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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075639
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】装着具および封じ込めシステム
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/002 20060101AFI20230524BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20230524BHJP
   F24F 9/00 20060101ALI20230524BHJP
   F24F 13/26 20060101ALI20230524BHJP
   B01L 1/00 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
A41D13/002 105
F24F7/06 C
F24F9/00 B
F24F13/26
B01L1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188667
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】502040041
【氏名又は名称】日揮株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 威
【テーマコード(参考)】
3B011
3L058
4G057
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AB01
3B011AC03
3B011AC15
3B011AC24
3B011AC26
3L058BF03
3L058BF09
3L058BG05
4G057AA02
(57)【要約】
【課題】ケミカルハザード物質が作業ブースから漏洩するのを防止し、作業者がケミカルハザード物質に曝されることなく安全に作業を行うことのできる装着具および封じ込めシステムを提供する。
【解決手段】空気を給気する給気口と、装着時に作業者の前面に位置する通気面とを備え、前記給気口から給気された空気を、前記通気面を介して前記作業者の前方に向かって送風する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者の上半身に装着される装着具であって、
空気を給気する給気口と、
装着時に作業者の前面に位置する通気面と
を備え、
前記給気口から給気された空気を、前記通気面を介して前記作業者の前方に向かって送風することを特徴とする装着具。
【請求項2】
前記通気面は、該装着具の該当部分を網状に形成すること、通気性シートを配置すること、および整流シートを配置することの何れかによって実現されることを特徴とする請求項1記載の装着具。
【請求項3】
前記通気面の通気性能は、表面の風速が0.2m/s以上0.6m/s以下であることを特徴とする請求項1または2記載の装着具。
【請求項4】
前記通気面が形成された外衣と、
前記外衣の下層に位置する中衣と
を備え、
前記中衣は、該装着具の下層において、少なくとも前記通気面の位置する部分に配置され、
前記外衣と前記中衣との間の空間に存在する空気が前記通気面を介して前記作業者の前方に向かって送風されることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の装着具。
【請求項5】
前記給気口には、外部の圧縮空気供給機から圧縮空気を供給する耐圧ホースが接続されていることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の装着具。
【請求項6】
前記給気口には、外部のファンから送風された空気を供給する給気ダクトが接続されていることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の装着具。
【請求項7】
前記給気口に空気を供給する空気供給部を備えることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の装着具。
【請求項8】
前記給気口から前記空間に空気を給気する給気路を備えることを特徴とする請求項4記載の装着具。
【請求項9】
前記通気面が前身頃に形成されていることを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の装着具。
【請求項10】
前記給気口または前記給気口の上流にフィルターを備えることを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の装着具。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の装着具と、
前記装着具を装着した作業者がケミカルハザード物質を扱う作業ブースと
を備え、
前記通気面は、前記作業ブースの開口に向けて空気を送風することを特徴とする封じ込めシステム。
【請求項12】
前記作業ブースは、局所排気装置、または安全キャビネットであることを特徴とする請求項11記載の封じ込めシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者をケミカルハザード物質から防護するための装着具、および該装着具とケミカルハザード物質を封じ込める作業ブースとを備える封じ込めシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、研究者や実験者等の作業者を、人体に有害なケミカルハザード物質から保護することを目的とした作業ブースとして、図8に示すようなヒュームフード102が知られている。ヒュームフード102は、作業者がケミカルハザード物質を扱うための作業空間104を備え、ケミカルハザード物質の封じ込め機能と排気機能を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のヒュームフード102では、内部に排気ファン(図示せず)が設置され、外気を作業空間104内に導入しながら作業者106が作業できるようになっている。そのため、作業者106の作業中にケミカルハザード物質が作業空間104から漏洩するのを防止できるので、作業者106は、安全に作業を行うことができる。
【0004】
かかるヒュームフード102において作業を行う場合、図8に示すように、作業者106は、ヒュームフード102の前面に形成された開口108から作業空間104内に手を差し込んで作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-000966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のヒュームフード102で作業を行う場合、作業者106は、ヒュームフード102の前面に立って作業を行うため、ヒュームフード102の開口108の一部が作業者106で塞がってしまう。そうすると、図9に示すように、作業者106の側方では作業空間104内に吹き込む気流110が生じる一方、作業者106の前側では気流110が生じない状態となる。
【0007】
この場合、作業空間104内に吹き込む気流110の一部が作業者106の前側に回り込み、作業者106の前側(胸部付近)において渦状の気流112が形成されることがある。その結果、作業者106の胸部付近でケミカルハザード物質の漏洩が生じ、作業者106がケミカルハザード物質に曝されてしまうという問題があった。
【0008】
なお、かかる漏洩についてエアサンプリング測定を行った場合、ヒュームフード102の開口108の周囲において、作業者106の側方では検出限界未満の漏洩値であるのに対して、作業者106の胸部付近では、作業者106の側方の漏洩値の20倍以上になることもあり、危険である。
【0009】
本発明の目的は、ケミカルハザード物質がヒュームフードなどの作業ブースから漏洩するのを防止し、作業者がケミカルハザード物質に曝されることなく安全に作業を行うことのできる装着具および封じ込めシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の装着具は、
作業者の上半身に装着される装着具であって、
空気を給気する給気口と、
装着時に作業者の前面に位置する通気面と
を備え、
前記給気口から給気された空気を、前記通気面を介して前記作業者の前方に向かって送風することを特徴とする。
このように、通気面から作業者の前方に向かって送風を行うことにより、渦状の気流が生じる可能性を低く抑え、結果としてケミカルハザード物質が作業ブースから漏洩するのを防止し、作業者がケミカルハザード物質に曝されることなく安全に作業を行うことができる。
【0011】
また、本発明の装着具は、
前記通気面は、該装着具の該当部分を網状に形成すること、通気性シートを配置すること、および整流シートを配置することの何れかによって実現されることを特徴とする。
このように、通気面は、汎用的な通気性のある材質を配置するのみで容易で安価に実現することができる。
【0012】
また、本発明の装着具は、
前記通気面の通気性能は、表面の風速が0.2m/s以上0.6m/s以下であることを特徴とする。
このような通気性能を通気面が有することにより、通気面が所定の通気抵抗を有することができ、通気面全体から満遍なく送風することができる。
【0013】
また、本発明の装着具は、
前記通気面が形成された外衣と、
前記外衣の下層に位置する中衣と
を備え、
前記中衣は、該装着具の下層において、少なくとも前記通気面の位置する部分に配置され、
前記外衣と前記中衣との間の空間に存在する空気が前記通気面を介して前記作業者の前方に向かって送風されることを特徴とする。
すなわち、装着具がこのような構造を有することにより、外衣と中衣の間の空間に空気を効率的に保持し、通気面を介して前方に向かって送風することができる。
【0014】
また、本発明の装着具は、
前記給気口には、外部の圧縮空気供給機から圧縮空気を供給する耐圧ホースが接続されていることを特徴とする。
このように、圧縮空気を供給することにより、通気面の風速が所定の風速となるための圧力をもって空気を作業者の前方に向かって送風することができ、的確にケミカルハザード物質を含む気流の巻き込みを防止することができる。
【0015】
また、本発明の装着具は、
前記給気口には、外部のファンから送風された空気を供給する給気ダクトが接続されていることを特徴とする。
すなわち、必ずしも圧縮空気でなくとも本発明を実現することができる。
【0016】
また、本発明の装着具は、
前記給気口に空気を供給する空気供給部を備えることを特徴とする。
これにより、外部のコンプレッサーやファンから離れた場所においても作業をすることができる。
【0017】
また、本発明の装着具は、
前記給気口から前記空間に空気を給気する給気路を備えることを特徴とする。
これにより、空気の流路を給気路に限定できるので、装着具の膨らみを抑え、快適に装着することができる。
【0018】
また、本発明の装着具は、
前記通気面が前身頃に形成されていることを特徴とする。
すなわち、作業者が作業ブースで作業する場合に、作業者の上半身の前側に作業ブースの開口部が位置するため、通気面を前身頃に形成するのが好適である。
【0019】
また、本発明の装着具は、
前記給気口または前記給気口の上流にフィルターを備えることを特徴とする。
これにより、外気にケミカルハザード物質が混入した場合でも、有害物質が装着具内に漏洩することを防止することができる。
【0020】
本発明の封じ込めシステムは、
上述の装着具と、
前記装着具を装着した作業者がケミカルハザード物質を扱う作業ブースと
を備え、
前記通気面は、前記作業ブースの開口に向けて空気を送風することを特徴とする。
これにより、新たな気流が創出され、ケミカルハザード物質を含んだ気流を作業ブース内に封じ込めることができる。
【0021】
また、本発明の封じ込めシステムは、
前記作業ブースは、局所排気装置、または安全キャビネットであることを特徴とする。
すなわち、本発明には局所排気装置や安全キャビネットが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、通気面から作業者の前方に向かって送風することで、作業者の前側に作業ブースの周囲に形成される気流と同様の気流を生じさせる。これにより、作業者の前側に渦状の気流が形成されるのを防止できる。また、作業者の前側に渦状の気流が形成され得る状況において、該気流を打ち消し、ケミカルハザード物質を作業ブース内に押し戻すことができる。このように、本発明によれば、ケミカルハザード物質が作業ブースから漏洩するのを防止し、作業者がケミカルハザード物質に曝されることなく安全に作業を行うことのできる装着具および封じ込めシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態に係る装着具を着用した作業者を示す図である。
図2】実施の形態に係る装着具の構造を示す概要図である。
図3】実施の形態に係る別形状の装着具の構造を示す概要図である。
図4】実施の形態に係る装着具を着用した作業者が作業ブースで作業を行う状況を示す図である。
図5】実施の形態に係る封じ込めシステムにて、作業者の前面から作業ブースに向けて気流が生じている状況を示す図である。
図6】実施の形態に係る別形状の装着具の構造を示す概要図である。
図7】実施の形態に係る別形状の装着具の構造を示す概要図である。
図8】ヒュームフードで作業者が作業を行う状況を示す図である。
図9】ヒュームフードで作業者が作業を行う際に気流が巻き込まれる様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る装着具について説明する。図1(a)、(b)は、防護服1を着た作業者2がその上から実施の形態に係る装着具4を着用した状態を示す図である。図1(a)は、作業者2を正面から視た外観を示し、図1(b)は、作業者2を背面から視た外観を示している。また、図2は、作業者2を側面から視た場合における、装着具4の構造の概要を示した図である。
【0025】
図1(a)、(b)、および図2に示すように、装着具4は、腕を除いた上半身のみを覆うチョッキ状の形状を有しており、作業者2の着用時に上層(外側)に位置する外衣6、外衣6の下層に位置する中衣8、外衣6の内側に空気を給気するための給気口12を備えている。
【0026】
外衣6は、給気口12から給気された空気を作業者2の体の前方に向かって吹き出すための部材である。外衣6は、作業者2の体の前面を覆う前身頃6aと、作業者2の背面を覆う後身頃6bとを有し、外衣6の前身頃6aには着用時に作業者2の前面に位置する通気面10が形成されている。
【0027】
中衣8は、少なくとも外衣6の通気面10の部分と重なるように、外衣6と重ねて着用される。本実施の形態においては、中衣8の前身頃8aと外衣6の前身頃6a、および中衣8の後身頃8bと外衣6の後身頃6bがそれぞれ重なる場合を例示している。
【0028】
また、中衣8は、外衣6との間に空間16を形成するように外衣6に縫着され、中衣8と外衣6とは、互いに接離可能な二重構造を構成している。具体的には、中衣8と外衣6とは、空間16内の空気が通気面10以外の箇所から所定の通気を確保できる程度に密接(密着)して縫着されている。
【0029】
さらに、外衣6の通気面10を除く部分、および中衣8は、それぞれ通気性の低いまたは通気性の無い素材で形成されている。これにより、通気面10からの送風を可能にしつつ、空間16内に給気がなされた際に、空間16内を外気圧(装着具4の外側の圧力)よりも高く維持することが可能となり、空間16内の空気を通気面10から円滑に送風することができる。
【0030】
また、外衣6の通気面10を除く部分が通気性の低いまたは通気性の無い素材で形成されていることで、通気面10を除く部分からケミカルハザード物質30が外衣6の内側に侵入するのを防止できる。さらに、中衣8が通気性の低いまたは通気性の無い素材で形成されていることで、ケミカルハザード物質が中衣8を通過して意図せず人体側に侵入することを防止でき、また、給気口12から給気された空気が、作業者2の人体側へ漏れ出るのを防止できる。
【0031】
また、本実施の形態では、外衣6の下側の丈は、中衣8の下側の丈よりも長く形成されている。すなわち、図2に示すように、中衣8の下端縁は外衣6の裏面の下方部に縫着され、外衣6の下端縁は、中衣8の下端縁よりも下側に延びている。これにより、空間16を必要以上に広げずに、かつ中衣8と外衣6の隙間らかケミカルハザード物質30が侵入することが防止される。
【0032】
また、通気面10は、外衣6の前面を網状にして形成されている。ここで、網状とは、たとえば、通気性の高い布やさらしのような目の細かい網状の形態(織物や編物と称してもよい)を意味する。このように、通気面10は、汎用的な通気性のある材質を配置するのみで容易で安価に実現できる。
【0033】
なお、この通気面10の通気性能は、50Pa以上200Pa以下の吹き出し圧力で送風した際に、通気面10の表面の風速が0.2m/s以上0.6m/s以下であるのが好ましく、0.2m/s以上0.5m/s以下であればより好ましい。このように、通気面10が所定の通気抵抗を有することにより、給気口12から供給された空気が空間16内で当該通気抵抗以上に加圧された状態となって空間16に広がり、通気面10全体から満遍なく送風される(詳しくは後述する)。
【0034】
給気口12は、外衣6の背面の下方(着用時の腰のあたり)に形成されている。また、給気口12の外側には、耐圧ホース18が接続されている。この耐圧ホース18は、他端において、外部に位置する圧縮空気供給機であるコンプレッサー(不図示)と接続されている。
【0035】
なお、図3に示すように、中衣8と外衣6との間に給気路14が形成された装着具4´を提供していてもよい。この給気路14は、上下の境界において中衣8と外衣6をそれぞれ逢着して給気口12と略同等の高さにチューブ状に設けられ、給気口12と空間16とを連通している。これにより、給気口12から給気された空気が給気路14、空間16、および通気面10を介して送風される。この場合、作業者は主たる作業面である前方部分にホースなどが連結される給気口を設けることなく送風することができ、快適に作業をすることができる。
【0036】
次に、作業者2が装着具4を着用して作業ブースで作業を行う場合の装着具4の機能について説明する。作業ブースとしては、例えば、内部にファンが設けられ、作業ブースの外側から内側に向けて空気の気流を形成する局所排気型のブース(以下、局排ブース)や、局排ブースの機能に加え、作業ブース内を清浄な空間に保持することができる安全キャビネットが挙げられる。
【0037】
具体的には、局排ブースは、図4に示すように、排気部28に設置されたファン(図示せず)により、局排ブース20の外側から内側に向けて気流を形成して、作業者2をケミカルハザード物質30から保護する。また、安全キャビネットは、図8に示すように、開口108の下方側から作業空間104内の空気を吸い込むように構成され、吸い込まれた空気は、排気路114を上昇する。
上昇した空気は排気口116から排気されるが、一部は給気ファン118によってHEPAフィルター120を介して作業空間104内に供給される。そのため、作業空間104内を清浄に保持しつつ作業者2をケミカルハザード物質から保護する。本実施の形態では、図4に示す局排ブース20を例示して説明する。
【0038】
図4、5に示すように、局排ブース20は、作業台22、フード24、および排気部28を備え、作業台22においてケミカルハザード物質30が取り扱われる。そして、フード24の前面(作業者2側の面)には、作業者2がケミカルハザード物質30を取り扱うために、作業台22に手を差し込むための開口部32が形成されている。この開口部32は、作業者2の胸部の高さ範囲を基準に設定されている。
【0039】
まず、作業者2は装着具4を着用し、図4に示すように、局排ブース20と対面して直立する。次に、開口部32から作業台22に手を差し込んでケミカルハザード物質30を取り扱う。
【0040】
この際、局排ブース20の排気部28が稼働し、フード24内の排気が行われる。これにより、気流34が作業者2側から開口部32を介してフード24内に流れて排気されるため、作業者2がケミカルハザード物質30に汚染されるリスクが第一次的に低減する。
【0041】
ここで、コンプレッサーが稼働すると、耐圧ホース18、給気口12、および外衣6と中衣8の間(給気路14を備える場合には給気路14)を介して圧縮空気が空間16に供給される(図2、3参照)。空間16に供給された圧縮空気は、通気面10の備える所定の通気抵抗によって、所定量空間16に滞留した後、空間16内の空気圧が通気面10の通気抵抗以上になったときに通気面10全面から作業者2の前方に向かって送風される。かかる送風によって、図4、5に示すように、新たに創出される気流36が開口部32を介してフード24内に流れ込む。気流36が形成されることにより、作業者2が開口部32の前で作業を行う場合でも、図9に示すような気流112の発生を防止できる。また、気流112が発生した場合でも、気流112をフード24内に押し戻して(流れを打ち消して)ケミカルハザード物質30がフード24内に封じ込められる。
【0042】
この実施の形態に係る装着具4によれば、通気面10から作業者2の前方に向かって送風を行うことにより、作業者2の前側に局排ブース20の周囲に形成される気流34と同様の気流36を生じさせ、作業者2の前側に渦状の気流112(図9参照)が形成されるのを防止できる。また、作業者2の前側に渦状の気流112が形成され得る状況において、気流112を打ち消し、ケミカルハザード物質30を局排ブース20内に押し戻すことができる。これにより、ケミカルハザード物質30が局排ブース20から漏洩するのを防止し、作業者2がケミカルハザード物質30に曝されることなく安全に作業を行うことができる。なお、装着具4と局排ブース20はケミカルハザード物質30を含む気流を封じ込める封じ込めシステムを形成している。
【0043】
また、通気面10は、外衣6の前面に汎用的な通気性のある材質を配置するのみで容易で安価な方法によって実現することができる。
【0044】
なお、上述の実施の形態においては、作業ブースとして局排ブース20を用いる場合を例に説明しているが、局排ブース20に代えて安全キャビネットを用いた場合でも同様の効果を期待できる。
【0045】
また、上述の実施の形態においては、立ち作業用の局排ブース20を例示しているが、局排ブース20は着席作業用の物であってもよい。
【0046】
また、上述の実施の形態において、通気面10は、その全面が必ずしも均一な通気抵抗を備えていなくてもよい。たとえば、装着具4が給気路14を備える場合には(図3参照)、給気路14に近づくほど通気抵抗を大きくするなど、部分的に通気抵抗を調節して吹き出し量を調整できるようにしてもよい。また、通気面10の中央部(局排ブース20の開口部32に確実に対向する位置)の通気抵抗が、その上下の通気抵抗よりも小さくなるようにしてもよい。
【0047】
また、上述の実施の形態において、外衣6と人体との間に、通気面10を介して空気を前方に送風可能な密閉された空間が形成できれば、中衣8は必ずしも必要ではない。
【0048】
また、上述の実施の形態においては、外衣6の前面を網状にして通気面10を形成する場合を例示しているが、他の方法を用いてもよい。例えば、通気性シートを外衣6の前面に配置して通気面10を形成してもよく、整流シートを外衣6の前面に配置して通気面10を形成してもよい。ここで、通気性シートとは、不織布のような編み物ではないが多孔質の薄いシートをいい、ウレタンシートなどがこれに該当する。また、整流シートとは、たとえば、薄い樹脂シートに多数の穴を有するパンチングメッシュなどが挙げられる。この穴は、たとえば、丸いドット状のものが著名である。
【0049】
また、上述の実施の形態において、給気口12は、必ずしも外衣6の背面の下方(着用時の腰のあたり)に位置する必要はない。給気口12は、作業者2の前面や側面に位置していてもよく、場所は限定されない。しかしながら、腕と耐圧ホース18との干渉など、作業性を考慮すると背面に位置するのが好ましい。また、腰のあたりが好ましい。
【0050】
また、上述の実施の形態においては、給気口12にコンプレッサーと給気口12とを連通する耐圧ホース18が接続されている場合を例に説明しているが、これに代えて、外部の給気ファン(送風機)と給気口12とを連通する給気ダクト(フレキシブルダクト)が給気口12に接続されていてもよい。この場合、コンプレッサーを用いる場合よりも空気圧力が低下するため、上述の実施の形態の図3に示すように、給気路14を介して空気を供給することは困難である。このため、図2に示すように、中衣8を外衣6の下層全面に設け、中衣8と外衣6との間に形成された空間16を給気路として通気面10から作業者2の前方に向かって送風されるのが好ましい。
【0051】
また、上述の実施の形態において、外部のコンプレッサーから空気を供給するのでなく、装着具4は、給気口12に空気を供給する空気供給部を備えるようにしてもよい。具体的には、給気口12に空気供給部としてファンを設け、外衣6の内側に向けて送風することで、外衣6の内側の圧力を外気圧、通気面10の通気抵抗よりも高くしてもよい。これにより、コンプレッサーから離れた場所においても作業をすることができる。また、空気供給部に代えて、装着具4は、通気面10からの送風のみを目的とした送風装置を備えるようにしてもよい。具体的には、通気面10に外側に向けて送風するファンを設け、前方に向けた気流を強制的に得るようにしてもよい。
【0052】
また、上述の実施の形態において、図6に示すように、作業者2の外衣6の前身頃6aにおいて通気面10の位置する部分にのみ空間16が形成されていてもよい。この場合、通気面10の位置する部分のみ中衣8と外衣6が二重構造を形成し、通気面10の位置する部分以外の部分では、外衣6と中衣8は密着されてもよいし、中衣8と外衣6の何れかで構成されていてもよい。そして、作業者2の腰の部分おいて、中衣8と外衣6との間に給気路14が形成されてもよいし、チューブ状の部材を別途設け、空間16と連通させてもよい。なお、通気面10の位置する部分以外の部分に中衣8を備えなくともよい。
【0053】
このような構造にした場合でも、ケミカルハザード物質30がヒュームフードなどの作業ブースから漏洩するのを防止し、作業者2がケミカルハザード物質30に曝されることなく安全に作業を行うことのできる装着具4´´を提供することができる。
【0054】
また、上述の実施の形態において、図7に示すように、作業者2の前面のみにエプロン状にして着用される装着具4´´´にしてもよい。この場合、中衣8と外衣6の後身頃は存在せず、給気口12が直接中衣8の前身頃8aに形成されることになる。これによっても、本発明の目的を達成することができる。
【0055】
また、上述の実施の形態においては、チョッキ状の装着具4を例示しているが、装着具4は腕や全身を覆う物であってもよい。また、通気面10は、前身頃のみならず、作業者2の前面全体に設けられていてもよい。かかるタイプの装着具4は、たとえば、局排ブース20の作業台22の位置が低く、開口部32が上下に大きく開口されている場合などに対応することが可能である。
【0056】
また、上述の実施の形態においては、防護服1を着た作業者2がその上から装着具4を着用した場合について説明したが、装着具4は、防護服1と一体的に形成されていてもよい。すなわち、装着具4は、防護服1の最外面に位置していてもよい。
【0057】
また、上述の実施の形態において、局排ブース20の作業台22の位置が高い場合には、通気面10が胸部の位置のみに形成されていてもよい。
【0058】
また、上述の実施の形態において、送風の方向は、ケミカルハザード物質30を扱う方向であれば、必ずしも作業者2の前方のみに限定されない。例えば、図5に示すフード24において、作業台22が、平面視で(上方から視て)L字型ないしはコの字型を有し、作業者2の側方にケミカルハザード物質30を扱う作業空間が位置していたとする。この場合、作業者2の側面にも通気面10が位置するようにしてもよい。この場合には、作業者2の側方にも送風がなされることになる。
また、作業者2が前方に対してやや斜め方向に作業する場合を想定し、通気面10は、ケミカルハザード物質30を扱う方向として前面からやや体側にずれた位置に設けられ、斜め方向に向かって送風してもよい。
【0059】
また、上述の実施の形態において、給気口12または給気口12の上流にフィルターを備えてもよい。具体的には、フィルターは、給気ファンが空気を取り込むための取り込み口、給気ファンから給気ダクトへ送風する送風口、給気ダクト内、または給気口12に設けられていてもよい。これにより、外気にケミカルハザード物質30が混入した場合でも、ケミカルハザード物質30が装着具4内に侵入することを防止することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…防護服、2…作業者、4、4´、4´´、4´´´…装着具、6…外衣、6a…前身頃、6b…後身頃、8…中衣、8a…前身頃、8b…後身頃、10…通気面、12…給気口、14…給気路、16…空間、18…耐圧ホース、20…局排ブース、22…作業台、24…フード、28…排気部、30…ケミカルハザード物質、32…開口部、34…気流、36…気流、102…ヒュームフード、104…作業空間、106…作業者、108…開口、110…気流、112…気流、114…排気路、116…排気口、118…給気ファン、120…HEPAフィルター
図1
図2
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図6
図7
図8
図9