V(vs.Na/Na)以下であるNaTiO(PO、NaTi(PO、NaTiで表される結晶相を含有する酸化物材料を用いることが好ましい。この場合、ナトリウムイオン二次電池の負極の作動電圧が高くなり、繰り返し充放電した際における金属Naデンドライトの析出を抑制することができる。
【0041】
(固体電解質層4)
固体電解質層4としては、例えば、ナトリウムイオン伝導性に優れるベータアルミナまたはNASICON結晶が挙げられる。ベータアルミナは、β-アルミナ(理論組成式:NaO・11Al)とβ”-アルミナ(理論組成式:NaO・5.3Al)の2種類の結晶型が存在する。β”-アルミナは準安定物質であるため、通常、LiOやMgOを安定化剤として添加したものが用いられる。β-アルミナよりもβ”-アルミナの方が、ナトリウムイオン伝導度が高いため、β”-アルミナ単独、またはβ”-アルミナとβ-アルミナの混合物を用いることが好ましく、LiO安定化β”-アルミナ(Na1.7Li0.3Al10.717)またはMgO安定化β”-アルミナ((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))を用いることがより好ましい。
【0042】
なお、固体電解質層4は、原料粉末を混合し、混合した原料粉末を成形した後、焼成することにより製造することができる。例えば、原料粉末をスラリー化してグリーンシートを作製した後、グリーンシートを焼成することにより製造することができる。また、ゾルゲル法により製造してもよい。
【0043】
固体電解質層4の厚みは、5μm~1500μmの範囲であることが好ましく、10μm~200μmの範囲であることがより好ましい。固体電解質層4の厚みが薄すぎると、機械的強度が低下して破損しやすくなるため、内部短絡が起こりやすくなる。固体電解質層4の厚みが厚すぎると、充放電に伴うナトリウムイオン伝導距離が長くなるため内部抵抗が高くなり、放電容量及び作動電圧が低下しやすくなる。また、全固体ナトリウムイオン二次電池の単位体積当たりのエネルギー密度及び単位重量当たりのエネルギー密度も低下しやすくなる。
【0044】
(固体電解質粉末)
正極層1及び/または負極層3に固体電解質粉末を含有させることが好ましい。固体電解質粉末は、このようにすれば、正極層1や負極層3のイオン伝導性を高めることができる。固体電解質粉末は固体電解質層4と同様の材料から構成されていることが好ましい。
固体電解質粉末の平均粒子径は、0.05μm以上、3μm以下であることが好ましく、0.05μm以上、1.8μm未満であることがより好ましく、0.05μm以上、1.5μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上、1.2μm以下であることが特に好ましく、0.1μm以上、0.7μm以下であることが最も好ましい。固体電解質粉末の平均粒子径が小さすぎると、正極層1や負極層3において均一に分散させることが困難となるだけでなく、吸湿や炭酸塩化することによりイオン伝導性が低下したり、正極活物質や負極活物質との過剰反応を助長したりする恐れがある。その結果、正極層1や負極層3の内部抵抗が高くなり、電圧特性及び充放電容量が低下する傾向にある。一方、固体電解質粉末の平均粒子径が大きすぎると、正極層1や負極層3の焼結性を著しく阻害するため、得られる正極層1や負極層3の平滑性が低下したり、内部抵抗が大きくなったりする傾向がある。
【0045】
(導電助剤)
導電助剤は、正極層1や負極層3中において導電パスを形成する成分である。導電助剤としては、例えば、導電性炭素を用いることができる。導電性炭素としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックといった高導電性カーボンブラック等の粉末状または繊維状の導電性炭素が好ましい。なお導電性炭素を正極層1に添加する場合、正極活物質前駆体粉末を粉砕する際に添加することが好ましい。導電性炭素は粉砕助剤の役割を果たし、正極活物質前駆体粉末と均質に混合することが可能となるだけでなく、焼成時の正極活物質前駆体粉末粒子同士の過剰な融着を抑制し、導電性が確保されやすくなり、急速充放電特性が向上しやすくなる。
【0046】
(バインダー)
バインダーは、正極層1や負極層3の原料(原料粉末)同士を一体化させるための材料である。バインダーとしては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0047】
固形原料は、質量%で、活物質粉末(活物質前駆体粉末) 30%~100%、固体電解質粉末 0%~70%、及び導電性炭素 0%~20%を含有することが好ましく、活物質粉末(活物質前駆体粉末) 44.5%~94.5%、固体電解質粉末 5%~55%、及び、導電性炭素 0.5%~15%を含有することがより好ましく、活物質粉末(活物質前駆体粉末) 50%~92%、固体電解質粉末 7%~50%、及び導電性炭素 1%~10%を含有することがさらに好ましい。活物質粉末(活物質前駆体粉末)の含有量が少なすぎると、充放電に伴ってナトリウムイオンを吸蔵または放出する成分が少なくなるため、蓄電デバイスの充放電容量が低下する傾向にある。導電性炭素または固体電解質粉末の含有量が多すぎると、活物質粉末の結着性が低下して内部抵抗が高くなるため、電圧特性や充放電容量が低下する傾向にある。
【0048】
また、バインダーの含有量は、固形原料100質量部に対して、1質量部~50質量部であることが好ましく、5質量部~40質量部であることがより好ましい。バインダーの含有量が少なすぎると、固形原料の結着性が不足して、正極層1や負極層3の乾燥時にクラックが生じたり、固体電解質層4から剥離が生じたりする。バインダーの含有量が多すぎると、焼成時にバインダーが揮発して、正極層1や負極層3の体積収縮が起こりやすく、クラックや固体電解質層4からの剥離が生じやすくなる。
【0049】
なお、上記実施形態では、主に本発明をナトリウムイオン伝導性を有する材料を用いた全固体ナトリウムイオン二次電池に適用した場合について説明したが、リチウムイオン伝導性を有する材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池など他の全固体電池及び全固体電池用部材に適用してもよい。また、全固体電池及び全固体電池用部材の製造に限らず、あらゆる蓄電デバイス及び蓄電デバイス用部材に適用してもよい。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
表1は、実施例1~3及び比較例1、2を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(1)正極層の作製
質量%で、正極活物質前駆体粉末83%、固体電解質粉末13%、導電助剤4%となるように秤量し、メノウ乳鉢・乳棒を用いて混合した。なお、正極活物質前駆体にはNaFePの組成式で表されるガラス粉末、固体電解質粉末にはLiO安定化β”アルミナ(Ionotec社製、組成式:Na1.7Li0.3Al10.717)を粉砕した粉末、導電助剤にはアセチレンブラックを使用した。得られた混合粉末100質量部に20質量部のポリプロピレンカーボネートを添加した後、固形分濃度が50体積%になるようにN-メチルピロリドンを添加した。これを自転公転ミキサーを用いて攪拌し、スラリー化した。
【0054】
得られたスラリーを厚み1mm、□11.6mmの固体電解質シートの一方の表面の中央に1cmの面積(10mm×10mm)、100μmの厚みで塗布し、70℃で2時間乾燥させた。次に、H 4体積%及びN 96体積%の混合ガス雰囲気中において、500℃で30分間、電気炉で焼成した。これにより、固体電解質シートの一方の表面に正極層を形成した。
【0055】
なお、上記の操作はすべて露点-40℃以下の雰囲気下で行った。
【0056】
(2)集電体層の成膜
(実施例1、2)
上記で得られた正極層の表面に導電性塗料をスプレー塗工することで面積1cm(10mm×10mm)、厚み約50μmの集電体層を形成した。集電体層のスプレー塗工に要した時間は10秒であった。なお、導電性塗料として、実施例1はNi粒子とアクリル樹脂を含有するもの(プラスコート社製 PCS-104nNi)、実施例2はAg粒子及びCu粒子とアクリル樹脂を含有するもの(プラスコート社製 PCS-107AgCu)を使用した。
【0057】
(実施例3)
Al粒子(平均粒子径2μm)100質量部に、バインダーとしてポリプロピレンカーボネート5質量部を添加した後、固形分濃度が50体積%になるようにN-メチルピロリドンを加えてAl集電体ペーストを作製した。上記で得られた正極層上に、スクリーン印刷によりAl集電体ペーストを印刷することで正極層上にAl集電体層を形成した。スクリーン印刷に要した時間は20秒であった。
【0058】
(比較例1、2)
スパッタ装置(日本電子社製、JEC-3000FC)を用いて、10Pa未満の真空雰囲気下にて、上記で得られた正極層の表面に厚み300nmのAuまたはAlからなる集電体層を形成した。集電体層の形成に要した時間は比較例1が7分、比較例2が20分であった。
【0059】
(3)試験電池の作製
露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で、対極となる金属ナトリウムを、固体電解質シートの正極層とは反対の表面に圧着し、積層体を得た。得られた積層体をコインセルの下蓋の上に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0060】
(4)充放電試験
作製した試験電池について30℃で充放電試験を行い、電池容量を測定した。なお、正極の理論容量を96mAh/gとして、Cレートは0.05Cとした。結果を表1に示す。
【0061】
表1に示す通り、実施例1~3は比較例1、2と比較して短時間で集電体層を形成することができた。また、実施例1~3では、比較例1~2と同等の電池容量を示していた。
【符号の説明】
【0062】
1 正極層
2 集電体層
3 負極層
4 固体電解質層
10 蓄電デバイス用部材
20 蓄電デバイス
図1
図2