(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075597
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】老化現象抑制物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20230524BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230524BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALI20230524BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230524BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20230524BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230524BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12N15/11 Z
C12Q1/6897 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6837 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188594
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】502371646
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ティー・エイチ
(71)【出願人】
【識別番号】517049921
【氏名又は名称】ナチュラルプロダクトリサーチ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 聡一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA12
4B029FA15
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B063QA08
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ28
4B063QQ52
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR35
4B063QR42
4B063QR77
4B063QS03
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】老化現象抑制物質のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】wwcrtgraaaatgagaaatrym(配列番号1)、tndgaaanaata(配列番号2)、aaaantdawaawnntdgaawww(配列番号3)、tnwkntatnnnttaarnwkw(配列番号4)、drgvaavagarvnarrnrva(配列番号5)、carvcchvaghnchkscann(配列番号6)、nanavmasannshcwtnnvh(配列番号7)およびttsaaaからなる群から選択される塩基配列からなる核酸の1種以上と被験物質を接触させる工程、前記核酸と被験物質との相互作用状態を測定する工程、および前記核酸と結合する被験物質を選択する工程を含む、老化現象抑制物質のスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
wwcrtgraaaatgagaaatrym(配列番号1)、tndgaaanaata(配列番号2)、aaaantdawaawnntdgaawww(配列番号3)、tnwkntatnnnttaarnwkw(配列番号4)、drgvaavagarvnarrnrva(配列番号5)、carvcchvaghnchkscann(配列番号6)、nanavmasannshcwtnnvh(配列番号7)およびttsaaaからなる群から選択される塩基配列からなる核酸の1種以上と被験物質を接触させる工程、前記核酸と被験物質との相互作用状態を測定する工程、および前記核酸と結合する被験物質を選択する工程を含む、老化現象抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
さらに、選択した被験物質が前記塩基配列の下流の遺伝子発現量を低下させることを確認する工程を含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記老化現象が、運動機能の低下、筋力の低下、体力の低下、骨密度の低下、骨強度の低下、基礎代謝量の低下、免疫力の低下、視覚の低下、聴覚の低下、嗅覚の低下、味覚の低下、皮膚感覚の低下、消化吸収力の低下、腎機能の低下、体温調節能の低下、記憶力の低下、皮膚の変色、皮膚弾力性の低下、皮膚柔軟性の低下、皮膚含水量の減少、小皺、皺、皮膚表面の粗さ、白髪、脱毛、白内障、神経細胞数の減少、神経原繊維の減少、脳重量の減少、脳波の徐波化、気道粘膜の萎縮や繊毛運動の消失、気管支壁粘膜等の萎縮、肺胞面積の減少、肺活量および換気量の減少、動脈硬化、生殖能力の低下、卵巣機能の喪失、関節炎、神経的心理的不調、リンパ組織および脾重量の減少、悪性腫瘍発生率の上昇、頻尿、および、インスリン分泌能の低下からなる群から選択される老化現象である、請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記核酸と被験物質との相互作用状態を測定する工程が、ゲルシフトアッセイ、プルダウンアッセイ、クロマチン免疫沈降解析、レポーターアッセイ、フェルスター共鳴エネルギー移動解析、ELISAからなる群から選択される測定工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記遺伝子発現量を低下させることを確認する工程が、マイクロアレイ解析または定量PCR解析である、請求項2~4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を含む、化粧品。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を含む、飲食品。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を含む、飼料。
【請求項10】
wwcrtgraaaatgagaaatrym(配列番号1)、tndgaaanaata(配列番号2)、aaaantdawaawnntdgaawww(配列番号3)、tnwkntatnnnttaarnwkw(配列番号4)、drgvaavagarvnarrnrva(配列番号5)、carvcchvaghnchkscann(配列番号6)、nanavmasannshcwtnnvh(配列番号7)およびttsaaaからなる群から選択される塩基配列からなる核酸の1種以上を含む、老化現象抑制物質のスクリーニングキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化現象抑制物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老化現象の原因の一つとされる物質にAGEs(advanced glycation end products:糖化最終生成物)が知られているが、糖化タンパク質と老化現象の関係性に関する研究例は乏しい。糖化タンパク質と老化現象の関係性に関する研究例は、糖化反応の最終物質であるAGEs、例えば、Nε-カルボキシメチルリシン(CML)やNω-カルボキシメチルアルギニン(CMA)を精製あるいは合成し、単一の化合物を局所的に集積した条件で、AGEsに対する受容体(RAGE)に着目した研究がほとんどであり(例えば、非特許文献1)、生体内での反応を表す現実的な条件を反映しているとは考え難い。
【0003】
生体内での反応条件を反映するためには、糖化反応の途中の段階である糖化タンパク質が哺乳動物細胞にどのような影響を及ぼすかに着目することが要求される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kislinger T, Fu C, Huber B, Qu W, Taguchi A, Yan S D, Hofmann M, Yan S F, Pischetsrieder M, Stern D, Schmidt A M. J Biol Chem. (1999) Vol.274, No.44, pp.31740-31749.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、老化現象抑制物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]wwcrtgraaaatgagaaatrym(配列番号1)、tndgaaanaata(配列番号2)、aaaantdawaawnntdgaawww(配列番号3)、tnwkntatnnnttaarnwkw(配列番号4)、drgvaavagarvnarrnrva(配列番号5)、carvcchvaghnchkscann(配列番号6)、nanavmasannshcwtnnvh(配列番号7)およびttsaaaからなる群から選択される塩基配列からなる核酸の1種以上と被験物質を接触させる工程、前記核酸と被験物質との相互作用状態を測定する工程、および前記核酸と結合する被験物質を選択する工程を含む、老化現象抑制物質のスクリーニング方法。
[2]さらに、選択した被験物質が前記塩基配列の下流の遺伝子発現量を低下させることを確認する工程を含む、[1]に記載のスクリーニング方法。
[3]前記老化現象が、運動機能の低下、筋力の低下、体力の低下、骨密度の低下、骨強度の低下、基礎代謝量の低下、免疫力の低下、視覚の低下、聴覚の低下、嗅覚の低下、味覚の低下、皮膚感覚の低下、消化吸収力の低下、腎機能の低下、体温調節能の低下、記憶力の低下、皮膚の変色、皮膚弾力性の低下、皮膚柔軟性の低下、皮膚含水量の減少、小皺、皺、皮膚表面の粗さ、白髪、脱毛、白内障、神経細胞数の減少、神経原繊維の減少、脳重量の減少、脳波の徐波化、気道粘膜の萎縮や繊毛運動の消失、気管支壁粘膜等の萎縮、肺胞面積の減少、肺活量および換気量の減少、動脈硬化、生殖能力の低下、卵巣機能の喪失、関節炎、神経的心理的不調、リンパ組織および脾重量の減少、悪性腫瘍発生率の上昇、頻尿、および、インスリン分泌能の低下からなる群から選択される老化現象である、[1]または[2]に記載のスクリーニング方法。
[4]前記核酸と被験物質との相互作用状態を測定する工程が、ゲルシフトアッセイ、プルダウンアッセイ、クロマチン免疫沈降解析、レポーターアッセイ、フェルスター共鳴エネルギー移動解析、ELISAからなる群から選択される測定工程を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[5]前記遺伝子発現量を低下させることを確認する工程が、マイクロアレイ解析または定量PCR解析である、[2]~[4]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[6][1]~[5]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を有効成分として含む、医薬組成物。
[7][1]~[5]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を含む、化粧品。
[8][1]~[5]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を含む、飲食品。
[9][1]~[5]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法で選択された物質を含む、飼料。
[10]wwcrtgraaaatgagaaatrym(配列番号1)、tndgaaanaata(配列番号2)、aaaantdawaawnntdgaawww(配列番号3)、tnwkntatnnnttaarnwkw(配列番号4)、drgvaavagarvnarrnrva(配列番号5)、carvcchvaghnchkscann(配列番号6)、nanavmasannshcwtnnvh(配列番号7)およびttsaaaからなる群から選択される塩基配列からなる核酸の1種以上を含む、老化現象抑制物質のスクリーニングキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、老化現象抑制物質のスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者は、糖化反応の途中の段階である糖化タンパク質を哺乳動物細胞に接触させ、遺伝子発現量の変化を網羅的に解析した。さらに、糖化タンパク質の接触により発現量が上昇する遺伝子の転写開始点付近の塩基配列を解析し、哺乳動物において高度に保存されている8種類のコンセンサス配列を特定した(実施例の表1参照)。糖化タンパク質は老化現象に関与することから、これらのコンセンサス配列と特異的に結合し、下流遺伝子の転写を抑制する物質は、老化現象を抑制し得る物質であると考えられる。
【0009】
本発明は、老化現象抑制物質のスクリーニング方法(以下「本発明のスクリーニング方法」と記す)を提供する。本発明のスクリーニング方法は、以下の工程(1)~(3)を含むものであればよい。
(1)wwcrtgraaaatgagaaatrym(配列番号1)、tndgaaanaata(配列番号2)、aaaantdawaawnntdgaawww(配列番号3)、tnwkntatnnnttaarnwkw(配列番号4)、drgvaavagarvnarrnrva(配列番号5)、carvcchvaghnchkscann(配列番号6)、nanavmasannshcwtnnvh(配列番号7)およびttsaaaからなる群から選択される塩基配列からなる核酸の1種以上と被験物質を接触させる工程
(2)前記核酸と被験物質との相互作用状態を測定する工程
(3)前記核酸と結合する被験物質を選択する工程
【0010】
老化現象とは、加齢に伴って不可逆的に生じる種々の現象を指す。例えば、運動機能の低下、平衡感覚の低下、筋力の低下、体力の低下、骨密度および骨強度の低下、基礎代謝量の低下、免疫力の低下、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・皮膚感覚)の低下、消化吸収力の低下、腎機能の低下、体温調節能の低下、記憶力の低下、皮膚の変色、皮膚弾力性の低下、皮膚柔軟性の低下、皮膚含水量の減少、小皺、皺、皮膚表面の粗さ、白髪、脱毛、白内障、神経細胞数の減少、神経原繊維の減少、脳重量の減少、脳波の徐波化、気道粘膜の萎縮や繊毛運動の消失、気管支壁粘膜等の萎縮、肺胞面積の減少、肺活量および換気量の減少、動脈硬化、生殖能力の低下、卵巣機能の喪失、関節炎、神経的心理的不調、リンパ組織および脾重量の減少、悪性腫瘍発生率の上昇、頻尿、インスリン分泌能の低下等が挙げられる。
【0011】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質は特に限定されず、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、核酸オリゴ、タンパク質、ペプチド等の単一物質、並びに化合物ライブラリ、核酸オリゴライブラリ、ペプチドライブラリ、遺伝子ライブラリの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物、動物細胞抽出物等を挙げることができる。被験物質は、新規な物質であってもよく、公知の物質であってもよい。これらの被験物質は塩を形成していてもよい。被験物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩が好ましい。また、これらの被験物質は標識物質で修飾したものであってもよい。標識物質は、検出可能なものであれば特に限定されず、例えば、放射性同位体含有化合物、安定同位体含有化合物、ビオチン、脂質、蛍光色素分子、非蛍光色素分子、酵素、酵素基質、アフィニティタグ等が挙げられる。
【0012】
工程(1)では、前記塩基配列からなる核酸の1種以上と被験物質を接触させる。上記塩基配列を含む核酸は、人工的に合成されたオリゴヌクレオチドであってもよく、任意の哺乳動物細胞から公知の手法により抽出、単離、精製および/または増幅されたものであってもよい。オリゴヌクレオチドは、常法によって合成することができ、例えば、市販のDNA合成装置によって容易に合成することができる。また、これらの核酸は、標識物質で修飾したものであってもよい。標識物質は、検出可能なものであれば特に限定されず、例えば、放射性同位体含有化合物、安定同位体含有化合物、核酸類似化合物、ジゴキシゲニン、ビオチン、蛍光色素分子、非蛍光色素分子、酵素等が挙げられる。
【0013】
前記塩基配列からなる核酸と被験物質を接触させる方法は特に限定されない。例えば、被験物質を含む溶液に核酸を添加してもよく、核酸を含む溶液に被験物質を添加してもよく、核酸を含む溶液と被験物質を含む溶液を混合してもよく、水および緩衝液等の媒体中で核酸と被験物質を混合してもよい。核酸と被験物質を接触させる温度および時間等の条件は特に限定されず、当業者の技術常識に基づいて適宜設定することができる。
【0014】
工程(2)では、前記核酸と被験物質との相互作用状態を測定する。相互作用の測定は、核酸と被験物質の結合を検出できる限り限定しない。例えば、ゲルシフトアッセイ、プルダウンアッセイ、クロマチン免疫沈降(ChIP、Chromatin Immuno-Precipitation)解析、レポーターアッセイ等の発光法、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET、Foerster Resonance Energy TransferまたはFluorescence Resonance Energy Transfer)解析等の蛍光法、ELISA(Enzyme-Linked Immuno-Sorbent Assay)等の呈色法を用いてもよく、市販の転写因子アッセイキット等を利用してもよい。
【0015】
工程(3)では、前記核酸と結合する被験物質を選択する。前記核酸と被験物質との結合は、工程(2)で用いた測定方法において定法により判定することができ、前記核酸との結合が判定された物質を選択することができる。
【0016】
工程(2)においてゲルシフトアッセイ(EMSA:Electrophoretic Mobility Shift Assay、電気泳動移動度シフトアッセイとも呼ばれる)を用いる場合、常法に基づき、ゲル移動度から上記塩基配列からなる核酸と被験物質との相互作用状態を測定することができる。例えば、任意の標識物質で標識した前記塩基配列を含む核酸と被験物質を接触させ(工程(1))、ゲル電気泳動後、標識核酸を定法により可視化してゲル移動度を比較すればよい(工程(2))。この場合、工程(3)においては、被験物質接触前の核酸と接触後の核酸のゲル移動度を比較し、移動距離が短くなっている核酸に接触させた被験物質を選択すればよい。
【0017】
工程(2)において、プルダウンアッセイを用いる場合、常法に基づき、複合体形成の有無から上記塩基配列からなる核酸と被験物質との相互作用状態を測定することができる。この場合、工程(1)において、任意の標識物質で修飾した前記塩基配列を含む核酸をベイトとして固定化し、被験物質をプレイとして接触させてもよく、任意の標識物質で修飾した被験物質をベイトとして固定化し、上記塩基配列を含む核酸をプレイとして接触させてもよい。工程(2)において、ベイトとプレイの複合体は、常法により溶出することができ、溶出した複合体は、公知の手法により単離および/または消化して質量分析同定を行ってもよく、電気泳動ゲル染色、ウエスタンブロッティングや放射性同位元素検出等により可視化し、結合した被験物質の確認を行ってもよい。また、溶出した複合体を公知の手法により単離し、サザンブロッティングまたはPCR分析等により、結合した核酸を検出してもよい。この場合、工程(3)では、工程(2)で上記塩基配列を含む核酸との複合体形成が確認された被験物質を選択すればよい。
【0018】
工程(2)において、ChIP解析を用いる場合、常法に基づき、複合体形成の有無から上記塩基配列からなる核酸と被験物質との相互作用状態を測定することができる。この場合、工程(1)において、任意の標識物質で修飾した被験物質と上記塩基配列を含む核酸とを接触させてもよい。被験物質と上記塩基配列を含む核酸の複合体は、ホルムアルデヒド等の化学固定剤を含む溶液でクロスリンクさせて固定してもよい。工程(2)において、被験物質と上記塩基配列を含む核酸の複合体は、標識物質に対する特異的な抗体を結合させたビーズまたはカラムに接触させて回収し、濃縮することができる。濃縮された複合体は、公知の手法により溶出することができ、定量PCRやウエスタンブロッティング等公知の手法により検出することができる。この場合、工程(3)では、工程(2)で回収した複合体から検出された被験物質を選択すればよい。
【0019】
工程(2)において、レポーターアッセイを用いる場合、常法に基づき、レポーター遺伝子タンパク質の発現を指標として上記塩基配列からなる核酸と被験物質との相互作用状態を測定することができる。この場合、上記塩基配列から選択される任意の塩基配列の下流に任意の発光タンパク質遺伝子または蛍光タンパク質遺伝子を発現するよう構築した発現ベクターを任意の哺乳動物細胞に導入し、遺伝子導入した細胞と被験物質を接触させることができる(工程(1))。上記塩基配列を含む核酸と被験物質との結合の有無は、前記遺伝子導入細胞の発光、吸光度、または蛍光を測定することにより、検出することができる(工程(2))。この場合、工程(3)では、工程(2)において発光、蛍光または吸光度の変化が検出された被験物質を選択すればよい。
【0020】
工程(2)において、FRETを用いる場合、常法に基づき、蛍光波長の変化から上記塩基配列からなる核酸と被験物質との相互作用状態を測定することができる。例えば、工程(1)において、任意の蛍光分子で標識した上記塩基配列を含む核酸と、別の蛍光分子で標識した被験物質とを接触させ、工程(2)において、元の蛍光波長と接触後の蛍光波長を比較すればよい。接触させた核酸と被験物質が強い相互作用を示す場合は、接触前後で異なる蛍光波長を検出することができる。この場合、工程(3)では、工程(2)において核酸との接触前後で異なる蛍光波長が検出された被験物質を選択すればよい。
【0021】
工程(2)において、ELISAを用いる場合、常法に基づき、呈色反応の有無から上記塩基配列からなる核酸と被験物質との相互作用状態を測定することができる。例えば、上記塩基配列を含む核酸をプレート上に固相化し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素標識を施した被験物質と接触させた後(工程(1)a)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)等の標識酵素の基質を含む発色試薬と反応させて呈色を検出すればよい(工程(2)a)。または、被験物質をプレート上に固相化し、酵素標識した上記塩基配列を含む核酸と接触させた後(工程(1)b)、標識酵素の基質を含む発色試薬と反応させて呈色を検出してもよい(工程(2)b)。被験物質に対して特異的な抗体が得られた場合は、上記塩基配列を含む核酸をプレート上に固相化し、被験物質と接触させた後(工程(1)c)、被験物質に対する特異的な抗体および酵素標識した二次抗体を処理し、標識酵素の基質を含む発色試薬と反応させて呈色を検出してもよい(工程(2)c)。この場合、工程(3)では、工程(2)において呈色反応が検出された被験物質を選択すればよい。
【0022】
一実施形態において、市販の転写因子アッセイキットを用いることもできる。市販の各種転写アッセイキットは、上記複数のアッセイ法の組み合わせまたは改良を含んでいてもよい。上記塩基配列を含む核酸と被験物質との接触(工程(1))および上記塩基配列と被験物質との相互作用の測定(工程(2))は、キット製造元のプロトコルに従って実施することができる。この場合、工程(3)では、用いたキットの判定方法に従って上記塩基配列に結合する被験物質を選択することができる。
【0023】
本発明のスクリーニング方法は、工程(3)で選択した被験物質が前記塩基配列の下流の遺伝子発現量を低下させることを確認する工程(工程(4))をさらに含んでいてもよい。確認工程は、前記塩基配列の下流の遺伝子発現量を測定できる限り限定されない。例えば、任意の哺乳動物細胞に、選択した被験物質を接触させた後、公知の手法により核酸を抽出して標的遺伝子の発現量を確認してもよい。標的遺伝子は特に限定されず、選択されたコンセンサス配列の下流遺伝子をどれでも1つ選択して確認すればよい。細胞と選択した被験物質との接触方法は特に限定されず、例えば、細胞を含む培地に被験物質を添加してもよい。遺伝子の発現量の確認は、mRNA量を測定してもよく、翻訳されたタンパク質量を測定してもよい。一実施形態において、確認工程はマイクロアレイ解析による。また、別の実施形態において、確認工程は定量PCR(Polymerase Chain Reaction)解析による。
【0024】
工程(4)においてマイクロアレイ解析を用いる場合、常法に従って遺伝子発現量を確認すればよい。例えば、選択した被験物質を処理した哺乳動物細胞から公知の手法により検体DNAおよび/またはRNAを抽出し、ガラス等の基板上にオリゴヌクレオチドまたはcDNAを整列固定させたマイクロアレイ上でハイブリダイゼーションさせ、対照と比較して遺伝子発現量や変異といった量的および質的変化を網羅的に調べることができる。マイクロアレイの製造方法は特に限定されず、定法により合成したDNAをCy3やCy5等の蛍光色素で標識してDNAプローブを作成し、公知の手法により基板上に固定化させてもよく、基板上でDNAを合成してもよく、インクジェットプリント技術を利用してDNA合成を行ってもよく、市販のマイクロアレイを使用してもよい。検体は1色の蛍光色素で標識し、調整した標識サンプルごとにハイブリダイゼーションを行ってもよく、別々の蛍光色素で標識した2種類以上の検体を混合してハイブリダイゼーションを行ってもよい。遺伝子の量的および質的変化は、それぞれのマイクロアレイから得られる蛍光シグナル強度について、マイクロアレイの画像データ解析により検出することができる。画像データ解析は、どのような解析ソフトウエアを使用してもよく、オープンソース、フリーソフトウエア等の無償ソフトウエアを使用することもできる。遺伝子発現量の低下は、プローブごとの蛍光シグナル強度の低下により判定することができる。判定の基準は特に限定されないが、例えば、被験物質を処理していない対照の蛍光シグナル強度と比較して、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下に低下した場合、被験物質の接触による遺伝子発現量の低下と判定してもよい。
【0025】
工程(4)において定量PCRを用いる場合、常法に従って遺伝子発現量を確認すればよい。例えば、選択した被験物質を処理した哺乳動物細胞から公知の手法により検体DNAおよび/またはRNAを抽出してPCR増幅し、アガロースゲル電気泳動を行って相対的な遺伝子発現量を比較してもよく、リアルタイムPCR法により検体のPCR増幅量をリアルタイムでモニターし、対照と比較して発現量を測定してもよい。PCR増幅に使用するプライマーは、選択されたコンセンサス配列の下流遺伝子領域に隣接する配列と相補的に結合するオリゴDNAであればよく、公知の手法により合成することができる。遺伝子発現量の低下は、PCR増幅産物量の減少により判定することができる。判定の基準は特に限定されないが、例えば、被験物質を処理していない対照と比較して、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下に低下した場合、被験物質の接触による遺伝子発現量の低下と判定してもよい。
【0026】
本発明の確認工程で用いられる哺乳動物細胞は、任意の哺乳動物由来の細胞であればよく、特に限定しない。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、ラット、マウス、モルモット、イヌ、ネコ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ等が挙げられる。哺乳動物由来の細胞は、初代培養細胞であってもよく、株化した細胞であってもよく、がん化した細胞であってもよく、生検サンプルとして採取された組織から単離したものであってもよい。例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、メラノーマ細胞、軟骨細胞、肝細胞、末梢血細胞、リンパ液および組織液中の細胞、上皮細胞、神経細胞、卵巣細胞等が挙げられる。一実施形態において、細胞はマウス由来メラノーマ細胞である。
【0027】
本発明は、老化現象抑制用組成物を提供する(以下、「本発明の組成物」と記す)。本発明の組成物は、本発明のスクリーニング方法で選択した物質を有効成分とするものであればよく、任意の選択した物質を有効成分としてもよく、1つ以上の選択した物質を任意で組み合わせて有効成分としてもよい。本発明のスクリーニング方法で選択した物質は、凍結乾燥、噴霧乾燥等によって濃縮して使用することもできる。
【0028】
本発明の組成物は、老化現象抑制用医薬組成物として実施することができる。本発明の組成物を医薬組成物として実施する場合、薬学的に許容される担体または添加剤を適宜配合して任意の投与経路による細胞および/または対象への送達のために製剤化することができる。対象への投与の様式は、注射、輸注、吸入、鼻内、眼内、局所送達、カニューレ間送達、または摂取を含んでもよい。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤、経腸栄養剤等の非経口剤とすることができる。注射としては、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内、および胸骨内注射および輸注が挙げられるが、限定されない。一部の実施形態では、投与は、例えば、噴霧を用いるエアロゾル吸入を含む。薬学的に許容される担体または添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒;水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。薬学的に許容される担体または添加剤は、一般的に安全であり、非毒性的であり、望ましい医薬組成物の調製において有用である担体または添加剤を含み、そのような担体または添加剤は、固体、液体、半固体、またはエアロゾル組成物の場合、気体であってもよい。
【0029】
本明細書に記載されている医薬組成物を、経口投与のために錠剤化するか、またはエマルジョンもしくはシロップ中で調製することもできる。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤;結晶性セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤;ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は通常の製剤手順(例えば有効成分を注射用水、天然植物油等の溶媒に溶解または懸濁させる等)に従って調製することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO-50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。
【0030】
本発明の組成物は、局所組成物、特に、皮膚科学的に許容される化粧品として実施することができる。本発明の組成物を化粧品として実施する場合、賦形剤としては、例えば、保存料、皮膚軟化剤、乳化剤、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、調整剤、艶消し剤、安定化剤、抗酸化剤、触感改良剤、漂白剤、フィルム形成剤、可溶化剤、顔料、染料、香料および日焼け防止剤からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含有してもよい。また、局所使用に適切な、化粧品産業において一般的に使用される様々な化粧品成分を含有していてもよい。これらの成分の例としては、例えば、研磨剤、吸収剤、精油、収斂剤、抗ざ瘡剤、抗凝集剤、抗発泡剤、抗菌剤、結合剤、生物学的添加剤、緩衝剤、膨張剤、キレート剤、添加剤、殺生物剤、変性剤、外用鎮痛薬、塗膜形成剤、ポリマー、乳白剤、pH調製剤、還元剤、脱色剤または美白剤、皮膚緩和剤および/または創治癒剤、増粘剤、ならびにビタミン、およびこれらの誘導体または同等物等が挙げられる。またこれらの皮膚科学的に許容される化粧品は、例えば、ポットまたはチューブに入った水性または油性溶液、クリームまたは水性ゲルもしくは油性ゲル、ミルク、特に、水中油型または油中水型または複合もしくはシリコーンベースの種類のエマルジョン、マイクロエマルジョン、もしくはナノエマルジョン、球、液状せっけん、化粧落とし、軟膏、フォーム、無水生成物、液状、ペースト状または固形生成物、例えば、スティック状の形態からなる群より選択される形態で作製することができる。
【0031】
本明細書において「皮膚科学的に許容される」という表現は、後ろに記載される組成物または成分が、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応、またはそれらの同等物を伴わずに、ヒトの皮膚との接触における使用に適切であることを意味する。
【0032】
本発明の医薬組成物または化粧品中の有効成分の含量は特に限定されず、0.01~99%(w/w)であってもよく、0.1~95%(w/w)であってもよい。
【0033】
本発明の組成物は、老化現象抑制用飲食品として実施することができる。老化現象抑制用飲食品には、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、栄養強化食品、サプリメント等が含まれる。飲食品の形態は特に限定されない。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等の形態;茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、牛乳、乳酸飲料等の飲料;キャンディー、ガム、錠菓、グミゼリー、チョコレート、スナック、ビスケット、ゼリー、ジャム、羊羹、せんべい、あられ、まんじゅう、ホットケーキミックス等の菓子および製菓用食品;かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品;ハム、ソーセージ等の畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品;ソース、香辛料、たれ等の調味料;カレー、シチュー、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品;惣菜類;パン類;アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓などを挙げることができる。これらの飲食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0034】
本発明の老化現象抑制用飲食品中の有効成分の含量は特に限定されず、0.01~99%(w/w)であってもよく、0.1~95%(w/w)であってもよい。
【0035】
本発明の組成物は、飼料として実施することができる。例えば、本発明の組成物を、顆粒状、粉末状、液状等の形態として家畜用飼料、ドッグフード、キャットフード等の各種ペットフード等に更に添加して各種飼料として調製してもよい。これらの飼料の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。また本発明の効果を阻害しない限り、一般的に飼料に使用されている任意の材料を含んでいてもよい。例えば、トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、ライ麦、米などの穀類;フスマ、糠などの糟糠類;大豆粕、菜種粕などの植物性油粕類;魚粉、肉骨粉などの動物性タンパク質;オリゴ糖類;動物性油脂、植物性油脂などの油脂;ビタミンB1およびビタミンEなどの各種ビタミン類;酵素類;食塩、ケイ酸、炭酸カルシウム、第3リン酸カルシウムなどのミネラル類;アミノ酸類;有機酸類などを配合してもよい。本発明の飼料は、適当な形状、例えば乾燥状、半湿潤状、湿潤状にすることが可能であり、冷蔵又は常温で安定な製品にすることができる。
【0036】
本発明の飼料中の有効成分の含量は特に限定されず、0.01~99%(w/w)であってもよく、0.1~95%(w/w)であってもよい。
【0037】
本発明は、老化現象抑制物質のスクリーニングキットを提供する(以下、「本発明のキット」と記す)。本発明のキットは、wwcrtgraaaatgagaaatrym(配列番号1)、tndgaaanaata(配列番号2)、aaaantdawaawnntdgaawww(配列番号3)、tnwkntatnnnttaarnwkw(配列番号4)、drgvaavagarvnarrnrva(配列番号5)、carvcchvaghnchkscann(配列番号6)、nanavmasannshcwtnnvh(配列番号7)およびttsaaaからなる群から選択される塩基配列からなる核酸の1種以上を含むものであればよく、検体試料を収容する容器(例えば、チューブ)を含んでいてもよい。また検査に必要な試薬を含んでいてもよく、緩衝液等の媒体を含んでいてもよい。この場合、前記塩基配列からなる核酸は、検体試料を収容する容器に充填されていてもよく、検体試料を収容する容器とは別の容器に収容されていてもよい。また検査に必要な試薬および/または媒体は、検体試料を収容する容器に充填されていてもよく、検体試料を収容する容器とは別の容器に収容されていてもよい。本発明のキットは、1つの包装箱に収納されて提供することもできるが、別々の包装で供給されて使用時にセットで用いるキットであってもよい。また、上記で例示したもの以外のもの、例えば、取扱説明書等も任意に含むことができる。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1:糖化タンパク質による遺伝子変化と転写開始点特異性の解析〕
メラノーマ細胞内遺伝子発現量および関連する細胞内パラメータに対する糖化タンパク質の影響について調べるため、グルコースおよびBSAから糖化タンパク質を調製した。
【0040】
糖化タンパク質の調製は以下の通り行った。すなわち、4.0mLの0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に0.1gウシ血清アルブミン(F-V、pH5.2、ナカライテスク社)、0.1M(終濃度)D-グルコース、および0.005M(終濃度)ジエチレントリアミン-N,N,N′,N″,N″-五酢酸(DTPA、同仁化学研究所)を混和し、密閉容器中にて37℃で14日間反応させた。反応後、脱塩カラム(PD-10、Cytiva社)を用いてカラムろ過による精製を行った。
【0041】
糖化タンパク質の生成は、糖化タンパク質が神経様細胞の突起伸展抑制作用を有することが知られていることから(中嶋聡一他、フレグランスジャーナル(2021)49(11):46-48)、神経様細胞の突起伸展への影響を測定することにより確認した。すなわち、ヒト神経芽細胞SH-SY5Y細胞をウエルあたり1.2×104細胞/400μLとなるよう調整してコラーゲンコート24ウェルプレート(IWAKI社、製品番号4820-010)に播種し、37℃、5%CO2雰囲気中で24時間培養した。次に、上記の通り精製したタンパク質を添加して48時間接触させ、顕微鏡観察により突起伸展した細胞の割合を算出した。上記の通り精製したタンパク質を終濃度が100μg/mLとなるよう添加したところ、およそ80%の細胞で突起伸展が抑制されており、タンパク質の糖化反応が進んでいることを確認した。
【0042】
<メラノーマ細胞RNAの抽出>
糖化タンパク質によるメラノーマ細胞内遺伝子発現量および関連する細胞内パラメータの変動を検討するため、上記のように調製した糖化タンパク質をメラノーマ細胞に接触させた。定法によりメラノーマ細胞から全RNAを回収し、mRNA発現量についてコントロール群との相対比較を行った。
【0043】
はじめに、B16メラノーマ4A5細胞の前培養を行った。B16メラノーマ4A5細胞をウエルあたり1.0×105細胞/2000μLとなるように調整して6ウェルマルチプレート(Greiner社、製品番号657185)に播種し、37℃、5%CO2雰囲気中で4時間培養した。培地はDMEM(Merck社)を使用した。上記のように調製した糖化タンパク質群を終濃度が100μg/mLとなるよう培地中に添加し、37℃、5%CO2雰囲気中で24時間培養した。培地交換はしなかった。培養した細胞はPBSで洗浄し、RNA抽出キット(商品名:PureLink RNA Miniキット、Thermo Fisher社)のプロトコルに従って全RNAを回収した。全RNAの品質は、マイクロチップ型電気泳動装置(Bioanalyzer、Agilent社)を用いて行い、RNAサンプル分解度(RIN:RNA Integrity Number)が7.0を超えていることを確認した。
【0044】
<二本鎖cDNAライブラリの構築>
ランダムプライマーを使用して定法により全RNAからcDNAを合成した。次に、定法に従い、RNAの5’キャップ構造のリボースジオールを酸化し、ビオチン化した。ストレプトアビジンビーズを用いたキャップトラッピング法によって選択的にビオチン化RNA/cDNAハイブリッド鎖を回収した。RNaseH(プロメガ社)を用いてRNAを分解し、定法により得られたcDNAの両端へのアダプターライゲーションを実施して二本鎖cDNAライブラリ(CAGE(Cap Analysis of Gene Expression)ライブラリ)を構築した。
【0045】
<次世代シーケンサによる解析>
次世代シーケンサ(NextSeq 500、Illumina社)を用い、5’末端から75塩基を対象としてシングルエンドリードによってCAGEライブラリの遺伝子配列解析を実施した。得られたリード(CAGEタグ)は、アライメントツール(BWA:Burrows-Wheeler Aligner 0.5.9、Li, H. and Durbin, R. Bioinformatics (2009) 25:1754-1760)を用いてリファレンスゲノム配列(ヒトhg38ゲノム)にマッピングした。BWAでマップされなかったリードは別のアライメントツール(HISAT2 (2.0.5)、Kim, D et al., Nat Biotechnol (2019) 37:907-915)を用いてマップした。CAGEタグカウントデータは、CAGEr(オープンソース、Haberle, V. et al., Nucleic Acids Research (2015) 43:e51)を使用し、基準のパラメータでParacluアルゴリズム(Parametric clustering algorithm、Frith, M. C. et al., Genome Res. (2008) 18:1-12)を使用してクラスター化した。対象の全サンプルについて、総リード数を100万に正規化し、100万あたりのカウント(CPM、count per million)が0.2未満のクラスターは破棄した。
【0046】
<遺伝子発現の変動およびモチーフの分析>
CAGErのDESeq2パッケージ(1.20.0)を使用して、発現変動する遺伝子を検出した。モチーフ分析のため、発現差のあるCAGEピークの上流200bpから下流50bpまでの領域のゲノムDNA配列について、以下のde novoモチーフ発見ソフトウエアを用いて分析した。AMD(Automated Motif Discovery; Shi, J. et al., PLoS ONE (2011) 6(9):e24576)、GLAM2(Gapped Local Alignment of Motifs; Frith, M. C. et al., PLoS Computational Biology (2008) 26(7):860-866)、DREME(Discriminative Regular Expression Motif Elicitation; Bailey, T. L., Bioinformatics (2011) 27(12):1653-1659)およびWeeder(Pavesi, G. et al., Nucleic Acids Res. (2004) 32:W199-W203)。モチーフの発現はFIMO(Find Individual Motif Occurrences; Grant, C. E. et al., Bioinformatics (2011) 27(7):1017-1018)を用いて調べた。また、モチーフ配列候補とJASPARデータベース(JASPAR CORE 2016 vertebrates、オープンソース、Mathelier, A. et al., Nucleic Acids Res. (2016) 44:D110-D115)に登録されているモチーフ配列との類似性は、TOMTOM(Gupta, S. et al., Genome Biology (2007) 8(2):R24)を用いて比較した。CAGErによって検出されたCPMが1より大きい遺伝子のうち、発現変動の倍数が4倍より大きい遺伝子について、CAGErのclusterProfilerパッケージを用いて分析した。
【0047】
<結果>
発現パターンが似ている遺伝子クラスターをグループ化し、発現量の変化と転写開始点の配列の類似性を検討した。糖化タンパク質処理により増加した遺伝子に共通する特異的な配列(モチーフ)のうち、哺乳類において高度に保存された配列を探索したところ、表1に示す配列の結合モチーフが遺伝子発現の変化に影響を与えたものとして統計的に有意に見出された。なお、JASPARに登録された配列データを確認したところ、一部は既知の転写因子が関与している可能性が示唆された。
【0048】
【0049】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。