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特開2023-75660架線金具異常検知装置および架線金具異常検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075660
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】架線金具異常検知装置および架線金具異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20230524BHJP
   B61L 23/04 20060101ALI20230524BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G06T7/00 610B
B61L23/04
G01N21/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188701
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】望月 凛平
(72)【発明者】
【氏名】野田 祥希
(72)【発明者】
【氏名】松村 周
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB02
2G051AC16
2G051CA03
2G051CA04
2G051EB05
5L096BA03
5L096CA02
5L096EA43
5L096FA19
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】正常データと少量の異常データを利用した半教師あり異常検知手法を取り入れることにより、実運用上で取得された少量の異常データを有効に活用した架線金具異常検知装置および架線金具異常検知方法を提供する。
【解決手段】車両2屋根上に取り付けられるカメラ3と、前記カメラ3から出力された画像データを保存する保存装置5と、前記画像データを変換したワンホット表現インデックス画像データを用いて半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行う学習処理部9と、前記異常検知モデルによって異常判定を行うデータ処理部7と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両屋根上に取り付けられるカメラと、
前記カメラから出力された画像データを保存する保存装置と、
前記画像データを変換したワンホット表現インデックス画像データを用いて半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行う学習処理部と、
前記異常検知モデルによって異常判定を行うデータ処理部と、を備える、架線金具異常検知装置。
【請求項2】
前記学習処理部は、
前記画像データから架線金具の検出を行う金具検出部と、
前記検出された架線金具の画像データに対してセマンティックセグメンテーションを実施し、前記画像データをワンホット表現インデックス画像データに変換するセグメンテーション部と、
モデル学習用に与えられる画像データの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかを選択する学習選択部と、
教師なし異常検知学習を行う教師なし学習部と、
半教師あり異常検知学習を行う半教師あり学習部と、
教師あり異常検知学習を行う教師あり学習部と、を備える請求項1に記載の架線金具異常検知装置。
【請求項3】
前記セグメンテーション部の前記セマンティックセグメンテーションの実施に替えて、前記セマンティックセグメンテーションを実施するセグメンテーションモデルを学習する際に利用するアノテーション画像を用いる、請求項2に記載の架線金具異常検知装置。
【請求項4】
車両屋根上に取り付けられたカメラで撮影すること、
前記カメラで撮影した画像データを保存すること、
前記画像データを変換したワンホット表現インデックス画像データを用いて半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行うこと、
前記異常検知モデルによって異常判定を行うこと、を含む、架線金具異常検知方法。
【請求項5】
前記異常検知モデルの学習の内容は、
前記画像データから架線金具の検出を行うこと、
前記検出された架線金具の画像データに対してセマンティックセグメンテーションを実施し、前記画像データをワンホット表現インデックス画像データに変換すること、
モデル学習用に与えられる画像データの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかを選択し学習を行うこと、を含む請求項4に記載の架線金具異常検知方法。
【請求項6】
セマンティックセグメンテーションを実施することに替えて、前記セマンティックセグメンテーションを実施するセグメンテーションモデルを学習する際に利用するアノテーション画像を供給すること、を含む請求項5に記載の架線金具異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線金具異常検知装置および架線金具異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道設備を点検するためには、車両にカメラを搭載し、鉄道設備を撮像してその撮像画像を解析して異常を検知することが行われている。
【0003】
画像解析の手法として機械学習によって異常検知モデルを作成し、この異常検知モデルを利用して異常を検知する方法がある。機械学習の手法としては、例えば、非特許文献1に示されるような、DEEP SADと呼ばれるものが開示されている。
また、従来技術の一例である特許文献1は、ニューラルネットワーク等の生成モデルを用いて画像を生成し、生成された画像と撮影された画像との差を求めて、この差が大きい場合に異常であると判定する技術を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lukas Ruff, Robert A. Vandermeulen, Nico Gornitz, Alexander Binder, Emmanuel Muller, Klaus-Robert Muller, Marius Kloft, “Deep Semi-Supervised Anomaly Detection”, International Conference on Learning Representations 2020(ICLR2020)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-133306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の異常判定では、正常データのみを用いて学習を行った画像生成器の入力画像と生成画像との差分によって異常を判断しているが、正常データとの差が小さい異常に対して異常検出が困難であるという課題がある。
深層学習を用いた異常検知方法として教師あり異常検知、半教師あり異常検知、教師なし異常検知があるが、ここで、教師あり異常検知、教師なし異常検知の課題を以下に示す。本明細書においては、正常データのみを用いて学習する手法を教師なし学習と表現している。
【0007】
<教師あり学習>
鉄道設備点検において異常データを取得できる機会は稀であり、取得できるデータはほとんどが正常データであるため、正常データと異常データの双方が必要な教師あり学習は利用することが困難である。仮に教師あり学習をした場合でも正常データと異常データとの量の比率のバランスが取れていない場合、正常データばかりが学習されてしまい異常検出が機能しないことが多い。また、学習するすべてのデータに対してラベル付けする必要があり、非常にコストがかかる。
【0008】
<教師なし学習>
教師なし学習では正常なデータのみを用いて学習を行っており、正常な状態や正常なデータ分布から外れたデータを異常として判定することを行う。しかし、わずかな歪みを持った異常データや画角によって異常に見えてしまう正常データなどがあるため、正常と異常の境界付近のデータを識別することが困難な場合がある。学習データの追加や変更によってそれらの問題を解決することも、正常と異常の指標がないため困難な場合がある。教師なし学習の場合、人間が異常と識別できるデータを識別できない場合がある。
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、正常データと少量の異常データを利用した半教師あり異常検知手法を取り入れることにより、実運用上で取得された少量の異常データを有効に活用した架線金具異常検知装置および架線金具異常検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明の架線金具異常検知装置は、車両屋根上に取り付けられるカメラと、前記カメラから出力された画像データを保存する保存装置と、前記画像データを変換したワンホット表現インデックス画像データを用いて半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行う学習処理部と、前記異常検知モデルによって異常判定を行うデータ処理部と、を備える。
本発明によれば、半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行うので、取得した画像データを有効に活用してモデルの学習を行い、そのモデルを利用して架線金具の異常を検知することができる。
【0011】
本発明の一態様では、前記学習処理部は、前記画像データから架線金具の検出を行う金具検出部と、前記検出された架線金具の画像データに対してセマンティックセグメンテーションを実施し、前記画像データをワンホット表現インデックス画像データに変換するセグメンテーション部と、モデル学習用に与えられる画像データの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかを選択する学習選択部と、教師なし異常検知学習を行う教師なし学習部と、半教師あり異常検知学習を行う半教師あり学習部と、教師あり異常検知学習を行う教師あり学習部と、を備える。
この一態様では、モデル学習用に与えられる画像データの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかを選択するので、取得した画像データの種類に応じて適切な学習方法が選択できる。
【0012】
本発明の一態様では、前記セグメンテーション部の前記セマンティックセグメンテーションの実施に替えて、前記セマンティックセグメンテーションを実施するセグメンテーションモデルを学習する際に利用するアノテーション画像を用いる。
この一態様では、セマンティックセグメンテーションの実施に替えて、アノテーション画像を用いるので、モデル学習を効率よく行うことができる。
【0013】
本発明の架線金具異常検知方法は、車両屋根上に取り付けられたカメラで撮影すること、前記カメラで撮影した画像データを保存すること、前記画像データを変換したワンホット表現インデックス画像データを用いて半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行うこと、前記異常検知モデルによって異常判定を行うこと、を含む。
本発明によれば、半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行うので、取得した画像データを有効に活用してモデルの学習を行い、そのモデルを利用して架線金具の異常を検知することができる。
【0014】
本発明の一態様では、前記異常検知モデルの学習の内容は、前記画像データから架線金具の検出を行うこと、前記検出された架線金具の画像データに対してセマンティックセグメンテーションを実施し、前記画像データをワンホット表現インデックス画像データに変換すること、モデル学習用に与えられる画像データの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかを選択し学習を行うこと、を含む。
この一態様では、モデル学習用に与えられる画像データの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかを選択するので、取得した画像データの種類に応じて適切な学習方法が選択できる。
【0015】
本発明の一態様では、セマンティックセグメンテーションを実施することに替えて、前記セマンティックセグメンテーションを実施するセグメンテーションモデルを学習する際に利用するアノテーション画像を供給すること、を含む。
この一態様では、セマンティックセグメンテーションの実施に替えて、アノテーション画像を用いるので、モデル学習を効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正常データと少量の異常データを利用した半教師あり異常検知手法を取り入れることにより、実運用上で取得された少量の異常データを有効に活用した架線金具異常検知装置および架線金具異常検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る架線金具異常検知装置の設置例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る架線金具異常検知装置の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る学習済みの異常検知モデルを用いた異常検出処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係るセグメンテーション部によって変換される前の256階調3チャンネルのRGB画像データを示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るセグメンテーション部によって変換されたワンホット表現インデックス画像データを示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る異常検知モデルの学習処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態に係る異常検知方法の概念を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る異常検知モデルの学習処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る架線金具異常検知装置の設置例を示す図である。図2は、実施形態に係る架線金具異常検知装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る架線金具異常検知装置1は、レールR上を走行する車両2に設置され、架線Kの異常検知に用いられる。一例として、架線Kとは、吊架線K1と、この吊架線K1にハンガK2で吊られるトロリ線K3とを含む構成が考えられる。架線金具異常検知装置1は、車両2屋根上に取り付けられるカメラ3と、このカメラ3から出力された画像データを保存する保存装置5と、この画像データを変換したワンホット表現インデックス画像データを用いて半教師あり異常検知学習によって異常検知モデルの学習を行う学習処理部9と、この異常検知モデルによって異常判定を行うデータ処理部7と、架線金具異常検知装置1の設定や検知結果を入出力するUI(ユーザーインターフェイス)部11を備える。
【0019】
カメラ3は、例えばエリアセンサカメラもしくはラインセンサカメラ等を用いてよい。必要に応じて照明等を用いるが、必要なのは図1に示す監視画像例のように線状金具を撮影する手段であり、構成は問わない。保存装置5は、例えばハードディスク(HDD)やソリッド・ステート・ドライブ(SSD)等で構成することができる。データ処理部7、学習処理部9は、ハードウェアにより構成しても良いし、各機能についてそれぞれソフトウェアにより実現しても良い。データ処理部7、学習処理部9は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。後述するそれぞれの機能ブロックは、上記情報処理装置内のCPUやGPUによって実行されるソフトウェア、プログラムであってよい。または、データ処理部7、学習処理部9は、クラウドサービス上で提供されるソフトウェア、プログラムであってよい。UI部11は、例えばパーソナルコンピュータへの入出力を行うキーボード、マウス、タッチパネル、ディスプレイ等で構成してよい。
【0020】
図2に示すように、データ処理部7は、カメラ3で撮像した画像データから架線金具の検出を行う金具検出部71と、この検出された架線金具の画像データに対してセマンティックセグメンテーションを実施し、前記画像データをワンホット表現インデックス画像データに変換するセグメンテーション部72と、異常検知学習によって得られた異常検知モデルによって架線金具の異常を検知する異常検知部73と、を備える。
【0021】
学習処理部9は、画像データから架線金具の検出を行う金具検出部91と、検出された架線金具の画像データに対してセマンティックセグメンテーションを実施し、前記画像データをワンホット表現インデックス画像データに変換するセグメンテーション部92と、モデル学習用に与えられる画像データの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかを選択する学習選択部93と、教師なし異常検知学習を行う教師なし学習部94と、半教師あり異常検知学習を行う半教師あり学習部95と、教師あり異常検知学習を行う教師あり学習部96と、を備える。
【0022】
ここで、データ処理部7の金具検出部71と学習処理部9の金具検出部91とは、CPU上で実行される同一のライブラリであってよい。データ処理部7のセグメンテーション部72と学習処理部9のセグメンテーション部92とは、CPU上で実行される同一のライブラリであってよい。
【0023】
<架線金具異常検知>
図3は、データ処理部7で行われる、学習済みの異常検知モデル17を用いた異常検出処理を示すフローチャートである。この図を参照して、本実施形態における異常検知の動作について説明する。異常検知の処理は、図2におけるデータ処理部7で行われる。異常検知処理が開始されると(S01)、車両上に取り付けられたカメラ3によって、架線Kの撮影が連続的に行われる(S02)。撮影された画像は、保存装置5に送られ画像データとして保存される(S03)。保存された画像データは、データ処理部7の金具検出部71に送られ、保存装置5から呼び出された金具検出モデル13を使用し撮影された画像データの中から設備点検の対象となる金具を検出し切り出す処理を行う(S04)。ここではどのような手法で金具を検出してもよい。検出手法としては、例えば、単純な画像処理やパターンマッチングや深層学習の物体検出手法等をあげることができる。
【0024】
金具検出部71で金具を検出し切り出しが行われた画像データは、次にセグメンテーション部72に送られる。セグメンテーション部72では切り出された金具画像に対して、事前に学習し、保存装置5に保存されていたセグメンテーションモデル15を用いて、セマンティックセグメンテーションを実施する(S05)。図4は、セマンティックセグメンテーションを実施する前のRGB画像データである。RGB画像データは、RGB3チャンネルの各チャンネルにおいて[0~255]の量的データを有する。図5は、セマンティックセグメンテーションを実施した後のインデックス画像データである。インデックス画像データは、複数のクラスの各クラスにおいて[0,1]の量的データとしてインデックス値を有する。このようにセマンティックセグメンテーションを実施することによって、図4に示す画像をワンホット(one-hot)表現化して図5に示すワンホット表現インデックス画像データに変換をすることで探索空間を小さくし異常検知の学習難易度を低減することができる。
【0025】
セマンティックセグメンテーションを実施された画像データは、異常検知部73に送られる。異常検知部73では、後述する学習フローチャートに基づいて学習し、保存装置5に保存されていた異常検知モデル17を用いて異常検知を行う(S06)。次に、撮影が終了したかどうかの確認が行われ(S07)、撮影が継続する場合は、カメラによる撮影が継続され(S07:NO)、撮影が終了した場合は(S07:YES)、処理を終了する(S08)。
【0026】
<異常検知モデルの学習>
図6は、学習処理部9で行われる、異常検知モデルの学習処理を示すフローチャートである。この図を参照して、本実施形態における異常検知モデルの学習について説明する。ここで使用される金具検出モデル13とセグメンテーションモデル15は、図3において異常検知に使用したモデルと同じものを用いてよい。異常検知モデルの学習は、図2における学習処理部9で行われる。異常検知モデルの学習が開始されると(S10)、保存装置5から学習用に用意された画像データが学習処理部9の金具検出部91に送られる(S11)。
【0027】
金具検出部91では、金具検出モデル13を使用し受信した画像データの中から設備点検の対象となる金具を検出し切り出す処理を行う(S12)。ここでの金具検出の処理は、図3における金具検出(S04)と同じ処理であってよく、前述したようにCPUで実行されるライブラリとして用意されていてよい。金具検出部91において金具検出処理が終了した画像データは、セグメンテーション部92に送られる。
【0028】
セグメンテーション部92では切り出された金具画像に対して、事前に学習したセグメンテーションモデル15を用いて、セマンティックセグメンテーションを実施する(S13)。ここでのセマンティックセグメンテーションの処理は、図3におけるセグメンテーション(S05)と同じ処理であってよく、前述したようにCPUで実行されるライブラリとして用意されていてよい。セグメンテーション部92においてセマンティックセグメンテーションが実施された画像データは、学習選択部93に送られる。
【0029】
学習選択部93では、送られてきた画像データを受信し、予め定められた学習用の画像データが蓄積された後、これらの画像データについて教師データとして異常データのインデックスの有無を確認する。学習選択部93では、確認した異常データの量に基づいて、異常検知モデルの学習方法を選択する(S14)。ここで、異常データまたは正常データのインデックス(フラグ)は、金具検出(S12)の後に任意の画像データに対して付されている。
【0030】
これまで処理され蓄積された画像データは、異常データがない場合は、教師なし学習部94に送られ、教師なし異常検知学習が行われる(S15)。異常データの量が予め定められた閾値より少ない場合は、画像データは、半教師あり学習部95に送られ、半教師あり異常検知学習が行われる(S16)。異常データの量が予め定められた閾値異常の場合は、画像データは、教師あり学習部96に送られ、教師あり異常検知学習が行われる(S17)。
【0031】
ここで、教師なし異常検知学習の方法としては、VAE(Variational Autoencoder)、AnoGAN(Anomaly Generative Adversarial Network)等をあげることができる。半教師あり異常検知学習の方法としては、後述するDeep SAD(Deep Semi-supervised Anomaly Detection)、FCDD(Fully Convolutional Data Description)等をあげることができる。教師あり異常検知学習の方法としては、SVM(サポートベクタマシン)、ResNetなどのCNN(Convolutional Neural Networks)を用いた2クラス分類等をあげることができる。
【0032】
教師なし学習部94、半教師あり学習部95、教師有り学習部96のいずれかでモデル学習処理をおこない生成された異常検知モデルは、保存装置5に保存され(S18)、一連の異常検知モデルの学習処理が終了する(S19)。
【0033】
<半教師あり異常検知学習>
本実施形態における半教師あり異常検知学習ではワンホット表現に変換したワンホット表現インデックス画像データに対して学習を実施する。ここで使用する半教師あり学習手法は正常データと少量の異常データを利用できる手法であればどのような手法を用いてもよい。ここでは、非特許文献1に記載の半教師あり異常検知手法Deep SAD(Deep Semi-supervised Anomaly Detection)を用いる場合について示す。
【0034】
図7は、Deep SADにおけるモデル学習の構造を示す概念図である。Deep SADの学習では入力されたワンホット表現に変換したワンホット表現インデックス画像データDをEncoder(E)によって特徴量Tの抽出を行い、この特徴抽出した結果を潜在変数空間G上で距離学習を行う。Deep SADの学習は以下の[数1]に示す目的関数を最小化することにより実施される。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、xは入力データ、yは正常=1または異常=-1のラベル情報、nはラベルなしデータのデータ数、mはラベルありデータのデータ数、ηはラベルデータとラベルなしデータの学習の重みづけをするハイパーパラメータ、φはEncoderの出力、Wはネットワークの重みパラメータ、cは学習データより算出した超球の中心である。[数1]において、第1項は、ラベルなしのデータの計算、第2項が、ラベルありのデータの計算、第3項は、正規化のための重み付け要素である。目的関数からわかるようにDeep SADでは正常データ、少量の異常データ、ラベルなしデータのすべてのデータを学習に活用できる。Deep SADによる異常検知では以下の[数2]に示す超球の中心cからの距離が異常度(score)として算出され、その異常度に対して閾値を設けることで異常検知を行う。
【0037】
【数2】
【0038】
異常度(score)は正常であれば小さく、異常であれば大きくなるため、設定した閾値より小さい場合は正常、大きい場合は異常の判定をする。
【0039】
以上述べたように、本実施形態では、異常データの少ないモデル学習用の画像データであっても半教師あり異常検知学習を行って異常検知モデルを作成して異常検知を行うことができる。したがって、正常なデータ、異常なデータ、正常異常が区別されていないデータのすべてを活用することができ、モデル学習におけるコストを低減することができる。正常データの分布を仮定した教師なし学習がベースとなっているため、正常データと異常データがアンバランスなデータセットであっても正常データと異常データが分離可能である。したがって、アンバランスデータセットに対する有効な学習が実施可能である。
【0040】
本実施形態の半教師あり学習では、教師なし学習においては分離が困難であったデータを、半教師あり学習の教師あり学習部分により明示的に分離することが可能になる。したがって、少量の異常データの活用による異常検出精度の向上が可能となる。モデル学習する際には、画像データをワンホット表現するインデックス画像を生成することで、探索空間を小さく抑え、学習処理及び異常検知処理が容易になるため安定した処理が可能となる。また、本実施形態は、実運用におけるデータ取得の過渡期において有効に利用することができ、実運用において取得された異常データを学習に加えていくことにより、より頑健な異常検出装置に改善していくことが可能である。さらに、異常検知モデル学習用のデータの異常データの量に基づいて、教師なし異常検知学習、半教師あり異常検知学習、教師あり異常検知学習のいずれかが選択できるので、モデル学習用のデータの特徴に応じて最適な学習方法を選択することができる。
【0041】
(第2実施形態)
図8は、本実施形態における異常検知モデルの学習処理に係るフローチャートである。本実施形態が、第1実施形態と異なるのは、図6におけるセマンティックセグメンテーションを実施する処理S13が、セグメンテーションモデルを学習する際に利用したアノテーション画像を用いる処理S23に変更されることである。その他の処理については、同様の処理が行われるので、同じ符号を付してその説明を省略する。本実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果に加え、モデル学習の際に、以前にセグメンテーションモデルを学習する際に利用したアノテーション画像を供給し用いるので、学習処理の工程を短縮して効率よく異常検知モデルの学習を行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 架線金具異常検知装置
3 カメラ
5 保存装置
7 データ処理部
9 学習処理部
91 金具検出部
92 セグメンテーション部
93 学習選択部
94 教師なし学習部
95 半教師あり学習部
96 教師あり学習部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8