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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075698
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】ホローカソード
(51)【国際特許分類】
   F03H 1/00 20060101AFI20230524BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
F03H1/00 A
B64G1/40 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188764
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】516052010
【氏名又は名称】株式会社ネッツ
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】張 科寅
(72)【発明者】
【氏名】松永 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】豊永 慎治
(72)【発明者】
【氏名】東松 直哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏樹
(57)【要約】
【課題】軸方向においても高い断熱性を有し、経年劣化し難いホローカソードを提供する。
【解決手段】カソードチューブと、カソードチューブの内側又は外側に備えられたヒータと、カソードチューブ及びヒータを囲繞する熱シールドと、熱シールドを囲繞するキーパー電極とを備え、熱シールドが、表面にセラミック被覆を有する、セラミック繊維の成形体からなる内筒と、金属箔からなる外筒とを含むホローカソードである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードチューブと、前記カソードチューブの内側又は外側に備えられたヒータと、前記カソードチューブ及びヒータを囲繞する熱シールドと、前記熱シールドを囲繞するキーパー電極とを備え、
前記熱シールドが、外表面にセラミック被覆を有する、セラミック繊維の成形体からなる内筒と、金属箔からなる外筒とを含む、ホローカソード。
【請求項2】
前記セラミック繊維が炭素繊維である、請求項1に記載のホローカソード。
【請求項3】
前記セラミック被覆が熱分解炭素による被覆である、請求項1又は2に記載のホローカソード。
【請求項4】
前記金属箔が、Ta、W、Ir、Hf、Nb、Mo又はRuからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載のホローカソード。
【請求項5】
前記金属箔が複数層から構成され、各層は支持部材を介して互いに離間している、請求項1~4のいずれか1項に記載のホローカソード。
【請求項6】
前記金属箔は複数層から構成され、各層の表面及び/又は裏面に、各層を互いに離間させる凹凸を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のホローカソード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホローカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星における電気推進の利用が拡大しており、従来の深宇宙探査や静止衛星のみならず、低軌道でのコンステレーション衛星等でも採用例が増加し、市場が急速に拡大している。電気推進で主に市場に用いられているのはホールスラスタとイオンエンジンであるが、それらのほとんどに採用されているのがホローカソードである。
【0003】
ホローカソードの機能としては、電子放出材(通常エミッタやインサートと呼称)を数百~数千℃の高温に昇温して熱電子を放出させ、作動ガスを供給して、電圧印加によりプラズマ生成し、オリフィスより電子ビームを引き出すことにある。そして、スラスタの着火やイオンビームの中和の役割を果たしている。
【0004】
ホローカソードは、以下のような観点から、技術難易度が高く、課題が多い。(1)超高温で、かつ、高密度のプラズマによる消耗及びコンタミネーションにより使用できる材料が限られる。(2)周囲への熱拡散を低減しながら軽量化する一方で、打ち上げ時の振動衝撃の機械環境耐性が必要である。(3)特に昇温ヒータ周辺は急激な温度勾配となるが、その熱変形・応力に対し数千回以上の熱サイクル耐性が求められる。以上のことから、ホローカソードは電気推進のキーコンポーネンツである。
【0005】
ホローカソードの設計において、最も困難であるのは熱設計である。最大1800℃程度の高温に達するヒータに対し、ホローカソードの筐体温度は400~600℃程度とする必要があり、かつ、省電力化及びシステムとの熱インターフェースの改善の観点から、ヒータからの熱リークを如何に低減するかがポイントである。そのため、超高温のヒータからの輻射熱を抑える役割を果たす熱シールドが熱設計を決定づける重要な部材である。
【0006】
特許文献1には、カソードチューブの外側に、セラミック溶射層中に埋め込まれたヒータが配され、その外側を熱シールドが覆うホローカソードが記載されている。
【0007】
特許文献2には、端部に円筒状部を有するカソードチューブと、カソードチューブの円筒状部の内側に設けられる電子放出材と、円筒状部の周囲に、カソードチューブから離間して設けられたヒータと、を備えるホローカソードが記載されている。当該ホローカソードは、ヒータを加熱したときに生じる放射によりカソードチューブ及び電子放出材を加熱して電子放出材から電子を放出する。ヒータを覆うようにヒートシールドが備えられ、ヒートシールドとヒータが離間した状態を維持する支持手段をさらに備えている。このような構造をとることによってヒータとヒートシールドとの短絡を防止することができる。
【0008】
特許文献3には、断熱シールドとして、輻射率の高い高融点金属、例えばタンタル製の薄肉円筒シールドの多層構造からなるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-74887号公報
【特許文献2】特開2017-16795号公報
【特許文献3】特開2007-250316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載された発明においては、熱シールドとして高融点金属を使用しているものの、ヒータの近傍では、薄肉の多層構造であるので、高温に曝されて相変化などの影響により軟化したり、熱膨張の影響で変形したりする。そのため、ヒータと接触して短絡し、ホローカソードの機能を低下させる恐れがある。また、当該熱シールドは、金属箔を用いて主に輻射熱を遮断する構造であり、熱伝導によって、ホローカソードの軸方向に熱が伝わることから断熱性に劣る。そのため、取付け部及び衛星本体にヒータの熱が拡散し、エネルギーのロスが生じるため余分な電力が必要となる。
さらに、上記熱シールドは、輻射熱を遮断する形態の断熱材であるため、断熱材表面の輻射率を低く維持することが断熱材の性能を維持する上で重要である。しかし、高温に曝される金属表面では、回り込んだイオンなどとの反応によって金属本来の光沢を失い、断熱性能を低下させる原因となる。
以上のように、輻射を抑制する断熱材では、初期性能が優れていても経年劣化しやすい。また、金属箔と直交する方向の断熱性能は高いが、面方向(ホローカソードの軸方向)の断熱性に劣るといった課題がある。
【0011】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、軸方向においても高い断熱性を有し、経年劣化し難いホローカソードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様に係るホローカソードは、カソードチューブと、カソードチューブの内側又は外側に備えられたヒータと、カソードチューブ及びヒータを囲繞する熱シールドと、熱シールドを囲繞するキーパー電極とを備え、熱シールドが、外表面にセラミック被覆を有する、セラミック繊維の成形体からなる内筒と、金属箔からなる外筒とを含む。
本発明のホローカソードにおいては、高温に曝される熱シールドの内側(内筒)は、セラミック繊維の成形体からなるため、高温に曝されても軟化し難く、かつ、ヒータと接触しての短絡を回避することができる。また、セラミック繊維の成形体からなる内筒は、いずれの方向に対しても高い断熱性を有しているので、衛星本体や取付部への熱の拡散を防止でき、エネルギー効率を高くすることができる。さらに、セラミック繊維の成形体からなる内筒は、外表面にセラミック被覆を有するため、外表面が固定化され、毛羽立ちや、パーティクルの発生が低減され、ホローカソード内でのパーティクルの汚染を防止することができる。
ここで、セラミック繊維の成形体は、その大きな表面積や光学特性により、一般に高輻射率であることから輻射断熱性能は十分とは言えない。従って、セラミック繊維の成形体からなる内筒単独では、輻射断熱性能を担うことは困難である。そこで、光沢面を有し、低輻射率の金属箔からなる外筒を設けることにより、内筒のみでは不足する輻射断熱性能を補うことができる。
また、外筒は金属箔からなるため、熱シールド全体として軽量化が可能である。その上、外筒は、内筒による断熱効果によりクリープ変形、熱変形、表面のイオンとの反応が防止され、内筒よりも高い断熱性能を十分に発揮することができ、熱シールドを囲繞するキーパー電極に対する遮熱性を確保することができる。
【0013】
セラミック繊維としては、高い断熱性を有することから炭素繊維であることが好ましい。
【0014】
セラミック被覆としては、表面が平滑で輻射率が高いことから、熱分解炭素による被覆であることが好ましい。
【0015】
金属箔は、高融点金属であることから、Ta、W、Ir、Hf、Nb、Mo又はRuからなることが好ましい。これらは光沢を有する金属であるため、高い輻射断熱性能を確保することができる。
【0016】
金属箔は複数層から構成し、各層は支持部材を介して互いに離間している構成とすることが好ましい。あるいは、金属箔は複数層から構成し、各層の表面及び/又は裏面に、各箔を互いに離間させる凹凸を有する構成とすることが好ましい。このように、金属箔を複数層から構成し、各層を離間させることで、高い断熱性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軸方向においても高い断熱性を有し、経年劣化し難いホローカソードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のホローカソードを示す断面図である。
図2】本実施形態の熱シールドの詳細を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本実施形態のホローカソードについて詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0020】
本実施形態のホローカソードは、カソードチューブと、カソードチューブの内側又は外側に備えられたヒータと、カソードチューブ及びヒータを囲繞する熱シールドと、熱シールドを囲繞するキーパー電極とを備える。そして、熱シールドが、外表面にセラミック被覆を有する、セラミック繊維の成形体からなる内筒と、金属箔からなる外筒とを含む。
【0021】
本実施形態のホローカソードについて、図1を参照して説明する。図1に示すホローカソード10は、カソードチューブ12と、ヒータ14と、熱シールド16と、キーパー電極18とを備える。カソードチューブ12は作動ガスに対する圧力保持用であり、ヒータ14はカソードチューブ12の内側に位置する電子放出材24を加熱する発熱部として構成されている。カソードチューブ12の開放側の外周部にはターミナル部20がフランジ状に設けられ、底部の中心部にはオリフィス22を有する。また、カソードチューブ12のターミナル部20は、固定部28に固定されている。固定部28は、ホローカソード10の筐体の一部であり、そのためカソードチューブ12は筐体内において固定支持されている。
【0022】
ヒータ14の外側には、円筒形状の熱シールド16を備え、さらに熱シールド16の外側には、底部にオリフィス19を有する有底円筒形のキーパー電極18を備える。キーパー電極18の底部のオリフィス19は、カソードチューブ12のオリフィス22と対向位置にある。また、カソードチューブ12の内部には電子放出材24を有し、電子放出材24はバネ部材26によりカソードチューブ12の底部に向けて付勢された状態で固定されている。
【0023】
熱シールド16は、ヒータ14を囲繞するように配置され、ヒータ14からの熱の外部への放出を遮断する。すなわち、ヒータ14の発熱部からの熱は、カソードチューブ12に向かうだけでなく外側にも向かうが、熱シールド16の存在により、熱の外部への放出を軽減することができる。従って、熱シールド16の内部は保温される。熱シールド16の詳細については後述する。
【0024】
電子放出材24は、例えば、タングステンなどの比較的仕事関数が低い金属材や、六ホウ化ランタン等の焼結材、または多孔質タングステン等の基体金属に、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等を含浸させたものが考えられ、これらを中空形状に成形したものを用いることができる。
【0025】
キーパー電極18は、熱シールド16を囲繞するとともに、カソードチューブ12のオリフィス22と対向する位置にオリフィス19を有する。従って、カソードチューブ12の内部の電子放出材24から放出される電子は、カソードチューブ12のオリフィス22から放出され、オリフィス22から放出された電子は、さらに、キーパー電極18のオリフィス19から放出される。
【0026】
本実施形態のホローカソード10においては、ヒータ14の発熱部の加熱により、カソードチューブ12の内部に設けられた電子放出材24に熱が伝わり加熱される。そして、電子放出材24の温度が一定以上の高温に到達したときにキーパー電極18に電圧を印加すると電子を放出する。
【0027】
キーパー電極18に電力を供給する電源は定電圧制御から定電流制御に切り替わる機能を有する。また、ヒータ14に電力を供給する電源は定電流制御で行われる。
【0028】
本実施形態のホローカソード10の動作について、以下に説明する。
カソードチューブ12内にイオン化されたガス(例えば、キセノン)が供給される。当該ガスは電子放出材24を通過し、カソードチューブ12のオリフィス22から流出する。そのとき、電子放出材24でのガス圧力はオリフィス22で差圧が生じる。
【0029】
キーパー電極18に対する電源は定電圧制御で動作し、キーパー電極18に100V程度の高電圧を印加する。また、電源からヒータ14に電流を通電する。この際、ヒータ電源は定電流制御ないし定電圧制御で動作する。ヒータ14の発熱部が発熱すると、カソードチューブ内部に配置された電子放出材24が加熱される。温度の上昇と共に電子放出材24は熱電子を放出し始め、電子放出材24とキーパー電極18間で絶縁破壊を起こす。その時発生する放電で、電子とイオン化されるガスとの衝突電離でプラズマが生成する。プラズマが生成した後は、いわゆるホローカソード効果で電子放出材24は内部に生成したプラズマで自立的に加熱されるため、ヒータの通電を停止する。すなわち、ヒータは、電子放出材24で少なくともプラズマが生成されるまでの間、定電流ないし定電圧制御される。また、プラズマが生成した後、キーパー電源は定電流制御に移行する。
【0030】
以上は、ヒータ14の内径がカソードチューブ12の外径よりも大きく、ヒータ14が、カソードチューブ12の外側において、カソードチューブ12の側面から離間した状態でカソードチューブ12を囲繞するように構成したが、その逆としてもよい。すなわち、カソードチューブ12の内径がヒータ14の外径よりも大きく、カソードチューブ12が、ヒータ14の外側において、カソードチューブ12の側面から離間した状態でカソードチューブ12を囲繞する構成としてもよい。
【0031】
本実施形態のホローカソードにおいては、熱シールドに特徴を有し、熱シールドは、外表面にセラミック被覆を有する、セラミック繊維の成形体からなる内筒と、金属箔からなる外筒を含む。
【0032】
図2は、ホローカソード10の中心軸に沿った、熱シールド16の断面図である。図2に示すように、内筒30の外側に外筒32が位置している。なお、図2中の一点鎖線がホローカソード10の中心軸である。
【0033】
本実施形態に係る熱シールドは、内筒及び外筒の二重構成であり、ヒータから放出される熱はまずは内筒により遮断され、次いで外筒により遮断される。すなわち、内筒はヒータからの熱を直接受けるが、セラミック繊維の成形体からなるため経年劣化し難い。その上、内筒は、外表面にセラミック被覆を有するため、表面の光学特性の改善と、毛羽立ちの抑制とを図ることができる。
また、外筒は金属箔からなり、内筒による熱の遮断により、ヒータから受ける熱は軽減され、クリープ変形等の経年劣化、寿命、熱サイクル耐性が向上する。
一方、金属箔による断熱は、熱リークが絶対温度の4乗に比例する。それに対して、セラミック繊維の成形体による断熱は、熱リークが絶対温度の1乗に比例する。従って、金属箔による断熱に対して、セラミック繊維の成形体による断熱を組合せることで、金属箔のみと同等のサイズであっても、断熱性能の向上を図ることができる。さらに、外筒の金属箔が受ける熱が低減されることにより、金属箔による軸方向の伝導熱リークが低減されること、及び内筒が軸方向にも高い断熱性能を発揮するため、熱シールド全体として、径方向のみならず、軸方向においても熱リークを抑制することができる。
以下に、内筒及び外筒について詳述する。
【0034】
[内筒]
内筒は、外表面にセラミック被覆を有する、セラミック繊維の成形体からなる。セラミック繊維は、金属箔よりも導電性が低いため、短絡しても電流が流れにくく、ヒータの性能を維持することができる。セラミック繊維としては、SiC繊維、アルミナ繊維、炭素繊維等を利用することができる。中でも、耐熱性が高い点で炭素繊維が好ましい。
炭素繊維としては、黒鉛質炭素繊維と、炭素質の炭素繊維があるが、炭素質の炭素繊維が好ましい。炭素質の炭素繊維は熱伝導、導電性ともに低く、断熱性が高い上に、短絡しても電流が流れにくく、ヒータにダメージを与えにくいからである。
【0035】
外表面にセラミック被覆を有する、セラミック繊維の成形体の厚さは、0.5~100mmであることが好ましい。
【0036】
セラミック繊維を被覆するセラミック被覆は、熱分解炭素、ガラス状炭素、CVD-SiC等が挙げられる。熱分解炭素は炭化水素ガスを原料とし、化学気相成長でセラミック被覆を形成しているので緻密なセラミック被覆を形成することができ、毛羽立ちや、パーティクルの発生を効率よく防止することができる。また、熱分解炭素による被覆は、表面が平滑で輻射率も高いため輻射断熱の効果も高い。
外表面にセラミック被覆を有するとは、成形体の形状を画定する外表面にセラミック被覆を有することを示し、円筒形の場合には両端面、外周面、内周面を示している。
セラミック被覆の厚さは、例えば10μm~2mmである。セラミック被覆の厚さが10μm以上であると成形体の表面を覆いセラミック繊維の飛散を防止する効果が高く、セラミック被覆の厚さが2mm以下であると、セラミック繊維が本来持つ高い断熱性を十分に発揮することができる。
【0037】
セラミック繊維は、炭素前駆体となる樹脂を塗布して硬化、焼成して得られるガラス状炭素により互いに接合することができる。また、セラミック繊維の直径は5~30μmであることが好ましい。さらに、セラミック繊維からなる断熱材はマット、抄造体などの形態であることが好ましい。マットは、例えば、長さ5~300mmのセラミック繊維を積層して得られる。抄造体は長さ0.1~10mmのセラミック繊維を抄造して得られる。
【0038】
[外筒]
外筒は金属箔からなる。金属箔としては、Ta、W、Ir、Hf、Nb、Mo、Ru等が挙げられる。金属箔の厚さは5~1000μmであることが好ましい。
【0039】
金属箔は、高い輻射断熱性能を確保する観点から、複数層から構成されることが好ましい。その場合、伝導伝熱を抑制するため、各層は互いに離間していることが好ましい。各層を離間して配置する場合、各層間の間隔は0.01~5mmとなるように配置することが好ましい。各層を互いに離間して配置するには、スペーサーとして支持部材を介して配置したり、各層の表面及び/又は裏面に凹凸を形成したりすることが好ましい。当該凹凸は、各層にディンプル加工(エンボス加工ともいう)などを施すことで形成することができる。
また、金属箔の層数は、断熱性能と、軽量化の観点で最適化される。例えば2~50層であることが好ましい。上記範囲であると、断熱性能、質量とも望ましい範囲に収めることができる。
これらの金属箔は、輻射熱の反射率を確保するうえで、面粗さ(Ra)が、1μm以下であることが好ましい。面粗さが1μm以下であると、個の温度域で輻射熱の中心である赤外線の波長より十分に小さく、赤外線に対し金属光沢を示し、反射光の散乱が少なくなり、高い断熱性能を確保することができる。
【0040】
本実施形態に係る熱シールドにおいて、内筒と外筒とは接触させてもよいし、離間させてもよい。内筒と外筒とを離間させる場合、空間の存在により断熱性能がより向上する点で好ましい。ただし、内筒と外筒とを離間させる場合、周方向において温度の偏りが生じることがないように、内筒と外筒との間隔を一定にしつつ、その状態を保つことが重要である。そのため、内筒と外筒との間に、スペーサーとして支持部材を配置したり、内筒の外表面及び/又外筒の内表面に凹凸を形成したりすることが好ましい。当該凹凸は、内筒の外表面及び/又外筒の内表面にディンプル加工(エンボス加工ともいう)などを施すことで形成することができる。
また、内筒と外筒とを離間させる場合、両者の間隔(内筒の外周から外筒の内周までの距離)は、0.01~5mmとすることが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る熱シールドは、例えば、先ず、内筒を作製し、その周囲に金属箔を巻回する方法、又は内筒と外筒とをそれぞれ別々に作製し、内筒を外筒の中空部に挿入して一体化する方法で得られる。
【0042】
以上の熱シールドの形状として、円筒を例に挙げて説明したが、円筒に限らず、断面が多角形の角筒としてもよい。
【実施例0043】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
本実施形態のホローカソードにおける熱シールドの断熱性能を確認するため、先ず、図1に示すホローカソード10と同様の形態のホローカソードを作製した。熱シールドとしては、外表面に熱分解炭素被覆が施された炭素繊維の円筒形の成形体を内筒とし、タンタル箔を円筒形に加工したものを外筒とした。外筒は、エンボス加工した厚さ0.1mmのタンタル箔を厚さ1cm程度になるまで巻回して得た。そして、ヒータ14を約1800℃に昇温し、その時の外筒部(キーパー電極18)の温度を測定した。測定結果は403.6℃であった。
【0045】
[比較例1]
熱シールドを、円筒形に加工したタンタル箔のみで熱シールド全体を構成したホローカソードを用いたこと以外は実施例1と同様にして外筒部の温度を測定した。測定結果は417.5℃であった。
【0046】
実施例1及び比較例1の比較から、本実施形態に係る熱シールドを使用することで、断熱性能に優れることが分かる。
また、使用後の熱シールドのタンタル箔を観察したところ、比較例1のタンタル箔の最内周部分ではヒータの熱を受け、金属本来の光沢を失っていたが、実施例1のタンタル箔(外筒)の最内周部分では試験前の金属光沢を維持していた。以上より、内筒によりヒータの熱が遮られ、タンタル箔からなる外筒の劣化を抑制できた。また、熱シールドを含めてホローカソード全体をモデル化したFEM解析によると、金属箔の最高温度が300K以上低温化していたこと、及び内筒では、金属箔の外筒と比べ断熱性能の異方性は小さくなっていたことが推測され、寿命・熱サイクル耐性の向上が認められた。
【0047】
以上、本実施形態を実施例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 ホローカソード
12 カソードチューブ
14 ヒータ
16 熱シールド
18 キーパー電極
20 ターミナル部
22 オリフィス
24 電子放出材
26 バネ部材
30 内筒
32 外筒
図1
図2