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特開2023-75605バルーンカテーテル及び大動脈弁狭窄症治療装置
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  • 特開-バルーンカテーテル及び大動脈弁狭窄症治療装置 図1
  • 特開-バルーンカテーテル及び大動脈弁狭窄症治療装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075605
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル及び大動脈弁狭窄症治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20230524BHJP
【FI】
A61M25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188608
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小西 明英
(72)【発明者】
【氏名】八木 隆浩
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA07
4C267BB14
4C267BB28
4C267CC09
4C267CC19
4C267GG34
(57)【要約】
【課題】狭窄部位の開口面積をより一層確保可能なバルーンカテーテルを提供する。
【解決手段】バルーンカテーテル100は、流体が内部に流通可能なシャフト1と、シャフト1に両端が固定され、シャフト1の軸芯Xと交差する方向に拡張可能なバルーン2と、を備え、バルーン2は、流体が内部空間Sに流入することで拡張すると共に流体が内部空間Sから排出されることで収縮する袋体23と、シャフト1の軸芯X方向に沿って延在し、袋体23の拡張時に撓むことにより袋体23に接触して袋体23の拡張を拘束する可撓線材24と、を有しており、バルーン2が拡張したとき、軸芯Xと直交する断面において、袋体23の内部空間Sにある軸芯Xと可撓線材24との離間距離Lは、軸芯Xと袋体23との最大離間距離Dよりも小さく構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が内部に流通可能なシャフトと、
前記シャフトに両端が固定され、前記シャフトの軸芯と交差する方向に拡張可能なバルーンと、を備え、
前記バルーンは、前記流体が内部空間に流入することで拡張すると共に前記流体が前記内部空間から排出されることで収縮する袋体と、前記シャフトの軸芯方向に沿って延在し、前記袋体の拡張時に撓むことにより前記袋体に接触して前記袋体の拡張を拘束する可撓線材と、を有しており、
前記バルーンが拡張したとき、前記軸芯と直交する断面において、前記袋体の前記内部空間にある前記軸芯と前記可撓線材との離間距離は、前記軸芯と前記袋体との最大離間距離よりも小さく構成されているバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記可撓線材は、前記袋体の外表面に接触するX線不透過性材料で形成されている請求項1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記可撓線材が複数設けられており、夫々の前記可撓線材は、前記袋体の周方向において互いに交差することなく離間している請求項1又は2に記載のバルーンカテーテル。
【請求項4】
前記バルーンが所定位置に配置されたとき、前記バルーンの拡張時において隣り合う前記可撓線材の間にある前記袋体が、3分割された弁体の境界に入り込む請求項3に記載のバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記弁体は大動脈弁であり、前記流体は炭酸ガスである請求項4に記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のバルーンカテーテルを備えた大動脈弁狭窄症治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテル及び大動脈弁狭窄症治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈弁狭窄症は、加齢による退行変性で大動脈弁の可動性が低下し大動脈弁口が狭小化することによって全身に血液が送り出されにくくなる疾患である。本疾患は高齢化とともに有病率が上昇し、手術侵襲に対する忍容性が低下するため、全身麻酔を要する処置や開胸による外科的治療が困難な場合が少なくない。このように外科的治療が困難な患者に対する治療法として、(1)TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation:経カテーテル的大動脈弁留置術)と(2)BAV(Balloon Aortic Valvuloplasty:バルーン大動脈弁形成術)が存在する。
【0003】
(1)TAVIは、開胸を行わず、カテーテルを用いて人工弁を大動脈弁の狭窄部位に留置する根治的な治療法である。この治療は、高齢等の理由で手術をあきらめていた患者に対する新しい治療の選択肢となっている。しかしながら、TAVIは実施施設や実施医師が非常に限定されており、本治療を必要とする全ての患者に提供されている治療法ではない。
【0004】
(2)BAVは(1)TAVIとは違い根治治療ではないため長期治療成績は見込めないが、急性期の心不全回避や血行動態の改善といった急性期効果が認められており、これに加え高い成功率が示されているため、TAVIや外科的治療へのブリッジの目的として施行されている。またBAVはTAVIとは異なり施設基準がなく幅広く施行することができ、且つカテーテル径が細く、全身麻酔等の処置も不要であるため、超高齢であったり並存疾患を多数有したりしている患者の大動脈弁狭窄症症例に対して有用な治療選択肢である。
【0005】
従来、BAVに用いられるバルーンカテーテルとして、流体が内部に流通可能なシャフトと、シャフトに両端が固定され、シャフトの軸芯と交差する方向に拡張可能なバルーンと、を備えたものが知られている(例えば特許文献1~2参照)。
【0006】
特許文献1に記載のバルーンカテーテルは、バルーンを覆う織り合わせ補強層を備えており、高圧に耐え得る形状保持を実現している。特許文献1に記載のような形状保持型バルーンカテーテル等(特許文献2に記載の心拍同期型では無い従来のバルーンカテーテル)は、大動脈弁口におけるバルーン拡張時は心拍の影響によって、バルーンが長軸方向に大きく移動し、それに伴って血管損傷や心穿孔等を引き起こすといった重篤な有害事象が報告されている。そのため、一時的に有効な心拍量を減少させる目的で高頻拍ペーシングが行われている。しかしながら、高頻拍ペーシングは、ページング後、徐脈や血圧の低下が遷延することに伴い、血行動態が破綻する等、ペーシングに耐えられない患者が一定数存在することが確認されている。
【0007】
そこで、特許文献2には、患者の心電図データに基づいて心周期を感知し、バルーンの拡張,収縮を心周期に基づく患者の拍動に同期して行う、心拍同期型バルーンカテーテルが開示されている。これにより、血流を阻害することなく複数回のバルーン拡張が可能となるため、高頻脈ペーシング無しでも、バルーンが移動することなく、収縮,拡張を行うことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008-534032号公報
【特許文献2】特開2019-198417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のバルーンカテーテルでは、高頻拍ペーシングが必要となるため、高頻脈ペーシングに耐えられない患者が存在する。また、従来のBAVでは、バルーンを複数回拡張することがしばしば困難な場合が存在する(頻回の高頻脈ペーシングが必要になる)ため、少ない回数で高い圧をかけて、拡張することにより脳梗塞や血管損傷等の合併症を引き起こす可能性があった。
【0010】
特許文献2に記載の心拍同期型バルーンカテーテルでは、高頻拍ペーシングが不要となり、大動脈弁において石灰化物質が固着した弁体をバルーンで外側に広げて開口面積を確保するために、複数回のバルーン拡張を行うことができる。つまり、この心拍同期型バルーンカテーテルを用いたBAVでは高頻脈ペーシングが不要になるため、上述した合併症を回避して、かつ弁口面積をある程度確保することが可能になる。しかしながら、特許文献2に記載の心拍同期型バルーンカテーテルにおいても、狭窄部位の開口面積を確保する上で更なる改善の余地がある。
【0011】
そこで、狭窄部位の開口面積をより一層確保可能なバルーンカテーテル及び大動脈弁狭窄症治療装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るバルーンカテーテルの特徴構成は、流体が内部に流通可能なシャフトと、前記シャフトに両端が固定され、前記シャフトの軸芯と交差する方向に拡張可能なバルーンと、を備え、前記バルーンは、前記流体が内部空間に流入することで拡張すると共に前記流体が前記内部空間から排出されることで収縮する袋体と、前記シャフトの軸芯方向に沿って延在し、前記袋体の拡張時に撓むことにより前記袋体に接触して前記袋体の拡張を拘束する可撓線材と、を有しており、前記バルーンが拡張したとき、前記軸芯と直交する断面において、前記袋体の前記内部空間にある前記軸芯と前記可撓線材との離間距離は、前記軸芯と前記袋体との最大離間距離よりも小さく構成されている点にある。
【0013】
本構成では、バルーンが、袋体と、シャフトの軸芯方向に沿って延在し、袋体の拡張時に撓むことにより袋体に接触して袋体の拡張を拘束する可撓線材と、を有している。この可撓線材を有することにより、バルーンが拡張したとき、軸芯と直交する断面において、軸芯と可撓線材との離間距離は、軸芯と袋体との最大離間距離よりも小さく構成されている。つまり、可撓線材は、従来のワイヤメッシュのようにバルーンの拡張と同様に拡張するのではなく、バルーンの拡張を拘束し、バルーンのうち、可撓線材が存在する袋体の部位と、可撓線材が存在しない袋体の部位との間で拡張時の形状を変化させる。
【0014】
例えば、石灰化物質の固着箇所に可撓線材が存在しない袋体の部位を位置させれば、可撓線材が存在しない袋体の部位は可撓線材が存在する袋体の部位よりも拡張量が大きいため、固着箇所を重点的に押し広げることが可能となる。つまり、従来のようにバルーンを最大量拡張させることにより狭窄部位の全体を急激に押し広げる必要がなくなり、固着箇所をターゲットとしてバルーンの拡張を行うことにより、効率良く狭窄部位の可動性を改善させ、狭窄部位の開口面積を増やすことができる。このように、本構成の可撓線材を設けることにより、狭窄部位の形状に応じて最適なバルーン形状を作り出すことができ、周囲の構造に対して過剰な負荷をかけることなく狭窄部位の開口面積をより一層確保可能なバルーンカテーテルとなっている。
【0015】
他の特徴構成は、前記可撓線材は、前記袋体の外表面に接触するX線不透過性材料で形成されている点にある。
【0016】
本構成のように、可撓線材をX線不透過性材料で形成すれば、手術中でのX線透視において、バルーン拡張に造影剤を用いない場合であっても、バルーンの拡張収縮状態がX線不透過性材料の動きで視認可能となり、バルーンの位置を容易に把握することができる。その結果、石灰化物質の固着箇所に可撓線材が存在しない袋体の部位を位置させるという操作も容易となる。また、X線不透過性材料を袋体の外表面に接触させる構成であるため、可撓線材を袋体と独立した成形方法とすることが可能となり、製造方法も簡便である。
【0017】
他の特徴構成は、前記可撓線材が複数設けられており、夫々の前記可撓線材は、前記袋体の周方向において互いに交差することなく離間している点にある。
【0018】
本構成のように複数の可撓線材を周方向で互いに交差することなく離間させれば、隣り合う可撓線材の間に袋体をはみ出させることが可能となる。このため、1つの狭窄部位に固着箇所が複数ある場合には、固着箇所の夫々に袋体が当接するように複数の可撓線材を配置すれば良く、設計自由度が高い。
【0019】
他の特徴構成は、前記バルーンが所定位置に配置されたとき、前記バルーンの拡張時において隣り合う前記可撓線材の間にある前記袋体が、3分割された弁体の境界に入り込む点にある。
【0020】
例えば、分割された弁体である大動脈弁に本構成のバルーンカテーテルを使用した場合、分割境界に可撓線材が存在しない袋体の部位を位置させれば、可撓線材の間にある袋体が分割境界を除々に押し広げることが可能となる。このため、従来のようにバルーンを最大量拡張させることにより弁体を急激に押し広げる必要がなくなり、狭窄部位の開口面積を増やすことができる。
【0021】
他の特徴構成は、前記弁体は大動脈弁であり、前記流体は炭酸ガスである点にある。
【0022】
本構成のように流体を炭酸ガスとすれば、仮にバルーンが破損して流体が流出したとしても、血液に炭酸ガスが溶け込みやすいため、ヘリウムガス等に比べて気泡が血流を阻害するといった不都合を低減できる可能性がある。特に、本治療においては、バルーン破裂の際に、脳梗塞(空気塞栓)をきたしうるため、本構成のバルーンカテーテルが有用である。つまり、上記何れかに記載のバルーンカテーテルを備えた大動脈弁狭窄症治療装置であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】バルーンカテーテルの正面図及び断面図である。
図2】大動脈弁にバルーンカテーテルを適用したときのバルーンの拡張,収縮を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係るバルーンカテーテルの実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、バルーンカテーテルの一例として、BAV(Balloon Aortic Valvuloplasty:バルーン大動脈弁形成術)に適用した大動脈弁狭窄症治療装置について説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0025】
図1に示すように、バルーンカテーテル100は、流体が内部に流通可能なシャフト1と、シャフト1に両端が固定されたバルーン2と、シャフト1の内部を貫通するガイドワイヤ4を操作する操作部5とを備えている。大動脈弁狭窄症治療装置は、バルーンカテーテル100と、バルーン2の内部空間Sに対する流体の流入,排出を制御する流体制御装置3とを備えている。流体制御装置3は、作動を制御するソフトウェアとして、HDDやメモリ等のハードウェアに記憶されたプログラムを含んでおり、コンピュータのASIC,FPGA,CPU又は他のハードウェアを含むプロセッサにより実行される。操作部5は、シャフト1及びバルーン2を血管内で適正に移動させるために案内するガイドワイヤ4を手動で操作可能な公知の構造を有している。
【0026】
シャフト1は、同一の軸芯Xに沿って延在する外管11と内管12とを有する金属材料で形成されており、外管11と内管12との間に流体が流通する空間(ルーメン)が形成されている(図1の(B)参照)。外管11の内部には、内管12が挿入されており、外管11の先端部にバルーン2の近位端21が接着や熱溶着等で固定されている。内管12の内部には、ガイドワイヤ4が挿入されており、内管12の先端部にバルーン2の遠位端22が接着や熱溶着等で固定されている。つまり、バルーン2の内部空間Sには、内管12が貫通している。なお、シャフト1の延在方向に対して、操作部5の側(操作者がいる側)を「近位」と称し、バルーン2の側(シャフト1の先端側)を「遠位」と称する。
【0027】
バルーン2は、流体が内部空間Sに流入することでシャフト1の軸芯Xと交差する方向に拡張すると共に、流体が内部空間Sから排出されることで収縮する袋体23を有している。この袋体23は、拡張及び収縮が可能なポリウレタン,ポリアミドエラストマー,天然ゴム,合成ゴム,シリコーンゴム等で形成されており、拡張時に大動脈弁が損傷しない程度まで十分に拡張できる直径を有している。また、流体としては、気体又は液体が用いられ、気体としては炭酸ガスやヘリウムガスが例示され、好ましくは炭酸ガスが用いられる。流体を炭酸ガスとすれば、仮にバルーン2が破損して流体が流出したとしても、血液に炭酸ガスが溶け込みやすいため、ヘリウムガス等に比べて気泡が血流を阻害するといった不都合を低減できる。特に、脳合併症のリスクの高い大動脈弁狭窄症に、本実施形態にかかるバルーンカテーテル100を適用する場合に有用である。
【0028】
本実施形態におけるバルーン2は、シャフト1の軸芯X方向に沿って延在し、袋体23の拡張時に撓む複数(本実施形態では3本)の可撓線材24を更に有している。可撓線材24の両端は、バルーン2の袋体23の両端となる近位端21及び遠位端22に内蔵される形態でシャフト1に固定されている。可撓線材24は、袋体23の拡張時に撓むことにより、袋体23に接触して袋体23の拡張を拘束する。また、可撓線材24は、袋体23の収縮時に元の形状に復帰する。つまり、可撓線材24は、袋体23の拡張,収縮と連動する。なお、可撓線材24は、1本又は2本以上の複数で形成していれば良く、数量は限定されない。
【0029】
可撓線材24は、袋体23の外表面に接触するX線不透過性材料で形成されており、袋体23をブロー成形した後、収縮された袋体23の外表面の軸芯X方向に沿ってX線不透過性材料を配置し、両端がバルーン2の近位端21及び遠位端22に内蔵される形態でシャフト1に固定される。本実施形態では、X線不透過性材料を袋体23の外表面に接触させる構成であるため、可撓線材24を袋体23と独立した成形方法とすることが可能となり、製造方法も簡便である。X線不透過性材料は、タングステン,タングステン合金,ステンレス,コバルトクロム合金,パラジウム合金,プラチナ合金等の金属材料、又は、ポリアミド,ポリエーテルエーテルケトン,ポリスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリアセタール,これらの樹脂に硫酸バリウムもしくはプラチナ粒子を含有させたもの等の樹脂含有材料で構成されている。
【0030】
可撓線材24は、金属製のワイヤーであることが好ましく、X線不透過性能を出すための厚みが小さい方が好ましい。可撓線材24が金属材料の場合は、厚みが50μm以上100μm以下であり、可撓線材24が樹脂材料の場合は、厚みが0.3mm以上0.4mm以下であることが好ましい。このように可撓線材24の厚みを小さくすることにより、バルーンカテーテル100の細径化が可能となり、患者への負担低減を図ることができる。
【0031】
可撓線材24は、袋体23の収縮状態において全体的に直線状に形成されており、バルーン2の近位端21に近接した位置に外側に屈曲した屈曲部24aを有している。バルーン2の拡張に伴って可撓線材24も撓むことになるが、屈曲部24aがバルーン2の近位端21に近接した位置であることにより、バルーン2拡張時の可撓線材24の撓み角度(バルーン2収縮時の可撓線材24を基準としたバルーン2拡張時の可撓線材24の角度)を小さくすることができる。つまり、可撓線材24の撓み角度が大きくなるほど、バルーン2の拡張,収縮が頻繁に行われるに従い可撓線材24の疲労が大きくなるため、屈曲部24aを設けることにより可撓線材24が負荷なく撓み、可撓線材24の耐久度を向上させることができる。なお、可撓線材24の屈曲部24aをバルーン2の遠位端22に近接した位置に設けても良し、近位端21と遠位端22の両方に設けても良い。
【0032】
本実施形態では、バルーン2が拡張したとき、シャフト1の軸芯Xと直交する断面(図1の(A)参照)において、袋体23の内部空間Sにある軸芯Xと可撓線材24との離間距離Lは、軸芯Xと袋体23との最大離間距離Dよりも小さく構成されている。また、夫々の可撓線材24は、袋体23の周方向において互いに交差することなく離間している。この軸芯Xと袋体23との最大離間距離Dに対する軸芯Xと可撓線材24との離間距離Lの比率(L/D)は、0.2以上0.95未満、好ましくは0.4以上0.9以下、更に好ましくは0.5以上0.8以下である。L/Dが0.2未満になると、夫々の可撓線材24の間にはみ出た袋体23の部位23aの拡張量が大きくなりすぎて、大動脈弁の分割境界に過度の負荷をかけるおそれがある。L/Dが0.95以上になると、夫々の可撓線材24による袋体23の拘束力が小さくなるため、狭窄部位の開口面積を増大させる効果が小さくなる。
【0033】
流体制御装置3は、患者の心電図データを取得し、当該心電図データに基づいて患者の予測心周期を算出し、当該予測心周期に基づく患者の心周期に同期して流体の流入,排出を制御する、上記特許文献2に記載の技術と同様に構成されている。流体制御装置3によりバルーン2が患者の心周期と同期して、即ち大動脈弁を通過する血流に合わせて拡張,収縮を繰り返すため、血流を阻害することなく、バルーン2の拡張を行うことができる。流体制御装置3は、心電図データの最大ピークのQRS時間におけるS波~T波の終わりの時間においてバルーン2を収縮させ、それ以外の時間においてバルーン2を拡張させる。
【0034】
図2には、バルーン2が大動脈弁(以下、単に「弁体V」という。)に配置された状態の模式図が示されている。同図に示すように、バルーン2の拡張時において隣り合う可撓線材24の間にある袋体23の3箇所の部位23aが、3分割された弁体Vの分割境界に夫々入り込むように、バルーン2の所定位置が設定される。このとき、可撓線材24が存在する袋体23の部位23bは、弁体Vと対向する位置に配置される。つまり、弁体Vの分割境界が石灰化物質等の固着した狭窄部位となっており、この狭窄部位に対して可撓線材24の間にある袋体23の部位23aを優先的に入り込ませる。本実施形態では、可撓線材24をX線不透過性材料で形成しているので、手術中でのX線透視において、バルーン2の拡張に造影剤を用いない場合であっても、バルーン2の拡張収縮状態がX線不透過性材料の動きで視認可能となり、バルーン2の位置を容易に把握することができる。その結果、3分割された弁体Vの分割境界に可撓線材24が存在しない袋体23の部位23aを位置させるという操作も容易となる。なお、バルーンカテーテル100を弁体Vの箇所まで送り届ける方法は、ガイドワイヤ4を操作部5により操作して血管内を移動させる公知の方法であるため、詳細な説明を省略する。
【0035】
本実施形態における流体制御装置3は、袋体23の内部空間Sにある流体圧を制御することができる。具体的には、図2の左図に示すバルーン2の収縮状態と図2の右図に示すバルーン2の拡張状態とを繰り返し実行するとき、流体制御装置3は、袋体23の内部空間Sにある流体圧が、バルーン2の拡張回数が増えるほど大きくなるように制御する。つまり、可撓線材24の間にある袋体23の部位23aの拡張量を徐々に増大させることにより、弁体Vの分割境界における拡張効果が徐々に得られ、弁体Vの開口面積を無理なく大きくすることができる。
【0036】
上述したように、本実施形態におけるバルーンカテーテル100は、バルーン2が、袋体23と、シャフト1の軸芯X方向に沿って延在し、袋体23の拡張時に撓むことにより袋体23に接触して袋体23の拡張を拘束する可撓線材24と、を有している。この可撓線材24を有することにより、バルーン2が拡張したとき、軸芯Xと直交する断面において、軸芯Xと可撓線材24との離間距離Lは、軸芯Xと袋体23との最大離間距離Dよりも小さく構成されている。つまり、可撓線材24は、従来のワイヤメッシュのようにバルーンの拡張と同様に拡張するのではなく、バルーン2の拡張を拘束し、バルーン2のうち、可撓線材24が存在する袋体23の部位23bと、可撓線材24が存在しない袋体23の部位23aとの間で形状を変化させる。
【0037】
この可撓線材24が存在しない袋体23の部位23aを、弁体Vのうち石灰化物質の固着箇所(弁体Vの分割境界)に位置させている。これにより、可撓線材24が存在しない袋体23の部位23aは可撓線材24が存在する袋体23の部位23bよりも拡張量が大きくなるため、固着箇所を重点的に押し広げることが可能となる。つまり、従来のようにバルーン2を最大量拡張させることにより狭窄部位の全体を急激に押し広げる必要がなくなり、固着箇所をターゲットとしてバルーン2の拡張量を除々に大きくして、効率良く狭窄部位の可動性を改善させ、狭窄部位の開口面積を増やすことができる。しかも、複数の可撓線材24を周方向で互いに交差することなく離間させているので、隣り合う可撓線材24の間に袋体23をはみ出させることが可能となる。このため、大動脈弁のように1つの狭窄部位に固着箇所が複数ある場合には、夫々の固着箇所に各別の袋体23の部位23aが当接するように複数の可撓線材24を配置すれば良く、設計自由度が高い。このように、本実施形態における可撓線材24を設けることにより、狭窄部位の形状に応じて最適なバルーン形状を作り出すことができ、大動脈弁や周囲の構造に対して過剰な負荷をかけることなく狭窄部位の開口面積をより一層確保することができる。
【0038】
[その他の実施形態]
(1)弁体Vは、大動脈弁以外に、肺動脈弁等の人体に存在する三尖の弁であっても良い。また、上述したバルーンカテーテル100は、弁体Vに限定されず、血管等の狭窄部位を拡張するために用いることができる。
(2)シャフト1は、同一の軸芯Xに沿って延在する外管11と内管12とで構成する2軸構造に限定されず、例えば1軸構造にして、袋体23の内部空間Sに連通する孔を設けても良い。
(3)可撓線材24は、袋体23の外表面に接触するX線不透過性材料で構成したが、袋体23の内表面又は内部に固定されたX線不透過性材料で構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、BAVに用いられるバルーンカテーテル及び大動脈弁狭窄症治療装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 :シャフト
2 :バルーン
23 :袋体
24 :可撓線材
100 :バルーンカテーテル
D :最大離間距離
L :離間距離
S :内部空間
V :弁体
X :軸芯
図1
図2