(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075583
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】樹脂成形材料、成形品および当該成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20230524BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20230524BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230524BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20230524BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20230524BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20230524BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K5/09
C08K3/22
C08K5/54
C08K5/3445
C08L65/00
C08G59/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188573
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】北田 哲也
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002AE033
4J002CD041
4J002CE002
4J002DE116
4J002EF059
4J002EU118
4J002EX037
4J002EX077
4J002FD142
4J002FD158
4J002FD163
4J002FD206
4J002GR02
4J036AE05
4J036DC40
4J036FA06
4J036FA10
4J036FB06
4J036GA28
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】低温での成形プロセスにおいて金型等への充填性に優れており、成形性に優れた樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂成形材料は、(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)直鎖の炭素数が8~20の脂肪酸を含む分散剤と、(D)軟磁性粒子と、を含む、
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)直鎖の炭素数が8~20の脂肪酸を含む分散剤と、
(D)軟磁性粒子と、
を含む、樹脂成形材料。
【請求項2】
前記軟磁性粒子(D)の含有率は70体積%以上85体積%以下である、請求項1に記載の樹脂成形材料。
【請求項3】
前記脂肪酸の融点が78℃以下である、請求項1または2に記載の樹脂成形材料。
【請求項4】
前記脂肪酸は、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、エレオステアリン酸、及びアラキジン酸から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項5】
さらに、下記一般式(1)で表される化合物(E)を含む、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【化1】
(一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基または炭素数1~3のアルキル基を示し、少なくとも2つのRは炭素数1~3のアルコキシ基であり、
Lは、炭素数5~17の直鎖状または分岐状アルキレン基を示し、
Xは、ビニル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、メチル基を示す。)
【請求項6】
さらに離型剤(F)を含む、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項7】
前記離型剤(F)の融点が80℃~95℃である、請求項6に記載の樹脂成形材料。
【請求項8】
前記硬化剤(B)はフェノール系硬化剤を含む、請求項1~7のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂(A)および前記フェノール系硬化剤の少なくとも一方が、ビフェニルアラルキル構造を有する、請求項8に記載の樹脂成形材料。
【請求項10】
さらにイミダゾール触媒(G)を含む、請求項1~9のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項11】
100℃~150℃での低温硬化性材料である、請求項1~10のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項12】
高化式粘度測定装置を用いて、測定温度130℃、荷重40kgfの条件で測定される高化式粘度が100Pa・s以上800Pa・s以下である、請求項1~11のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項13】
23℃でタブレット状または顆粒状である、請求項1~12のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項14】
請求項1~13いずれかに記載の樹脂成形材料を硬化してなる成形品。
【請求項15】
トランスファー成形装置を用いて、請求項1~13のいずれかに記載の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入する工程と、
前記溶融物を100℃~150℃で硬化する工程と、
を含む、成形品の製造方法。
【請求項16】
請求項1~13のいずれかに記載の樹脂成形材料を100℃~150℃で圧縮成形する工程を含む、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形材料、成形品および当該成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型・軽量化に伴い、成形性が高い、磁性粒子を含む樹脂成形材料が求められている。磁性粒子は軟磁性粒子と硬磁性粒子の2種類に分類される。
【0003】
特許文献1には、金属元素含有粉と、樹脂組成物と、を備え、前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂、及びシロキサン結合を有する化合物を含有する、コンパウンドが開示されている。当該文献には、140℃でトランスファー成形により、成形体を作製したと記載されている。
【0004】
特許文献2には、金属元素含有粉と、樹脂組成物と、を備えるコンパウンドであって、所定の式で定義される前記コンパウンドの硬化物のストレス指数が、所定の範囲にあるコンパウンドが開示されている。当該文献には、140℃でトランスファー成形により、成形体を作製したと記載されている。
【0005】
特許文献3には、エポキシ樹脂と、硬化剤と、所定のシリコン含有化合物と、軟磁性粒子と、離型剤とを含む樹脂成形材料が開示されている。当該文献には、離型剤として脂肪酸が例示されているが、脂肪酸を用いた具体的な例は記載されていない。
【0006】
特許文献4には、結晶性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、フェノール樹脂、モンタン酸エステルを含むワックス、及びイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物と、所定量の金属元素含有粉と、を含むコンパウンドが開示されている。当該文献には、ワックスとして脂肪酸が例示されているが、脂肪酸を用いた具体的な例は記載されていない。
【0007】
特許文献5には、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、カルボン酸系分散剤と、磁性粒子と、を含む固体状樹脂成形材料が開示されている。当該文献には、離型剤として脂肪酸が例示されているが、脂肪酸を用いた具体的な例は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/229960号
【特許文献2】国際公開第2019/229961号
【特許文献3】特開2021-80411号公報
【特許文献4】国際公開第2019/106813号
【特許文献5】国際公開第2021/132434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、高温に弱い部品が増加しており、低温での成形プロセス(100~150℃程度)に対応できる材料が求められている。
しかしながら、成形時の温度が低いと、成形材料の粘度が上昇し、流動性が低下することから成形性に改善の余地があった。特許文献1~5に記載の従来の技術においては、低温での成形プロセスにおいて金型内に未充填部分が発生する場合があり、成形性に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、軟磁性粒子を含む樹脂成形材料において特定の脂肪酸を分散剤として用いることで、低温での成形プロセスにおいて成形性が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0011】
本発明によれば、
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)直鎖の炭素数が8~20の脂肪酸を含む分散剤と、
(D)軟磁性粒子と、
を含む、樹脂成形材料が提供される。
【0012】
本発明によれば、
前記樹脂成形材料を硬化してなる成形品が提供される。
【0013】
本発明によれば、
トランスファー成形装置を用いて、前記樹脂成形材料の溶融物を金型に注入する工程と、
前記溶融物を100℃~150℃で硬化する工程と、
を含む、成形品の製造方法が提供される。
【0014】
本発明によれば、
前記樹脂成形材料を100℃~150℃で圧縮成形する工程を含む、成形品の製造方法が提供される。
【0015】
なお、本発明において「低温での成形プロセス」とは、注入工程、金型内での硬化工程の温度が100℃~150℃程度であるプロセスを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低温での成形プロセスにおいて金型等への充填性に優れており、成形性に優れた樹脂成形材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る構造体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0019】
本実施形態の樹脂成形材料は、エポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、直鎖の炭素数が8~20の脂肪酸(C1)を含む分散剤(C)と、軟磁性粒子(D)と、を含む。
本実施形態の樹脂成形材料は、低温での成形プロセスにおいて金型への充填性に優れており成形性に優れる。軟磁性粒子(D)と前記脂肪酸のカルボキシル基とが相互作用し、軟磁性粒子(D)の流動性が向上し溶融粘度が低下すると推察される。
【0020】
[エポキシ樹脂(A)]
エポキシ樹脂(A)としては、本発明の効果を奏する範囲で、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0021】
エポキシ樹脂(A)として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0022】
本実施形態の樹脂成形材料は、エポキシ樹脂を1種のみ含んでもよいし、2種類以上含んでもよい。また、同種のエポキシ樹脂であっても異なる分子量のものを併用してもよい。
【0023】
本実施形態のエポキシ樹脂(A)は、本発明の効果の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂、およびビフェニル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂がより好ましく、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂がさらに好ましい。
【0024】
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂とは、具体的には、メタン(CH4)の4つの水素原子のうちの3つがベンゼン環で置換された部分構造を含むエポキシ樹脂である。ベンゼン環は、無置換であっても置換基で置換されていてもよい。置換基としては、ヒドロキシ基やグリシジルオキシ基などを挙げることができる。
【0025】
具体的には、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂は、以下一般式(a1)で表される構造単位を含む。この構造単位が2つ以上連なることで、トリフェニルメタン骨格が構成される。
【0026】
【0027】
一般式(a1)において、
R11は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
R12は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
iは、0~3の整数であり、
jは、0~4の整数である。
【0028】
R11およびR12の1価の有機基の例としては、後述の一般式(BP)におけるRaおよびRbの1価の有機基として列挙されているものを挙げることができる。
iおよびjは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0029】
一態様として、iおよびjはともに0である。つまり、一態様として、一般式(a1)中のベンゼン環の全ては、1価の置換基としては、明示されたグリシジルオキシ基以外の置換基を有しない。
【0030】
ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造を含むエポキシ樹脂のことである。ここでのベンゼン環は、置換基を有していてもいなくてもよい。
具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP)で表される部分構造を有する。
【0031】
【0032】
一般式(BP)において、
RaおよびRbは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
rおよびsは、それぞれ独立に、0~4であり、
*は、他の原子団と連結していることを表す。
【0033】
RaおよびRbの1価の有機基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0034】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
【0035】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
【0036】
RaおよびRbの1価の有機基の総炭素数は、それぞれ、例えば1~30、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、特に好ましくは1~6である。
rおよびsは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。一態様として、rおよびsはともに0である。
【0037】
より具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP1)で表される構造単位を有するビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0038】
【0039】
一般式(BP1)において、
RaおよびRbの定義および具体的態様は、一般式(BP)と同様であり、
rおよびsの定義および好ましい範囲は、一般式(BP)と同様であり、
Rcは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
tは、0~3の整数である。
Rcの1価の有機基の具体例としては、RaおよびRbの具体例として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
tは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0040】
本実施形態の樹脂成形材料中のエポキシ樹脂の量は、例えば0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%である。
本実施形態の樹脂成形材料中のエポキシ樹脂の量は、例えば0.5~30体積%、好ましくは3~20体積%である。
【0041】
[硬化剤(B)]
硬化剤(B)は、エポキシ樹脂(A)が有するエポキシ基と反応して結合形成可能なものである限り、特に限定されない。例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、芳香族ジアミン、ジシアミンジアミドのようなアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなフェノール化合物、イミダゾール化合物等を挙げることができる。特定硬化剤としては、これらの中から、23℃で固形のものを挙げることができる。
【0042】
硬化剤(B)は、特に特定硬化剤として、好ましくはフェノール系硬化剤(フェノール化合物)を含む。これにより、最終的に得られる成形体の耐久性の一層の向上などが期待できる。フェノール系硬化剤は、典型的には、1分子あたり2以上のヒドロキシ基を有する。
【0043】
フェノール系硬化剤は、好ましくは、ノボラック骨格およびビフェニル骨格からなる群より選ばれるいずれかの骨格を含む。フェノール系硬化剤がこれらの骨格のいずれかを含むことで、特に成形体の耐久性を高めることができる。
「ビフェニル骨格」とは、具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP)のように、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造である。
【0044】
ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤として具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP1)において、グリシジル基を水素原子に置き換えたビフェニルアラルキル型のものなどを挙げることができる。
ノボラック骨格を有するフェノール系硬化剤として、具体的には以下一般式(N)で表される構造単位を有するものを挙げることができる。
【0045】
【0046】
一般式(N)において、
R4は、1価の置換基を表し、
uは、0~3の整数である。
R4の1価の置換基の具体例としては、一般式(BP)におけるRaおよびRbの1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
uは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1であり、更に好ましくは0である。
【0047】
本実施形態においては、フェノール硬化剤は、ノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂およびザイロック型フェノール樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂であることがより好ましい。
【0048】
フェノール硬化剤が高分子またはオリゴマーである場合、フェノール硬化剤の数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算値)は、例えば200~800程度である。
【0049】
樹脂成形材料中のフェノール硬化剤の含有量は、例えば0.1~20質量%、好ましくは0.5~10質量%である。
また、樹脂成形材料中のフェノール硬化剤の含有量は、例えば0.5~60体積%、好ましくは3~40体積%である。
【0050】
フェノール硬化剤の量を適切に調整することにより、流動性を一層向上させることができ、得られる硬化物の機械特性や磁気特性を向上させることができる。
【0051】
本実施形態においては、本発明の効果の観点、特に金型内への充填性の観点から、エポキシ樹脂(A)およびフェノール硬化剤の少なくとも一方がビフェニルアラルキル構造を有し、好ましくは何れもビフェニルアラルキル構造を有する。
本実施形態の樹樹脂成形材料は、エポキシ樹脂(A)およびフェノール硬化剤の少なくとも一方がビフェニルアラルキル構造を含むことから、低温での成形プロセスにおいて反応性を低下させることができ、さらに脂肪酸(C1)を含むことから、樹脂成形材料の溶融粘度をさらに安定して低下させることができる。すなわち、このような樹樹脂成形材料は、金型等への充填性により優れており成形性に優れる。
【0052】
フェノール硬化剤のフェノール性水酸基当量cに対するエポキシ樹脂(A)のエポキシ当量bの当量比(b/c)が、本発明の効果のバランスの観点から、1.4以上6.5以下、好ましくは1.5以上6.0以下、より好ましくは2.0以上6.0以下、さらに好ましくは2.0以上4.0以下とすることができる。
【0053】
[分散剤(C)]
本実施形態において、分散剤(C)は、直鎖の炭素数が8~20の脂肪酸(C1)を含む。
【0054】
脂肪酸(C1)の直鎖の炭素数は、本発明の効果の観点から、好ましくは8~18、より好ましくは10~18、さらに好ましくは12~18である。
軟磁性粒子(D)表面に脂肪酸(C1)のカルボキシル基が結合していると考えられ、直鎖の炭素数が上記範囲内であると軟磁性粒子相互の分散性が向上し、樹脂成形材料の溶融粘度が低下すると考えられる。
【0055】
脂肪酸(C1)の融点は、好ましくは78℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは73℃以下である。融点の下限値は特に限定されないが、5℃以上程度である。脂肪酸(C1)の融点が当該範囲であると、軟磁性粒子の流動性が向上し、低温成形プロセスにおいて樹脂成形材料の溶融粘度が低下すると考えられる。
【0056】
脂肪酸(C1)としては、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸等が挙げられ、これらから選択される少なくとも1種を含むことができる。
脂肪酸(C1)としては、本発明の効果の観点から、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
【0057】
本実施形態において、分散剤(C)は、脂肪酸(C1)以外の分散剤として、カルボン酸系分散剤等を含むことができる。
前記カルボン酸系分散剤としてはCRODA社製の、Hypermer KD-4(質量平均分子量:1700、酸価:33mgKOH/g)、Hypermer KD-9(質量平均分子量:760、酸価:74mgKOH/g)、Hypermer KD-16(質量平均分子量:370、酸価:299mgKOH/g)等を挙げることができる。
【0058】
樹脂成形材料中の脂肪酸(C1)の含有量は、例えば0.01~5質量%、好ましくは0.05~3質量%である。
また、樹脂成形材料中の脂肪酸(C1)の含有量は、例えば0.05~5体積%、好ましくは0.2~2体積%である。
【0059】
[軟磁性粒子(D)]
軟磁性とは、保磁力が小さい強磁性のことを指し、一般的には、保磁力が800A/m以下である強磁性のことを軟磁性という。
【0060】
軟磁性粒子(D)の構成材料としては、構成元素としての鉄の含有率が85質量%以上である金属含有材料が挙げられる。このように構成元素としての鉄の含有率が高い金属材料は、透磁率や磁束密度等の磁気特性が比較的良好な軟磁性を示す。このため、例えば磁性コア等に成形されたとき、良好な磁気特性を示し得る樹脂成形材料が得られる。
【0061】
上記の金属含有材料の形態としては、例えば、単体の他、固溶体、共晶、金属間化合物のような合金等が挙げられる。このような金属材料で構成された粒子を用いることにより、鉄に由来する優れた磁気特性、すなわち、高透磁率や高磁束密度等の磁気特性を有する樹脂成形材料を得ることができる。
【0062】
また、上記の金属含有材料は、構成元素として鉄以外の元素を含んでいてもよい。鉄以外の元素としては、例えば、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。本実施形態においては、Fe、Ni、Si及びCoから選ばれる1種類以上の元素を主要元素として含むことができる。
【0063】
上記の金属含有材料の具体例としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、鉄-アルミニウム合金、カルボニル鉄、ステンレス鋼、またはこれらのうちの1種もしくは2種以上を含む複合材料等が挙げられる。入手性などの観点からケイ素鋼やカルボニル鉄を好ましく用いることができる。
軟磁性粒子(Fe基軟磁性粒子)はそれ以外の粒子であってもよい。例えば、Ni基軟磁性粒子、Co基軟磁性粒子等を含む磁性体粒子であってもよい。
【0064】
軟磁性粒子(D)の、体積基準におけるメジアン径D50は、好ましくは0.5~75μm、より好ましくは0.75~65μm、さらに好ましくは1~60μmである。粒径(メジアン径)を適切に調整することで、成形時の流動性を更に良好にしたり、磁性性能を向上させたりすることができる。
【0065】
なお、D50は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により得ることができる。具体的には、HORIBA社製の粒子径分布測定装置「LA-950」により、軟磁性粒子(D)を乾式で測定することで粒子径分布曲線を得、この分布曲線を解析することでD50を求めることができる。
【0066】
本実施形態の樹脂成形材料は、軟磁性粒子(D)を70体積%以上85体積%以下の量で含む。これにより得られる高飽和磁束密度の磁性材料を得ることができる。
本実施形態の樹脂成形材料は、上記の量の軟磁性粒子(D)を含んでいても、直鎖の炭素数が8~20の脂肪酸(C1)を含む分散剤(C)を用いていることから、低温での成形プロセスにおいて金型等への充填性に優れており、成形性に優れた樹脂成形材料を提供することができる。すなわち、脂肪酸(C1)を含む分散剤(C)を用いることで、トレードオフの関係にある磁性特性と成形性にバランスよく優れた樹脂成形材料を提供することができる。
【0067】
[化合物(E)]
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに、下記一般式(1)で表される化合物(E)を含むことができる。化合物(E)を含むことにより、樹脂成形材料の溶融粘度がより低くなり、成形性により優れる。
【0068】
【0069】
一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基または炭素数1~3のアルキル基を示し、少なくとも2つのRは炭素数1~3のアルコキシ基である。Rの全てが、炭素数1~3のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基であることがより好ましい。
【0070】
Lは、炭素数5~17の直鎖状または分岐状アルキレン基を示す。Lは、炭素数6~15の直鎖状または分岐状アルキレン基であることが好ましく、炭素数6~12の直鎖状または分岐状アルキレン基であることがより好ましい。
Lが長鎖のアルキレン基であることにより、軟磁性粒子の表面に対する樹脂の濡れ性が改善され、成形性や流動性が向上すると推察される。
【0071】
Xは、ビニル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、メチル基を示す。Xは、本発明の効果の観点から、ビニル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、メチル基が好ましく、エポキシ基、グリシジルエーテル基、メチル基がより好ましい。樹脂成形材料の溶融時の流動性や得られる成形品の曲げ強度をより向上させる観点から、Xは、エポキシ基、グリシジルエーテル基が好ましい。
【0072】
一般式(1)で表される化合物としては、KBM-1083(オクテニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-3103C(デシルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-4803(グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-5803(メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)等を挙げることができる。
【0073】
本実施形態の樹脂成形材料は、一般式(1)で表される化合物を0.01~0.5質量%、好ましくは0.02~0.2質量%の量で含むことができる。これにより、より成形性に優れた樹脂成形材料を提供することができる。
【0074】
[離型剤(F)]
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに離型剤(F)を含むことができる。これにより、トランスファー成形後または圧縮成形後の離型性を高めることができる。離型剤(F)の融点は80℃~95℃であることが好ましい。
【0075】
離型剤(F)としては、例えばカルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィン、アルケン・マレイン酸無水物の重縮合物とステアリルアルコールとの反応生成物等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
離型剤(F)を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0076】
離型剤(F)を用いる場合、その含有量は、樹脂成形材料全体中、好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.05~2質量%である。これにより、離型性向上の効果を確実に得ることができる。
【0077】
[イミダゾール触媒(G)]
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに硬化促進剤としてイミダゾール触媒(G)を含むことができる。
【0078】
イミダゾール触媒(G)としては、イミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール(2P4MZ)、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシジメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールや2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
この中でも、低温硬化性と充填性の向上の観点から、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、および2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールからなる群から選択される一種以上を含むことが好ましく、
2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、および2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールからなる群から選択される一種以上を含むことがより好ましい。
【0080】
イミダゾール触媒(G)の含有量は、樹脂成形材料全体に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.02~0.5質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
【0081】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂成形材料は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。例えば、低応力剤、密着助剤、着色剤、酸化防止剤、耐食剤、染料、顔料、難燃剤等のうち1または2以上を含んでもよい。
【0082】
(樹脂成形材料の形態)
本実施形態の樹脂成形材料は、23℃で、好ましくはタブレット状または顆粒状であり、より好ましくはタブレット状である。樹脂成形材料がタブレット状または顆粒状であることにより、樹脂成形材料の流通や保管がしやすく、また、トランスファー成形や圧縮成形に適用しやすい。
【0083】
(樹脂成形材料の製造方法)
本実施形態の樹脂成形材料は、工業的には、例えば、まず(1)ミキサーを用いて各成分を混合し、(2)その後、ロールを用いて、90℃前後で5分以上、好ましくは10分程度混練することにより混練物を得、(3)そして得られた混練物を冷却し、(4)さらにその後、粉砕することにより製造することができる。以上により、粉末状の樹脂成形材料を得ることができる。なお、本発明の効果の観点から、磁性粒子にあらかじめ一般式(1)の化合物を処理してから混合してもよい。
【0084】
粉末状の樹脂成形材料を打錠し、顆粒状やタブレット状にしてもよい。これにより、特にトランスファー成形法や圧縮成形法に用いることに適した樹脂成形材料が得られる。本実施形態の樹脂成形材料は、100℃~150℃での低温硬化性材料である。
【0085】
本実施形態の樹脂成形材料は、溶融粘度が低く、高化式粘度測定装置を用いて、測定温度130℃、荷重40kgfの条件で測定される高化式粘度が好ましくは100Pa・s以上800Pa・s以下、より好ましくは120Pa・s以上700Pa・s以下、さらに好ましくは150Pa・s以上600Pa・s以下である。
【0086】
<成形品>
本実施形態の成形品は、上述の樹脂成形材料を硬化して得ることができる。
本実施形態の成形品は上述のように飽和磁束密度が高い複合材料から構成されているため、高飽和磁束密度を実現することができ、1.0T以上、好ましくは1.2T以上、より好ましくは1.3T以上とすることができる。
【0087】
<成形品の製造方法>
成形品の製造方法は、特に限定されないが、トランスファー成形法または圧縮成形法等を挙げることができる。
【0088】
(トランスファー成形法)
トランスファー成形法による成形品の製造方法は、トランスファー成形装置を用いて、上述の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入する工程と、その溶融物を硬化させる工程とを含む。
【0089】
トランスファー成形については、公知のトランスファー成形装置を適宜用いるなどして行うことができる。具体的には、まず、予熱した樹脂成形材料を、トランスファー室とも言われる加熱室に入れて溶融し、溶融物を得る。その後、その溶融物をプランジャーで金型に注入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる。これにより、所望の成形物を得ることができる。
トランスファー成形は、成形品の寸法の制御性や、形状自由度の向上などの点で好ましい。
【0090】
トランスファー成形における各種条件は、任意に設定することができるが、本実施形態の樹脂成形材料は低温での成形プロセス(100~150℃程度)に成形性に優れていることから、例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は100~150℃、金型温度は100℃~150℃、金型に樹脂成形材料の溶融物を注入する際の圧力は1~20MPaの間で適宜調整することができる。
金型温度を高くしすぎないことで、成形物の収縮を抑えることができる。
【0091】
(圧縮成形法)
圧縮成形法(コンプレッション成形法)による成形品の製造方法は、前記樹脂成形材料を圧縮成形する工程を含む。
【0092】
圧縮成形については、公知の圧縮成形装置を適宜用いて行うことができる。具体的には、上方に開口した凹形状の固定金型の凹部内に前記樹脂成形材料を載置する。樹脂成形材料は予め加熱しておくことができる。これにより、成形品を均一に硬化させることができ、成形圧力を低くすることができる。
【0093】
次いで、上方から、凸形状の金型を凹形状の固定金型に移動して、凸部および凹部によって形成されたキャビティ内において樹脂成形材料を圧縮する。初めは低圧で樹脂成形材料を十分に軟化流動させ、次いで、金型を閉じて、再度加圧して所定時間硬化させる。
【0094】
圧縮成形における各種条件は、任意に設定することができるが、本実施形態の樹脂成形材料は低温での成形プロセス(100~150℃程度)に成形性に優れていることから、例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は100~150℃、金型温度は100~150℃、金型で樹脂成形材料を圧縮する際の圧力は1~20MPa、硬化時間60~300秒の間で適宜調整することができる。
金型温度を高くしすぎないことで、成形物の収縮を抑えることができる。
【0095】
本実施形態の樹脂成形材料は、高透磁率を有する磁性材料が得られることから、当該樹脂成形材料を硬化して得られる成形体は、インダクタ中の磁性コアや、磁性コアおよびコイルを封止する外装部材に使用することができる。
【0096】
本実施形態の樹脂成形材料の硬化物で構成された外装部材を備える構造体(一体型インダクタ)の概要について
図1を用いて説明する。
図1(a)は、構造体100の上面からみた構造体の概要を示す。
図1(b)は、
図1(a)におけるA-A’断面視における断面図を示す。
【0097】
本実施形態の構造体100は、
図1に示すように、コイル10および磁性コア20を備えることができる。磁性コア20は、空芯コイルであるコイル10の内部に充填されている。コイル10および磁性コア20は、外装部材30(封止部材)で封止されている。磁性コア20および外装部材30は、本実施形態の樹脂成形材料の硬化物で構成することができる。磁性コア20および外装部材30は、シームレスの一体部材として形成されていてもよい。
【0098】
本実施形態の構造体100の製造方法としては、例えば、コイル10を金型に配置し、本実施形態の樹脂成形材料を用いて、トランスファー成形等の金型成形することにより、当該樹脂成形材料を硬化させて、コイル10中に充填された磁性コア20およびこれらの周囲に外装部材30を一体化形成することができる。このときコイル10は、巻線の端部を外装部材30の外部に引き出した不図示の引き出し部を有してもよい。
【0099】
コイル10は、通常、金属線の表面に絶縁被覆を施した巻線を巻回した構造により構成される。金属線は、導電性の高いものが好ましく、銅、銅合金が好適に利用できる。また、絶縁被覆は、エナメルなどの被覆が利用できる。巻線の断面形状は、円形や矩形、六角形などが挙げられる。
【0100】
一方、磁性コア20の断面形状は、特に限定されないが、例えば、断面視において、円形形状や、四角形や六角形などの多角形状とすることができる。磁性コア20は、本実施形態の樹脂成形材料のトランスファー成形品で構成されるため、所望の形状を有することが可能である。
【0101】
本実施形態の樹脂成形材料の硬化物によれば、成形性および高透磁率などの磁気特性に優れた磁性コア20および外装部材30を実現できるため、これらを有する構造体100(一体型インダクタ)においては、低磁気損失が期待される。また、機械的特性に優れた外装部材30を実現できるため、構造体100の耐久性や信頼性、製造安定性を高めることが可能である。このため、本実施形態の構造体100は、昇圧回路用や大電流用のインダクタに用いることができる。
【0102】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0103】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
<比較例1、実施例1~2>
まず、表1に記載の各成分を、記載の比率で準備し、まず軟磁性粒子を混合しながら、そこにその他の成分を添加し均一に混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を、120℃、10分の条件で混練した。混練終了後、得られた混練物を室温まで冷却して固形状とし、そして粉砕、打錠成形した。以上により、タブレット状の樹脂成形材料を得た。
表1に記載された原料成分を以下に示す。表1における樹脂成形材料および成形品の評価結果を示す。なお、表1に記載された軟磁性体粒子の含有率(体積%)は、軟磁性粒子を含む樹脂成形材料を100体積%としたときの含有率(すなわち充填率)である。
【0105】
(軟磁性粒子)
・磁性粉1:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス社製、KUAMET6B2 053C03、メジアン径D50:23μm、Fe87質量%)
・磁性粉2:磁性粉(BASF社製、CIP-HQ、メジアン径D50:1.8μm、Fe97質量%)
【0106】
(化合物(E))
・カップリング剤1:CF-4083(フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング社製)
・カップリング剤2:KBM-3103C(デシルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製)
【0107】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC-3000L、23℃で固形、前掲の一般式(BP1)で表される構造単位含有)
【0108】
(硬化剤)
・フェノール硬化剤1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型樹脂(明和化成社製、MEH-7851SS)
【0109】
(触媒)
・イミダゾール触媒1:2,4-ジアミノ-6-〔2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)〕-エチル-s-トリアジン(四国化成社製、C11Z-A)
・イミダゾール触媒2:2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成社製、2P4MHZ-PW)
【0110】
(離型剤)
・ワックス:カルナバワックス(東亜化成社製、TOWAX-132)
【0111】
(分散剤)
・分散剤1:ステアリン酸(日本油脂社製、SR-サクラ)
【0112】
<評価>
(高化式粘度)
高化式粘度測定装置(高化式フローテスター、株式会社島津製作所、CFT-100EX)を用いて、測定温度130℃、荷重40kgf、ノズル寸法:直径1.0mm×長さ10mmの条件で、樹脂成形材料の高化式粘度を測定した。
【0113】
(圧縮成形性(コンプレッション成形性))
樹脂成形材料を、圧縮成形機(TOWA株式会社製、PMC1040)を用いて、金型温度130℃、成形圧力2MPa、硬化時間300秒で行い、縦:62mm×横:220mmの基板の表面に、縦:54mm×横:217mm×厚み:0.5mmtの成形体(磁性部材)を形成した。冷却後、金型内の硬化物(成形品)を取り出し、その外観を観察した。そして以下基準により圧縮成形性を評価した。
○(良い):得られた成形物に未充填箇所は認めらなかった。
×(悪い):得られた成形物に未充填箇所が認められた。
【0114】
(トランスファー成形性)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒間で注入成形し、50Φの円盤成形品を2個、10mm×80mm×4mmtの成形品を4個作製した。そして以下基準によりトランスファー成形性を評価した。
○(良好):得られた成形物に未充填箇所は認めらなかった。
×(不良):得られた成形物の1つでも未充填箇所が認められた。
【0115】
(比透磁率)
成形材料1を低圧トランスファー成形機により成形し、直径16mm、高さ32mmの円柱状成形物を得た。次に、得られた成形物について、電磁石型磁化器および交直流磁化特性記録装置(メトロン技研(株)製、MTR-1488)を用いて磁化曲線(B-H曲線)を取得した。そして、得られた初磁化曲線の傾きの最大値(最大透磁率)を求めるとともに、求めた最大透磁率を真空中の透磁率で除することにより、比透磁率を算出した。
【0116】
【0117】
表1の結果から、本発明に係る実施例の樹脂成形材料は、圧縮成形およびトランスファー成形において低温での成形プロセスにおいて金型等への充填性に優れており、成形性に優れるとともに、磁性特性にも優れていることが明らかとなった。