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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075575
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】体腔液処理システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188561
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川邉 美浪
(72)【発明者】
【氏名】山辺 康平
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA20
4C077BB02
4C077DD07
4C077DD25
4C077EE04
4C077GG12
4C077HH06
4C077HH10
4C077HH13
4C077HH15
4C077JJ05
4C077JJ09
4C077JJ13
4C077JJ16
4C077KK30
4C077LL05
(57)【要約】
【課題】濾過器の洗浄過程で廃棄される体腔液量を低減することが可能な体腔液処理システムを提供する。
【解決手段】実施形態の一例である体腔液処理システムは、濾過器と、原液容器と、回収容器と、原液容器と濾過器の入口をつなぐ第1ラインと、濾過器の出口と回収容器をつなぐ第2ラインと、第1および第2ラインを含む流路を開閉する開閉装置とを備える。当該システムは、濾過器に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置とをさらに備え、制御装置は、濾過器の洗浄前に、濾過器の出口側に存在する処理済み体腔液を回収容器に回収するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過器と、体腔原液を貯留する原液容器と、前記濾過器を通過した処理済み体腔液を回収する回収容器と、前記原液容器と前記濾過器の入口をつなぐ第1ラインと、前記濾過器の出口と前記回収容器をつなぐ第2ラインと、前記第1および前記第2ラインを含む流路を開閉する開閉装置とを備えた体腔液処理システムであって、
前記濾過器に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置とをさらに備え、
前記制御装置は、前記濾過器の洗浄前に、前記濾過器の出口側に存在する前記処理済み体腔液を前記回収容器に回収するように構成されている、体腔液処理システム。
【請求項2】
濾過器と、体腔原液を貯留する原液容器と、前記濾過器を通過した処理済み体腔液を回収する回収容器と、前記原液容器と前記濾過器の入口をつなぐ第1ラインと、前記濾過器の出口と前記回収容器をつなぐ第2ラインと、前記第1および前記第2ラインを含む流路を開閉する開閉装置とを備えた体腔液処理システムであって、
前記濾過器に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置とをさらに備え、
前記制御装置は、前記濾過器の洗浄前に、前記濾過器の入口側に存在する前記体腔原液を前記原液容器に戻すように構成されている、体腔液処理システム。
【請求項3】
前記洗浄手段は、前記洗浄液の供給源と、前記供給源と前記濾過器の出口側をつなぐ流路である第3ラインとを有し、
前記制御装置は、前記開閉装置および前記洗浄手段を制御して、前記濾過器の洗浄前に、前記第3ラインを介して前記第2ラインに前記洗浄液を供給し、前記処理済み体腔液を前記回収容器に回収する、請求項1に記載の体腔液処理システム。
【請求項4】
前記洗浄手段は、前記洗浄液の供給源と、前記供給源と前記濾過器の入口側をつなぐ流路である第4ラインとを有し、
前記制御装置は、前記開閉装置および前記洗浄手段を制御して、前記濾過器の洗浄前に、前記第4ラインを介して前記第1ラインに前記洗浄液を供給し、前記体腔原液を前記原液容器に戻す、請求項2に記載の体腔液処理システム。
【請求項5】
前記洗浄手段は、前記洗浄液の供給源と、前記供給源と前記濾過器の出口側をつなぐ流路である第3ラインとを有し、
前記制御装置は、前記開閉装置および前記洗浄手段を制御して、前記濾過器の洗浄前に、前記第3ラインを介して前記第1ラインに前記洗浄液を供給し、前記体腔原液を前記原液容器に戻す、請求項2に記載の体腔液処理システム。
【請求項6】
前記供給源から前記濾過器に前記洗浄液を供給する前記洗浄手段の洗浄ラインは、外部に開放されない閉鎖系ラインであって、
前記閉鎖系ラインには、ローラーポンプが設置されている、請求項3~5のいずれか一項に記載の体腔液処理システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記洗浄ラインの上流側の圧力が所定の閾値を超えたときに、前記ローラーポンプを制御して前記濾過器への前記洗浄液の供給速度を下げる、請求項6に記載の体腔液処理システム。
【請求項8】
前記第2ラインにおいて前記濾過器と前記回収容器の間に設置された濃縮器と、前記濃縮器から出る除水廃液を回収する廃液容器と、前記濃縮器と前記廃液容器をつなぐ廃液ラインとをさらに備え、
前記廃液ラインには、逆止弁が設置され、
前記洗浄ラインを含む、前記原液容器から前記回収容器および前記逆止弁までの区域が閉鎖空間として構成されている、請求項6又は7に記載の体腔液処理システム。
【請求項9】
濾過器と、体腔原液を貯留する原液容器と、前記濾過器を通過した処理済み体腔液を回収する回収容器と、前記原液容器と前記濾過器の入口をつなぐ第1ラインと、前記濾過器の出口と前記回収容器をつなぐ第2ラインと、前記第1および前記第2ラインを含む流路を開閉する開閉装置と、前記第2ラインにおいて前記濾過器と前記回収容器の間に設置された濃縮器と、前記濃縮器から出る除水廃液を回収する廃液容器と、前記濃縮器と前記廃液容器をつなぐ廃液ラインと、前記濾過器に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置とを備えた体腔液処理システムであって、
前記濾過器に前記洗浄液を供給する前記洗浄手段の洗浄ラインは、外部に開放されない閉鎖系ラインであって、当該閉鎖系ラインには、ローラーポンプが設置され、
前記廃液ラインには、逆止弁が設置され、
前記洗浄ラインを含む、前記原液容器から前記回収容器および前記逆止弁までの区域が閉鎖空間として構成されている、体腔液処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過器を備えた体腔液処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腹水等の体腔液を患者から採取し、細菌、がん細胞などを取り除き、アルブミンなどの有用なタンパク成分を含む処理済みの体腔液を静注により患者に戻す治療法が知られている。特に、患者の腹腔に溜まった腹水を採取し、これを濾過濃縮して患者に戻す腹水濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)は、多くの実績がある。
【0003】
特許文献1には、濾過器と、濃縮器と、濾過器を洗浄する洗浄装置と、制御装置とを備えた体腔液処理システムが開示されている。特許文献1のシステムは、ローラーポンプを用いて体腔原液を一定の流量で濾過器に供給する定速式の処理システムである。また、特許文献1には、濾過器の自動洗浄方法が開示されている。濾過器の自動洗浄は、濾過器の上流側および下流側にそれぞれ設置された圧力計により測定された圧力の差が所定の閾値を超えた場合に、濾過器の出口に接続された流路である第2ラインを介して濾過器に洗浄液を供給することにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-134984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシステムでは、ローラーポンプを逆回転させることにより、濾過器の出口に接続された第2ラインを介して洗浄液が濾過器に供給されて濾過器の洗浄が行われるが、この場合、ライン中に存在する体腔液が廃棄されるという問題がある。同様に、濾過器内の体腔液も洗浄過程で廃棄されることになる。
【0006】
また、従来のシステムでは、流路や濾過器等のシステム内に廃液が逆流しないように、また外気が流入しないように、クランプ等の開閉装置を慎重に操作する必要があり、ユーザーの作業負担軽減が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、上記課題の少なくとも一方を解決することが可能な体腔液処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様である体腔液処理システムは、濾過器と、体腔原液を貯留する原液容器と、前記濾過器を通過した処理済み体腔液を回収する回収容器と、前記原液容器と前記濾過器の入口をつなぐ第1ラインと、前記濾過器の出口と前記回収容器をつなぐ第2ラインと、前記第1および前記第2ラインを含む流路を開閉する開閉装置とを備えた体腔液処理システムであって、前記濾過器に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置とをさらに備え、前記制御装置は、前記濾過器の洗浄前に、前記濾過器の出口側に存在する前記処理済み体腔液を前記回収容器に回収するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、濾過器の出口側に存在する処理済みの体腔液が回収容器に回収されるので、洗浄廃液として廃棄される処理済みの体腔液量を低減できる。
【0010】
本発明の他の一態様である体腔液処理システムは、濾過器と、体腔原液を貯留する原液容器と、前記濾過器を通過した処理済み体腔液を回収する回収容器と、前記原液容器と前記濾過器の入口をつなぐ第1ラインと、前記濾過器の出口と前記回収容器をつなぐ第2ラインと、前記第1および前記第2ラインを含む流路を開閉する開閉装置とを備えた体腔液処理システムであって、前記濾過器に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置とをさらに備え、前記制御装置は、前記濾過器の洗浄前に、前記濾過器の入口側に存在する前記体腔原液を前記原液容器に戻すように構成されていることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、濾過器の入口側に存在する体腔液が原液容器に戻されるので、洗浄廃液として廃棄される体腔液量を低減できる。
【0012】
本発明に係る体腔液処理システムにおいて、前記洗浄手段は、前記洗浄液の供給源と、前記供給源と前記濾過器の出口側をつなぐ流路である第3ラインとを有し、前記制御装置は、前記開閉装置および前記洗浄手段を制御して、前記濾過器の洗浄前に、前記第3ラインを介して前記第2ラインに前記洗浄液を供給し、前記処理済み体腔液を前記回収容器に回収することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、濾過器内および第2ライン内に存在する処理済みの体腔液を洗浄液で押し流すことができ、体腔液の回収率が向上する。
【0014】
本発明に係る体腔液処理システムにおいて、前記洗浄手段は、前記洗浄液の供給源と、前記供給源と前記濾過器の入口側をつなぐ流路である第4ラインとを有し、前記制御装置は、前記開閉装置および前記洗浄手段を制御して、前記濾過器の洗浄前に、前記第4ラインを介して前記第1ラインに前記洗浄液を供給し、前記体腔原液を前記原液容器に戻す構成としてもよい。
【0015】
上記構成によれば、濾過器内および第1ライン内に存在する体腔原液を洗浄剤で押し流すことができ、体腔原液の回収率が向上する。
【0016】
本発明に係る体腔液処理システムにおいて、前記洗浄手段は、前記洗浄液の供給源と、前記供給源と前記濾過器の出口側をつなぐ流路である第3ラインとを有し、前記制御装置は、前記開閉装置および前記洗浄手段を制御して、前記濾過器の洗浄前に、前記第3ラインを介して前記第1ラインに前記洗浄液を供給し、前記体腔原液を前記原液容器に戻す構成としてもよい。
【0017】
上記構成によれば、濾過器の出口側に接続された第3ラインを用いて、濾過器内および第1ライン内に存在する体腔原液を洗浄剤で押し流して原液容器に戻すことができる。この場合、濾過膜に詰まった細胞成分を押し流さないように、濾過膜の洗浄を行う場合よりも洗浄剤の供給速度を遅くすることが好ましい。
【0018】
また、前記供給源から前記濾過器に前記洗浄液を供給する前記洗浄手段の洗浄ラインは、外部に開放されない閉鎖系ラインであって、前記閉鎖系ラインには、ローラーポンプが設置されていることが好ましい。前記制御装置は、前記洗浄ラインの上流側の圧力が所定の閾値を超えたときに、前記ローラーポンプを制御して前記濾過器への前記洗浄液の供給速度を下げてもよい。
【0019】
上記構成によれば、洗浄ラインからシステム内に外気が流入することが防止される。また、洗浄ラインにローラーポンプを設置することで、例えば、濾過器に高い圧力が加わらない条件で洗浄液を安定に供給できる。
【0020】
また、前記第2ラインにおいて前記濾過器と前記回収容器の間に設置された濃縮器と、前記濃縮器から出る除水廃液を回収する廃液容器と、前記濃縮器と前記廃液容器をつなぐ廃液ラインとをさらに備え、前記廃液ラインには、逆止弁が設置され、前記洗浄ラインを含む、前記原液容器から前記回収容器および前記逆止弁までの区域が閉鎖空間として構成されていることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、濾過器、回収容器、濃縮器、および各流路等に、外気や廃液が流入することをより確実に抑制できる。
【0022】
本発明の他の一態様である体腔液処理システムは、濾過器と、体腔原液を貯留する原液容器と、前記濾過器を通過した処理済み体腔液を回収する回収容器と、前記原液容器と前記濾過器の入口をつなぐ第1ラインと、前記濾過器の出口と前記回収容器をつなぐ第2ラインと、前記第1および前記第2ラインを含む流路を開閉する開閉装置と、前記第2ラインにおいて前記濾過器と前記回収容器の間に設置された濃縮器と、前記濃縮器から出る除水廃液を回収する廃液容器と、前記濃縮器と前記廃液容器をつなぐ廃液ラインと、前記濾過器に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置とを備え、前記濾過器に前記洗浄液を供給する前記洗浄手段の洗浄ラインは、外部に開放されない閉鎖系ラインであって、当該閉鎖系ラインには、ローラーポンプが設置され、前記廃液ラインには、逆止弁が設置され、前記洗浄ラインを含む、前記原液容器から前記回収容器および前記逆止弁までの区域が閉鎖空間として構成されていることを特徴とする。
【0023】
上記構成によれば、洗浄ラインおよび廃液ラインからシステム内に外気や廃液が流入することが防止される。また、洗浄ラインにローラーポンプを設置することで、例えば、濾過器に高い圧力が加わらない条件で洗浄液を安定に供給できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る体腔液処理システムによれば、濾過器の洗浄過程で廃棄される体腔液量を低減することができ、或いはシステム内への廃液や外気の流入を容易に防止することが可能である。本発明に係る体腔液処理システムによれば、かかる効果の少なくとも一方を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態の一例である体腔液処理システムの構成を示す模式図である。
図2】実施形態の他の一例である体腔液処理システムの構成を示す模式図である。
図3】制御装置および制御装置に接続された装置の構成を示すブロック図である。
図4】濾過器の洗浄プロセスの一例を示すフローチャートである。
図5】濾過器の洗浄プロセスの他の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る体腔液処理システムの実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態、変形例を選択的に組み合わせてなる形態は本発明に含まれている。
【0027】
図1は、実施形態の一例である体腔液処理システム1の全体構成を模式的に示す図である。図1に示すように、体腔液処理システム1は、体腔液を濾過する濾過器10を備える。体腔液処理システム1は、濾過器10に一定の流量で体腔液が供給される定速式のシステムであってもよいが、本実施形態では、体腔液に作用する圧力が所定値以下であり、かつ当該圧力が一定、若しくは圧力変動が所定範囲内に制御された状態で体腔液を処理するものとする。体腔液処理システム1は、例えば、体腔液に作用する圧力が実質的に一定である定圧式のシステムである。体腔液処理システム1によれば、体腔液に過剰な圧力がかかるような事態を防止でき、より良質な処理済み体腔液を提供できる。
【0028】
上記所定値は、好ましくは-500~+500mmHg、より好ましくは-300~+300mmHgである。上記所定範囲は、設定圧力に到達するまでの初動の圧力変化等が生じる状態を除く、定常運転状態において、±20kPaが好ましく、±10kPaがより好ましい。
【0029】
詳しくは後述するが、体腔液処理システム1は、濾過器10に洗浄液を供給する洗浄手段と、制御装置50(後述の図3参照)とを備える。制御装置50は、体腔液の処理を制御すると共に、濾過器10の目詰まりが発生したときに、濾過器10の洗浄を自動で行うように構成されている。体腔液処理システム1によれば、適切なタイミングで濾過器10の洗浄を実施でき、また濾過器10の洗浄過程で廃棄される体腔液量を低減することが可能である。
【0030】
体腔液処理システム1は、さらに、体腔原液を貯留する原液容器11と、濾過器10を通過した処理済み体腔液を回収する回収容器12と、原液容器11、濾過器10、および回収容器12をつなぐ流路20と、流路20を開閉する開閉装置とを備える。また、体腔液処理システム1は、流路20の下流側に接続されたポンプ15を備える。ポンプ15には、例えば、ローラーポンプが用いられる。ポンプ15は、制御装置50の制御下で動作し、体腔液に作用する圧力が実質的に一定になるように、原液容器11から体腔液を濾過器10に供給する。流路20には、例えば、可撓性のチューブが用いられる。
【0031】
体腔液処理システム1により処理される体腔液は、患者の体腔に溜まった体液であって、腹腔に溜まる腹水、胸腔に溜まる胸水などが挙げられる。本実施形態では、体腔液として、特に腹水を例に挙げて説明する。体腔液処理システム1は、腹水を濾過濃縮して患者に戻す腹水濾過濃縮再静注法(CART)に好適である。
【0032】
体腔液処理システム1は、さらに、濾過器10で処理された体腔液を濃縮する濃縮器13と、濃縮器13により除水された廃液を回収する廃液容器14とを備える。濃縮器13は、流路20を構成する第2ライン22において濾過器10と回収容器12の間に配置されている。原液容器11から供給される体腔液は、濾過器10および濃縮器13で濾過濃縮され、回収容器12に回収される。濃縮器13から出る除水廃液は、濃縮器13に接続された廃液ライン25を介して廃液容器14に送液される。
【0033】
流路20には、原液容器11と濾過器10の入口をつなぐ第1ライン21、および濾過器10の出口と回収容器12をつなぐ第2ライン22が含まれている。言い換えると、濾過器10の第1ライン21が接続される部分が、体腔原液が濾過器10に導入される入口であり、濾過器10の第2ライン22が接続される部分が、処理済みの体腔液が濾過器10から導出される出口である。また、流路20には、濃縮器13と廃液容器14をつなぐ廃液ライン25が含まれている。本実施形態では、廃液ライン25にポンプ15が設置されている。
【0034】
体腔液処理システム1は、上述の通り、濾過器10の洗浄手段と、制御装置50とを備える。洗浄手段は、洗浄液の供給源である洗浄液容器40と、使用済みの洗浄液(洗浄廃液)を回収する洗浄廃水容器41とを有する。制御装置50は、濾過器10を通過した体腔液の流量、濾過器10に供給される体腔液の流量、濾過器10を通過した体腔液の処理量、および濾過器10に供給される体腔液の処理量の少なくとも1つをモニタリングする。そして、当該体腔液量のモニタリング情報に基づいて、濾過器10の洗浄に関する処理を実行するように構成されている。
【0035】
ここで、濾過器10の洗浄に関する処理には、濾過器10の自動洗浄に関する処理に限定されず、ユーザーの手動操作に基づく洗浄に関する処理も含まれる。後者の処理の具体例としては、上記体腔液量のモニタリング情報に基づき、所定の報知処理により濾過器10の洗浄を促す情報を出力することが挙げられる。所定の報知処理は、例えば、体腔液処理システム1に設けられたモニター、ランプ等を用いたユーザーへの報知、ブザー音、音声等の出力によるユーザーへの報知、通信手段を介した情報端末への通知などである。また、制御装置50は、体腔液量のモニタリング情報(例えば、体腔液の流量、処理量)を出力してもよい。
【0036】
上記洗浄手段は、洗浄液容器40と濾過器10の出口側をつなぐ流路である第3ライン23と、濾過器10の入口側と洗浄廃水容器41をつなぐ流路である洗浄廃液ライン26とを有する。洗浄液容器40から濾過器10に洗浄液を供給する洗浄手段の洗浄ラインは、外部に開放されない閉鎖系ラインであって、洗浄ラインには、濾過器10に洗浄液を供給するためのローラーポンプ42が設置されている。この場合、洗浄ラインからシステム内に外気が流入することが防止され、またローラーポンプ42を用いて洗浄液を供給することで、例えば、濾過器10に高い圧力が加わらない条件で洗浄液を安定に供給できる。
【0037】
体腔液処理システム1は、流路20を開閉する開閉装置として、第1ライン21に設置された開閉装置30、および第2ライン22に設置された開閉装置31を備える。さらに、洗浄ラインを構成する第3ライン23に設置された開閉装置43、および洗浄廃液ライン26に設置された開閉装置44を備える。また、廃液ライン25には、廃液容器14からの廃液の逆流を防止するための逆止弁32が設置されている。逆止弁32は、濃縮器13から廃液容器14に向かって液が流れ、反対方向には液が流れないように設置される。なお、開閉装置44の代わりに、洗浄廃水容器41からの洗浄廃水の逆流を防止する逆止弁が設置されていてもよい。この場合、洗浄廃液ライン26の逆止弁までの区域が閉鎖空間であってもよい。
【0038】
詳しくは後述するが、制御装置50は、開閉装置を制御して濾過器10と原液容器11および回収容器12につながる流路20を閉じた後、濾過器10に洗浄液の供給を開始するように構成されていてもよい。また、洗浄液の供給量に基づいて洗浄液の供給を停止し、体腔原液の処理を再開するように構成されていてもよい。体腔液処理システム1の開閉装置には、手動式のクランプ等を用いてもよく、制御装置50により制御可能な電磁弁等の電動装置を用いてもよい。流路20の開閉を含む濾過器10の自動洗浄機能を有する場合は、電動式の開閉装置30,31,43,44が用いられる。
【0039】
また、制御装置50は、各開閉装置および洗浄手段を制御して、濾過器10の洗浄前に、第3ライン23を介して第2ライン22に洗浄液を供給し、処理済み体腔液を回収容器12に回収するように構成されていてもよい。或いは、制御装置50は、各開閉装置および洗浄手段を制御して、濾過器10の洗浄前に、第3ライン23を介して第1ライン21に洗浄液を供給し、体腔原液を原液容器11に戻すように構成されていてもよい。
【0040】
本実施形態では、廃液ライン25に逆止弁32が設置され、洗浄手段を構成する洗浄ラインを含む、原液容器11から回収容器12および逆止弁32までの区域が閉鎖空間として、即ち外部に開放されない密閉空間として構成されている。このため、濾過器10、原液容器11、回収容器12、濃縮器13、および流路20に、廃液ライン25から外気や廃液が流入することが防止される。
【0041】
なお、定圧式の体腔液処理システム1は、体腔液に作用する圧力が一定範囲の圧力となるようにポンプ15を用いて体腔液の流速を制御することによって実現できるが、ポンプ15の代わりに吸引機を用いることによっても実現できる。或いは、落差圧を利用して体腔液を流す方法、原液容器11を加圧して体腔液を流す方法によっても、体腔液に作用する圧力が一定、若しくは圧力変動が抑制されたシステムを実現可能である。
【0042】
図2は、実施形態の他の一例である体腔液処理システム2の構成を模式的に示す図である。図2では、濾過器10およびその近傍の構成を図示しているが、その他の構成は図1に示す形態と同じである。
【0043】
図2に示すように、体腔液処理システム2は、濾過器10と、原液容器11と、流路20と、洗浄液容器40等を含む洗浄手段とを備える点で、図1に示す体腔液処理システム1と共通する。他方、体腔液処理システム2の洗浄手段は、洗浄液容器40と濾過器10の入口側をつなぐ流路である第4ライン24を有する点で、体腔液処理システム1の洗浄手段と異なる。図2に示す例では、第4ライン24が第3ライン23から分岐し、洗浄廃液ライン26に接続されている。
【0044】
体腔液処理システム2によれば、第4ライン24および洗浄廃液ライン26を介して、濾過器10の入口側に洗浄液を供給することができる。詳しくは後述するが、この場合、濾過器10内および第1ライン21内に存在する体腔液を原液容器11に戻すことが可能になる。ローラーポンプ42は、第3ライン23と第4ライン24の分岐点よりも洗浄液容器40側に設置されている。この場合、ローラーポンプ42を作動させることにより、各ラインを介して洗浄液を濾過器10の入口側、出口側の両方に供給することができる。
【0045】
第4ライン24には、開閉装置45が設置されている。開閉装置45には、例えば、電動式の開閉装置が用いられる。濾過器10の洗浄を行う際には、第3ライン23を介して濾過器10の出口側に洗浄液が供給され、洗浄廃液ライン26を介して洗浄廃水容器41に洗浄廃液が流れるため、濾過器10の洗浄中は開閉装置45が閉じられている。これにより、洗浄廃液が第4ライン24を介して洗浄ラインの上流側に逆流することが防止される。
【0046】
以下、体腔液処理システム1の各構成要素について、特に濾過器10、洗浄手段、および制御装置50の構成について、さらに詳説する。
【0047】
[原液容器]
原液容器11は、患者から採取された腹水等の体腔原液を収容する容器である。原液容器11の形態は特に限定されないが、原液容器11の一例としては、可撓性の樹脂製バッグが挙げられる。原液容器11には、濾過器10の入口につながる第1ライン21が接続されている。第1ライン21には開閉装置30が設置され、開閉装置30を開くことで、原液容器11に収容された体腔原液が濾過器10に供給される。
【0048】
[回収容器]
回収容器12は、濾過濃縮された体腔液を収容する容器である。回収容器12の形態は特に限定されないが、回収容器12の一例としては、可撓性の樹脂製バッグが挙げられる。回収容器12には、濃縮器13の出口につながる第2ライン22の下流側部分22bが接続されている。下流側部分22bには、濾過濃縮済みの体腔液を回収容器12にスムーズに流すための補助ポンプ16が設置されている。
【0049】
[濾過器]
濾過器10は、体腔原液に含まれる細菌や、がん細胞、血球、フィブリン等の細胞成分を取り除き、アルブミンなどの有用タンパク成分を通過させる濾過膜を有する。濾過膜の好適な一例は、中空糸膜である。濾過器10は、例えば、円筒形状を有し、軸方向両端部に通液口が形成されている。当該通液口は、濾過膜の内側領域に連通している。また、濾過器10の側面には2つの通液口が形成され、1つの通液口に第1ライン21が接続されている。第1ライン21を介して濾過器10に供給される体腔原液は、濾過器10の側面の通液口から濾過器10に導入され、濾過膜の外側領域から内側領域に浸透する。
【0050】
濾過器10は、濾過膜の内側から外側に体腔原液を通す内圧濾過方式で使用することも可能であるが、膜断面積の有効活用、中空糸内部の閉塞抑制等の観点から、濾過膜の外側から内側に体腔原液を通す外圧濾過方式で使用されることが好ましい。濾過器10の軸方向端部の通液口には、濃縮器13につながる第2ライン22の上流側部分22aが接続されている。濾過膜を通過して細胞成分が取り除かれた濾過処理済みの体腔液は、第2ライン22を介して濃縮器13に供給される。
【0051】
濾過器10に所定量の体腔原液が供給されて濾過膜の目詰まりがひどくなると、濾過膜を通過する体腔液の流量が減少し、処理能力が大きく低下する。このため、定期的に濾過膜の洗浄を行う必要があり、濾過器10には、上記洗浄手段の洗浄ラインが接続されている。濾過器10に洗浄液を供給する第3ライン23は、濾過器10の軸方向端部の通液口のうち、第2ライン22が接続される通液口と反対側の通液口に接続されている。濾過器10の側面に形成された2つの通液口には、一方に第1ライン21が、他方に濾過器10から洗浄廃液を回収する洗浄廃液ライン26が、それぞれ接続されている。
【0052】
本実施形態では、濾過器10の近傍に流路20を開閉する開閉装置が配置されている。体腔液の処理を行う際には、第3ライン23に設置された開閉装置43、および洗浄廃液ライン26に設置された開閉装置44が閉じられる。他方、濾過膜の洗浄を行う際には、第1ライン21に設置された開閉装置30、および第2ライン22に設置された開閉装置31が閉じられる。
【0053】
[濃縮器]
濃縮器13は、濾過器10を通過して細菌やがん細胞が取り除かれた処理済みの体腔液から余分な水分および電解質を除去して体腔液を濃縮する濃縮膜を有する。濃縮膜の好適な一例は、中空糸膜である。濃縮器13は、例えば、円筒形状を有し、軸方向両端部に通液口が形成されている。当該各通液口は濃縮膜の内側領域に連通し、一方の通液口に第2ライン22の上流側部分22aが、他方の通液口に第2ライン22の下流側部分22bが、それぞれ接続されている。また、濾過器10の側面には2つの通液口が形成され、一方の通液口に廃液ライン25が接続され、他方の通液口は閉じられている。
【0054】
濃縮器13に供給される濾過処理済みの体腔液は、濾過器10の軸方向一端側の通液口から濃縮器13に導入され、濃縮膜の内側領域を通って軸方向他端側の通液口から導出される。濃縮膜の中を通過する際、余分な水分が濃縮膜の外側に浸透して排出され、体腔液が濃縮される。体腔液から除去された水は、廃液ライン25を介して廃液容器14に回収される。濃縮器13は軸方向が鉛直方向に沿うように配置され、体腔液は、落差圧および補助ポンプ16により濃縮膜内を通過して第2ライン22の下流側部分22bに流れる。
【0055】
[ポンプ]
ポンプ15は、原液容器11から体腔原液を濾過器10および濃縮器13に供給するための装置である。ポンプ15は、制御装置50による制御の下、体腔液に作用する圧力が実質的に一定となるように濾過器10に供給される体腔原液の流速を調整する。なお、ポンプ15の代わりに吸引機を用いることもできる。吸引機は、体腔液処理システム1の専用設備であってもよく、当該システムが使用される医療施設において他のシステムと兼用されていてもよい。吸引機につながる吸引ラインは、廃液容器14又は廃液ライン25に接続される。吸引ラインが廃液ライン25に接続される場合、吸引ラインは逆止弁32よりも廃液容器14側に接続される。これにより、システム内への外気の流入をより確実に抑制できる。
【0056】
[洗浄手段]
洗浄手段は、濾過器10に洗浄液を供給して濾過器10の洗浄を行うためのユニットである。洗浄手段は、上述のように、洗浄剤を収容する洗浄液容器40と、洗浄廃液を収容する洗浄廃水容器41と、洗浄液を濾過器10に供給するためのローラーポンプ42と、洗浄液容器40から濾過器10を経て洗浄廃水容器41までつながった洗浄ラインとを有する。洗浄剤には、一般的に、生理食塩水が用いられる。
【0057】
上記洗浄ラインには、洗浄液容器40と濾過器10の出口側の通液口をつなぐ第3ライン23、および濾過器10の入口側の通液口と洗浄廃水容器41をつなぐ洗浄廃液ライン26が含まれる。ローラーポンプ42は、第3ライン23に設置されていることが好ましい。第3ライン23と洗浄廃液ライン26には、開閉装置43,44がそれぞれ設置され、濾過器10の洗浄を行う際に開操作される。
【0058】
上記洗浄ラインは、洗浄液容器40と濾過器10の入口側の通液口をつなぐ第4ライン24を含んでいてもよい。図2に示す例では、第3ライン23のローラーポンプ42が設置された部分の下流側から第4ライン24が分岐し、洗浄廃液ライン26を介して濾過器10の入口側の通液口に接続されている。第4ライン24には、洗浄廃液ライン26からの洗浄廃液の流入を防止するための開閉装置45が設置されている。なお、開閉装置45の代わりに逆止弁が用いられてもよい。
【0059】
[制御装置]
図3は、制御装置50および制御装置50に接続される装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように、制御装置50は、プロセッサ51およびメモリ52を含むコンピュータで構成され、体腔液の濾過濃縮処理を実行すると共に、濾過器10の自動洗浄を実行する。メモリは、例えば、RAM、ROM、ハードディスク等により構成される。制御装置50は、1つのコンピュータで構成されていてもよく、複数のコンピュータで構成されていてもよい。また、制御装置50の機能の一部または全部が、通信網を介して接続されるサーバー等に存在していてもよい。
【0060】
制御装置50は、体腔液の濾過濃縮処理を実行する第1処理部53を含む。また、制御装置50は、濾過器10の自動洗浄に関する処理を実行する処理部として、第2処理部54、第3処理部55、および第4処理部56を含む。メモリ52には、これらの処理の実行に必要な設定情報と制御プログラムが記憶されている。プロセッサ51は、当該制御プログラムを読み出して実行することにより、各処理部の機能を実現する。
【0061】
制御装置50は、ポンプ15および補助ポンプ16を制御し、原液容器11から体腔原液を吸引して濾過器10および濃縮器13に供給する。体腔液の濾過濃縮処理を行う際には、開閉装置30,31が開、開閉装置43,44が閉となっている。本実施形態では、これらの開閉装置の動作が制御装置50により制御される。体腔液は濾過器10で濾過され濃縮器13で濃縮されて、回収容器12に回収される。濃縮器13から出る除水廃液は、廃液容器14に回収される。体腔液を濾過濃縮する一連の処理は、第1処理部53の機能により実行される。
【0062】
制御装置50は、上述のように、体腔液の濾過濃縮処理において体腔液量をモニタリングし、当該体腔液量のモニタリング情報に基づいて濾過器10の洗浄に関する処理を実行する。本実施形態では、制御装置50の機能により、開閉装置およびローラーポンプ42が制御され、洗浄液容器40から洗浄液が濾過器10に供給されて濾過器10の自動洗浄が行われる。体腔液量のモニタリング、モニタリング情報に基づく洗浄開始の判断、および濾過器10の自動洗浄は、第2処理部54の機能により実行される。
【0063】
体腔液処理システム1は、体腔液量のモニタリングに使用される監視装置60を備える。なお、体腔液処理システム1は、体腔液に作用する圧力が実質的に一定である定圧式のシステムであるから、体腔液の濾過濃縮処理において体腔液量を計測する必要はない。即ち、監視装置60は、主に濾過器10の自動洗浄を実行する目的でシステムに搭載されている。監視装置60による計測情報は、制御装置50に送信され、濾過器10の洗浄を行うか否かの判断に使用される。
【0064】
監視装置60は、例えば、濾過器10を通過した体腔液の流量、濾過器10に供給される体腔液の流量、濾過器10を通過した体腔液の処理量、および濾過器10に供給される体腔液の処理量の少なくとも1つを計測する。ここで、流量とは、単位時間当たりに流れる体腔液の量を意味し、処理量とは、濾過処理される体腔液の総量を意味する。監視装置60は、流路20に設置される流速計であってもよく、原液容器11の重量等を計測する計量計であってもよい。
【0065】
監視装置60は、原液容器11、回収容器12、および廃液容器14の少なくとも1つの重量を計測するように構成されていてもよい。なお、補助ポンプ16により濃縮器13から一定の流量で処理済みの体腔液が回収容器12に回収される場合、原液容器11の重量減少と、回収容器12と廃液容器14の重量増加の関係は略一定となる。このため、上記いずれかの容器の重量を計測することで、濾過器10を通過する体腔液量を正確にモニタリングできる。また、各容器の重量から、濾過器10を通過する体腔液の流量が算出されてもよい。
【0066】
制御装置50は、監視装置60を用いて体腔液量をモニタリングし、当該モニタリング情報に基づいて濾過器10の洗浄を行うタイミングを判断する。制御装置50は、例えば、体腔液の流量が所定の閾値以下になったことを条件として、濾過器10の自動洗浄を開始する。或いは、体腔液の処理量が所定の閾値以上になったことを条件として、濾過器10の自動洗浄を開始してもよい。
【0067】
制御装置50は、濾過器10の洗浄前に、濾過器10の出口側に存在する処理済み体腔液を回収容器12に回収するように構成されている。言い換えると、制御装置50は、処理済み体腔液の回収容器12への回収が完了した後、濾過器10の自動洗浄を開始するように構成されている。この場合、濾過器10の洗浄プロセスで洗浄廃液として廃棄される処理済みの体腔液量を低減できる。回収容器12への処理済み体腔液の回収は、第3処理部55の機能により実行される。
【0068】
制御装置50は、開閉装置30を閉じて濾過器10への体腔原液の供給を停止した後、ポンプ15の駆動を所定時間継続することにより、濾過器10の出口側に存在する処理済み体腔液を回収容器12に回収してもよい。或いは、開閉装置および洗浄手段を制御し、第3ライン23を介して第2ライン22に洗浄液を供給することにより、処理済み体腔液を回収容器12に回収してもよい。洗浄液を用いて処理済み体腔液を濃縮器13に流す場合、体腔液を迅速に回収できると共に、体腔液の回収量が増加する。
【0069】
制御装置50は、濾過器10の洗浄前に、濾過器10の入口側に存在する体腔原液を原液容器11に戻すように構成されている。言い換えると、制御装置50は、体腔原液の原液容器11への回収が完了した後、濾過器10の自動洗浄を開始するように構成されている。この場合、濾過器10の洗浄プロセスで洗浄廃液として廃棄される体腔液量を低減できる。原液容器11への体腔原液の回収は、第4処理部56の機能により実行される。
【0070】
制御装置50は、洗浄ラインに第4ライン24が存在する場合、開閉装置および洗浄手段を制御し、第4ライン24を介して第1ライン21に洗浄液を供給し、体腔原液を原液容器11に戻すように構成されている。本実施形態では、第4ライン24から洗浄廃液ライン26を介して濾過器10の入口側に洗浄液を供給することにより、濾過器10の入口側に溜まった体腔原液を洗浄液で押し流し、第1ライン21を介して原液容器11に戻す。このとき、洗浄液が洗浄廃水容器41に流れないように、開閉装置44が閉じられていることが好ましい。
【0071】
或いは、制御装置50は、開閉装置および洗浄手段を制御し、第3ライン23を介して第1ライン21に洗浄液を供給することにより、体腔原液を原液容器11に戻してもよい。即ち、濾過膜の洗浄プロセスと同じ経路で洗浄剤を濾過器10の入口側に供給して、濾過器10の入口側に存在する体腔原液を原液容器11に戻す。このとき、洗浄剤が第2ライン22および洗浄廃水容器41に流れないように、開閉装置31,44が閉じられている。
【0072】
制御装置50は、第3ライン23からの洗浄剤の供給を利用して体腔原液を原液容器11も戻す場合、ローラーポンプ42を制御して、原液容器11への体腔原液の回収時に濾過器10に供給される洗浄剤の流速(供給速度)を、濾過膜の洗浄時に濾過器10に供給される洗浄剤の流速よりも遅くすることが好ましい。この場合、濾過膜に詰まった細胞成分が外れ難くなり、体腔原液中の細胞成分の増加を抑制できる。
【0073】
濾過器10の洗浄を行う際には、開閉装置30,31,45が閉、開閉装置43,44が開の状態で、ローラーポンプ42を動作させることにより、洗浄液容器40の洗浄液が第3ライン23を介して濾過器10の出口側から濾過膜の内側領域に供給される。そして、洗浄液は濾過膜に詰まった細胞成分を濾過膜の外側領域に押し流し、洗浄廃液が洗浄廃液ライン26を介して洗浄廃水容器41に回収される。
【0074】
制御装置50は、例えば、濾過器10に供給される洗浄液量が所定の閾値以上になったことを条件として、洗浄液の供給を停止し、濾過器10の洗浄を終了する。洗浄液量は、ローラーポンプ42の設定流量から求められる。或いは、洗浄液容器40の重量減少、又は洗浄廃水容器41の重量増加を計測して洗浄液量を求めることも可能である。制御装置50は、濾過器10の洗浄終了後、開閉装置43,44を閉じ、開閉装置30,31を開いて、体腔液の濾過濃縮処理を自動的に再開することが好ましい。
【0075】
制御装置50は、洗浄ラインの上流側の圧力が所定の閾値を超えたときに、ローラーポンプ42を制御して濾過器10への洗浄液の供給速度を下げてもよい。この場合、濾過器10に高い圧力が加わることが抑制され、濾過膜の損傷を防止できる。例えば、第3ライン23に圧力計が設置され、当該圧力計の計測値に基づいてローラーポンプ42が制御される。
【0076】
以下、図4および図5のフローチャートを参照しながら、濾過器10の洗浄プロセスの一例について説明する。
【0077】
図4に示すように、体腔液処理システム1,2では、体腔液の濾過濃縮処理において体腔液量をモニタリングしている(ステップS1)。体腔液の濾過濃縮処理は定圧条件で行われるため、体腔液量のモニタリング情報は濾過器10の自動洗浄を実行するために使用される。制御装置50は、監視装置60から体腔液量に関する計測値を取得し、体腔液量と所定の閾値を比較する(ステップS2)。所定の閾値は、濾過器10の洗浄が適切なタイミングで実行されるように、実験、シミュレーション等により決定される。
【0078】
ステップS2において、体腔液の流量が所定の閾値以下であるか否かを判定する。体腔液の流量が閾値以下になった場合(ステップS2のYes)、原液容器11からの体腔原液の供給を停止し、所定の流路20を開閉して、濾過器10に洗浄液の供給を開始する(ステップS3~S5)。即ち、制御装置50は、体腔液量のモニタリング情報から濾過器10の目詰まりの状態を把握して洗浄のタイミングを判断し、体腔液の濾過濃縮処理を中断して濾過器10の洗浄を自動的に開始する。
【0079】
ステップS2では、体腔液の流量と閾値を比較しているが、流量の代わりに体腔液の処理量を用いてもよい。ステップS3では、ポンプ15を停止することにより、或いは原液容器11と吸引ラインの間で流路20を閉じることにより、濾過器10への体腔原液の供給を停止する。ステップS4では、開閉装置30,31を閉操作して第1ライン21と第2ライン22を閉じた後、開閉装置43,44を開操作して第3ライン23と洗浄廃液ライン26を開く。これにより、洗浄液が洗浄液容器40から濾過器10を経て洗浄廃水容器41まで流通可能になる。
【0080】
ステップS5では、ローラーポンプ42を駆動させて洗浄液容器40から濾過器10の出口側に洗浄液を供給する。洗浄液は、濾過膜の内側領域に連通した通液口から濾過器10に導入され、濾過膜に詰まった細菌やがん細胞等の細胞成分を濾過膜の外側領域(濾過器10の入口側)に押し出す。第1ライン21は開閉装置30により閉じられているので、細胞成分を含む洗浄廃水は、洗浄廃液ライン26を介して洗浄廃水容器41に回収される。
【0081】
ステップS6~S9において、制御装置50は、濾過器10の洗浄を終了し、体腔液の濾過濃縮処理を再開する。ステップS6では、洗浄液の供給量に基づいて洗浄の終点を判断している。洗浄液の供給量は、例えば、ローラーポンプ42の設定流量から算出できる。洗浄液の供給量が所定の閾値以上となった場合(ステップS6のYes)に、ローラーポンプ42を停止して洗浄液の供給を停止する(ステップS7)。所定の閾値は、濾過器10の洗浄レベルが目標とするレベルに達するように、実験、シミュレーション等により決定される。
【0082】
ステップS8では、開閉装置43,44を閉操作して第3ライン23と洗浄廃液ライン26を閉じた後、開閉装置30,31を開操作して第1ライン21と第2ライン22を開く。そして、ステップS3でポンプ15を停止している場合には、ポンプ15を再稼働させ、体腔原液の供給を再開する(ステップS9)。なお、ポンプ15を停止していない場合には、ステップS8で第1ライン21と第2ライン22を開くことにより、体腔液の濾過濃縮処理が再開されてもよい。
【0083】
図5に示すプロセスは、図4のステップS4とS5の間に、ステップS10,S11が追加されたものである。ステップS10,S11を設けることにより、濾過器10内および流路20に存在する処理済みの体腔液および未処理の体腔原液が、洗浄廃液として廃棄される量を低減できる。なお、ステップS10,S11の一方のみを行うことも可能である。また、ステップS10,S11の順序は逆であってもよい。
【0084】
ステップS10では、濾過器10の洗浄を開始する前に、濾過器10の下流側に存在する処理済みの体腔液を回収容器12に回収する。このとき、開閉装置30,44を閉じ、開閉装置31,43を開として(ステップS4)、ローラーポンプ42を駆動させて洗浄液を濾過器10の出口側(濾過膜の内側領域)に供給することが好ましい。洗浄液は、濾過器10内に存在する処理済みの体腔液を濾過器10から押し出し、第2ライン22を介して濃縮器13に供給する。そして、濃縮器13で濃縮された体腔液が回収容器12に回収される。ステップS10では、第3ライン23を介して第2ライン22に洗浄液を供給することにより、処理済み体腔液が回収容器12に回収される。
【0085】
ステップS11では、濾過器10の洗浄を開始する前に、濾過器10の上流側に存在する未処理の体腔原液を原液容器11に戻す。このとき、開閉装置31,43,44を閉じ、開閉装置30,45を開として(ステップS4)、ローラーポンプ42を駆動させて洗浄液を濾過器10の入口側(外側領域)に供給することが好ましい。洗浄液は、濾過器10内に存在する体腔原液を濾過器10から押し出し、第1ライン21を介して原液容器11に戻す。ステップS11では、第4ライン24を介して第1ライン21に洗浄液を供給することにより、体腔原液が原液容器11に回収される。
【0086】
ステップS11では、濾過膜の洗浄プロセスと同じ経路で、即ち第3ライン23を介して洗浄剤を濾過器10の入口側に供給し、濾過器10の入口側に存在する体腔原液を原液容器11に戻すことも可能である。この場合、濾過膜に詰まった細胞成分が押し流されないように、濾過器10への洗浄剤の供給速度を、濾過器10の洗浄プロセス(図4のステップS5)における洗浄剤の供給速度よりも遅くすることが好ましい。体腔原液の回収時における洗浄剤の供給速度は、例えば、濾過器10の洗浄時における洗浄剤の供給速度の0.5倍以下である。
【0087】
以上のように、上述の構成を備えた体腔液処理システム1,2によれば、濾過器10の洗浄前に、濾過器10および流路20内に存在する処理済みの体腔液を回収容器12に回収でき、未処理の体腔原液を原液容器11に戻すことができる。このため、濾過器10の洗浄過程で廃棄される体腔液量を大幅に低減できる。特に、濾過器内および流路内に存在する体腔液を洗浄液で押し流すことにより、体腔液の回収率が向上する。
【0088】
また、定圧式の体腔液処理システム1,2によれば、体腔液の濾過濃縮処理において、体腔液に高い圧力が加わらず副作用の発生を十分に抑制できる。そして、処理される体腔液量をモニタリングすることにより、適切なタイミングで濾過器10の洗浄を自動で行うことができる。体腔液処理システム1,2によれば、例えば、濾過器10の洗浄および洗浄後の体腔液の処理の再開が自動で行われる。このため、ユーザーの作業負担が大きく軽減される。
【0089】
なお、上述の実施形態は本発明の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。例えば、上述の実施形態では、洗浄液容器40とローラーポンプ42を有する洗浄手段を例示したが、洗浄液の供給源および供給手段には、シリンジとシリンジポンプなど、他の構成を適用することも可能である。また、ローラーポンプ42の代わりに、洗浄液の供給手段としてポンプ15又は追加の吸引機を用いてもよい。
【0090】
上述の実施形態では、濾過器10の洗浄に関する処理として、自動洗浄を行う場合を例示したが、上述のように、体腔液量のモニタリング情報に基づき、濾過器10の洗浄を促す情報をユーザーに報知してもよい。この場合、体腔液処理システムには、濾過器10の洗浄を開始させる洗浄ボタンが設置されていてもよい。
【0091】
上述の実施形態では、洗浄ラインを構成する第3ライン23が濾過器10の出口側の通液口に接続されているが、洗浄ラインは第2ライン22に接続されていてもよい。この場合、第2ライン22の一部を介して濾過器10の出口側に洗浄剤が供給される。なお、濃縮器13に洗浄剤が流れないように、第2ライン22には、洗浄ラインの接続部と濾過器13の間に開閉装置が設置される。
【符号の説明】
【0092】
1 体腔液処理システム、10 濾過器、11 原液容器、12 回収容器、13 濃縮器、14 廃液容器、15 ポンプ、16 補助ポンプ、20 流路、21 第1ライン、22 第2ライン、23 第3ライン、24 第4ライン、25 廃液ライン、26 洗浄廃液ライン、30,31,43,44,45 開閉装置、32 逆止弁、40 洗浄液容器、41 洗浄廃水容器、42 ローラーポンプ、50 制御装置、51 プロセッサ、52 メモリ、53 第1処理部、54 第2処理部、55 第3処理部、56 第4処理部、60 監視装置
図1
図2
図3
図4
図5